著者
本間 善久 鈴井 孝仁
出版者
The Phytopathological Society of Japan
雑誌
日本植物病理学会報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.643-652, 1989
被引用文献数
35

<i>Pseudomonas cepacia</i> RB425およびRB3292は,抗生物質ピロールニトリンおよびシューダン(HMQ, NMQ)を生産し,ダイコン種子にコーティングすることによって,<i>Rhizoctonia solani</i>による苗立枯病を抑制した。<i>Cymbidium</i> spp.の褐色斑点細菌病菌<i>P. cepacia</i> A2およびA4は,シューダンは生産しないがピロールニトリンを生産し,発病抑制効果が認められた。<i>P. cepacia</i> ATCC No.25416は,いずれの抗生物質も生産せず,抑制効果がなかった。ニトロソグアニジンで誘導したRB425の突然変異株8菌株は抗生物質生産性に変異が認められ,培地上の3種の抗生物質生産性と,<i>R. solani</i>の幼苗への着生率抑制および発病抑制能との間に高い相関関係が認められた。種子当り10<sup>7</sup>cfuのRB425の生菌または,1.0μgの純化したピロールニトリンを種子にコーティングすることによって,およそ50%の発病抑制率が得られた。シューダンを種子当り40μgコーティングした場合には,ほとんど抑制効果がなかった。RB425のリファンピシンおよびナリジキシ酸耐性菌株を用いて播種後の菌数を測定したところ,種子当り9.4×10<sup>6</sup>, 4.7×10<sup>5</sup>および9.4×10<sup>4</sup>cfuコーティングした場合,7日目に幼根1g当り4.6×10<sup>5</sup>, 1.8×10<sup>4</sup>および5.3×10<sup>3</sup>cfuであった。種子コーティングしたRB425は,播種後,幼根表皮細胞の縫合部に沿って生育し,根圏で増殖するのがSEMによって観察された。これらの結果から,<i>P. cepacia</i> RB425はダイコン幼苗根圏で増殖でき,種子コーティングによるダイコン苗立枯病の抑制効果にピロールニトリンが重要な役割を有すると考えられた。
著者
佐藤 衛 福本 文良
出版者
日本植物病理学会
雑誌
日本植物病理學會報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.393-396, 1996-08-25
参考文献数
13
被引用文献数
1

香川県の3点のキャベツ, 三重県の2点および鳥取県の1点のブロッコリーからPeronospora parasiticaのサンプルを集め, 各サンプルから5菌株, 合計30の単胞子分離株を調製し, これらの宿主範囲を調査した。供試植物として, Brassica oleracea (カリフラワー, キャベツおよびブロッコリー18品種) の他, B. campestris (タイサイ, ミズナ, アブラナ, ハクサイおよびカブ8品種), B. juncea (カラシナ1品種), B. napus (ルタバガ1品種) およびRaphanus sativus (ダイコン2品種) を用いた。接種試験の結果, 分離源と同種の植物であるB. oleraceaの3作物の16品種は高い感受性を示し, 本種は宿主植物と考えられた。また, B. napusは中程度の感受性を示したことから宿主となる可能性が示唆されたが, B. campestris, B. juncea, R. sativusは抵抗性を示したことから非宿主と考えられた。供試したべと病菌はすべて同じ系統に属し, B. oleracea (B. napusも含む可能性がある) を宿主とする系統と考えられた。B. oleraceaの中でキャベツの2品種, ゴールデンベストおよびYR-さわみどりは抵抗性を示した。供試した単胞子分離菌株で病原性に違いは見られなかった。
著者
佐藤 衛 福本 文良
出版者
The Phytopathological Society of Japan
雑誌
日本植物病理学会報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.393-396, 1996
被引用文献数
11

