著者
跡見 順子
出版者
日本宇宙生物科学会
雑誌
Biological Sciences in Space (ISSN:09149201)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.172-180, 2008 (Released:2010-08-06)
参考文献数
5

「進化」においても「発達」においても、ヒトは重力に抗して二足で「自立」し行動するようになる。直立姿勢では、脊椎を重力に対し平行な状態に保つために、脊椎を支持する筋を常時活動させている。「丹田」として意識に上る部位はほぼ立位時の身体重心に相応する。それ故自分の身体の重心をコントロールする技でもある。と同時に四足歩行では下垂しても腹壁で支えられていた内蔵を、立位では骨盤を取り巻く骨盤底筋・腹筋などの筋収縮により下方への落下を防ぐ必要がでてくる。これらの筋に力を籠める、いわゆる「丹田に力を入れる」ことを意識的して習慣にすることは、歩行時の転倒を予防し、長期的には人間の尊厳において最も必要な「排泄の自立」を保証するための最低限の筋肉の維持が可能になる。重力場での二足歩行直立への進化の研究は、高齢社会を生き抜く知恵を私たちにもたらすだろう。
著者
跡見 順子 清水 美穂 秋光 信佳 廣瀬 昇 跡見 友章 長谷川 克也 藤田 恵理 菊池 吉晃 渡邊 敏行 竹森 重 中村 仁彦 井尻 憲一 吉村 浩太郎 高野 渉 神永 拓 江頭 正人
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

1Gという重力への適応を通して地球上で進化してきた人間は、動くことで重力を活用して身体を賦活化し、健康な状態を維持することができる。新しい健康科学イノベーション"重力健康科学"研究では、生命科学、脳科学、理学療法学、機器開発者が連携し、これまで皆無だった"ホメオスタシス範囲の評価系構築"に向けた研究に取り組んだ。いかに自重支持を行いながら運動し転倒しないようにするか?細胞と身体をつなぐ緊張性収縮のダイナミック制御システムを研究することが鍵でありかつ可能であることを、この萌芽的研究が明らかにした。
著者
藤田 恵理 清水 美穂 跡見 友章 長谷部 由紀夫 跡見 順子
出版者
一般社団法人 日本体育学会
雑誌
日本体育学会大会予稿集 第70回(2019) (ISSN:24241946)
巻号頁・発行日
pp.155_3, 2019 (Released:2019-12-20)

身体は細胞と細胞が分泌する細胞外マトリクスからなる。老化や慢性炎症状態にある組織ではコラーゲンなどの細胞外マトリクスが沈着・線維化する。線維化した固い皮膚は身体の移動性を制限し日常の不活動の原因になりうるので、身体運動にとって重要である。卵殻膜は古くから東洋において皮膚治療への民間薬として使用されてきた。そこで我々は、可溶化卵殻膜を女性の皮膚に塗布したところ、腕の弾力性や顔のしわを有意に改善することを見出し、可溶化卵殻膜を塗布したマウス皮膚ではIII型コラーゲンが有意に増加した。さらに、特殊なMPCポリマーに結合した可溶化卵殻膜を付けた培養皿上でヒト皮膚線維芽細胞を培養する実験系を設計し、可溶化卵殻膜環境ではIII型コラーゲンなどの若い乳頭真皮を促進する遺伝子が誘導された。若い皮膚と同様のIII型/I型コラーゲン比(80%:20%)のゲルはI型コラーゲン100%ゲルよりも高い弾性をもたらし、そのゲル上のヒト皮膚線維芽細胞は高いミトコンドリア活性を示した。卵殻膜はIII型コラーゲン等の細胞外マトリクスの発現を誘導し、組織弾性の喪失を減少させることにより、身体活動を改善するために使用することができると考えられる。
著者
跡見 友章 則内 まどか 大場 健太郎 跡見 順子 菊池 吉晃
出版者
日本保健科学学会
雑誌
日本保健科学学会誌 (ISSN:18800211)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.149-160, 2015 (Released:2018-09-07)
参考文献数
47

