著者
千代田 路子 藤村 亮太郎 田辺 聖子 右田 京子 山形 徳光 重松 康彦
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成21年度日本調理科学会大会
巻号頁・発行日
pp.1059, 2009 (Released:2009-08-28)

【目的】日本では少子高齢化が進み、核家族化、女性の社会進出、単身生活者の増大に伴い、調理の簡便化や省力化の傾向が見られ、カット野菜に対する消費者のニーズが高まってきている。カット野菜は微生物制御を目的に次亜塩素酸ナトリウム溶液による浸漬処理が広く行われており、微生物的な安全面や生理的・化学的変化について多くの報告がなされているが、栄養成分についての研究はあまり進んでいない。そこでカット野菜として需要が高いレタスについて、次亜塩素酸ナトリウムによる洗浄殺菌処理と水道水による洗浄処理がカットレタスの栄養成分に与える影響を明らかにすることを目的に本実験を行った。【方法】レタスの外葉及び芯を除去した後、包丁にて4cm四方にカットしたレタスを試料とし、次亜塩素酸ナトリウム溶液(200ppm)浸漬による洗浄殺菌処理と水道水による洗浄処理(1分間、20分間)を行った。その後、調製したカットレタスの各栄養成分[ビタミンC及びミネラル類(カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、鉄)]について定量分析を行った。実験期間は栄養素の季節変動を考慮し、季節ごとに年4回(2007年秋~2008年夏)と設定した。【結果】調製したカットレタスの栄養成分データについて比較した結果、いずれの栄養成分においても各調製試料間に有意な差は確認されなかった。以上の結果より、洗浄方法の違いによってカットレタスのビタミンC及びミネラル類(カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、鉄)に有意な損失はないことが示唆された。また、季節ごとの栄養素の変動について一定の規則性は確認されなかった。
著者
奥本 牧子 畑江 敬子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成21年度日本調理科学会大会
巻号頁・発行日
pp.1083, 2009 (Released:2009-08-28)

【目的】 煮物の味は冷めるときに染み込む、と一般にいわれているが、それを確かめるために実験を行なった。前報では、3種の食品を1% NaCl溶液中で加熱し、温度降下速度をかえて、一定温度で保温し、食品中の食塩の濃度を測定した。その結果、温度が高いほど食品中のNaCl濃度は高く、冷めるときに味が染み込むということは確認出来なかった。そこで、さらに温度降下条件を急速にし、煮汁の温度が冷めるときに味が染み込むかどうか確かめることを目的とした。さらにソレー効果との関係を考察した。 【方法】 試料として前報同様ジャガイモ、ダイコン、コンニャクを用い、一辺2cmの立方体に成型し1% NaCl溶液中で一定条件で加熱した後、とりだして、予め、0,30,50,80,95℃に設定した1% NaCl溶液に移し、5,10,30分後に取り出し、前報同様に内層(表面より3mm内側)と外層(表面より3mmまで)に分けて、イオンメーターでClイオンを測定し、NaCl濃度を算出した。 【結果】 いずれの場合においても高温に保った方がNaCl濃度は高い傾向にあった。今回の実験でも冷めるときに味が染み込むことは確認出来なかった。ソレー効果は温度が定常状態の場合に液体中のNaCl濃度が移動するという現象で、濃度によって温度は異なるが、ある特定の温度(海水程度では12℃)を境にしてNaClは高温側から低温側、あるいは低温側から高温側に移動するという現象で、煮物の味の染み込みを説明するには無理があるのではないかと考えられる。
著者
西念 幸江 小澤 啓子 生方 恵梨子 峯木 真知子 野口 玉雄
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成21年度日本調理科学会大会
巻号頁・発行日
pp.2048, 2009 (Released:2009-08-28)

