- 著者
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長嶋 洋一
- 雑誌
- 研究報告音楽情報科学(MUS) (ISSN:21888752)
- 巻号頁・発行日
- vol.2018-MUS-118, no.11, pp.1-29, 2018-02-13
世界中で開発が進められている自動運転車は安全走行のため多種の搭載センサを外界に向けており,GPS を含むこのセンシング情報を生かして周囲の状況に反応する 「リアルタイム作曲システム」 として,運転の必要がない全ての搭乗者に快適で音楽著作権の不要な BGM をライヴ生成する自動作曲手法が求められている.英国 Forkswagen が 2013 年に発表した "Play the Road" は運転手目線のシステムでありやや目的が異なるが,その音楽スタイルの検討は重要な参考資料となった.ライブ生成の要素を除外するとしても,古今東西の音楽データを収集し深層学習させた AI が良質な音楽を自動生成するためには,教師データとして膨大な音楽嗜好感性ビッグデータを適用すればよいが,いまだに成功例が報告されていない.筆者は 2006 年に IPA 「未踏」 に採択され発表した "FMC3 (Free Music Clip for Creative Common)" において,音楽的ヒューリスティクスを重視した考え方を提案したが,豊田中央研究所に共同研究を依頼され開発した 2016 年版の車載用リアルタイム BGM 生成システムにおいて,この原則を発展させた.自動運転車が生成するセンサ情報と音楽音響的情報との関係を整理した上で,本稿ではこのリアルタイム BGM 生成システムの試作に関して,(1) BGM 進行のための音楽的な基本原理,(2) ループの繰り返しとリズム/ビートのスタイル,(3) センサ/マッピング / 音楽生成のブロック分割,(4) 音楽要素パラメータへの確率統計的な重み付け,(5) 調性とコードとスケールの構成,(6) 試作と実験の模様,などについて詳細に報告する.