著者
犬塚 貴 木村 暁夫 林 祐一
出版者
日本神経治療学会
雑誌
神経治療学 (ISSN:09168443)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.94-98, 2016 (Released:2016-08-10)
参考文献数
20
被引用文献数
2

Several autoantibodies are associated with autoimmune encephalitis. Some of these antibodies are directed against intracellular neuronal antigens such as Hu and Ma2, which are strongly associated with paraneoplatic syndrome. In the past 10 years, various antibodies were identified that recognize neuronal cell–surface or synaptic proteins in patients associated with or without malignancy. Some of these antibodies are able to directly access receptors of neurotransmitters or channels and are responsible for causing neurological syndromes. Autoimmune encephalopathy with these antibodies generally responds to immunotherapies, such as steroids, plasmapheresis, and intravenous immunoglobulin as well as immunosuppressant and anti–cancer treatments in cases of paraneoplastic syndrome.Patients with N–methyl–D–aspartate (NMDA) receptor antibodies, which are the most common in autoimmune encephalopathy, often cause psychiatric manifestation, memory impairment, seizures, dyskinesia, catatonia, autonomic instability and respiratory failures. Although 86% of patients become worse at the stage of mRS5, almost 80% of all patients recover to the stage of less than mRS2 with immunomodulatory therapy and careful management for their general condition. Detection of those antibodies in both serum and CSF using cell–based assays is important for definite diagnosis. Availability of screening systems of antibodies and covering health insurance for immunomodulatory therapy for autoimmune encephalitis are highly expected.
著者
木村 暁夫 犬塚 貴
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.106, no.8, pp.1564-1570, 2017-08-10 (Released:2018-08-10)
参考文献数
14

傍腫瘍性自己免疫性脳炎は,腫瘍の遠隔効果として発症する脳炎・脳症である.髄液検査や画像検査で異常を認めないこともあり,しばしば診断に難渋し治療開始が遅れることも少なくない.また,様々な精神・神経症状の出現が腫瘍の発見に先立つことも多く,常に腫瘍の合併を念頭に置き,診療を進める必要がある.時に,神経と腫瘍に共通する抗原を認識する特異的な自己抗体が,神経細胞内もしくは細胞膜・細胞外抗原に対する自己抗体として検出されることがあり,診断マーカーとして重要である.また,抗体と背景腫瘍の間には一定の傾向がみられることから,腫瘍マーカーとしても重要である.合併腫瘍に対する治療が自己免疫性脳炎の治療としても優先される.
著者
木村 暁夫
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.110, no.8, pp.1601-1610, 2021-08-10 (Released:2022-08-10)
参考文献数
12

自己免疫性脳炎は,免疫学的機序を介し発症する中枢神経疾患である.一部の患者では,傍腫瘍性に発症する.患者の血清・髄液中において,神経組織を標的とする自己抗体である抗神経抗体が検出されることがあり,診断マーカーとして重要である.診療のポイントは,傍腫瘍性の可能性を念頭においた腫瘍の検索と抗神経抗体の検索である.治療は,免疫療法と腫瘍に対する治療が必要であり,早期診断と治療の開始が予後の改善につながる.
著者
滑川 将気 荻根沢 真也 木村 暁夫 下畑 享良 小宅 睦郎 藤田 信也
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
pp.cn-001713, (Released:2022-04-26)
参考文献数
15

症例は,61歳男性.2年前と6か月前に全身けいれん発作を起こし,5ヶ月前からの歩行障害が悪化して入院した.認知機能低下,下肢痙性と体幹失調,自律神経障害を認めた.髄液細胞増多があり,MRIで大脳半卵円中心の点状造影効果を伴う白質病変と長大な頸髄病変を認めた.ステロイドパルス療法で軽快したが2ヶ月後に再燃し,新たに頸髄側索の病変を認めた.髄液の抗glial fibrillary acidic protein(GFAP)α抗体が陽性で,自己免疫性GFAPアストロサイトパチー(GFAP-A)と診断した.GFAP-Aは,亜急性で予後良好の経過が多いとされるが,慢性難治性の経過をたどった.
著者
谷本 博一 木村 健二 木村 暁
出版者
一般社団法人 日本生物物理学会
雑誌
生物物理 (ISSN:05824052)
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.271-274, 2016 (Released:2016-09-27)
参考文献数
20
被引用文献数
1 1

