著者
大谷 剛 山本 道也
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.43-76, 1985

第1報の行動目録(OHTANI,1985)にある主要な行動型について,生態学的な側面から分析を試みた(行動型のリストはTable1).観察したフィールドは北海道大学の構内(Fig.1)で,そこで個体追跡したのは31個体である(Table2).私たちが採用した「1個体追跡法」では特別な記録用紙(5秒間隔のスケールが横1列に60個並んで5分,全体で1時間のもの)を用いている.記入の手順は次のとおり:観察している個体の行動が変化したとき,すばやく時計の針の位置を確認,続いて記録用紙の相当する場所に縦線を入れ,すばやく行動型の略号を書き入れる.「結果および論議」では7節に分けたが,まとまりのある結論に至ったところで,「まとめ」を挿入した.これが斜体で書かれたS-1-S-11である.S-1:オスは白っぽい植物上で休息し,メスは産卵植物上で休息する傾向がある.Table3にはモンシロチョウが休息したときの植物とその回数を示してある.世代ごとに雌雄の休息回数の比率を比較してみると,S-1の傾向が読み取れる.S-2:オスはメスよりも高い位置で休息する.Table3の第3グループは白っぽい植物でも産卵植物でもないが,オスが多く休息するのは丈の高い植物,メスは低い植物の傾向がある.そこで,雌雄各1個体で休息位置の高さを測定(目分量)した例をTable4にまとめた.同じ植物(アカザ,C.album var. centrorubrum)でもS-2の傾向が明らかである.S-3:吸蜜の際,オスはメスよりも花にとどまる時間が短い.吸蜜植物に関する情報はTable5に集めた.吸蜜した回数(V)と総時間(D)に分けてある.各世代のものを総合して平均吸蜜時間(D/V,右端の欄)を出すと,S-3の傾向が認められた,詳しく見ていくと,S-1,S-2の傾向も存在する.S-4:飛翔(FL)の継続時間は,産卵メス,非産卵メス,オスで大きく違い,また,メスの越冬世代(G_h)では第一,第二世代(G_1,G_2)より長くなる傾向にある.Fig.2に飛翔の継続時間の分布を示した.探雌飛翔(Ff),逃避飛翔(Ef),移動飛翔(Wf)の3つは記録紙から分けて取り出すのがかなりむずかしいので,Fig.2では混ざったままになっている.オスの飛翔の大半はFfなので,30秒以上のものが多く,非産卵メスでは,あまり動く必要がないので,短いWfが多いと考えられる.産卵メスでは産卵植物への移動がやや長いWfを必要とする.「吸蜜→飛翔」(Fig.2右)の場合は「休息→飛翔」(Fig.2左)の場合より花から花への短い移動を含むので,分布は左側に偏っている.メスの越冬世代の飛翔時間の長さには春の植物の少なさが関連すると考えられる.S-5:飛翔オスは白っぽい物体に引き付けられる.飛翔中のオスは,枯れ葉・タンポポの綿毛・ネギぼうず・ビンの白い蓋など白っぽいものに興味を示して近づき,ときにはちょっと触ったりする.S-6:個体間行動をみると,若い個体は飛翔中の反応が多く,老齢個体では休息中の反応が増える.とくに,老齢メスでは尻あげ反応(Ae)が増加する.Table6は,個体間行動の観察回数を日齢別にまとめたものである.追尾(Ch/),被追尾(/Ch),回転(Gy),上昇飛翔(Af)という飛翔中の行動,および,飛び立ち反応(To),傾き反応(Le),尻あげ反応(Ae),翅閉じ反応(Wd),はばたき反応(Ft)という休息中の反応は,それぞれ雌雄とも日齢を7日で分けると,違いが出てくる.S-7:上昇飛翔(Af)は若い雌雄によって行なわれ,これが若いメスの羽化地からの移出につながるものと考えられる,すなわち,若いメスは老齢メスよりAfをするので,定住的なオスに追い出される格好となる.Afの情報はTable7にまとめた.♂11を除くと,雌雄ともAfをした平均日齢は3.6日であり,時間も午前中が多い.表の右側はAfの前後の行動の流れ.Ch→Af→FLの形をとることが多い.また,Afのあと視界から消えた4例も示してある(→oversighted).S-8:メスは,接近してくるオスに気づかれなくとも,翅閉じ反応(Wd)と傾き反応(Le)をする.生スが気づいて25cm以内に接近すると,メスは尻あげ反応(Ae)に切り替える.