著者
黄 明淑
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.164, pp.64-78, 2016 (Released:2018-08-26)
参考文献数
21

本研究は,「さくらんぼ狩りへの誘い」というロールプレイデータを用いて,中国語母語話者(以下CNS)と日本語母語話者(以下JNS)の「誘い」談話における再勧誘の言語行動を比較することを目的とする。分析の結果,1)再勧誘のやりとりの回数においては,CNSがJNSより有意に多かった。2)再勧誘の切り出しの意味公式別使用数においては,CNSは「意志要求」がJNSより有意に高く,JNSは「受け止め」がCNSより有意に高かった。また,再勧誘を構成する各意味公式の生起頻度においては,「受け止め」「気配り発話」「同意表明」において,JNSがCNSより有意に高く,「代案提示」「誘導発話」「意志要求」「理由尋ね」「負担軽減」「相手非難」において,CNSがJNSより有意に高いことが明らかになった。以上の結果から,CNSは積極的で,自分を強く押し出す目的達成型で,JNSは無理強いをしない対人配慮型であることが示唆された。
著者
寺嶋 弘道
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.163, pp.79-94, 2016 (Released:2018-04-26)
参考文献数
13

本稿では,コロケーションテストにおいて日英バイリンガル辞書のみを用いる方法(以下:DIC法)と日英のバイリンガル辞書とレキシカルプロファイリングツールを併用する方法(以下:DIC-LP法)の比較を行った。 実験の結果,DIC-LP法の得点のほうが有意に高かった。DIC法においては①適切な訳語の表示不足,②解答となる表現や解答につながる表現の表示不足,③複数の訳語表示とその違いを理解するための情報の不足,④過剰な訳語表示,⑤学習者の類推の誤り,⑥複数の辞書による不確認が得点に負の影響を,DIC-LP法においては⑦共起表現リストからの意味の検討,⑧共起表現の有無やその数の確認ができたことが得点に正の影響を与え,2つの方法の間に有意差が生じたと考察した。また,DIC法では過剰な例文表示や想定した助詞の誤り,DIC-LP法では想定した助詞の誤りや辞書で動詞の候補が絞れないことがコロケーションテストの得点に負の影響を与えた原因だと考察した。
著者
岡田 美穂 林田 実
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.163, pp.48-63, 2016 (Released:2018-04-26)
参考文献数
16

本研究は,①「あの喫茶店にコーヒーを飲む」のような誤用がどのような用法の「に」と動作場所を表す「で」の混同によるものであるかに焦点を当て,日本語学習者の「に」と「で」の習得の様子を探ったものである。まず,①の「に」を用いるという中級レベルの中国語話者計47人に対し翻訳調査などの予備調査を実施した。次に,日本語能力試験のN2に合格している中国語話者49人に対し「あの食堂(に・で・を・から)食事する」のような格助詞選択テスト式の調査を行い,49人の内10人にフォローアップインタビューを行った。回帰分析の結果,①の「で」→「に」は移動先を表す「に」と動作場所を表す「で」の混同による可能性があることが分かった。日本語学習者の習得は「場所への移動がある」と判断された場合に①の「に」が産出されるという段階を経て,その後,移動先を表す「に」と動作場所を表す「で」を正しく用いる段階に至るのではないかと考えられた。
著者
前川 喜久雄
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.142, pp.4-13, 2009 (Released:2017-04-25)
参考文献数
12

日本語教育における音声研究の課題のひとつに,学習者が生成する日本語音声に生じる外国語なまりの研究がある。この現象をきちんと研究するためには,大規模な学習者音声データベースが有効であり必須でもある。その理由としては,過去の対照言語学的研究が音韻論に基づくトップダウン分析が音声変異の研究には無力であることを示していることにくわえ,母語の音声認識の研究がボトムダウンに構成される音響モデルの有効性を示していることがあげられる。本稿の後半では,日本語学習者データベースの仕様,構築手法,解析上の可能性について筆者自身のコーパス構築経験に基づく見解を述べた。最後にコーパスに基づく日本語教育研究において学会が果たすべき役割についても意見を述べた。
著者
古別府 ひづる
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.143, pp.60-71, 2009 (Released:2017-04-07)
参考文献数
10
被引用文献数
1

