著者
松丸 隆文
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.139-145, 2005-08-01
被引用文献数
3 2

人工機械システムに対する恐怖感や違和感を排除するには,外見を人間型や動物型にするだけでなく,サイズと性能・機能の関係などにおいて,人間の常識,経験知・暗黙知に合致した形態・動作が必要だと考える.具体的には,移動ロボットやヒューマノイド・ロボットにおいて,その次の行動・意図が,それを見ている周囲の人間によって予測しやすい形態・動作を考えている.本稿は,まず人間機械系の情報動作学の応用展開における研究項目と手順を説明し,つぎにこれまでに入手した資料から得られている知見のいくつかを,(1)形態からの運動予測と(2)連続動作・予備動作からの運動予測に分類し,その応用・適用方法に言及しながら論じる.
著者
久野 譜也
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.148-152, 2000
参考文献数
2
被引用文献数
7 2

基本的な運動機能である走及び歩行機能に及ぼす大腰筋の重要性について概説した.走機能に関しては,陸上競技の短距離選手,サッカー選手及びコントロールにおける各被験者の疾走タイムとMRIにより求めた大腰筋横断面積の関係を検討した.その結果,陸上競技の短距離選手においてのみ両者の間に高い正の相関関係を認めた.この結果は,"速く走る"という機能に対して,大腰筋の役割の重要性を示唆するものである.次ぎに,歩行機能における大腰筋の役割を検討するために,加齢による歩行機能(速度,歩幅,前傾姿勢など)と大腰筋横断面積との関係を,20-80歳代の約200名を対象に検討した.全体的傾向としては,加齢に伴い,いずれも低下及び減少を示した.しかしながら,それらの能力は生活習慣及び運動習慣の影響を強く受け,大腰筋横断面積の維持が老化による歩行機能の低下抑制と密接な関係にあることが示唆された.
著者
福井 勉
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.153-158, 2000
参考文献数
12
被引用文献数
5 5

大腰筋は姿勢や動作に大きく関与する筋である.その長さとともに,身体における位置が非常に特異的である.身体重心位置を大きく覆っているだけでなく,身体重心高位となる骨盤には付着していない.そのため上半身と下半身に身体を分割して考えるとその間を結ぶ蝶番の機能を持つように見える.股関節制御は身体重心を移動させまいとする姿勢反応である.通常,体幹筋と大腿筋がこの制御に関係するが,大腰筋が本制御の核となっている可能性が高い.本筋筋力低下恵者に大腹筋をトレーニングすることによって身体バランスが改善する.大腰筋機能は[1]股関節制御能力,[2]股関節と腰椎の分離運動能力に集約されるのではないかと考える.
著者
浅見 高明
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.41-42, 1988-05-01
著者
松田 美佐
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.129-135, 2004-08-01
参考文献数
44

本稿では,監視社会化が進みつつある中,急増するカメラ付きケータイの「位置」を探ることを目的とする.カメラ付きケータイは個人的な「楽しみ」のために利用されているものの,監視システムがネットワーク化,データベース化する中で,結果として,監視のための「端末」となる可能性をもっている.そこで,監視カメラの遍在する現状を紹介しながら,今日的な監視システムをとらえるには相互監視モデルが有効であることを示した上で,そのようなシステムの拡がりを,「安全」「信用」「配慮」という三つのキーワードで分析し,カメラ付きケータイが占める「位置」を模索する.
著者
今水 寛
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.152-160, 2001
参考文献数
18
被引用文献数
1

人間は目や耳を通して外部世界から情報を得て,適切な情報処理を行い,外部世界の対象物に働きかけている.言語や思考など,人間に特有と考えられている高度な脳機能や知性は,氷山の一角で,海面下でそれらを支えているのは,他の動物にも遍く備わる感覚情報処理機能や運動制御機能である.特に感覚と運動を統合する機能は重要であると考えられる.筆者らは,コンピュータ7ウスと対応するカーソルの間に回転変換を入れて,わざと使いにくくしたマウス(回転マウス)の操作を,被験者がどのように学習するかを詳細に調べた.その結果は,感覚運動統合を学習する脳の仕組みと,感覚運動統合を基礎とした高次認知機能を解明する糸口となった.
著者
生田 幸士
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.141-146, 2008 (Released:2010-12-13)
参考文献数
21

新原理と新概念にこだわったマイクロ・ナノマシン技術と,数ミクロンの細胞から深部臓器まで,異なるスケールの生体を対象とした未来医用ロボティクスの世界を述べる.光で造り,光で動かすナノマシンについては,素材,作製手法,駆動制御からリアルタイムの力計測まで完成し,今や細胞の力学特性も精密に測定できるようになった.さらに,化学 ICと名づけたマイクロプラントや生分解性の人工毛細血管デバイスまで到達した.
著者
湯 海鵬 豊島 進太郎 星川 保 川端 昭夫
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.37-42, 2003-02-01
被引用文献数
4 5

