著者
村上 真幸 中堀 義郎
出版者
日本測地学会
雑誌
測地学会誌 (ISSN:00380830)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.303-309, 1986

国土地理院では,地震予知観測の一環として,重力の経年変化を求めるための重力測量を実施している.本稿では1982年から1986年にかけて実施した4つの重力点における絶対重力測定の結果を報告する. 測定に使用した装置は佐久間式可搬型絶対重力計で投げ上げ法を採用している.この装置は,国際度量衡局(BIPM)とJaeger社により開発され,1980年に国土地理院に導入された後,改良を加えられてきたものである. 国土地理院は絶対重力測定の一方で,ラコスト重力計による相対重力測定を水準測量と同時に実施している.これにより,全国的な重力網を構成し,かつ,重力の相対変化と地殻の上下変動のデータを蓄積してきている.今回の観測により,この重力網に絶対的な基準を与えることが可能となった.今後,1年に2~3点の絶対測定を4~5年周期で繰り返し実施することにより,重力の絶対変化を検出して地震予知に貢献することが期待される. 現在までに,絶対測定は筑波,柿岡,鹿屋,新十津川の4点で行われている.絶対重力値はいずれも0.01mgalより良い精度で決定されている.絶対測定と同時期に,ラコスト重力計を使って重力の鉛直勾配も決定して,絶対重力値の補正を行っている. 筑波の絶対測定値を,中川他(1983)による相対測定の結果を利用して,米国デソバーで複数の外国の機関によって行われた絶対測定値と比較した.その結果,それぞれの値は良く一致することがわかった.また,柿岡においては,我々の測定と相前後して緯度観測所による絶対測定が行われた.これにより,国内で初めて異なる装置による絶対重力値相互の直接比較が行われたことになる.この比較の結果,両者の間には0.067mgalという有意な差が見い出された.
著者
黒石 裕樹 村上 真幸 海津 優
出版者
The Geodetic Society of Japan
雑誌
測地学会誌 (ISSN:00380830)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.63-74, 1992

国土地理院が構築した日本重力基準網1975(JGSN75)は,わが国における全ての重力測定の基準値を提供してきた.この網は国際重力基準網1971に準拠しているが,絶対重力測定を全く含んでいない.国内では,近年重力測定が高精度かつ高密度に行われるようになり,基準となるJGSN75の,絶対値の精度の向上が求められるようになった.そこで,国土地理院では,絶対重力計を導入して重力網の高精度化を図ることとした.筆者らは,佐久間式絶対重力計を改良し,1985年以来全国12ヶ所の基準重力点において重力絶対値を決定してきた.それらの観測結果から,絶対重力測定は精度及び再現性とも10μGalよりも高いことが確かめられた.これらの基準重力点を骨格として, 全国約300点から成る一等重力網を構築し,第一回観測を1991年末までに終了した.北海道地区の一等重力網について試験的に行われた網平均結果から,この網全般にわたり,ほぼ10,uGalの精度で重力値が決定されることを確認している. 日本列島は,地震や火山噴火などの地殻活動が極めて活発な地域に位置している.それらの活動に伴う地殻上下変動の検出は,地震や火山活動の予知の研究において極めて重要な課題である.これまで,主に験潮や精密水準といった測量によって,相対的な上下変動の検出が行われてきた.これに対し,地殻活動に伴った重力変化は,地殻上下変動の絶対的な量について重要な情報を提供することが知られている.そこで,国土地理院では,絶対重力測定と一等重力測量を,一等水準測量と併せて5ないし7年を周期として繰り返し行うことを計画している.10μGa1の重力変化は,3~5cmの地殻上下変動に相当することから,一等重力網により,全国にわたり,地殻上下変動を数Cmの精度で監視することができる.また,一等水準測量結果との比較により,地殻上下変動のプロセスを解明することが期待できる.従つて,絶対重力測定に基づいた一等重力・水準網の確立により,地殻上下変動の高精度監視網が構築されたといえる.
著者
村上 真 森川 充洋 小練 研司 廣野 靖夫 五井 孝憲 飯田 敦 片山 寛次 山口 明夫
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.33, no.8, pp.1237-1243, 2013-12-31 (Released:2014-07-02)
参考文献数
20

消化器外科手術において汎発性腹膜炎などの創分類classⅢ以上の症例ではSSIは依然高値である。今回,消化管穿孔による汎発性腹膜炎手術でのincisional SSI(以下,I-SSI)予防に持続吸引皮下ドレーンが有用かをretrospective検討した。2006年4月から2011年12月までの期間で,上部消化管を除く消化管穿孔例97例を対象に,持続吸引タイプ皮下ドレーンの有無でI-SSIの発生率を比較した。全体における皮下ドレーン留置群のI-SSIは12.9%で,非留置群の37.9%と比較し有意(p=0.0097)に低率であった。特に大腸穿孔でI-SSIが54.5%から7.1%まで低下した。皮下ドレーンは,使用症例を創分類Ⅲ以上の汚染手術とし,ドレナージチューブの抜去時期,効果的な留置に留意すれば,I-SSIの予防に有効な手段である。
著者
村上 真樹
出版者
美学会
雑誌
美学 (ISSN:05200962)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.13-24, 2012-06-30 (Released:2017-05-22)

