著者
古川 浩三
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.87, no.2, pp.169-181, 1984-02-20 (Released:2008-03-19)
参考文献数
37
被引用文献数
23 15

Laryngeal movement during deglutition was analyzed by means of cineradiography on fortyeight males of different age groups who had no pathology. The film was analysed using a film motion analyzer and the laryngeal movement was measured in two directions, horizontal and vertical.As a result, the vertical movement associated with swallowing was divided into 5 phases: 1) the slowly ascending phase, 2) the rapidly ascending phase, 3) the pause at the position of maximum rise, 4) the rapidly descending phase, and 5) the slowly descending phase. The slowly ascending phase was observed during the period of voluntary stage (the first stage) of deglutition, whereas the rapidly ascending phase was observed during the period of reflexive stage (the second stage). The average duration at the maximum position of rise was 0. 24 seconds. The descending phase appeared during the third stage of deglutition. Throughout these phases, the greatest time difference as related to aging, was noted in the slowly ascending phase. There were no notable time differences among the different age groups in the rapidly ascending phase and in the pause at the maximum position of rise. There were some differences among the different age groups in the extent of vertical laryngeal movement and in the time required for it. However, there were no notable differences in the extent of horizontal movement and in the time for the second stage among the different age groups.
著者
松浦 一登
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.116, no.12, pp.1290-1299, 2013-12-20 (Released:2014-02-22)
参考文献数
27

がん治療の究極の夢は「薬」で病が治ることである. 効果を得るために治療強度を増すことはしばしば行われるが, 副作用も強くなるというジレンマがある. 近年, 分子標的薬剤など新しい創薬がなされ, 治療効果とともに新たな副作用が認められてきた. 大多数の頭頸部がん患者は, 外科治療を主とする耳鼻咽喉・頭頸部外科医によって治療がなされており, われわれは多様な有害事象をマネジメントしつつ, 標準治療を理解して完遂しなければならない. 元来は兵器であったという生い立ちを忘れて抗がん剤を用いることは, 「角を矯めて牛を殺す」になりかねず, 不必要な抗がん剤使用を避けることが何よりの有害事象対策となる. 現在, われわれが最も多く用いる抗がん剤はシスプラチンであるが, 代表的な副作用は, 腎障害と悪心・嘔吐である. 腎障害は尿細管障害が主体であり, 大量補液と利尿剤で軽減を図るが, NSAIDsを避けることやMgの補充を行うことも重要である. 悪心・嘔吐対策は, 初回からアプレピタント, ステロイド, 5-HT3拮抗剤を用いて十分な対応をとり, 患者に我慢させないことが大切である. 近年, 化学療法施行時のB型肝炎再活性化が問題となっており, ハイリスク患者には抗ウイルス薬 (エンテカビル) の予防投与が推奨されている. また, 頭頸部がんに対する分子標的薬剤 (セツキシマブ) が保険収載されたことにより, 本剤の使用が始まった. シスプラチンに比べて, 補液の管理や嘔気・嘔吐管理が格段に簡便になる反面, インフュージョンリアクションや間質性肺炎など致死的な症状が生じることがあり, われわれもこの薬剤に対する理解を深めなければならない. 現在の頭頸部がん治療では多職種でのチーム医療が必要不可欠であり, 抗がん剤の有害事象をマネジメントするにも, 担当医一人では十分な対応はできない. 看護師を含む医療従事者にも知識の共有と教育を繰り返し行い, チーム力の向上を図ることが何よりも重要である.
著者
田中 真琴
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.122, no.10, pp.1279-1284, 2019-10-20 (Released:2019-11-06)
参考文献数
6
被引用文献数
1

