著者
市橋 則明
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.881, 2005-09-10

開運動連鎖(open kinetic chain;OKC)は,手や足を床面から離した非荷重位での運動として,閉運動連鎖(closed kinetic chain;CKC)は,手や足を床面に付けた荷重位での運動として使われることが多い. 具体的には,歩行中の遊脚相はOKCであり,立脚相はCKCである.また,ボールを蹴る足の動作はOKCであり,支持足の動作はCKCである.上肢では,手を振る動作はOKCであり,腕立て伏せはCKCである.
著者
髙橋 忠志 尾身 諭 泉 圭之介 菊池 謙一 遠藤 聡 尾花 正義 太田 岳洋 長谷川 士朗 柚木 泰広 北澤 浩美 方波見 裕子 八木 真由美 長井 ノブ子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.271-274, 2019-03-10

はじめに 荏原病院(以下,当院)は東京都の区南部医療圏における中核病院の1つである.リハビリテーション科においては,中枢神経疾患や運動器疾患,廃用症候群,呼吸器疾患などを中心に,急性期から早期リハビリテーション介入を行っている.がん患者に対するリハビリテーションは2015年に所定のがんのリハビリテーション研修を修了し,がん患者リハビリテーション料が算定可能となった. がんのリハビリテーションガイドラインでは,周術期がん患者に対するリハビリテーションは呼吸器合併症の減少・入院期間の短縮のため勧められるとされている1).しかし,当院ではがん患者リハビリテーション料算定可能となった後も,がん患者のリハビリテーション科依頼は少なく,周術期がん患者に対して十分なリハビリテーション介入を行えていなかった. さらに,周術期の呼吸器合併症の予防で有効な手段として口腔機能管理が挙げられる.周術期の口腔機能管理は,口腔ケアによる口腔細菌数の減少,口腔感染源の除去,挿管・抜管時の歯牙保護が主な目的であり,周術期口腔機能管理料を算定できる.2016年度の診療報酬改定において,医科歯科連携の推進として,周術期口腔機能管理後手術加算の引き上げ,栄養サポートチームに歯科医師が参加した場合の歯科医師連携加算が新設され,現在,医科歯科連携がいっそう求められている. 当院では2016年度に外科,歯科口腔外科(以下,歯科),看護部,リハビリテーション科が協働して,がん患者の周術期サポートチームを立ち上げた.このチームをSupport Team of Rehabilitation,Oral care and Nursing care Group for perioperative patientsの頭文字を取り“STRONG”とした. これまで,医科歯科連携として,手術を行う主科と歯科の連携の報告は散見するが,歯科とリハビリテーション科が連携して呼吸器合併症を予防する取り組みは報告が少ない. 今回,当院の外来におけるがん患者周術期サポートチーム“STRONG”の取り組みを紹介する.
著者
東 泰弘 高畑 進一 松原 麻子 西川 拡志 重田 寛人 由利 禄巳 中岡 和代 兼田 敏克
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.161-166, 2019-02-10

要旨 【背景】日本版ADL-focused Occupation-based Neurobehavioral Evaluation(日本版A-ONE)の内的妥当性を検討した.日本版A-ONEは,日常生活活動(activities of daily living;ADL)観察を通して,神経行動学的障害を同定する評価法である.【対象と方法】対象は,脳卒中の診断のある65例であった.全65例の22 ADL項目に対してRasch分析を行った.次に属性による特徴を明らかにするために右半球障害30例と左半球障害35例に分けて同様に分析した.【結果】全65例の分析では,「理解」,「表出」,「箸の使用」,「浴槽移乗」,「洗顔と手洗い」の5項目が不適合項目となった.右半球障害の分析では,「理解」,「浴槽移乗」の2つが,左半球障害の分析では,「理解」,「表出」,「箸の使用」,「洗顔と手洗い」の4つが不適合項目となった.【結語】全65例で不適合項目となった5つを除く17項目で内的妥当性が認められた.不適合項目になった理由として,特定の障害の有無で能力が決定する項目があったことが考えられた.今後は,対象者数を増やして検討する.
著者
高橋 正雄
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1032, 2019-10-10

