著者
根本 達
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第44回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.10, 2010 (Released:2010-12-20)

インドのマハラシュトラ州ナーグプール市では、仏教徒たちによる「不可触民」解放運動が行われている。この運動を始めたのは、「不可触民の父」と呼ばれるアンベードカル(1891-1956)であり、1956年、30万人以上とされる「不可触民」とともに、ヒンドゥー教から仏教へ集団改宗した。仏教徒たちは、アンベードカルの死後も解放運動に取り組み、1968年以降は、日本人仏教僧である佐々井秀嶺(1935-)が指導者として活動している。
著者
根本 達
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.78, no.3, pp.345-366, 2013-12-31 (Released:2017-04-03)
被引用文献数
1

本論では後期近代の特徴が見られるインドの中間集団として、宗教社会運動の中で再創出されてきたナーグプル市の仏教徒(「不可触民」)集団を取り上げ、ヒンドゥー教から仏教への改宗運動に取り組む仏教徒活動家と、宗教を分断する活動家の働きかけを受けつつも宗教間の境界に立ち続ける「半仏教徒・半ヒンドゥー教徒」の視点に着目する。仏教徒たちは指導者アンベードカルの教えを基盤とする仏教徒共同体を創出している一方、生活世界から立ち上がる「親族」関係の網の目の中にもそれぞれの居場所を持っている。前者は「国民的同一性」の論理に依拠する閉鎖的で排他的な共同体であり、国際社会を宗教によって切断・分類するものである。そこでは「エンジニア」のやり方を基礎とする「分ける者」の連帯が構築されている。後者は「関係性による同一性」の論理に依拠し、水平的に拡張する対面関係の網の目であり、それぞれが家族的な愛情によって繋がっている。現在のナーグプル市では仏教への改宗運動における取り組みを通じて、排他的共同体と対面関係の網の目が対立しており、「過激派」を含め、仏教徒たちは「差別に抗する団結か、家族的な愛情か」という二者択一の問いの前でジレンマに直面している。このような中、「半仏教徒・半ヒンドゥー教徒」と呼ばれる仏教徒青年たちは抗議デモと日常的な喧嘩の間に類似性を見出し、排他的共同体と対面関係の網の目を繋ぎ合わせ、「団結か、愛情か」という二者択一のジレンマを乗り越えている。そこでは「ブリコルール」のやり方を基礎とする「繋ぐ者」の連帯が構築されている。不確実性を特徴とする後期近代において、「分ける者」の連帯の形成が排他的共同体間の対立に繋がるものである一方、「繋ぐ者」の連帯には別々の共同体に属する自己と他者が別の経路を通じて同一の連帯に参加する可能性が常に残されており、自己と他者の交渉の場が開いたままになっている。
著者
野々垣 進 升本 眞二 根本 達也 中澤 努 中山 俊雄
出版者
日本情報地質学会
雑誌
情報地質 (ISSN:0388502X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.3-10, 2020-03-25 (Released:2020-03-25)
参考文献数
15
被引用文献数
1

近年,公共工事の際に作成された大量のボーリングデータが,機械判読可能なデータ形式で,国や自治体のウェブサイトを通して利用できるようになっている.本研究の目的は,地質学的解析におけるボーリングデータの有効利用を促進するために,岩相分布等をよく表現できるボクセルモデルを簡便に作成する手法を開発することである.本稿では,ボーリングデータに記録された岩相情報と,ボーリングデータの位置情報を基に得られるボロノイ図とを利用して,大量のボーリングデータから客観性の高い岩相ボクセルモデルを簡便に作成する手法を提案した.また,本手法の有効性を評価するために,東京都世田谷地域における約3,100本のボーリングデータを利用して,8種類の岩相から構成されるボクセルモデルを作成するとともに,その鳥瞰図および水平・鉛直断面図を作成した.その結果,本手法による岩相ボクセルモデルでは,対象地域の3次元的な岩相分布を概観できることを確認した.本手法は,3 次元地質モデリングにおけるボーリングデータの地層の対比処理の効率化に役立つと期待できる.
著者
根本 達
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学
巻号頁・発行日
vol.81, no.2, pp.199-216, 2016

<p> 本論は1956年の集団改宗と指導者アンベードカルの死去から60年が経過したポスト・アンベードカルの時代を生きるインドのナーグプル市の活動家、「半仏教徒・半ヒンドゥー教徒」、「改宗キリスト教徒」、仏教僧佐々井を研究対象とする。ここではポスト・アンベードカルの時代の反差別運動を 1 アンベードカルの思想や実践を引き継いでいる、2 アンベードカルの運動からズレながら展開し ている、3 まだ明確な名前で表現されていない、という三つの特徴を持つものと定義する。</p> <p> 現在の仏教徒による反差別運動の一つはアンベードカルの教えに従って仏教を「自由、平等、博愛」の宗教と定義付け、この仏教をインドに復興することで公正な社会の実現を目指すものである。これを通じて活動家は「平等と科学の仏教徒」としての自己尊厳を獲得し「アンベードカライト」になる。一方「半仏教徒・半ヒンドゥー教徒」は神の力を受け取る儀礼を戦術的に創出し、この力を病気や貧困に苦しむ近隣の人々に平等に分け与える。これはアンベードカルの教えでは「迷信」とされるが、活動家も神の力を認める既存の論理を完全に破棄できているわけではない。</p> <p> 複数の仏教徒組織が超自然的な力を求めてキリスト教に改宗する人々を仏教へ再改宗させる取り組みを行っている。これらの活動家は病気や貧困に苦しむキリスト教徒の声に耳を傾けず「改宗キリスト教徒」という被差別者の中の被差別者を創出している。このような中、佐々井は反差別運動を率いると同時に他宗教の信者を含む困難を抱える他者の声を聴き、この運動の論理が否定する祝福を授ける。佐々井の矛盾する実践により祝福を否定する活動家と肯定する仏教徒が同じ場所に集まり、同一の目標のもとで抗議デモに取り組むことになる。この実践を佐々井は「差別即平等、平等即差別」と表現する。これはまだ明確な名前を持たないポスト・アンベードカルの反差別運動に一つの名前を与えている。</p>
著者
関根 康正 鈴木 晋介 根本 達 志賀 浄邦
出版者
神奈川大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

