著者
上條 隆志 廣田 充 川上 和人
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究 = Ogasawara research (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
no.46, pp.69-77, 2020-03

小笠原諸島の西之島は、2013年からの火山活動によって大きく面積が拡大した。2013年以前から存在していた島の大部分は、新たな溶岩流やスコリアに覆われ、ほぼ新島に近い状態となった。本調査は、西之島の植物、植生、土壌の現況を明らかにすることを目的として、2019年9月に現地調査を行った。現地調査の結果、維管束植物として、オヒシバ、イヌビエ、スベリヒユの3 種を確認した。これまでの記録を基に検討すると、これら3種は2013年噴火以前から生育していた個体群由来と考えられた。土壌については、表層土壌を採取し、全炭素量、全窒素含量を測定した。さらに、今後のモニタリングのために、5地点において方形区(10m × 10m)を設置し、方形区内の植生調査を行った。
著者
上條 隆志 廣田 充 川上 和人 森 英章
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第131回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.800, 2020-05-25 (Released:2020-07-27)

西之島は、小笠原諸島父島の西約130kmに位置でする火山島である。1973~1974年に噴火し、2013年から2019年に至るまで断続的に噴火している。特に2013年以降の噴火では大きく面積を拡大した。このように現在の西之島は、そのほとんどが新たに成立した生態系であり、孤立した生態系が回復してゆくプロセスを観測するのに極めて適している。本研究では、このような西之島において、新島(一部に旧島部分が残存)における初期状態を記録し、今後のモニタリングの基礎を作ることを目的とした。現地調査は2019年9月に実施した。調査は、上陸できた西側と南西側の浜の2地域で行い、踏査による植物の確認と、10m×10mの方形区(5地点)の設置により行った。現地調査の結果、オヒシバ、スベリヒユ、イヌビエの3種の生育を確認した。なお、2008年時点では、これら3これら3種に加え、グンバイヒルガオ、ハマゴウ、ツルナの3種が生育していた。現在確認できる3種の分布は主に旧島部分であるが、オヒシバとスベリヒユについては、旧島部分の直下の海浜にも分布を広げていることが確認された。その一方で、2013年以降に堆積した溶岩上では、これら植物の生育は確認できなかった。
著者
川上 和人 森 英章
出版者
東京都立大学小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究年報 (ISSN:03879844)
巻号頁・発行日
no.43, pp.121-135, 2020-06-30

小笠原諸島の西之島は太平洋に孤立した無人の海洋島である。この島で2013年から生じた火山の噴火と溶岩の流出による撹乱が自然環境に与えた影響と現在の島の自然の状況を明らかにするため、2019年9月に上陸調査を伴う総合学術調査が実施された。その結果、噴火の影響で島から個体群が消失した生物種が明らかとなるとともに、新たに生じた陸地への生物の拡散の状況が把握された。また、2017年に出現した溶岩の化学特性が明らかになり、地震・空振観測機器の設置により、噴火に伴う変化の遠隔把握が可能となった。今後は長期的なモニタリングにより西之島の自然の持つ価値をより明確にしていくとともに、保護担保措置をとり適切に管理していく必要がある。
著者
森 英章 岸本 年郎 寺田 剛 永野 裕 苅部 治紀 川上 和人
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究 = Ogasawara research (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
no.46, pp.95-108, 2020-03

2019年9月、西之島において、初めて専門家による陸上節足動物の上陸調査が行われた。2013年より度重なる火山活動によってほぼすべての地域が溶岩に覆われた一方、一部草地が残された。定量調査と定性調査を並行して実施し、旧島部に残存する節足動物を確認するとともに、新たに形成された大地への進出状況を明らかにすることとした。4綱15目28科33種の陸上節足動物を確認した。うち21種は同島から初めて確認された。既存の記録を加えるとこれまでに西之島から確認された陸上節足動物は少なくとも44種となる。特に2013年噴火後に新たに形成された植生のない溶岩台地において海鳥の死体下よりトビムシ、ササラダニ等の土壌分解者が発見されたことは一次遷移の過程に関する新たな視座を提示するものである。一方、外来種であるワモンゴキブリが残存していることが確認され、対策の実施が望まれる。トラップを用いた定量調査も行われたことにより今後の継続的なモニタリングの基礎情報となる。
著者
川上 和人 樋口 広芳
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
山階鳥類学雑誌 (ISSN:13485032)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.19-29, 2003-09-30 (Released:2008-11-10)
参考文献数
29
被引用文献数
13 15