本研究は,介護作業の中で,最も体に負担の大きいと言われる車椅子への移乗動作を三次元的撮影し,映像データに基づいて介護者の重心の変位,関節角度および身体エネルギーを算出した.理学療法士(PT)と社会福祉学専攻学生の介護動作との比較検討を行い,車椅子への移乗動作の特徴を明らかにした.学生に比べPTの作業時間と作業距離が短かった.身体の姿勢については,PTはできるだけ腰への負担を軽減するために,大腿の筋群を主に用いて被介護者を抱き上げ,腰掛けさせるという動作になっている.このような動作は,身体の上下動が大く,力学的仕事の量も多くなる可能性はあるが,腰の保護と腰痛の予防には有効な動作と考えられる.
著者
野村 歡
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.208-214, 2008 (Released:2011-05-31)
参考文献数
2
被引用文献数
1

住環境が整備されていないばかりに,数多くの高齢者や障害者が生命維持のために欠かせない排泄行為に著しく不便・不自由を感じている.不便・不自由の原因は排泄行為が「戸・扉の開閉」「衣服の脱ぎ着」「便器への座り」「後始末」などの多くの動作を狭いスペースで行なわなければならないこと,排泄は人間にとって最もプライベートな行為であるが故にトイレにはもともと「介助スペースは配慮されていない」ことなどがその原因といえる.本稿はこれらの諸動作に対する個々の住環境整備を検討しつつトイレ全体の環境整備について考察する.さらに,トイレ以外で行われる排泄行為に対する住環境整備についても言及する.
著者
持丸 正明
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.2-7, 2009 (Released:2012-01-31)
参考文献数
4

子どもの死亡原因の第1位である不慮の事故を低減するための工学的アプローチの必要性について述べる.事故の中でも,危険が潜在的であり,かつ,命に関わる重篤な傷害を引き起こす恐れのある「ハザード」をいかに発見して,いかにして取り除くかについて,病院を基点に網羅的に事故情報を集め,それらを知識化して,環境や製品の改善につなげるという「安全知識循環型社会」の考え方について述べる.これを形づくる工学的研究として,病院を基点にした事故サーベイランス技術,子どもの体形・行動の計測,子どもシミュレータによる事故原因究明の研究について概要を紹介する.また,これらの知識を,安全規格,商品開発,子どもや両親への啓蒙というかたちで社会に循環させる取り組みについて紹介する.
著者
柴 眞理子
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.124-128, 2005-08-01
被引用文献数
2

現代社会における子ども達(大人にも同じことが言えるだろう)の感情表現の乏しさを象徴的に言うならば「メチャ楽しい-すぐキレル」という両極端にあり,子ども達はその間にある彩り豊かな感情に気づいていないように思われる.人間が本来もっている感情の豊かさを感じず表現できない子どもたちに,舞踊は,身体感覚や身体感情に気づかせ,それらを磨くという機能をもっている.とりわけ,舞踊運動の体感を原点とすることによって,踊る者は,自分の動きの感覚に鋭敏になり,ちょっとした動き方の違いが異なる感情体験をもたらすことを感じ取ることを可能にする.本稿では,筆者の舞踊系運動方法論実習の受講生を対象にした舞踊運動の体感に関する実験に基づいて,舞踊運動の体感の変化のプロセスは,日常気づかない感情体験の場であり,そのことによって自己理解・他者理解がもたらされ,それが豊かなコミュニケーションに繋がっていくことを解説する.
著者
宮崎 祐介
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.29-34, 2009-02-01

子どもの転倒・転落事故に対する対策は,頻度,重症度の観点から非常に重要である.子どもの転倒・転落事故被害予防を検討する上で重要な点は,実事故に基づいた事故再現を行うことにより,徹底した事故原因究明を行うとともに,それに基づく的確かつ最小限の対策を講じることで,できるだけその環境を保全することである.また,実際に発生した事故は,氷山の一角に過ぎず,それ以外の致命的なハザードを発見し,除去することも必要である.これらの課題を解決する上で子どものデジタル・ヒューマンモデルを活用した事故再現シミュレーションが有効である.本稿では転倒・転落事故解析のための子どものデジタル・ヒューマンモデルの開発およびそれを活用した転倒・転落事故の事故原因究明と対策法の検討について実解析例を交えて紹介する.
著者
阿江 通良 岡田 英孝 尾崎 哲郎 藤井 範久
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.112-121, 1999
被引用文献数
6 4