関根は、2018年8月~9月に英国現地調査を実施した。移民3世が登場する1990年代以降、インド系移民社会内部に新たに現象してきた「不可触民」差別に対する解放運動の実態について関係組織を訪問しインタビューを行った。また、ロンドン大学SOAS図書館で関係資料収集を行った。2019年1月の研究会でその成果を「英国・ロンドンでのインド系移民のアンベードカラトの反差別運動について」と題して報告をした。根本は2018年8月~9月および2019年2月~3月、インドのナーグプルで計4週間のフィールドワークを行なった。特に仏教僧佐々井秀嶺が現地に保管する不可触民解放運動史料の確認・整理に取り組みつつ、佐々井と仏教徒による創発的な宗教実践と当事者性の拡張について調査を実施した。これに加え、ナーグプルおよび近隣農村におけるダリト(元不可触民)活動家男性と上位カースト女性の異カースト間結婚の調査にも取り組んだ。鈴木は2019年2月にスリランカでのフィールドワークを行った。シンハラ仏教僧や在スリランカ・インド僧(Mahamevnawa僧院)への追加インタビューを通じて、南アジア上座部仏教圏におけるアンベードカライト的言説の評価の輻輳性の考察に資する言説データを蓄積するとともに、巡礼を中心としたインド、スリランカ両国仏教徒のトランスナショナル・ネットワークの実態に関する一次資料の収集に取り組んだ。志賀は文献研究として、アンベードカルによる『ブッダとそのダンマ』の第3部と『改宗(ヒンドゥー教からの離脱)』のテキスト分析と内容の比較を行った。定例の研究会においては、仏教徒のアイデンティティの二重性、改宗が持つ意味、仏教徒の行為主体性等について考察し報告した。また2019年3月にインド・ナーグプルを訪問し、トランスナショナルな仏教者ネットワークや仏教徒の行為主体性などについて現地調査を行った。
著者
根本 達
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.78, no.3, pp.345-366, 2013

本論では後期近代の特徴が見られるインドの中間集団として、宗教社会運動の中で再創出されてきたナーグプル市の仏教徒(「不可触民」)集団を取り上げ、ヒンドゥー教から仏教への改宗運動に取り組む仏教徒活動家と、宗教を分断する活動家の働きかけを受けつつも宗教間の境界に立ち続ける「半仏教徒・半ヒンドゥー教徒」の視点に着目する。仏教徒たちは指導者アンベードカルの教えを基盤とする仏教徒共同体を創出している一方、生活世界から立ち上がる「親族」関係の網の目の中にもそれぞれの居場所を持っている。前者は「国民的同一性」の論理に依拠する閉鎖的で排他的な共同体であり、国際社会を宗教によって切断・分類するものである。そこでは「エンジニア」のやり方を基礎とする「分ける者」の連帯が構築されている。後者は「関係性による同一性」の論理に依拠し、水平的に拡張する対面関係の網の目であり、それぞれが家族的な愛情によって繋がっている。現在のナーグプル市では仏教への改宗運動における取り組みを通じて、排他的共同体と対面関係の網の目が対立しており、「過激派」を含め、仏教徒たちは「差別に抗する団結か、家族的な愛情か」という二者択一の問いの前でジレンマに直面している。このような中、「半仏教徒・半ヒンドゥー教徒」と呼ばれる仏教徒青年たちは抗議デモと日常的な喧嘩の間に類似性を見出し、排他的共同体と対面関係の網の目を繋ぎ合わせ、「団結か、愛情か」という二者択一のジレンマを乗り越えている。そこでは「ブリコルール」のやり方を基礎とする「繋ぐ者」の連帯が構築されている。不確実性を特徴とする後期近代において、「分ける者」の連帯の形成が排他的共同体間の対立に繋がるものである一方、「繋ぐ者」の連帯には別々の共同体に属する自己と他者が別の経路を通じて同一の連帯に参加する可能性が常に残されており、自己と他者の交渉の場が開いたままになっている。
著者
関根 康正 野村 雅一 小田 亮 鈴木 晋介 和崎 春日 近森 高明 北山 修 南 博文 Teasley Sarah Salzbrunn Monika 阿部 年晴 Gill Thomas 朝日 由実子 村松 彰子 西垣 有 内藤 順子 Subbiah Shanmugampillai 根本 達
出版者
関西学院大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

現代のネオリベラリズムに抗してストリート人類学を確立することが本研究の目的である。そのためにストリート・ウィズダムとローカリティの生成の実態把握を行った。研究成果のキーポイントは、中心からの徹底した一元化としての「ネオリベ的ストリート化」が作り出す敷居(ストリートエッジやローカルエッジ)での創発行動の解明にあり、そこでは「自己が他者化」するという動的過程が必ず見いだされ、それを「根源的ストリート化」と概念化した。エッジを不安定とともに生きている人々は現代人の生の本質を映す鏡である。その状況は「人が生きるとは何か」という哲学的究極の問いを現実的に問う。その探求にストリート人類学の存在意義がある。