著者
家城 洋之 山口 昭 加納 健 小泉 銘册 岩波 徹
出版者
日本植物病理学会
雑誌
日本植物病理學會報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.170-175, 1997-06-25
被引用文献数
3

カンキツトリステザウイルス(CTV)強毒系統保毒森田ネーブルの苗木を熱処理して作出した無毒苗木に,ほ場より探索したCTV弱毒5系統および熱処理で作出した2系統ならびにカンキツベインエネーションウイルス(CVEV)を接種して弱毒保毒母樹を育成した。これらの母樹から増殖した苗木の新梢に,CTV強毒系統を保毒する森田ネーブルで飼育したミカンクロアブラムシを2日間放飼して接種した。接種1〜2年後にミカンコンテナに移植して戸外に置き,さらに3年後に周囲にカンキツが栽培されているほ場へ定植した。その後,定期的にライム検定,ステムピッティングの発生度,樹の生育,収量等の調査を行った。その結果,数種CTV弱毒系統の強毒系統の感染に対する干渉効果は,ライム検定,SP発生度調査より弱毒ウイルス接種後7〜9年間は認められたが,それ以降になると見られなくなった。弱毒系統接種樹では強毒系統接種樹に比べて樹の初期生育が旺盛で,樹が大きくなり,干渉効果が見られなくなった後も収量が多く,かつ大玉果であった。特に,弱毒系統M-15AおよびM-16Aは優れており,1990〜95年の間の5年間総収量が強毒接種樹に比べ約50%増,果実が1〜2階級大きくなった。果実のBrixおよび酸度は弱毒および強毒ウイルス接種樹間に差がなかった。
著者
吉田 克志 大口 富三
出版者
日本植物病理学会
雑誌
日本植物病理學會報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.307-314, 1998-08-25
被引用文献数
2

ダイコンベと病菌吸器形成に及ぼすダイコン根組織への接種前熱処理の影響を調査した。べと病罹病性品種の自首宮重および抵抗性品種の平安時無の根組織(5×5×3mm)を, 50℃の温水に30秒間以上浸漬後に本菌を接種すると, 本菌の吸器形成がともに抑制され, 菌糸様構造物として細胞内に生育伸長し, 時として隣接する細胞内にも侵入したが細胞間隙には入らなかった。この構造物の形成は50℃-60秒間処理で最多となったが, その生育伸長は接種24時間後には停止した。熱処理による吸器形成の抑制効果は50℃-30秒間処理では処理24時間後には失われたが, 50℃-60秒間処理では処理48時間後以降も持続した。CTC蛍光観察により, 吸器に膜結合性のCa^<2+>の特異蛍光が認められたが^<3,19)>, 菌糸様構造物にはこの蛍光はほとんど観察されず, 吸器とは性質が異なっていた。また, 熱処理ダイコン根組織のべと病菌侵入部位にはリグニンおよびカロースの蓄積が認められないこと, 非病原菌であるウリ類炭そ病菌の感染が同組織で観察されること, 熱処理根摩砕液にはべと病菌吸器抑制効果が無いことが観察された。また, 細胞膜ATPase活性は熱処理により抑制されることが観察された。以上の結果から, べと病菌吸器形成の抑制は宿主の抵抗反応によるものではなく, 吸器形成に関与する宿主細胞の代謝機構が熱処理により可逆的あるいは非可逆的損傷を被ったためであると推定され, べと病菌吸器形成に宿主細胞の応答が重要であることが示唆された。
著者
後藤 正夫 黄 奔立 牧野 孝宏 後藤 孝雄 稲葉 忠興
出版者
日本植物病理学会
雑誌
日本植物病理学会報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.189-197, 1988-04-25 (Released:2009-02-19)
参考文献数
40
被引用文献数
19 17

