- 著者
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田中 靖彦
- 出版者
- Japanese Society of National Medical Services
- 雑誌
- 医療 (ISSN:00211699)
- 巻号頁・発行日
- vol.58, no.9, pp.491-492, 2004
感覚とは, 外来刺激をそれぞれに対応する受容器によって受けた時, 通常経験する心的現象を言う. その種類としてはいろいろあるが, 視覚, 聴覚, 触覚, 嗅覚, 味覚を五感という. その他に, 平衡覚, 痛覚, 圧覚, 温覚などである. 医学的にいうと, 視覚, 聴覚, 嗅覚, 味覚, 前庭感覚(平衡覚)を特殊感覚という. さらに, 体性感覚としての皮膚感覚, 深部感覚, また, 内臓感覚として, 臓器感覚, 内臓痛覚も含まれる. このように感覚器(受容器)は体中いたるところに分布している.<br>人間の日常生活に, ことにコミュニケーションにはこれら五感が密接に関わっていることから, いろいろな「諺」としても汎用されてきている. 日く「生き馬の目を抜く」「馬の耳に念仏」「隔靴掻痒」「壁に耳あり, 天井に目あり」「二階から目薬」「寝耳に水」「見ざる, 聞かざる, 言わざる」「百聞は一見にしかず」「目と鼻の先」「目は口ほどにものを言い」「目から鱗」「目鼻をつける」「痒いところに手が届く」「痛し痒し」そして少々凝ったものとして「葵に懲りて膳を吹く」など, ちょっと考えただけでもこれぐらいの「諺」, 「言い習わし」をあげることが出来る. 西洋諺にも同じようなものがあることはご承知のとおりであるが, いかに生活に不可欠な機能かを物語っている.<br>これら視覚, 聴覚に代表される感覚機能は, 今日でも日進月歩の発展を続けるIT化(情報化)社会においてひと時も欠くことのできない機能であり, 一層その重要性が増してきている(反面その障害も増加してきているが). また、わが国は世界一の少子長寿社会でもあり, その生活の質(QOL)に大きく貢献するのが「感覚器」であることは, 論を待たない. さらに, この感覚器障害は, 全身疾患の併発症としてしばしば見られることはよく知られているところであるが, 加齢変化として, あるいは生活習慣病, 感染症, 先天異常や難病などに頻繁に見られるものである. これまでは生命保持に医療の主力が注がれてきており, この生活の「質」を確保するための感覚器についての取り組みは取り残されてきた感がある. 早急に国の医療政策の1つとして, 予防から治療, さらにリハビリテーションにわたり, 総括的な対策が講じられなければならない問題である.<br>「感覚器疾患」というくくりで, 国立病院療養所による政策医療ネットワークを形成している. 果たしてこれら全身におよぶ感覚器をどのようにまとめてゆくのがいいのか. 眼科, 耳鼻咽喉科はまず考えられるにしても, 皮膚科, 神経内科, 整形外科, 麻酔科, 脳神経外科, 口腔外科, はてまた精神科, などなど, 見えない, 聞こえない, 喋れない, ばかりでなく, 痛みや痒み, 香り, 臭いのない, 味がしない状況で果たして豊かな天寿をまっとうした, と言えるだろうか, これだけ人間の尊厳が問われる時代に, これら外界との接触の閉ざされた状態は, なんとしてでも開放しなければならない. 医学界のみならず, 最新のテクノロジーを駆使して速急に取り組まなければならない問題である. これはナショナルセンターにしなければとても扱えない範囲におよぶことになる. 近い将来, ナショナルセンターとして発展することを願っている.