著者
千代延 和貴 石永 一 大津 和弥 竹内 万彦
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.118, no.6, pp.757-762, 2015-06-20 (Released:2015-07-18)
参考文献数
13
被引用文献数
1 7

魚骨異物は口蓋扁桃や舌根部に多く認められ, 視診のみで診断可能なことが多いが, 口腔咽頭の粘膜下に刺入した魚骨異物は診断および摘出が困難な場合が多い. 今回舌筋層内に迷入した魚骨異物症例を経験した. 症例は49歳男性で, 鯛を摂食した直後から咽頭痛を自覚し, 近医耳鼻咽喉科にて粘膜下異物が疑われ当科紹介となった. 視診上は口腔咽頭に魚骨を認めず, CT を撮影すると舌筋層内に魚骨異物を認めたため, 緊急手術を行った. 術中にも触診では魚骨を発見できなかったため, 術中 CT 撮影を行い, 魚骨の存在位置を確認し摘出し得た. 本症例は魚骨が舌筋層内に迷入したまれな症例であり, 異物の存在位置の評価に術中CTが有効であった.
著者
中島 格
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.117, no.11, pp.1367-1375, 2014-11-20 (Released:2014-12-19)
参考文献数
20
被引用文献数
1

喉頭の機能は大きく発声・呼吸・嚥下・下気道保護に分けることができる. この中で, 下気道保護の役割としては, 誤嚥や異物侵入に対して, 反射的に声門を閉鎖する喉頭反射が知られる. 生体の免疫現象は, 液性免疫 (免疫グロブリン) や細胞性免疫が知られるが, 気道や消化管には粘膜で発現する局所免疫が存在する. 局所粘膜免疫の特徴は, 1) 微生物などの外来抗原が体内へ侵入するのを粘膜局所で阻止する, 2) 局所で産生された免疫グロブリン, 主に分泌型 IgA が中心的役割を担っている, 等である. 著者は下気道保護としての「喉頭の粘膜局所免疫」に注目し, 喉頭でも粘膜内で分泌型 IgA が活発に産生され, 特に声帯と仮声帯に挟まれた喉頭室を中心に, 局所免疫が活発に作動することを明らかにした. 一方, 喉頭癌の最大の危険因子である喫煙の影響を検討する目的で, 摘出喉頭粘膜の線毛上皮から扁平上皮化生への変化を画像解析装置で解析した. 上皮化生の程度は, 刺激に暴露する前庭部, 仮声帯に著しく, 喫煙者ほど上皮化生率が高くなっていた. 本来分泌上皮で覆われる喉頭室粘膜でも, 喫煙者では部分的に上皮化生部分が観察された. 移行部を増殖因子などによって免疫組織学的に観察すると, 粘膜が肥厚した部分では基底部に増殖活性を有する細胞が増え, 細胞配列の乱れ, 異型細胞さらには上皮内がんの発生を予想させた. したがって, 危険度の高さから言えば喉頭癌こそ, 喫煙者に特異的ながんといえる. 喉頭癌の治療は, 早期がんなら放射線やレーザー, 進行がんでは手術と放射線治療の組み合わせが行われてきた. その結果, 治療成績は頭頸部癌の中でも極めて高く,「喉頭癌は治るがんの代表」と言っても過言ではない. 今後の課題は, 音声機能を保存した治療の確立で, 動注化学療法の導入や, 手術療法の工夫がなされ, 今後さらに発展することが期待されている.
著者
調所 廣之 福島 淑子 小柳津 聖子 岡 嗣郎 黒石 敏弘 風間 玲子 藤居 荘二郎 浅賀 英世
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.83, no.5, pp.519-523, 1980-05-20 (Released:2008-03-19)
参考文献数
7
被引用文献数
3 2