芥川龍之介が大正10年に発表した『藪の中』は,関山から山科へ向かう山中で,多襄丸という盗賊が,通りすがりの夫婦の妻を夫の面前で凌辱するという話である. ところが,そこで起きた事実に対する3人の当事者の陳述が異なるために真相は藪の中ということになるのだが,この事件を性的暴行事件という視点から捉えた場合,注目されるのは,「清水寺に来れる女の懺悔」として記されている妻の陳述である.
著者
菅原 英和 日下 真由美 笠井 世志子 水間 正澄 石川 誠
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.123-129, 2021-02-10

はじめに 障害者のリハビリテーションは,身体的,精神的,社会的,職業的,経済的な有用性を最大限に回復させることを主目標としている.就労世代の脳卒中では,自宅に退院しただけでは主目標を達成したことにはならず,退院後もさまざまなリハビリテーションによる支援を受けながら,復職や何らかの社会参加の可能性を徹底的に追求しなければ最大限の回復を目指したことにはならない.ただ,高次脳機能障害や失語,片麻痺などの障害を遺した患者の復職支援は簡単ではない.患者と家族が回復の階段を一歩一歩着実に登れるよう,地域のリハビリテーション資源や専門職がおのおのの役割を果たしながらも休職期間の限られた時間のなかで機を逃さずに連携し,最後は職場をも巻き込んで復職へのソフトランディングを実現できるよう適切にコーディネートする必要がある.連携や支援の輪が途中で切れてしまい十分なリハビリテーションを受けられずに復職の可能性が消えてしまう,あるいは準備不足の状態で復職を迎えてしまいうまく定着できずに退職してしまうような事態は何としても避けたいところだが,実際には残念なケースが少なからずあるのではないかと思われる. このような「危うい治療過程」となっている就労世代の脳卒中リハビリテーションを少しでも確かなものにするためには,地域のリハビリテーション資源の役割分担と連携を明確にし,一部のモチベーションの高い職種や個人に依存しすぎない就労支援のシステム作りが求められる. 本稿では,就労世代の脳卒中患者が,急性期,回復期,生活期のリハビリテーションから就労支援を経て復職に至るまでのあるべき連携とおのおのの役割,共有するべき内容について述べてみたい. 就労世代の脳卒中患者が復職を目指してリハビリテーションを行う場合,「就労準備性」を高めていくという共通の目標を共有しながら進めていくことが重要である.「就労準備性」とは,働くことについての理解・生活習慣・作業遂行能力や対人関係のスキルなど基本的な能力のことである.図1は「就労準備性ピラミッド」と呼ばれているもので,復職を目指すにあたっては「健康管理」,「日常生活管理」,「対人技能」,「基本的労働習慣」,「職業適性」の5つの項目に対する能力を,着実に積み上げていくことの重要性を表している1).実際には,これら5つの項目にはさらに細分化された下位項目が設けられており,チェックリストや支援計画書という形でさまざまな就労支援機関で使用されている. 「就労準備性ピラミッド」の積み上げは就労支援のサービスに移行してから開始するのではなく,発症直後の急性期病院にいる段階から開始されるべきである.急性期,回復期そして生活期の外来リハビリテーションや自立訓練を通じて「健康管理」,「日常生活管理」,「対人技能」を底辺から着実に積み上げていき,就労支援機関に移行した後は「基本的労働習慣」,「職業適性」の仕上げに専念できるようにしておくのが理想的である.「健康管理」,「日常生活管理」などの基礎が脆弱であると,就労支援へスムーズに移行できなくなるだけでなく,何とか復職できたとしても長期的にはさまざまな部分で綻びが出て働き続けることが難しくなってしまう. 図2は,回復期リハビリテーション病棟に入院するような中等度〜重度の障害を有する就労世代の脳卒中を想定して,発症から復職までにかかわるべき主なリハビリテーション資源と専門職を,急性期,回復期,生活安定期,就労準備期,就労定着期の5つの時期に分けて示したものである.これらの資源は施設面でも制度面でもバラバラに存在しているが,復職を支援する統一体として要所要所で手を結び合って機能していく必要がある.
著者
渡邉 誠 金村 尚彦 今北 英高 森山 英樹
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.675-678, 2005-07-10