動物園の飼育個体数の記録を用いて,ミゾゴイ,オオタカ,サシバの1960年代以後の個体数推移の推定を行った。これらの種は,動物園で積極的に収集している種ではなく,また飼育下での繁殖もほとんどされていない。そこで,飼育個体数は保護個体数を,保護個体数は野生個体数を反映していると仮定した。また,これらのデータを補強するため,新潟,栃木,伊良湖岬,宮古諸島での個体数推移の記録を収集し検討した。その結果,ミゾゴイとサシバは1960年代以後,全国的に減少していることが示唆された。これに対しオオタカは全国的に増加傾向が見られた。ただし,飼育個体数で評価したため,過大評価の可能性があり,今後野生個体群に関して詳細に検討していく必要がある。ミゾゴイとサシバの減少は,生息地や食物資源,越冬地の森林の減少等が原因と考えられる。この2種はこれまで保全上あまり注目されてこなかったが,レッドデータブックでの地位を上げ,保全に積極的に取り組んでいく必要がある。
著者
川上 和人 阿部 真 青山 夕貴子
出版者
首都大学東京
雑誌
小笠原研究 (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.1-19, 2011-03

小笠原諸島では、外来木本植物であるトクサバモクマオウ Casuarina equisetifoliaが野生化し、優占種となることで、様々な影響を与えている。本研究では、父島列島の西島において、本種が優占する森林の環境特性を明らかにするため、開空度、リター厚、土壌水分量、土壌硬度、リター下の温湿度の測定をおこなった。その結果、モクマオウ林では、在来樹林に比べ、開空度が高く、リターが厚く堆積し、土壌が乾いていることが示され、また比較的温度が高い傾向があった。このような環境の違いは、動植物相の成立に影響を与える可能性がある。西島では、トクサバモクマオウの試験的な駆除がおこなわれており、環境特性の変化をモニタリングする必要がある。The invasive alien woody species Casuarina equisetifolia has expanded its range and become dominant in various areas in the Bonin Islands, situated in the northwestern Pacific. In order to clarify the environmental characteristics of Casuarina forests, we examined the canopy openness, litter depth, soil moisture, soil hardness, air temperature, and air humidity on Nishijima, which is widely occupied by the alien plants. We found that the canopy was opener, the litter was thicker, and the soil was drier in Casuarina forests than in native forests. These physical differences are likely to affect the faunal and floral assemblages. As experimental eradication is being conducted on the island, and the trend in the physical conditions should be monitored.
著者
可知 直毅 平舘 俊太郎 川上 和人 吉田 勝彦 加藤 英寿 畑 憲治 郡 麻里 青山 夕貴子
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010

外来哺乳動物の攪乱の結果、生態系機能が消失した海洋島において、外来哺乳動物の駆除が生態系機能に及ぼす影響を評価し、駆除後の生態系の変化を予測するために、小笠原諸島をモデルとして、野外における実測データの解析と生態系モデルによる将来予測シミュレーションを実施した。シミュレーションの結果、ヤギとネズミを同時に駆除した方が植生や動物のバイオマスの回復効果が大きいことが明らかとなった。また、予測の精度を上げるために、環境の空間的不均質性を考慮する必要があることが示唆された。
著者
鈴木 創 川上 和人 藤田 卓
出版者
首都大学東京
雑誌
小笠原研究 (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.89-104, 2008-03
被引用文献数
1

南硫黄島において2007年6月17日〜27日にオガサワラオオコウモリPteropus pselaphonの調査を行った。捕獲調査により得られた個体はすべてが成獣の雄であった。外部形態の測定値は、1982年調査及び近年の父島における測定値の範囲内であった。1982年調査において、他地域より明るいとされた本種の色彩は、本調査でも観察された。また、前調査において「昼行性」とされた日周行動については、昼間および夜間にも活発に活動することが観察された。食性では、新たにシマオオタニワタリの葉、ナンバンカラムシの葉への採食が確認された。南硫黄島の本種の生息地は、2007年5月に接近した台風により植生が大きな攪乱を受け、食物不足状況下にあることがうかがわれた。本種の目撃は海岸部より山頂部まで島全体の利用が見られた。生息個体数は推定100〜300頭とされ、25年前の生息状況から大きな変化はないものと考えられた。本種はかつて小笠原諸島に広く分布していたと考えられるが、現在の生息分布は、父島及び火山列島に限られている。父島では人間活動との軋轢により危機にさらされており、その保全策が課題となっている。人為的攪乱が最小限に抑えられた南硫黄島の繁殖地の存続は、本種の保全上極めて重要である。このことから、今後これらの本種の個体群推移についてモニタリングを続ける必要がある。
著者
川上 和人 鈴木 創
出版者
首都大学東京
雑誌
小笠原研究 (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.105-109, 2008-03

小笠原諸島では、移入種であるクマネズミが無人島も含めて広く分布している。本種は、動植物の捕食者として生態系に大きな影響を与えることが知られており、保全上の懸案事項の一つとなっている。南硫黄島では、これまでネズミ類の侵入は確認されていないが、前回調査が行われた1982年以後に侵入している可能性は否定できない。そこで、南硫黄島においてネズミ類の侵入の有無を明らかにするため、誘引餌の設置、自動撮影調査、食痕の確認等を行った。この結果、ネズミ類が生息しているという証拠は得られず、現在のところ南硫黄島にはネズミ類が生息していないと考えられた。ネズミ類が生態系へ与える影響は極めて大きいため、今後もネズミ類の侵入に関してはモニタリングを続ける必要がある。