著者
藤枝 重治 坂下 雅文 徳永 貴広 岡野 光博 春名 威範 吉川 衛 鴻 信義 浅香 大也 春名 眞一 中山 次久 石戸谷 淳一 佐久間 康徳 平川 勝洋 竹野 幸夫 氷見 徹夫 関 伸彦 飯野 ゆき子 吉田 尚弘 小林 正佳 坂井田 寛 近藤 健二 山岨 達也 三輪 高喜 山田 奏子 河田 了 寺田 哲也 川内 秀之 森倉 一朗 池田 勝久 村田 潤子 池田 浩己 野口 恵美子 玉利 真由美 広田 朝光 意元 義政 高林 哲司 富田 かおり 二之宮 貴裕 森川 太洋 浦島 充佳
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.118, no.6, pp.728-735, 2015-06-20 (Released:2015-07-18)
参考文献数
21
被引用文献数
2 9

これまで本邦における慢性副鼻腔炎は好中球浸潤が主体で, 内視鏡鼻副鼻腔手術とマクロライド少量長期投与にてかなり治療成績が向上してきた. しかし2000年頃からそれらの治療に抵抗性を示し, 易再発性の難治性副鼻腔炎が増加してきた. この副鼻腔炎は, 成人発症で, 嗅覚障害を伴い, 両側に鼻茸があり, 篩骨洞優位の陰影があった. 末梢好酸球も多く, 気管支喘息やアスピリン不耐症の合併もあった. このような副鼻腔炎の粘膜には多数の好酸球浸潤が認められていたため, 好酸球性副鼻腔炎と命名された. 好酸球性副鼻腔炎は, 徐々に増加傾向を示してきたが, 好酸球性副鼻腔炎の概念, 診断基準はあまり明確に普及していかなかった. そこで全国規模の疫学調査と診断ガイドライン作成を目的に多施設共同大規模疫学研究 (Japanese Epidemiological Survey of Refractory Eosinophilic Chronic Rhinosinusitis Study: JESREC Study) を行った. その結果, 両側病変, 鼻茸あり, CT 所見, 血中好酸球比率からなる臨床スコアによる簡便な診断基準を作成した. さらに臨床スコア, アスピリン不耐症, NSAIDs アレルギー, 気管支喘息の合併症, CT 所見, 血中好酸球比率による重症度分類も決定した. 4つに分類した重症度分類は, 術後の鼻茸再発と有意に相関し, 最も易再発性かつ難治性の重症好酸球性副鼻腔炎はおよそ全国に2万人いることが判明した. 治療法については経口コルチコステロイド以外まだ確立されておらず, 早急なる対応が急務と考えている.
著者
田中 大貴 森 恵莉 関根 瑠美 鄭 雅誠 鴻 信義 小島 博己
出版者
耳鼻咽喉科展望会
雑誌
耳鼻咽喉科展望 (ISSN:03869687)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.119-122, 2020-06-15 (Released:2021-06-15)
参考文献数
13

塩化亜鉛液を浸した綿棒で上咽頭を擦過する上咽頭擦過療法 (Epipharyngeal Abrasive Therapy: EAT) は, 組織の収斂・抗炎症作用を利用した上咽頭炎など初期の感冒症状に対して一部の施設にて行われている。 上咽頭擦過療法で稀に嗅覚障害を来すことがあるとされるが, 詳細な報告はない。 国外ではグルコン酸亜鉛液が初期の感冒に効果があるとされ市販されており, このグルコン酸亜鉛液による点鼻治療で嗅覚障害を来したという報告が散見する。 また硫化亜鉛や酸化亜鉛も動物実験で嗅覚障害を起こしたという報告がある。 今回, 塩化亜鉛液が原因と考えられる嗅覚障害の例を経験し, 塩化亜鉛も他の亜鉛化合物と同様に嗅覚障害を呈する可能性が考慮されたため, 文献的考察を加えて報告する。
著者
米澤 和 森 恵莉 鄭 雅誠 関根 瑠美 永井 萌南美 弦本 結香 小島 博己 鴻 信義
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.317-322, 2020-07-25 (Released:2020-07-25)
参考文献数
20