味覚障害患者の訴える症状は, 味覚低下・脱失といった量的味覚異常から, 自発性異常味覚や異味症のような質的味覚異常まで多岐にわたる. その原因は多様で, 単一ではなく複合的な場合も多く, 治療で改善がみられないケースもある. また, 味覚定量検査 (電気味覚検査・濾紙ディスク検査) は, 残念ながら限られた施設でしか行われていないのが現状である. これらの理由から, 味覚障害診療は, 耳鼻咽喉科医でも馴染みの薄い分野であると思われる. 味覚障害は, 60歳以上の高齢者に多い, 生活の質 (QOL) を著しく損なう疾患である. その診療の需要は, 高齢化に伴い今後さらに増加することが予想され, 耳鼻咽喉科の専門性をアピールできる領域と考えている. 味覚障害診療での, 問診, 視診, 臨床検査, 機能検査, 診断, 治療, フォローアップの概略を述べる.
著者
神崎 晶 熊崎 博一 片岡 ちなつ 田副 真美 鈴木 法臣 松崎 佐栄子 粕谷 健人 藤岡 正人 大石 直樹 小川 郁
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.123, no.3, pp.236-242, 2019-03-20 (Released:2020-04-08)
参考文献数
15

聴覚過敏を主訴とした患者に対して, ほかの感覚器の過敏症状を問診・質問票による検査をしたところ, 複数の感覚過敏を有する5例を発見した.「感覚過敏」と本論文では命名し, その臨床的特徴を報告する. 主訴に対する聴覚過敏質問票に加えて, 複数の感覚過敏に対する質問票「感覚プロファイル」を用いて過敏, 回避, 探求, 低登録について検査した. 同時に視覚過敏は5例で, 触覚過敏は4例で訴えたが, 嗅覚と味覚過敏を訴えた例はなかった. 病態には中枢における感覚制御障害が存在することが考えられる. 感覚過敏の検査法, 診断法, 治療についてはまだ確立されておらず, 今後の検討を要する.
著者
内田 育恵
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.122, no.5, pp.744-749, 2019

<p> 超高齢社会を迎えた日本では, 要介護原因の1位が認知症となり, 一方, 認知症の分野で '難聴' が一気に社会的注目を集めるきっかけとなった Lancet 国際委員会の報告では, 医学的介入により認知症発症を予防できる要因として難聴が筆頭に挙げられた. 認知症や認知症以外の不利益に対し, 難聴が関連しているというエビデンスは積み重ねられており, 健康寿命の延伸のために, 中年期以降の聴力維持はますます重要性を増すと考えられる.</p><p></p><p> 認知症だけでなく認知機能障害や認知機能ドメインと聴力, 就労や所得と聴力, 不慮の事故による負傷リスクと聴力, に関する先行研究の報告を概説し, 補聴器の使用がいかに影響するかを検討した研究を取り上げた. 補聴器の認知症予防に対する効果は, 集団規模の大きな, 長期間の追跡プロジェクトが各国で実施されているものの, 結果は必ずしも一定しない. われわれが遂行中の, 補聴器使用と認知機能に関する研究も中間解析について紹介した. それらを踏まえて, 超高齢社会の難聴ケアについて期待を込めた今後の展望を述べた.</p>
著者
五島 史行
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.119, no.8, pp.1105-1109, 2016-08-20 (Released:2016-09-08)
参考文献数
11

