著者
千野 直一
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.577-578, 1987-08-10

Ⅰ.運動療法と疲労 リハビリテーション(以下リハビリと略)医学では運動療法という言葉とおなじように“疲労”ということばをよく聞く.しかしながら,疲労という言葉は,日常広く用いられているにもかかわらず,これほど定義しにくい言葉も少ない.たとえば,“ああ,死ぬほど疲れた.”と疲労困ぱいしているものが,危急の場面にぶちあたると,いわゆる,“火事場の馬鹿力”といわれるように,思わぬ力を発揮したりする.すなわち,疲労という現象は,一般的には筋力が無くなった状態であるにもかかわらず,おそらく精神的とおもわれる要素によって,疲労=筋力低下という概念はもろくも崩れてしまう. そして,このようにあいまいな言葉が,リハビリ医療の場において日常茶飯事に使われていることを知って少なからず驚かされる.すなわち,神経筋疾患患者のリハビリ・プログラムを施行するにさいして,その運動量を規定するばあいに,ただなんとなく,“疲れない程度”とか,もう少し具体的に運動量を測定するとしても“疲労が翌日まで残らないように”とか,その基準とするものが客観的なものではなく,患者自身の主観的な訴えによるものであるからである.さらに,患者が“疲れた”と訴えるなかみは必ずしも,“筋疲労”を意味するものではなく,筋肉痛,息切れ,動悸など漠然としたものがおおい.
著者
腰野 富久 近藤 邦明
出版者
医学書院
雑誌
総合リハビリテーション (ISSN:03869822)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.197-201, 1985-03-10

はじめに 膝内障の定義に関しては,さまざまな意見があるが,一般的な概念としては急激な疼痛,嵌頓症状および膝くずれなどを訴え,単純X線像に病的所見を認めないものをさしている.このように膝内障という呼称は判然としない面があるが,膝関節内の不定の障害に対する総称であり,診断をつけるには便利なものであるため,ごく最近まで広く用いられてきた. 一般的には半月板損傷,陳旧性十字靱帯損傷,膝蓋軟骨軟化症,棚障害,膝蓋下脂肪体障害(Hoffa's disease)などの膝障害をさすことが多い8). しかし最近では,各種診断技術の進歩に加えて,X線学的検査でも膝蓋骨軸射像,関節造影,関節鏡などが広く行われるようになり,これまで膝内障として一括して扱われていた疾患に対しても,病態が明確に把握され個個の疾患に即応した治療が行われるようになった.これら膝内障に属する個々の疾患に対して若干の解説を加えた.
著者
森岡 恭彦
出版者
医学書院
雑誌
総合リハビリテーション (ISSN:03869822)
巻号頁・発行日
vol.29, no.5, pp.417-421, 2001-05-10

20世紀後半に起こった医の倫理の変革―パターナリズムの医療からインフォームドコンセント(informed consent)の医療へ 医の倫理と言うと,西洋では古代ギリシアの医聖とされるヒポクラテスの考えが広く認められ,特にヒポクラテス学派(ギルド)に入会する際の誓詞が有名で,西洋では20世紀半ば頃までは医学部の卒業式でこれが卒業生により朗読されていたとされる.ヒポクラテスは,その他,医師の守るべきことについていろいろのことを述べており,例えば「救護のあいだ患者は多くのことに気付くことがないようにする.……これから起こる事態や現在ある状況は何一つ明かしてはならない……」,「素人には,いついかなるときも何事につけても決して決定権を与えてはならない……」としている.ヒポクラテスの考えは病気のことについて患者にいろいろのことを知らせると患者のほうは心配するだけであり,結局は医療については専門家である医師に任せるのが患者のためだというわけである.また,その代わりに医療を任された医師は身を正し,患者の利益のために力の限り努力するべきであるとするもので,この考えは中世のキリスト教社会での博愛の精神に受け継がれ,西洋における医の倫理として広く容認されてきた1).
著者
木村 彰男
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.945-949, 1992-09-10