【目的】無毒化されたトラフグの肝臓(フグ肝)について,食料資源としての可能性および価値を検討してきた.ゆでたフグ肝を用いた官能検査では,その色,匂い,脂っぽさの点から,高い評価は得られなかった.そこで,料理を調製して,官能評価および組織観察より食味特性を調べた. 【方法】フグ肝は,佐賀県唐津市呼子にある(株)萬坊で室内水槽(100t)により,養殖されているトラフグ2年魚から腑分けされたものを試料とした(2009年1月).このフグ肝は食品衛生検査指針・理化学編中のフグ毒検査法に準じて,フグ毒を抽出し,マウス毒性試験を行い,毒性がすべて認められなかったことを確認した.その後,-50℃で冷凍保存し、使用時に流水で解凍し,血抜後,酒水,長葱および生姜の中に浸漬した(5℃、3時間)後、6種の調理法による料理を調製した(刺身、味噌汁、蒸し物、西京焼き、照り焼き、天ぷら). フグ肝の調理による重量変化を求めた。フグ肝の下処理については,円卓法による官能評価で検討した.各料理は,5段階評点識別試験と嗜好試験(1-5点)を行った.調理されたフグ肝の試料は卓上型電子顕微鏡(TM-1000,(株)日立ハイテクノロジーズ)で観察した. 【結果】重量減少率は、味噌汁および蒸し物で大きかった。フグ肝料理の分析型官能評価では, 匂いの強さが平均2.5点でやや弱く,香りのよさは平均3.8点でややよく、油っぽさについては,2.5-4.0点の範囲であった。嗜好型官能評価では,いずれの料理も,「料理としての好ましさ」の評点が3.5以上で高かった.組織観察では、調理法による脂肪の違いが観察された。
著者
石田 祐樹 畑 千嘉子 高倉 裕 垂水 彰二
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成21年度日本調理科学会大会
巻号頁・発行日
pp.1071, 2009 (Released:2009-08-28)

【目的】脂質を多く含む食品を加熱調理すると不快臭が一部生成し、調理品の風味劣化や品質低下をもたらす要因となる。特に不飽和脂肪酸の加熱分解により生成する一部の揮発性アルデヒドは不快臭の原因物質とされ、これらの不快臭の発生をいかに抑制できるかが重要である。調理に多用される酒類調味料に含まれる有機酸はアミンなどの揮発性塩基物質と結合して不揮発化することが知られているが、本研究では、脂肪酸に対する各有機酸の酸化抑制効果及び揮発性アルデヒド生成抑制効果を検証した。さらに、魚類や畜肉類などを加熱調理した際の酸化抑制及び揮発性アルデヒド生成抑制効果に及ぼす有機酸添加の影響について検討した。【方法】脂質の代表的な脂肪酸として、リノレン酸、リノール酸、オレイン酸又はステアリン酸をモデル成分として選択した。有機酸は、酒類調味料に比較的多く含まれる、酢酸、乳酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸について検証した。抗酸化はPOV法及びTBA法にて評価を行い、アルデヒドはGC-MSにて分析を行った。【結果】有機酸の中でも特にクエン酸のアルデヒド生成抑制効果が顕著であった。アルデヒド生成量はその脂質に含まれる不飽和脂肪酸量及びその種類に依存しており、魚類では鯖、秋刀魚、鰻の順に、畜肉類では鶏、豚、牛の順に脂質の過酸化が進行していた。これらの食材にクエン酸含有調味料を添加、混合することで、加熱調理時の酸化による揮発性アルデヒドの生成を抑制できることがわかった。
著者
藤田 倫子 湯川 夏子 中西 洋子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成21年度日本調理科学会大会
巻号頁・発行日
pp.2015, 2009 (Released:2009-08-28)

【目的】平成20年3月、新学習指導要領が公示された。小学校家庭科では、「B.日常の食事と調理の基礎」として、「食事の役割」「栄養素の種類とはたらき」「調理の基礎」を指導することになった。「調理の基礎」を指導することは、従来より小学校家庭科の重要課題である。そこで本研究では、新学習指導要領下で実施可能な調理実習教材探求を目的に、小学校家庭科調理実習教材の変遷(戦後~現在)について調査を実施した。 【方法】小学校学習指導要領家庭科編および小学校家庭科検定済教科書(T社およびK社。計28冊)を資料として調査を行った。 【結果】小学校学習指導要領家庭科編は、昭和22年に試案が出され、7回改訂後現在に至っている。昭和22年の試案には、学習題材として「蒸し芋・青菜のひたし・いり卵」(6年)が示された。昭和33年改訂では「野菜の生食・ゆで卵・青菜の油いため」(5年)、「ごはん・みそしる・目玉焼き・こふきいも・サンドイッチ」(6年)が示された。昭和43年および52年改訂では大きな変化はなかった。平成元年改訂では、「野菜や卵を用いた簡単な調理」(5年)、「米飯,みそ汁,じゃがいも料理,魚や肉の加工品を使った料理,サンドイッチ,飲み物」(6年)が挙げられた。平成10年改訂では、「米飯とみそ汁」のみ題材指定され、本内容は平成20年改訂の指導要領に引き継がれた。指導要領に対応して教科書が作成・改訂されるが、平成10年改訂に対応した教科書から、5・6年で一冊となった。2社の教科書は、改訂時期や変更内容は類似しているが、平成10年改訂に対応した教科書から実習例や使用食材が異なってきた。
著者
橋爪 伸子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成21年度日本調理科学会大会
巻号頁・発行日
pp.1034, 2009 (Released:2009-08-28)

