- 著者
-
阪井 裕一郎
- 出版者
- 日本社会学会
- 雑誌
- 社会学評論 (ISSN:00215414)
- 巻号頁・発行日
- vol.63, no.1, pp.36-52, 2012-06-30 (Released:2013-11-22)
- 参考文献数
- 53
- 被引用文献数
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本稿は, 戦後家族研究の再検討を通じて, 「家族の民主化」という理念が, 個人化や多様化によって特徴づけられる後期近代においても, なお重要な理念であることを明らかにするものである.本稿ではまず, 戦後すぐに家族研究の課題として掲げられた「家族の民主化」の理念とその限界を再考する. これまで民主化論には数多くの批判がなされ, 近年の家族社会学でこの用語が理念として取り上げられることはなくなった. しかし, 民主化論に対する批判は, その限界が, 民主化の理念そのものにではなく, 「家族の例外化」という前提にあったという重要な問題点を看過してきた. ここでは, 戦後の民主化論が「家族の例外化」に立脚してきたことを問題化したうえで, 「家族の民主化」の実現の可能性をA. ギデンズの「親密性の変容」や「民主的家族」の議論から探究する. ギデンズの議論にもまた多くの批判が寄せられているが, これらの多くはギデンズの意図を正確に把握していない可能性がある. ギデンズの議論は, 近年高まりつつある「家族の脱中心化」の議論へと接続することではじめて有効になると思われる. そして, 「家族の民主化」という理念が「家族の脱中心化」という理念と相補関係にあることを明らかにする.家族関係と民主主義の原理は相容れないとする前提こそが, これまでの家族論の背後仮説であった. しかし, 必要なのは家族と民主主義の関係を真摯に検討することであり, 「家族の民主化」という理念をとして, 家族社会学の中心的課題へと引きもどすことなのである.