休息しているメスに頻繁に見られる3つの反応が引き起こされる距離をTable8に示した.3つの反応に属さないわずかな動き(twitching)と反応があるべき距離の無反応(no response)も示してある.WdとLeの翅の動きがAeと全く違うので,どちらの反応にすべきか迷う場合もあると考えられる.不完全な反応の例を()内に示したが,Aeの不完全なものは完全なものより遠い距離で生じているので(中央値,5.4cm:19.3),判断の迷いが現れたものとみなした.S-9:個体間行動が生じる頻度は,3つの世代ともオスの場合の方がメスよりもずっと多く,オスの活動性の高さを物語っている.各行動型の頻度を世代で比べると,総個体数の変化(G_h<<<G_1≧G_2)と必ずしも一致しない場合がある.G_1とG_2のオスの行動に差があると予想される.個体間行動ではS-8で見たように日齢で影響が出るので,少ない老齢個体データを省き,世代間の違いをTable9(不活動時の個体)とTable10(飛翔時の個体)に分けてまとめた.各世代の比較は,Gの観察総時間を1.00としたときの比を他世代で出し(Table9,10のm),それで観測数を割ったもの(括弧内の数値)で行なった.また,総観測数に対する%でも比較した.S-10:交尾中に接近してくるオスは交尾時間を引き伸ばす原因となるが,飛来するオスが少ないうちは,交尾オスのはばたき反応(Ft)は追い払う効果をもつ.交尾に関する情報は,1976年のデータが少なかったので,1980年に同じ北大構内,1981年に長崎県北松浦郡田平町で追加したものを一緒にしてTable11に示した.交尾を邪魔された指標として,はばたき反応の回数(NFt),結合飛翔に飛び立った回数(Nbf),結合飛翔の総時間(Dbf)を調べたが,交尾時間(DC)との相関係数はNFtが最も高かった(r=0.9055).しかし,NFtが25以下の18例で相関係数を出して見ると,r=0.2825となり,ほとんど相関はないといえる.これを,25以下ならはばたき反応が飛来オスを追い払っている結果と解釈した.Fig.3の写真は,SUZUKI et al.(1977)が報告したスジグロシロチョウの「求愛ホバリング」に似たものとして掲げた.S-11:メスは多くの卵をつぎつぎと広い範囲に産んでいくが,G_2のメスではこの傾向が弱くなる.17個体のメスの産卵についてはTable12に示した.1時間当たりの産卵数(A),1回の産卵行動(El)に費やされた平均時間(B),1時間当たりのElの数(C),1回のElに産まれた卵の平均数(D),1時間当たりの「空産卵」の数(E)を調べ,AとB-Eとの相関係数(CC)を一番下に示した.CとDの間は,1回のEl中に産まれた卵数(1-14)で,それに相当する1時間当たりの例数である.1回のElで1個しか産まないときより,2個,3個と産む場合の方が相関係数が高い.つまり,Elを始めたとき,何個も産む個体の方が多くの卵を産むようである.また,A,B,Dについて世代の集計のところを見ると,G_2の数値がG_h,G_1と違っている.以上のS-1-S-11を踏まえ,総合考察をして,Fig.4に仮想的なモンシロチョウの生活をまとめた.オスの生活はほとんどすべて「メス捜し」にあてられている.しかも,できるだけメスに近いものに引き付けられるために,メスの次によく似ているオス同士で引き合うことになり,これが前から知られている「オスの定住性」につながるものと考えることができる.一方,メスは交尾のときオスに出合うだけでよく,交尾以外のオスをなるべく避けるようにしている.つまり,「オス避け」または「交尾避け」生活である.そして,若いメスは上昇飛翔(Af)でオスを避ける傾向にあり,その結果メスは羽化地をどんどん離れていくことになる.そして,老齢になるに従い,尻あげ反応(Ae)でオスを避けるようになるので,新たな生息地に落ち着くことになる.このように,オスの生活とメスの生活が組み合わさって,メスを初めの生息地から移動させるという構造を作り出し,それが,すばやく多くの卵をばらまいていく移動中のメスの特性とともに,不安定な環境をうまく利用するモンシロチョウの生活を構成している,と考えられる.
著者
顔 聖紘 穆 家宏 〓 家龍 吉本 浩
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.175-184, 1995-12-10 (Released:2017-08-10)
参考文献数
21

