著者
中島 瑞季 松永 皐希 横井 聖宏 齊藤 剛
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.2_51-2_58, 2021-09-30 (Released:2021-11-03)
参考文献数
19

電子書籍での読解における物語世界への没入感に着目し,レイアウトデザインに注意の集中を促すマスクをかけると読解時の注視点と没入感にどのような影響を与えるのか検討した.実験は輝度勾配を用いたマスク 2 種とマスク無しの計 3 種類に対して視線計測を行いながら読書をしてもらったのち,没入感評価とレイアウト評価を行うものである.その結果,マスクをかけると一定の場所に注視点が集まり,没入感の向上に繋がることが明らかとなった.しかし,マスクと文字色が近い場合はスクロール時に文字がちらつくことで気が散るため,読解に集中できず没入感の向上を望めない.そのため,マスク色と文字色の関係がスクロール動作によってどのように変わるのか考慮することがデザインを決定する上で必要となることがわかった.
著者
李 震鎬 宮崎 紀郎 村越 愛策
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.9-16, 1994

視認性に及ぼす走行環境の影響を調べる目的で,現在使用されている道路案内標識をとりあげ,文字を中心にそれらをどのように認知しているのかを明らかにしたものである。内容は実験I.として視認性に及ぼす走行速度の影響を調べるために,走行速度を30,50,70km/hの3種類に設定し,同一地名に対する検索時間などで視認性を調べた。実験II.としては視認性に及ぼす情報量の影響を調べるために,九つの異なる情報を設定して視認性を調べた。その結果,I.走行速度は50km/h,30km/h,70km/hの順に視認性に対して優劣関係にあることが明かとなった。II.情報量から見た場合の視認性は,文字の複雑さの要因が大きくて,画数の少ない,簡単なものから読み始める傾向が顕著である。また,視認したという判断については,漢字のみの構成ならば画数にしたがっているが,カナや数字が入ってくると,それらが視認されてから他の文字をはっきり視認しなくても推測が働き,漢字単独の状態よりも早い段階でその情報を認知していることを確認した。
著者
黄 世輝 田中 みなみ 三橋 俊雄 加藤 純一郎 宮崎 清
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.43, no.6, pp.51-60, 1997-03-31 (Released:2017-07-25)
参考文献数
18

台湾の寺廟文化は、中国大陸から渡来した漢民族による移民社会の成立とともに、地域生活と密接な関係を保ちながら発達してきた。本研究では、台湾・鹿港の文化的、社会的象徴といえる龍山寺を対象に、地域づくりにかかわる龍山寺の役割とその可能性について検討した。その結果、鹿港の地域づくりにかかわる龍山寺のあり方について、以下に示す五つの方向性について提示した。1)宗教活動の場として清浄な環境を保ちながら仏教教義の広がりに努める。2)教育の場として歴史的資産を保護、伝承しながら郷土教育を推進する。3)文化活動の場として住民参加型の文芸活動を展開する。4)観光活動の場として龍山寺の文化的価値を内外に発信する。5)憩い・交流の場として寺廟文化の情報センターの役割を担う。総じて、龍山寺は地域づくりの拠点として多くの住民が参加できる活動を展開することができる。
著者
森 絵美 松本 正富
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.2_35-2_42, 2021-09-30 (Released:2021-11-03)
参考文献数
17

本研究は,病院で広報や行事の企画運営に従事するデザイン技能を有した事務職員である院内デザイナーの配置に対する経営者評価について,利用者サービス向上に向けた業務支援の視点からみた有用性と課題を明らかにすることを目的とした.医療機関経営者を対象とした半構造化インタビューを実施し,M-GTA(修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ)を用いて分析した結果,1)広報が充実し医療機関の特色が明確化すること,2)情報共有と業務の効率化につながること,3)内製物の質向上と継続的な維持管理に貢献すること,4)利用者に寄り添ったサービス提供ができることが,有用性として認められた.これに対し,1)人材育成の環境が整っていないこと,2)人材配置に関わる費用対効果の検証が難しいこと,3)その職域自体が未だ確立されていないことが課題として指摘された.
著者
原田 利宣 石田 智子 吉本 富士市
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.61-68, 2002
参考文献数
8
被引用文献数
2

