著者
桑林 賢治
出版者
一般社団法人 人文地理学会
雑誌
人文地理 (ISSN:00187216)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.5-30, 2021 (Released:2021-04-13)
参考文献数
59
被引用文献数
3

先住民による「記憶の場所」の構築と,支配的マジョリティがそこに与えた文化的・社会的な影響を分析することは,先住民のアイデンティティと過去,そして場所の関係性を解明する一助となりうる。本稿は,アイヌによってシャクシャインに関する「記憶の場所」へと構築された北海道新ひだか町の真歌山を事例に,その構築がいかに彼(女)らをめぐるポストコロニアル状況に影響されていたのかを考察する。真歌山は従来からシャクシャインに対する顕彰行為の場であったが,1960年代末以降,和人のまなざしの影響を受けながら,アイヌ・アイデンティティと結びつく「記憶の場所」へと構築され,各地のアイヌを巻き込んでいった。その後も,アイヌによる和人のまなざしの受け止め方が変化するたびに,真歌山という「記憶の場所」は再構築され続けている。こうした動きには,文化的な喪失と同化を経験し,今なお和人のまなざしから解放されていない,現代のアイヌをめぐる文化的・社会的なポストコロニアル状況が映し出されていた。その意味で,真歌山は現代のアイヌを取り巻くコロニアリズムの残滓を反映した,ポストコロニアルな「記憶の場所」として位置づけられる。このようなコロニアリズムの残滓について,多様な解釈が存在することを想定し,それらを丁寧に読み解くことが,真歌山という「記憶の場所」の構築をより深く理解するためには必要である。
著者
林 賢紀 阪口 哲男 Hayashi Takanori Sakaguchi Tetsuo
出版者
情報知識学会
雑誌
情報知識学会誌 (ISSN:09171436)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.238-252, 2012-11
被引用文献数
1

文献データベースと電子ジャーナルをリンクするシステムとして,リンクリゾルバが利用されている.本論文では,文献データベース,電子ジャーナル,リンクリゾルバそれぞれのアクセスログを解析することにより,リンクリゾルバの影響の分析を試みた.この結果,データベースの検索結果からリンクリゾルバを経由して幅広い分野の雑誌タイトルに利用者を誘導できる効果が確認できた.このとき,リンクリゾルバは,PNASやScience,Natureなどの総合科学雑誌と比較して分野に特化した雑誌へ多くの利用者を誘導している.特に,Web of Scienceのような収録範囲の広いデータベースの利用においてこの効果は顕著であり, リンクリゾルバの導入は特定分野の雑誌論文の可視性を高め,利用に結びつける効果があることを明らかにした.The link resolvers provide links between articles published in electronic journals and bibliographic databases. We report on analysis of the log files of a link resolver, bibliographic databases and electronic journals. We have found that the link resolver can lead users from bibliographic databases to electronic journals in a wide range of research fields. In addition, we found that the resolver would lead users more often to journals of specialized subjects than to those of wide subject coverarge like PNAS, Science and Nature. This effect is remarkable in use of generic database like Web of Science. The former are usually accessed to e-journals websites whereas the latter are more frequently accessed more than before as a result of references from the link resolver.
著者
林 賢紀 宮坂 和孝
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.11-23, 2006 (Released:2006-04-01)
参考文献数
16
被引用文献数
3 3

RSS(RDF Site Summary)とは,タイトル,URL,要約など更新情報を利用者に通知するための仕組みであり,XMLで記述されている。また,名前空間の追加により,書誌事項など詳細な情報を加えることができ,他のWebサービスなどとXMLにより連携した高度なサービスが可能となる。本稿では,RSSの概要と現状について述べたほか,農林水産研究情報センターの事例やRSSの利点,サービス試行のための開発手法について紹介した。また,RSSを利用して,書誌情報の閲覧だけでなく利用者自らがこのデータを利活用して新たなサービスを構築可能とする新たな概念のOPAC(OPAC2.0)という方向性を示した。
著者
青木 佳代 石川 和彦 林 賢一 斉藤 守弘 小西 良子 渡辺 麻衣子 鎌田 洋一
出版者
日本食品微生物学会
雑誌
日本食品微生物学会雑誌 (ISSN:13408267)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.28-32, 2013-03-31 (Released:2013-09-07)
参考文献数
15
被引用文献数
4 13

A case of the suspected food poisoning related to deer meat occurred in December, 2011 in Shiga prefecture in Japan. Four of 18 people showed transient diarrhea, abdominal pain, nausea, and vomiting within 5 to 16 hr after eating. No typical food poisonous bacteria and viruses were detected in the food samples. Parasitological tests were performed on the deer meat, and the Ministry of Health, Labour and Welfare of Japan for horsemeat food poisoning were officially notified. A 1,100-bp DNA fragment was amplified by PCR from three slices of the deer meat, suggesting the presence of Sarcocystis sp. Cysts and bradyzoites were detected in the specimens of the deer meat. Immunohistochemical staining of the cysts detected in the deer meat with an antibody against the toxic 15 kDa protein of S. fayeri showed a positive reaction. This indicated that a similar toxic protein originating from Sarcocystis cysts was present in the deer meat. This suggested that the deer meat containing Sarcocystis cysts was the causative food in these cases of food poisoning.
著者
林 賢紀 瀬尾 崇一郎 阪口 哲男
出版者
情報知識学会
雑誌
情報知識学会誌 (ISSN:09171436)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.11-28, 2016-02-25 (Released:2016-04-15)
参考文献数
21