筋再教育・筋力増強訓練の1つの方法として,最近のリハビリテーション医療の分野でしばしば用いられる方法として筋電図(EMG)バイオフィードバック療法がある. バイオフィードバックとは,通常では人が意識することができない生体内で起こるさまざまな生理的現象を,なんらかの手段を用いて知覚できる信号に変換することにより,その情報を再び生体内に戻し,生理的現象の随意的操作がある程度可能になることと定義される,この定義に従えば,本来不随意的に行われている自律神経系の機能を意識下にコントロール可能にすることが,もともとのバイオフィードバックの意味であるといえるが,一般的には物をつかむような際の触覚や視覚を用いた随意運動の調御もバイオフィードバックとして広く捕えられている.
著者
川越 雅弘
出版者
医学書院
雑誌
総合リハビリテーション (ISSN:03869822)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.305-311, 2019-04-10

はじめに 団塊の世代が90歳台に入る2040年にかけて,85歳以上高齢者(以下,超高齢者)が急増する.超高齢者は,他の年齢層に比べ,医療や介護,生活支援に対するニーズが高い.また,入院や死亡に対するリスクも高い.さまざまな環境の変化の影響も受けやすく,状態変化も来しやすい.生活上の課題も多領域にわたるため,単一職種だけでは課題が解決できないことも多い.これら特性,特徴を有する超高齢者が,住み慣れた地域で,安全かつ安心な生活を送るためには,医療・介護・生活支援サービスの包括的提供体制の構築と多職種間の連携強化が必要となる.こうした背景のもと,厚生労働省は,さまざまな多職種連携策を推進しているが,これら施策の意図や内容を理解するためには,まずその背景を理解しておく必要がある. そこで,多職種連携が求められる背景について,人口構造の変化,高齢者の医療・介護ニーズの視点から整理を行う.次に,多職種連携の機能強化に関する制度改正/報酬改定のなかから,リハビリテーションに関する3つのテーマ(① 入退院・退所時の連携強化,② 入院中〜退院後の一貫したリハビリテーション提供の促進(同一職種間の縦の連携強化),③ 自立支援・重度化防止の推進)に焦点を当て,リハビリテーションの視点からみた制度改正/報酬改定のポイントとリハビリテーション職に期待される役割について解説する.最後に,同一職種および他の職種間との連携強化策について私見を述べる.
著者
谷川 広樹 大塚 圭 才藤 栄一 伊藤 慎英 山田 純也 村岡 慶裕 冨田 昌夫 橋本 修二
出版者
医学書院
雑誌
総合リハビリテーション (ISSN:03869822)
巻号頁・発行日
vol.38, no.12, pp.1175-1181, 2010-12-10

要旨:〔目的〕視診による異常歩行重症度スコアリングの評価者間信頼性を検討した.〔方法〕臨床経験6年以上の理学療法士10名を評価者とし,片麻痺患者13名のトレッドミル歩行ビデオ画像を観察させ,分回し歩行とトゥクリアランス低下の重症度を5段階評価させた結果の評価者間信頼性をCohenのκ係数を用いて検討した.また,評価者を経験年数と観察した部位・相で分け,κ係数を求めた.〔結果〕評価結果のκ係数は0.09~0.58であり,経験年数にかかわらず低かった.観察部位・相を揃えた群のκ係数も0.03~0.32と低かった.〔考察〕一致率の程度はslight~moderateにとどまり,評価者間信頼性は低かった.観察部位・相を揃えても信頼性は向上せず,評価者の主観的尺度と評価基準の相違が主な原因と思われた.視診による歩行分析の信頼性を高めるには,異常歩行を定義したうえで,明確な重症度基準を定める必要があると考えられた.
著者
博田 節夫
出版者
医学書院
雑誌
総合リハビリテーション (ISSN:03869822)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.163, 1985-03-10

