著者
中野 貴司
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.120, no.3, pp.171-179, 2017

<p> ワクチンで付与される免疫は, 病原体特異的な能動免疫であり, 感染症の予防に極めて有用である. ワクチンは, その製造方法により「生ワクチン」と「不活化ワクチン」に大きく分類される. 生ワクチンは弱毒化された病原体が主成分であり, 不活化ワクチンは感染力をなくした病原体やその成分で製造される. 予防接種法で規定されたワクチンは,「定期接種」として公費で接種される. それ以外のワクチンは「任意接種」であるが, 疾患を予防するという重要性において何ら差異はない. 1948年に制定された予防接種法は, 時代の推移とともに何度か改定された. 2013年の改定は, 海外と比較して公的に接種されるワクチンが少ないわが国の「ワクチン・ギャップ」を解消することがひとつの目的であった. Hib, 肺炎球菌, HPV, 水痘, B 型肝炎など数多くのワクチンが定期接種に加わった. わが国においても, これらワクチンの普及により目ざましい効果が確認され, Hib 髄膜炎や水痘の患者は大幅に減少した. 一方, ワクチンは病原微生物を弱毒化や不活化して製造されるため, 副反応が起こる可能性をゼロにすることはできない. ただし, 接種後に, たまたま別の原因により身体に不都合な症状が出現したとしても, 副反応との鑑別が困難な場合はしばしばある. 実際の接種に際しては,「接種不適当者」や「接種要注意者」の定義と対処法, 接種間隔や使用薬剤に関する注意点などについて十分理解し, 適切な予診を行った上で接種する. 天然痘という人類の脅威であった疾患は, ワクチンの普及により地球上から根絶され, 高い費用対効果も確認された. 感染症対策の重宝な手段であるワクチンを上手く活用し, さらなる健康増進に努めたいと考える.</p>
著者
中村 賢二 山本 和久
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.80, no.7, pp.729-731, 1977
被引用文献数
2

The patient was a 21-year-old man who acquired unilateral deafness while he was exposed to extremely loud sound of discotheque for about 4 hours.<br> His hearing type was of a dish, with a mean hearing loss of slightly over 50 dB in the middle frequencies. He was positive for recruitment phenomenon. No abnormal temporary threshold tone decay could be observed. He received treatment for approximately 2 months with slight improvement in hearing. Only 10 dB was elevated in frequencies of 500 Hz or below during treatment.<br> He had no subjective symptoms such as vertigo, dizziness and giddiness, nor any abnormal findings in equilibrium tests.<br> He was diagnosed as noise-induced sudden deafness caused by the sound of discotheque.
著者
村井 紀彦 谷口 善知 高橋 由佳 安原 裕美子 窪島 史子 楯谷 一郎
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.114, no.7, pp.615-619, 2011-07-20
参考文献数
16
被引用文献数
5

目的: 2004年に日本臨床細胞学会において提唱された, 唾液腺細胞診に関する新報告様式の当科での運用状況, 有用性と問題点を検討すること. 対象と方法: 2006年から2010年までの4年間に, 術前穿刺吸引細胞診と外科的切除を行った44例を対象とし, カルテをレトロスペクティブに調査し, 細胞診の結果, 病理組織診断等を記録した. 結果: 耳下腺原発が33例, 顎下腺原発は11例, 悪性は8例, 良性は36例であった. 良性例のうちの2例は検体不適正であり, また, 良性例のうちの4例と悪性例のうちの1例は「鑑別困難」と判定された. 真陽性は3例, 真陰性は30例で, 偽陰性が4例あり, 偽陽性例はなかった. 感度, 特異度, 正診率はそれぞれ42.9% (4/7), 100% (30/30), 89.2% (34/37) であった. 精度管理指標については, 検体不適正率は4.5% (2/44), 良悪性鑑別困難率は11.4% (5/44), 悪性疑い例の悪性率は100% (2/2) であった. 結論: 新報告様式の使用により, パパニコロウ分類の報告結果に対する臨床医の解釈の曖昧さが減少し, 臨床的に有意義であると考えられた.
著者
五島 史行 鈴木 法臣 原 真理子 土橋 奈々 守本 倫子
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.120, no.3, pp.285, 2017-03-20 (Released:2017-04-19)

