著者
二井 一禎 古野 東洲
出版者
京都大学農学部附属演習林
雑誌
京都大学農学部演習林報告 = BULLETIN OF THE KYOTO UNIVERSITY FORESTS (ISSN:0368511X)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.23-36, 1979-12-20

西南日本の海岸線を中心に, 日本の各地でマツ林に激しい被害をもたらしているマツノザイセンチュウに対するマツ属各種間の抵抗性の違いを調査するために1977, 1978の両年に, 京都大学農学部附属演習林上賀茂試験地および白浜試験地に植栽されているマツ属30種, のべ約600本に対してマツノザイセンチュウの接種試験を行なった。接種にあたっては1本の供試木あたり2, 000頭のマツノザイセンチュウを接種したが, さらに, P. strobus, P. taedaには接種密度を変えて, 1本につき2, 000頭ずつ3ヶ所に計6, 000頭を接種した。接種後2および5週目に早期症状の調査のため樹脂浸出量を測定した。その後, 経時的に1年間供試木の外見的異常を観察し, しかる後に供試木からの線虫の再分離を試みた。これらの調査・観察の結果の大要は次のようである。(1) マツノザイセンチュウを接種された木の樹脂量はその後の外見的症状の有無とは無関係に減少する傾向が見られた。(2) 外見的病徴にもとづく異常発生率の供試樹種間における違いは, 育種学的知見にもとづいて築きあげられた Critchfield & Little の分類体系で比較的うまく類別できる。すなわち, Australes 亜節に含まれる種は最も抵抗性が強く, Contortae 亜節の種がこれに準じる。Ponderosae, Oocarpae 両亜節の種はいずれも感受性であり, 日本産のクロマツやアカマツが含まれる Sylvestres 亜節の中には強度の感受性樹種から抵抗性樹種まで, さまざまな反応が見られた。また Strobus 亜属の各種の異常発生率は高かったが, いくつかの種では Pinus 亜属の感受性反応と異なり異常を部分で食い止め, 全体としては健全性を保ち枯れない可能性をうかがわせる反応が見られた。(3) 接種密度が高くなると抵抗性の P. taeda でも異常発生率が高まり, これらの樹種の抵抗性が本質的には絶対的なものではないことを示唆した。(4) 1977年度の接種試験で生き残った個体を1978年度, 再度接種に供したところ, いくらかの種で, それらの異常発生率は新規に接種した場合の異常発生率より低い傾向がうかがわれた。これはそれらの種内に抵抗性の個体間差が存在することを示唆している。(5) 供試木から接種一年後に線虫を再分離したところ, 異常を発現し, 枯死したような木や部位からは普遍的にマツノザイセンチュウが分離された。一方健全なまま生存した個体や部位からはマツノザイセンチュウは分離されず, マツ属内に見られる抵抗性と樹体内での線虫の増殖の密接な関係が明らかになった。
著者
大畠 誠一
出版者
京都大学農学部附属演習林
雑誌
京都大学農学部演習林報告 = BULLETIN OF THE KYOTO UNIVERSITY FORESTS (ISSN:0368511X)
巻号頁・発行日
vol.65, pp.36-49, 1993-12-24