はじめに 末梢神経障害に対するリハビリテーションは,末梢神経損傷後の再生時にmisdirectionの問題が存在するために,知覚再教育としての知覚のリハビリテーションが必要となる. 末梢神経損傷後の知覚再教育は30 cpsと256 cps音叉の振動刺激および動的触覚のある部分が手掌まで回復してきた段階で開始するのが一般的である.Dellon1)は,末梢神経損傷後の知覚回復に関して,痛覚,動的触覚,静的触覚,振動覚の順に回復が認められたと報告している.この初期の回復段階,30 cpsや動的触覚は,皮膚機械受容器の一つであるマイスナー小体によるものとされる.マイスナー小体が初期に回復する理由として,複数の神経線維により神経支配されるため,神経再支配が起こりやすいと考えられている.機械受容器に関しては,立川ら2)は,日本ザルの前肢を用いた両側固有指神経切除後のマイスナー小体の形態的変化について,Navarroら3)は,坐骨神経の挫滅または切断後1~7週でのマウスfoot padへの感覚と神経再生の時間的順序を報告している.知覚障害に対するリハビリテーションの観点から,末梢神経と機械受容器の変性および再生過程の解明が進みつつある. 本研究の目的は,機械受容器の一つであるマイスナー小体に焦点を当て,ラット前肢の神経切断直後からのマイスナー小体の変性過程を形態および組織学的に検討することにある.とくに,このマイスナー小体の層板細胞より産生される非特異的コリンエステラーゼの分布域を調べることで,神経切断によるマイスナー小体の酵素活性領域の経時的変化を検討した.
著者
藤田 郁代
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.968, 2003-10-10

著者のバーバラ・ウィルソンは英国の高名な神経心理学者であり,本邦でも「The Rivermead行動記憶検査」および「BIT行動性無視検査」を通じてなじみの深い方も多いであろう. 神経心理学は医学,認知科学,心理学,言語病理学,作業療法学等からの学際的研究が重要な位置を占める学問領域である.著者の学問的背景は心理学にあり,詳細な症状記述と行動変化の過程の分析にその特徴を見てとることができる.特に,各種の神経心理学的症状にリハビリテーションを行い,その効果を人生の質(QOL)の面から長期に渡り追跡し,記述した書としては他に類を見ないといってよいであろう. 本書では著者が約20年の間に出会い,リハビリテーションを行った600人以上の脳損傷患者の中から特に多くのことを教えてくれた20人が取り上げられている.症状としては記憶障害,失語,失読,失認,視空間無視等を呈した者である.これらの者は治療期間だけでなく治療後も長期的にフォローアップされ,また本書を著すにあたってインタビューも試みられており,その障害が彼らの生活にどのように作用し,著者の治療的介入がその後の人生にどのような変化をもたらしたかが詳しく記述されている.
著者
宮野 佐年
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.235-240, 1988-03-10