香川県の3点のキャベツ,三重県の2点および鳥取県の1点のブロッコリーから<i>Peronospora parasitica</i>のサンプルを集め,各サンプルから5菌株,合計30の単胞子分離株を調製し,これらの宿主範囲を調査した。供試植物として,<i>Brassica oleracea</i>(カリフラワー,キャベツおよびブロッコリー18品種)の他,<i>B. campestris</i>(タイサイ,ミズナ,アブラナ,ハクサイおよびカブ8品種),<i>B. juncea</i>(カラシナ1品種),<i>B. napus</i>(ルタバガ1品種)および<i>Raphanus sativus</i>(ダイコン2品種)を用いた。接種試験の結果,分離源と同種の植物である<i>B. oleracea</i>の3作物の16品種は高い感受性を示し,本種は宿主植物と考えられた。また,<i>B. napus</i>は中程度の感受性を示したことから宿主となる可能性が示唆されたが,<i>B. campestris</i>, <i>B. juncea</i>, <i>R. sativus</i>は抵抗性を示したことから非宿主と考えられた。供試したべと病菌はすべて同じ系統に属し,<i>B. oleracea</i> (<i>B. napus</i>も含む可能性がある)を宿主とする系統と考えられた。<i>B. oleracea</i>の中でキャベツの2品種,ゴールデンベストおよびYR-さわみどりは抵抗性を示した。供試した単胞子分離菌株で病原性に違いは見られなかった。
著者
有江 力 難波 成任 山下 修一 土居 養二 木嶋 利男
出版者
日本植物病理学会
雑誌
日本植物病理學會報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.531-539, 1987-10-25
被引用文献数
2

Fusarium wilt of bottle gourd (Lagenaria siceraria Standl.) caused by Fusarium oxysporum f. sp. lagenariae is a serious and wide-spread soil-borne disease in Japan. In some fields of Tochigi prefecture, welsh onion (Allium fistulosum L.) has been mix-cropped customarily as an associate crop with bottle gourd. Those fields showed little occurrence of the disease, in spite of continuous cropping of bottle gourd. This phenomenon suggested the relation between mix-cropping with welsh onion and control of the disease. From the subterranean parts of the welsh onion, Pseudomonas gladioli were isolated frequently, and some of these bacterial isolates showed antifungal activity to F. oxysporum f. sp. lagenariae on BPA plates. But as they were usually pathogenic to roots of welsh onion, we had to select, for practical use, isolate that antagonized strongly to F. oxysporum f. sp. lagenariae, had no pathogenicity to welsh onion or other plants, and multiplied well on subterranean parts of welsh onion. Such an isolate P. gladioli M-2196 (isolated from Miltonia sp.) was selected from 90 isolates of Pseudomonas spp. from 20 kinds of plants. For the purpose of biological control of Fusarium wilt of bottle gourd, we cultured P. gladioli M-2196 on BP broth up t0 10^9 cells/ml, dipped the root systems of associate crop (welsh onion or chinese chive) in the cultural suspension for five min., and then bottle gourd was mix-cropped with associate crop in infected soil. With this treatment, occurence of Fusarium wilt was districtly suppressed. This mix-cropping using associate crop with P. gladioli M-2196 seemed to be a beneficial technique for biological control of soil-borne fungal diseases.
著者
有江 力 難波 成任 山下 修一 土居 養二 木嶋 利男
出版者
The Phytopathological Society of Japan
雑誌
日本植物病理学会報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.531-539, 1987
被引用文献数
9

ユウガオつる割病はユウガオの重要な土壌伝染性病害であるが,その連作にかかわらず,発生が認められない圃場が存在し,これらの圃場ではユウガオと共にネギの混植が慣行的に行われている例が多かった。そこで,この原因を調べたところ,現地のネギ地下部からは高率に<i>Pseudomonas gladioli</i>が分離され,これらはユウガオつる割病菌(<i>Fusarium oxysporum</i> f. sp. <i>lagenariae</i>)に対して高い抗菌性を示した。そこで,<i>Pseudomonas gladioli</i>を中心に,20種の植物より分離した<i>Pseudomonas</i>属細菌4種90菌株について,つる割病菌に対して強い抗菌性を有し,かつネギの地下部に定着性のある菌株を探究したところ,<i>P. gladioli</i> M-2196が選抜された。ネギおよびニラの地下部に本菌株を浸根接種し,ユウガオつる割病汚染土にユウガオと混植したところ,つる割病の発病が著しく抑制され,その実用性が確認された。以上の結果,抗菌性を持つ細菌と定着植物を用いた土壌病害の生物的防除の可能性が明らかになった。
著者
橋本 俊祐 河村 郁恵 中島 雅己 阿久津 克己
出版者
日本植物病理学会
雑誌
日本植物病理学会報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.78, no.2, pp.104-107, 2012 (Released:2012-06-01)
参考文献数
13
被引用文献数
1 2

