- 著者
-
下藤 悟
松井 元子
村元 由佳利
森山 洋憲
加藤 麗奈
甫木 嘉朗
上東 治彦
- 出版者
- Japan Society for Food Engineering
- 雑誌
- 日本食品工学会誌 (ISSN:13457942)
- 巻号頁・発行日
- vol.21, no.1, pp.37-50, 2020-03-15 (Released:2020-03-27)
- 参考文献数
- 26
- 被引用文献数
-
3
食品の品質の総合評価を解析するには,官能評価データと物理化学的なデータを用いるのが一般的である.従来の解析手法としては,線形解析である重回帰分析(MRA)や部分的最小二乗回帰(PLS)を行っているものが多い.しかしながら,食品の味の総合評価は,食品の成分などの特徴に対して非線形な関係があることは経験的にもよく知られている.一方,近年では非線形的な解析を行う手法として,データマイニングの分野において,機械学習が採用されており,柔軟性があり,予測精度が高い解析ができるといわれている.そこで本研究では,官能評価による日本酒の品質の総合評価に対する物理化学的特徴の寄与をより明確にすることを目的とし,その関係性の解析に機械学習を適用した.一般的な統計手法であるMRA,PLSと代表的な機械学習手法である人工ニューラルネットワーク(ANN),サポートベクターマシン(SVM)およびランダムフォレスト(RF)で比較を行うことで,より正確な予測モデルを得ることができると考えた.さらに,評価傾向の定量化のために機械学習から得られる変数の重要度とMRAから得られる回帰係数を組み合わせて考察を行った.試料には日本酒(純米吟醸)173品を用い,官能評価は35名の熟練されたパネリストによって行った.品質は5段階で評価した.物理化学的特徴を得るために,核酸関連物質成分や香気成分の分析に加えて,酸度,アミノ酸度,グルコース含量といった一般的な分析,Brix,導電率,pHといった簡易分析を行った.官能評価スコアへの物理化学的特徴の寄与は,回帰分析によって検討した.説明変数に物理化学的特徴の分析値を,目的変数に個々のパネリストの個々の評価スコアと平均スコアを用いた.解析にはRを用いたi).回帰分析は,MRAとPLS,機械学習(SVM,ANNおよびRF)により行った.各解析にはcaretパッケージを使用し,解析条件の最適化を行った.回帰分析の精度の検証は,過学習を避けるためにtrainデータとtestデータに分割して行った.まず,全体の90%に当たる158品をトレーニングデータ,残りの10%に当たる15品を精度検証用データにランダムに分割した.次に,トレーニングデータを用いて回帰分析を行い,予測モデルを得た.得られた予測モデルから,テストデータ(予測モデルの作成に使用していないデータ)の総合評価の予測値を計算し,実測値と比較し,各分析手法の精度を調べた.さらに,トレーニングデータについても同様に予測精度を比較することで,予測モデルのフィッティングについて調べた.予測精度は,許容範囲内の誤差に含まれる試料の割合,平均絶対誤差(MAE),二乗平均平方根誤差(RMSE)で評価した.これら4つの解析方法の結果から,MRAよりも機械学習(とくにRF)の方が回帰モデルのフィッティングがよく,日本酒の品質の総合評価を高い精度で解析できる可能性が示唆された.また,MRAで得られた回帰係数とRFで得られた重要度から,評価スコアに対する各物理化学的特徴の寄与についても検討した.MRAで得られた回帰係数は,符号により評価への影響の良し悪しが判別できる.また,絶対値が大きいほど評価への寄与も大きいと考えられる.一方,RFで得られた重要度は,0~100の値のため,評価へ影響の良し悪しは判別できないが,値の大きいものほど予測精度に大きく影響することを表す指標である.個々のパネリストのスコアの解析から,日本酒の品質評価にカプロン酸エチルと酢酸イソアミルといった香気成分大きく寄与していることが示された.さらに回帰係数と重要度の値を組み合わせて評価傾向を確認したところ,総合評価と成分濃度には非線形関係のものがあることが示唆された.以上の結果から,日本酒の品質の総合評価における傾向について,MRAとRFを組み合わせることでより明確に捉えることができた.