うつ病患者は初診の診療科として精神科を受診するよりも耳鼻咽喉科をふくむ身体科を受診することの方が多い. うつ病によってさまざまな身体症状が出現したり, もともと有していた身体症状がより強くなることによって, 身体科である耳鼻咽喉科を受診することは少なくない. われわれ耳鼻咽喉科医としてもある程度うつ病をふくむ, うつの知識を持った上で日常診療にあたることで, これまで説明ができなかった患者の身体症状の要因を明らかにすることができる. 本稿でははじめにうつ病について概説し, 耳鼻咽喉科を受診するうつ病患者の症状の特徴, スクリーニング, 治療法について解説する. うつ病は, 気分障害の一種であり, 抑うつ気分, 意欲・興味・精神活動の低下, 焦燥 (しょうそう), 食欲低下, 不眠, 持続する悲しみ・不安などを特徴とした精神障害である. うつ病の診断基準を満たすものを大うつ病としてアメリカ精神神経科学会では定義をしている. 耳鼻咽喉科を受診するうつの患者はうつ状態を主訴として受診するのではなく, あくまで耳鼻咽喉科の身体症状を訴えて受診するため, 耳鼻咽喉科外来でうつを発見するには適切にスクリーニングをする必要がある. 耳鼻咽喉科でうつを疑うのはめまい, 耳鳴, 咽喉頭異常感を主訴としており, 医学的に症状が十分説明がつかない場合である. その場合には, 問診票 (既往, 書き方) に注意する. さらに質問紙を用いたスクリーニングとして DHI, THI, SDS 等を用いる. 問診では特に睡眠障害, 体重減少, 気分の落ち込みについて問診する. うつを疑った場合には身体疾患がないことを保障し, 企死念慮を確認し, 精神科, 心療内科への紹介を検討する.
著者
西川 泰次
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.544-575, 1962 (Released:2007-06-29)
参考文献数
35
被引用文献数
4

A decreased volume of voice and a marked narrowing of the vocal register by recurrent nerve paralysis as well as a loss of vocal cord tension and a phonetic disturbance in high-pitch voice by superior laryngeal nerve paralysis were noted in our experimental and clinical observations in the larynx of dogs and human subjects, In most of these cases, the unilateral vocal cord was found to be fixed in paramedian position, but the bilateral vocal cords became fixed in cadaver's position when the bilateral laryngeal nerve paralysis supervened or the external laryngeal muscles were removed. This fact is considered to be indicative that the external laryngeal muscles and the compensatory working of the contralateral laryngeal nerve have a great influence upon the voice and the status of vocal cord.Phonetical investigations in the waste of air, the volume of voice, the vocal register and the tone of voice in a variety of vocal cord diseases enabled the author to assume the status of vocal cord and its mode of vibration corresponding to a certain kind of voice.Sonographical examination of the voice of vowel“A”revealed that phonetic disturbance in the component resonance ranging from fundamental to 1000cps and in the neighborhood of 4000cps was the decisive factor in the cause of a hoarse voice and the abnormal voice which was chiefly encountered on vocal register change.
著者
五島 史行
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.122, no.7, pp.989-991, 2019-07-20 (Released:2019-08-01)
参考文献数
7
被引用文献数
1
著者
角南 貴司子
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.123, no.7, pp.592-595, 2020-07-20 (Released:2020-08-06)
参考文献数
27
被引用文献数
1
著者
脇坂 浩之
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.117, no.6, pp.840-841, 2014-06-20 (Released:2014-07-12)
参考文献数
10
被引用文献数
2
著者
新井 基洋
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.123, no.5, pp.307-314, 2020-05-20 (Released:2020-06-05)
参考文献数
21

