著者
渡辺 憲正
出版者
関東学院大学経済経営学会
雑誌
経済系 : 関東学院大学経済学会研究論集 (ISSN:02870924)
巻号頁・発行日
no.275, pp.109-127,

これまで,ホッブズの自然状態=戦争状態は,近代的個人を前提として抽象的に構成された論理的なフィクション,あるいは近代国家を構成するために仮構された近代文明社会の反転像であるかのような解釈が,一般になされてきた。しかし,これによっては,第1 に,ホッブズがコモンウェルス(国家)の歴史的設立そのものの根拠を問うた意味が失われ,第2 に,ホッブズがコモンウェルス設立後に論じた「コモンウェルスの弱体化ないし解体」の意味が曖昧にされた。そして第3 には,解体後のコモンウェルス再措定という近代的意味と社会契約説の2 段階論的構成が平板化された。ホッブズにとって,国家が人間の本性に属さないことは自明である。だからこそ,なぜすべての人を拘束する国家は設立されたのかという問題が歴史的に提起されなければならない。それゆえ自然状態は,近代的個人を前提したフィクションであってはならなかった。本稿は,この視角からのホッブズ自然状態論の再検討を目的としている。
著者
高橋 公夫
出版者
関東学院大学経済研究所
雑誌
経済系 : 関東学院大学経済学会研究論集 (ISSN:02870924)
巻号頁・発行日
vol.264, pp.1-14, 2015-07

資本主義の次にやってくる社会は社会主義社会であるというのがかつての常識であった。ドラッカーはソ連崩壊の直後に『ポスト資本主義社会』を出版し,資本主義が勝利したのではなく資本主義はすでにポスト資本主義社会になっている。それは知識社会である。ソ連はその現実に対応することができなかったために崩壊した,という説を展開した。以下,知識社会としてのポスト資本主義社会とはどのような社会か,そこではどのような組織が形成され,どのような管理が行われるのか,またいかなる課題が提起されるのか,といった問題を取り上げる。結論的にはポスト資本主義社会における組織は市場や環境に開かれたものとなる。つまり,知識社会における組織のメンバーである知識労働者やサービス労働者はできる限り市場や環境に直接に向き合うような職務環境で裁量的に働くようになる。それにより職場コミュニティの余地は少なくなり,NPO のような組織がコミュニティの役割を果たすようになる,ということである。しかしそれで人びとは幸福か,というのが本稿の問題提起となる。
著者
小山 嚴也
出版者
関東学院大学経済研究所
雑誌
経済系 (ISSN:02870924)
巻号頁・発行日
vol.215, pp.10-23, 2003-04

本稿では,企業に対するある特定の要請の発生から社会的要請の形成に至る一連の過程について,issue マネジメント論の成果,ステイクホルダーの概念,社会問題の社会学の理論などを手がかりにしながら考察する。 そもそも,ある特定の要請は,期待される企業活動と現実の企業活動との間にギャップが存在し,その様なことは問題(issue)であると特定のステイクホルダーが認識するところから生まれる。そして,その様な要請に対する企業側の応答とも相俟って,他のステイクホルダーによるissueの認識,共有,特定の要請への正当性の付与がすすみ,ある特定の要請が,その「強度」を強めながら「存在範囲」を社会全体に広げたときに,その様な要請は社会的要請となる。その過程では,issueの複合,連鎖によって,複数の要請が併存するかたちで社会的要請が形成されたり,新たな要請が社会的要請化していくことがある。また,当初の要請が個別企業に対するものであった場合,issueの共有やissueの連鎖などに伴って要請の対象が個別ないし特定企業から企業全般へと変化することもある。
著者
望月 正光
出版者
関東学院大学経済研究所
雑誌
経済系 : 関東学院大学経済学会研究論集 (ISSN:02870924)
巻号頁・発行日
vol.254,

本稿の目的は,グローバル社会における付加価値税の新しい潮流として,課税の効率性と公正性を備えたニューVATに焦点を当てることである。これまで付加価値税の標準モデルとしてEUモデルが考えられてきた。しかし,1993年のEU成立と同時に,EU域内取引が自由化されたことによって,加盟国の付加価値税制度の相違点(例えば,複数税率や非課税制度等)による問題がより顕在化するようになってきた。このため,EUモデルは, オールドVATとして制度改革が不可避となっている。これに対して,グローバル社会における付加価値税の新しい潮流として,効率性と公正性を備えたニューVATが注目されており,その代表が,ニュージランドモデルである。その基本的な考え方は,複数税率や非課税制度を廃止し,「単一の標準税率構造と広い課税ベース」とするシンプルなものである。このような考え方に基づくニューVATが,オールドVATの直面している問題の多くを改善することを明らかにする。
著者
望月 正光 堀場 勇夫
出版者
関東学院大学経済研究所
雑誌
経済系 : 関東学院大学経済学会研究論集 (ISSN:02870924)
巻号頁・発行日
vol.244, pp.27-44,