In Goethes Wahlverwandtschaften (1920/21) betrachtet Walter Benjamin das Problem der Schonheit und des Scheins. Und dann beabsichitigt er sie zu uberwinden. Benjamin unterscheidet zwei Formen des Scheins; "Venus" und "Lucifer". Der Schein als Venus ist der "Schein hinter dem sich etwas verbirgt". Das stimmt mit dem Begriff des Scheins in der idealistischen Asthetik uberein. Der Schein als Lucifer ist der "Schein hinter dem sich Nichts verbirgt". Das stimmt mit dem Schein in Nietzsches Asthetik uberein. Aber betrachtet Benjamin beide Formen des Scheins kritisch. Die Erstere lasst er an ihrem Wert verlieren, indem er sie nicht als die Hulle vor der Wahrheit, sondern als Hulle vor dem "Unscheinbaren" begreift. Die Letztere verneinte er, indem er sie nicht als Schein, sondern als Allegorie begreift. Ferrier weist Benjamin auf ein Moment von Unterbrechung dieser Formen des Scheins hin, nennt dies "das Ausdruckslose". Meine Arbeit weist darauf hin, dass Benjamin fur die Uberwindung des Scheins drei Methoden vorschlagt; (1) Verminderung des Scheins durch die Beziehung zwischen Schonheit und Wahrheit zu schneiden, (2) Entzauberung des Scheins durch die Allegorie, (3) Unterbrechung des Scheins durch "das Ausdruckslose".
著者
村上 真基 大石 恵子 荒井 進 島田 宗洋
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.109-115, 2016 (Released:2016-02-03)
参考文献数
11
被引用文献数
2

【目的】療養病棟でがん患者の緩和ケアを行った成績を検討した.【方法】2010年4月~2014年12月に当院医療療養病棟へ入院した194名について,医療用麻薬(麻薬)不使用期(2012年3月まで:前期)と麻薬使用期(2012年4月以降:後期)の2群に分け,患者背景,入院期間,転帰,麻薬投与,苦痛緩和等について後方視調査した.比較のため緩和ケア病棟(PCU)の入院動態を調査した.【結果】前期74名中がん患者は16名(22%),後期120名中がん患者は79名(66%)と後期でがん患者の割合が3倍に増えた(p<0.01).後期の入院期間は1/2(144日)に短縮(p<0.01),死亡退院率(78%)は増えた(p<0.05).後期はがん患者の半数以上(57%)に麻薬を投与し,疼痛緩和は良好であった.後期の期間はPCU入院患者も増加した.【結語】療養病棟はPCUと連携してがん緩和ケアを行える可能性が示唆された.
著者
村上 真幸 仙石 新
出版者
日本測地学会
雑誌
測地学会誌 (ISSN:00380830)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.1-12, 2007

This paper describes the background of, and the necessity for the transition of the Japanese national geodetic datum from Tokyo Datum to the geocentric geodetic datum (or world geodetic system). Historically, the shape and scale of an earth ellipsoid have become accurately determined with the development of artificial satellites and laser ranging technique, and the position of an earth ellipsoid relative to the earth has been accurately determined by space geodetic techniques such as VLBI, SLR and GPS. As a result, at the end of the twentieth cen tury, geocentric geodetic datums, ITRF and WGS 84, were established and many international organizations recommend adopting ITRF or WGS 84 as the standard datum. Recent prevail ing use of GPS in surveying and navigation reveals the difference between traditional datum and geocentric datum to users of maps and charts. To leave the difference as it is would make confusion and could cause an accident if one makes positioning by GPS based on geocentric datum while using maps/charts based on traditional datum. Transition of datum from traditional one to geocentric one appears inevitable. Two governmental organizations, the Geographical Survey Institute (GSI) and the Hydrographic and Oceanographic Department of Japan Coast Guard (JHOD) made much effort to realize a new Japanese geodetic datum basedon a geocentric datum and develop maps and charts (both paper-based and digital ones) referenced to the new datum. They also collaborated to have relevant laws (Survey Act and Law for Hydrographic Activities) to be amended which regulate the geodetic datum to be used in Japan. The amended laws became effective on April 1, 2002, and the datum change was propagated among Japan without serious troubles owing to extensive preparations.
著者
飯塚 欣二 上條 哲聖 原田 弘 赤羽 健司 久保田 哲弘 江藤 裕夫 島岡 厳 椿 敦 村上 真 山口 敏章 伊與部 亮 梅山 秀明 木曽 良明
出版者
The Pharmaceutical Society of Japan
雑誌
Chemical and Pharmaceutical Bulletin (ISSN:00092363)
巻号頁・発行日
vol.38, no.9, pp.2487-2493, 1990-09-25 (Released:2008-03-31)
参考文献数
33
被引用文献数
7 11

