著者
牧山 清
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.89, no.4, pp.425-432, 1986-04-20 (Released:2008-03-19)
参考文献数
35
被引用文献数
1 1

It is well known that histamine is the most important chemical mediator of nasal allergy, and histamine hypersensitivity of the nasal mucosa has been also recognized in the patients with nasal allergy. Therefore, the degradation or inactivation of histamine released from basophilic cells following reaginic antigen-antibody reaction is very important in the patients from a view point of the defence mechanism of the body. The purpose of this study is to investigate the levels of plasma histaminase of allergic patients both in pollen season and in season without pollen of Japanese cedar. The patients have developed clear symptoms due to allergen challenge during the pollen season. Higher plasma histaminase activity was revealed in pollen season than that out of season. Furthermore, close relations were recognized among the plasma histaminase activity and nasal symptoms, local findings, eosinophils in nasal secretion, and histamine sensitivity of nasal mucosa during the pollen season.

1 0 0 0 OA 舌癌手術

著者
朝蔭 孝宏
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.117, no.11, pp.1384-1387, 2014-11-20 (Released:2014-12-19)
被引用文献数
1
著者
外池 光雄 山口 雅彦 肥塚 泉 瀬尾 律
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.105, no.5, pp.549-556, 2002 (Released:2013-04-02)
参考文献数
25

21世紀が始まったばかりの今日,「明日の感覚器医学」に対して嗅覚の医学はどのような方向を目指すべきであろうか.筆者らは, 永年, 嗅覚の研究 (受容から中枢へ) に携わってきたが, それらを現時点で総括し,-「嗅覚の臨床医学」の展望:(要望と言うべきかも) を述-べる.本論文では, 嗅覚の他覚的機能検査法の現状を概観し, 次に筆者らがこれまでの共同研究によって推進してきた脳波 (EEG) と脳磁図 (MEG) を用いた嗅覚の非侵襲的・他覚的検査法について述べた.特に全頭型脳磁計を用いた匂いの脳磁図研究によって特定した脳内の嗅覚中枢部位の推定結果, 並びにオドボール実験課題によって得られた匂いの認知機能推定部位等について議論し, 能動的嗅覚検査についても触れた.最初に嗅覚の重要課題, 4項目を箇条書きで示した.嗅覚の他覚的検査法として, まず筆者らが注目したのは, 脳波を用いて人間の匂いの感覚を客観的に計測するという研究であった.これらの研究は, 永年の間, 筆者らと大阪大学耳鼻咽喉科との共同研究として行われてきた.次に実施したのが脳磁図による嗅覚の検査・診断を目指す研究であり, この研究の成果として, 人間の嗅覚中枢を初めて大脳左右の前頭葉眼窩野部に特定した.筆者らは122チャンネルの全頭型脳磁計を用いて被験者の呼吸に同期させた300msecの匂い (アミルアセテート, バナナ臭) 刺激パルスを左右どちらか片側の鼻腔に注入刺激し, 嗅覚性誘発脳磁図の応答計測に成功した.このMEG嗅覚実験では, 6人の嗅覚正常なすべての被験者において大脳の両半球の前頭眼窩野部に匂い刺激によるMEG反応を認めた.さらに筆者らは快い匂いのアミルアセテートと不快臭のイソ吉草酸の2種類を用いて, オドボール課題による嗅覚MEG実験を初めて行った.この結果, まず嗅覚神経応答と考えられる約378msの潜時の応答が両側の前頭眼窩野部に求められ, この応答成分はrare刺激にもfrequent刺激にも観測された.さらにオドボール課題による嗅覚MEG実験のrare刺激応答のみに出現する潜時約488msの後期応答成分が初めて得られ, これは匂いの認知に関わる応答 (いわゆるP300m認知応答) であろうと推察された.本報は, 嗅覚の他覚的・客観的検査・診断法で重要と考えられるMEGを用いる嗅覚の侵襲計測・検査法の現状を中心に述べ, また, これから嗅覚の重要な課題になると思われるsni伍ngによる能動的嗅覚についても記述した.最後に, これまでの嗅覚研究の蓄積, 並びに臨床医学研究の現状を踏まえて,「明日の嗅覚-臨床医学の展望-に対する提案」を5項目掲げて示した.
著者
山本 哲夫 朝倉 光司 白崎 英明 氷見 徹夫
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.116, no.7, pp.779-788, 2013-07-20 (Released:2013-09-14)
参考文献数
20
被引用文献数
1 2