はじめに 立つことにより両上肢が自由に使えるようになって,人間が現在のように進歩したといっても過言ではない.しかし,一旦,下肢に障害をきたし,歩けなくなってしまうと,上肢を犠牲にしてもなんとか歩きたいという願いがつよくなる. 歩行を補助するものとして,杖,松葉杖,歩行器などがあるが,これらは,いずれも上肢で操作しなければならず,歩行するためには,上肢の自由を失ってしまう. しかし,上肢の自由を犠牲にしても,立って歩くことは移動能力を高め,本人のQOLを向上させるために,非常に執着を持つことは自然の理であろう.杖の起源は不明であるが,有史以前にすでに,闘いや,食物を取るための棒が疲れたときの身体の支えや下肢の怪我や痛みのあるときに歩行の補助具として使われていたと考えられる.歴史的には,BC2830年に上端が二またに分かれた木片に寄り掛かっている人の絵が見られたものが最初である. 古代エジプトでは,権力の象徴として,杖を使っていたことが,古墳からうかがうことができる.中世において,羊飼いや巡礼者は長い杖を持って歩き,身体の支えや武器として使った.また,フランスの貴婦人が杖を愛用したのは11世紀頃であったが,18世紀には,紳士が杖を使うようになり,特に医師のシンボルに近いものにまでなった.今回は,歩行の補助具としての杖・松葉杖を中心に述べる.
著者
秋葉 龍太朗 万代 道子 高橋 政代
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.29-38, 2021-01-10

眼球の構造 人が得る情報の8割は視覚に由来しているといわれている1).眼球をカメラに例えると,外界からの光は眼球の表面にある透明な組織である角膜,レンズである水晶体を通して眼球内へと入り,フィルムにあたる網膜に到達する(図1a).光はまず網膜の最も外層にある視細胞にて電気信号に変換され,視細胞は双極細胞などの介在ニューロンに信号を伝達し,情報処理が行われる.この情報は最終的に神経節細胞へと伝達され,中枢神経へと送り出される(図1b).
著者
加藤 啓祐 大高 洋平 森田 光生 村山 俊樹 倉上 光市 三村 聡男
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.675-678, 2014-07-10

要旨:〔目的〕Balance Evaluation Systems Test(BESTest)を用いて地域在住中高年者のバランス機能を評価し,加齢による変化,転倒歴との関連について,検討を行った.〔対象〕市民祭りの健康ブースに参加した地域健常中高年者183名(平均67.1±6.1歳)を解析対象とした.〔方法〕中年群,前期高齢者群,後期高齢者群の3群間および転倒歴を有する群と有さない群の2群間において,総得点率およびセクションごとの得点率を比較した.〔結果〕全得点率では,中年群と前期または後期高齢者群それぞれの間において有意差が認められた.また,セクションごとの解析では,セクションⅢ(姿勢変化-予測的姿勢制御)とセクションⅥ(歩行安定性)においてどの年代間においても有意差が認められた.転倒歴の有無では総得点において群間に有意差が認められ,セクションごとの比較ではセクションⅢにおいて有意差が認められた.〔結語〕地域在住中高年者に対しBESTestを行い,加齢および転倒歴と関連するバランス要素を明らかにした.その結果,加齢および転倒,双方に関連するバランス要素として,予測的姿勢制御が抽出された.
著者
二通 諭
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.271, 2017-03-10

言葉を字義通り受け取る.言外の意味を捉えることが苦手.これは,自閉症スペクトラムなどの発達障害当事者がしばしば口にすることだ.となれば,セリフの奥に隠された別の意味を察するというところに面白さがある小津安二郎(1903〜1963)の作品は,苦手克服に向けた学習テキストになる可能性がある.この観点から3つのシーンを取り出してみた.「お早よう」(1959)では,加代子(沢村貞子)が弟の平一郎(佐田啓二)に「お天気の話ばっかりして,肝腎なこと一つも言わないで……」とボヤいていたが,天気談義に意味をもたせる自作への当てつけのようにも聞こえた. 本稿は,それに倣って「天気」に焦点を定める.
著者
伊藤 良介 大川 嗣雄 安藤 徳彦
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.115-120, 1984-02-10