マツ属各種の系統進化上の位置づけを行う第一段階として, 種群単位での位置づけを試みた。方法としては, 各種の地理分布圏を重ね合わせ, 系統分類群ごとに等種数分布図を作成し, 種群の最小単位であるマツ亜節の地理分布圏の特徴と分布の様相を調べた。全北区の広分布要素のひとつとされるマツ属の分布を詳しく調べると, 亜節分布の様相は分類群によって異なる様々な結果を示した。他方, 種群の歴史的変化過程が, 発生, 変異して繁栄の段階をむかえ, ついには滅亡へと進む自己運動として考え, それらの地理的分布の様相が発展的固有, 広分布, 不連続分布, 遺存的固有の様相を示すものとすれば, 個々の種群の分布の様相を調べることによって, それぞれの種群の分化後の位置づけが可能となる。この仮定のもとに現生のマツ属各種群を位置づけると表2となった。この表により, マツ属各グループの系統進化の概要が位置づけられる。近縁の多数種が限定された場所に分布する特徴と種群内の天然雑種の形成率の大きさから, マツ属のうちではSubsect. Oocarpae, Subsect. Ponderosae, Subsect. Australes, 地中海沿岸のSubsect. Sylvestres等が, 種分化後の時間が短く, 新しいグループであると推測された。これらの種群の分布域の北側には山岳域がある。一方, 第三紀以後マツ属全体の分布域が南下したことが化石マツから明かにされている。そこで, これら種群の分化は第三紀以後に現在の分布圏の北部にある山岳地において, それらの形成に伴って種分化が発生したと推測した。さらに, これらの種群の示す同所的, 集中的分布は, 第四紀の気温変動によって形成されたと推測した。
著者
佐藤 乾 藤田 稔 佐伯 浩
出版者
京都大学農学部附属演習林
雑誌
京都大学農学部演習林報告 = BULLETIN OF THE KYOTO UNIVERSITY FORESTS (ISSN:0368511X)
巻号頁・発行日
vol.62, pp.318-325, 1990-12-20

熟成したモルトウイスキーの香味は, 樽材の性質, とくに, その組織や抽出物に負うことろが大きいと言われている。本報告では, モルトウイスキーの樽材中での分布を明らかにし, 樽材の組織とモルトウイスキーの浸透性を検討した。また樽材中のアルコール抽出物の分布も調べた。その結果, モルトウイスキーの樽材中での含有量は内表面側から外表面側に向かって低下するが, その全体の量は大変大きなものであり, モルトの総欠減量の半量にも達することが明らかとなった。樽材中のアルコール抽出物の割合は内表面側で低く, 中ほどで高い分布を持ち, 内表面側のそれはモルトウイスキー中に溶解されたことを示している。モルトウイスキーの浸透深さと年輪幅あるいは追柾角度との間に, 一定の関係は見られなかった。
著者
中村 一
出版者
京都大学農学部附属演習林
雑誌
京都大学農学部演習林報告 = BULLETIN OF THE KYOTO UNIVERSITY FORESTS (ISSN:0368511X)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.190-197, 1965-11-15

造園計画の哲学的側面は2つの問題に関して顕著にあらわれる。第1に造園が他の物的諸計画 (建築, 土木など) と協同して有機的生活環境を作り上げるための統一的な理論はないだろうかという問題がある。そのような理論的体系のひとつとして哲学そのものがある。ただしその哲学は科学との明確な相違点を自覚しつつ, しかも科学の諸成果を価値領域にもちこんで, 人間の未来を実験的に築いていくための理論を提供するものでなければならない。第2に専門化した造園計画の特色はなにかという問題がある。その特色は造園が扱う自然的材料にみられるが, ここで自然という言葉の哲学的内容が問題化する。私は自然の本質的特性である安定性と不安定性に注目して, 不安定性要因をより多くもつものとして, 「みかけの自然」の概念を仮説的に使用することによって造園計画の特色をより深い意味でとらえようと試みた。
著者
長山 宗美 吉田 鐵也
出版者
京都大学農学部附属演習林
雑誌
京都大学農学部演習林報告 = BULLETIN OF THE KYOTO UNIVERSITY FORESTS (ISSN:0368511X)
巻号頁・発行日
vol.61, pp.261-275, 1989-12-13