近年,喫煙と嗅覚障害の関連について様々な研究がされており,喫煙が嗅覚を悪化させる原因の一つであるとの報告も多くされている。今回,当院で2009年4月から2016年3月までにT&Tオルファクトメーター(T&T olfactometer; T&T)を用いて基準嗅力検査を行い,1年以上経過が追え,かつ2回以上嗅力検査が施行できた208名の患者を対象に,嗅覚障害の程度と嗅覚の改善度について,喫煙患者と非喫煙患者に分類して比較検討を行ったので報告する。208名のうち,喫煙者と非喫煙者の内訳は,喫煙者が51名,非喫煙者が157名であった。疾患の内訳は,感冒後が32.7%,慢性副鼻腔炎が28.4%,特発性が19.2%,外傷性が11.1%であった。喫煙頻度は,全疾患で24.5%であり,感冒後が17.6%,慢性副鼻腔炎が28.8%,外傷性が30.4%であった。重症度は,喫煙者で高度・脱失群が84.3%であり,有意に低下していた(p < 0.05)。また,感冒後における改善度は,喫煙者で不変・悪化群が66.7%(12名中8名)であり,有意に改善しない患者が多かった(p < 0.05)。嗅覚障害は喫煙により,重症化する可能性が示唆された。さらに,喫煙者において感冒後嗅覚障害の改善が乏しい結果となった。喫煙は嗅覚障害のみならず,人体に様々な影響を与えるため,禁煙指導は積極的に行うことが望ましい。
著者
木村 優里 西谷 友樹雄 新井 佑梨 高津 南美子 山本 裕 鴻 信義 小島 博己
出版者
耳鼻咽喉科展望会
雑誌
耳鼻咽喉科展望 (ISSN:03869687)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.104-108, 2020-06-15 (Released:2021-06-15)
参考文献数
16

側頭筋内膿瘍は頸部膿瘍の中でも文献的報告が少なく, 発症病態の詳細はあまり知られていない。 側頭筋は咀嚼筋に含まれ, 上記疾患の症状として開口障害, 側頭部腫脹を呈する。 炎症は咀嚼筋間隙内の咬筋, 内・外側翼突筋や隣接する間隙にも波及することがあり, その波及形式の相違によっても臨床像は多彩である。 顔面痛を主訴に発症した基礎疾患のない側頭筋内膿瘍を経験した。 本邦での頸部膿瘍形成としては下方への波及が典型的であるが, 今回経験した側頭筋内膿瘍では側頭筋に沿って上方へ波及した膿瘍を形成していた。 CT など画像による病巣評価のみならず, 開口障害, 側頭部腫脹といった身体所見に着目することが本症例の病態把握に重要である。 側頭部穿刺, 経口腔的切開排膿, 抗生剤投与で軽快した1例であった。
著者
浅井 和康 鴻 信義 柳 清 深見 雅也 遠藤 朝彦 森山 寛 伊藤 裕之 大橋 正洋
出版者
耳鼻咽喉科展望会
雑誌
耳鼻咽喉科展望 (ISSN:03869687)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.329-334, 1995-06-15 (Released:2011-08-10)
参考文献数
10

頸髄損傷患者3症例について, 体位変換時および排尿前後での鼻腔通気度の変化を調べた。その結果, 坐位から仰臥位に体位変換することによって鼻腔抵抗値は上昇し, 排尿することによって低下をみた。これは, 頸髄損傷患者に特有の自律神経過反射 (autonomic hyperreflexia) と呼ばれる現象に伴うものと考えられた。すなわち, 膀胱内の尿の充満などによる麻痺域への刺激が交感神経反射を惹起して全身性の血圧上昇を起こす現象であり, これによって非麻痺域すなわち鼻腔の血管拡張を招き鼻閉をきたす。また健常者でも坐位から仰臥位に体位変換することによってわずかに鼻腔抵抗が増大するが, 頸髄損傷患者では顕著にこの現象が現れることも, 外傷に伴う交感神経系の機能障害が関与していることが示唆された。
著者
森山 寛 深見 雅也 柳 清 鴻 信義
出版者
耳鼻咽喉科展望会
雑誌
耳鼻咽喉科展望 (ISSN:03869687)
巻号頁・発行日
vol.37, no.Supplement1, pp.63-65, 1994-08-15 (Released:2011-08-10)
参考文献数
4

