著者
中川 麻子
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.6_51-6_60, 2012 (Released:2012-05-30)
参考文献数
33

「美術染織」とは、明治から大正時代にかけて制作された絵画的な染織作品であり、近代染織を語る上で重要な存在である。本稿では明治時代初期から1893 年(明治26 年)頃を対象にし、国内外の博覧会に出品された染織作品について検討を行った。1876 年(明治9年)フィラデルフィア万博出品の成功を受けて、内国博には多くの絵画的な染織作品が出品された。また業者によって積極的に新しい技術の開発が行われ、1882 年(明治15年) 前後にはますますこの傾向が強まった。1886 年(明治19 年)京都色染織物繍纈共進会の出品分類に現れた「美術色染」「美術織物」の語は、染織分野に初めて「美術」の語が持ち込まれた例であり、はじめて《美術染織》概念が誕生した。1889 年(明治22 年) パリ万博では染織作品が「美術」とは認められなかった。しかし1893 年(明治26 年) シカゴ万博において、平面的かつ大型で、観賞用の性質が強い作品が美術部出品を果たし「美術的織物」と呼ばれ絶賛された。このシカゴ万博を機会に《美術染織》の概念と「平面」、「大型」、「鑑賞用」という作品形式が確立した。
著者
戴 薪辰 植田 憲
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.4_19-4_28, 2017

今日,中国においては飛躍的な経済発展が実現したが,その一方で,伝統的生活文化が急速に消失しつつある。それは,単に物理的な側面のみならず,社会・生活の構造そのものの崩壊と言っても過言ではない。本研究は,中国上海市近郊の崇明島において形成されてきた伝統的住居「宅溝」の住まい方に着目し,それらを地域資源として再発見・再認識することを目指した調査・研究の第2報である。本稿では,非日常生活における空間特質を明確にすることを目的とした。調査・考察の結果,以下の各点が明らかとなった。(1)宅溝は人・神・霊が共住する空間と認識され,新年・羹飯の年中行事を利用してその存在を維持・更新が図られてきた。(2)公堂の空間は宅溝のなかで最も重要な空間であった。(3)結婚式では住居の複数の内と外の境が利用されるとともに強調された。(4)葬式では公堂に死者の身と霊に休息を与え,来世への準備を整える空間となった。(5)非日常生活において宅溝は儀式空間へと転換され,日常生活における空間特質とともに多義的な特質が構築された。
著者
孔 鎭烈 田中 隆充
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.3_1-3_10, 2020-01-31 (Released:2020-02-25)
参考文献数
10

本稿は,菓子等のパッケージに多く用いられる「帯紙」のプロポーションの好みについて,実験を行いその結果を検証し評価した.上述の帯紙は掛け紙とも呼ばれ,商品(箱)全体を包むことができる大きいサイズから紐のような小さいサイズまで様々であり,視覚的概念表現の規定はない.多くは,作り手,売り手が買い手の好みを体験的,感覚的に決めており,上述の帯紙に関して買い手の好みを学術的な側面からアプローチしている研究はない.本研究では,10 種類のアスペクト比のサイズの箱に帯紙を貼付しそのアスペクト比を用いて実験し,検証の結果,被験者の感覚的反応による視覚的対象の数的規則性を求めることができた.多くの被験者はパッケージの箱と見立てた平面状の長方形(以後設定条件と言う)に対して帯紙の割合が60%〜70%を占めるプロポーションが最も好むプロポーションであることが分かった.その反面,設定条件に対して帯紙の幅が細いプロポーションには好みが低くい結果になった.菓子等のパッケージで用いられる帯紙は買い手に対し視覚的効果が大きいため,そのサイズの効果を応用することで,今後のパッケージングデザインの考え方の一助になると考える.
著者
川野 江里子 野原 佳代子 ノートン マイケル 那須 聖
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.3_31-3_40, 2020

