著者
藤實 久美子
出版者
九州大学基幹教育院
雑誌
鷹・鷹場・環境研究 (ISSN:24328502)
巻号頁・発行日
no.3, pp.1-24, 2019-03-22

河鍋洞郁(暁斎)『絵本鷹かゝみ』はその筆勢の美しさから人びとを魅了してきた。本論文の目的は、この板本『絵本鷹かゝみ』を史料学の立場から分析することにある。本論文ではまず暁斎の生涯を追う。ここでは幕臣の家および狩野派「御絵師」集団のなかの暁斎の位置に留意して述べる。つぎに『絵本鷹かゝみ』諸本の書誌を比較する。その結果、現在、広く利用される河鍋暁斎記念美術館発行の影印本と、早稲田大学図書館所蔵本は類似しており、ともに金花堂中村佐助版の後印本であるD 対して国立国会図書館所蔵本・もりおか歴史文化館所蔵本は初印本(明治12年6月出版)であるとの結論を導く。第3に、「文久或年壬戊三月十六日改之」と墨書がある校合摺「鷹鏡」(早稲田大学図書館所蔵)を紹介し、この時期に『絵本鷹かゝみ』初編の出版準備が進められていたことを明らかにする。第4に、板元である金花堂須原屋(中村)佐助に関する情報を整理する。第5に、江戸時代の出版手続きを確認して、そのなかでの校合摺の位置づけを行う。第6に、幕末の書籍統制と『絵本鷹かゝみ』出版の関係を素描する。最後に、明治中後期に松山堂藤井利八から出版された求板の後印本(スミソニアン協会フリーア美術館所蔵)を紹介する。
著者
藤實 久美子
出版者
国文学研究資料館
雑誌
国文学研究資料館紀要 アーカイブズ研究篇 = The Bulletin of The National Institure of Japanese Literature, Archival Studies (ISSN:24363340)
巻号頁・発行日
vol.52, no.17, pp.1-42, 2021-03-29

徳川幕府・藩のアーカイブズ研究は、幕府の寺社奉行所研究などに牽引されて大きく進 展してきた。そのうえで、今後に期待されるのは、奉行所内部の各部局の実務者レベルの アーカイブズ研究ではないか。もっともそこには公文書と「家」で作成・蓄積された文書・ 記録との関係という複雑さが含まれているのだが、本論文では開国後に新設された江戸の 町奉行所の外国掛下役(同心)および詰所を中心に据えて考える。 まず、旧幕引継書類の請求番号808-23「日記」を分析する。所蔵館(国立国会図書館) はこれをひとつの「かたまり」とする。だが組織体にもとづいて分析すると、各国総領事 館・公使館・仮旅宿・接遇所詰(宿寺詰)が作成した詰所日記20冊をその階層構造から「ア イテム(単体)の集合体」として捉えることができる。 詰所日記の分析からは宿寺詰の勤務体制が明らかになる。また詰所日記は記主が日々替 わるという近世社会の日記の1類型の特徴をもつことに加えて、修正の痕跡が多くみられ る。修正の痕跡は勤務状況を反映している。 つぎに請求番号808-26「外国人買物」ほかを分析する。宿寺の機能と外国掛下役の職 務は多岐にわたったが、そのうち外国人への江戸での商品売渡管理制度を明らかにする。 また綴り帳「外国人買物」の内的秩序を推察し、届書の出所を各宿寺・町奉行所に大きく 分類する。基礎データとして外国人への商品売渡販売者などを一覧表にまとめて示す。 The structural analysis of the documents and records prepared and stored by the departments of Edo Machi Bugyo’s offices still requires much elucidation. This paper analyzes the documents and records prepared and stored by minor officials in charge of foreign affairs at magistrate’s offices, examining papers inherited from the Tokugawa shogunate that are now held by the National Diet Library. The National Diet Library views call number 808-23 “Diaries” as a single series, but from the perspective of archival science, we found 20 tsumesho nikki for various countries’ consulates general, legations, provisional inns, and reception venues for Ansei 6 (1859)–Mannen 1 (1860). By analyzing the contents of the tsumesho nikki, this paper considers the documents and records in the manner of restoration, and discusses the nature of the duties of minor officials in charge of foreign affairs at shuku-tera-tsume from the tsumesho nikki’s “sense of noise.” Subsequently, in relation to the nature of “Foreigners’ purchases” (call number 808-26) and other documents, we confirm the obligation to submit a “toritsuketou shinasho, regular custom list” (todokesho, notification) borne by the headman of the town where the seller and seller’s store were located and analyze the contents.
著者
藤實 久美子
出版者
国文学研究資料館
雑誌
国文学研究資料館紀要 アーカイブズ研究篇 = The Bulletin of The National Institure of Japanese Literature, Archival Studies (ISSN:24363340)
巻号頁・発行日
vol.52, no.17, pp.1-42, 2021-03-29

徳川幕府・藩のアーカイブズ研究は、幕府の寺社奉行所研究などに牽引されて大きく進 展してきた。そのうえで、今後に期待されるのは、奉行所内部の各部局の実務者レベルの アーカイブズ研究ではないか。もっともそこには公文書と「家」で作成・蓄積された文書・ 記録との関係という複雑さが含まれているのだが、本論文では開国後に新設された江戸の 町奉行所の外国掛下役(同心)および詰所を中心に据えて考える。 まず、旧幕引継書類の請求番号808-23「日記」を分析する。所蔵館(国立国会図書館) はこれをひとつの「かたまり」とする。だが組織体にもとづいて分析すると、各国総領事 館・公使館・仮旅宿・接遇所詰(宿寺詰)が作成した詰所日記20冊をその階層構造から「ア イテム(単体)の集合体」として捉えることができる。 詰所日記の分析からは宿寺詰の勤務体制が明らかになる。また詰所日記は記主が日々替 わるという近世社会の日記の1類型の特徴をもつことに加えて、修正の痕跡が多くみられ る。修正の痕跡は勤務状況を反映している。 つぎに請求番号808-26「外国人買物」ほかを分析する。宿寺の機能と外国掛下役の職 務は多岐にわたったが、そのうち外国人への江戸での商品売渡管理制度を明らかにする。 また綴り帳「外国人買物」の内的秩序を推察し、届書の出所を各宿寺・町奉行所に大きく 分類する。基礎データとして外国人への商品売渡販売者などを一覧表にまとめて示す。 The structural analysis of the documents and records prepared and stored by the departments of Edo Machi Bugyo's offices still requires much elucidation. This paper analyzes the documents and records prepared and stored by minor officials in charge of foreign affairs at magistrate's offices, examining papers inherited from the Tokugawa shogunate that are now held by the National Diet Library. The National Diet Library views call number 808-23 "Diaries" as a single series, but from the perspective of archival science, we found 20 tsumesho nikki for various countries' consulates general, legations, provisional inns, and reception venues for Ansei 6 (1859)–Mannen 1 (1860). By analyzing the contents of the tsumesho nikki, this paper considers the documents and records in the manner of restoration, and discusses the nature of the duties of minor officials in charge of foreign affairs at shuku-tera-tsume from the tsumesho nikki's "sense of noise." Subsequently, in relation to the nature of "Foreigners' purchases" (call number 808-26) and other documents, we confirm the obligation to submit a "toritsuketou shinasho, regular custom list" (todokesho, notification) borne by the headman of the town where the seller and seller's store were located and analyze the contents.