掲載号:118巻7号,860-866頁参考文献にしたがって5歳以上と5歳未満の2群に分けて解析せねばならないところを誤って7歳未満と7歳以上に分けて解析したため,上記論文を取り下げたい旨の申請が著者からあり,これを承認した.
著者
中屋 宗雄 森田 一郎 奥野 秀次 武田 広誠 堀内 正敏
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.105, no.1, pp.22-28, 2002-01-20
参考文献数
30
被引用文献数
1 2

目的: ライフル射撃音による急性音響性難聴の聴力像と治療効果に対する臨床的検討を行った.<BR>対象と方法: ライフル射撃音による急性音響性難聴と診断され入院加療を行った53例, 74耳とした. 治療方法別 (ステロイド大量漸減療法群23耳とステロイド大量漸減療法+PGE<SUB>1</SUB>群51耳) と受傷から治療開始までの期間別 (受傷から治療開始まで7日以内の群42耳と8日以降の群32耳) に対する治療効果と聴力改善 (dB) についてretrospectiveに検討した. また, 各周波数別に治療前後の聴力改善 (dB) を比較検討した.<BR>結果: 全症例の治癒率19%, 回復率66%であった. ステロイド大量漸減療法群では治癒率17%, 回復率78%, ステロイド大量漸減療法+PGE<SUB>1</SUB>群では治癒率24%, 回復率63%であり, 両者の群で治療効果に有意差を認めなかった. 受傷から7日以内に治療を開始した群では治癒率21%, 回復率78%, 受傷から8日目以降に治療を開始した群では治癒率16%, 回復率50%であり, 受傷から7日以内に治療を開始した群の方が有意に治療効果は高かった. 入院時の聴力像はさまざまな型を示したが, 2kHz以上の周波数において聴力障害を認める高音障害群が50耳と多く, 中でも高音急墜型が20耳と最も多かった. また, 治療前後における各周波数別の聴力改善 (dB) において, 500Hz, 1kHzの聴力改善 (dB) は8kHzの聴力改善 (dB) よりも有意に大きかった.<BR>結論: 今回の検討で, 受傷後早期に治療を行った症例の治療効果が高かったことが示された. また, 高音部より中音部での聴力障害は回復しやすいと考えられた.
著者
島田 哲男 飯泉 修
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.77, no.1, pp.72-79, 1974-01-20 (Released:2008-03-19)
参考文献数
6
被引用文献数
1

静岡県富士市元吉原地区は,昭和44年度,SO2濃度が年平均0.075ppmが記録され,大気汚染が極めて高度である事が考え.られた.又同市は,クラフトパルプ製造工程中に:放出される臭気(ジメチルサルファイド,硫化水素,メチルメルカプタン等)により地域住罠の悪莫公害を受ける影響も憂慮された.我々は,昭和45年,昭和46年の2年間にわたり,富士市内で最も大気汚染の影響をうけていると考えられる地区の小学校児童を選び,周辺の比較的大気汚染の影響が少いと考えられる富士宮市内の小学校児童を対象として,鼻症状に関するアンケート用紙,及び鼻鏡検査から,学童の鼻副鼻腔疾患の頻度を調べ,汚染校と対象校に差があるか,どうかを検討した.さらに,絶えず悪臭にさらされている学童の嗅覚閾値は,対象地正の学童にくらべ,差があるのか否かも合せ検討した.なお,嗅覚閾値検査は,嗅覚斑会議で定めた10種基準臭の内,3種を用い,汚染,対象,両校とも全く臨床的に正常と考えられる児童を選び行った.結累:(1)慢性副鼻腔炎を有する児童は,対象校に比し,汚染校に高率であつたが,推計学的には有意差はなかつた.(2)慢性鼻炎を有する児童は,汚染校にやや高率であるが,推計学的には有意差はなかつた,(3)アレルギー性鼻炎を有する児童は,汚染校に高率であるが推計学的には有意差はなかつた.しかし,汚染の程度が最も高度である一校についてのみ検討すると,極めて高率であり,対象校にくらべ,推計学的にも有意差をみとめた.(4)3種基準嗅検査の内,2種の検査についてまで,汚染校児童は対象校児童にくらべ,嗅覚閾値低下の傾向を認め,嗅覚過敏状態にある事を認めた.
著者
立川 拓也 熊澤 博文 京本 良一 湯川 尚哉 山下 敏夫 西川 光重
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.104, no.2, pp.157-164, 2001-02-20 (Released:2010-10-22)
参考文献数
21
被引用文献数
4 7

