- 著者
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源 昌久
- 出版者
- The Association of Japanese Geographers
- 雑誌
- Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
- 巻号頁・発行日
- vol.58, no.2, pp.195-207, 1985-12-01 (Released:2008-12-25)
- 参考文献数
- 22
- 被引用文献数
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明治・大正期の啓蒙思想家であり,地理学者であった志賀重昂(1863~1927)の著作,『地理學講義』(訂正5版,1892)中で紹介されている,ある英国地理学者および彼の著書を書誌学的アプローチを通じて確定することを筆者は初めに試みた.その結果,その人物は,今日の英国の地理学史研究においても忘れさられてしまった地理学者J. M. D. MEIKLEJOHN (1830~1902)であり,その著書は,A new geography on the comparative method with maps and diagrams (1889) であることが判明した.志賀は, MEIKLEJOHNの著作に活用されている比較法に注目し,これを日本の地理事象へ適用している.また,山上萬次郎(1868~1946)・濱田俊三郎(1870?~1946?)は,『新撰萬國地理』(1893)を著述したが,その内容はA new geography…の地誌の部分の翻訳であった.『新撰萬國地理』は,中等学校用参考書として十数版を重ね多数の読者を得た.山上・濱田の二人は,MEIKLEJOHNの比較法を応用して『新撰日本地理』(1893)を刊行し,本書も多数の人々に読まれた.さらに,牧口常三郎(1871~1944)は,『人生地理學』(1903)の中でA new geography…を著述の際に利用した参考文献として記載している. このように日本人地理学者たちの著作を通じて,わが国にアカデミック地理学が確立する以前に,A new geography…が流布していく過程を分析した.