Web技術によるデータ公開の方法としてLinked Open Data(LOD)が注目されている.しかし,既存のWeb上の情報資源の多くは人が読む利用形態に適したデータ構造のままであるなど,構造化が不十分であることが指摘されている.本研究においては,異なる性質の要素を持つ複合的な情報資源に対し,相互運用性を持ちかつ情報損失を起さずにLODを適用する方法について検討を行った.この結果,対象となる情報資源に記載されている情報を元にして,文書の構造や使用されている語彙などを分析することにより,LODへの再構成を効率的に行うことが可能であることを明らかにした.また,関連付けが可能な他の情報資源を用いて不足している情報を補うことを前提とした構造化により,人が読む利用形態に適したデータ構造に基づいていても適切なLOD の適用を可能とし利活用しやすくするための一手法を示した.
著者
林 賢紀
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.56, no.9, pp.582-591, 2013-12-01 (Released:2013-12-01)
参考文献数
7

農林水産研究情報総合センターでは各種のAPIを活用した図書館サービスを2003年から展開してきた。本稿では,API導入の目的と運用,またその効果について紹介する。API導入後,農林水産関係試験研究機関総合目録の2012年の検索回数を分析したところ,APIを経由した検索回数は通常のOPACでの検索回数と比較して2倍以上であったなど,利用の増加があった。また,2013年3月に行ったシステム更新においては,国立国会図書館ダブリンコアメタデータ記述(DC-NDL)での出力に対応するなど,Linked Open Data(LOD)への対応に向けた改善を図った。
著者
横林 賢一
出版者
一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会
雑誌
日本プライマリ・ケア連合学会誌 (ISSN:21852928)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.322-325, 2010 (Released:2015-05-30)
参考文献数
7

クリニカルジャズはEBMと臨床経験の振り返りを調和させつつディスカッションを進める教育セッション (症例検討会) として知られている. 振り返りを重要な構成要素とするクリニカルジャズは, Reflection in action, Reflection on action, Reflection for actionのすべてに関与しており, 省察的実践家にとって有用なツールとなる. また, 振り返りが含まれることを特徴とするポートフォリオとも親和性が高い. ポートフォリオのアウトカム領域に合致する症例をクリニカルジャズ方式で検討することで, クリニカルジャズはポートフォリオ検討会としての役割も果たす.
著者
栗林 賢
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.86, no.5, pp.436-450, 2013-09-01 (Released:2017-12-08)
参考文献数
13

本稿は,青森県における集出荷業者を経由したリンゴ流通の特性を,集出荷業者の集出荷戦略の視点から検討した.集出荷業者は出荷するリンゴの品質を最重視する一方で,集荷基準を提示すると農家が出荷を中止する可能性があることから,集荷基準を提示せずに農家からリンゴを集荷している.この集荷・出荷間の矛盾を解消するために,集荷では仲買人を雇用して農家の選別をしたり,意図した品質のものを買付けできる産地市場を利用している.また,出荷では長期的な関係を築くことで取引先にリンゴの特質を理解してもらうなどの方策をとっていることが明らかになった.また,集出荷業者は農家から集荷する中で,運搬労働力や資材の提供をすることで有袋栽培を行う小規模農家群の経営を支え,4月以降の出荷を安定したものとしている.このように,集出荷業者が出荷・集荷間の矛盾を解決した結果として,現在の集出荷業者を介したリンゴ流通は成り立っている.
著者
大林 賢史 佐伯 圭吾
出版者
一般社団法人日本衛生学会
雑誌
日本衛生学雑誌 (ISSN:00215082)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.138-142, 2018 (Released:2018-05-31)
参考文献数
33

The purpose of this short review is to describe the influence of housing environment temperature and lighting on circadian blood pressure (BP) variability using data from the HEIJO-KYO cohort, a community-based cohort study launched in 2010. Increased excess mortality from cardiovascular disease in winter is a worldwide problem. Previous studies showed higher conventional BP and higher daytime ambulatory BP in winter; however, the relationship between indoor cold exposure and circadian BP variability remained unknown. In our cohort, we found a significant inverse relationship between indoor temperature and morning BP surge, independent of potential confounding factors. In addition, we found the tertile group with the lowest daytime indoor temperatures showed significantly higher urinary sodium excretion than the tertile group with the highest daytime indoor temperatures. Higher sodium intake caused by indoor cold exposure may partly explain the higher BP in winter. Physiologically, light exposure is the most important environmental cue for the circadian timing system and melatonin secretion. In our cohort, we observed that an increase in nighttime short-wave length light exposure and a decrease in daytime light exposure were significantly associated with lower melatonin secretion. Furthermore, lower melatonin levels were significantly related to higher nighttime BPs and parameters of atherosclerosis, which are predictors of cardiovascular disease incidence. Further longitudinal studies of the influence of housing environment temperature and lighting on cardiovascular disease incidence are required.
著者
林 賢紀
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.242-247, 2008-05-01