【緒言】地域固有の歴史を背景とする食文化史の研究は、現代の地域活性化事業に有用な情報を提供し、ひいては地域アイデンティティ確立の一端を担うことができると考える。本報では、熊本城築城400年記念事業で監修を担当した、近世熊本の食史料の再現三事例を検証し、食文化史研究の現代への活用について、可能性、課題などを考えてみたい。【方法】再現の典拠とした主な史料は、熊本藩士による飲食物製法記録「料理方秘」(都立中央図書館加賀文庫蔵)、「歳時記」(熊本県立大学文学部蔵)、同藩における献立記録「御入国御拝任御祝」(熊本市歴史文書資料室蔵)である。これらの解読および翻字に加え、それぞれの活用の目的に応じて食素材や調理法などの具体的な調査研究を行った。【結果】1飲食物製法記録をもとに、所収の料理を再現できる料理書『熊本藩士のレシピ帖』を刊行した。県内主要書店、熊本城売店にて販売され、県内外から需要を受けている。また県内料理店、宿泊施設などでは、同書を参考にした再現料理が、肥後熊本の古料理等と称され活用されている。2献立記録をもとに、万延元年(1860)熊本藩主初入国の御祝御能で供された本膳料理二汁七菜を、レプリカによって再現した。それは同事業で復元した本丸御殿内大御台所に常設展示されている。食記録の模型化により、近世の食を視覚でより具体的に印象づけることが可能となるが、一方で有形化に際し根拠の不足という問題も生じた。3上記史料や2で模型化した一部の料理再現を中心とした「本丸御膳」が、2の展示される大御台所で、同市の郷土料理店により提供されている。再現料理の食体験として、季節ごとに献立を変えながら継続される予定である。
著者
久保 加織 梶原 恵美 中田 理恵子 堀越 昌子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成21年度日本調理科学会大会
巻号頁・発行日
pp.2044, 2009 (Released:2009-08-28)

【目的】家庭用冷凍冷蔵庫の普及に伴い、食品の保存形態は変化した。冷凍庫内温度は-20℃に設定され、微生物の繁殖限界である-18℃を下回っているため、冷凍は有効な保存方法である。しかし、脂質酸化は-20℃でも進み、油焼けも起こる。本研究では、日常よく食されるあじといわしを用いて、家庭用冷凍庫内での保存中の成分変化について検討した。 【方法】魚(あじ、いわし)は大津市内のスーパーマーケットで購入後、直ちに三枚に卸し、ラップフィルムで1枚ずつ包み、5枚ずつを市販のジッパー付袋(冷凍、解凍用)に入れて家庭用冷凍庫内で保存した。保存後は、冷蔵庫内で12時間かけて解凍し、そのまま、あるいは焼き調理を行った後、分析に供した。ドリップ量、水分含量は定法通り、遊離アミノ酸はアミノ酸分析計により分析した。揮発性成分は40℃でSPMEファイバーに吸着させ、GCMSにより分析した。脂質をBrigh and Dyer法により抽出し、過酸化物価(POV)とカルボニル価(CV)の測定、ガスクロマトグラフィーによる脂肪酸分析を行うことで脂質酸化について検討した。 【結果】脂質のPOVは冷凍期間が長くなるにつれて徐々に増加し、あじは8週、いわしは12週で20meq/kgに達したが、CVの上昇はほとんどみられず、脂肪酸組成にも大きな変化はなかった。ドリップ量、遊離アミノ酸量は保存期間が長くなるほど増加した。検出される揮発性成分も冷凍期間が長くなるにつれて増加し、腐敗臭や生臭い臭をもつケトンやアルデヒドが出現した。家庭用冷凍庫で魚を保存すると、8~12週間で脂質の初期酸化が進み、過酸化物が蓄積すること、味や風味に関わる様々な問題も生じさせることが明らかになった。
著者
岡崎 章子 當具 摩弓 冨田 圭子 松井 元子 大谷 貴美子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成21年度日本調理科学会大会
巻号頁・発行日
pp.1030, 2009 (Released:2009-08-28)