リハビリテーション医学が紹介されて以来,リハビリテーションは治療法の一つであるとの誤解が医療スタッフの間にさえも存在する.わが国においては,リハビリテーションは機能訓練を意味するとの考えが支配的で,機能障害を治す手段として期待されて来た.ここでいう機能障害はimpairmentおよびdisabilityであるが,治療医学的立場からimpairmentのみを指していることも多く,第2次世界大戦以前の機能再建という考え方に逆行するものである.一方,作業療法および理学療法の専門書にリハビリテーチブ・アプローチという治療法が見られる.これはdisabilityに対するアプローチを意味している.このリハビリテーチブ・アプローチはdisabilityに注目するあまり治療法放棄につながるとの非難であり,これは警鐘として受け入れるとしても,リハビリテーションが作業療法あるいは理学療法の中の一治療手段であるという妄想にまで発展するに至っては,リハビリテーションという言葉に対しても嫌悪の念を抱かざるをえない. リハビリテーション医学の治療対象は,主として運動機能障害とそれによりもたらされる能力障害である.運動機能障害は神経系および末梢運動器系の異常を反映し,その治療手段として運動療法があり,能力障害に対しては広義のADL訓練がある.ADL訓練は能力障害に対する直接的アプローチであり,治療効果の判定は比較的容易といえる.運動療法は筋・腱,骨・関節に対しては直接的な治療手段であるが,神経系に対しては末梢運動器系を介した間接的治療法であるため,治療効果の判定は困難を窮める.そのため,中枢神経疾患においては適応を考慮することなく,有効性の不明な治療法を狂信する者が増加しつつある.
著者
高橋 正雄
出版者
医学書院
雑誌
総合リハビリテーション (ISSN:03869822)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.274, 2014-03-10

昭和35年に三島由紀夫が『近代能楽集』(新潮社)の一編として発表した『弱法師』は,俊徳という盲目の青年を主人公とする戯曲である.俊徳は5歳の時に空襲の炎で両眼を焼かれて失明し,実の両親とはぐれてしまったために,その後15年間他家で養育されたのだが,養父母は,俊徳のことを,「あの子は一種の狂人です」として,その奇妙な性格を次のように語っている.「あの子の性質には,私どもにどうにも理解できない妙なところ,固い殻のようなものがあるのです」,「あの子には感動というものがないのです.実の御両親が現われたときいても,あの子はまるで感動を示しもせず,ここへ来るあいだも至極つまらなそうな顔をしていました.そうかと思うと些細なことに,急に激して手に負えなくなったり……」. 養父母は,このように俊徳の不可解な性格を語り,それを聞いた実の親は,「すっかりひねくれて育ってしまった」と慨嘆するのだが,実は俊徳には,空襲時の光景がありありと蘇るというフラッシュ・バックを思わせる症状も記されている.
著者
安藤 徳彦 上田 敏 石崎 朝世 小野 浩 大井 通正 緒方 甫 後藤 浩 佐藤 久夫 調 一興 菅井 真 鈴木 清覚 蜂須賀 研二 山口 明
出版者
医学書院
雑誌
総合リハビリテーション (ISSN:03869822)
巻号頁・発行日
vol.19, no.10, pp.979-983, 1991-10-10

