著者
金水 敏
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.150, pp.34-41, 2011 (Released:2017-02-17)
参考文献数
9
被引用文献数
1

日本語教育,あるいは日本語教師養成のカリキュラムに役割語は必要ないという意見がある。これに対し本稿では,次の点から,日本語教師にとって役割語の知識は有用であることを示す。 1.役割語は「マンガやアニメ等にのみ現れる特殊な言語」ではない。われわれは特定の人物像(キャラクタ)と結びついた話し方の類型(=役割語)をステレオタイプ的な知識として身につける。その意味ではすべての話し言葉は役割語としての性質を帯びているものと捉えることができる。 2.日本語学習者は,いわば“日本語学習者”という役割のロールプレイングを現実社会の中で遂行していると見ることができる。日本語教師は,学習者のキャラクタ作りを支援する立場にあり,そのことを自覚しながら指導に当たる必要がある。
著者
岡 典栄
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.155, pp.66-80, 2013 (Released:2017-02-17)
参考文献数
14

本稿では,聴覚を通じて音声日本語を習得することがほぼ不可能な,日本手話を第一言語とするろう児・者に対する第二言語としての日本語教育について考察する。従来のろう教育で行われてきた補聴機器等を用いた母語教育としての国語教育では達成が難しかった日本語の習得が,日本語教育の視点の導入によりパラダイム自体が転換し,ろう者のエンパワーメントにつながることを見る。また,ろう者に対するわかりやすい日本語,視覚情報としての日本語の提示を通じて,まわりの人々もエンパワーされることを見る。
著者
岩田 一成
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.158, pp.36-48, 2014 (Released:2017-02-17)
参考文献数
13

近年,日本語学習者の教育内容を議論するような文脈で「やさしい日本語」という概念が用いられるようになっている。本稿で扱うのは看護師候補者に対する教育内容である。看護師国家試験受験の目安となりつつある日本語能力試験2級レベルを基準として文法や語彙を分析した。データとして過去の看護師国家試験問題7回分を用いた。文法に関しては,一試験に1回以上出現する可能性がある2級文法はせいぜい15程度であり,2級文法170項目の一部にすぎない。名詞語彙に関しては,65%が級外または1級語彙であり,2級語彙では全く対応できない。つまり,2級を目指すのではなく,文法内容を最小限に絞って語彙を増やしていく指導が必要になる。また本稿では,1233の必修問題用名詞語彙に519を追加すれば,一般・状況設定問題の約80%が理解でき,1624を追加すれば約90%が理解できるようになることを指摘し,語彙指導の道筋を示した。
著者
中西 久実子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.159, pp.17-29, 2014 (Released:2017-03-21)
参考文献数
19

学習者は「弟は10歳だけだ」など不自然な「だけだ」を多用する。先行研究ではこのような「だけだ」は質を規定する名詞述語に接続すると不自然になるとされている。 本稿では「だけだ」が質を規定する名詞述語に接続しても不自然にならない反例があることを指摘し,「だけだ」が不自然になる原因を解明する。「Xだけだ」というのはたとえば「朝食はバナナだけだ」のように「X+X以外」のセットを前提集合とし,その否定「X+X以外のセットではない。Xはあるが,X以外はない」を表していなければならない。しかし,問題となる「だけだ」では前提集合「X+X以外」があり得ない。質を規定する述語Xにつく「だけだ」では「X+X以外」が,「Xであり,かつ,X以外だ」になるからである。たとえば,学習者が用いる「弟は10歳だけだ。まだお酒は飲めない。」の場合,「弟が10歳であり,かつ,20歳だ」はあり得ないので,「だけだ」が不自然になる。
著者
庵 功雄
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.142, pp.58-68, 2009 (Released:2017-04-25)
参考文献数
15
被引用文献数
1