【目的】食べ物のおいしさは、食物本来の化学的・物理的性質のほかに、食べる側の食体験や社会的・文化的背景の影響を強く受ける。そのおいしさを評価するのに、前者は機器分析によるさまざまな客観的評価法が研究されているが、おいしさを表現することばについてはほとんど研究されていない。本研究の目的は、食べ物のおいしさの表現用語と文化的背景との関係を明らかにすることである。ここでは、まず日本で幅広い世代に知られる料理漫画「美味しんぼ」の中で使用される食べ物のおいしさの表現用語に着目し、分類した結果を報告する。【方法】料理漫画「美味しんぼ」(小学館)1~102巻(1983~2008年)を調査対象とし、その中で使用されている食べ物のおいしさを表現する用語を抜き出し、感覚別、調理法別、食品群別、料理国籍別等にカテゴリーに分類、分析した。【結果】食べ物のおいしさを表現する用語を抽出したところ、11,888語あった。感覚別で最も多かったのは味覚関連用語(4,135)で、それに次いで嗅覚(2,166)、触覚(1,967)、視覚(895)に関連する用語であった。また感覚(五感)には分類されないが、製造法や原産地など食の安心・安全性に関連した用語も抽出され、知識・経験に基づく用語もおいしさを表現する上で重要な役割を果たしていることが示唆された。料理国籍の違いによって表現用語に大きな差は認められなかったが、調理法の違いによる差が認められた。また、「美味しんぼ」では魚介類に関連する用語が多く、そのおいしさを表現するのに、生臭みなどの嗅覚関連用語や、鮮度、主食との相性などに関する用語が用いられた。今後は、例えば異なる文化的背景における魚介類のおいしさを表現する用語について、比較検討を行う予定である。
著者
星 睦水 井上 かほる 桑山 弓枝 岩森 大 山崎 貴子 伊藤 直子 村山 篤子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成21年度日本調理科学会大会
巻号頁・発行日
pp.2052, 2009 (Released:2009-08-28)

【目的】食肉は、たんぱく質の良い供給源である。しかし、加熱した食肉は、咀嚼能力が低下している高齢者にとっては、食しにくい食材の一つである。これまでに、我々は、マイタケのプロテアーゼと低温スチーミング調理と併用することにより効果的に肉を軟化することを報告した。しかし、マイタケ処理した肉は、軟らかいものの食感が悪く、好まれなかった。そこで、本研究では、マイタケ処理液の濃度調節を行い、調味することにより風味の改善を試みた。 【方法】マイタケの重量に対して2倍量の水を加えてホモジナイズ後濾過した液(A)、4倍量の水を加え同様に処理した液(B)、Bに1%食塩を添加した液(C)を作成した。牛もも肉は一定の大きさに切断し、ナイロンポリバッグ中に上記マイタケ抽出液とともに真空包装し、低温スチーミング装置(AIHO ATS-10A)を用いて、70℃2時間加熱した。破断応力、テクスチャーはクリープメーター(山電レオナーRE-3305S)にて測定した。プロテアーゼ活性は、カゼイン消去法を用いた。官能評価は、20歳代の男女18名(若者群)および50-70歳代の男女22名(高齢者群)をパネルとして行った。 【結果】A液と比較して、B液で処理したところ、破断応力には有意差は見られなかった。また、カゼイン分解活性は、B液とC液では変化がなかったことから食塩によるカゼイン分解活性の阻害効果はないと考えられる。官能検査ではB液、C液で処理した肉は、A液で処理した肉と比較して、苦み、口中残留感が有意によかった。特にC液で処理した肉は、軟らかさを保ちつつ、風味を改善することができた。C液で処理した肉を用いた料理を作成し、若者群および高齢者群に対して官能検査を行ったところ、通常の肉を用いた場合と比べ、どちらのパネルでもやわらかく、噛み切りやすく、飲みやすいと評価された。総合評価においては、高齢者群ではC液で処理した肉の評価が高かったが、若者群では差がなかった。
著者
山下 満智子 松原 秀樹 中島 貴志 上田 奈穂 山本 一恵 大槻 馨 梅岡 俊二 正田 一貴 宮藤 章 市川 恵 鵜飼 智代 村上 恵 真部 真里子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成21年度日本調理科学会大会
巻号頁・発行日
pp.2118, 2009 (Released:2009-08-28)