The various molecules and organelles in a eukaryotic cell are suitably positioned within the cell to carry out their functions at the appropriate time. This intracellular positioning is accomplished through interplay among the active transport mechanisms, intracellular fluctuations, and physical properties of the components inside the cell. Here, we review the recent advances in research on how the nucleus moves toward, and maintains its position at, the geometrical center of the cell. This question has attracted researchers from various fields, and is a good subject for interdisciplinary collaboration.
著者
林 祐一 西田 承平 竹腰 顕 村上 宗玄 山田 恵 木村 暁夫 鈴木 昭夫 犬塚 貴
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.244-249, 2016-07-25 (Released:2016-08-18)
参考文献数
11
被引用文献数
1 4

症例は65歳女性.40年前,双極I型障害と診断され,リチウム製剤で治療を開始された.途中,数年の中断を経て,10年以上前から炭酸リチウム600 mg/日を内服していた.精神症状のコントロールは比較的良好であった.X年12月,高血圧の診断のもと,アジルサルタン20 mg/日の内服が開始されたところ,内服3週間後から動作時の両手指のふるえが生じるようになった.症状は進行性で,手指のふるえが強まり,内服4カ月後ごろからたびたび下痢,便秘を繰り返すようになった.経過観察されていたが,翌年10月下旬ごろから食欲の低下,認知機能の低下が生じ,2週間程度で進行するため当科に入院した.神経学的には,軽度の意識障害,四肢のミオクローヌス,体幹失調を認め,立位が困難であった.リチウムの血中濃度は3.28 mEq/lと高値を認めた.リチウム中毒と診断し,炭酸リチウムを含む全ての経口薬を中止し,補液を中心とした全身管理を行ったところ神経症状の改善を認めた.炭酸リチウムは長期間,適正な投与量でコントロールされていたが,降圧薬のアジルサルタンの投与を契機として,慢性的な神経症状が出現し,次第に増悪,下痢,脱水を契機にさらに中毒となったものと推定した.リチウム製剤はさまざまな薬剤との相互作用がある薬剤で,治療域が狭いという特徴がある.双極性障害は比較的若年期に発症し,リチウム製剤を長期内服している患者も多い.このような患者が高齢となり高血圧を合併することも十分考えられる.リチウム製剤投与者に対して,降圧薬を新たに開始する場合には,相互作用の観点から薬剤の選択ならびに投与後の厳重なリチウム濃度の管理が必要となる.現行の高血圧治療ガイドラインでは特にリチウム製剤投与者への注意喚起がなされておらず,このような高齢者が今後も出現する可能性がある.また,リチウム製剤投与高齢者の高血圧の管理において重要な症例と考え報告する.
著者
犬塚 貴 木村 暁夫 林 祐一
出版者
日本神経治療学会
雑誌
神経治療学
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.94-98, 2016

<p>Several autoantibodies are associated with autoimmune encephalitis. Some of these antibodies are directed against intracellular neuronal antigens such as Hu and Ma2, which are strongly associated with paraneoplatic syndrome. In the past 10 years, various antibodies were identified that recognize neuronal cell–surface or synaptic proteins in patients associated with or without malignancy. Some of these antibodies are able to directly access receptors of neurotransmitters or channels and are responsible for causing neurological syndromes. Autoimmune encephalopathy with these antibodies generally responds to immunotherapies, such as steroids, plasmapheresis, and intravenous immunoglobulin as well as immunosuppressant and anti–cancer treatments in cases of paraneoplastic syndrome.</p><p>Patients with N–methyl–D–aspartate (NMDA) receptor antibodies, which are the most common in autoimmune encephalopathy, often cause psychiatric manifestation, memory impairment, seizures, dyskinesia, catatonia, autonomic instability and respiratory failures. Although 86% of patients become worse at the stage of mRS5, almost 80% of all patients recover to the stage of less than mRS2 with immunomodulatory therapy and careful management for their general condition. Detection of those antibodies in both serum and CSF using cell–based assays is important for definite diagnosis. Availability of screening systems of antibodies and covering health insurance for immunomodulatory therapy for autoimmune encephalitis are highly expected.</p>
著者
木村 暁
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