「でしょう(だろう)」には推量と確認の2つの用法がある。しかし,実際の発話データを分析した結果では確認が多数派である。特に,推量の「でしょう」の言い切りの用法は極めて少ない。「でしょう」で言い切ることができるのは発話者が「専門家」である場合(天気予報はその典型である)など一部の場合に限られる。にもかかわらず,日本語教科書では推量の「でしょう」(言い切り)は必ず導入されている。これは「体系」を重視する日本語学的発想によるものであり,「日本語学的文法から独立した」日本語教育文法という立場からは否定されるべきものである。本稿では発話データと日本語教科書の分析を通して,「でしょう」の実相を明らかにし,それに基づいて「でしょう(及び「だろう」)」の導入の順序について論じる。本稿は白川(2005)らが主張する日本語教育文法の内実を豊かにすることを目指すものである。
著者
一二三 朋子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.146, pp.76-89, 2010 (Released:2017-03-21)
参考文献数
24

多言語・多文化社会では,異文化接触場面によりさまざまな心理的変容が起こり,そうした変容は共生のための学習と捉え得る。本稿では,接触場面でのコミュニケーションで行われる異なる意識的配慮に焦点を当て,意識的配慮がどのような要因で学習されるかを明らかにすることを試みる。アジア系留学生150名を対象に質問紙調査を行い,因子分析によって共生的学習に関わる要因と意識的配慮を特定し,次に,パス解析によって共生的学習の過程を考察した。その結果,意識的配慮の学習には自他の行動に関する信念が複雑に関与していること,その信念には日本での留学生活の質や日本人の態度などが影響を与えていることが明らかになった。
著者
大西 由美
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.147, pp.82-96, 2010 (Released:2017-02-15)
参考文献数
22

本稿では,ウクライナの大学において日本語を専攻する学習者を対象に,日本語学習動機調査を行った。ウクライナは日本との人的・経済的交流が少ない「孤立環境」と呼ばれる地域である。日本語学習者は増加傾向にあるが,卒業まで意欲的に学習できない学生が多いことが問題となっている。 一方,日本語学習者を対象とした動機づけ研究では,環境が大きく異なるにも関わらず,他地域の動機づけ尺度を基に調査が行われる傾向がある。 そこで,本稿では,日本語学習動機を自由記述によって収集し,先行研究にはない項目を含む35項目の尺度を作成した。5大学の学生を対象に質問紙調査を行い,180名分のデータを得た。学年層別の因子分析の結果,低学年と高学年では動機づけの構造が異なることが明らかになった。低学年の学習者は文化に関する動機と仕事に関する動機の相関が高く,これらの動機が対立するものだとしている他地域の先行研究とは異なる結果となった。

6 0 0 0 OA 間接受身再考

著者
今井 新悟
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.146, pp.117-128, 2010 (Released:2017-03-21)
参考文献数
27

受身文は直接受身文と間接受身文に分けられてきた。所有(持ち主)受身を立てることもあるが,これも,間接受身の亜種とされることが多かった。これに対し,本稿では,所有受身が間接受身ではなく,直接受身であることを主張する。その証拠として二重対格制限,ガノ交替,主格降格と参与者数,付加詞・必須項,主語尊敬構文「お~になる」の尊敬対象,再帰代名詞「自分」の先行詞,および数量詞遊離に関しての統語論的な現象を示す。これらは先行研究でも繰り返し使われた統語的テストであるが,統一した結論に至っていない。本稿の分類により構文と意味の対応,すなわち,「直接受身=中立の意味」ならびに「間接受身=迷惑の意味」の単純な結論に収束することを示す。日本語教育にあっては,本稿の言語学的な裏づけにより,所有受身を間接受身とせず,構文と意味の明確・単純な対応を示すことで混乱なく受身の指導ができる。
著者
野村 和之 望月 貴子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.169, pp.1-15, 2018 (Released:2020-04-26)
参考文献数
29