はじめに 脳血管障害や脊髄疾患等の痙性麻痺による筋緊張の亢進が全身的に著明な場合は,筋弛緩剤が適応となる.いわゆる末梢性筋弛緩剤には,神経筋接合部に作用して中枢からの刺激伝達を遮断するもの(Tubocurarine,Succinylcholineなど)と,骨格筋自体に作用するもの(Dantrolene Sodium)があるが,このうちリハビリテーションの分野で臨床的に使用されているのはDantrolene Sodiumである.ここでは,我々のこれまでの経験に基づいて,痙性麻痺に対する薬物療法の意義とDantroleneの実際の使用法について触れてみたい.
著者
野口 卓也 京極 真 寺岡 睦
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1097-1106, 2016-12-10

要旨 【目的】本研究では,精神障害者を対象に,Well-Beingを促進する生活活動にどの程度かかわれているかを評価できる尺度(Assessment of Positive Occupation;APO-15)を開発した.【方法】本研究は2段階から構成された.研究1では,作業療法士を対象に構成概念の検討,項目プールの作成,内容妥当性を検討した.研究2では,2つの手順で構成された.手順1は,研究1で作成した項目プールの項目特性を明らかにし,基準を満たさない項目の削除を検討した.手順2は,厳選された項目の信頼性と妥当性を検討した.【結果】研究1の対象者は10名(経験年数8.70±3.22年)であった.分析の結果,ポジティブ心理学のPERMAモデルに準拠し,Well-Beingに寄与する生活活動の5因子50項目が作成された.また,各項目はわかりやすい文章,因子定義を的確に反映するように意図して加筆修正された.研究2の対象者は110名(53.22±11.24歳)であった.分析の結果,APO-15は4因子15項目で尺度構成され,併存的妥当性,項目の妥当性,因子妥当性,構造的妥当性,仮説検証,項目分析などのいずれにおいても良好な尺度特性を示した.【考察】APO-15は全体として高い妥当性と信頼性を備えており,精神科デイケアに通う精神障害者を対象に,Well-Beingを促進する生活活動にかかわれている程度を的確に評価できると考えられた.特に,それが芳しくない対象者で測定精度が高いことから,APO-15は支援が優先的に必要な精神障害者を適切に評価できると考えられた.
著者
浅山 滉
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.419-424, 1978-06-10

はじめに 起立歩行を行なう人間には重力に抗して生体の恒常性を保つためのいろいろの調節機構を有している.そのなかでいかなる体位でも脳への十分なる血液供給をする複雑な循環調節機構があり,その障害時にめまいから失神に至るまでの種々な程度の危険な症状が現われてくる.これを起立性低血圧(postural or orthostatic hypotension)と呼んでいる.これには既知の疾患の経過中に起こる症候性起立性低血圧(symptomatic or secondary orthostatic hypotension)と,特に明瞭な原因が明らかでない原発性起立性低血圧(idiopathic or primary orthosatic hypotension)がある.通常頸損と呼ばれる高位脊髄損傷者にみる起立性低血圧は前者に属し,ADL上,下位脊髄損傷者ときわめて異なる症状の一つである. この低血圧「発作」は頸損者に終始つきまとうやっかいな現象で,陳旧性に至ってもしばしば見られるが,体位を水平にしさえすれば後遺症も残さずに元の状態に戻ってしまうことで余り心配もされなく,またそれを防ぐ簡単な方法で日常対処されている.この起立性低血圧症は第5またば第6胸髄神経節以上の損傷でみられるが,その節以下から分岐していて,大量の循環血液量を調節する役目を担っている内臓神経splanchnic nerveが切断されたためとされている1~3). そこで私共のセソターに入院中の主に陳旧性の完全頸損者を対象に,ごく日常の臨床検査手技を用いて,身近で起こっている自律神経失調症の諸変化,ことに起立性低血圧に関する諸検査を行ない,併せて臨床的見地から腹帯の効果について調べてみた.
著者
上田 敏
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.515-521, 1980-07-10