台湾には2種のアゲハモドキ(Epicopeia mencia Moore,オナガアゲハモドキとE.hainesii matsumurai Okano,アゲハモドキ)が分布する.それらは日本や中国で生活史が分かっているものの,台湾では充分に調べられていなかった.私達は1992年から1993年にかけて,これら両種の台湾での生活史を調べることができたので,ここに報告した.Epicopeia mencia Mooreオナガアゲハモドキ食樹はニレ科のアキニレ.これは中国および日本(対馬)で知られる食樹と同じである.卵は食樹の葉の裏面にまとめて産み付けられ,幼虫は終齢(6齢)まで白色の蝋状物質をまとう.蛹化は白い蝋物質で覆われた柔らかい繭内で行なわれる.成虫は4月から10月まで見られ,年2-3化.台湾全土の標高500-2,000mまでの常緑カシ帯に分布するが,食樹の分布に限定されて局所的である.Epicopeia hainesii matsumurai Okanoアゲハモドキ私達の確認した食樹はミズキ科のミズキ,クマノミズキ,ヤマボウシで,日本での記録と同じである.卵は,前種同様,食樹の葉裏にまとめて産み付けられ,前種よりやや小さい.幼虫は終齢(6齢)まで白色の蝋状物質をまとうが,3齢以降の蝋物質の分泌は前種よりも多く,いくつかの体節では細い毛束状,蛹は前種よりもスマートである.成虫は4月から10月まで見られ,年2化.台湾の北部,中部,東部の標高500-2,000mまでのいくつかの産地に限って分布する.
著者
井上 寛
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.69-75, 1978-06-01 (Released:2017-08-10)

Okano[岡野磨瑳郎]は,台湾産のタイワンアゲハモドキの学名を論じ(1958,1964),学名はEpicopeia formosana Nagano, 1912(=E. hirayamai Matsumura, 1935)とすべきであるという結論に達し,さらに第3の論文(1973)では,E. formosanaのなかで,前後翅に白帯のあるのがf. formosana,白帯のないのがf. hirayamaiとした.また第3の論文では,E. hainesii Hollandアゲハモドキの台湾亜種matsumurai okanoを記載し,そのなかで,ジャコウアゲハの♀のように翅の白っぼい型をf. albaと名付けた.私は以前から,日本,朝鮮,台湾などに産するこの属の種や亜種に関心をもち,標本や文献を集めてきたし,British Museum (Natural History) (以下BMNHと略す)では,タイプ標本を含め,多数のシナ産の標本を検することができたので,Okanoがまったく言及していない文献や大陸の標本を含めて,2種の学名や地理的変異についての私見を述べることにした.
著者
井上 寛
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.12-14, 1954-09-01 (Released:2017-08-10)
著者
V. G. MIRONOV A. C. GALSWORTHY 矢崎 克己
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.341-363, 2007-06-30 (Released:2017-08-10)
参考文献数
6

台湾産カバナミシャク属Eupitheciaを再検討し,45種に整理した.これらの中には7新種(E. concava, E. flavimacula, E. lini, E. blandula, E. rhadine, E. lupa, E. pellicata)を含むほか,4種(E. proterva Butler ウスカバナミシャク,E. tricornuta Inoue セアカカバナミシャク, E. centaureata ([Denis & Schiffermuller]), E. albigutta Prout)の台湾未記録種を含む.また,台湾ならびに中国大陸より記載された数種を既知種のシノニムとしたほか,これまで一方の性しか知られていなかった数種について,反対の性の標本が得られたものでは,交尾器の記載も行った.
著者
佐藤 力夫
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.125-131, 1977-12-01 (Released:2017-08-10)
被引用文献数
1