点数至上主義の競争文化で学歴が社会的威信に直結する香港では,学校が強い影響力を持ち,学校での競争で優位に立てない青少年は抑圧や劣等感に晒される。本稿はエスノグラフィーの手法で香港人青少年の日本語学習を社会文化的文脈に絡めて分析し,青少年学習者にとって,日本語学習が学校での抑圧から逃れるための「心の拠り所」 (safe house) として機能していることを明らかにする。香港において日本語は大学入学資格試験の選択科目になるなど十分な威信を持ち,学校内外での日本語学習は青少年が学校からの抑圧への「対抗的アイデンティティ」 (subversive identity) を構築する基盤となっている。その反面,心の拠り所となるはずの日本語学習も香港の競争文化と無縁ではない。香港で広く普及するSNS を媒介した青少年学習者同士の繋がりの中にも,言語能力・文化的知識・新情報の入手速度などをめぐり,学校での競争と共通した優越感と劣等感のせめぎ合いが存在している。
著者
池田(三浦) 香菜子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.166, pp.93-107, 2017 (Released:2019-04-26)
参考文献数
24

本研究では,日本語を第二言語とする(以下,JSL)生徒(n=8)を対象に,小・中学校教科書で使用される多義動詞の意味・用法の習得について産出・理解調査を行った。対象動詞は,日本語モノリンガル(以下,Mono)の子どもが初期の段階で習得すると考えられる基本的な多義動詞10語で,対象用法は教科書コーパスから選出された80用法である。調査の結果,産出・理解ともにJSLの派生的用法の習得は中心的用法に比べ難しいことが分かった。さらにMono・JSLの産出正答率をもとに,JSLのみ正答率が低い用法とMono・JSLともに正答率が低い用法に分けて分析し,JSLが苦手とする用法の特徴を詳細に調べた。教科書にはMono・JSLともに産出が難しい用法が存在し,JSLの語彙力はMonoと同様に発達過程にあると言えるが,一方で理解面における遅れは,JSLのみに見られることが明らかになった。
著者
飯高 京子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.146, pp.4-17, 2010 (Released:2017-03-21)
参考文献数
34

日系移住労働者子女の言語やコミュニケーション発達の遅れは,人生の最も大切な初期母子交流不足から生じやすい。その結果,認知発達や自己像形成も遅れる。さらに幼児期の養育環境が貧しいと,相手の話を注意して聞く態度や一定時間集中して課題に取り組む姿勢が育ちにくい問題がある。したがって子どもたちは就学後の学習活動に適応することが難しい。彼らの落ち着きのなさや学習効果の欠如は,神経学的素因による発達障害の臨床像に類似して誤解されやすく,専門家の助言が必要な場合も多い。彼らは不登校になりやすく日本語読み書き能力も不足しており,就職はきびしい。日本社会への適応も困難になる。ゆえに就学前の子どもたちへの指導は非常に大切である。日本語だけでなく,学習活動準備や認知発達促進を意図したプレスクール実施指導書の紹介がなされた。同時に日本語教師の待遇改善と外国人移住労働者子女への支援システム形成の重要性も強調された。
著者
劉 怡伶
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.153, pp.81-95, 2012 (Released:2017-02-17)
参考文献数
22

本稿では,日本語における動作主認識の副詞的成分の特徴を考察した。考察の結果,動作主認識の副詞的成分は先行研究の指摘のように,動作主が動作の実現中に持った感情・感覚を表すものであるということのほか,次の三つの特徴を持っていることが明らかになった。1)動作主認識の副詞的成分は動詞の表す語彙的意味の層で機能するものである,2)動作主認識の副詞的成分の表す感情・感覚は動作主の制御可能な動作によって生起するもののため,動作の結果でもある,3)動作主認識の副詞的成分の表す感情・感覚はある程度制御可能なものである,ということである。 また,本稿ではコーパスにおける使用実態も調査したが,〈快〉の感情・感覚を表す形容詞連用形が動作主認識の副詞的成分として用いられやすいことが判明した。その理由として語用論的理由によることを説明した。
著者
山路 奈保子 須藤 秀紹 李 セロン
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.155, pp.175-188, 2013 (Released:2017-02-17)
参考文献数
12