The purpose of this study was to investigate motion patterns for elderly people stepping over obstacles with a videography by comparing with those of the young. Crossing speed, step length, and step frequency of the elderly were significantly smaller than those of the young. With an increase in obstacle heights, crossing speed and step frequency decreased in the elderly, but there was no significant change in those of the young. With increased obstacle heights, the elevation of the lead leg increased in both groups, depending more on the elevation of the thigh and the flexion of the hip and ankle joints for the elderly, and the elevation of the shank and knee flexion for the young. In the elderly, the range of motion for the upper arm was significantly smaller than that of the young, and the forward lean of the trunk increased after landing of the lead leg at high obstacle. This may have made the clearance of the trail leg easier.
著者
小林 俊恵 岡部 多加志
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 = Journal of the Society of Biomechanisms (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.77-84, 2006-05-01
参考文献数
13

昨今,福祉や医療の現場に,治療あるいはリハビリテーションといった様々な目的で音楽療法が導入されている.それは音楽そのものの持つ特性が,人間を身体的・精神的・社会的に健康な方向へと導き整える働きを持っているからである.当院では進行性の神経難病であるパーキンソン患者に音楽療法を実施しその効果を科学的に証明する事ができたのでここに報告する.なお,このプロジェクトは患者の人的環境すべてがチームとなって生涯継続するものである.
著者
西井 淳
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.8-12, 2004-02-01
被引用文献数
1 2

ウマなど多くの多足歩行動物が移動速度に応じて歩容を変化させることは古くから多くの研究者の注意をひき,観察に基づく詳細な分類が行われて来た.一方で歩容が変化する理由についても多くの議論がなされながら,十分な説明はなされてこなかった.歩容の遷移の他にも,移動速度の変化に伴った脚の運動周期の変化等,多くの多足歩行パターンの特徴が様々な動物に共通に観察されている.このことは多足歩行パターンの選択において動物によらない共通の戦略が存在することを意味する.本稿では,多くの動物に共通に観察される多足歩行パターンの特徴を紹介し,それらが消費エネルギーの最小化という基準によって説明しうることを解説する.
著者
佐崎 祥子 廣川 俊二
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.227-234, 2005 (Released:2007-10-23)
参考文献数
9

工業用複合材料が主要強度材である繊維と母材の中間的強度を示すのに対し,生体複合材である腱・靭帯では主要強度材である線維束よりも靭帯複合体の力学強度が高くなり,工業材料とは逆の現象を示す.本研究では,生体軟組織の階層構造を考慮しつつ,靭帯を線維束の集合体とみなした二種類の靭帯力学モデルを構築し,上記逆転現象のメカニズムの解明を試みた.モデルには,実験結果を基に線維束の力学的不均一性や線維束・間質物質間の干渉力を表す要素を含めた.最初のモデルは線維束と靭帯の伸びだけを扱った一次元離散モデルであり,靭帯の応力-ひずみ特性に見られるつま先領域,線形領域,破断領域を区別しつつモデルを構成した.第二のモデルは超弾性体の二次元連続体モデルであり,靭帯固有の特性である有限変形,非圧縮性の条件を導入した.シミュレーション解析の結果,両モデル共に,上記逆転現象を再現し得ることを確認した.
著者
渋井 佳代
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.205-209, 2005-11-01
被引用文献数
1 1

女性は,月経,妊娠・出産,閉経を通して,視床下部-下垂体-卵巣系の内分泌環境が大きく変動する.それに伴い,気分の変調や睡眠が変化することはよく知られている.月経前には,いらいら,抑うつ感を伴った日中の眠気の増加が特徴的である.妊娠中に関しては,妊娠前期に過眠がみられるが,妊娠中期には比較的安定し,妊娠後期に夜間不眠が多く経験される.睡眠時無呼吸症候群やむずむず脚症候群が発症する場合もある.産褥期には夜間睡眠の分断化が余儀なくされる.更年期には,ほてりやのぼせなど自律神経症状がきっかけとなる夜間不眠がみられる.それぞれのライフステージにおけるホルモン動態を正しく理解し,適切な対処をする必要がある.
著者
中園 嘉巳 田中 久弥 井出 英人
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.23-28, 2003-02-01
被引用文献数
1

指タッピング法を用いて,予測ボタン押し動作における予測精度を測定した.被験者には,ブザー音が周期的(インターバル:0.8,1.1,1.3,1.9秒)に繰り返し呈示され,a)音を聞きながら,あるいはb)音に合わせてボタンを押しながら,最後のブザー音の後に予測したインターバルの経過を待って,指でボタンを押すように指示された.ボタンが押されるまでの時間が予測時間として,インターバルの実時間との差が予測誤差として測定された.結果,被験者15名において,インターバルの長さと予測誤差の大きさとに相関が認められた.その内9名では,インターバル1.9秒において予測時間が実時間より10%を越えて有意に減少した.音に合わせたボタン押し動作を伴った場合b),対照例a)と比較して,予測時間の変動係数(CV)が有意に減少した.つまり,周期的運動を行うことによって予測時間の精度が向上した.この結果は,心理学的時間知覚と生理学的周期運動との連関を示唆する.