【目的】 加熱調理機器(IHクッキングヒーター[IH]・ガスコンロ[ガス])による調理特性の相異を究明する目的で、本研究では鍋物調理に着目し、加熱調理機器の違いによる土鍋の昇温特性について検討した。 【方法】 IH・ガス兼用土鍋[兼用土鍋]に、鍋肌測定用として鍋胴部の鍋肌最高温到達部(鍋底よりIH 39mm、ガス49mm)にシート熱電対、水温測定用として鍋中央部で鍋底より17.5mmにシース熱電対をあらかじめ設置した。IHは、定格出力が得られるように電圧はコンセント電圧のまま(強使用時 99.5~100.6V)、ガスはガス圧をガスガバナで3段階に調圧(強使用時 0.78kPa、1.44kPa、2kPa)した。1400ccの水道水を入れ、IHならびにガスを用いて加熱し水温と鍋肌温度を連続的に20分間計測した。同条件で、加熱開始15分後の土鍋の状態(水温100℃に到達)を赤外線サーモグラフィ装置で撮影した。 【結果】 IHとガスの加熱開始20分後の鍋肌温度は、それぞれ84℃、125℃(ガス圧0.78kPa)、 156℃(ガス圧1.44kPa)、170℃(ガス圧2kPa)となり、IHとほぼ同じ時間で水が100℃に昇温したガス圧0.78kPaでも、ガスはIHより41℃高くなった。サーモグラフィ画像からも、IHでは鍋肌温度が上昇せず、加熱中鍋肌が水温を超えないことが確認できた。別種の兼用土鍋でも同様の傾向であった。また、ガス専用土鍋を用いて、ガス圧1kPa(ガス専用土鍋中の水温上昇が兼用土鍋とほぼ同様になる条件)にて実験したところ、兼用土鍋と比べ鍋肌温度上昇が抑えられたが、常に水温より高く加熱開始20分後115℃に到達した。このような昇温特性の相違が鍋物調理のおいしさに及ぼす影響は今後の検討課題である。
著者
杉山 寿美 水尾 和雅 今岡 麻奈美 都留 理恵子 水馬 義輝
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成21年度日本調理科学会大会
巻号頁・発行日
pp.1080, 2009 (Released:2009-08-28)

【緒言】近年,電磁調理器(IH)による調理が増加している。これまでに,IH加熱が鍋底からの加熱のみであるのに対してガス加熱では鍋側面からも加熱されること,入熱量が同じ場合にはIH加熱の対流速度が速いことが示されている。このことはガス加熱とIH加熱で料理の仕上がりが異なることを推察させる。本研究ではぶり大根をモデルとして煮熟調理時の影響を検討した。【方法】大根は中央部を2cmの輪切りにし,NaClの浸透量・破断強度の測定用にはその中央から1辺が2cmの立方体を,官能検査用には半月切りを調製した。加熱機器はIH加熱はリンナイ製RHS71WG7V,ガス加熱はナショナル製KZ-VSW33Dを用いた。ステンレス製鍋を用いて,ぶりの煮汁中で10-40分加熱した。加熱条件はIH加熱時と鍋への入熱量が同じになるようガス加熱(ガス量を調節)したもの,あるいは,IH加熱と煮汁のゆれ具合が同じになるようガス加熱したものとし,それぞれ強火,中火で加熱開始した。官能検査は訓練された管理栄養士課程の大学生をパネルとし,20分加熱した大根を試料とした。【結果】強火で入熱量が同じ場合はIH加熱で,中火で煮汁のゆれ具合が同じ場合はガス加熱で,NaClの浸透量が多く破断強度が低く,破断強度の低さとNaClの浸透量が関係していることが示唆された。一方,官能検査の結果、強火で入熱量が同じ場合にIH加熱が「軟らかい・味の浸み込みがよい」と判断されなかった。また,鍋内の加熱では内部より表面部で破断強度が低くビーカー内加熱とは異なっていた。これらのことから,対流速度の破断強度への影響が示唆され,IH加熱とガス加熱で料理の仕上がりが異なることが示された。