はじめに 障害者が健常者と同様に働く権利を持っていることは現在は当然のこととされている.国連の「障害者の権利に関する宣言」(1975年12月9日)第7条には「障害者は,その能力に従い,保障を受け,雇用され,また有益で生産的かつ十分な報酬を受け取る職業に従事し,労働組合に参加する権利を有する」と述べられている.また国際障害者年(1981年),国連障害者の10年(1983~1992年)などの「完全参加と平等」の目標を実現するための行動綱領などにも常に働く権利が一つ重要なポイントとして掲げられている. また現実にも,障害者,特に重度の障害者の働く場はかなり拡大してきている.障害者の働く場は大きく分けて①一般雇用,②福祉工場,授産施設など,身体障害者福祉法,精神薄弱者福祉法,精神保健法などの法的裏づけのある施設での就労(福祉工場では雇用),③法的裏づけを欠くが,地域の必要から生まれた小規模作業所での就労,の3種となる.このうち小規模作業所は,共同作業所全国連絡会(以下,共作連)の調査によれば,全国に約3,000か所,対象障害者約3万人以上に及んでおり,この数は現在の授産施設数およびそこに働く障害者数のいずれをも上回っている.小規模作業所で働いている障害者は,一般雇用はもとより,授産施設に働く障害者よりも障害が重度であったり,重複障害を持っている場合が多い.その多くは養護学校高等部を卒業しても,その後に進路が開けなかった人々であり,彼らの就労の場として小規模作業所が開設されたわけであるが,それは親たちや養護学校の教師たちの運動で自主的につくられてきた施設が多い.また最近まで就労の道が開かれていなかった精神障害者に対し,以前から広く門戸を開いてきたのも小規模作業所であり,その社会的役割は非常に大きい. しかし,障害者が働くことに関しては,医学的側面から見て種々の未解決の問題が存在している.現在もっとも重要視されていることの一つは,重度の身体障害者,特に脳性麻痺者における障害の二次的増悪である.すなわち,以前から存在する運動障害が,ある時期を境として一層悪化し始める場合もあれば,感覚障害(しびれ,痛みなど)が新たに加わる場合も多い.そして,その結果,労働能力が一層低下するだけでなく,日常生活の自立度まで低下し,日常生活に著しい介助を必要とする状態に陥る者も少なくない. すでに成人脳性麻痺者,特にアテトーゼ型には二次的な頸椎症が起こり,頸髄そのものの圧迫または頸髄神経根の圧迫により種々の症状を生ずることが知られている.しかし,二次的な障害増悪がすべてこの頸椎症で説明できるものではないようであり,さらに詳細な研究が必要である. また逆に,働くことがこのような二次障害の発生を助長しているのかどうかという問題も検討する必要がある.廃用症候群の重要性が再認識されつつある現在,たとえ重度障害者であっても働くことには心身にプラスの意味があるに違いない.しかし一方,働きすぎ(過用,過労)がいけないことも当然である.問題は重度障害者における労働が心身の健康を増進するものであって,わずかなりともそれにマイナスとなるものでないように,作業の種類,作業姿勢,労働時間,労働密度,休憩時間,休憩の在り方などを定めることであり,それには労働医学的な研究が十分なされなければならない. 以上のような問題意識をもって,1990年,共作連の調査研究事業の一部として障害者労働医療研究会が結成された.同研究会には脳性麻痺部会と精神障害部会を置き,前者においては主として上述の二次障害問題を,後者においては精神障害者にとっての共同作業所の機能・役割,また障害に視点を当てた処遇上の医療的な配慮などについての研究を進めている. そして,障害者労働医療研究会の最初の仕事として,以上のような問題意識に基づいて脳性麻痺者の二次障害の実態調査を行った.その詳細は報告書としてまとめられているが,ここではその概要を紹介する.なお,この研究では小規模作業所と授産施設との間の差を見る目的もあって,前者の全国的連合体である共作連と授産施設の全国連合体である社団法人全国コロニー協会(以下,ゼンコロ)との協力を得て行った.
著者
高橋 正雄
出版者
医学書院
雑誌
総合リハビリテーション (ISSN:03869822)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.395, 2000-04-10

1887年,ニーチェが43歳の時に発表した『道徳の系譜』(木場深定訳,岩波書店)は,ニーチェ自身,自分の思想を知ろうとする人には最も包括的で重要なものと語っていた作品であるが,そこには,病者や障害者を蔑視するような表現が見られる. 『道徳の系譜』の第三論文の中,ニーチェは,「病人は健康者にとって最大の危険である」,「人間の大なる危険は病人である」と,病者の危険性を繰り返し強調する.病者は「俺が他の誰かであったらなあ!でも今は何の希望もない.俺はやっぱり俺である.どうすれば俺は俺自身から抜けられるのか」と思っているため,「このような自己侮蔑の地床に,いわば本当の沼地に,あらゆる雑草,あらゆる毒草は成長する」のである.「そこには怨念や執念の蛆虫どもがうようよして」おり,「最も悪性の隠謀―上出来の者や勝ち誇った者に対する受苦者の隠謀の網が張られている」.「あたかも健康や上出来や強さや誇りや権力感情がそれ自体においてすでに背徳的な事柄であり,従っていつかは贖われなければならないもの,しかも苦しい目をして贖われなければならないものででもあるかのように」―.
著者
福村 直毅 牧上 久仁子 田口 充 福村 弘子 茂木 紹良
出版者
医学書院
雑誌
総合リハビリテーション (ISSN:03869822)
巻号頁・発行日
vol.44, no.11, pp.1003-1007, 2016-11-10

