著者
近藤 哲郎
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.47-60, 1994-06-30 (Released:2010-11-19)
参考文献数
56

フーコー最晩年の『快楽の活用』と『自己への配慮』に基づいてフーコーの経験的分析手法を体系的に理解しようとする関心のもとで, 1970年代中葉以降のフーコーの変貌を方法論レベルで検討する。本稿では, 『知への意志』における権力分析の構想から最晩年の二つの著書に至るフーコーの変貌を, 権力モデルの変更, 分析水準の一元化, 〈倫理〉の設定という三つの側面から捉え.最晩年における基本的なパースペクティブを明らかにする。
著者
河村 裕樹
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.84-99, 2021 (Released:2022-09-30)
参考文献数
19

本稿では,精神医療の一形態である精神科デイケアでのフィールドワークをもとに,エスノメソドロジーの方法論的態度において,その成り立ちを可能にする実践と構造に焦点を当てた. 精神医療に対しては,その収容主義的な治療に批判が向けられ,病床数の削減などの取組みが始まっている.そのような状況に先駆けて,精神科デイケアでは,患者の地域での生活を支える支援が行われている.先行研究において,「円環的時間」という表現で,デイケアでは同じような時間が繰り返されることが指摘されている.そこで本稿では,そのような繰り返しを可能にする仕組みに着目した.その際,特に着目したのが繰り返しかつ頻繁に観察可能な「逸脱」の再利用と,「部活動」と結びついた「褒める」ことである. その結果,患者の「逸脱」を「解決」へと導く方法や,「褒める」ことと結びついた「部活動」の取組みを明らかにした.そして「部活動」という特徴的な取組みが,患者を褒めることを容易にするだけでなく,職員の負担を調整するために組織されていることを見出した.こうした仕組みが,患者がデイケアに「居ること」を可能にしていることを,先行研究との比較を通じて論じた.そしてデイケアに対する「円環的時間」という特徴づけに対して,本稿での知見は,そのようにみえるデイケアであっても,さまざまに組織化され,計算され,考えられた仕組みによって成り立っていることを示していると結論づけた.
著者
有田 伸
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.663-681, 2009-03-31 (Released:2010-04-01)
参考文献数
31
被引用文献数
5 2

本稿は日本・韓国・台湾の各社会において,個人の職業がどのような報酬格差をもたらし,人々の階層的地位をどのように形作っているのかを検討することで,これらの社会の階層構造の輪郭を描き出そうとするものである.本稿では,各社会の労働市場構造の特質やその変動をも視野に入れ,職種や従業上の地位のみならず,企業規模や雇用形態の違いにも着目し,個人の職業に関するこれらの条件が所得と階層帰属意識をどのように規定しているのかを実証的に分析し,それぞれの効果の相対的な重要性を検討する.2005年SSM調査データの分析の結果,個人の職業的条件が所得と階層帰属意識に対して及ぼす影響は,大枠では社会間である程度類似している一方,それらの相対的な重要性はかなり異なっていることが示された.台湾では職種の影響が圧倒的に大きいのに対し,日本においては,また部分的には韓国でも,職種のほかに企業規模と雇用形態(非正規雇用か否か)が無視しえない影響を及ぼしている.日本の男性の場合,階層帰属意識に対する企業規模や雇用形態効果は,本人所得を統制した場合にも認められ,この効果には長期安定雇用や年功的人事慣行による便益の享受機会なども含まれるものと解釈される.このような結果からは,東アジア,特に日本の階層構造や社会的不平等を考察する際には,労働市場や生活保障に関わる制度的条件への着目が特に重要であることが示唆されている.
著者
武笠 俊一
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.291-304, 1990-12-31 (Released:2009-10-19)
参考文献数
8

時間論には、いろいろなアプローチがありうるが、本稿では時間計測の歴史に焦点をあてることによって、その計測技術の飛躍と近代社会の成立との関連を論じてみたい。近代以前の社会において、時計には時刻を知るためのものと時間の量を計るもの、二つのタイプがあった。ところが、ともに時間をはかる器具でありながら、この二つの時計は互換性をほとんど持っていなかった。しかし、近代の初頭において振り子が機械時計の調速部に採用されると、時間計測の精度は飛躍的に向上し、二つの時計は一つに統合されてゆく。「時計の統合」にいたってはじめて時間計測の普遍性が確立される。それは、近代科学、工業技術の発達の基礎となったばかりでなく、近代人の時間意識を作りかえ、複雑きわまりない近代的社会システムの形成を可能にしたのである.
著者
室井 研二
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.18-31, 1997-06-30 (Released:2009-10-13)
参考文献数
28