A standard olfactory acuity test using T & T olfactometer has recently been developed and gradually becomes in wide use, while the conventional intravenous olfaction test is also widely used.In the present experiment we studied the relationship between results of these olfactory tests and prognosis in 180 patients with olfactory disturbances who had received the nose-drop treatment with glucocortico steroid hormone. As a result, cure or improvement was attained in 88 percent of the patients who gave a positive reaction to the standard olfactory acuity test and in 66 percent of those who were judged to be scaleout in this test.In the case of the intravenous olfaction test, cure or improvement was attained in 90 percent of cases which gave a positive reaction and in 40 percent of the negative cases. Particularly in reference to the patients who gave a negative reaction to the intravenous olfaction test, one out of 65 cases attained cure and 39 cases remained unchanged. The intravenous olfaction test proved most effective among the tests to tell the prognosis of olfactory disturbances.
著者
大迫 廣人 春田 厚 坪井 陽子 松浦 宏司 小宗 静男
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.104, no.5, pp.514-517, 2001-05-20 (Released:2010-10-22)
参考文献数
14
被引用文献数
2 4

耳かきによる機械的刺激が外耳道湿疹の原因となり, その繰り返す慢性炎症が癌誘発の一因と考えられた外耳道癌症例を経験した. 外耳道肉芽腫を伴う外耳道湿疹が軽快せず平成9年7月生検を行った結果, 左外耳道癌と診断された. 外科的治療および化学療法, 放射線治療を行うも効を奏せず腫瘍が拡大進展し, 約8ヵ月後には対側の右外耳道に癌が発症した. 最終的に不幸な転帰をとったが, 両耳の病巣についてDNA遺伝子解析を行いその結果P53遺伝子の異常により両外耳道癌は転移性癌ではなく全く独立した重複癌ということが判明した.
著者
鈴木 幹男
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.122, no.6, pp.862-867, 2019

<p> ヒト乳頭腫ウイルス (HPV) 関連中咽頭癌が欧米諸国では年々増加している. 本邦でも中咽頭癌の約50%が HPV 関連癌と推定されている. HPV 関連中咽頭癌の診断にはウイルスそのものではなく, p16 免疫染色が用いられる. 中咽頭癌検体を用いた解析では p16 過剰発現例は HPV 感染を伴っている. ただし, p16 が過剰発現しているが, HPV 感染がみられない例も報告されている. これらの症例では HPV 関連中咽頭癌よりも予後が悪いことが示されており, 慎重に取り扱う必要がある. 中咽頭以外の頭頸部癌では, 中咽頭癌と同様に p16 過剰発現を HPV 関連癌の診断基準としてよいか結論がでておらずさらに検討が必要である. 同時に中咽頭癌以外の HPV 関連癌の予後や臓器温存率について今後明らかにしていく必要がある.</p>
著者
小川 洋
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.116, no.3, pp.140-146, 2013-03-20 (Released:2013-06-28)
参考文献数
36
被引用文献数
1

サイトメガロウイルス(CMV)はヘルペスウイルスに属し,免疫健常な宿主に感染した場合,無症候性または軽症の症状を呈するのみで,初感染後宿主の体内に潜伏感染し,生涯宿主と共存するという特徴を持つ.CMV 感染で問題となるのは胎内感染と,免疫不全に陥った場合における感染,再活性化である.聴覚障害は胎内感染によるものが主体である.CMV 胎内感染症は,先天性ウイルス感染症の中で,最も頻度が高いと言われ出生時無症候であっても,聴覚障害,精神発達遅滞などの障害を遅発性に引き起こすことが知られている.胎内感染に伴う神経症状では聴覚障害の頻度が高く,先天性高度難聴の原因としてCMV 感染が高い割合を示すことが明らかになってきた.本稿ではCMV の特徴とCMV 感染による聴覚障害の疫学,感染モデルにおける検討,治療に関して解説する.
著者
岡野 晋
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.122, no.1, pp.22-28, 2019-01-20 (Released:2019-02-01)
参考文献数
12