はじめに 気管切開(以下,気切)は,一般に嚥下機能を低下させると考えられている1).気切孔用レティナカニューレは喉頭運動を阻害しにくいこと1,2),一方弁が誤嚥リスクを低下させることが知られている3).今回,慢性的に多量の唾液誤嚥が認められた患者に唾液誤嚥をコントロールするためにあえて気切を実施し,レティナと一方弁を用い,栄養や薬剤管理も含めた包括的なリハビリテーションを行うことで,経口のみでの栄養を獲得できたので報告する.
著者
園田 茂 椿原 彰夫 出江 紳一 高橋 守正 辻内 和人 横井 正博 斎藤 正也 千野 直一
出版者
医学書院
雑誌
総合リハビリテーション (ISSN:03869822)
巻号頁・発行日
vol.19, no.6, pp.637-639, 1991-06-10

はじめに 近年,非典型的な筋力低下を呈する症例がリハビリテーション科に依頼され,治療に当たることが少なくない.そして,患者は簡単に「心因性」と診断される傾向があり,そのような代表的疾患として重症筋無力症があげられる. 重症筋無力症はその症状の動揺性から時に転換ヒステリーと誤診されやすい1,2).また,この疾患の特徴として,発症や増悪の契機に心理的要因が大きく関与しているため3),患者や医療者に与える誤診の影響は少なくない. 我々は「心因性」歩行障害と診断され,リハビリテーション医療が必要であるとして紹介された重症筋無力症患者を経験し,安易に「心因性」,「ヒステリー」と断定することの危険性を痛感した.そしてリハビリテーション医学の分野における診断学の重要性を再確認したので,若干の考察とあわせて報告する.
著者
三宅 琢
出版者
医学書院
雑誌
総合リハビリテーション (ISSN:03869822)
巻号頁・発行日
vol.43, no.11, pp.1043-1047, 2015-11-10

はじめに 産業医は企業のなかで,労働者の職業病や健康障害の発生を防止する目的で労働衛生の3管理を中心として業務を行う.労働衛生の3管理とは,① 就労環境に関する作業環境管理,② 労働者の働き方に関する作業管理,③ 労働者の身体や精神の健康状態の保持増進に関する健康管理である.近年障害者雇用に関する合理的配慮の提供や,労働者の心の健康に関するストレスチェックの義務化など,企業が抱える課題も多様化している.また障害者の雇用に関して,法定雇用率の達成に加えて就労環境に対する具体的な配慮を負担のない範囲で実施することが求められるようになっている.こうしたことにより,産業医はこれまでの3管理に加え,障害者雇用の労働者への就労上の配慮に関する助言を求められる機会も増えると考えられる. 筆者はこれまで眼科医として,視覚障害者や学習障害者をはじめ,さまざまな障害者に対する情報技術(information technology;IT)機器を利用した情報支援を医療やリハビリテーション,就労や学習の現場で実践し指導を行ってきた1-3).また産業医として,労働者がより不調を起こしにくい快適な職場作りとIT機器を活用した新しい形の配慮を実践してきた4).本稿ではこれらの経験を踏まえ,障害者の就労や復職に関して産業医の立場としての配慮の方法と,職場における障害の捉え方を,労働衛生の3管理を中心に簡単に解説する.