著者
吉田 航
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.314-330, 2020 (Released:2021-09-30)
参考文献数
32

雇用をめぐるジェンダー不平等の生成メカニズムを明らかにする上で,企業側の要因に着目する重要性が指摘されている.先行研究の多くは,企業組織の制度や権力関係に着目し,これらが不平等に与える影響を検討してきた.本稿では,この視点をさらに発展させ,こうした組織的要因の効果が,組織が置かれた環境の変化と連動して,どのように変化しているかを検討した.とくに本稿では企業の経営状況に着目し,組織の制度や権力関係が,企業の経営状況に応じてどのような影響をジェンダー不平等に与えているかについて,国内大企業の新卒採用を対象に分析した. 分析から,組織的要因がジェンダー不平等に与える効果は,必ずしも企業の経営状況から独立に発揮されるわけではなく,一部の組織的要因については,その効果が経営状況によって変化していることが示された.ワークライフバランス改善に向けた企業内施策は,基本的には新卒女性採用比率に影響しないものの,業績が悪いと,施策が充実している企業ほど女性採用比率が低くなる傾向にあった.一方で,女性管理職比率の高さは,新卒女性採用比率を高める効果を持ち,この効果は業績の良し悪しによらず確認された.先行研究で検討されてきた組織の制度・権力関係の効果について,企業の経営状況との関連を検討した本稿は,こうした要因が雇用の不平等に影響するメカニズムの精緻化に貢献するものである.
著者
吉田 航
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
pp.20231001-1, (Released:2023-10-01)
参考文献数
40

本論文は,ダイバーシティ推進を目的とする部署の設置が、企業の女性管理職比率を高めているかを,国内大企業のパネルデータを用いて検証したものである.分析の結果,時代効果を考慮すると,部署の設置が女性管理職比率を平均的に高めているとはいえなかった.一方で,女性役員比率が一定の水準よりも高くなると,部署の設置が女性管理職比率を有意に高める効果が確認された.
著者
吉田 航
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.107, pp.89-109, 2020-11-30 (Released:2022-06-20)
参考文献数
32

高等教育の学校歴が初職に与える影響は,先行研究によってくり返し検討されており,大学選抜度が初職の企業規模に与える効果が一貫して確認されてきた。一方で,学校歴の位置づけを企業側から捉えた研究は少なく,とくにその企業間異質性についてはほとんど検討されていない。そこで本稿では,どのような制度・慣行を持つ大企業で高選抜度大学からの採用が多いのかについて,大学別採用実績データの計量分析を通じて検討した。 学校歴が入社後の訓練可能性を表すシグナルとして捉えられてきたことを踏まえ,採用時に訓練可能性が重視される程度と関連する制度・慣行として,技術職採用制度と長期雇用慣行に着目した。技術職採用を行う企業では,一般的な訓練可能性よりも特定の職務能力が重視されると想定し,上位大学からの採用が少なくなると予想した。一方,平均勤続年数が長い企業では,長期的な企業内訓練(OJT)がより実施される傾向にあると想定し,上位大学からの採用が多くなると予想した。 分析の結果,技術職採用を行う企業では,上位大学からの採用が少なくなる傾向が概ね確認された。さらに,平均勤続年数が長い企業では,上位大学からの採用が一貫して多くなっていた。これらは,学校歴を訓練可能性のシグナルとみなしてきた想定を支持する経験的な知見であると同時に,長期安定雇用が維持されている企業への就職に学校歴が寄与している可能性も示唆している。
著者
吉田 航太
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.83, no.3, pp.385-403, 2018 (Released:2019-05-12)
参考文献数
31
被引用文献数
1

本論文は、インドネシア東ジャワ州スラバヤ市で日本人技術者が開発した廃棄物堆肥化技術の事例を通じて、インフラ/バウンダリーオブジェクトというテクノロジーの二つのモードの差異を明らかにするものである。スーザン・L・スターのインフラストラクチャーの議論はバウンダリーオブジェクト論と連続性があり、前者は後者の発展型とされる。しかし、両者の間には解釈の対象としての象徴と、実践の対象としての道具という断絶が存在しており、インドネシアでの開発事業で 新たに誕生した生ゴミ堆肥化技術の事例の分析からこのことを明らかにする。スハルト政権崩壊後に発生した埋立処分場の反対運動をきっかけに、スラバヤ市は深刻なゴミ問題に悩まされた。これに取り組む開発プロジェクトが開始され、日本人技術者が開発したコンポスト手法がひとつのテクノロジーとして結実するに至った。このテクノロジーはスムーズに開発に成功したが、その後のインフラ化で困難に直面している。この事例から、スター的な協働のネットワークが長期の時間性に耐えなければならないという問題を抱えていること、テクノロジーが確固とした象徴的価値を獲得しなければならないことを議論する。
著者
小西 洋子 木越 隆三 黒田 智 室山 孝 吉田 航志 Konishi Yoko KIGOSHI Ryuzo Kuroda Satoshi MUROYAMA Takashi YOSHIDA Kazushi
出版者
金沢大学大学院人間社会環境研究科
雑誌
人間社会環境研究 = Human and socio-environmental studies (ISSN:24360627)
巻号頁・発行日
no.42, pp.227-243, 2021-09-30

小松称名寺所蔵『烏兎記』は、小松勝光寺十一代住職周好による、明和六年(一七六九)一年分の日記である。特に「小松寺庵騒動」に関する史料として知られている。また、周好が日々伝え聞いた話が書き留められており、小松町周辺のみならず、大聖寺・越前の出来事など、その内容は多岐にわたる。 本史料の従来の翻刻は誤脱もあるため、改めて全文を翻刻し、紹介する。翻刻により、多くの研究者の利用に資したい。本稿は六回目であり、今回をもって完結となる。
著者
吉田 航太
出版者
現代文化人類学会
雑誌
文化人類学研究 (ISSN:1346132X)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.80-105, 2021 (Released:2022-01-29)
参考文献数
38

本論文は、環境汚染や不透明な民営化などの潜在的な問題を抱えつつもそれが表面化せずに機能しているインドネシアの埋立処分場の事例を通じて、インフラの不可視性の様態を探究するものである。これまでのインフラ人類学は不可視で当たり前の存在とされてきたインフラに光を当ててその在り方を明らかにする試みが中心的である一方、いかにしてインフラの不可視性が日常的に維持されているのかという側面は取り上げられてこなかった。不可視性はインフラという地によって図としての別の何かを可能にする効果を持っており、そのため、不可視性が何によって維持されているのか、そして不可視性の効果として何ができるようになっているのかという観点からの分析が求められている。また、こうした不可視性は新自由主義批判を基調とする近年のダーク人類学でも扱われており、両者の議論を接続させることによって「ダークな不可視性」という観点から埋立処分場を理解することが可能となることを提示する。しかし同時に、本事例の埋立処分場はダーク人類学がしばしば描くような単純な権力関係によって非問題化されているのではなく、実際には物理的形状・統計手法・契約書類・賠償金・処理技術といった様々な要素が動員されることで不可視化が成立している。特にインドネシアの「汚職」概念と内実が曖昧な「ガス化」技術のセットによって未来という時間性が導入されていることが(一応の)安定化に寄与していることが指摘できる。埋立処分場の「民営化」とは権力者の腐敗だけでなく廃棄物処理システム全体の改善や将来への先延ばしといった様々な理解が折り畳まれた複雑な状態なのである。結論では、埋立処分場が不可視であることによって住民レベルのゴミの問題化=可視化という別の政治が可能となっており、「不決定」という政治の形式が見られることを論じる。