静岡県,香川県および徳島県でチャ芽,野菜およびモクレンの花から分離した氷核活性細菌について分類学的研究を行った。1978~80年静岡県で, 1987年香川県でチャ芽から分離した氷核活性細菌は,後者の1菌株を除きすべてErwinia ananasと同定された。これに対し, 1986年および1987年の両年に静岡県で,また1987年に徳島県で分離された氷核活性細菌は前者の1菌株を除き,すべてXanthomonas属細菌であった。このxanthomonadは最高生育温度等2, 3の性質を除き,形態,生理・生化学的性質からX. campestrisと同定されたが,チャをはじめ供試した数種野菜には病原性を示さず,ジャガイモ切片をわずかに軟化したのみであった。この結果,本菌をX. campestrisの新亜種と位置づけるのが妥当と考えた。タイサイ等の緑葉野菜,チャ芽およびモクレンの花から分離した氷核活性pseudomonadはすべてPseudomonas syringaeと同じ細菌学的性質を示した。これらは分離した植物,野菜類,Delphinium spp. に病原性を示さなかったが,ライラックに対しては接種した菌株のすべてが病原性を示したことからP. syringae pv. syringaeと同定した。ワサビから分離したpseudomonadはP. cichoriiに類似した性質を示したが,蛍光色素非産生,非病原性等からこれとは異なる細菌と判定した。これらの氷核活性細菌は,いずれも高い氷核活性を示し,過冷却温度は-2.8~-3.0Cにあったが,ワサビ菌株は-4C~-5Cであった。
著者
山田 利博 伊藤 進一郎
出版者
日本植物病理學會
雑誌
日本植物病理学会報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.59, no.6, pp.666-672, 1993
被引用文献数
8 28

マツノザイセンチュウを感受性のクロマツ,抵抗性のテーダマツおよびストローブマツの枝に接種し,接種枝からのエタノール抽出物の分析を行った。線虫接種1週間後にストローブマツの皮層,師部および木部で抗菌性物質の集積が認められた。この活性は実験期間中維持された。木部から抽出された抗菌性物質にはpinosylvin, pinosylvin monomethylether, pinobanksin, pinocembrinが含まれていた。これらの物質は線虫を不動化すると考えられた。テーダマツとクロマツで接種5週間後に菌に対する阻害活性がわずかに認められたが,線虫に対する不動化活性は認められなかった。これらのことから,ストローブマツ接種枝では線虫感染に対する抵抗性反応として,エタノール可溶性の阻害物質が生産されることが示唆された。
著者
黒田 慶子 山田 利博 峰尾 一彦 田村 弘忠
出版者
日本植物病理學會
雑誌
日本植物病理学会報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.p606-615, 1988-12
被引用文献数
9

11年生クロマツにマツノザイセンチュウを接種し, 1週間ごとの伐倒の前日に根元から染色剤を吸収させて, その上昇パターンから木部の通水異常を検出した。木部含水率を測定し, 通水異常との関係を明らかにすると同時に, マツ組織の変化, 線虫の増殖との関係を調べた。接種2週後に水分の上昇に乱れが観察され, 含水率が低下し始めた。樹幹の木口断面では, 放射方向に長く白色の線状ないし紡錘形の部分が, 染色部と明確に区分されて出現した。この部分では仮道管は水を失い, 気体が入っていた。この現象は「キャビテーション(空洞化)」と呼ばれる。健全な樹木では, 木部の水はらせん状に上昇するが, 線虫接種木ではキャビテーション部位で流れが妨げられて通水パターンが乱れる。キャビテーションの範囲はしだいに拡大し, 4週後には木口断面のほぼ全面を覆った。マツ組織の変化と線虫の増殖は4週後, 木部の含水率が健全木の30%に低下してからであった。これらの事実から, 形成層や師部の壊死はキャビテーション部位に接した後に水不足により起こったものと判断した。仮道管のキャビテーションがマツの枯死の直接的原因である可能性が高い。他方, 漏出した樹脂による仮道管通水の機械的阻害は, 非常に小さな範囲に留まるため, 枯死の主因とは考えにくい。染色の阻止状況から, 疎水性の物質がキャビテーション部位の仮道管内に存在することが示唆された。マツノザイセンチュウがなぜマツを枯らすのかを明らかにするためには, まずキャビテーションの原因を解明する必要がある。
著者
渡辺 恒雄
出版者
日本植物病理学会
雑誌
日本植物病理學會報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.449-456, 1981-09-25
被引用文献数
7 1