カバシャク亜科(Archiearinae)は世界に2属7種しか知られていない小さいグループで(井上,1961),わが国にはArchiearis属の2種が分布している.いずれもヨーロッパとの共通種で,A. parthenias Linnaesカバシャクは,北海道と本州中部山地に分布し,それぞれsubsp. bella Inoue, subsp. elegans Inoueと別亜種にされている.またA. notha Hubnerクロフカバシャクは,1955年に岩手県盛岡市繋で1♂が発見されokanoi Inoueなる亜種名がつけられた.その後1961年から1963年にかけて岩手県紫波郡紫波町新山で再発見,一時は棲息地の環境の変化によって絶滅の危険があったが,幸にも1975年以降再び同地での棲息が確認されている(斉藤・片山,1976;佐竹・斉藤,1977).一方幼虫に関しては,中村(1975)がpartheniasの記載をおこない,斉藤・片山(1976)はnothaの採卵に成功し幼虫の飼育記録を報告している.しかし中村の記載には後述するように筆者の観察と一致しない点があり,斉藤・片山の記録には幼虫の形態(chaetotaxyなど)に関する記載が含まれていない.筆者は佐竹邦彦氏の御好意により,同氏が1976年4月25日に上記の紫波町新山で採集されたnothaの♀から得た卵をいただき,孵化幼虫にヤマナラシを与えて飼育することができた.また1977年7月3日長野県湯の丸高原においてシラカバを摂食中のpartheniasの中〜終齢幼虫を若干採集するとともに,杉繁郎氏からは同氏が1972年7月1日に同所で得た終齢幼虫1頭(液浸標本)の恵与を受けた.本報ではこれらの材料に基づいて両種の幼虫について若干の知見を述べたい.
著者
谷尾 崇 倉本 宣
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.59-63, 2019-08-31 (Released:2019-09-12)
参考文献数
21

In order to investigate the time of initiation of post-diapause development, we reared diapausing larvae of introduced Hestina assimilis assimilis and native H. persimilis japonica, with a photoperiod of 14L-10D under four regimes of constant temperatures (15.0℃, 17.5℃, 20.0℃ and 22.5℃) and one regime of increasing temperature (10.0℃- 28.0℃). On the lowest temperature regime, the larvae of H. a. assimilis awoke slightly earlier than those of H. p. japonica. On the increasing temperature regime, the larvae of H. a. assimilis awoke from 12℃ and showed many individual differences, while those of H. p. japonica awoke from 14℃ with limited individual differences. The larvae of H. a. assimilis probably secure and dominate food resources more quickly and have a higher adaptability to spring climates. Hestina a. assimilis may have spread its distribution range in Japan due to the above factors.
著者
関 照信
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1-2, pp.1-11, 1968-10-31 (Released:2017-08-10)

(1) タテハモドキの季節型決定要因を究明する目的で,若干の基礎的な実験を行なった. (2) タテハモドキの季節型決定要因には,日長と温度が関係しており,日長が主要因になっていると考えられる. (3) 秋型の決定要因には,短日と低温が関係しており,それらは単独でも効果をあらわす場合が認められたが二要因が相乗的に作用すると,秋型が100%羽化する. (4) 夏型の決定要因には,長日と高温が関係しており,それらは単独でも効果をあらわす場合が認められたが,二要因が相乗的に作用すると,夏型が100%羽化する. (5) 湿度も季節型の決定に関与しているようで,高温・暗黒下では,少湿(乾燥)は秋型要因として,多湿は夏型要因として作用する場合が認められたが,さらに充分な実験と慎重な考察を必要とする.
著者
Dubatolov V.V. Lvovsky A.L. 吉本 浩
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.191-198, 1997
参考文献数
32
被引用文献数
1