昨年度に続いてウズベキスタンでの史料調査(2008年8-9月と2009年2月の二期)を行いながら原典史料の分析に取り組み、ブハラ王権の権威とイデオロギー、あるいは統治機構にかかわる以下4本の口頭発表を行った。(1)「ブハラにおける非チンギス裔の即位:年代記『ハンヘの贈物』が映し出す伝統への挑戦」では、王朝年代記がブハラにおける新興の非チンギス裔マンギト朝政権の支配をイランのナーディル・シャーによるブハラ支配(1740-47年)の事実に結びつけて正当化した点を明らかにした(2)「イスラーム都市としてのブハラ:そのイメージと意識化の史的展開」では、このマンギト朝政権がスンナ派正統主義的イデオロギーに依拠してイスラーム王権としての性格を強めるのと並行して、首府ブハラの聖なる都としてのイメージが普及・定着していくプロセスを跡づけた。(3)「ブハラの法廷証言」では、ブハラ・アミール国治下で作成されたイスラーム法廷文書をつぶさに読み解く作業を通じて、売買や権利放棄など日常的に見られる法的行為の処理のあり方を具体的に示すと同時に、ロシア帝国の直轄地に組み込まれたサマルカンドも視野に収めながら法廷台帳や行政文書など他史料も併用することで、カーズィーの司る法廷における文書業務をアミール国の文書行政のより大きな枠組みのなかに位置づけた。(4)「ムッラー・カマールッディーンの弁明書:その史料的性格と可能性について」では、サマルカンドのカーズィーがテュルク語で著した手稿本(目下出版を準備中)について、それがロシア統治下のムスリム社会の諸問題に内在的な視点から光を照らす、きわめて重要な史料であることを指摘した。以上の各テーマについては論文を随時発表していく予定である。
著者
木村 暁 中村 安秀
出版者
日本国際保健医療学会
雑誌
国際保健医療 (ISSN:09176543)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.81-90, 2014-06-20 (Released:2014-07-17)
参考文献数
29

目的  途上国では処方箋を必要とする薬剤の販売規制が不十分であり、薬剤耐性の発現という視点からも、抗生物質による自己治療は世界の公衆衛生の大きな問題である。インドネシアにおいては処方箋薬による自己治療は一般的であるうえに危険な偽造医薬品の流通も社会問題となっている。インドネシア首都圏において抗生物質を買い求める顧客の行動様式とそれに対する薬剤師の対応を明らかにし、抗生物質を用いた自己治療に係る要因を考察することを目的とした。方法  南タンゲラン市チプタ地区における地域薬局6店で抗生物質を求めた200名の顧客に出口調査を行った。調査項目は健康保険加入・非加入を含めた一般属性のほか、来店時の処方箋の有無、購入にあたっての薬剤師の指示の有無など構造化質問表を用いた。また薬局に勤務する薬剤師、薬局経営者ら8名に半構造化インタビューを行った。調査項目は一日に抗生物質を買い求める顧客数、そのうち処方箋を持たない顧客の割合、薬剤師の顧客対応、経験した健康被害の有無などとした。調査は2012年5月下旬から7月初めにかけて実施した。結果  薬局に抗生物質を買い求めに来た顧客の48.5% (97/200)が処方箋を持っていなかった。医師の受診か自己治療か、という選択は健康保険の加入の有無と有意に関連していなかった。処方箋を持たない患者が抗生物質を購入するときは飲み残しサンプルを薬局で提示するケースが51.9% (54/104)を占め、家族・友人あるいは薬剤師の推薦などに従うケースに比べて有意に多かった。薬剤師は薬剤耐性とアレルギー発現に留意して問診を行い,処方箋を持たない顧客に抗生物質を交付することは慎重であった。薬剤師は自己治療の問題を軽減するために顧客や地域への働きかけと患者教育が重要であると考えていた。結論  健康保険の加入状況が処方箋の有無及び医師の受診頻度と有意に相関しなかったことは自己治療の選択が経済的要因だけではないことを示すものと考えられた。顧客の自信過剰な態度、飲み残しサンプルでの購入、家族・友人の勧めを薬剤師の勧めに優先させる傾向などから自己治療は限られた経験や情報に基づくヒューリスティックな選択であると同時に限られた選択肢の中でのリスクマネジメントであると考えらえた。  抗生物質は治療効果が短期間で明白となることから高い学習効果と成功体験をもたらして自己治療に好都合である。この成功体験が自己治療の選択行動を強化していることが考えられた。行動変容を促す患者教育は薬剤師の新たな役割と期待される。
著者
木村 暁夫 大野 陽哉 下畑 享良
出版者
日本神経治療学会
雑誌
神経治療学 (ISSN:09168443)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.340-345, 2022 (Released:2022-11-22)
参考文献数
24