はじめに 障害の受容(acceptance of disability)はリハビリテーションにおける「問題解決の鍵となる概念(キイ・コンセプト,key concept)」の一つである.客観的(外形的)にはリハビリテーションのゴールが達成されていながら,障害者(患者)本人の障害の受容が達成されていないために結局リハビリテーションが完結しないという場合が少なくない.リハビリテーション・カンファレンスの場でも「最大の問題は本人による障害の受容だ」という所までは全員の意見が一致しても,「では一体だれが,どのようにして障害の受容を援助するのか」という実際の方法論となると,いくら話し合っても結論がでず,結局「もう少しPT・OTを続けて様子を見よう」というところに落着いてしまうこともしばしばである. このように重要な障害の受容であるが,これを正面からとりあげた論文は内外ともに意外に少く,部分的に触れているものを含めても,筆者が直接に接することができたのは20篇のみであった1~20).これらの中で理論的にもっとも詳しく包括的なのはWright2)の古典的な名著の策5章“Value Changes in Acceptance of Disability”であり,教科書的によくまとまったものとしてはHerman5),高瀬10),古牧17)などがある.また最近の中司15),松田他19),蕪木他20)はこの問題への実証的なアプローチとして価値高いものである. 筆者は心理学または精神医学の専門家ではないが,リハビリテーション医としてこれまで多くの身体障害をもつ患者・障害者に接し,障害の受容に到る苦痛に満ちた過程に触れ,また可能な限りその過程を促進し,援助しようとつとめてきたし,その過程で持った感想を述べたこともある11,14).また昨年,筆者の所属する東大リハビリテーション部の全職員の参加する勉強会のテーマに障害の受容を選び,数ヵ月にわたって,いくつかの症例の検討を通じて,障害の受容にいたる心理的ダイナミックスの法則を理解することと,その援助の上でリハビリテーション・スタッフの果たすべき役割と注意について議論を重ね,得るところが大きかった.特に長期にわたる抑鬱から短期間のうちに劇的な立直りを示し,障害の受容のめざましい成功例だと担当者たちは考えていた一症例が,角度を変えて見直してみると,実は抑鬱期にある患者に自立を「強要」し,それが十分達成されないことに対して,批難がましい感情をもつことによって一歩誤まれば非常な危険な瀬戸際まで患者を追いつめていた可能性があり,我々にもう少し深い洞察力と患者の苦しみに対する共感力とがあれば抑鬱の期間をはるかに短かく切り上げて,数か月も早く受容に到達させ得ていたかもしれないということの認識(と反省)に到達しえたことは我々にとって一つの啓示といってもよいものであった. 本論文では文献的考察にそのような経験や反省をもまじえつつ,障害の受容の問題をよりよく理解し,よりよく対処することを目的として種々の角度からの考察を試みたい.
著者
山田 純生
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1399-1410, 2012-11-10

はじめに 心臓リハビリテーションは,これまで急性心筋梗塞(acute myocardial infarction;AMI),あるいは急性冠症候群(acute coronary syndrome;ACS)や心臓血管外科術後患者が主な対象とされ,特にAMIに対する運動リハビリテーション介入はほぼ確立されたプログラムとして臨床に普及が進みつつある.一方で,最近,心臓リハビリテーション対象に加わった慢性心不全(chronic heart failure;CHF)は,病態が多岐にわたる分,詳細な病態評価に基づき介入を個別化することが求められるが,その具体的な方法論は示されておらず,運動リハビリテーション介入をCHFの管理方策として位置づけする障壁ともなっている. そこで,本稿では,AMIについては長期予後を改善する考え方を述べるにとどめ,主にCHFの運動リハビリテーション介入による予後改善効果の基本的考え方を,心肺運動負荷試験(cardiopulmonary exercise testing;CPX)の予後指標と関連づけて解説したいと思う.