自動車インテリア評価に関する既存研究例には,写真や2次元CG,実車を用いて評価したものが多い。写真や2次元CGは室内空間という臨場感に欠け,実車は精度が高くリアルだが,意図した形態要素を含んでいるとは限らない。そこで,本研究では立体感,スケール感を再現できるVRシステムを用いてより精度の高いデザイン評価を行うことにより,インスツルメントパネルを構成する形態要素と印象との関係を明確化することを目的とした。まず,既存車39車種のインパネを計測し,プロポーション,面構造,曲線(面)の3つの視点から分析を行った。それによりインパネ形状に影響を与える形態要素を抽出し,それらを用いて実験計画法によるVRモデルの作成を行った。次に,作成したVRモデルを10語の評価用語を用いて評価実験し,主効果を求め,分散分析,t検定を用いてどの形態要素がどのような印象に影響するのか調査した。その結果,各評価用語に対し影響すると考えられる形態要素が抽出された。
著者
趙 英玉 朴 燦一 宮崎 清
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.31-40, 2000
参考文献数
55

清代、漢民族の被服は満州族に影響され、大きく変化した。本研究は、小説『紅楼夢』にみられる被服文様を対象に、清代の文様の特徴を、文様がもつ身分象徴や吉祥などの意味性の側面と装飾形式の側面から分析・考察した。その結果、以下のように清代の被服文様がもつ意味性や形式の特性の一端を明らかにした。1)身分文様 : 身分文様を施した礼服に、縁文様を加えて飾ることにより、身分を区別する傾向がみられ、一つの文様の意味が薄れると別の文様を加え、その意味を強くするという新しい文様の使い方が明らかになった。2)吉祥文様 : 吉祥文様は、ほとんどがその文様形式に意味が内包され、図像のモチーフより形式にこだわった吉祥文化であることがうかがえる。3)装飾文様 : 装飾文様は、身分象徴と吉祥的な意味性を特に有さないが、その文様構成の点で、身分文様や吉祥文様と類似した文様構成がなされていたことがうかがえた。
著者
王 伯勛 洪 明宏 邱 宗成
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.1_1-1_10, 2017

<p> 本研究は、民間習俗としての地域における鎮物の造形を調査し、広東省・マカオを対象として、「土地神」「石敢當」等民俗資料を広く収集したものである。広東は「土地神」信仰が絶対多数を占めており、伝統的な吉祥文様が描かれた紙「春聯」と立体の簪花(かんざし)により飾られた「天官賜福」「門口土地財神」の牌位を頻繁に目にする。マカオの「石敢當」の数は「土地神」には及ばないもの、民間風俗と文化的背景から「土地神」と「石敢當」とが融合し、幸福祈願、富貴、魔除け、厄除け等心理的必要性に対応する様々な霊石信仰が生まれた。「石敢當」は路地、住宅、オフィス、商店、廟、集落神龕等の場所に分布し、石板、石碑、石塊、山型の四形態に大別される。広東とマカオの民間信仰に関しては、「土地神」と「石敢當」の設置と装飾から、民族独自の視覚的記号が垣間見える。例えば、漢字の字体、伝統的象徴的文様等は、伝統文化の保存・継承を体現するものでもある。</p>
著者
陳 郁佳 野口 薫
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.71-80, 1998-09-30 (Released:2017-07-21)
参考文献数
15
被引用文献数
1

知覚・認知心理学的視点から, 道路環境におけるサインの視覚的伝達効果を検討した。まず, サイン認知の前提条件として, 人間の視知覚特性を示した。次いで, 台北のサイン環境について基礎調査を行い, サインの効果は, そのデザインのみならず, 環境的・文化的要因によって規定されることを明らかにした。さらに, 台北と千葉における道路標識の現状について比較し, それぞれの道路標識に対するドライバーの意見を認知的基準にしたがって分類した。最後に, 台湾留学生と日本人学生を被験者として, 二地域の道路標識に対する認知実験を行った。その結果, 標識に含まれる情報数が増えると, 標識の検出率と正答率は低下して, また情報数が同じであっても, 情報の種類や視覚ノイズによって影響されることを示した。さらに, 道路標識の表現形式が異なる地域からの被験者群の比較から, 文化的要因がサイン情報の認知に影響することを確認した。
著者
東 恒人 島田 恭宏 高橋 武志 佐々木 武
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.53, no.6, pp.11-20, 2007-03-31
被引用文献数
1