京都市内の一児童公園 (面積1800m_2) において, 公園の空間配置の変化が利用者の行動にあたえる影響を評価する目的で, 1989年6月に行動追跡調査法を使って子供の利用行動を調査した。当該公園では, 1958年に同様の行動軌跡の採取が行われている。その調査後, 自由広場中央部に花壇が設置された。公園の空間配置の改変によって利用行動がどの様に変化するかを比較した。子供の公園の利用時の行動軌跡のパターンは4つに分類できた。A 遊具中心の軌跡 B 遊具中心, 広場も利用するが円運動的軌跡 C 遊具と広場の軌跡 D 広場の軌跡 年齢が上がると, 遊具施設周辺のみを利用するA型から広場を主に使うD型への移行が可能になる傾向がある。改変後, 遊具中心に広場での活動をともなうB型が早い年齢で出現するようになった。すなわち, 中央花壇の設置という改変は, 低年齢児の中央進出を促進したといえる。改変により, 公園内のもっとも広いオープン・スペースが400m_2から200m_2にまで縮小したため球技など広い面積を要する遊び行動を阻害することが予想されたが, 子供たちは工夫して (花壇を含めるなど) 球技を行っていた。実際の球技に要する面積は, 広場が広い時でも200m_2未満が多かった。また, 改変後の方が空間利用密度のバラツキが小さくなり, 空間がより有効に利用されるようになった。
著者
古野 東洲 渡辺 弘之
出版者
京都大学農学部附属演習林
雑誌
京都大学農学部演習林報告 = BULLETIN OF THE KYOTO UNIVERSITY FORESTS (ISSN:0368511X)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.41-55, 1970-03-25

この研究は, 愛媛県下の西条営林署管内および今治市長沢にあるフランスカイガンショウ林のマツノシンマダラメイガによる被害と雪による被害を, 1968年10月21 - 24日および1969年1月30日に調査し, その被害の状況を記録したものである。雪害は1968年2月14 - 16日にみられた降雪のために, 冠雪によりおこったもので, 当時あ降雪量は西条の林分では40 - 50cm, 今治市長沢の林分では20 - 30cmであったようである。調査したフランスカイガンショウの林分は調査時つぎのような状態になっていた。西条の林分は, 約1haで, 1930年に造林され, 平均胸高直径は18. 5cm, 平均樹高は推定13m, ha当り1257本で, フランスカイガンショウの純林であったが, 雪害で大きな被害をうけていた。今治市長沢の林分は, 西南向きの斜面に成立し, 約0. 2haにフランスカイガンショウに少数のアカマツ, クロマツが混生していた。ha当りの立木本数は7033本の高密度で, そのうちフランスカイガンショウは6368本であった。この林分は, 1952年秋に40年生のフランスカイガンショウを伐採した跡地に天然更新でできあがったもので, 胸高直径は1cmから12cmまで, 樹高は2. 1mから8. 9mまでの各種の大きさの個体よりなり, それぞれの平均値は4. 5cmと5. 5mであった。この林分も雪害で激しい被害をうけていたが, 約100m離れた尾根に植栽されている約0. 1haの小林分 (平均胸高直径9. 7cm, 平均樹高7. 2m, ha当り2000本) では, 雪による被害は軽微であった。雪害調査は, 幹の折損および幹の曲りを記録し, 折れたものでは, その状況 (幹が全く切断されているもの, 幹は折れているが一部で付いているもの, 幹が割れているもの) およびその位置 (樹冠内および下枝より下部) を調べ, 折損高を測った。さらに長沢の林分では折損部の直径を測り, 折損部を分枝部, 分枝部上部, 分枝部下部および節間に分け調査した。フランスカイガンショウに対するマツノシンマダラメイガの加害はすべて幹に限られ, その被害率は, 西条の林分では43%, 長沢の斜面の林分では3%, 尾根の林分では6%で, 西条と長沢で差がみられた (表-1)。雪害は幹の折れと曲りが大部分で, 幹の割れや枝抜けは数例みられたにすぎなかった。雪害率は西条の林分では71%, 長沢の斜面の林分では80%で雪害は激しかったが, 長沢の尾根の林分では13%の微害で, 長沢での両林分の雪害差の原因は, 林分を構成している個体の形状比にあるようであった (表-1, 2, 3)。雪により激害をうけた両林分を比較すると, 西条では幹の折れが雪害木の大部分 (98%) を占めていたが, 長沢では幹の折れと曲りがほぼ半々であった。さらに, 幹の折損で, 西条では折損木のうち完全に切断されたものが72%であったが, 長沢では4%とすくなく, 両林分で雪害のあらわれ方に大きな違いがあった。この原因の1つに両林分の幹の形状比の違いが考えられる (図-1)。幹の曲ったものは形状比の大きいものに, また胸高直径の細いものに多くあらわれている。幹の折損部は胸高直径が太いものは樹冠内で, 細くなるにしたがって樹冠の下で折れる個体が多くなっているが, 長沢の林分では, 折損木の23%が, 西条の林分では75%が樹冠内で折れていた (図-3)。さらに長沢の林分では, 枝階の分枝部の直ぐ上で折れているものが67%で最も多く, 分枝部 (15%), 分枝部の直下 (10%), 節間 (8%) の順になった。折損高は, 長沢では樹高の0. 2 - 0. 5倍の位置に集中 (69%) し, 大部分 (91%) は樹高の0. 6倍より下で折れていた (図-4)。西条では樹高の0. 6 - 0. 8倍のところで折れたものが多かった。折損部の直径は, 大部分の個体では, 胸高直径の0. 7倍より太く, 折損個体の約半数は胸高直径の0. 7 - 0. 9倍の太さのところで折れていた (図-5)。附近のアカマツと比較して, フランスカイガンショウは雪に対してやや弱いようであった (表-1, 4)。西条の林分で, マツノシンマダラメイガの被害をうけていた73本中, 虫害部で折れていたものは4本で, また, 雪で折れた119本中, 42本は虫害をうけていたにもかかわらず, 健全部で折れていた。すなわち, 本調査でのフランスカイガンショウの雪による折損はマツノシンマダラメイガによる幹の被害とは, とくに関係がないことがわかった。以上の結果から, フランスカイガンショウは, マツノシンマダラメイガによる被害に加えて, 雪に対しても相当に弱いことがわかり, 生長が非常に良いということで, これらの要因を考慮せずに利用することには, 大きな危険がともなうのではないかと考えられる。
著者
堤 利夫 酒井 正治
出版者
京都大学農学部附属演習林
雑誌
京都大学農学部演習林報告 = BULLETIN OF THE KYOTO UNIVERSITY FORESTS (ISSN:0368511X)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.60-66, 1984-11-30