Anti–IgLON5 disease is a recently reported autoimmune neurological disease associated with antibodies against IgLON5, a neuronal cell adhesion molecule. Most patients with anti–IgLON5 disease are older adults and present with gradually progressive movement disorders, sleep alterations, bulbar dysfunction, oculomotor movement disorders, and cognitive dysfunction. These clinical features are similar to those of patients with neurodegenerative diseases including progressive supranuclear palsy, corticobasal syndrome, and bulbar–type amyotrophic lateral sclerosis. Neuropathological studies showed phosphorylated tau protein deposits predominantly involving neurons in the tegmentum of the brainstem. The efficacy of immunotherapy is still debated. However, several studies have reported that anti–IgLON5 antibody is pathogenic. Early diagnosis along with aggressive and sustained immunotherapy may be important to treat this disease.
著者
原田 斉子 冨田 稔 木村 暁夫 香村 彰宏 林 祐一 保住 功 兼村 信宏 森脇 久隆 祖父江 元 犬塚 貴
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.101, no.1, pp.157-160, 2012 (Released:2013-04-11)
参考文献数
6
被引用文献数
1 1

Neurolymphomatosisは脳神経を含む末梢神経,神経根あるいは神経叢へのリンパ腫の浸潤を呈する,臨床的には稀な疾患とされている1).今回,寛解導入後に末梢神経障害をきたし,神経生検によりneurolymphomatosisと診断し得たB cell lymphomaの2例を経験した.悪性リンパ腫の寛解導入後であっても末梢神経障害を呈した場合には,neurolymphomatosisを鑑別に入れ,神経生検を考慮する必要があると考えられた.
著者
滑川 将気 荻根沢 真也 木村 暁夫 下畑 享良 小宅 睦郎 藤田 信也
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.386-390, 2022 (Released:2022-05-31)
参考文献数
15

症例は,61歳男性.2年前と6か月前に全身けいれん発作を起こし,5ヶ月前からの歩行障害が悪化して入院した.認知機能低下,下肢痙性と体幹失調,自律神経障害を認めた.髄液細胞増多があり,MRIで大脳半卵円中心の点状造影効果を伴う白質病変と長大な頸髄病変を認めた.ステロイドパルス療法で軽快したが2ヶ月後に再燃し,新たに頸髄側索の病変を認めた.髄液の抗glial fibrillary acidic protein(GFAP)α抗体が陽性で,自己免疫性GFAPアストロサイトパチー(GFAP-A)と診断した.GFAP-Aは,亜急性で予後良好の経過が多いとされるが,慢性難治性の経過をたどった.
著者
下畑 享良 木村 暁夫
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.12, pp.825-832, 2021 (Released:2021-12-22)
参考文献数
33

抗IgLON5抗体関連疾患は,2014年に睡眠時随伴症,閉塞性睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害と,タウオパチーを示唆する病理所見を呈する疾患として報告された.これまで八つの臨床病型が報告されている.睡眠時随伴症と閉塞性睡眠時無呼吸症候群を合併する患者,また運動異常症,運動ニューロン病,認知症患者において特徴的な睡眠時随伴症を合併する場合は,血清ないし脳脊髄液の抗IgLON5抗体を測定することが望ましい.一般に予後は不良であるが,免疫療法により改善する症例も報告されており,早期診断による病初期からの免疫療法が,予後を改善する可能性がある.
著者
下畑 享良 木村 暁夫
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
pp.cn-001673, (Released:2021-11-18)
参考文献数
33