<p>本研究は理工系大生と美大生の異分野間で協働するイノベーション・ワークショップを対象とし,ワークショップの空間を,参加者が実際にどのように捉え使いこなしているのか,その実態を明らかにすることを目的としたものである。会場のしつらえとアンケートから得られた参加者の印象・評価との関係を考察することでワークショップの物理的環境と議論の進んだ場所についての仮説を構築し,その上で,行動・会話観察をもとに会場における参加者の動きとコミュニケーション出現及び議論の内容との関係を考察した。議論時に思考の外在化を促す仕掛けとして準備したホワイトボード等の活用は,議論の活性化につながるコミュニケーション出現の起点となっており,議論中に思考が拡がるにつれ,使用する空間が面的に広がり,壁や窓,柱などの広い空間を利用しているケースが見られた。また,議論中の場所移動の様子からは,全てのケースに共通していることは見られなかったものの,一部のケースで,ワークショップ空間や空間移動を思考のためのツールやコミュニケーションのきっかけとしている事が確認された。</p>
著者
吉村 典子
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.60, no.6, pp.6_11-6_20, 2014-03-31 (Released:2014-06-10)
参考文献数
31

家は私的なもの、というのは今や自明のことといえるが、イギリスのかつての王侯貴族の住まいは公的要素がむしろ強い。それをモデルとした19世紀後半の中産階級の住まいには、その公的機能から設計された間取りを踏襲している点がみられる。こうした住まいのあり方に、異を唱えた建築家の一人がベイリー・スコットである。家族中心の暮らしの風景を想定する中で、「シンプル」で「ホームリー・コンフォート」のある空間を彼は追求していく。家の中でありながら、伝統的に客のもてなしのために使われた「ホール」、「ダイニング・ルーム」、「ドローイング・ルーム」を、ホールの広い空間的特質を活かして、それを基点にダイニングやドローイング・ルームを融合していく手法等を見せる。そしてそこに「リヴィング・ルーム」という名称が表れるようになる。その過程をスコットの著作や図面を通して明確にし、それにより成立してきた近代の「私的」住まいの形象を考察する。
著者
趙 麗華 山本 早里 五十嵐 浩也
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.1_41-1_50, 2018-07-31 (Released:2018-08-30)
参考文献数
47

本研究は,延辺朝鮮族自治州の3つの民俗村における現地調査を通して,それらの変遷過程と現状の考察を行い,文化的観光デザインの特質を明らかにすることを目的としたものである。民俗村の形成に至るまでの背景とそこで行われている観光活動について整理した結果,以下の知見を得た。(1)自発的移住に基づいて形成された伝統村は共同意識が比較的高く,管理型・政治型移住に基づいて形成された伝統村は共同意識が比較的低いことが確認できた。(2)民俗村の形成に影響する要素として,村の共同意識と周辺の有名観光地の開発があげられる。(3)民俗村における文化的観光デザインの特質を4つの要素にまとめた。それぞれ,伝統文化,民俗芸能,商業型観光活動,村民の参画である。(4)民俗村の形成初期は伝統文化と民俗芸能を中心としていたが,近年,商業型観光活動が増加している。特に,企業による商業型観光活動の増加は村民の参画の減少につながることが明らかになった。
著者
矢久保 空遥 田内 隆利 久保 光徳 寺内 文雄
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.2_1-2_6, 2015-07-31 (Released:2015-10-25)
参考文献数
9

本論文では,口琴とよばれる楽器をサンプルとして用い,その音による印象と口琴のもつ形態的な特徴の関係を考察した.実験では,まず25 種の口琴が持つ形態的な特徴を抽出し,その特徴の有無を元として,これを数量化Ⅲ類によって構造化した. その後,各口琴の音に対する印象傾向を因子分析によって分析した. その結果,口琴の音による印象は「活発性因子」「評価性因子」「存在感因子」の3因子で説明できることが明らかとなった. その後,各口琴の数量化Ⅲ類によるサンプルスコアの値と因子分析によって得られた因子得点の相関係数を求めた.数量化Ⅲ類によって示されたⅠ軸は,「加工技術軸」であると読み取ることができ,数量化Ⅲ類で得られた「加工技術軸」と,因子分析で得られた「評価性因子」との間に正の相関があることを確認した. 結論として口琴の加工技術が高く,口琴を構成する細部の形状が緻密であるほど,その音は味わい深く,情緒性の高いものであると示唆された.
著者
李 岡茂
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.47, no.5, pp.55-64, 2001-01-31 (Released:2017-07-21)
参考文献数
18