京都大学芦生演習林の天然生落葉広葉樹林で, 斜面上部のB_B型土壌と斜面下部のB_D型土壌の2つのプロットの細根の量と垂直分布をしらベた。B_BのプロットではB_Dのそれに比し, 乾性種が多く小径で立木本数が多い林分である。両プロットで立木間に設けた1m_2の方形枠について, 表層から10cmごとに掘りとって測定した結果, B_Dのプロットの根量は10. 25t/ha, B_Bプロットで15. 65t/haでB_Bプロットの方が根量が多かった。これらの根を径2mm以下, 2 - 5mm, 5 - 20mmに区分すると, B_Dプロットで径5 - 20mmが比較的に多く, B_Bでは逆に径2mm以下が多い傾向があった。根は地表に多く集中し, 下層に向って減少するが, B_Bプロットの方が変化が急であって, 70cm以深にはみられなかった。B_Dプロットでは径5 - 20mmの根が深さにともなってほとんど変化せず, このことが全量の減少速度を小さくしていた。径5mm以下の細根の地表からの減少速度は2つのプロットで明らかな差はなかった。細根は両プロットとも地表に集中し, 20cm深までに全細根量の65-77%を含む。その量はB_Bプロットでとくに多く, F・H層, A層が物質循環の主な場であることを示唆した。
著者
小野 理 藤掛 一郎
出版者
京都大学農学部附属演習林
雑誌
京都大学農学部演習林報告 = BULLETIN OF THE KYOTO UNIVERSITY FORESTS (ISSN:0368511X)
巻号頁・発行日
vol.65, pp.221-237, 1993-12-24

