著者
小関 利紀也
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.21-30, 1995
参考文献数
52
被引用文献数
1

モダン・デザインの成立において,空間の問題が重要な意味を持っている事はいうまでもない。ところで日本美の特質が,その空間的性格にあることはこれまでにくり返し指摘され,また,日本の造形芸術が,19世紀ヨーロッパのデザインに大きな影響を与えた事も知られている。けれども当時のヨーロッパの空間表現への日本の造形芸術の影響は絵画などでは僅かに指摘されてはいても,デザイン空間の成立に及ぼした影響についてはほとんど論じられたことがない。この論文では空間のジャポニスムの最初の現れをゴドウィン,ドレッサー,マッキントッシュのデザインに見,その空間的デザインがリバティー商会を通じてヨーロッパ大陸に伝えられ,スリュリエ-ボヴィ,ヴァン・ド・ヴェルドによって発展させられた事,それは1897年のドレスデン工芸博覧会へのビングによる,ヴァン・ド・ヴェルドの"アール・ヌーヴォ"の店の内装展示の出展を契機として,急速にドイツの地にひろまり,それがその後のモダン・デザイン空間の発展に結び付いていった経過を明らかにした。
著者
楊 寧 須長 正治 藤 紀里子 伊原 久裕
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.1_51-1_60, 2018

<p> 本研究は,「ユニバーサルデザインフォント(以下「UD フォント」と表記)」として開発されたフォントの評価を中心に総合的に検証し,合わせてフォントの形態的属性についても調査を行い,これらの相関性を分析考察することで,望ましいUDフォントのデザインに関する指針を得ることを目的とした。<br> UDフォントの評価は,従来の視認性,判別性,可読性の3つの評価項目に、積極的な評価項目とされていなかった美感性を加え、計4つの項目で行った。若年者,デザイン関連業務経験者,高齢者の合計90名を被験者とした。また,角ゴシック体,丸ゴシック体,明朝体から,合計60フォントを実験用フォントとして選定した。<br> 本稿では,実験のうち,美感性を取り上げて分析を行い,合わせて計測したフォントの形態属性との間の相関性を探った。その結果,濃度,字面面積,英数字の形態が,いずれのカテゴリーにおいても,見出しと本文フォントともに,美感性評価に強く影響していることがわかった。</p>
著者
谷 誉志雄
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.91-100, 2001-03-31

アメリカのジェイムス・クレノフとウェンデル・カースル、イギリスのデヴィッド・パイとジョン・メイクピースには、現代木工芸の動向を概観するうえで、典型となりうる造形表現の手法と工芸思想が認められる。クレノフとパイは、工芸におけるアマチュアリズムの考え方を提唱している。彼らが目標としているのは、作品のオリジナリティー、つまり「フォルムの差異」を追究することではなく、木がもっている親密なクオリティを「真のアマチュア」の仕事で作品に結実させることである。現代の人工的環境が失った美的クオリティの探究が工芸の存在理由であるとクレノフとパイは考えている。作品はもとより、教育と著作を通じてこのような思想が支持されていることは彼らの大きな業績である。対照的にメイクピースとカースルは、フォルムに量産品との能動的な差異を求め、ダイナミックに変貌する造形スタイルを展開している。4人の著名な作家を例にとって見たイギリスとアメリカの現代木工芸は、造形スタイルと工芸思想の対蹠的構図を端的に示している。
著者
新井 竜治
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.2_11-2_20, 2013-07-31 (Released:2013-09-30)
参考文献数
41

昭和戦前期の東京地区百貨店における新作家具展示会に出品された洋家具には、アール・デコ調、近代合理主義モダン、國風家具、様式家具、ペザント家具(農民家具)等、多様な家具スタイルが混在していた。またその家具設計者の中には戦前期・戦後期を通して活躍した人々がいた。一方、終戦直後期から高度経済成長期の東京地区百貨店の新作家具展示会では、一部に戦前の延長としての多様な家具スタイルが見られたが、全体として簡素なユティリティー家具、近代合理主義モダンの家具が比較的多く見られた。そして小住宅向け・アパート向けの簡素な量産家具が全盛になった。この百貨店専属工場で開発された新作家具の展示会は、1950 年代末頃から、家具製造業・販売業における位置が相対的に低下し始めた。代わりに欧米輸入家具展・官展・家具組合展・木製家具メーカーの個展等が百貨店各店において盛大に開催されるようになっていった。
著者
吉日木図 植田 憲
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.2_1-2_10, 2018-09-30 (Released:2018-10-25)
参考文献数
56