【目的】札幌周辺や北欧ではシラカバ花粉アレルギーが多く, 交差反応性のため, 果物や野菜に対する口腔咽頭過敏症を有する例が多い. 一方, 原因食物に関しては, リンゴなどの果物は北欧も札幌周辺も多いが, ナッツ類は北欧では多いものの, 日本では少ない. また国内でも, 地域により一部差があり, 花粉飛散や食習慣の差による可能性がある. 今回, 一般成人を対象に, 各食物の摂取歴と過敏症の頻度を調査した.【方法】対象は20歳から67歳の339例で, アンケート用紙を用い, 33種の果物, 野菜, ナッツ類の摂取歴と過敏症の有無を質問した.【結果】摂取歴はブラジルナッツが最も少なく30.1%で, ザクロ80.2%, ヘーゼルナッツ80.8%の順に少なかった. 北海道内の居住歴が20年以上の例は20年未満の例よりプラムの摂取歴が多く, ビワとイチジクとザクロの摂取歴が少なかった. 食物過敏症は53例 (15.6%) があると答えた. 口腔咽頭過敏症が最も多く46例 (13.6%) で, モモ (21例, 6.2%), サクランボ (19例, 5.6%), リンゴ (17例, 5.0%) が多かった. バラ科果物に対する口腔咽頭過敏症は7.7%が有しており, 北海道内の居住歴が20年以上の例では11.0%で, 20年未満の例 (4.2%) よりも多かった. ヘーゼルナッツやブラジルナッツは摂取歴, 過敏症とも少なかった.【結論】食物摂取歴と過敏症に関するアンケート調査を行ったところ, 両者ともナッツ類は少なく, 北海道内の居住歴によって摂取歴や過敏症の頻度に差のある食物があった.
著者
藤田 晃史 木村 有喜男 酒井 修
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.117, no.2, pp.75-80, 2014-02-20 (Released:2014-03-20)
参考文献数
27

MRIは1980年に臨床導入されて以来, その進歩は著しい. 3T超高磁場装置は約10年前に薬事認可され, 当初は主に研究用装置として使用されていたが, 現在では広く普及し, 一般臨床でも高空間・時間分解能MR画像が容易に得られるようになってきた. 装置の普及とともに, PROPELLER法 (BLADE法), 脂肪抑制画像や3次元画像データ収集の活用による画質改善, また拡散強調画像, 灌流画像, MR spectroscopy などの撮像法の発展もあり, 近年, 新たな知見が得られている分野も多い. 本稿では, 3T装置の特性について確認し, 今後ますます普及し, 日常臨床で有用と考えられる撮像法について概説する.
著者
河野 淳
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.119, no.2, pp.99-109, 2016-02-20 (Released:2016-03-10)
参考文献数
14
被引用文献数
1

人工内耳植込み術は, 高度難聴者に対する聴覚獲得の手段として確立されており, 当院においては1986年に多チャネル型人工内耳を本邦で初めて施行して以来, 2014年12月までに710の手術例を数え, 本邦においては既に1万例を超えた. 今回, 本手術を細分化してレトロスペクティブに検討するとともに, 本手術の流れについて記載する. また従来の人工内耳手術に加えて, 2014年7月には残存聴力活用型人工内耳 (electric acoustic stimulation: EAS) が保険収載された. 低音残聴の聴力型に適応されるが, 残存聴力を悪化させることはできないので手術には細心の注意が必要である. また, 特に小児の手術においては通常例といえない奇形や中耳発育不良例, 骨化例などがある. 通常例でも思わぬ事態に陥ることもあるので, 術者はさまざまなトラブルなどに対応する技術を身につけておく必要があり, 術前からの患者への説明を含め, 手術における細心の注意と術後の適切かつ慎重な管理が必要であるのも言うまでもない.
著者
西池 季隆 坂田 義治 加藤 崇 長井 美樹 小西 雅樹
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.105, no.10, pp.1065-1070, 2002-10-20 (Released:2008-03-19)
参考文献数
20
被引用文献数
2 4

平成6年から平成14年の間に市立吹田市民病院において治療した下顎骨骨折35例を検討した.男女比は2:1であった.年齢別では20歳代が最も多く全体の31%を占めた.受傷原因では,交通事故52%,殴打31%,転倒•転落17%であった.骨折部位の頻度は,関節突起33%,おとがい部25%,角部22%,体部10%,枝部10%であった.30歳未満では受傷原因として交通事故および殴打が有意に多く,30歳以上で転倒•転落が多かった.交通事故や転倒•転落では関節突起骨折が有意に多く,殴打では他の部位の骨折が多かった.治療は,チタンあるいは吸収性プレートによる観血的治療および顎間固定30例,顎間固定のみ2例,保存治療1例,他院での治療2例であった.顎間固定の期間は平均42日であった.6ヵ月以上経過を追えた22例中後遺症は6例であった.痛み4例,咬合不全1例,顎関節雑音1例,顔面神経側頭枝の麻痺1例であった.関節突起骨折では他の部位の骨折に比較して有意に後遺症が多く発生していた.今後の当院における下顎骨骨折治療の検討課題は,顎間固定期間の短縮化,吸収性プレートの適用の拡大,関節突起骨折の治療方法の検討であると考えられた.
著者
冨山 道夫
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.96, no.7, pp.1133-1140,1225, 1993-07-20 (Released:2010-10-22)
参考文献数
24