本稿では,Web上の検索エンジンについて標準的な検索手法になりつつあるOpenSearchについて概説するほか,1)OPACを題材として,図書館システムに標準で用意された検索ページを解析し,タイトル検索のみ可能なシンプルな検索ページへ再構成を図ることで検索に必要な最小限の要素の把握,2)OpenSearch Descriptionファイルを作成し,Firefox上から直接OPACを検索するプラグインの作成,3)作成した検索プラグインの設置とインストール方法について解説する。
著者
小山 碧海 喜友名 朝視顕 小林 賢治 新井 美桜 三田 雅人 岡 照晃 小町 守
出版者
一般社団法人 言語処理学会
雑誌
自然言語処理 (ISSN:13407619)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.330-371, 2023 (Released:2023-06-15)
参考文献数
144

本稿では,日本語文法誤り訂正のための誤用タグ付き評価コーパスを構築する.評価コーパスはモデルの性能評価に欠かすことができない.英語文法誤り訂正では様々な評価コーパスの公開により,モデル間の精緻な比較が可能になりコミュニティが発展していった.しかし日本語文法誤り訂正では利用可能な評価コーパスが不足しており,コミュニティの発展を阻害している.本研究ではこの不足を解消するため,日本語文法誤り訂正のための評価コーパスを構築し,一般利用可能な形で公開する.我々は文法誤り訂正において代表的な学習者コーパス Lang-8 コーパスの日本語学習者文から評価コーパスを作成する.また文法誤り訂正分野の研究者や開発者が使いやすい評価コーパスとするため,評価コーパスの仕様を英語文法誤り訂正で代表的なコーパスやツールに寄せる.最後に作成した評価コーパスで代表的な文法誤り訂正モデルを評価し,今後の日本語文法誤り訂正においてベースラインとなるスコアを報告する.
著者
林 賢一
出版者
心理学評論刊行会
雑誌
心理学評論 (ISSN:03861058)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.147-155, 2018 (Released:2019-07-11)
参考文献数
37
被引用文献数
1

In this paper, the features of Bayesian hypothesis evaluation and statistical modelling are compared with those of the frequentist paradigm. Bayesian statistics enjoys the recent development of computers and software for data analysis. However, such benefit may cause two main problems. One problem is the neglect of effort to specify the details of statistical models or prior information, each of which is carefully considered in traditional statistical data analysis. The other problem is the futile exploration of models owing to flexible manipulation of probabilistic programming languages. Furthermore, for a fair comparison, this paper provides some situations that are suitable for Bayesian and frequentist statistics, respectively. The message of this paper is the importance of quantifying hypotheses and constructing statistical models as clearly as possible in a subjectively interpretable manner.
著者
佐藤 勉 林 賢紀
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.47, no.5, pp.338-347, 2004 (Released:2004-08-01)
参考文献数
4
被引用文献数
2 1

農林水産研究情報センターにおいては,年々増加するWeb上の農林水産関連の情報資源に対し効率的なアクセスを可能とするため,また農林水産省試験研究機関等で発信する研究成果などの情報について,誰でも容易にアクセスできるよう,農林水産研究情報に特化した検索システムや,これらの情報を整理したディレクトリシステムを開発し,運用している。また,消失しやすいWeb上の情報を保存することで,永続的なアクセスを確保し価値の高いデータや研究成果を安定して提供するため,Webアーカイブの構築を行っている。
著者
古林 賢恒 筱田 寧子
出版者
「野生生物と社会」学会
雑誌
野生生物保護 (ISSN:13418777)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.1-24, 2001-12-25 (Released:2017-10-17)
参考文献数
29
被引用文献数
2

By using documents handed in by local peasants for permission to use guns to counter agricultural damage by wildlife and records of deer hunting, the distribution of sika deer (Cervus nippon) around the Kanto plain during Edo era was demonstrated. As a result of the analysis of 540 historical documents, (1) agricultural damage was shown to have been caused by sika deer and boar, which were driven from fields all the time, (2) agricultural damage existed in lowlands, tablelands and hills, and happened only at fields, not in forestry regions, (3) complaints to agricultural damage was concentrated especially in the "takaba" regions, (4) agricultural damage occurred continuously through out the Edo era at each place. The similarity between land-use of the area where the documents continuously existed and that of the outskirts on the area suggests that sika lived everywhere at that time.