St-Petersburgのロシア科学アカデミー動物学研究室に保管されているSatyrus motschulskyi Bremer&Grey,1852とYpthima amphithea Menetries,1859の模式標本を調べた結果,それらは同一種であることが分かった.両タクサの後模式標本とそれらの♂交尾器を図示した.チョウセンウラナミジャノメの学名はYpthima motschulskyi(Bremer&Gray)となるが,中国北部および韓国のものを原名亜種,沿海州のものを亜種amphithea Menetriesとした.沿海州の亜種は原名亜種よりも小型,後翅裏面は全体に暗く,波状模様もあまり明瞭でない.Y.motschulskyiがチョウセンウラナミジャノメの有効名となる関係で,ウラナミジャノメの有効名には台湾から記載されたY.multistriata Butler,1883が昇格する.原名亜種は台湾及び中国東部に産し,日本本土亜種はniphonica Murayama,1969,対馬亜種はtsushimana Murayama,1969となる.韓国産はtsushimanaよりも裏面の波状紋の発達が弱い点で区別されるが,Y.obscura Elwes&Edwards,1893,Y.elongatum Matsumura,1929はいずれもmotsculskyiのシノニムで,韓国産multistriataの亜種名として適格なものがないため,新亜種koreana ssp.n.を記載した.
著者
小汐 千春 石井 実 藤井 恒 倉地 正 高見 泰興 日高 敏隆
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.1-17, 2008
参考文献数
52

東京都内に広く分布するモンシロチョウ Artogeia rapae (=Pieris rapae)およびスジグロシロチョウ A. melete (=P. melete)の2種のシロチョウについて,東京都内全域において,過去にどのような分布の変遷をたどってきたか調べるために,アンケート調査,文献調査およびフィールド調査を行った.その結果,特別区では,1950年代から1960年代にかけてモンシロチョウが多かったが,1970年代以降スジグロシロチョウが増え始め,1980年代には都心に近い場所でも多数のスジグロシロチョウが目撃されるようになったが,1990年代以降,再びスジグロシロチョウの目撃例が減少し,かわってモンシロチョウの目撃例が増加したことが明らかになった.さらにこのようなモンシロチョウとスジグロシロチョウの分布の変遷は,特別区以外の郊外の市町村や島嶼部でも見られることがわかった.
著者
吉本 浩
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.93-105, 1987-07-20 (Released:2017-08-10)

本邦のホソバミドリヨトウは永らくヒマラヤのEuplexia literata(MOORE)に同定されてきたが,最近になって私は,これが真のliterataとは異なる種であること,またその所属もEuplexidia HAMPSON,1896に移さねばならないことに気付いた,本報では,我国のホソバミドリヨトウをはじめとして本属の4新種を記載したほか,従来Trachea-Euplexia群に置かれていた2種をこの属に移し,まタイ北部からliterataの1新亜種を記載した.本文にも記したように大陸の一部の種について同定上の問題が残っており,それらでは将来学名の変更が必要になるかもしれない.本報で扱った7種1亜種は以下の通り.Euplexidia noctuiformis HAMPSON, 1896[アッサム,タイ北部(未記録)] Euplexidia exotica sp. n.[台湾] 中部の阿里山山麓,十字路で得た1♂しか見ていない. Euplexidia pallidivirens sp.n.[台湾] 日本のホソバミドリヨトウと外観ではほとんど区別できない,台湾にも次種を産するので,同定には注意を要する. Euplexidia angusta sp. n.ホソバミドリヨトウ[日本,台湾] 本属中我国に産するものは本種である.前種よりもやや色調が濃く,前翅亜外縁の白色部がやや目立つほか,前翅も幾分幅狭く感ぜられるが,正確な同定には交尾器の検査が必要である.前3種に近縁であるが,本種では♂交尾器uncusの背面に剛毛の東を持たず,harpeも太いので,慣れれば解剖しなくても外部からの検鏡で同定できる.台湾では前種と混棲するほか,中国大陸にも分布するものと思われ,陳(1982)が図示した標本は本種のように判断される.Euplexidia literata literata(MOORE, 1882), comb. n.[シッキム,ネパールEuplexidia literata thailandica ssp. n.[タイ北部]Euplexidia illiterata sp. n.[ネパール]これら3つのタクサにはなお未解決の問題が残っている.すなわち,MOORE(1882)は外観のよく似た2種,Dianthoecia literataとD. venosaをともにシッキムから記載しており,これらの同定にはタイプとの比較が必要であるが,今回は成し得なかった.本報ではネパールからタイにかけて産するものをliterataに,またネパールで秋に得られているものを新種とし,venosaについては触れなかった.E. benecripta (PROUT,1928), stat. & comb. n.[スマトラ]本種はスマトラからliterataの亜種として記載されたものである。♂交尾器の構造は本属中特異であるが,♂交尾器vesicaや,♀交尾器の形状からEuplexidiaに属するものとした.以上のほか,ここでは扱わなかったが,ボルネオのTrachea albiguttata(WARREN, 1912)もHOLLOWAY(1976)に図示された♂交尾器の形からみて,本属に連なるものと思われる。しかし,BOURSIN(1964)によってネパールから2頭の♀で書かれた? Euplexidia violascensについては,交尾器も図示されず,また実見もしていないので除外した.
著者
HAYASHI HISAKAZU
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.151-155, 1976-12-01