めまい・平衡障害は, 前庭機能ならびに視機能, 体性感覚などの複合感覚障害であり, その治療法としてのめまいのリハビリテーション (以下めまいリハ) は耳鼻咽喉科領域において関心の高い事項の一つである. 1989年日本平衡神経科学会 (現, 日本めまい平衡医学会) の “「平衡訓練の基準」掲載にあたって” の中で, めまいリハは, 一側前庭障害代償不全や各種めまい後遺症のみならず, めまい・平衡障害の治癒促進を目的とした治療法の一つとして扱われている. 筆者は1989年に北里大学耳鼻咽喉科の徳増厚二教授 (現名誉教授) から北里式めまいリハの指導を受け, 以来, めまい・平衡障害の治癒促進を目的としためまいリハを「平衡訓練の基準」にのっとり施行してきた. めまいリハは, 体系的なメニューを採用する Cawthorne-Cooksey 法を元にした方法と, 特定の疾患や病態を対象として考案された方法に大別される. 後者の代表が良性発作性頭位めまい症における Brandt 法で, 最近の時流である患者個人ごとのめまいリハ治療も後者に該当する. 当院でも, 効率良くめまいリハを行うために個人の疾患を踏まえたリハを選択して外来指導をしており, そのポイントとなる適切なリハの見極め方について述べる. 一側前庭障害代償不全では中枢代償獲得促進が, 加齢性めまいなど両側前庭機能障害は視覚と深部感覚などによる機能補充を目標とする. 頭位治療や Brandt 法では改善しなかった良性発作性頭位めまい症例には頭位変換を用いた寝起きめまいリハも選択肢となる. そのほか, メニエール病, 前庭性片頭痛, 持続性知覚性姿勢誘発めまいに対するめまいリハについても触れる. さらに, めまいリハの歴史と根拠, 治療に導入できるめまいの対象疾患と方法の選択, 評価方法についても述べる.
著者
杉浦 むつみ 大前 由紀雄 新名 理恵 池田 稔
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.103, no.8, pp.922-927, 2000-08-20
参考文献数
12
被引用文献数
4 1

難聴の高齢者を対象に補聴器装着前後における心理的ストレスの評価を行った.対象は,難聴を主訴に東京都老人医療センター耳鼻咽喉科を受診した患者のうち,補聴器の装着が適切であると判断された31例(男性11例,女性20例,年齢80.4&plusmn;5.3歳,66~89歳)である.補聴器装着前後に聴こえに対する自己評価と,新名の心理的ストレス反応尺度のうち情動18項目(うつ&bull;不安&bull;怒り)について質問した.その結果,患者の聴こえに対する自己評価は,装着後に有意(p<0.001)な改善を認めた.また情動18項目(うつ,不安,怒り)における心理的ストレス反応は,うつ,不安,怒りのいずれも有意(p<0.001)な減少を認めた.特にうつについてはストレス反応スコアの減少が著明であった.従って,補聴器の装着は,聴力の改善によるコミュニケーション能力の向上だけでなく,高齢者の心理面にも良い影響を及ほしたと考えられた.精神科領域では老年期にみられる痴呆とうつ状態は相互に影響しあい,互いに移行することが指摘されており,高齢者の心理面より,うつ,不安等の心理的ストレス反応を減少させることは,老年期うつ病の発症や,老年期痴呆への移行を二次的に予防することにもつながる可能性が考えられた.また聴覚障害が痴呆や認知障害の進行や重症度に影響する可能性も指摘されており,補聴器装着による聴力の改善は,痴呆や認知障害の進行を抑制するという観点からも有用であると考えられた.
著者
及川 尚
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.93, no.3, pp.361-372, 1990-03-20 (Released:2008-03-19)
参考文献数
16
被引用文献数
1