従来, 理論と実践は対立概念として想定されてきたといえるが, 今日では実践それ自体が理論的な主題とされる場合も多い。本稿では「実践」の理論的含意を主にA.ギデンズの学説に即して考察する。最初に, 意味学派的用法の「実践」が, マルクス主義的用法とは異なったやり方で, 近代認識論に対する方法論的な対抗を意図した概念であることを指摘し, その内容をやや敷衍して解説する。ギデンズの「実践」もそのような意味学派の知見に依拠し, 社会研究の方法論的再考を志向するものであるが, 同時にそれ自体が日常的な人間行為のモデルとしての側面も備えている。それ故, 次に, そのモデルの内実について検討する。主眼とされるのは意識的な対象化に先行するいわば社会内属的な次元での「理解」の様態や準拠基盤であるが, その大要を主に時間と空間といった観点に引きつけて整理した。最後に, 人間行為に対するそのような着眼の背後には, 社会的現状認識や望むべき社会構築のあり方に関するギデンズ独自の価値観が投影されており, 近代批判としての視角が意図されていることを指摘する。他の批判理論との比較を通して, その特徴と可能性について検討した。
著者
高橋 由典
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.830-846, 2006-03-31 (Released:2009-10-19)
参考文献数
14

体験選択とは, 行為選択の第三の規準 (感情性の規準) を適切に表現するため筆者によって案出された概念だが, これまでのところ, 体験選択の種差をめぐる議論は十分になされてはいない.この稿では, 体験選択一般についての議論から歩を進め, 開いた社会性と結びつく体験選択を取り上げることにする.開いた社会 (société ouverte) とはいうまでもなく, ベルクソンに由来する概念である.開いた社会性につながる体験選択は, その後の行為選択へ甚大な影響を与える.それゆえこの種の体験選択について考察を進めることは, 行為選択の第三の規準を考える上できわめて有意義であるにちがいない.最初に具体例およびベルクソンのテキストに依拠しながら, 開いた社会性それ自体の意味が検討され, それが動性に関係する概念であることが明らかにされる.ついでこの意味での社会性と体験選択のつながりについての言及がなされ, 開いた社会性と結びつく体験選択の位置が明確にされる.開いた社会性はどのような行為選択を結果するのだろうか.行為論的な観点からは, この問いは大きな意味をもつ.そこで多元的現実論などを参照しつつ, 動的な意思決定の可能性が示唆されるに至る.最後に開いた社会概念の応用の先例としてコミュニタス概念が取り上げられ, この稿の方法論的な意義が確認される.
著者
長谷川 公一
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.436-450, 2000-03-31 (Released:2009-10-19)
参考文献数
31
被引用文献数
2 1

社会学は成立以来, 近代市民社会の秩序原理の焦点として, 「共同性」と「公共性」を論じてきた.しかしこれまで日本の社会学において, 公共性をめぐる社会学的考察が十分に展開されてきたとはいいがたい.公共性をめぐって論じられるべきは, 第 1 に, パブリックの概念の現代的変容という位相である.概念の多義化, 「私的領域」との相互浸透, グローバル化にともなう空間的拡大, 「自然の権利」を含むパブリックな空間の構成諸主体の拡大が著しい.第 2 は, 市民社会の統合原理としての公共性の位相である.先進社会にほぼ共通に, 過度の個人主義が個人主義そのものの存立基盤を掘り崩しかねないというベラーらの指摘する危機的状況がある.今日, 公共哲学の復権がもとめられるのはこの文脈においてである.第 3 は, ハーバマス以来の「公共圏」, 公衆としての市民による公論形成, 社会的合意形成をめぐる位相である.肥大化した国家とマスメディアのもとで, 公共圏の再生もまた世界的課題である.第 4 は, 公共政策にかかわる政策的公準としての公共性の位相である.規範的公共性と, 権力的な公共性との分裂・乖離という事態のもとで, 大規模「公共事業」をめぐる長期の紛争と環境破壊が繰り返されてきた. 第5 は, 市場でも政府でもない「市民セクター」が担う公共性をめぐる位相である.ボランタリーな市民活動と政府および営利セクターとのコラボレーションが現代的焦点である.
著者
コン アラン
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.2-18, 2021 (Released:2022-06-30)
参考文献数
32