本稿は,書評ゲームである「ビブリオバトル」を日本語パブリックスピーキング(1)入門として大学・大学院留学生を対象とする日本語授業に取り入れる試みの実践報告である。「ビブリオバトル」は,複数のプレゼンターが各自で選んだ本を紹介した後,聴衆が「最も読みたくなった本」に投票し,最多票を得た本を「チャンプ本」とする書評ゲームである。これを留学生対象の日本語コースで実施した。参加学生はそれぞれ2度プレゼンターとして書評プレゼンテーションを行った。その結果,聴衆が「チャンプ本」を選ぶというゲーム性が参加学生のモティベーションを高め,聴衆の理解や共感に対する配慮をもたらした。ビブリオバトル導入は日本語学習者のパブリックスピーキング技能向上に有効であることが示唆された。
著者
西川 朋美 青木 由香 細野 尚子 樋口 万喜子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.160, pp.64-78, 2015 (Released:2017-06-21)
参考文献数
20
被引用文献数
1

本研究では,日本で(生まれ)育った日本語を第二言語とする(以下,JSL)子どもの和語動詞の産出について,記述式調査票を用い,量的に調査した。調査対象とする動詞は,日本語モノリンガルが母語習得過程で自然に身につけると考えられる31語である。本稿では,比較対象とする同年齢のモノリンガルの点数が安定する小学4年生以上に的を絞り,結果を報告する(モノリンガル n=924;JSL n=124)。分散分析の結果,全ての学年において,JSLとモノリンガルの得点には有意差があり,効果量も大きいことが分かった。一部の「できない子」は,JSLとモノリンガルのどちらにも存在するが,最下位層と位置付けられた子どもの割合は,JSLとモノリンガルでは5~10倍程度の違いが見られた。また,誤答の詳細を分析した結果,JSLでは学校場面で用いられることの少ない動詞・用法の産出が弱く,動詞の意味範囲を間違って適用したケースや母語の影響と考えられる誤用も見られた。
著者
後藤 典子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.161, pp.42-49, 2015 (Released:2017-08-26)
参考文献数
10

本稿は,地方の医療・介護現場で患者や介護施設利用者が使用する方言発話を聞いて,外国人がどう理解するかを調査し,理解の特徴を明らかにしようとするものである。山形の方言発話で,方言が使用されやすく緊急度の高い「痛み」や「排泄」に関わるものを取り上げた。結果,外国人と日本人の方言理解には大きな差が見られた。外国人は大まかな意味のみを理解し,不理解となる特徴は,共通語が予想されにくい形,オノマトペ,日常生活であまり使用されない語彙,方言の語彙や表現だった。日本人には理解されていた身体部位や排泄に関わる語彙に不理解が多く注意を要することなどがわかった。
著者
永井 絢子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.161, pp.31-41, 2015 (Released:2017-08-26)
参考文献数
20

本研究は,シンハラ語母語話者日本語学習者の作文に見られる主な助詞の誤用傾向と「ガ」「ヲ」の使用状況を示すとともに,先行研究であまり注目されてこなかった「ガ」に注目して誤用の要因を考察した。作文を小テスト得点から3群に分けて分析した結果最も誤用率が高かったのは中位群の「ガ」であった。「ヲ」の誤用率は3群とも低く,「対象」用法が安定して使用されていたが,「ニ」「デ」の誤用の大半は「ニ」と「デ」の混同であった。「ガ」の誤用のうち「×ガ→○ヲ」(「ガ」が誤り,「ヲ」が正しい)は3群とも約8割を占め,その多くは絶対他動詞を取っていた。その要因として,シンハラ語の格標示の影響で「ガ」と「ヲ」の区別に注意が向きにくいこと,意志性の低い他動詞の目的語に「ガ」を選択している可能性が考えられた。「×ガ→○ヲ」は運用上の大きな問題であり,指導において「ガ」「ヲ」をより重視する必要があることが示唆された。
著者
柳田 直美
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.145, pp.13-24, 2010 (Released:2017-03-21)
参考文献数
22
被引用文献数
1