The synthesis and the structure-activity relationships of renin inhibitors designed from the angiotensinogen transition state are described. These inhibitors contained residues modified at P1-P1, , P2, and P4-P3. Decrease in the size of side chain alkyl group in norstatine analog at P1 diminished the inhibitory activities of the compounds. Compound 5j, which contained valine residue instead of histidine residue at P2, inhibited potently cathepsin D (IC50=6.0×10-9 M) and pepsin (IC50=3.5×10-7 M) to the same extent as renin (IC50=8.5×10-10 M), and thus was not specific for renin. The reduction of the β-carbonyl group to methylene group in β-carbonylpropionyl residue at P4-P3 decreased the potency about 2 orders against human renin (5i : IC50=1.1×10-7 M vs. 1 : IC50=2.4 ×10-9 M). These results confirmed the rationality of our analysis of the interaction between an orally potent human renin inhibitor 1 and the active site of human renin using modeling techniques, showing that 1 fits the active site of renin favorably. The experimental details of the synthesis are presented.
著者
村上 真基 荒井 進 稲葉 裕
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.57-62, 2018 (Released:2018-02-20)
参考文献数
20

【目的】血液検査のみで構成されたがん患者用生物学的予後スコア(Biological Prognostic Score第2版)を終末期非がん患者の予後予測に応用することの適応と限界を検討した.【方法】後ろ向きに非がん入院患者のコリンエステラーゼ,血中尿素窒素,白血球数より予後スコアを算出し,カットオフ値で3群に分け,予測精度分析,生存解析,回帰分析を行った.【結果】がんと同じカットオフ値・予測生存期間における非がん患者204名の予後予測精度は,生存期間3週で正診率79%,9週で63%であった.特異度,陰性的中率は精度が高く,感度,陽性的中率は低かった.生存解析では3群間の識別は有意(p<0.05)であったが,回帰分析における回帰係数は有意ではなかった(p=0.43).【結論】非がんに対する本スコアを用いた予後予測では,予後良好の場合の予測精度は高く,慎重に用いれば臨床使用も可能であると示唆された.
著者
松本 華歩 村上 真菜 栗原 一貴
雑誌
研究報告エンタテインメントコンピューティング(EC) (ISSN:21888914)
巻号頁・発行日
vol.2017-EC-43, no.8, pp.1-8, 2017-03-03

お酒の割り方やコーヒーの甘さなどの味の好みは,人それぞれこだわりがある.しかし,自分の好みぴったりで割合を調節したり,気分や体調によって味を変えたりして飲むことは難しい.そこで本研究では,二つの液体の混合比を任意に調整して飲める水筒である ChanJar を提案する.ChanJar とは,change と jar を組み合わせた造語である.ここで,change は「変える」,jar は「瓶」という意味で用いている.ユーザ評価の結果,システムの有効性や改善点の必要性について確認した.また味覚と感情の関係性についての調査を行い,ChanJar を遠隔地から操作することで,操作者による,使用者への味覚による感情伝達の可能性を示すことができた.さらに,既存のウェアラブルシステムやセンサーを組み合わせることによる,健康管理システムやエンタテインメントシステムとしての可能性を論ずる.
著者
村上 真之 池田 博康
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. EMCJ, 環境電磁工学 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.111, no.205, pp.43-48, 2011-09-05

高出力のモータで駆動する生活支援ロボットが企業で開発されるようになり,実用化に向けた安全面における取り組みが求められている.人の生活空間を移動するロボットの誤動作の危険性を考えると,安全とEMCの観点から,ある程度厳しい電磁環境下においてもロボットが安全状態を維持することの検証が必要である.機能安全に基づく移動ロボットのイミュニティ評価を計画し,緊急停止や対人衝突防止などロボットの安全機能を作動させる試験治具を作製した.電磁妨害を与えながら,緊急停止ボタンを押し,あるいは,ダミーを接近させてロボットが安全状態にあるかを確認するという手法を放射イミュニティ試験の基本法に従い実践した.
著者
村上 真也 岩山 隆寛
出版者
日本学術会議 「機械工学委員会・土木工学・建築学委員会合同IUTAM分科会」
雑誌
理論応用力学講演会 講演論文集
巻号頁・発行日
vol.59, pp.206-206, 2010

2次元乱流は多数の渦の運動とみなせるため, 個々の渦の動力学を調べることが2次元乱流のよりよい理解の助けになるだろう. そのような問題意識の下, Melander, et al.(1987)は非一様な渦度分布を持つ楕円渦の軸対称化過程を研究した. 楕円渦はその軸対称化過程において, フィラメントを放出することが知られている.Melanderらはフィラメントが誘起する速度場が楕円形をした等渦度線を軸対称化させるか否かについて, 定性的見積りを行った. 我々はこれを数値的に調べ, フィラメントが楕円渦の軸対称化に与える効果を議論した.その結果, フィラメントは初期には大きく軸対称化に寄与し, のちの時刻ではほとんど影響を与えないことが分かった. これはMelanderらの定性的議論と整合的である.一方, コアによって誘起される速度場は軸対称化と反軸対称化の両方に振動的に寄与することが分かった.