本研究は,世代間所得移動が階層帰属意識に対してもつ影響を1955年から2015年までのSSM調査(社会階層と社会移動全国調査)データを用いて,時系列的に検証したものである.世代間所得移動の測定には,父親の所得を推定する方法を用いた.検証にあたり,本研究では,①現在の階層的地位のみが階層帰属意識を決定するという「絶対地位仮説」,②上昇(下降)移動は相対的満足感(剝奪感)を与え,階層帰属意識を高める(低める)という「相対地位仮説」,③上昇(下降)移動しても,過去の低い(高い)階層的地位の影響が残るため,階層帰属意識を低める(高める)という「慣性仮説」の3つの仮説を提示し,データを用いて検討した.分析の結果,1975年においては世代間所得移動は階層帰属意識に対して正の影響力をもつが,1985年になるとその影響力を失い,2015年,再び統計的に有意な負の影響力をもつことがわかった.この結果,1975年においては「相対地位仮説」,1985年から2005年においては「絶対地位仮説」,2015年においては「慣性仮説」と合致する結果となった.本研究により,世代間所得移動は階層帰属意識に影響しており,その影響力と方向は時代により変化していることが明らかとなった.

1 0 0 0 OA 入信の社会学

著者
伊藤 雅之
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.158-176, 1997-09-30 (Released:2009-10-19)
参考文献数
37
被引用文献数
1

本稿の目的は, 新宗教に参加する個人に焦点をあてた社会学的諸研究を批判的に概観しながら, 入信プロセスの包括的な理解にむけての有効なアプローチを究明することである。筆者は, 社会的に規定されながらも意味探求をする存在としての信者像を前提とした上で, 多元的な諸要因を包括する入信モデルを構築する基礎固めを目指す。具体的には, 約30年前に提案された古典的入信モデルの再評価と批判的修正を行いながら, 今後入信研究を発達させていくための理論枠を確立し, また実証研究をする際の鳥瞰図を提示することを試みたい。本稿ではまず (1) 社会学的な入信研究の対象および入信に影響を与える諸要因を概観し, 次に, (2) 入信の主体である個人の捉え方をめぐる2つのアプローチ (社会・心理決定論と能動的行為者論) を批判的に検討する。以上の議論をふまえて, (3) 入信プロセスを総合的に理解する1つの手がかりを, ロフランド=スターク・モデルに求め, モデルの再評価を行う。最後に (4) このモデルに必要な修正点を検討しながら, 新しい入信モデルの可能性を探ることとする。
著者
吉田 舞
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.71, no.4, pp.671-687, 2021 (Released:2022-03-31)
参考文献数
28
被引用文献数
1

本稿は,外国人技能実習生の日本の労働市場への従属的包摂の仕組みを,受け入れ制度と労務管理に着目して考察する.技能実習生は,日本人労働者とは異なる労働力として,さまざまな制度的制約のもと,労働市場に組み込まれている.従来,これらについては,人権問題や労働問題として,その過酷な実態が告発されてきた.しかし,技能実習生は,必ずしも直接的な強制や,非人間的な抑圧だけで,管理されているわけではない.むしろ,その制度的立場ゆえに,「よくしてくれている」雇用主に対して,「ものが言えない」状況が強化されることもある.本稿では,このような視点から,制度と労務管理に組み込まれた「恩顧」のイデオロギーに着目する.そのために,以下を明らかにする.まず,地方の家族経営体で働く技能実習生の労務管理の事例から,職場における雇用主との疑似家族的労使関係や,労務管理の実態を明らかにする.次に,これらの労務管理に対する,技能実習生の4 つの対応パターン(耐える,帰国する,逃げる,闘う)を考察する.ここから,疑似家族的労使関係や制度的制約が実習生の対応選択に及ぼす影響を分析する.この結果,技能実習制度では,政策から現場レベルまで,「援助=よくしてやる」という恩顧の論理が貫徹しており,そのなかで,技能実習生が労働市場の底辺に組み込まれていることを明らかにする.
著者
竹内 里欧
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.745-759, 2005-12-31 (Released:2009-10-19)
参考文献数
47
被引用文献数
1