1984年から1998年の15年間に関西医科大学耳鼻咽喉科において手術を施行した甲状腺分化癌を対象に統計学的観察と予後因子の検討を行った.対象症例は乳頭癌177症例, 瀘胞癌50症例, 男性45名, 女性182名, 年齢は13歳から89歳であった.年度別症例数から甲状腺腫瘍症例の増加, 特に乳頭癌の増加が確認された. 一方瀘胞癌の症例数の増加傾向は見られなかった.年齢分布として乳頭癌は40代から60代にpeakを認め, 瀘胞癌は50代にpeakが認められた.原発巣切除に関して, 乳頭癌はT因子が大きくなるにつれ, より広い原発巣切除が行われていたが, 瀘胞癌は術前, 術中に確定診断がつきにくいためか, 峡葉切除術が大部分 (70%) を占めていた.リンパ節郭清に関して, 乳頭癌症例はTが大きくなるに従い, より広い範囲の郭清術が施行されていた. 一方瀘胞癌症例は原発巣切除と同様確定診断がつきにくいためか, リンパ節郭清は70%がD1領域郭清であった.局所再発が22症例, 遠隔転移が6例に認められた. 局所再発22症例中手術で14例がsalvageできた.死亡症例は17症例に認められ, 乳頭癌12症例 (原病死は11症例), 瀘胞癌5症例 (原病死は2症例) であった. 原病死13症例の中でT4症例が10例, T3症例が3例, Nla症例が3例, Nlb症例が8例を占めていた. 死亡症例に関してはやはり進行症例が多かった.予後因子としてT, N, M, 年齢, 性別を対象として検討した. 乳頭癌の予後因子は被膜外浸潤, 遠隔転移, 年齢であり, 瀘胞癌の予後因子は遠隔転移であった.乳頭癌の5年生存率は93.0%, 10年生存率は88.8%であった. また瀘胞癌の5年, 10年生存率は93.5%であった.今回は分子生物学的検討, 癌遺伝子の検討は行わなかったが, T1N0乳頭癌症例で頸部再発を認めたことから今後はこれらの検討も必要と考えられる.
著者
藤 さやか 平井 美紗都 茂原 暁子 中井 貴世子 折田 頼尚
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.119, no.8, pp.1117-1126, 2016-08-20 (Released:2016-09-08)
参考文献数
17
被引用文献数
4

2006年から2013年までに鼻出血を主訴とし当科で加療した1,096件 (923人) を対象とした. 男性628件 (57.3%), 女性468件 (42.7%) で, 平均年齢は58.3歳 (1~98歳) であった. 出血部位はキーゼルバッハ567件 (51.7%), 出血なし288件 (26.3%), 出血点不明93件 (8.5%) と続いた. 初診時に行った止血法は, 電気焼灼47.1%, 経過観察24.0%, 局所止血剤20.6%で, 鼻中隔出血に対しては主に電気焼灼を行い, 鼻中隔以外の出血にはガーゼパッキングや局所止血剤が多く用いられていた. 1,096件中, 入院対応とした群は66件 (6.0%) であり, うち再出血あり群19件, なし群47件で, 帰宅対応とした1,030件 (94.0%) のうち, 再出血あり群116件, なし群914件であった. 入院群では, 出血点不明や鼻中隔以外からの出血が多く, 主にガーゼパッキングで止血し, 高血圧や心疾患既往, 抗血小板薬の内服歴, 前医での処置を受けた症例が有意に多かった. 名義ロジスティック回帰分析による初診時点での再出血リスク因子は, 出血点が上鼻道・中鼻道・不明な症例, 高血圧の既往, ガーゼパッキングが有意なリスク因子であった. 中でもガーゼパッキングを行わざるを得なかった症例は電気焼灼よりも約4倍再出血を来しやすく, 出血点を同定しピンポイントで止血処置を行うことが重要と考えられた.
著者
村田 志朗 前坂 明男 宮崎 為夫 木下 弘治 北川 和久 田近 由美子 滝元 徹 加勢 満
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.81, no.7, pp.655-664, 1978-07-20 (Released:2008-03-19)
参考文献数
23
被引用文献数
5 7