二足での身体バランス制御の神経機構は,転倒回避など,ヒトの生存戦略において重要である。一方,方法論的制限により,身体バランスが不安定な状態の脳活動に関する研究は少ない。我々は,身体バランスの不安定性に応答する自己特異的な神経機構を検討するために,動作観察および自他比較の手法が有効であると考えた。本研究では,健常男性13 名に対し3 条件のバランス課題(動的不安定,動的安定,静的安定)を実施し,被験者自身と他者による刺激動画を作成し,機能的磁気共鳴画像法により脳活動を計測した。各課題での自他比較による解析の結果,動的不安定条件でのみ側頭頭頂接合部や頭頂島前庭皮質などの前庭関連領域,島皮質や前前頭前野などの情動関連領域に自己に有意な脳活動が認められた。以上より,身体バランス不安定性認知における脳活動においては,明確な自他の差異が存在し,その脳活動は適応などの高次な神経機構と関連することが示唆された。
著者
跡見 順子
出版者
日本スポーツとジェンダー学会
雑誌
スポーツとジェンダー研究 (ISSN:13482157)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.57-77, 2020 (Released:2020-09-30)
参考文献数
55

Although Japan has become a super-aging society and the average life expectancy is increasing, the difference from healthy life expectancy is 3.5 years for women. I suffered from knee osteoarthritis, which is common in women, but now I am serious about physiotherapy, a habit that makes my trunk and joints move properly, and I am able to learn better movements than before. We believe that the practice of treatment for the past two months and the maintenance of the state of health to date are models of measures for a super-aging society. That is the importance of knowledge based on facts such as the cell life science that he has learned, the scientific background that created the difference between animals and humans, the mechanism of acquiring adaptive capacity of cells, and 'exercise is an approach to the body where our cells live' and is a new definition and practice of physical education. The origin of this idea is in the writings of practitioners and researchers of feminism and gender studies, 'Body and Ourselves' and 'The Posthuman'. Physical education requires the creation of a program that can be explained in words in science and that its rationality can be understood even through actual physical experience. For the first time, I believe that learners can use them in daily practice. This paper is the first step in redefining the 'life' that emerged on the earth and the person who lives that life from a gender perspective, and leading to the creation of a new human science fused with humanities.
著者
跡見 順子 清水 美穂 藤田 恵理 跡見 綾 東 芳一 跡見 友章
出版者
一般社団法人 日本体育学会
雑誌
日本体育学会大会予稿集 第70回(2019) (ISSN:24241946)
巻号頁・発行日
pp.155_1, 2019 (Released:2019-12-20)

本発表では、講義と実践を組み合わせた運動生理学的教育プログラムの開発について報告する。地球重力場で進化した動物の仲間であり直立二足歩行を獲得した人の姿勢・身体運動は、他の動物と異なり、すべてを反射で行うことはできない。立位の重心に相応する部位は「丹田」と呼ばれ、武術では体幹コントロールのポイントとする。身体重心のトレーニングは、生理学的には随意運動により体幹の筋群をコントロールすることが可能である。しかし、体幹の深部筋を対象にした研究は方法上難しいので少ない。また体幹・脚・足・の連携制御により軽減される膝や腰等の関節痛予防のための姿勢やバランスの体育教育プログラムはきわめて少ない。本研究では、高校生70名、大学生・大学院生総勢50名を対象に、運動の脳神経系の連携機序や力学応答する細胞の基本特性などについての講義および仰臥位で自分自身の手で腹部を触り、触覚を感知し、自ら行う腹側の筋群・脚・足のエクササイズを毎日実践してもらった。その結果、身体的要素(姿勢、上体起こし回数、ジグザグ歩行回数等)の有意な増加や改善、および意識的要素(目覚め・寝つきのよさ、前向き)の改善がみられた。
著者
跡見 順子 村越 隆之 平工 志穂 三上 章允 桜井 隆史
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