フラクタル幾何学の「自己相似性」の概念は、自然の形態を見る新しい視座を与えた。本論では「自己相似性」が自然物だけではなく、造形作品の分析にも活用される可能性に着目し、その事例研究として「アルヒテクトン」の構造分析を行った。分析の方法は、フラクタル・シミュレーションによって生成されたモデルと元の作品を比較することであった。その結果、垂直形アルヒテクトンは、基本的にはフラクタル的な構造を持っているが、各構成要素の比率関係や数においては自由な選択が行われたことが分かった。造形作業でフラクタル幾何学を応用する方法が試みられている今日、「自己相似的構造」と「作家の審美的判新」が調和されている垂直形のアルヒテクトンは、その先駆的な実例として再評価されるべきであると考える。
著者
丸山 萌 田内 隆利 久保 光徳
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.5_75-5_80, 2017-01-31 (Released:2017-03-10)
参考文献数
16

本研究は,日本の伝統的衣服であるキモノの形の意味を,ものから得られる情報を通して明らかにしようという試みである。キモノはほどけば布に戻るものとされ,「繰り回し」と呼ばれる作り替えが行われていたことが知られており,制作時から予め再利用を見込んだ形に作られていたと考えられる。キモノがどのように作られ,また作り替えられてきたのか,日常着として着用されていた2点のキモノの観察・解体によって調査し,制作および作り替えの過程と形との関係を考察した。 資料の解体から,キモノの形に共通する構成の特徴は,狭い幅の布を用い,できるだけ裁断を少なくし,手縫いで作ることであるとわかった。作り替えられたキモノからは,共通の布幅を生かした各部の入れ替えの様子や,布の重なる部分や目立たない部分に痛んだ布や小さな端切れが巧みに生かされている様子が確認できた。調査より,キモノの形は,決まった量の材料を余らせずにできるだけ大きく使うことで作り替えの可能性を広げた,材料を最大限に生かすための形であると結論付けた。また,衣服としての形が一定であることにより,制作技術の習得と応用を容易にし,作りやすさを追求した形であると考えた。
著者
平光 睦子
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.69-76, 2013-05-31
参考文献数
27

本稿は、明治期の京都の美術工芸学校の図案教育について、岡倉天心(1863 . 1913年)が美術教育施設二付意見」において示した美術教育制度との比較において考察するものであり、その目的は美術工芸学校の特性や傾向を明らかにすることにある。<br>1894(明治27)年に発表された「美術教育施設ニ付意見」には、近代日本に相応しい美術教育制度の構想が示されている。このなかで、京都の美術工芸学校は、高等美術学校としても技芸学校としても否定されている。<br>岡倉の構想した高等美術学校は、日本美術の保護継承を目的とする専門家養成機関であった。また、技芸学校の目的は直接的に殖産興業に資することであり、ここでの産業は主に大量生産の機械工業をさしていた。<br>一方京都の美術工芸学校は、創立以来の地元の工芸諸産業との関係性を明治中期には一層強めており、1891(明治24)年の工芸図案科設置もその表れといえる。高等美術学校として否定された要因はこの産業との直接的な関係性にあり、技芸学校として否定された要因は、その産業が主に工芸であって機械工業ではないことにあった。
著者
和田 精二 大谷 毅
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.37-46, 2005-01-31 (Released:2017-07-19)
参考文献数
26

1951(昭和26)年の松下幸之助の米国視察を機にわが国初の企業内デザイン部門が松下電器産業に設立されたこと, 帰国早々「これからはデザインの時代」と彼が語ったこと, 真野善一が初代課長として採用されたこと等はデザイン界ではよく知られた事実である。しかし, どのような経営的な視点からデザイン部門設立を決定したか等についてはあまり詳しく知られていない。本研究において, 幸之助という希代の経営者の米国視察等に関わる関連情報を調査することで, デザインがビジネスに極めて大きく関わり, 製品の価格をデザインでコントロールできると喝破した, その幸之助の経営的な先見性を確認できた。同時に, 工芸指導所や少数の企業にデザイン活動がすでに始動していた事実も確認できた。
著者
林 品章
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.5_75-5_84, 2002-01-31 (Released:2017-11-08)
参考文献数
39