頭頸部癌に対する薬物療法は, 主に殺細胞薬, 分子標的薬が用いられてきたが, 昨年からは従来の薬剤とは大きく異なる作用機序を有する免疫チェックポイント (CP) 阻害薬が使用可能となり, 新たな選択肢が加わった. がん細胞は, 腫瘍微小環境における免疫監視機構から逃れるために, 免疫 CP であるプログラム細胞死リガンド1 (Programmed cell death ligand 1: PD-L1) を過剰発現しており, T 細胞表面にある受容体であるプログラム細胞死1 (Programmed cell death 1: PD-1) に特異的に結合することで免疫システムを抑制する (免疫逃避機構). 免疫 CP 阻害薬は, この免疫逃避機構を阻害することにより, 自己免疫による攻撃を活性化する薬剤である. 薬物療法適応患者の選択は背景論文, ガイドライン・ガイダンスなど, レジメンの選択は全身状態, 臓器機能などを参考に行うが, 実臨床における患者背景はさまざまであり悩むことがある. 適切な選択を行わなければ, 十分な治療効果を得ることができないだけでなく, 予期せぬ有害事象の発生やほかの治療への影響が出ることもあるため, 安易な選択に基づいた薬物療法は控えなければならない. 免疫 CP 阻害薬の重篤な有害事象の頻度は低いものの, 従来の薬剤とは全く異なる事象が起こり得るため, その管理には細心の注意が必要である. 代表的なものには, 消化器障害 (下痢, 大腸炎, 消化管穿孔), 内分泌障害 (下垂体炎, 甲状腺機能低下症, 副腎機能不全, 糖尿病など), 皮膚障害 (皮疹, 掻痒など) などが挙げられるが, いずれの事象も早期発見・早期治療が行われなければ極めて重篤となり得るため, チーム医療が必須の薬剤である. 免疫療法の治療開発は今まさに全盛期であり, 再発転移例だけでなく局所進行例も含め, 抗 PD-1 抗体薬, 抗 PD-L1 抗体薬を用いた治療開発が数多く進んでいる. さらに, がんゲノム医療, 新規化学療法, 光免疫療法の開発も進行しており, 今後の展開が期待される.
著者
讃岐 徹治
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.121, no.11, pp.1424-1426, 2018-11-20 (Released:2018-12-05)
参考文献数
11
被引用文献数
2
著者
羽柴 基之 安井 桂子 渡部 啓孝 松岡 徹 馬場 駿吉
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.98, no.4, pp.681-696,759, 1995-04-20 (Released:2010-10-22)
参考文献数
80
被引用文献数
1

我々は, パソコンを使用してEOGで記録した水平追従眼球運動を自動的に定量評価する方法を開発した. 方法の骨子は, 視標追跡運動が滑動性追従眼球運動 (SPEM) と衝動性眼球運動 (saccade) という全く異なった2種類の眼球運動から成り立ってる事実に基づく. 眼球運動波形からsaccadeの生理学的条件に基づいて作成したアルゴリズムにより, saccade成分を抽出し, 取り除き, SPEM成分のみで再構築した眼球運動波形を周波数分析法により処理した. この方法により, SPEM成分のみの利得と位相の評価が可能になった.
著者
神崎 晶
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.118, no.1, pp.8-13, 2015-01-20 (Released:2015-02-05)
参考文献数
25