利用規則を定めることで利用客の行動を規制しようとしているレクリエーション利用地は多いが、規則が十分に守られない例もある。ここでは、利用客の過去の経験と利用規則の知識との相関を見ることで、利用規制の方法を考察した。その結果、利用者の過去の訪問経験や、この論文で間接経験と呼ぶ自然体験や自然に対する関心の高さなどが、その人がレクリエーションの利用規則の内容を判断するのに影響を与え、正しい判断を促すことが示された。また、規則の内容を知るだけでなく、規則内容の利害関係や因果関係を理解することが規則への同調行動を促すと考えられる。その際、間接経験はレクリエーション行動の意志決定過程にも影響を与え、間接経験が豊かな人は利害関係や因果関係の情報が与えられない場合でも規則の内容に合致した行動をとる確率が高い。したがって、レクリエーション利用を研究する上で間接経験の影響を重視する必要があると考えられる。
著者
水山 高久 佐藤 一朗 小杉 賢一朗
出版者
京都大学農学部附属演習林
雑誌
京都大学農学部演習林報告 (ISSN:0368511X)
巻号頁・発行日
no.66, pp.p48-60, 1994-11
被引用文献数
2

山腹斜面中にはパイプ状の水みちがあり, 流出過程に大きな影響を与えていると考えられるようになってきた。しかし, その実態については限られた地域でしか明らかにされていない。山腹の表層崩壊について一様な土層構造を仮定した雨水の浸透現象に基づく説明が試みられてきたが, 崩壊の発生し易い斜面は判定できるものの, 時間的に降雨のピークに対応して発生する現象は説明されていない。筆者らは最終の研究目標を表層斜面崩壊の予測に置き, そのために必要不可欠な研究項目としてパイプフローを取り上げた。かつて谷の出口で流量観測が実施された芦生演習林内のトヒノ谷の中の1つの凹地形 (0次谷, hollow) において2つのパイプの流出量を観測するとともにパイプの空間的な分布を調べた。その結果, 以下のような項目が明らかになった。・0. 64haの0次谷で雨中の調査を行った結果, 直径3 - 8cmの7カ所のパイプの出口が見つかった。その内, 下流端の3カ所だけに常時流水が見られる。その他は斜面が先行降雨によって湿潤になって降雨強度が大きい場合にのみ流出が見られた。・パイプ流出量の時間的な変化は降雨波形とよく対応している。しかし, パイプの流量には上限があり頭打ちとなる。観測しているパイプの1つで1リットル程度の土砂流出が発生した。その後, このパイプについては上述の流量の上限が無くなった。・パイプの形状, 分布を調べるため掘ってみた。パイプの形をしているのは出口から50cm程度で, その後はマトリクスの流失したと思われる礫層につながっていた。したがって, 地表への出口はパイプとなっているが流れとしてはパイプ流というよりも礫間流と呼ぶべきものであった。・パイプからの流出は流量に上限を与えたタンクモデルでうまく説明することができた。
著者
岡野 竜馬 赤尾 健一 藤原 三夫 坂野上 なお
出版者
京都大学農学部附属演習林
雑誌
京都大学農学部演習林報告 = BULLETIN OF THE KYOTO UNIVERSITY FORESTS (ISSN:0368511X)
巻号頁・発行日
vol.63, pp.154-172, 1991-12-20