I. ObjectiveThe present study was undertaken in order to determine the onset of monaural deafness, especially whether it is congenital or acquired, making an investigation into the sense of sound direction in monaural hearing impairment and monaural deafness and compairing them between hearing-impaired patients and normal hearers.II. SubjectsThis study was carried out on 26 patients with monaural hearing impairment, 22 patients with monaural deafness and 10 normal hearers.III. MethodsA circle with a radius of 1.3m was drawn around a fixed patient's position in a sound proof room, and the circle was divided into 16 directions at an equal angle of 22.5°. A blindfolded hearer was instructed to listen to a speaker for white noise of 60dB (A) for one second and verbally answer in which direction he heard the noise. The normal hearers were tested in 4-, 8-, and 16-directions, and the hearing-impaired patients were tested in only 8-directions.IV. Results1. Normal HearersThe rate of correct answers decreased with increasing directions of sound.The incorrect answers in 4-direction testing were only confusion between forward and backward directions, and similar incorrect answers were made in 8- and 16-direction testing. All other incorrect answers were errors of less than 45°.2. Monaurally Hearing-impaired PatientsThe rate of correct answers on the whole was low.There was such a relationship between the rate of correct answers and the mean hearing level of patients that the total rate of correct answers decreased with increasing hearing impairment. This correlation was statistically significant, and there was a still more significant correlation between the degree of hearing impairment and the rate of correct answers as to the right and left directions.Incorrect answers were errors of90° or less on the healthy side, while errors were made for all directions on the affected side.3. Monaurally Deaf PatientsThe rate of correct answers was by far lower on the affected side.Whereas many errors were within 45° on the healthy side, errors were made for all directions on the affected side.Judging from the onset of hearing loss, the monaurally deaf patients were divided into a group of 8 patients who obviously had sudden aquired deafness and a group of 9 patients who were presumed to have congenital monaural deafness. The mean rate of correct answers of the former group was superior to the latter group's, particularly on the effected side.
著者
松島 俊夫 勝田 俊郎 吉岡 史隆
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.118, no.1, pp.14-24, 2015-01-20 (Released:2015-02-05)
参考文献数
19
被引用文献数
1

頸静脈孔と舌下神経管は頭蓋底深部に位置し, さらにその周囲の複雑な構造のため外科的に到達困難な部位の一つである. しかもそれらに腫瘍性病変が発生すると, 頭蓋内外へ進展するため, 耳鼻咽喉科医と脳神経外科医の両者で取り扱われる境界領域でもある. この領域の外科治療を行うためには, 項部筋肉や, 側頭骨, 顔面神経管, 乳様突起, 茎状突起, 後頭顆, 環椎後頭骨関節, 環椎横突起などの骨構造や, S 状静脈洞, 頸静脈球, 内頸静脈とそれらに交通する周囲の静脈網, 近傍を走行する内頸動脈, 椎骨動脈などの血管構造も十分に理解しておく必要がある. また, 顔面神経を含む脳神経の走行も重要である. 手術アプローチを選択する際には, 環椎後頭骨関節が不安定にならないための骨削除範囲の配慮も必要になってくる. それ故, 術前画像検査では, 同部腫瘍の進展範囲と周囲重要構造物との位置関係や腫瘍による骨破壊範囲をできる限り詳しく術前から読影することが重要である. 本稿では, 屍体を用いこの領域の詳細な解剖を呈示し, その上で同部の画像解剖や到達困難な外科的到達法について脳神経外科医の立場から解説する. 同部に発生した腫瘍は頭蓋内外へ進展するため, 多くの症例で一方向からのみですべてを露出することはできない. 症例毎にいくつかの手術アプローチを単独でもしくは組み合わせて手術を行っている. また近年, 診断と治療が容易にできるようになったこの部の硬膜動静脈瘻や舌咽神経痛についても簡単に紹介する.
著者
池田 香織 富田 雅彦 新堀 香織 尾股 丈 馬場 洋徳 高橋 奈央 佐々木 崇暢 堀井 新
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.121, no.10, pp.1279-1287, 2018-10-20 (Released:2018-11-21)
参考文献数
25

嗄声や嚥下障害など急性発症の下位脳神経麻痺が Ramsay Hunt 症候群の随伴症状として出現する場合があり, その診断や治療方法の決定は比較的容易である. しかし, 水痘-帯状疱疹ウイルス (varicella-zoster virus; 以下 VZV) が原因の下位脳神経麻痺の中には顔面神経麻痺を伴わない例もあり, 球麻痺や悪性腫瘍との鑑別など確定診断に時間を要し, 治療開始の遅れから後遺障害を残した例も報告されている. 今回われわれは血清抗体価および疱疹から VZV 再活性化が原因と考えられるものの, 顔面神経麻痺を伴わずに急性発症した下位脳神経麻痺2例を経験した. 渉猟し得た22例と合わせ, 考察を加え報告する.