中鼻道自然孔ルート付近の非可逆的粘膜病変を伴った慢性副鼻腔炎の治療においては手術的に中鼻道を開大しさらに上顎洞の自然孔の開大が必要となる。というのは上顎洞, 篩骨洞などの副鼻腔内部には正常の状態においてさえ, 自然孔の特有の形態によりエアロゾル薬物粒子は到達し難い。自然孔を手術的に拡大することによりはじめて薬物粒子が洞内の病的粘膜に効果をもたらす。手術的に開放することにより副鼻腔は通気と排泄が改善され, さらに薬物の効果も相まって治癒に至ると考えられる。したがって慢性副鼻腔炎に対するネブライザー治療においては中鼻道の拡大や自然孔の開大さらに洞内における貯留液の吸引除去がまず必要となる。
著者
田中 大貴 森 恵莉 関根 瑠美 鄭 雅誠 鴻 信義 小島 博己
出版者
耳鼻咽喉科展望会
雑誌
耳鼻咽喉科展望 (ISSN:03869687)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.157-162, 2021-06-15 (Released:2022-06-15)
参考文献数
11

本邦では家庭用洗剤として次亜塩素酸塩がよく用いられ, 複数の会社で製品化されている。 使用の際には酸性洗浄液との併用禁忌や換気, マスクや手袋・ゴーグル等の着用の推奨などの使用上の注意が記載されている。 しかし, 防護や換気をしたのにも関わらず健康被害を呈することもあり, その一つに嗅覚障害を呈したというソーシャル・ネットワーキング・サービス (SNS) 上の書き込みが散見されるが, それを詳細に報告した論文はない。 今回, 塩素系洗浄剤の使用後に嗅覚障害を呈した2例を経験した。 次亜塩素酸や代謝産物である有機塩素化合物が嗅裂炎を起こし, 気導性嗅覚障害を呈する可能性や, 繰り返す次亜塩素酸の曝露が嗅上皮の再生能・恒常性の障害や炎症細胞浸潤による神経障害を引き起こして神経性嗅覚障害を呈する可能性がある。 塩素系洗浄剤を使用する際には, 使用上の注意を遵守すること, また嗅覚障害出現時には同洗浄剤の使用を直ちに中止し, 専門の医療機関を受診することが重要と考えた。
著者
宮脇 剛司 大櫛 哲史 浅香 大也 鴻 信義 内田 満
出版者
耳鼻咽喉科展望会
雑誌
耳鼻咽喉科展望 (ISSN:03869687)
巻号頁・発行日
vol.56, no.6, pp.363-371, 2013-12-15 (Released:2014-12-15)
参考文献数
19
被引用文献数
1

Nasal valve (鼻弁) は, 鼻気道と鼻腔抵抗の両者を制御する複雑な構造体である。今回我々は内鼻弁と外鼻弁の両者の狭窄による鼻閉に対し, spreader graft, columella strut, alar batten などの美容外科手技を組み合わせた open septorhinoplasty によって治療した。症例は23歳男性で労作時の鼻閉を主訴に来院した。外鼻は軽度の鞍鼻変形を認めるのみで CT 画像には異常所見を認めなかった。鼻腔通気度検査は座位, 臥位ともに呼気・吸気抵抗の軽度の上昇を認め, 強制吸気時には鼻孔は完全に閉塞した。鼻弁狭窄による鼻閉と診断し, Rethi 切開を鼻孔に延長して open septorhinoplasty を行った。L strut を10mm 幅で温存し septal extension graft を兼ねた4×25mm 大の spreader graft 2枚と columellar strut, 左右の alar batten を行った。術後の鼻腔通気度検査では気道抵抗が平均値以下に改善し, 強制吸気時にも鼻弁の閉塞はない。今回我々は本邦では比較的まれな内鼻弁と外鼻弁の両者の狭窄による鼻閉の治療を経験した。脆弱な軟骨構造に由来する鼻弁狭窄症例に対し, 美容外科手技を応用することで機能的, 整容的な改善が得られた。