要旨本研究の目的は,わが国における地方消費税のマクロ税収配分を各都道府県の産業連関表等を用いることによって,仕向地原則に基づく地方消費税の税収配分のあるべき姿を把握するため,マクロデータによってシミュレーションを行うことにある。消費型付加価値税の配分を,最も精緻なマクロ税収配分方式によって,マクロ統計に基づいて実施しているのがカナダの協調売上税(HST;Harmonized Sales Tax )である。カナダで行われているマクロ税収配分方式に依拠した場合,わが国の地方消費税のマクロ税収配分がいかなる姿となるかを可能な限り正確にシミュレーションする。具体的には,わが国で公表されている国または各都道府県の『産業連関表』,または『県民経済計算』等のマクロ統計を利用することによってマクロ税収配分の推計を行う。その推計結果から,仕向地原則に則したわが国の地方消費税のマクロ税収配分の姿を明らかにする。本稿(その1)では,カナダのHST と比較しながら,わが国の地方消費税のマクロ税収配分方式の特徴について説明する。さらに地方消費税の課税標準額の推計方法を示し,地方消費税の実際の税収額をマクロ税収配分方式に基づいて各県に配分する方法を明らかにする。(以上,本集掲載)
著者
布能 英一郎
出版者
関東学院大学経済研究所
雑誌
経済系 (ISSN:02870924)
巻号頁・発行日
vol.245, pp.100-118, 2010-10

In two player competitions, the Bradley-Terry model is a well-known probability model. This model shows that the propability that player i wins is the power of player i divided by the power of player i plus the power of player j in the battle between player i and player j. When "players" mean baseball, soccer, or football teams, some teams might be combined or restructured in next season.In this paper we discuss the maximum likelihood estimation of the power of each team for this problem. Obtaining the MLE by using iterative scaling procedures is also discussed.
著者
四宮 正親
出版者
関東学院大学経済経営学会
雑誌
経済系 = Kanto Gakuin journal of economics : 関東学院大学経済経営学会研究論集 (ISSN:02870924)
巻号頁・発行日
vol.272, pp.1-15, 2017-07

明治・大正期に輸入外国車の販売代理商が形成され,日本における自動車販売はスタートした。自動車について理解の乏しかった明治末から大正の初めにかけて,輸入車ディーラーはハイヤー事業やバス事業などにも進出して自動車販売事業の不採算性を補うとともに,自動車の用途拡大とその利便性の啓蒙に一役買ったことが知られている。輸入車ディーラーのパイオニア的活動の一つひとつが,わが国における自動車産業の発展と自動車社会の進展に大きく貢献したことは疑う余地がない。本稿では,萌芽期の自動車販売の一つのケースとして,日本自動車の創業とその後の経営について検討し,萌芽期の自動車販売における同社の経営活動の意義について考察を加える。
著者
橋本 健広 中原 功一朗 中村 友紀 原田 祐貨
出版者
関東学院大学経済研究所
雑誌
経済系 : 関東学院大学経済学会研究論集 (ISSN:02870924)
巻号頁・発行日
vol.264, pp.64-71, 2015-07

関東の一大学経済学部における2014年度の英語教育は,同大学の5カ年計画の事業の一つとして,初中級学生の英語力の底上げを図り,実践的な英語力を養成することを目標とした。具体的には,1.市販教材を使用して自習できるまでに初中級学生の英語力の底上げを図ること,2.TOEIC受験率を上げること,3.カリキュラム改革等を通して学生が英語でわずかながらもコミュニケーションを取れるよう教育環境を整えることの三点である。初中級学生の英語の熟達度の底上げを図るために,2年次英語補習としてTOEIC準拠教材に取り組ませ,また2013年度の検証結果をもとにeメンターを導入して継続的な学習を促した。語学としての英語や補習教材に関する動機づけのアンケートを実施し検証した結果,補習への取組が継続的になされ,また一部の学生に理想だけではなく実際の学習行為への動機づけの上昇がみられた。TOEIC受験料の補助制度を設けることでTOEIC受験者数が増加し,またリスニングの学習が有益であるという示唆が得られた。実践的な英語力を身につけるためグローバル人材育成プログラムを整備し,2015年度より実施予定である。留学等に関するアンケートの実施結果から,多くの学生は留学や海外での活動に興味を持っていた。2015年度はより多くの学生の補習プログラムへの取組を促し,英語の熟達度の改善と実践的な英語力の養成へとつなげる予定である。
著者
奥村 皓一
出版者
関東学院大学経済研究所
雑誌
経済系 : 関東学院大学経済学会研究論集 (ISSN:02870924)
巻号頁・発行日
vol.224, pp.70-95,