本研究では, 素材供給者および素材需要者両方の経営行動の分析を通じて, 京都の素材市場構造を明らかにした。分析結果は, 第一に, 素材生産業者数の減少とその雇用労働者の高齢化が進行しているが, まだ彼らは地域内の素材生産を担うだけの経営能力を有しており, その中心的位置を占めること。第二に, 原木市売市場は集出荷時力を増大させており, 素材流通過程において素材生産業者との分業体制を確立していること。そして第三に, 素材需要者としては, (1) 買方数は多いものの多様な樹材種の素材を小量づつ需要する地元京都府の製材業者と, (2) 買方数は少なく仕入れ樹材種も限定されているものの, 素材を安定的にしかも大量に仕入れる奈良県桜井市をはじめとする府外の製材業者 (および転売業者) がみられる。そして, 地域産材の流通のためには後者の存在が不可欠となっている。全国的傾向とは異なり, 先進林業地である北桑田郡周辺で近年, 素材生産量が維持されてきたのは, このような流通体制が維持されているからである。とはいえ, 経済的に合理的で効率のよい木材生産・流通, 加工体制を整備し, 国内の森林資源の活用を図るという課題は, 依然残されている。
著者
渡辺 弘之 登尾 二朗 二村 一男 和田 茂彦
出版者
京都大学農学部附属演習林
雑誌
京都大学農学部演習林報告 (ISSN:0368511X)
巻号頁・発行日
no.41, pp.1-25, 1970-03
被引用文献数
4

京都大学芦生演習林 (京都府北桑田郡美山町) においては, ッキノワグマは最も重要な林木への害獣である。クマは6月上旬から7月中旬にかけて, スギを主とし, ヒノキ, モミ, ツガ, ヒバ, ゴヨウマツおよび植栽されたカラマツ, ドイツトウヒなどの針葉樹とサワグルミ, シナノキなどの広葉樹の樹皮を剥ぎ, 形成層部をかじる。最も被害の大きいスギでは直径12α η, とくに20cm 以上のものを好み, 高さ2 - 4mまでの樹皮を剥ぎ, そのうちの地際より1 - 1. 5mまでの形成層部をかじる。一度に5 - 10本が被害を受け, その剥皮面積は0. 9 - 2. 1m_2にも達する。大面積を占める天然林中のスギでは胸高直径20cm以上のもの20 - 40%が剥皮の害を受け, 人工林ではまだ面積は小さいが, 地域によって80%に及ぶところもある。クマによって全周剥皮されたスギは枯れるが, ほとんどのものは部分的な剥皮であるので, 枯死することは少ない。しかし, 剥皮されたものは枯れなくても, 生長量は減少し, 剥皮部が腐朽し, 利用材積は小さくなるし, 品質は著しく悪くなる。また, 芦生演習林において観察されたクマの摂食あとや糞の内容物, 捕獲されたクマの消化管の内容物から, クマはクリ, ミズナラ, ヤマブドウ, アケビ, アオハダ, カナクギノキ, スモモ, カキなどの実, キイチゴ, クマイチゴ, バライチゴの実, ネマガリダケのタケノコ, ウバユリ, バイケイソウ, カンスゲ, シシウド, カニコウモリ, イタドリ, フキ, ウワバミソウなどの葉, 茎, 根とムネアカオオアリ, ミツバチ, スズメバチ, カニなどを食べていること, クマの越冬穴にはスギ, ブナ, ミズナラなどの大径木の空洞が利用されていることがわかった。
著者
竹内 典之 酒井 徹朗 楊 潤田
出版者
京都大学農学部附属演習林
雑誌
京都大学農学部演習林報告 (ISSN:0368511X)
巻号頁・発行日
no.63, pp.p218-225, 1991-12