本稿では,大学日本語教員養成における二人の海外日本語アシスタントの成長を,良き日本語教師観の変容という視点を中心に,PAC分析と半構造化面接の方法を用いて示す。 調査の結果,双方の渡航前と帰国後の良き日本語教師観に変化があった。帰国後の双方の変化として,派遣先の日本語教師の影響が強く出ていることがわかった。帰国後の,双方に共通の良き日本語教師観として,教室運営力と明るい人間性が挙げられた。さらに,二人の成長のプロセスには,共通点と異なる点が見られた。また,アシスタント以外のホームステイ等の体験が成長に関わることが考えられた。 これらの結果は,大学日本語教員養成の実習の延長線上にある日本語アシスタントの事前教育及び資質の特定に寄与すると考える。
著者
米勢 治子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.144, pp.61-72, 2010 (Released:2017-04-15)
参考文献数
9

本稿では「生活者としての外国人」を対象とした地域日本語教育において必要とされるさまざまな人材の育成について述べる。まず,地域日本語教育を担う者は誰か,その人材育成がどのような枠組みで行われるかを再考する。この枠組みに基づいた地域日本語活動を担う人材育成の方法を事例によって示し,人材育成の課題について考える。 「生活者としての外国人」の日本語習得には生活のさまざまな場面で接触するすべての日本人がかかわることができる。そのような人々を,教室に集う外国人住民と日本語でコミュニケーション活動を担う会話パートナーとして育成する場が地域日本語教室である。このコミュニケーション活動を促進する役割を担う日本語コーディネータや,日本語教室の設置・運営を展開するシステムコーディネータには,地域日本語教育の専門性と有償のポジションが必要であり,コーディネータをボランティアとして育成しようとする現状には限界がある。
著者
阿部 洋子 八田 直美
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.144, pp.38-48, 2010 (Released:2017-04-15)
参考文献数
15

本稿では,国際交流基金日本語国際センターが実施してきたノンネイティブ教師(NNT)研修の考え方と変遷を概観する。さらに,近年その必要性から開講されたNNTとネイティブ教師の協働の場である上級研修の実践とNNT参加者の成果を報告し,今後の展望と課題を述べる。 NNT研修は,NNTの特徴を生かして実践が行えるよう,参加者が自らの実践を内省し,教育現場と教師研修の場を結びつけられるような設計が求められる。上級研修は,参加者が計画した現地の問題解決を目指した研究プロジェクトを中心に行う。追跡調査の結果,帰国後プロジェクトを完成させたのはNNT回答者の約半数だったが,ほぼ全員が研修内容を活用し,その中の一部は周囲への波及効果が見られた。 海外の日本語教育の現地化の主体となる指導者を養成するために,日本語教育の多様性と普遍性を発見しつつ問題解決の方法を学ぶ研修は,今後も重要性を増していくと考えられる。
著者
烏 日哲
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.145, pp.1-12, 2010 (Released:2017-03-21)
参考文献数
9

本研究は,中国語を母語とする上級日本語学習者と日本語母語話者が絵本の説明を行うときに現れる語り方の違いを明らかにすることを目的としている。調査材料としては,ある種の文化リテラシーを必要とする漫画を避け,またダイナミックな談話展開を表現する語りの姿を知るために,字のない絵本を用いた。具体的には,絵本にかかれている絵と,話し手の発話とがどのくらい一致するのかという「語りと絵本の一致度」に着目し,個々の発話の表現的特徴を探った。その結果,語りの最初と最後に物語そのものの性格を解釈したり,ストーリーに対する感想を述べたりする点で,母語話者と異なることが観察された。また,学習者は絵本にかかれていない内容,特定の絵と照合できない内容や表現を語りに加えることが多く,解釈を含める傾向が強いことがわかった。
著者
村上 京子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.146, pp.90-102, 2010 (Released:2017-03-21)
参考文献数
13