「台湾戦後の視覚伝達デザイン表現の発展」は、時期により二部に分けられる。前編は1945年から1970年まで、後編は1970年から1970年までである。本論文は前編である。本研究は、台湾の戦後の視覚伝達デザインに関連するさまざまなデザイン活動と表現の様相を系統的に歴史の骨組みとして整理することを目的とする。内容構成としては、台湾のデザイン学界と業界共通の認識に従い「ポスター」「挿画(イラスト)」「商標と標誌(ロゴ)」「パッケージデザイン」「広告デザイン」の五つの項目に分けた。 研究の結果は次のようにまとめられる。(1)台湾の戦後は政治的影響を受け、視覚伝達デザインの表現も保守的な傾向が見られる。(2) 1960年以降、政治経済が安定するに従い、また政府関係機関と民間企業の仲立ちもあって、日本や西欧から現代デザインの理念が大量に持ち込まれた。デザイナーらの積極的活動と相まって、デザイン表現も高度かつ専門的水準に達するようになった。
著者
宮崎 清 青木 弘行 田中 みなみ
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.1989, no.72, pp.67-74, 1989-03-31 (Released:2017-07-25)

本小論は、「伝統的工芸品・椀の意匠に関する研究(1)」に続いて、日本における椀の発生と歴史的発展過程に注目し、室町時代までの椀の造形的展開について、遺跡資料および絵画史料を手がかりとして、観察と解析を行ったものである。その結果、筆者は次の諸点を明らかにした。(1)日本における漆塗椀の原型は縄文時代に誕生し、弥生時代の轆轤技術、鉄器の導入を経て、挽物としての基本的な椀の制作技術がほぼ完成された。(2)飛鳥・奈良・平安時代には、大陸の食様式の導入ならびに主食副食分離の発展と対応してさまざまな形状の椀が制作され、現代の椀の造形文化がほぼ形成された。(3)鎌倉・室町時代に入ると、漆の塗分けや漆絵などの装飾技術が発達し、椀形状のバリエーションも一層豊かになった。桃山時代には、大陸の造形文化から独立した、日本固有の椀の造形文化が確立された。
著者
内藤 裕子
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.1987, no.61, pp.5-12, 1987-07-31 (Released:2017-07-25)

本稿は,近隣住宅地および周辺街路においての子供の遊び行為をフィールド・サーベイし,遊びに利用される空間およびモノの使われ方の現状を明らかにするものである。ここでは,抽出した空間およびモノを,空間形状,装置,素材,雰囲気の四種の評価項目に分類し,考察を加えた。空間形状においては,多くの遊びが,街路と小広場を複合的に使って,遊びを成り立たせている。装置は,遊びのきっかけとなり,遊び行為を誘発させ,遊び行為を介助する道具的役割を担い,遊び方を変化させる。素材は,遊び行為を助け,内容に魅力を与える。素材そのものがあって初めて成り立つ遊びもある。雰囲気は,想像力を高め遊び全体の内容を盛りたてる。さらに,街路を中心とした上記の要因の複合的使われ方により,遊び行為の活性化が生じることが観察された。よって,子供の遊びにとっては,近隣住宅地および周辺街路が重要な場となっていると言える。
著者
日野 永一
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.1968, no.7, pp.15-26, 1968-03-25 (Released:2017-07-25)

I Purpose What physical element is man's sensory judgement affected by, on axis of "simplicity-complication" in plane figures?. This study aims to make the functional relation clear and at the same time put the scale to practical use. II Method (1) On a card of 15×15cm, random figures of equal area are made used with table of random numders. (2) Judgement of "simplicity-complication" is made by ranking method used with 26 sheet of card. Subject are 60 students of high school. (3) Rank value "ri" of stimulus "i" is compared with other stimuli when it is calculated. Result and conclusion (1) Sensory judgement of figure's complication is proportioned to logarithm of peripheral length per area of this figure. (2) The following regression equation comes from the experiment. y=1.6 log l/S-0.908 The coefficient of correlation is r=+0.988 (3) The "scale of complication" is made using the upper equation. It has an origin at circle and 1 at square. This unit is named "Comp.". An equation of change is as follows. C=(log li-log 2√<πS_0>)/(log 2-log √<π>) C: Complication li: peripheral length S_0: Standard area of figure (4) 1 Comp. ought to be an interval of unit on this scale judging from man's ability of difference threshold. (5) The "scale of complication" is put to practical use on the basis of this study.
著者
石 磊 張 〓 山中 敏正 原田 昭
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.21-28, 2007-01-31 (Released:2017-07-11)
参考文献数
12
被引用文献数
1