The present paper deals with five new subspecies of Jam ides and a new subspecies of Udara. All the specimens were captured by Mr. Yasuzo Honda. The holotypes are to be preserved in the Osaka Museum of Natural History.
著者
林 寿一
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, 1985-04-20

Narathura sakaguchii H. HAYASHI, 1981はネグロスからの1♂に基づいて記載され,♀は未知であった.筆者は最近,同じくネグロスより本種の♀を入手したので,ここに記載した.本種の♀は裏面においては斑紋,色彩とも♂とほぼ同様であるが,翅表は金属光沢を帯びた淡青色に美しく輝き,前翅径脈上方には紫青色鱗の散布が見られ,大変ユニークである.黒縁は幅広い.
著者
林 寿一
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.171-174, 1978-09-01

水沼哲郎氏より研究依頼のあったミンダナオ産シジミチョウよりNarathura属およびDeramas属の未知種を見出したので,ここに新種として記載した.
著者
林 寿一
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.127-129, 1984-03-20

ミンダナオ島よりTajuriaの1新種を記載した,本新種に関する分類学的知見を教示されたJ.N.ELIOT氏に深く感謝したい.本新種はボルネオより知られるTajuria lucullus H.H.DRUCE,1904にもっとも近縁であるが,後者とは以下の特徴によって区別できる.1)翅表はわずかに淡紫色を帯びるが,lucullusでは紫色を帯びない.2)後翅裏面第1a室および第2室にある橙色の肛角斑は,第1b室にある青灰色鱗によりはっきりと分断されるが,lucullusでは肛角斑は多少とも結合する上に,第1b室の鱗粉は青味が強くなる.3)雄交器ではbrachiaはその湾曲部において突起を持たないが,lucullusでは湾曲部に突起を持つ.4)雄尾交尾器ではaedeagusはcornutusを持たないが,lucullusでは2個のcornutusを持つ.5)雄交尾器ではvalvaeはFig.3Bで示すようにその末端で,はるかに突出の度合が強く,かつくぼみの程度は弱い.父のおかげで,筆者は蝶の研究を続けてこられたので,本新種の種名は父,故松太郎に献名された.
著者
林 寿一
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.33-34, 2011-05-17

名義タイプ亜種は筆者により1984年にミンダナオ島アポ山の標本に基づいて記載され,現在のところミンダナオ島ではアポ山以外での記録は知られていない.近年レイテ島でも若干の個体が採集されていたが,亜種についての検討はなされていなかった.裏面での差異は認められないが,翅表では名義タイプ亜種に比べて,♂♀とも青色部が極めて濃い,名義タイプ亜種では青色部がほんのりと薄紫がかるが,新亜種では紫色がかなりはっきり表れる,前翅の黒色部が第1b室,第2室及び中室においてより広い,また♀の後翅前縁部は名義タイプ亜種より黒色が強く表れることにより容易に区別される.新亜種名は長年にわたって筆者の研究に深い理解を示してくださった東大阪市の上村元子(旧姓山田)さんに捧げられた.
著者
林 寿一
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.211-214, 1978-12-01

Ptychandra (Nymphalidae)に関しては,H.J.Banksらによるすばらしいレヴィジョン(1976)があるが,彼らはミンダナオ・アポ山の本属については1個体も検してはいない.筆者はアポ山産本属の標本をいくつか検する機会を得,その研究の結果,ここに3新種を記載した.
著者
白水 隆
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, 1958-02-15
著者
中原 和郎
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.3-4, 1958-02-15
被引用文献数
1