東北地方(青森, 秋田, 岩手, 山形の4県)と南西諸島(沖縄本島, 奄美大島)の48か所の土壌からPythium属菌を分離し, 分布, 種類, 菌量などを検討した。植物については試料が得られた場合のみ検討した。土壌からの分離は, Waksmanの直接接種法の変法と, キュウリ, ルーピン, トウモロコシの種子を基質とした捕捉法の2方法を用いた。捕捉法では土壌に埋没した種子を一定温度下で1〜7日間放置後取り出して素寒天培地(WA)上に置き, 伸び出した単菌糸を分離して純粋分離株を得た。植物の根部からはWA上で単菌糸分離により直接分離株を得た。土壌からの分離の結果, 東北地方では供試した27か所中25か所, 南西諸島では21か所の全試料からPythium属菌が検出された。捕捉法における基質の土壌埋没時の処理温度は, 分離される菌の種類に大きな影響があり, 好高温性のP. aphanidermatumは, 東北地方産の試料では, 36Cの高温下で分離した43株中10株を占めたが, 7Cと20Cの低温下では150株中わずか1株にすぎなかった。南西諸島産の試料では24Cでも106株中37株を占めたが, 7Cでは全く分離されなかった。また同菌は, 東北地方産の4種の植物と南西諸島産3種の植物から分離された。植物の根部から分離された合計52菌株の温度反応を調べたところ, 南西諸島産の15菌株は, 東北地方産の37株と比較すると好高温性の菌株が多かった。土壌および植物からの分離菌は, 未同定菌を除き, それぞれ13種と8種に同定された。また土壌中の菌量を直接接種法の変法により定量したところ乾土1g当たり50個以下の試料は, 供試した48点中19点, 51〜200個の試料は17点, 201〜1040個の試料は12点であった。
著者
Wu Meng-Ling Hung Ting-Hsuan Su Hong-Ji
出版者
日本植物病理学会
雑誌
日本植物病理學會報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.176-178, 1997-06-25

台湾のバナナには5つのタイプのモザイク病が発生しており,それらから分離されたCMVはカウピーとNicotiana glutinosaにおける病徴およびモノクローナル抗体の反応から,3系統(B-CMV-1〜3)に分けられた。B-CMV-2は強毒系統であった。B-CMV-3は病原性が弱く,強毒のB-CMV-2と重複感染した場合にも病徴を軽くすることから,自然界において弱毒ウイルスとして干渉効果を示している可能性が示唆された。
著者
衣川 勝 佐藤 豊三
出版者
日本植物病理学会
雑誌
日本植物病理學會報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.373-383, 2003-11-25
被引用文献数
3

近年、香川県で樹齢が10年以上のキウイフルーツ樹に枝枯れが多発している。枝の大きな切断痕や日焼け部から枯れ込みが進み、側枝、亜主枝が枯れる場合が多い。病勢の著しい場合、亜主枝、主枝まで枝枯れが進み胴枯れ症状を呈し、樹全体が枯れる場合もある。罹病枝から高率に分離されたPhomopis属菌およびF. aesculiをキウイフルーツの枝に接種した結果、いずれも枝枯れ症状が再現され、接種菌が再分離された。Phomopsis属菌については、子のう世代および分生子世代の形態、培養上の諸性質、およびキウイフルーツ、ミカン、およびリンゴの果実、またモモおよびナシの枝に対する接種試験の結果から、キウイフルーツ果実軟腐病菌のうちDiaporhe属菌と同一種であった。また、F. aesculiについても、子のう世代および分生子世代の形態、培養上の諸性質、およびキウイフルーツ果実への接種試験の結果から、キウイフルーツ果実軟腐病菌B. dohideaと同一種であった。これらの結果から、キウイフルーツ果実軟腐病菌のDiaporhe sp.、およびB. dohideaにより枝枯症状が起きることが明らかとなった。
著者
熊倉 和夫 渡辺 哲 豊島 淳 牧野 孝宏 市川 健 伊代住 浩幸 永山 孝三
出版者
日本植物病理学会
雑誌
日本植物病理學會報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.384-392, 2003-11-25
被引用文献数
6

各種植物の根圏および栽培土壌から分離したFusarium属菌とrichoderma属菌について、イネの重要な種子伝染性病害であるばか苗病および苗立枯細菌病に対する発病抑制能を検討した。Fusarium属菌350菌株、richoderma属菌66菌株について、培養菌液または分生子懸濁液のイネ種子浸漬処理によるイネばか苗病発病抑制効果を検討したところ、両属とも高い発病抑制効果を示す菌株が高い割合で存在することが明らかとなった。また、ばか苗病に対して比較的低菌量処理で高い発病抑制効果を示すものの中には、イネ苗立枯細菌病に対しても高い発病抑制効果を示す菌株が多数認められた。高い発病抑制効果を示す菌株として、トマト根圏より分離したF. oxysporum SNF-356株、ノシバ根圏より分離したrichoderma sp. SK-1株を選抜し、ばか苗病および苗立枯細菌病に対する発病抑制効果を調べたところ、SNF-356株では、1.0×10(7)個/m1以上、SK-1株は1.0×10(5)個/m1以上の分生子懸濁液処理で、両病害に対して対照の化学薬剤であるイプコナゾール・銅フロアブル剤またはオキソリニック酸水和剤に匹敵する高い発病抑制効果を示した。特にSK-1株のばか苗病発病抑制効果は、種子の罹病程度に関わらず安定していた。両菌株を種子処理し、育苗期のばか苗病の発病を抑制した苗を本田に移植したところ、出穂期におげるばか苗病の発病頻度は無処理区に比べて明らかに少なかった。
著者
岸 國平
出版者
日本植物病理學會
雑誌
日本植物病理学会報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.275-278, 1987
被引用文献数
2
著者
藤田 景子 目黒 あかね 久能 均 Carver T.L.W. Thomas B.
出版者
日本植物病理学会
雑誌
日本植物病理學會報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, 2003-02-25