中国東北部興安嶺地域および東北平原における凍土の分布と道路, 橋梁, 建築物等の災害の概況について報告する。1. 興安嶺地域および東北平原は, シベリアに中心を持つ周極の永久凍土帯と季節凍土帯との移行帯に位置する。一般に, 永久凍土帯と季節凍土帯との移行帯においては, 土の凍結深度や凍土の融解深度が大きい。2. 興安嶺地域およびその周辺部は, 冬季には厳寒なシベリア気団の影響を強く受けるため気温が極めて低く, 他の同緯度地域に比べると凍結指数は1, 000 - 1, 500℃・Dayも大きい。また, 夏季には, この地域は比較的低緯度地域に位置するうえに, この地域に向かって太平洋高気圧から吹き込む温暖多湿な季節風の影響により比較的気温が上昇する。そのため, この地域においては, 凍結指数, 融解指数ともに極めて大きく, 永久凍土地域にあっては活動層厚が, また, 季節凍土地域にあっては最大凍結深度が極めて大きいのが特徴である。3. 興安嶺地域および東北平原は, 凍土の分布状況から (1) 連続永久凍土区, (2) 不連続永久凍土区, (3) 点在永久凍土区, (4) 季節凍土区に分けられ, この地域の地理, 気象条件から点在永久凍土の分布面積が極めて広いのがこの地域の特徴の一つである。4. 興安嶺地域および東北平原においては, 永久凍土地域にあっては活動層が, また, 季節凍土地域にあっては最大凍結深度が極めて大きいことから, 土の凍結 - (凍上) - 凍土の融解の過程で発生するさまざまな現象によって引き起こされる道路, 橋梁, 建築物等の災害も多岐にわたり, 被害の程度も極めて大きい。5. 興安嶺地域および東北平原における道路, 橋梁, 建築物等の災害は, (1) 土の凍結 - (凍上) - 凍土の融解の過程で発生するさまざまな現象によるもの, (2) 永久凍土地域に特有な地表水, 地下水の凍結による巨大氷塊 (涎流氷, 氷椎, 氷丘等) の生成と融解によるもの, (3) 地被条件等の人的あるいは自然的な撹乱による土の凍結深度あるいは凍土の融解深度の増大によるもの, (4) その他とに大別できるようである。
著者
赤井 竜男
出版者
京都大学農学部附属演習林
雑誌
京都大学農学部演習林報告 = BULLETIN OF THE KYOTO UNIVERSITY FORESTS (ISSN:0368511X)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.68-87, 1972-12-25

三浦実験林は木曽御岳山の南斜面, 標高1, 200 - 1, 500mの準平原にあらわれる湿性ポドゾル地帯における森林造成の指針をもとめるために, 1966年11月, 事業的規模で設定された。本研究はこの実験林で行なわれているヒノキの各種天然下種更新試験のうち, 設定後3 - 4年を経過した帯状皆伐, 皆伐母樹法, 択伐更新試験地の更新状態についてとりまとめたものである。天然生ヒノキ林の平均樹高の2倍, 約50m幅に伐採帯と保残帯を交互に組み合せた帯状皆伐更新地には, この地域に普通あらわれるササを除草剤で枯殺した帯と残した帯が作られた。ササは多いところで地上部乾重が約6ton/haもあり, その中の地床の相対照度は1 - 2%できわめて暗く, また地温もササ除草地に比較して低い。30 - 60m間隔に3 - 10本ずつ群状に母樹を残した (保残率4%) 皆伐母樹法更新地と, 約50%の単木ぬきぎりを行なった択伐更新地はすべてササが除草されている。A_o層の堆積は各試験地ともきわめて厚く, 乾重でほぼ40 - 60ton/haと推定され, 更新上の大きな障害となっている。帯状皆伐更新地における保残帯やササの成立する帯では稚樹の発生が少ないが, ササ除草を行なった伐採帯には著しく多い。しかも林縁付近が常に多く, 実験林設定後発生した2 - 4年生の稚樹が平均7本/m_2以上に達した個所もあるが, 伐採帯の中央付近になるほど少なくなる傾向が認められた。皆伐母樹法更新地ではほぼ全面にわたって稚樹がよく更新しているが, 母樹群付近とか種予の散布が重なり合うようなところに特に多い。択伐更新地はササが除草され, 林床も比較的明るくなっているのに, せっかく発生した稚樹のほとんどは年内に消失してしまうようであった。各更新面の状態別にまとめた稚樹の大きさの頻度分布や年平均生長量から判断して, 密生したササは稚樹の発生ばかりか生長に対しても悪い影響を与えていると思われた。稚樹の根元直径 (D_o) に対する稚樹高 (H) の相対生長関係はバラツキが大きく, また更新面の状態のちがいによってほとんど分離しない。そして同じ単位にしたH/D_o=100の値より小さいものが多かった。ササ除草地に更新している稚樹の各部分量間の相対生長関係からみて, 林内稚樹の同化部乾重や地上部乾重は相対的に少ない傾向が認められる。しかし葉面積あたりの葉乾重は林内外ともほとんど差がない。以上のことからヒノキ天然生林の成立する高冷地の湿性ポドゾル地帯において, 早期に稚樹の発生, 生長を期待するならば, 母樹を樹高の2倍間隔以内に残し, ササのような地床植生をできるだけ除去することがとりあえず必要であると思われた。
著者
瀧本 義彦 佐々木 功
出版者
京都大学農学部附属演習林
雑誌
京都大学農学部演習林報告 = BULLETIN OF THE KYOTO UNIVERSITY FORESTS (ISSN:0368511X)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.258-267, 1986-01-31