抗IgLON5抗体関連疾患は,2014年に睡眠時随伴症,閉塞性睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害と,タウオパチーを示唆する病理所見を呈する疾患として報告された.これまで八つの臨床病型が報告されている.睡眠時随伴症と閉塞性睡眠時無呼吸症候群を合併する患者,また運動異常症,運動ニューロン病,認知症患者において特徴的な睡眠時随伴症を合併する場合は,血清ないし脳脊髄液の抗IgLON5抗体を測定することが望ましい.一般に予後は不良であるが,免疫療法により改善する症例も報告されており,早期診断による病初期からの免疫療法が,予後を改善する可能性がある.
著者
小山 宏史 木村 暁
出版者
日本学術会議 「機械工学委員会・土木工学・建築学委員会合同IUTAM分科会」
雑誌
理論応用力学講演会 講演論文集 第59回理論応用力学講演会
巻号頁・発行日
pp.176, 2010 (Released:2011-01-21)

細胞は、細胞分裂を繰り返すことで増殖する。細胞分裂において細胞の形状はダイナミックに変化する。細胞形状の変化は、細胞表層の細胞骨格と呼ばれる構造物の動態が力学的パラメータに翻訳されることによって引き起こされると考えられている。しかしながら、細胞表層の力学的パラメータが時空間的にどのように変化するか、あるいは背景にある力学的パラメータの制御構造は十分に理解されていない。本研究では、細胞形状の変化を精緻に観測し、その観測データと弾性の理論に基づいた数理モデルを組み合わせることで力学的パラメータの時空間的変化を予測することを試みた。その結果、力学的パラメータが細胞全体にわたってダイナミックに変化していることが予想された。さらにこの結果は、これまで細胞分裂の主要な力学的要素と考えられてきた収縮環と呼ばれる構造物に加えて、細胞全体にわたる力学の制御が重要な寄与を果たしていることを示唆している。
著者
木村 暁 合田 真
出版者
国立遺伝学研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

細胞核はほとんどの細胞で細胞中央に配置する。しかしながら核が中央に配置する機構は未だに議論が別れている。本研究課題で、報告者は細胞骨格である微小管が細胞質全体において引っ張られることにより細胞核が細胞中央に移動する「細胞質引きモデル」を支持する知見を得ることに成功した。メカニズムの理解をさらに進めるために、生きたままの細胞内で細胞核を移動させるのに必要な力を測定することにも成功している。これらの知見により細胞核が細胞中央へ配置する機構の理解は大きく進展した。
著者
湯浅 龍彦 根本 英明 木村 暁夫 吉野 英 山田 滋雄 西宮 仁
出版者
一般社団法人 国立医療学会
雑誌
医療 (ISSN:00211699)
巻号頁・発行日
vol.55, no.12, pp.601-605, 2001-12-20 (Released:2011-10-07)
参考文献数
16

慢性硬膜下血腫除去術の直後に発症したCreutzfeldt-Jakob病(CJD)を経験した. これはきわめて特殊な経過であり, 術前にはもちろん, 術後においてもCJDの診断を下すことは困難であった. そのなかで, 進行性に悪化する臨床症状に加えて拡張強調MRIがCJDの診断の糸口になった. つまり, 脳波に未だ周期性同期性放電(PSD)の出現していない発病初期の脳MRIにおいて, T1強調画像やT2強調画像にほとんど変化がみられないのに対し, 拡張強調MR画像に明瞭な病変がみられたことは特異なことであった.また, 本例においてはCJDの初期の臨床症状は明らかな左右差をもって発症しており, かつ, 同時期の脳MRIの病変分布にもまた著しい左右差が見られた. これは先行した慢性硬膜下血腫がCJDの脳病変の発現経過に影響を与えたものと推論され興味深いことであった.さらに本例は, CJD患者が外科手術を受ける事態が現実に起こりうることを示すものであり, CJDの診療に当る施設においては, 感染防御対策の面からだけでなく, 手術を受け入れるために必要な整備と具体的な手順書を早急に整えるべきであろう.