オオムギ子葉鞘に接触したオオムギうどんこ病菌,コムギうどんこ病菌,エンドウうどんこ病菌分生子の直下に液状物質が(ECM)が出現する.それぞれの胞子(inducer)をオオムギ子葉鞘の1細胞に接種し,1時間以内にinducerを取り除き,細胞をECMに1時間だけ接触させた.別の子葉鞘で培養したオオムギうどんこ病菌(challenger)の発芽胞子1個をその細胞に移植した.19時間培養後,challengerの吸器形成を観察した.ECMと予め接触していない細胞では吸器形成率は約50%であったが,オオムギうどんこ病菌ECMに1時間接触した細胞では約63%に増加した.しかし,非病原菌であるコムギうどんこ病菌,エンドウうどんこ病菌ECMに接触した細胞では,それぞれ約29%,約7%に減少した.これらの結果は,子葉鞘細胞が病原菌,非病原菌のECMを接触後1時間以内に認識すること,challengerが侵入する移植後5,6時間目までに,受容性または拒否性状態に変化することを示している.
著者
豊田 秀吉 松田 克礼 平井 篤造
出版者
日本植物病理学会
雑誌
日本植物病理学会報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.p32-38, 1985-01

本研究では, マイクロインジェクション法によりトマトのカルス細胞にタバコモザイクウイルス (TMV) を接種するための方法を検討した。トマト品種福寿2号の腋芽から誘導したカルスの単一細胞を, Murashige-Skoogの培地 (寒天濃度,0.8%) に包埋した。それを, ペトリ皿に作製した同固形培地 (寒天濃度, 2%) の中央の穴 (直径, 3 cm) に, 厚さが3 mm以下になるようにプレートした。包埋された細胞は, インジェクトスコープの位相差顕微鏡により生体観察され, ペトリ皿の中央部底壁面に刻入された格子線によって識別された。マイクロインジェクションには, 活発に原形質流動を示す細胞を選び, 滅菌ガラス針 (先端口孔, 0.1〜0.3μm) に無菌濾過したTMV接種液 (TMV濃度, 100μg/ml) を入れ, その先端部約3μmを原形質に10秒間挿入した。接種操作の成否は,ガラス針をぬいたあとにもその細胞に活発な原形質流動が認められるがどうかで判定した。なお, 口径が0.5μm以上のガラス針を接種に使用した場合, そのほとんどの細胞において原質流動の停止や細胞質内容物の流出が認められ, フルオレッセイン二酢酸による生体反応も消失した。TMV接種後, 細胞をすみやかに固定しフルオレッセインイソチオシアネートラベル抗体で染色した場合には, 螢光化細胞はまったく認められなかったが, 接種後26C, 3,000-4,000ルックスの照明下で2日間培養した場合には, 接種したほとんどの細胞において顕著な螢光化が観察された。以上の結果から, 本方法によってトマトのカルス細胞に効率よくTMVを接種できることが判明した。
著者
細川 大二郎 森 寛一
出版者
日本植物病理学会
雑誌
日本植物病理學會報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.166-172, 1983-04-25

Multiplication and distribution of cucumber mosaic virus during the development of systemic infection in tobacco plants (Nicotiana tabacum cv. Xanthi) inoculated to the middle leaf were investigated by the use of fluorescent antibody technique. After the virus multiplied in the inoculated leaf, the virus antigen was first detected in the upper stem and leaves, and later in the lower stem and roots. In the early stage of a long distance movement of the virus, the virus antigen was first observed in separate areas along the phloem. This mode of virus movement differed from that in the parenchyma tissue, in which the virus moved from cell to cell, suggesting that the virus move a long distance through sieve tubes. Thereafter the virus progressively spread from the infection site in the phloem to surrounding tissues and caused the systemic infection. In the upper leaves, the appearance of symptoms such as veinclearing and yellowing followed the distribution of virus antigen in the tissues. After the virus antigen had distributed throughout all the tissues in a certain part of the plant, it gradually decreased.