The efficacy of Bacillus subtilis var. natto, a beneficial food microbe, was tested as a control for gray mold of strawberry. When five isolates of Bacillus subtilis var. natto were cultured with the gray mold fungus on potato sucrose agar plates, all isolates inhibited fungal growth. Isolate No. 2, which was the most inhibitory of the fungus in vitro, reduced disease progress in both detached leaves and flowers. These results suggest that isolate No. 2 of B. subtilis var. natto has potential as biological control agent of gray mold of strawberry plants.
著者
小泉 銘冊 久原 重松
出版者
日本植物病理学会
雑誌
日本植物病理學會報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.50, no.5, pp.620-627, 1984-12-25
被引用文献数
2 3

1965年頃からわが国西南暖地のカンキツに発生したにせ黄斑病の病原を究明するため, 各地から採取した罹病葉の生切片を懸滴培養した結果, 数種の酵母様微生物および細菌を得た。これらをナツミカン葉に葉肉注射接種した結果, 酵母様微生物の一部菌株が病原性を示し, 接種部は黄変症状を呈した。ウンシュウミカン未硬化葉に噴霧接種した結果, コロニー性状が異なる2種類の酵母様微生物のみ病原性を示した。その一つ (No. 3, 4, 6菌株) は病原力が強く, 左右非対称の射出胞子を形成し, 鮭肉色コロニーで菌糸を作らず, 専ら多極出芽で増殖することから Spobolomyces sp. と考えられた。他の菌株 (No. 10) は鹿児島県果樹試験場からの分譲菌株 (Ta-7415) と同一種で, 両者とも病原力は弱い。その特異的形態の菌糸から Aureobasidium sp.と同定した。噴霧接種での病原力や薬剤感受性の違い, 圃場での感染時期と生態的特性に関する既往の知見などから, Sporobolomyces sp.が主たる病原体と推定された。
著者
重田 進 中田 榮一郎
出版者
日本植物病理学会
雑誌
日本植物病理學會報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.150-157, 1995-04-25
参考文献数
15

A new bacterial disease of citrus was detected in Yamaguchi Prefecture in 1987. Symptoms appeared on the leaves and flowers of Iyo (Citrus iyo) in the field. In May, the symptoms on leaves were characterized by irregular dark-green, water soaked spots, and defoliation. In June, the lesions enlarged to form round dark-brown spots 5-10 mm in diameter with yellow haloes. Symptoms on petals and ovaries consisted of small red spots, and those on pistils of spindly dark-brown spots. The pathogen showed a pathogenicity to lilac, peach, onion, tomato and other 12 plant species. However, the host range was narrow and the virulence was weak in comparison with those of the reference strain, P. syringae pv. syringae (USL-PV). Neither black pit nor blast symptoms were produced on lemon fruits and citrus twigs. The bacteriological characteristics were identical with those of P. syringae pv. syringae (USL-PV). On the basis of these results, we concluded that the disease is caused by a strain of Pseudomonas syringae pv. syringae van HALL 1902 and we propose the disease is designated as "Bacterial brown spot of citrus".
著者
後藤 岩三郎
出版者
The Phytopathological Society of Japan
雑誌
日本植物病理学会報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.447-455, 1978
被引用文献数
12