ここ四半世紀の「日本語教育」誌に掲載された実証的研究105編を対象に,データ収集の方法,取り上げられた要因,分析方法について分類した結果,学習者のレベルや母語,学習環境間の比較が中心であることがわかった。これらのグループ間の差を調べることは現状の記述にはなっても,その差異を生み出す原因が何であるのかを探求することは難しい。なぜならば,その差異を生み出す原因をレベルや母語,学習環境に帰してしまうと,そこで追及が終わってしまうからである。一見,母語や学習環境は学習者の習得の差を生みだす直接の原因のようにみえるかもしれないが,実際にはその中に多くの要因が含まれ,相互に関連している。その要因を分析するためには,仮説検証アプローチ,研究成果の蓄積,研究デザインの共通枠組みの構築,個人差研究のダイナミックな視点が必要であることを述べた。
著者
武田 裕子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.179, pp.1-15, 2021-08-25 (Released:2023-08-26)
参考文献数
13

外国人診療において,「ことばの壁」は「こころの壁」となり健康格差の原因となっている。筆者らは,医療者にはほとんど知られていない「やさしい日本語」を紹介・普及する目的で,“医療×「やさしい日本語」研究会”を立ち上げ活動を続けている。本稿では,健康の社会的決定要因として「日本語」を捉え,外国人だけでなく聴こえや理解に困難を抱える方々の格差是正の試みとして,さまざまな領域の専門家と協力して行っている取り組みを報告する。
著者
清水 まさ子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.147, pp.52-66, 2010 (Released:2017-02-15)
参考文献数
21

本稿では論文において先行研究を引用している文の文末のテンス・アスペクトに着目し,それらを量的に調査し,それらがどのように用いられ,さらに引用節の形式との間に何らかの関係性を持っているかについて考察した。その結果,テイル形文末引用文は当該の論との間に論理性を生み出し,タ形文末引用文はタクシス的に働き,時系列的に論を進める際に用いられていることが明らかになった。さらに特定のテンス・アスペクトは,特定の引用節の形式とともに出現する傾向があることがわかった。テイル形文末の場合,①事柄フォーカス引用文の「と」以外+間接引用文,②著者フォーカス引用文の「と」+間接引用文,③著者フォーカス引用文の「と」以外+間接引用文という3つの引用節の形式と共に多く出現していた。またタ形文末の場合は,著者フォーカス引用文の「と」以外+間接引用文という引用節の形式と共に多く出現していた。
著者
中村 洋一
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.148, pp.72-83, 2011 (Released:2017-02-17)
参考文献数
28

大規模日本語テストの実現可能性を考える時,コンピュータ適応型テスト(CAT)には,大きな貢献が期待できる。コンピュータ適応型テストとは,コンピュータを使い,個々の受験者に適する項目を適宜判断しながら出題し,効率よく受験者の能力を測定するテストで,その原理は,視力検査によく似ている。本稿では,まずその原理と,それを可能にするテスト理論の項目応答理論を概観し,コンピュータ適応型大規模日本語テストの開発を進めていくための,基本的な課題を考察する。一般的な課題として,言語能力の構成要素,学習行動目標の設定,分割点・到達基準の設定,アイテムバンクの構築言語テストに関する啓蒙をとりあげる。次に技術的な課題として,マルチメディア・テスティング,移植性とアクセス可能性の高い日本語特有の表示方法の確立,項目バンキングソフトウェアの開発,総合的なCATシステムのプログラム開発をとりあげる。
著者
嶋津 拓
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.150, pp.56-70, 2011 (Released:2017-02-17)
参考文献数
33