本手法で取り扱うメッシュは、2種類の曲線で構成されている.一つは横断面の形を表す曲線であり,もう一つは上記の曲線の配置関係を表した曲線である.これらの曲線は等しい長さの線分から構成されており,各曲線の形状は隣接した線分の間の角度の分布に依存する.本論文では、このような構造のメッシュについて、その形状的な特徴を定量的に分析するために,かつ,角張った形状のメッシュを生成するために,以下のような方法が提案されている.この方法では、二種類の曲線のうちの一方の種類の曲線の角度配布に対して、ウォルシュ変換対が適用され、他方の種類の曲線の角度配布に対して、フーリエ変換対が適用され、変換成分の一部を削除することにより、二種類の曲線のうち、一方の種類の曲線の形状の滑らかさの程度と他方の種類の曲線の形状の角張りの程度が強調されたメッシュが生成されている.
著者
町田 俊一
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.41-46, 2003

浄法寺漆器の復興にあたっては、実質的な技術課題は下地加工と塗漆技術である。漆器生産技術の中でも、下地加工は漆器の強度を左右する重要な工程で、技術修得にも長い時間がかかると言われている。また、下地加工の意味は、素地の凹凸を埋めて、軟らかい木部の上に硬い塗膜層を形成し、強度を確保すること、断熱性を向上させることであると言われている。製造技術を新たに再修得しなければならなかった浄法寺漆器にとって、高度な技術は、時間とコストの増加を招く。そこで、日常品に適した下地法を採用するため、現在我国の主要な漆器に用いられている8種類の下地について手間と、強度の比較検討を行った。その結果、蒔地法、塗重ね法が高い強度を発揮する事が判明し、更にこれらの下地は技術修得が容易に行えることが判明した。
著者
林原 泰子 石村 真一
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.31-40, 2007

初期国産機「Solar」に関し, 文献史料を中心に調査研究を行った結果, 以下について明らかとした。1)「Solar」は, 1932(昭和7)年に成立した国産初の縦型撹拌式洗濯機である。製造元は芝浦製作所であり, 東京電気により全国販売が行われた。2)「Solar」は, アメリカからの技術導入により成立した。原型機は, 1928(昭和3)年頃, 東京電気により輸入・販売されたThor Appliance Company製の撹拌式「Thor」である。3)「Solar」は戦前だけで, A型, B型, C型, D型, E型のラインナップを持つ。国内で開発された新規の技術を取り入れながら, 改良が重ねられていた。4)1937(昭和12)年頃には, 「Solar」に対する認知は一部で広がっており, この時期に, 現在にも続く洗濯機=(イコール)縦型のイメージが創出されたといえる。
著者
稲次 敏郎 田村 俊明 水野 雅生
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.1987, no.58, pp.53-60, 1987-02-25 (Released:2017-07-25)

本稿は昭和61年に行なった中国福建省龍岩地区山間部に散在する客家民居の形態及び空間構成に関する調査報告である。本調査の目的は,多様に展開する漢民族の住居特質を把握することにより,現代日本都市住居の考察に資することにある。客家は古い時代に中原より南下した漢民族であるが,先住民より迫害を受けたが為に防御的な巨大土楼住居を構成し,大家族制を維持した。集落は耕地の少ない内陸山間部に川に沿って位置し,直径又は一辺約20〜60m,3〜5層,円形又は方形,外周生土・内部木造軸組,200〜400人の大集合住居が群をなしている。土楼の中央は祖堂を中心とした一族の集の場であり,住居部1階は厨房・食堂で家族の集の場である。2階倉庫,3・4階臥室と家族構成は上下縦系列に構成されるが,家族単位構成は極めて希薄となる。徽州民居が大集合住居においても家族単位構成が明確であり,一族構成への段階的構成を明確に示すのに対し,客家民居は一族構成が極めて強く,家族単位構成は希薄であり,防塞的色彩が強い。
著者
須田 高史 白 柳爛 沈 得正 佐藤 浩一郎 寺内 文雄
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.1_29-1_38, 2020-07-31 (Released:2020-08-10)
参考文献数
15