鼓膜切開を要した小児急性中耳炎症例81名にcefaclor (CCL) とfosfomycin (FOM) 点耳液を併用し有用性を検討した. その後1年間の経過観察を行い, 検査所見と治療経過, 予後との関連を調査し以下に示す結果を得た. 1) CCLとFOM点耳液の有効率は99%であった. 2) レントゲン検査で乳突蜂巣陰影 (蜂巣陰影), 副鼻腔陰影のある群は有意に経過が遷延した. 3) 蜂巣陰影のある群は難治な滲出性中耳炎に移行しやすく, 蜂巣陰影のある群と急性中耳炎の既往がある群では有意に急性中耳炎の再発を認めた. 4) 両側蜂巣に陰影がある群と陰影が片側例のうち対側耳に比べ患側耳の蜂巣発育が抑制されている群は, 再発や難治な滲出性中耳炎への移行を示しやすい傾向がみられた.
著者
北原 糺 堀井 新 近藤 千雅 奥村 新一 久保 武
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.110, no.11, pp.720-727, 2007-11-20
参考文献数
33
被引用文献数
3 7

[目的] 頭部や身体の動きに応じた平衡適応現象は動的代償と呼ばれ, 一定の治療により回復し得なかった末梢前庭障害患者の日常生活障害度を左右する重要な過程である. 今回, 前庭神経炎 (VN), めまいを伴う突発性難聴 (SDV), メニエール病 (MD), 聴神経腫瘍 (AT) を対象疾患として, 温度刺激検査およびめまい・ふらつきによる日常生活障害度アンケート (めまいアンケート) を施行し, 疾患別および半規管能別にめまいによる日常生活障害度を検討した.<br>[対象と方法] 対象は1997~2002年に大阪労災病院および大阪大学耳鼻咽喉科を受診した患者のうち温度刺激検査で一側半規管麻痺 (CP) を認め, めまいアンケートを施行できたVN34例, SDV25例, MD28例, AT14例.<br>[結果] めまいアンケートによる日常生活障害度は, SDV, VN, MD, ATの順に上昇した. また疾患を軽度CP (25%以上, 45%未満) と高度CP (45%以上, 100%以下) の2群に分けると, VN, SDVでは軽度CP群は高度CP群より有意に日常生活障害度が低かった. 一方, MD, ATでは両群間で有意差を認めなかった.<br>[考察] 末梢前庭障害が固定するVN, SDVは動的前庭代償がMD, ATより進みやすく, 障害の程度が軽い程代償は速やかであるが, 末梢前庭障害が変動し得るMD, ATは動的前庭代償がVN, SDVより進みにくく, 障害の程度が軽くても代償は速やかに進むとは言えないことが示唆された.
著者
西田 正剛
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日耳鼻 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.77, no.11, pp.931-943, 1974

目的:猫の一側耳に強烈な温度刺激を与えた後の聴覚系の変化を,第8神経活動電位(AP),蝸牛電位(CM)を指標として観察.記録し,前遜系と聴覚系の根関関係の一端を解明することを目的とした.方法:1)成猫を用い,ネソプタール麻酔の下に,後頭開頭術を行い,第8神経を露出し,双極電極を挿入し,APを導出した.又CMは花円窓誘導にて導出した.<br>猫の頭位を上方60&deg;に固定し,温度刺激として60&deg;Cの温水,及び10&deg;Cの冷水を各々50mlずつ外耳道より注入した.<br>音刺激としてはAP導出時はクリンクを,CM,導出時は1000Hzの持続純音な用い,温度刺激前後のAP,CMの変化を経時的に観察記録した<br>2)気管切開術を施行し,筋弛緩剤を使用人工呼吸の下にストリキニンを静注し,聴覚系下位遠心性線維であるOlivo-cochlear bundleをブロックして,1)と同様の測定を行った.<br>3)第8神経をその中枢端にて,できるだけ血流を保つたまま切断し,切断末梢側にAP導出用電極を挿入した,すなわちOlivo-cochlear bundleの関与を断つて1)と同様の測定を行った.<br>結果並に結論<br>1)60&deg;C温刺激,並に10&deg;C冷刺激後,APには1分後より振幅に著明な増大(60&deg;C,77%10&deg;C,75%)がみられた.<br>尚潜時,持続時間には変化がみられず,又振幅の変化は可逆的であつた.<br>一方CMには振幅の著明な減少がみられた(60&deg;C 45%,10&deg;C 45%減少).CMの変化も可逆的であつた.<br>AP及びCMの変化は振幅のみであり,その増減がAPは増大,CMは減少と逆であることから,中枢の開与を考えた.そしてOlivo-cochlear bundleに電気刺激を加えた時のAP,CMの振幅変化と正反対であることから,強烈な温度刺激によりOlivo-cochlearbundleが抑制されたものと推論した.<br>2)ストリキニンを使用して,あらかじめolivo-cochlear bundleをブロツクしたも規のでは,温度刺激後のAPの変化は一定せず,振幅増大25%,振幅不変50%,振幅減少25%であつた.潜時,持続時問には,変化がみられなかつた.<br>一方,CMには全く変化がみられなかつた.<br>3)第8神経切断後は,AP,CM共に温度刺激後に変化がみられなかつた.<br>2)及び3)により,1)で得た推諭,すなわち強烈な温度刺激により聴覚系遠心性線維であるOlivo-cochlear bundleが抑制されることを裏付け前庭系と聴覚系の特殊な関係の一端を明らかにした.
著者
平野 滋 中野 宏 松井 雅裕 新井 啓仁
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.120, no.9, pp.1140-1146, 2017-09-20 (Released:2017-10-03)
参考文献数
8
被引用文献数
2