この20年ほどの間に,言語教育の世界において,「言語政策」と言われるものが注目を集めるようになってきた。その背景には,単一言語主義や単一言語状態を是認する考え方への反発,さらには,そのような考え方を追認するような新自由主義的発想への異議申立があるものと考えることができるのだが,言語政策が注目を集めるようになったのと並行して,「言語政策研究」というディシプリンも認知されるようになってきた。本稿では,かかる言語政策研究について,なかでも日本語教育に関連する言語政策研究について,その現状を概観する。また,将来的な課題について考えてみたい。
著者
中上 亜樹
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.151, pp.48-62, 2012 (Released:2017-02-17)
参考文献数
20

本稿は,日本語の文法項目の習得を促すためにどのような指導が効果的かという疑問に対し,第二言語習得研究の理論や成果に基づいた指導法で授業を行うことで,従来の指導よりも高い効果が得られるかどうかを検証することが目的である。そのため,本稿では形容詞の比較を対象とし,第二言語習得研究の成果を基に提唱された指導法で,インプットに重点を置く「処理指導(Processing Instruction)」と,従来の口頭練習などのアウトプットに重点を置く産出中心の指導とを実践し,理解面,産出面でそれぞれの指導を受けた学習者の伸びに違いがみられるかどうか分析を行った。 その結果,処理指導では,対象項目について産出練習を行わなかったにも関わらず,従来の産出中心の指導と比べ,産出面を含め全体的に指導の効果が高かったことが明らかになった。このことから,学習者の認知プロセスに沿った指導を行うことは,より効率的な習得を導く助けになる可能性があることが分かった。
著者
戎谷 梓
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.152, pp.14-29, 2012 (Released:2017-02-17)
参考文献数
17

日本企業でのインド人ITエンジニア(IE)の増加に伴い,IEと日本人従業員(JCW)とのコミュニケーションを仲介するインド人ブリッジ人材(IBR)も増加している。IBRは,高度な日本語能力を有するものの就業中に問題を抱えている。本研究では,IBRが就業企業のプロジェクト遂行方法を理解し,適切に情報授受を行うための能力に関して示唆を得るため,IBR,JCW,IEに行ったインタビューの回答に基づいて製品開発中の情報授受全体の枠組みを示した。そこで発生する問題の分析の結果,「ビジョン共有」のためにJCWの必要とするIEの開発状況などの情報を,IBRがIEから受け取ることが困難であることが分かった。これはIEのビジョン共有の目的に関する理解不足が原因と考えられるため,IBRには,JCWとIE間のコミュニケーションを調整し,双方に他者の方法の長所に関する理解を促しつつ情報授受を行う能力が求められる。
著者
黒川 美紀子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.153, pp.96-110, 2012 (Released:2017-02-17)
参考文献数
25

サービス・ラーニング(以下SL)とは,学習者が明確な学習目標を持って地域社会のサービス活動に従事し,知識を体験に生かすとともに,その体験を通じてさらに生きた知識を学ぶ(ラーニング)体験学習の一手法であり,近年日本でも大学教育に取り入れられ始めている。本稿は,SLの要素を取り入れ,高齢者施設で「話し相手ボランティア」を行った上級日本語コースの実践報告であり,コースの概要を紹介するとともに,学習者による授業評価アンケート,個別インタビュー,学習者が書いたジャーナルおよびレポートの分析を行った。その結果学習者は日本語力,特に書く力が伸びたと感じていたほか,人生観,価値観への影響があったと考えていることがわかった。学習者がSLから得たものとしては,(1)人生の先輩から与えられる気づきや励まし,(2)人の役に立つことの喜び,達成感(3)人間に対する洞察と共感,(4)知識の個人化,(5)先入観からの脱却,が認められた。
著者
学会誌委員会編集担当委員
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.153, pp.71-80, 2012 (Released:2017-02-17)