振動障害の防止を目的として開発されたツインチェーンソーを実際に伐採現場で使用した場合, 機械としての耐久性と振動加速度値がどのように変化するかをしらべるため, 1984年6月から10月まで岐阜県の石原林材株式会社の伐採現場で広葉樹小中径木の伐倒・玉切り・枝払い作業, スギの間伐作業, ヒノキの伐倒作業等に使用していただき, 使用前・使用後の振動加速度値および使用上の問題点や故障個所について調査した。使用前と使用後の振動加速度の変化は, 常用回転数である7000 - 9000rpmではほとんど見られなかったが, 6000rpm以下では, 前ハンドル上下方向・後ハンドル上下方向と左右方向で増加が見られた。しかし, その値は小さく他の回転数での振動加速度値を超えるものではなかった。また, この期間での使用による防振ゴムの劣化による振動加速度値の変化ははっきりしなかった。使用中に, いくつかの故障が発生したが機械として致命的なものではなく, 簡単な修理でなおった。今後, 改良型のツインチェーンソーについても同様の試験を続けて行きたい。
著者
山本 俊明 瀧本 義彦 寺川 仁 山田 容三 藤井 禧雄 佐々木 功
出版者
京都大学農学部附属演習林
雑誌
京都大学農学部演習林報告 (ISSN:0368511X)
巻号頁・発行日
no.57, pp.p247-257, 1986-01
被引用文献数
1

本研究は林業機械作業における作業者の生理負担に関する研究の一環として最近特に機械化が進んでいる枝打ち作業について作業者の作業中の生理負担について調査したものである。調査を行なった場所は京都大学農学部付属和歌山演習林内, 11林班ヒノキ人工林, 7林班スギ人工林である。作業者は演習林職員1名, 作業員2名の計3名で, 枝打ち機械による作業とナタとハシゴによる手作業について作業中の心拍数を心拍メモリ装置を使って測定し生理負担を推定した。この他, 1時間当りの枝打ち本数についても調査した。作業者の作業中の生理負担の推定は, 各作業者の作業中の心拍数を踏み台昇降運動 (ステップテスト) の物理仕事量に換算し, しかる後次式によりエネルギ一代謝量 (Kcal/分) を推定した。エネルギ一代謝量 (Kcal/分)=0. 0163×体重 (Kg)×台高 (m)×昇降回数 (回/分)+安静時エネルギ一代謝量 (Kcal/分) 結果, 作業中平均心拍数と1時間当りの枝打ち本数は, 手作業の場合ヒノキで77. 2 - 115. 3拍/分, 15. 6 - 27. 9本/時, スギで92. 0 - 111. 0拍/分, 11. 3 - 18. 1本/時, 機械作業の場合, ヒノキで81. 2 - 122. 5拍/分, 13. 6 - 15. 4本/時, スギの場合, 77. 6 - 112. 8拍/分, 9. 6 - 12. 8本/時, の範囲であった。作業中の生理負担については, はっきりした傾向はみられないが, 6. 0Kcal/分 - 7. 0Kcal/分の間であると推定出来る。