著者
江原 由美子
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.54-69, 1981-12-31 (Released:2009-10-19)
参考文献数
55

シユッツのレリヴァンス概念は、彼の理論において重要な位置を与えられている。だがその理解は非常に困難である。おそらくその一因は、彼が文脈によって意味を変えて使用していることにあると思われる。この観点から本稿では第一にレリヴアンス概念の多様な文脈を整理する。次に、従来のシユッツのレリヴァンス概念についての解釈を手がかりに、レリヴァンスの意味が、 (1) 個人が選択された側面に帰属する属性、 (2) 個人の選択機能、又は選択する作用、 (3) 類型や知識の関連性という相異なる三様に解釈できることを示す。さらにレリヴァンス (体糸) の共有という論点においても、シユッツの記述に矛盾が見出せることを示す。次にレリヴァンスの問題とは何かを考察し、それが、自然的態度においてはけっして問われない、常識的思考そのものを成りたたしめている諸前提を明らかにするという問題であったことを把握する。しかしシユッツがそれを論じる視点は一様ではなく、 (1) 現象学的反省の視点、 (2) 観察者の視点という相異なる視点から考察していたのだと考えられる。ここから先に述べたレリヴァンス概念の三様の解釈の意義を明らかにする。すなわち、彼は、 (1) 日常生活者の視点、 (2) 現象学的反省の視点、 (3) 観察者の視点という三視点のそれぞれに応じてレリヴァンス概念を別の意味で使用したという仮説を呈示する。以上の考察に基づき、レリヴァンス問題の特異性を論じた上で、レリヴァンス論の継承方向を検討する。
著者
江原 由美子
出版者
関東社会学会
雑誌
年報社会学論集 (ISSN:09194363)
巻号頁・発行日
vol.2007, no.20, pp.13-24, 2007
被引用文献数
2

The subject of this paper is to consider the influence of Gender Free Bashing (GFB) on present-day Japanese society. GFB means that there are certain political groups which oppose a gender-equal policy in Japan. Those who advocate GFB think that people who use words such as ‘gender’ or ‘gender-free’ are extremists who deny the existence of natural sex difference and family. Past researches has shown that GFB had influenced many young men who had supported nationalistic view. In this paper, I try to show the influence of GFB from the viewpoint of various people in connection with GFB. And I also try to show that the main aim of GFB is to achieve a invisible change in gender-equal policy through a supply of voluntary alignment of a member of administrative occupation.
著者
江原 由美子 左古 輝人 鶴田 幸恵 林原 玲洋 須永 将史
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

学問の世界において生み出された概念である「ジェンダー」は,広く一般に使われる言葉として普及した.だが,その使用が政治的に批判されるようになると,「科学・社会・政治」が交錯し,相互に影響を与える状況が生じた.このような状況は,どのようなコミュニケーション齟齬を生み出したのだろうか.学問の世界における「ジェンダー」概念は,もともとかなり限定された文脈において創案されたものであるが,その文脈から切り離されることで,かえって広範な応用可能性を持つことになった.だが,その一方で,学問的であるか否かにかかわらず,「ジェンダー」概念の使用が批判されるという,複雑な政治的状況を招くことにもなったのである.
著者
江原 由美子
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.51-66,111, 1979-06-30 (Released:2009-11-11)
被引用文献数
1

多元的リアリティ論は、A. Schutz以来社会学における重要な一課題となっている。だが、これまでの多元的リアリティ論においては、各リアリティ間の構造的連関や動態が論じられることは比較的少なかったように思われる。本稿では、リアリティの多元性を生むと思われる要因を三つ挙げ、その内の一つの意識状態の多様性に基く多元的リアリティの動態論を導く事を課題とする。三要因を分節したのは、これまでの多くの議論ではリアリティの多元性に関する異なった観点を同時に取り挙げてモデル構成していたので、各リアリティを系統的に抽出し得なかったのではないかと考えるからである。そして、この各リアリティを構成する為に、人間の精神発達過程 (特にピアジェとエリクソンの発達心理学) に着眼し、その発達段階から各リアリティを導く事を試みる。このようにして構成された各リアリティ間には、二つの軸による構造的連関が指摘できる。この連関に基き、動態的な多元的リアリティの一モデルを提出したい。
著者
江原 由美子 樫村 志郎 西阪 仰 藤村 正之 山崎 敬一 山田 富秋 椎野 信雄 坂本 佳鶴恵
出版者
東京都立大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1990

初年度においては文献研究と研究計画の決定のための研究活動をおこない、第二年度においてはその研究計画に基き調査を実施した。最終年度においては、それらをもとに、研究成果を論文化することを主要な課題とし、研究報告書の作成に着手した。本研究の性格上、収集したデータの分析は、今後も継続して行われると思われるが、報告書作成段階において得られた知見を以下に挙げる。第一に、対面的相互行存状況においては、状況内にある参与者の身体(視線、顔、身体の向き、参与者相互の身体配置等)が相互行存進行の上で非常に重要な意味をもっていること。第二に、特定の制度的文脈においては、特定の相互行存的特徴がみられること.第三に、特定の制度的文脈において発生する会話トピックには、一定の範域があり、その範域をコントロールしようとする参与者の実践がみられること。第四に、それらの特定の制度的な文脈における相互行存の特徴は、相互行存参与者の、「協働的達成」として成立していること。これらの知見は、社会秩序それじたいが、行存者の「協働的達成」として成立していることを明らかにしている。社会秩序の「協働的達成」のための身体技術に関しては、その一部を報告書において明らかにしたが、今後さらに詳細な研究が必要である。