東京大学教養学部では新入生を対象に必修科目のスポーツ・身体運動を行っている。その科目の一つとして、自分自身の身体を用いて運動を行いながら、運動時の身体変化を科学的に理解することを目的とした「スポーツサイエンスコース」を開講している。約30人の受講生を対象として、生命科学を基本とし、自分自身のからだを通して、また実際に運動することを通して、生命と脳を理解するための、以下の4つの教育プログラムの開発を行っている。1)フィールドにおける呼吸数による至適運動強度の推定を行い、運動に苦手意識を持つ学生にも自分自身のからだの機能を理解させる効果が得られた。2)運動後の脳の活性化を測定するためのプログラムを開発した。パソコンを用いた数分で修了する試験により、脳の活性状態を数値化し、比較検討することを可能としている。3)自分自身のからだを、構成単位である細胞から理解するために、ラットの解剖を行っており、現在、映像コンテンツを作成中である。4)自分自身の身体の動きを理解するために、ゆっくりとした動きを制御する太極拳を実習科目に取り入れ、太極拳について科学的な視点を持って身体の理解につなげる研究を行っている。伝統武術太極拳の脳機能への効果を、近赤外分光法(NIRS : Near Infrared Spectroscopy)を用いて検討した結果、太極拳実施中のOxyHbは対照課題実施時と異なる変化を示すことが明らかになった。1-3の内容をまとめたものを、日本体育学会第56回大会にて跡見、桜井が口頭発表、The American Society for Cell Biology, 44^<th> annual meetingにて跡見がポスター発表を行った。4の内容についてまとめたものを、日本体育学会第56回大会にて平工がポスター発表および共同研究として口頭発表を行った。
著者
東 芳一 跡見 順子 清水 美穂 跡見 友章 藤田 恵理 長谷川 克也
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 第31回全国大会(2017)
巻号頁・発行日
pp.4L22, 2017 (Released:2018-07-30)

「身心一体科学」教育プログラムとは、自分自身の「身体性」に着目し、生命科学、脳科学などの科学的知見に基づいた「理解」、実験実習や身体運動による「実践」、結果に対する科学的手法による「評価」をサイクルとして、自身に生じた変化を「言語化」する新しい教育工学的手法である。本研究では、現在大学などで実践しているプログラムとその効果について報告し、科学的思考の醸成における「身体性」の重要性について検討する。
著者
跡見 順子 清水 美穂 跡見 友章 廣瀬 昇 田中 和哉 長谷川 克也
出版者
人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 (ISSN:13479881)
巻号頁・発行日
vol.28, 2014

筆者は、一昨年「細胞・身体の不安定性の二階層と制御要求性から探る「知の身体性」基盤」として発表し、昨年は諏訪正樹とともに「モノゴトの四階層で生の営みをみる」なかで、とくに「「身体」と「細胞」を“自分の生”に照らしてみて、モノゴトの四階層を考える」ことを行った。その際に、諏訪が提起した物理的構成軸としての社会、個体、身体、器官、細胞、分子の等値関係に抱いた異質性について「知の身体性」から再検討を加える。
著者
跡見 順子 長尾 恭光 八田 秀雄 柳原 大 桜井 隆史
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、運動を生み出すための細胞内外の張力伝達構造である細胞骨格及び細胞外基ECMとその分子シャペロン・ストレスタンパク質を中心に、筋・関節、それらの培養細胞を用いて適切・適度な運動の基盤研究を行い、適切適度な運動の評価軸を明らかにした。1)細胞骨格の分子シャペロンαB-クリスタリン(αB)のC末領域:α-crytallin domainが、細胞骨格・チューブリンの熱変性抑制に働く。2)拍動する心筋細胞でGFP-αBは横紋を示し構造タンパク質の動的なケアをしている。3)αBのN末は、MAP-微小管の脱重合抑制効果を示す。4)不活動でコラーゲン特異的分子シャペロンHSP47が減少し、重力負荷で増加する。筋芽細胞でも同じ結果を示す。その応答はきわめて早く新たな重力応答領域が発見される可能性がある。5)2℃の温度の上昇により培養筋細胞の分化促進及び筋の遅筋化の促進がある。6)マイルドなトレッドミル走でラットの膝関節のIII型コラーゲン、ヒアルロン酸合成酵素などECMタンパク質mRNAに変化が観察され細胞環境創成にも適切適度がある。7)座業がちな高齢者ではリン酸化αBはとくに沈殿分画で増加し、ユビキチン化タンパク質が増加、分解が減少している。8)個体レベルでのホメオスタシス維持機構HPA軸末端の副腎で、運動によるグルココルチコイド合成の活動期直前の上昇にはHSP70がシャペロンとして機能することから、細胞・身体の両面での適切適度な運動のマーカーとしてストレスタンパク質が有用である。運動は生命、細胞そのものへの働きかけであることから、とれを理解する教育へ応用するために、東京大学における1年必修授業に「身体運動と生命科学」を導入し、細胞で考えることの重要性、遺伝子との関係性などに関する教育プログラムを作製し導入した。受講者へのアンケート結果から運動の本質的な効果の理解に貢献したことが示された。