日本の多文化化が進む現在,多文化共生社会に向けて,非母語話者の日本語学習への支援は活発だが,身近な非母語話者との意思疎通に困難を抱える母語話者への対応は不十分である。そこで本稿では,母語話者と非母語話者が参加する接触場面において母語話者が情報を提供する場面に着目し,母語話者のコミュニケーション方略に接触経験が及ぼす影響を分析した。分析の結果,(1)接触経験の多い母語話者は,情報の切れ目が明確な文単位の発話を多く用いていること,(2)接触経験の多い母語話者は,理解チェックを用いて,非母語話者に対して躊躇なく理解確認をしていること,(3)接触経験が自己発話の修正の種類に及ぼす影響は少ないが,接触経験の多い母語話者は,非母語話者からの不理解表明がなくても自発的に発話修正を行っていること,の3点が明らかになった。この分析を通して,母語話者に対する非母語話者とのコミュニケーション支援のあり方を示した。
著者
新矢 麻紀子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.175, pp.19-33, 2020-04-25 (Released:2022-04-26)
参考文献数
22

国際結婚移住女性3人を取り巻く環境を観察しその語りを分析することによって,職業選択や地位達成にかかわるワークキャリアと,学歴,家族,交友関係等にかかわるライフキャリアを描出した。そのプロセスで,3人の日本語習得や日本語能力が何とどう関わり,どのような意味を有し,いかに人生を支えているのかを見た。 資源化とアイデンティティ・ワークという概念を用いて分析した結果,3人が,エスニシティ,ホワイトネス,日本語をそれぞれ資源化し,自身の存在を確認するアイデンティティ・ワークを行いつつ,ワークキャリアやライフキャリアを形成していることがわかった。 彼女ら「生活者としての外国人」が質の高い生活と社会参加を実現するには,コミュニティが彼女らの多様な日本語に寄り添い日本語リテラシーの欠如を補う「リテラシーの補償」と国や自治体などの「公」が日本語学習を保障する「リテラシーの保障」の両者が必要であることを提案した。
著者
布尾 勝一郎 平井 辰也
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.175, pp.34-49, 2020-04-25 (Released:2022-04-26)
参考文献数
8

近年,外国人介護・看護労働者の受け入れが急速に進んでいる。とりわけ,介護の分野では,経済連携協定 (EPA) に基づく介護福祉士候補者に加え,在留資格「介護」の創設,外国人技能実習制度への介護職種の追加,在留資格「特定技能」での就労など,ルートも多様化・複雑化している。また,それに伴い,労働者のキャリア形成や,その過程で生じる問題も多様化していると思われる。 本稿では,それらの各制度や,制度に基づき就労する労働者のキャリアパスの概要を示す。そのうえで,元EPA介護福祉士・看護師候補者に対して行ったインタビューの結果を紹介し,候補者ら自身のキャリア形成実態や,キャリアについての考え方の一端を明らかにする。さらに,インタビューを通じて明らかになった,制度や社会の問題点を指摘し,改善のための提言を行う。
著者
小口 悠紀子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.174, pp.56-70, 2019-12-25 (Released:2021-12-26)
参考文献数
17

本稿は,初級日本語学習者を対象に,構造シラバスの中で教師がTBLTの理念を取り入れることの可能性とタスクの効果を検討した実践報告である。本稿では全9回 (27時間) に及ぶTBLT実践を行い,(1) 学習者はTBLTアプローチをどう受け止めていたか,(2) 学習者はタスクを楽しみ,有効性を実感していたか,(3) 学習者のタスクに対する反応は,教師が想定するものであったか,という点について検証した。その結果,学習者はTBLTによる日本語授業に概ね肯定的な反応を示したものの,学習者の持つビリーフスやコースの評価方法がTBLTに沿わない場合,不安や戸惑いを感じることが分かった。また,マイクロ評価の結果,タスクが持つ真正性の高さが学習者の動機付けを高め,教師の狙い通り能動的な授業参加や内容中心のコミュニケーションを促す一方で,言語形式への焦点化は,教師に頼らず学習者間で適宜行われていることが明らかになった。