20世紀末から始まった米国の第5次M & Aブームは,史上最大の規模を誇り,欧州・アジアをも巻き込み21世紀の現在も進行中。そのM & Aの代表企業だったAT & Tは,長距離通信とメディア(CATV)の両業界を統合した"新独占<となったが,情報通信大競争化下でその王国は崩壊。旧子会社に買収され,140年の歴史を終えた。通信とメディアの合併統合化はさらに進み,巨大通信寡占体とメガメディアが互いの分野へ相互浸透し,さらに次なる業界を超えたメガ・マージャーへ進み21世紀型資本主義の主導的役割を目指す。
著者
奥村 皓一
出版者
関東学院大学経済研究所
雑誌
経済系 : 関東学院大学経済学会研究論集 (ISSN:02870924)
巻号頁・発行日
vol.225, pp.47-66,

20世紀末から始まった米国の第5次M & Aブームは,史上最大の規模を誇り,欧州・アジアをも巻き込み21世紀の現在も進行中である。そのM & Aの代表企業だったAT & Tは,長距離通信をメディア(CATV)の両業界を統合した"新独占<となったが,情報通信大競争下でその王国は崩壊した。旧子会社に買収され140年の歴史を終えた。通信とメディアの合併統合化はさらに進み,巨大通信寡占体とメガメディアが互いの分野へ相互浸透し,さらに次なる業界を超えたメガ・マージャーへ進み,21世紀型資本主義の主導的役割を目指す。
著者
和田 重司 ワダ シゲシ Wada Shigeshi
出版者
関東学院大学経済研究所
雑誌
経済系 : 関東学院大学経済学会研究論集 (ISSN:02870924)
巻号頁・発行日
vol.216, pp.90-100,

本書は,スミス経済学に関して久々に現れた包括的な分析であるだけではなく,経済学史の通説に関しても, わが国のスミス研究に関しても,まことに大きな問題提起をした意欲作である。問題がきわめて広範囲のものであるから,その全体を書評するのは容易な作業ではないし,著者が提起された問題すべてを一編の論考で一気に総ざらいすることはむしろ不可能であろう。しかし以下,前半において星野氏の主張の要点と思われるポイントのいくつかを摘記し,後半においてそれをめぐっての疑問を述べたいと思う。こうした書評を試みること自体が1 つの冒険ではあるが,久しぶりに現れた刺激的な労作にあおられて,評者は本書からより多くのことを学びとり,また今後ともさまざまな教示を仰ぐ期待を込めて,あえて不充分ながらも本書の要点と思われることのまとめとそれに対する疑問とを提示してみることにした。(以下の論述では「付加価値」という用語を著者の用法に従って,主として生産的労働が付加した価値のうち賃金を超える部分と対応させることにする。その場合,おおかた利潤だけを問題にし,地代の問題を度外視させていただく。本書の地代に関する問題点については,渡辺恵一氏の書評,「星野彰男『アダム・スミスの経済思想付加価値論と「見えざる手」』」,『京都学園大学経済学部論集』,第12 巻第13 号,2003 年3 月が,すでに詳しく検討している。)
著者
石井 穣
出版者
関東学院大学経済研究所
雑誌
経済系 : 関東学院大学経済学会研究論集 (ISSN:02870924)
巻号頁・発行日
vol.254, pp.120-135, 2013-01

これまでリカードウは資本蓄積を促進する立場から,生産的労働の増加を促進し,不生産的労働の雇用を含む,不生産的支出をできるだけ抑制すべきとの立場であったと考えられてきた。だがリカードウは「原理」第3版第31章の機械論において,召使いなどの不生産的労働者の雇用をひとつの足がかりとして,資本蓄積にともなう労働需要の増加を導出し,さらに機械導入は労働者階級を含む全般的富裕をもたらすことを論じている。このように,リカードウ資本蓄積論における不生産的労働の位置づけは,必ずしも明確ではないことから,本稿では,リカードウにおける労働需要の規定要因の考察を通じて,不生産的労働の位置づけを検討する。リカードウにおいては総生産物による労働需要規定が重要性を持とことを示すとともに,その分配論,利潤率低下傾向のさらなる考察のために,不生産的労働が及ぼす影響の解明が求められることに言及する。
著者
田中 史生
出版者
関東学院大学経済研究所
雑誌
経済系 : 関東学院大学経済学会研究論集 (ISSN:02870924)
巻号頁・発行日
vol.229, pp.11-23,