本稿では, 明治期から大正期の, 処世本, 礼儀作法書, 雑誌記事を資料に, 「西洋化」・「近代化」・「文明化」を象徴する人間像として機能した「紳士」という表象をめぐる言説を分析する.特に, 「紳士」を揶揄するレトリックや論じ方に注目し, その類型の整理を試みる.それにより, 近代日本において, 「西洋」, 「文明」の有していた力やそれへの対応について明らかにする.「紳士」をめぐる言説においては, 「真の紳士」に「似非紳士」を対置し, 「真の紳士」の視点から「似非紳士」を批判するレトリックが多くみられる.「西洋の真の紳士」という理念型から「日本の似非紳士」を揶揄する (=「『似非紳士』の構築」) のも, 「真の紳士」の対応物を「武士道」, 「江戸趣味」に見出すなど過去に理念型を求める (=「『真の紳士』の改編」) のも, どちらも, 現在の時空間ではないところにユートピアを設定しそこから批判することを通じて「現実」を構成するという論理構造を共有している.「真の紳士」という「理念」と「似非紳士」という「現実」を共に仮構するという理想的人間像への対応は, 抽象化された (それ故「武士道」などと等値可能になる) 「西洋」という目標に向かい邁進する日本の近代化の構造を反映している.それは, 近代化・西洋化の要請と, 「日本」のアイデンティティの連続性の創出・維持という, 当時の矛盾を含んだ2つの課題に対応する文化戦略であったことが透視される.
著者
土井 文博
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.316-331, 1994-12-30 (Released:2010-01-27)
参考文献数
8

この論文の目的は, E. デュルケムが提唱した道徳共同体論を基として, 社会学が目指すべき実証的な社会分析のあり方を整理し提唱することにある。つまり, デュルケムが語る道徳的世界を日常生活レベルで具体的に描き出し, 人々の実際の社会生活の分析, そして改善に役立てられるような研究の方向を示すというものである。そこで, まずデュルケムの道徳共同体論について概観し, そのポイントや特徴を押さえる。次に, デュルケムの道徳共同体論を具体化するのに成功していると言われるゴフマンについて検討し, その功績や特徴を押さえる。その際にゴフマンの道徳共同体論の欠点もまた明らかにする。最後に, デュルケムの方法論が抱える課題を示した上で, 私自身のデュルケム解釈に基づいて, ゴフマンの対面的相互行為分析をデュルケムの方法論の中にうまく位置づける方法を提案する。「社会を学問する」という場合, それは様々な方向で行われている。ある者は大規模なアンケート調査を行うことによって, ある者は純理論的な見地から, またある者は参与観察によって, という具合にその社会分析のあり方は実に多彩である。そうした多様な社会学の方法論の中で, 本稿では E デュルケムが提唱した道徳共同体論に注目して, 実証的な社会分析の一つの可能性を提示することにしたい。
著者
末森 明夫
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.71, no.3, pp.411-428, 2020

<p>本稿はアクターネットワーク論および存在様態論を基盤とする非近代主義を援用し,徳川時代より大正時代に至る史料にみる日本聾唖教育言説の変遷の追跡を通して,明治時代における日本聾唖教育制度の欧米化という事象を相対化し,徳川時代と明治時代の間における日本聾唖教育言説の連続性を前景化し,日本聾唖教育史に新たな地平を築くことを眼目とした.具体的には,徳川時代の史料にみる唖ないし仕形(=手話)に関連する記述を分析し,唖の周囲に配置された唖教育に携わる人たち(=人間的要素)や庶民教化政策,手習塾,徒弟制度(=非人間的要素)が異種混淆的に関係性を構築し,唖が諸要素との関係性の下に実在化していく様相を明らかにした.また,仕形を唖の周囲に配置された人間的要素および非人間的要素の動態的関係性として把握し,聾文化論にみる「聞こえない身体」と「手話を使う身体」の不可分的関係性は,「聞こえない身体」と「手話を使う身体」の関係性が一時的に一義的関係性を伴う仲介項に変化し外在化(=純化)したものであることを明らかにした.さらに,徳川時代の日本社会において,唖や仕形をはじめとする諸要素の関係性が変化し続け,明治時代を経て現在の聾文化論が内包する諸問題にもつながっていることを明らかにし,非近代主義に則った日本聾唖教育史の再布置をはかった.</p>