感音難聴の原因の多くは内耳障害によるものである. ところが, 内耳の細胞の多くは再生しないために, 難治性である. 内耳における細胞はさまざまなタイプの細胞から成立しており, 感覚細胞である有毛細胞, らせん神経細胞をはじめ, らせん靱帯, 血管条を含む外側壁などから構成されている. 内耳障害の原因として, 加齢, 遺伝性, 音響外傷, 薬剤性, 感染, 免疫異常, 内リンパ水腫 (メニエール病), 原因不明であるが突発性難聴などが挙げられる. これらの内耳障害に対して内耳再生医療は聴力回復のために人工内耳に代わる治療となり得るものであることが期待されていた. 20世紀末以降になると神経領域を含む再生のメカニズムが解明され, 蝸牛や前庭では, 内耳のさまざまな細胞の起源ともいえる「内耳幹細胞」が発見された. 有毛細胞を主として内耳発生のメカニズムから再生に必要である因子についても解明されてきた. その結果, 内耳に存在する内因性幹細胞からの分化誘導, あるいは内耳幹細胞移植によって, 有毛細胞, 神経細胞, らせん靱帯などの細胞を再生させるために理想的な治療法として期待される. 本稿では内耳再生のために内耳のさまざまな細胞の増殖および分化にかかわる最近の研究の取り組みを示すとともに, 臨床応用に向けた今後のロードマップを検討した. また上記治療はいずれも内耳局所投与によるものであり, 効率的, 確実かつ安全な投与法のために, われわれが取り組んでいる内耳内視鏡などの開発についても示した.
著者
大山 勝 三吉 康郎 荘司 邦夫 山本 真平 谷口 知恵子 渡辺 真吾 井 研治
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.79, no.9, pp.963-972, 1976-09-20 (Released:2008-03-19)
参考文献数
9

The bone-conducted vowels were picked up by the vibration transducer of the accelerationtype applying to three anatomical sites on the heads (forehead, upper jaw and mastoid region)of the healthy adults.A comparative studies on the speech signals from these three regions of the head were done acoustically. The results were summarized as follows; i) for the pickup of speech signals from the body surface, the vibration transducer of small acceleration type (Rion Co. PV-06)was the most satisfactory in point of a signal-to-noise ratio, intelligibility of the speech and practical use. 2) the relative intensities of the speech signals were decreased in regular order i, u, e, o and a. 3) the spectral characteristics of these vowels were highly similar to those which were recorded from the micropone at the position in the distance of 30 cm from the lips, although there was an inclination of the increased low-frequency components with the decrease of high-frequency in the spectrum. 4) from the results of the articulation score, intelligibility of the vowels was much better in recorded sounds from the upper jaw and forehead compared with that from the mastoid region.
著者
中冨 浩文
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.114, no.11, pp.851-854, 2011 (Released:2011-12-02)
参考文献数
8
被引用文献数
4 3

聴性脳幹インプラント (auditory brainstemim plant: ABI) の手術は, これまでの国内施術例が11例となった. いったいどのような患者に, どのような手術が行われたら, どのような聴取能が再獲得されるかであろうかという根源的な課題に対して, これらの11症例の解析から, 第4脳室底変形のない患者に, 7極以上の有効電極を設置できれば, ABIのみで21%以上の文聴取能を再獲得できるという答えを見いだせる段階まで発展してきた. 日本での長期の成績を中心にABIの現状を報告した.
著者
池田 卓生 関谷 透 木戸 利成 金谷 浩一郎 田原 哲也 原 浩貴
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.97, no.4, pp.703-708, 1994 (Released:2008-03-19)
参考文献数
7

今回我々は,北海道上砂川町にある地下無重力実験センター(Japan Microgravity Center: JAMIC)を利用する機会を得たので,これが身体平衡系の研究における新しい実験手段として有用であるかを検討する目的で,平衡系実験セット(姿勢•行動観察用及び筋電図記録用)を作製し,カエルを用いた予備実験を行った.1) 姿勢•行動観察では,無処置群において頭部が背屈し,四肢が伸展するという特徴的な姿勢が観察できた.また前庭神経切断群では,落下前の姿勢変化はそのまま持続し,障害側を下にする回転運動が見られた.2) 筋電図では,落下直後に前庭脊髄反射のためと考えられる筋活動の亢進を認めた.また前庭神経切断例では,術側の潜時が,やや遅延した.3) カエルは,落下実験施設を利用した平衡系実験の実験動物として適当である.4) 微小重力暴露時の身体平衡系の研究において,落下実験施設は非常に有用な実験手段である.