印象変化は製品を長期使用するための重要な一方策である.本研究では,プラスチックの充填材であるフィラーに着目し,熱可塑性樹脂とフィラーとの組み合わせにより長期使用を可能とする材料の創製を検討した.まずポリプロピレンを母材とし,無機材料粉,金属粉および和紙といったフィラーと混練した.次にサンプルを射出成形により加工し,フィラーを表面に露出させるためにサンドブラストを行った.その後サンプルの印象を評価した.その結果,評価軸として新品感,硬さ,そして派手さが導出された.またフィラーの特性が印象評価に影響を及ぼすことが示唆された.続いて長期使用を模擬するためにサンプルを表面処理した.その結果,磨耗がサンプルの印象に変化を及ぼすことが示唆された.これらより,長期使用のためのプラスチックを母材とする複合材料の可能性が示唆された.
著者
東 恒人 島田 恭宏 島田 英之 佐々木 武
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.45-54, 2008
参考文献数
10

本論文では,デザイン分野での研究を志す初心者を対象とし,断面線と側面線を用いて,三次元メッシュを生成する方法を提案している.この方法の特徴は,次の通りである.(1)ウォルシュ変換とフーリエ変換を利用することにより,メッシュの形状的な特徴をスペクトルの観点から定量的に分析することが可能である.(2)ウォルシュ変換を用いて得られる構成要素から,高交番数成分を削除した後,残った成分に対してウォルシュ逆変換を適用することにより,滑らかな形状のメッシュを角張った形状のメッシュに変形することが可能である.(3)断面線と側面線に対して,互いに異なる変換手法を適用することにより,滑らかな形状を角張った形状に変形させるとともに,角張った形状を滑らかな形状に変形させることが可能である.
著者
小松 亜紀子
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.55-64, 2004
参考文献数
22
被引用文献数
4

本研究では,携帯電話を題材とし,形態的要素の類型化によって得た異なる6つの製品スタイルについて,大学生を被験者とする選択と評価のアンケート調査を行った。分析の結果,因子分析により独立的要因である「訴求力(時代感覚,美的価値や高級感などの心理的に訴える力と関連)」「自分らしさ(自分の個性,性別や年齢と製品スタイルの適合)」,相互依存的要因である「相互依存性(周囲における製品スタイルの普及状況)」「普遍性(製品スタイルの定着や懐古と関連)」の4つの社会心理的な評価要因を抽出した。さらに,この評価要因を説明変数,製品スタイルの満足度を目的変数とする回帰分析により,「自分らしさ」と「訴求力」で有意な寄与が認められた。この結果から,製品スタイルに関する嗜好変化には,「自分らしさ」という社会的な理由だけでなく,「訴求力」という知覚的な理由が関与していると考えられ,従来の社会的な理由を中心とする流行や消費者の選択行動の説明に一考を迫るデータを得た。
著者
林 匡宏 中原 宏
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.1_59-1_68, 2017-07-31 (Released:2017-09-20)
参考文献数
11

魅力的なシークエンス景観には二種の時間軸が存在する。歴史性や文化性など長期的な時間軸と、徒歩圏域の景観体験などの短期的な時間軸である。この二種が織り成す景観特性や高揚感への影響について、江別市で最も古い市街地である「条丁目地区」を対象に調査・分析を行った。結果、景観構成要素のうち「歴史文化施設」や「樹木」など、背景に長期的な時間軸を有する要素が、シークエンス景観の中の「アクセント」として評価され、また 10m~50mの比較的に短い区間での景観体験にみられる「自然資源」の構成比の変化が、徒歩圏域の「リズム」となり、次の場面の高揚感向上に寄与していることが把握された。このような、大都市近郊地域の市街地景観に多様性と奥行きを付与する「アクセント」と「リズム」をコントロールすることで、これまで閑散としていた徒歩圏域の魅力化と、隣接する都市と併せた広域圏の価値向上に貢献すると考える。