- 著者
-
安藤 丈将
- 出版者
- 日本社会学会
- 雑誌
- 社会学評論 (ISSN:00215414)
- 巻号頁・発行日
- vol.65, no.2, pp.239-254, 2014
本稿では, ラ・ビア・カンペシーナ (LVC) を中心とする小農民の運動について考察する. LVCは, 現在のグローバル政治の中で影響力をもつ行為者であるが, いかなるフレームが農民をエンパワーさせ, さまざまな人びとを連帯させているのだろうか.<br>LVCのフレームの特徴は, 第1に, 貧しく, 弱く, 時代遅れと見なされていた小農が, 貧困と排除なき未来を切り開く存在として読み替えられていることにある. このフレームは, 「北」と「南」を横断するかたちでアグリビジネスの支配にあらがう政治的主体を定めることを可能にした.<br>第2に, 小農の争いの中心が文化に置かれていることにある. 「食料主権」というスローガンのもと, 小農が自己の経済的利益だけでなく, 食べ物に関する自己統治を問題にする存在という位置づけを与えられているため, 労働者や消費者も含めた広い支持の獲得が可能になっている.<br>第3に, 小農が知識を分かち合うということである. これは企業による知識の独占とは対極に位置づけられ, 小農は小規模であるがゆえに共存共栄できるという信念を作り出し, 相互の連帯を促進している.<br>最後は, 小農は路上だけでなく, 農場でも抵抗することにある. 少ない資源を有効に利用し, 市場との関わりを限定的にしながら, 自らの労動力を使って生産する. LVCの運動の主体は, この方法を実践している組織された農村の専業農家だけでなく都市の半農を含み, 多様な生産者の層にまで広がっている.