Nine hundred and fifty one cases of epistaxis were observed for the past 7 years. Epistaxis was observed more frequently in males than in females and was frequently observed in children.It occured more frequently from May to August, showing a peak in June.The negative correlation was observed statistically between the frequency of epistaxis and the atmospheric pressure.Hemorrhagic diathesis was examined in 114 cases. About 28 per cent of them showed abnormality, especially in the capillaly fragility.Children with nasal bleeding showed the tendency of disliking of foods containing vitamine C.
著者
平野 実 小池 祐一 広瀬 幸矢 森尾 倫弘
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.76, no.11, pp.1341-1973_2, 1973-11-20 (Released:2008-12-16)
参考文献数
11
被引用文献数
16 5

研究目的:声帯は発声中,極めて高頻度の激しい運動を行う振動体である.このような声帯の構造を主として組織学的レベルで検討し,振動体としてみた声帯の特長的構造を解明することを目的とする.研究方法:1) 正常人声帯10例について,パラフィン包埋切片標本を作製し,各種染色を施して,声帯膜様部中央の構造を組織学的に検討した.特に声帯遊離縁部における粘膜固有層の構造に主眼をおき,弾力線維,膠原線維の分布上の差を検索した.2) 人摘出新鮮喉頭3例を用いてVan den Berg類似の装置を使用して吹実験を行い,声帯の振動状態をストロボスコープで観察,写真に記録した.その後同一喉頭の組織標本を作製して,ストロボ所見と組織像との対比を行い,振動部位の検討を行つた.研究結果:1) 人声帯は組織学的に粘膜上皮,粘膜固有層,声帯筋の3部分から構成される.声帯遊離縁部では上皮は重層扁平上皮から成り,この部の粘膜固有層は,弾力線維および膠原線維の分布の差によつて,浅層,中間層,深層に区別される.上皮直下の浅層は組織そのものが疎であり,中間層は弾力線維が主,深層は膠原線維が主でともに密な組織より成る.各層ともそれぞれの中では,ほぼ均質の構造をなす.固有層浅層と中間層との結合は疎で明確であるが,固有層中間層と深層,固有層深層と声帯筋との結合部は密で互いに入り組んでいる.弾力線維,膠原線維はともに声帯の長軸に対して平行に走る.また,この領域には大きな血管や喉頭腺などの存在を認めない.2) 摘出喉頭による吹鳴モデル実験で,ストロボ所見と組織像とを対比してみると,粘膜表面にみられる波動は重層扁平上皮領域内のみに生じる.従つて,振動に最も強く関与する部位は声帯粘膜固有層の中でも,弾力線維の最も密な,いわゆるLig. vocaleのある部位に相当することになる.まはストロボで観察される最大開大位の場合の粘膜側方移動距離は代表的1例では0.8mmであり,組織像での計測で上皮より声帯筋迄の距離1.5mmより小さい.3) 以上の2つの研究結果から,声帯の振動に関与する重層扁平上皮領域は組織学的には4層に分けられ,発声時にはこれら全体が一様に動くとは考えにくい.声帯を振動体として物理的にモデル化して考えると,声帯筋を主体とするボディーと上皮および固有層浅層からなるカパーの二重構造が想定され,固有層中間層および深層は両者の移行部と考えてよい.喉頭調節や呼気圧の状態によつては,移行部やボディー迄波動が及びこともあると考えられる.しかし,概て粘膜波動の主役は粘膜固有層浅層であろう.
著者
稲垣 洋三 坂本 耕二 井上 泰宏 今西 順久 冨田 俊樹 新田 清一 小澤 宏之 藤井 良一 重冨 征爾 渡部 高久 山田 浩之 小川 郁
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.114, no.12, pp.912-916, 2011 (Released:2012-01-28)
参考文献数
15
被引用文献数
1 3

[背景] 甲状腺乳頭癌 (以下PTC) の頸部リンパ節転移の診断法としては画像検査や穿刺吸引細胞診 (以下FNAC) が一般的であるが, 原発巣が微細でかつ頸部リンパ節転移が単発嚢胞性の場合には診断に苦慮することがある. このような症例には穿刺液中サイログロブリン (以下FNA-Tg) 測定が有用といわれているが, PTC転移以外の嚢胞性病変も含めた検討は少ない. 今回われわれは, PTC転移およびそれ以外の頸部嚢胞性病変のFNA-Tgを測定し, PTC転移に対する補助診断としての有用性を検討した. [対象] 2006年7月~2009年2月に頸部嚢胞性病変またはPTCの嚢胞性頸部リンパ節転移を疑う病変に対し, 手術を施行し病理組織学的診断が確定した17例. [方法] 超音波ガイド下に (一部症例は術後検体より) 穿刺採取した嚢胞内容液のFNA-Tg値を測定し, FNACおよび病理診断との関係について検討した. [結果] FNA-TgはPTC転移例のみ異常高値を示したのに対し, 側頸嚢胞例では測定感度以下, 甲状舌管嚢胞例では血中基準値範囲ないし軽度高値であった. [結論] FNA-Tg高値はPTC転移を示唆する有力な所見で, 特にFNACで偽陰性を示すPTC嚢胞性リンパ節転移と側頸嚢胞との鑑別に有用であった. FNA-Tg測定の追加によりFNAC施行時に新たな侵襲を加えずに術前正診率を向上させられる可能性が示唆された.
著者
大野 仁嗣
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.117, no.1, pp.1-9, 2014-01-20 (Released:2014-02-22)
参考文献数
34