標識品種H-79に銀河をもどし交配し,そのB<sub>5</sub>F<sub>4</sub>からもつれ銀河を育成した。もつれ(<i>la</i>)は戦捷の<i>Rb</i><sub>1</sub>と密接に連鎖する。戦捷×もつれ銀河,戦捷×もつれ亀の尾,銀河×H-79等の分析から次のことが明らかになった。(1)銀河には戦捷の<i>Rb</i><sub>1</sub>がとりこまれていない。これが銀河のいもち病抵抗性を低下させる主な要因と考えられる。田戦捷,真珠,双葉,秀峰やほまれ錦も銀河と同程度の抵抗性を示し,戦捷よりは弱い。したがって戦捷の高度抵抗性導入の育種過程の早い段階で低下したものである。(2)銀河には2対の抵抗性遺伝子があり,その相加的な効果で本品種の中程度の抵抗性を支配する。この2対は戦捷の他の2対の抵抗性遺伝子と複対立関係にあるか,あるいは極めて近く連鎖する。
著者
後藤 岩三郎
出版者
日本植物病理學會
雑誌
日本植物病理学会報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.447-455, 1978
被引用文献数
5 12

標識品種H-79に銀河をもどし交配し,そのB<sub>5</sub>F<sub>4</sub>からもつれ銀河を育成した。もつれ(<i>la</i>)は戦捷の<i>Rb</i><sub>1</sub>と密接に連鎖する。戦捷&times;もつれ銀河,戦捷&times;もつれ亀の尾,銀河&times;H-79等の分析から次のことが明らかになった。(1)銀河には戦捷の<i>Rb</i><sub>1</sub>がとりこまれていない。これが銀河のいもち病抵抗性を低下させる主な要因と考えられる。田戦捷,真珠,双葉,秀峰やほまれ錦も銀河と同程度の抵抗性を示し,戦捷よりは弱い。したがって戦捷の高度抵抗性導入の育種過程の早い段階で低下したものである。(2)銀河には2対の抵抗性遺伝子があり,その相加的な効果で本品種の中程度の抵抗性を支配する。この2対は戦捷の他の2対の抵抗性遺伝子と複対立関係にあるか,あるいは極めて近く連鎖する。
著者
田浜 康夫
出版者
日本植物病理学会
雑誌
日本植物病理学会報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.156-161, 1967-06-30 (Released:2009-02-19)
参考文献数
4
被引用文献数
1

熊本県玉名郡岱明町と菊池市の桑樹萎縮病は圃場観察において外見的にまたその病徴発見過程において顕著な差異のあることはすでに明らかにされているが,これらは環境条件によって左右されるものではなく,その萎縮病における本質的なものと思考された。このことから両者は病原ウイルスの系統の異なるものとみて,前者を玉名系(Tamana severe strain),後者を菊池系(Kikuchi mild strain)とした。
著者
豊田 和弘 池田 聡子 森川 淳一 稲垣 善茂 一瀬 勇規 山本 幹博 白石 友紀
出版者
日本植物病理学会
雑誌
日本植物病理學會報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, 2003-02-25

エンドウ褐紋病菌Mycosphaerella pinodesのマメ科植物に対する病原性が調べられた結果,本菌は自然宿主であるエンドウの他に,赤クローバー,ナツフジ,キハギ,アルファルファに感染する.これら植物における感染は,同菌の生産するサプレッサーによるナシ黒斑病菌に対する受容性誘導の程度と一致し,サプレッサーが本菌の宿主範囲を決定する因子であることをすでに報告した(Oku et al.,1980).ここでは,植物疾病の分子機構の解明に向けた新たなモデルシステムの開発を目的として,アルファルファに近縁であるMedicago truncatulaに対する褐紋病菌の病原性について調べた.この結果,各国より集められた18種のエコタイプの全てに感染し病斑が誘導されたが,うち2種では柄子殻の形成が認められた.M.truncatulaは,ゲノムサイズが小さく,遺伝子地図・ESTの充実,形質転換の容易さなどから,近年,マメ科のモデルとして選定されている.M.truncatula-M.pinodesの相互作用のモデル化は,病原性・共生といった多様な微生物との相互作用の理解につながる格好のモデルになるものと考えられる.
著者
澤岻 哲也 嘉手苅 佳太 新崎 千江美 田場 聡
出版者
日本植物病理學會
雑誌
日本植物病理学会報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.80, no.2, pp.119-123, 2014
被引用文献数
7