この数年来, 甲状腺癌に対する薬物治療が激変している. かつて放射性ヨウ素 (RAI) 不応の再発・転移分化型甲状腺癌に対しては, 1970年代にドキソルビシンが治療選択肢として提唱されたが定着せず, その後長きに渡り RAI 不応甲状腺癌に対する有効な薬物治療法はなかった. 髄様癌や未分化癌について有効な薬物療法がなかったのは言うまでもない. 2014年に multi-target kinase inhibitor (m-TKI) であるソラフェニブ (sorafenib) の有効性が証明され, 日本でも保険適応となり, その後, レンバチニブ (lenvatinib), バンデタニブ (vandetanib) が相次いで登場し日常臨床における治療オプションがさらに充実するようになった. ソラフェニブは第3相ランダム化試験である DECISION 試験で, レンバチニブは同じく SELECT 試験において, RAI 不応分化型甲状腺癌に対しプライマリーエンドポイントである無増悪生存期間 (PFS) を有意に改善させた. その後, ソラフェニブは髄様癌に対する適応も取ったが, レンバチニブは分化型甲状腺癌,髄様癌, 未分化癌のすべてに適応を追加した. 分化型甲状腺癌における分子標的薬の適応は, 切除不能再発・転移病変で, RAI 不応かつ病勢進行の早いものとされるが, 開始のタイミングを逸すると効果が得られないので症例ごとの検討が必要である. また多彩な副作用が発生し得るが, 適切にコントロールすることで長期的な腫瘍制御は可能と考えられる. 慎重投与として大血管近傍, 気管・食道近傍, 皮膚浸潤などが指摘されており, 腫瘍縮小にともなう動脈出血が報告されている. 多くは未分化癌であるが, 従来治療困難な癌に対し優れた効果を認めており, 合併症対策を検討することが重要である. 分子標的薬使用中の手術についても創傷治癒遅延の懸念が示されているが, 十分な検討はなされていない. 大きな期待を持たれて登場した分子標的薬であるが, まだ十分に使いこなせているとは言えず, 外科医目線の検討が今後必要と考えられる.
著者
神田 幸彦
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.114, no.8, pp.703-712, 2011 (Released:2011-12-01)
参考文献数
3

補聴器 (右耳) と人工内耳 (左耳) を装用する医師として243名の人工内耳手術を執刀医として経験したこと, 10年前に開業し人工内耳・聴覚リハビリ医療機関で行ってきた補聴器適合, 人工内耳と補聴器の聴覚リハビリテーションを通して筆者自身の難聴の経験と医療の現場を通して得られたことを振り返って報告した. 医学生時代の24歳から20種類以上の補聴器を装用, アナログからデジタル, そして最近では第3世代のデジタルも出現, ISP (統合信号処理) やFMなども進歩している. 使用してきた補聴器の利点を報告した. 一方, 人工内耳は2004年に補聴器非装用側に「より良い聴覚の獲得」を目的として, 以前留学していたドイツ・ビュルツブルグ大学で人工内耳手術を受けてきた. 現在6年が経過したが, 補聴器との両耳聴により, 騒音下・離れたところからの会話・早口の会話・音楽の聴取などがより改善された. 現在は左の人工内耳だけでも会話可能で装用閾値は20-30dB, 語音明瞭度 (67-S) は左人工内耳のみで95%, 騒音下 (S/N=0, 70/70) で90%である. 両耳聴では50, 60, 70dBSPLすべての提示音圧, 騒音下で100%となった. 人工内耳も最新の器機では聴取能アップが進んでいる. 筆者自身の難聴の経験, 聴覚の回復の過程, 患者としての心理, 補聴器・人工内耳の近来の進歩と人工内耳の未来について考察を加え報告する.