悪性リンパ腫の診断・分類は, 病理形態やフェノタイプ解析によるところが大きいが, 染色体・遺伝子変異の情報も極めて重要である. 悪性リンパ腫には多くの染色体転座が認められ, 病型や病態と密接に関連している. 染色体転座は, 転座切断点に位置する腫瘍関連遺伝子が抗原受容体遺伝子に近接することによって発現調節に異常を来すタイプと, 転座によって2つの遺伝子が融合しキメラ蛋白をコードするタイプに大別される. 悪性リンパ腫に認められる転座の多くは前者に属し, 特に免疫グロブリン遺伝子と関連した転座の頻度が高い. 染色体分析はGバンディングに加えてFISH解析を行う. FISHは染色体転座切断点に該当する2つのDNAプローブを異なる蛍光色素でラベルし, 蛍光顕微鏡下で融合シグナルや分離シグナルを観察する方法である. FISHは分裂核だけでなく, 間期核にも応用可能である. B細胞リンパ腫の代表的な染色体転座である t(8;14)(q24;q32) と t(14;18)(q32;q21) は, 免疫グロブリン重鎖遺伝子の各領域と, MYC遺伝子やBCL2遺伝子に設計したプライマーを用いたPCRで転座接合部を増幅することができる. 濾胞性リンパ腫では t(14;18)(q32;q21), マントル細胞リンパ腫では t(11;14)(q13;q32), MALTリンパ腫では t(11;18)(q21;q21) と t(1;14)(p22;q32), 未分化大細胞リンパ腫では t(2;5)(p23;q35) が高い頻度で認められ, 病型特性が高い. 一方, びまん性大細胞型B細胞リンパ腫では t(8;14) や t(14;18) に加えて, BCL6遺伝子を標的とする t(3q27) の頻度が高い. それぞれの病型には, アレイ解析や次世代シークエンサーによって明らかになったゲノム変異の知見が蓄積され, 悪性リンパ腫発症のメカニズムが次第に明らかになっている.
著者
神田 幸彦
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.114, no.8, pp.703-712, 2011-08-20
参考文献数
3

補聴器 (右耳) と人工内耳 (左耳) を装用する医師として243名の人工内耳手術を執刀医として経験したこと, 10年前に開業し人工内耳・聴覚リハビリ医療機関で行ってきた補聴器適合, 人工内耳と補聴器の聴覚リハビリテーションを通して筆者自身の難聴の経験と医療の現場を通して得られたことを振り返って報告した. 医学生時代の24歳から20種類以上の補聴器を装用, アナログからデジタル, そして最近では第3世代のデジタルも出現, ISP (統合信号処理) やFMなども進歩している. 使用してきた補聴器の利点を報告した. 一方, 人工内耳は2004年に補聴器非装用側に「より良い聴覚の獲得」を目的として, 以前留学していたドイツ・ビュルツブルグ大学で人工内耳手術を受けてきた. 現在6年が経過したが, 補聴器との両耳聴により, 騒音下・離れたところからの会話・早口の会話・音楽の聴取などがより改善された. 現在は左の人工内耳だけでも会話可能で装用閾値は20-30dB, 語音明瞭度 (67-S) は左人工内耳のみで95%, 騒音下 (S/N=0, 70/70) で90%である. 両耳聴では50, 60, 70dBSPLすべての提示音圧, 騒音下で100%となった. 人工内耳も最新の器機では聴取能アップが進んでいる. 筆者自身の難聴の経験, 聴覚の回復の過程, 患者としての心理, 補聴器・人工内耳の近来の進歩と人工内耳の未来について考察を加え報告する.