本研究は快適な運転を実現するため、運転中のドライバーの感性的な評価を脳前頭部α波ゆらぎリズムによって測定し、ドライバーの感じ方と車両運動特性の相関性を解明することを目指した。特に車両曲線運動におけるドライバーの感じ方を考察の中心とした。走行実験としては、被験者に180°コーナリングの設定コースを実車で走行させた。走行中収録した被験者の前頭葉α波をHSK中枢リズムモニタースリムの出力モデルに基づき、ドライバーの快適感を「気分と覚醒感」の二軸に評価し、車両挙動指標との関連性を解析した。本研究は脳波の計測と解析による、人間の製品に対する感情など主観的な体験を客観化して評価するアプローチである。ユーザの心理活動に随伴する生理反応を利用し、人工物を客観的に評価する試みはある程度検証できた。
著者
和田 精二 大谷 毅
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.47-54, 2005-01-31 (Released:2017-07-19)
参考文献数
9

本研究は, インハウスデザイン組織をMOD(Management of Design)の視点から考察することを目的としている。これまでの研究により, 松下電器産業のデザイン部門が, 松下幸之助のデザインに対する強い期待によって超短期間に設立されたこと, 課長としてスカウトされた真野善一による松下幸之助の意志の具現化に向けた努力により組織の強化と拡大が達成されたことが理解できた。本稿においては, 松下電器とは対照的に, 総合電機メー力一である三菱電機のデザイン部門設立が, 代々の経営幹部が時間をかけた基盤づくりを行った後, 20年の時間をかけ, 約15人のデザイナーによる地道な努力の結果として達成されたことが理解できた。
著者
玉垣 庸一 宮崎 紀郎 小原 康裕
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.9-18, 2007-09-30 (Released:2017-07-11)
参考文献数
15

よく知られた伝統的なカラーオーダーシステムの一つであるオストワルトシステムは一般に混色系として分類されている。しかし本稿では、対数変換によって明るさ尺度の等歩度性(知覚的均等性)を獲得していることからオストワルトシステムは混色系と顕色系の両側面を兼ね備えたカラーシステムであると考えた。そして、CG生まれのカラーシステムの1つであるHSVカラーモデルを混色系と見なし、オストワルトシステムとの関連性を究明した。混色系の表色値としてRGB値が測色的に定義されているとき、HSVカラーモデルのSパラメータとVパラメータがそれぞれ対数変換前の混色的なオストワルト等色相三角形における純度、鮮明度に対応することを明らかにし、色ベクトル空間に展開されたHSVカラーモデルの等色相三角形は対数変換前の混色的なオストワルト等色相三角形と構造的に一致することを示した。
著者
王 海冬 宮崎 清 植田 憲
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.45-54, 2008-09-30 (Released:2017-07-19)
参考文献数
9
被引用文献数
1

中国の少数民族のひとつであるオロチョン族は、狩猟を生業とした移住生活のなかで、きわめて特徴的な生活文化を形成してきた。なかでも、白樺の樹皮である「樺皮」を材料としたさまざまな生活用具には、彼らが長い歴史のなかで培ってきた生活の知恵が豊かに内包されている。本稿では、伝統的な樺皮活用品に関する資料の収集に基づき、機能による分類を行い、形状、材料、作り方、内容物の相互関係から、伝統的な「樺皮」を用いたものづくりの意匠特質を考察し、以下の特質を導出した。(1)白樺を不必要に伐採しないことや枯らさないための掟が遵守されており、樺皮活用品にはオロチョン族の自然と人間の「共存」「共生」を願う生活哲学・生活文化が表出している。(2)日常生活用の樺皮活用品は使い方と機能により「住」「行」「遊」「食」「衣」「業(狩猟)」「業(採集)」「神」の8つに分類される。共通する特徴は、「変形しない」「割れない」「防湿性が高い」「軽量である」「耐久性が高い」などである。(3)樺皮活用品は単に日常生活に必要で欠かせないものであるのみならず、それにはオロチョン族の人びとの審美意織や生活理念、信仰などの諸側面における象徴的意味が包含されている。