「高野雑筆集」下巻所収「唐人書簡」の分析を通して,9世紀中葉に両浙地域を拠点とした唐人交易者の対日交易の実態を検討した。その結果,当該期に対日交易を活発化させた彼らに対し,日本は856年前後までには唐物使を派遣してその貨物に対する官司先買を強化したこと,このため唐人らは,日本に居留する近親者との面会の場面を利用し,貨物を密かに渡して官司先買を逃れようとしていたことなどが推定された。また,彼らのもたらす交易貨物には,彼らが本拠とした江南地域産のものだけでなく,その北方・南方から集められた品々が含まれていたことも確認した。
著者
中村 桃子
出版者
関東学院大学経済研究所
雑誌
経済系 : 関東学院大学経済学会研究論集 (ISSN:02870924)
巻号頁・発行日
vol.252, pp.1-17, 2012-07

本稿は、1970年代のアメリカ映画字幕で使用された女ことばを例に挙げて、現代でも翻訳は日本語の変化をけん引している側面があることを明らかにする。1章では、マンガの分析から、それまでていねいさや従順さの表現とみなされてきた女ことばが、1970年代から悪意・高飛車な態度・怒りなどを表現する際に用いられている現状を報告する。2章では、このような変化の要因の一つとして、フェミニズムの影響により1970年代のアメリカ映画のヒロインが現れ、彼女たちのせりふが女ことばに翻訳された事情が考えられることを示す。戦い、闘う、強い西洋女性の身体が発する女ことばが広く消費されたことにより、女ことばの再生産だけでなく、変化までもが翻訳に先導されているとしたら、日本語とジェンダーの最も重要な関係である女ことばの構築、再生産、変革において、翻訳が思いがけなく大きな働きをしていると言える。結論では、女ことばの構築、白人性による女らしさの正当化、および、言語イデオロギーが翻訳過程に与える影響に関して本稿の分析が示している理論的示唆を論じる。
著者
吟谷 泰裕
出版者
関東学院大学経済研究所
雑誌
経済系 (ISSN:02870924)
巻号頁・発行日
vol.247, pp.18-27, 2011-04

有効需要の不足が原因で失業が生じている体系において、名目賃金を合理的かつ有意な水準に決定することを試みる。このとき、資本と労働が非代替である生産関数を設定し、賃金に関する任意の方程式を追加することなく名目賃金を決定する。そして名目賃金を歴史的に所与にすると有効需要は内生的に決まるが、その下方硬直性が失業の原因になるという点で、体系がニューケインジアン理論の体系に転化することを示す。
著者
大住 莊四郎
出版者
関東学院大学経済研究所
雑誌
経済系 (ISSN:02870924)
巻号頁・発行日
vol.232, pp.27-45, 2007-07

厳しい財政制約のもと,増大し多様化する市民ニーズへの対応,都市間競争から求められる特徴ある都市機能の強化に向けて,都市・自治体への戦略マネジメントの適用が求められている。しかしながら,その方法論は必ずしも確立されてはいない。本論では,大住(2005)における自治体への戦略マネジメントモデルがより有効に機能するために,民間企業における顧客価値に基づく戦略パターンを公共組織への適用可能なかたちに修正することを試みた。公共組織では,四つの市民価値を設定しこれらに基づく戦略パターンを適用することで,戦略の選択やその具体化が容易になる可能性が確認された。
著者
大住 莊四郎
出版者
関東学院大学経済研究所
雑誌
経済系 (ISSN:02870924)
巻号頁・発行日
vol.232, pp.27-45, 2007-07

厳しい財政制約のもと,増大し多様化する市民ニーズへの対応,都市間競争から求められる特徴ある都市機能の強化に向けて,都市・自治体への戦略マネジメントの適用が求められている。しかしながら,その方法論は必ずしも確立されてはいない。本論では,大住(2005)における自治体への戦略マネジメントモデルがより有効に機能するために,民間企業における顧客価値に基づく戦略パターンを公共組織への適用可能なかたちに修正することを試みた。公共組織では,四つの市民価値を設定しこれらに基づく戦略パターンを適用することで,戦略の選択やその具体化が容易になる可能性が確認された。
著者
黒川 洋行
出版者
関東学院大学経済研究所
雑誌
経済系 : 関東学院大学経済学会研究論集 (ISSN:02870924)
巻号頁・発行日
vol.249, pp.36-55, 2011-10

ヴァルター・オイケンは,オルド自由主義によるドイツの代表的経済学者である。彼の業績は,歴史的アプローチと数理的アプローチの二元論を超克して,独自の経済秩序理論を構築したことである。その中心的な理念的概念は,「競争秩序」と呼ばれ,そこでは,機能的かつ人間にふさわしい自由な経済秩序が追求されている。そして競争秩序の構築と維持のための経済政策の諸原理が体系的に提示されるとともに,その政策主体としての国家の積極的役割が是認されている。本稿では,オルドリベラルなオイケンの経済学の全体構造を明らかにすることを試みる。