我が国のマンゴー(Mangifera indica L.)は沖縄県,鹿児島県および宮崎県などの西南暖地を中心に栽培が盛んに行われているが,果実の流通過程においてマンゴー炭疽病の発病が深刻な問題となっている。本病は輸送中の果実に黒色円状の病斑が発症,進行するため,経済的損失だけでなく市場や消費者の信頼,さらには産地ブランドの評価にも大きく影響を与える。そのため,生育期の圃場における防除対策が急務となっている。マンゴー炭疽病は,Colletotrichum gloeosporioides (Penzig) Penzig and Saccardo(岸,1998)およびC. acutatum J. H. Simmonds(田場ら,2004)の2種の糸状菌によって引き起こされ,特にC. gloeosporioidesは圃場での優占種であることが明らかとなっている(澤岻ら,2012)。沖縄県の施設マンゴーにおける一般的な炭疽病対策は,出蕾期の1月以降から収穫期の7月まで,ビニール被覆による雨よけと併せて薬剤防除が行われている。とくに着果期から袋かけ直前までの主要散布剤として,残効性に優れ,果実の汚れが少ないストロビルリン系薬剤(以下,QoI剤)であるアゾキシストロビン剤やクレソキシムメチル剤の散布が普及,定着しつつある。しかし,佐賀県(稲田ら,2008),奈良県(平山ら,2008)および茨城県(菊地ら,2010)においてQoI剤耐性イチゴ炭疽病菌が既に確認されており,防除暦における散布回数の削減を余犠なくされている。2010年4月現在,沖縄県におけるマンゴー炭疽病菌では本剤に対する防除効果の低下事例ならびに耐性菌の発生は確認されておらず,その実態については不明である。
著者
土居 養二 寺中 理明 与良 清 明日山 秀文
出版者
日本植物病理学会
雑誌
日本植物病理学会報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.259-266, 1967-09-30 (Released:2009-02-19)
参考文献数
42
被引用文献数
184 486

1. クワ萎縮病の罹病新梢の茎葉を電子顕微鏡観察したところ,既知の植物ウイルス粒子様のものは見出されなかつたが,篩管,ときに篩部柔細胞内に,大小(80∼800mμ)多数の球∼不斉楕円形のMycoplasma様あるいはPLT様の粒子が見出された。これらは2層の限界膜(約8mμ)に包まれ,細胞壁はなく,小形(100∼250mμ)の粒子は概ね球形でribosome様顆粒(径約13mμ)で充たされ,ときに核質様の繊維状領域を示すものもあり,大形(300mμ以上)の粒子は中心が空虚で僅かに核質様の繊維が認められ,顆粒は周辺に偏在する。大小粒子が篩管内に混在する点からみて,小形粒子が生長して大形粒子となるらしく,またときに大形粒子が一部くびれて小形粒子ができるごとき像,小形粒子が大形粒子の内部に数個生じ大形粒子が崩解するような像も認められた。健全植物にはこのような粒子は見出されない。なお,テトラサイクリンで萎縮病から回復したクワ茎葉からはこの粒子は見出されなくなつた。2. ジャガイモてんぐ巣病の罹病茎葉篩部にも大形粒子がやや多いが,同類の大小粒子が見出された。異常肥大した篩部柔細胞の細胞質には大形粒子が充満する例がしばしば認められた。3. Aster yellows感染で叢生萎黄症状を示したペチュニア茎葉篩管部にも前2者と同類の大小粒子が見出された。4. 典型的なてんぐ巣症状を示すキリの側生枝茎葉の篩管内にもクワ萎縮病と同類の大小粒子が見出された。症状の著しい場合は多くの粒子が見出される傾向がある。5. 4種の“叢生萎黄”グループに属する植物病で茎葉篩部に共通して見出された同類の粒子は植物寄生では未報告であるが,それらの形状,構造,所在様式などから,Mycoplasmaに近い寄生微生物であるとの結論に達したので,さらにそれらの病原的意義について若干の考察を行なつた。