本稿では,学会誌の50年を5期に分けて振り返り,その変遷について整理した。 まず,創刊から1972年までの10年間は「日本語教育」という学問を模索した時期と言える。第2期(~1988年ごろ)は,「教育」自体に焦点を当てた研究が多く取り上げられ,「日本語」分野でも現場から出発した具体的な研究が増えた。第3期(~1997年ごろ)には,「心理」や「社会」分野の研究が出始め,「教育」分野の研究は,実践研究が増えた一方,枠組み自体も広がりを見せた。第4期には,更に,関連周辺領域とも結びつき,急速に学際化が進んだ。2004年ごろから現在に至る第5期には,「教育」の研究に,単に問題点の発見に留まらない質の高さが追求されるようになった。また,日本語教育が複合的な領域をまたぐ研究を必要とすることもますます明らかになってきた。今後の研究は,この深化と学際化,双方の面から取り組んでいく必要があると言えよう。
著者
張 勇
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.154, pp.100-114, 2013 (Released:2017-02-17)
参考文献数
20

中国人日本語学習者は,異文化の社会や人々に対してどのような態度を持っているか,そこにはどんな特徴があるかを検討するため,日本語専攻の大学生(276名)を対象に,英語専攻,フランス語専攻,他文系専攻の学生(523名)と比較して,対日態度と一般的異文化態度の質問紙調査を行った。その結果,日本語専攻の学生は,①全体的に肯定的対日態度を持っていること,②学年が上がると,否定的対日態度と中立的対日態度が上昇し,対日認識が多面化する傾向があることが観察された。否定的対日態度については,特に対人関係の項目で数値が上昇した。また,一般的異文化態度に関しては,③異なる文化一般に対して相対的に高い敬意を持っていること,④学年の上昇に伴い,異文化接触の際の不安が解消され,異文化の人々とのコミュニケーションで,より柔軟な姿勢を取るようになる可能性が示唆された。
著者
石塚 昌保 河北 祐子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.155, pp.81-94, 2013 (Released:2017-02-17)
参考文献数
13

多文化社会を読み解く視点として居場所感に着目し,地域日本語教室の居場所感を測るための「多文化社会型居場所感尺度」を開発した。その結果,地域日本語教室で活動する人々が居場所感を得るためには,①役割,②被受容,③社会参加,④交流,⑤配慮の5つの因子が必要であることが示唆された。またこの尺度を用い,地域日本語教室で活動している人々の居場所感全体をレーダーチャートとして視覚化する試みを行った。この尺度は,地域日本語教室の特徴や課題をとらえる上でも有効に活用できると考えられる。この尺度を利用し,ある地域日本語教室の参加者の「居場所感」を調査したところ,学習者の社会参加感が高い一方で,支援者の役割感が低いことが分かった。この調査結果を基に支援者をエンパワーした試みを紹介し,多文化社会型居場所感尺度を用いた活用事例について考察した。
著者
内海 由美子 澤 恩嬉
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.155, pp.51-65, 2013 (Released:2017-02-17)
参考文献数
12
被引用文献数
1

本稿では,外国人の母親31人を対象とした聞き取り調査の結果から,幼稚園・保育園における読み書きの必要性とその課題を明らかにし,読み書き能力支援について提案する。園と連携して子育てに当たるには日本語使用が不可欠で,連絡帳やお便り等の読み書きが重要となる。しかし調査の結果から,全ての母親が連絡帳を書くことに苦手意識を持ち,困難を感じていることがわかった。また,連絡帳によって園と信頼関係を築いたり,子育て上の問題を相談したりする等,日本人の母親が行う利用の仕方は外国人の母親には見られなかった。さらに,連絡帳を書くかどうかには,子どもの入園時にすでに日本語学習歴があり,ひらがなカタカナの読み書きができるかどうかが大きく関わっていた。園との文字によるやりとりを支えるには,連絡帳に特徴的な言語形式や談話の流れを自習可能な教材にすることが求められる。また,書くか書かないかの判断や,書くか話すかの技能選択のポイントを示すことも必要である。