今日,急速な定住化が進む中国・内モンゴルにおいて,長い遊牧生活の歴史のなかで構築されてきたモンゴルの人びとの独自の時間概念が消失する危機に直面している。本稿では,遊牧生活を営む人びとが,どのように時間を把握してきたのかを確認し記録するとともに,モンゴルの遊牧生活に培われてきた時間概念の特質を明らかにすることを目的とした。調査・考察の結果以下の知見を得た。(1)人びとは,太陽,月,星,気候の変化,植物,動物やその規則的な生態などを始めとした自然が直接与える現象・情報によって生活における時間の秩序の「節目」を設定し,自らが一日,一月,一年のどの時間にいるかを把握してきた。(2)周囲に起こる全ての自然現象や動植物の状態に目を向け,蓄積した「経験」が来たるべき時間がどのような状態であるかを予測可能にし,それらを生業に応用し共有してきた。(3)時間の把握の仕方には,当該地域の自然に適応しようとしてきた人びとの生き様が如実に反映されている。(4)遊牧生活の時間概念は,「過去」と「今」によって定められるがゆえに「未来」へとつながるものであった。
著者
伊藤 晶子 畔柳 加奈子 櫛 勝彦
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.3_11-3_20, 2020-01-31 (Released:2020-02-25)
参考文献数
10

クレジットカードや電子マネー、デビットカード、QR コード、スマートフォン・アプリ(以下アプリ)を介しての送金など、現金以外のさまざまな支払い手段が利用され始めているが、日本においては、未だ現金での支払いが優勢である。その理由としてさまざまな社会的な要因が指摘されているが、生活者自身がどのような理由で支払い方法を選択しているか、という生活者の心理については明らかになっていない。そこで、本研究では10 名の生活者へインタビューを行い、グラウンデッドセオリーアプローチを援用し分析した。その結果、生活者が支払い方法を決定するためには共通のプロセスが存在していること、さらに、支払い行動については4パターンの行動原理があることを明らかにした。最後に、キャッシュレス社会に進展していくためのサービスデザインの要件提案を行なった。
著者
林 孝一 御園 秀一 渡邉 誠
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.2_1-2_8, 2014-09-30 (Released:2014-10-25)
参考文献数
9

日本の代表的なセダンの全高の推移において'80年代半ばに減少から増加に転じ、更に'90年代後半から2000年初頭にかけ100mm近くも急増する特異性を指摘した。その因子を抽出し、将来の自動車デザインのための知見を得ることを目標とした。全高の変化の様子から、1954年から2012年までの期間を4つに分け考察を行った。その結果、道路環境の変化、スポーツカーや帽子着用等の流行すたり、車自体の構造変化、プレス技術の進化、ユーザーの車への要求の変化、石油高騰と環境問題の悪化、エコカー減税や補助金政策の影響など、時代による各因子の影響で全高は特異な変遷を示したことが推定された。特に新たな快適性の提案をしたプリウスの影響が最も大きかった。一方、全高/全長というプロポーションの値で見ると、時代変化には左右されにくい、人が受容し得るセダンとしての領域、更には各車格毎の領域が存在する可能性が見えてきた。この領域の中央値を高級セダン、小型セダン、大衆セダン毎に導出した。
著者
金 顕静 野口 薫
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.55-62, 1999-07-31 (Released:2017-07-21)
参考文献数
17

本研究は, 形態的特徴が運動パターンの速度知覚にどのように影響するのかを調べたものである。刺激パターンとして垂直・水平・斜め・V字形という四つの異なる図形構成要素をもつパターンを用いた。各パターンにおいてはストライプ状の構成要素の間隔や幅を組織的に変化させた。被験者は, 上から下に運動する動画パターンを観察し, マグニチュード推定法によって知覚速度を評価した。その結果, 垂直ストライプからなる形態はもっとも遅く知覚され, 水平ストライプの形態はもっとも速く知覚された。そして, 斜め・V字形のストライプをもつ形態は, その中間の速度に知覚された。すべてのパターンにおいて, ストライプの間隔・幅の変化は速度知覚に有意な効果を与えた。すなわち, 間隔や幅が狭いほど速く知覚されることが示された。これらの結果は, パターンの構成要素の方向が運動方向(ここでは垂直運動)との関係で速度知覚に影響すること, またパターン出現の頻度が速度知覚の決定因であることを意味する。
著者
時長 逸子 荒生 薫
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.177-184, 2001-11-30 (Released:2017-07-19)
参考文献数
25
被引用文献数
1

戦後の学校教育制度の発足に伴って展開された美術教育の一部に、色彩教育は属している。筆者らは、初等教育における色彩教育の展開に関して、学習指導要領を中心に、内容と背景を把握した。この結果、色彩教育の立場では色彩学に即した系統学習的手法が推奨されてきた歴史的背景がある反面、美術教育としてはこの手法を排除する方向に進んできたことがわかった。しかしながら、現在の美術教育が求める感覚的側面重視の教育は、色彩において色名教育を発端とする系統学習的方法を通じて培われるとする正反対の考え方が存在することがわかった。
著者
朱 心茹 高田 裕美 影浦 峡
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.3_51-3_60, 2020

本研究では、発達性ディスレクシア等の学習障害に由来する読み書き困難にも配慮した書体として開発されたUD デジタル教科書体の新しい付属欧文書体が読みに与える影響を明らかにすることを目的に、読みやすさの客観的指標に関する実証実験と主観的指標に関する調査を行った。発達性ディスレクシアを持つ読者16名と発達性ディスレクシアを持たない読者19 名が研究に参加した。<br>実証実験と調査の結果、発達性ディスレクシアを持つ読者にとってUD デジタル教科書体の新しい付属欧文書体が他の教科書体付属欧文書体及び一般的に使用されている欧文書体と比較してより読みやすいことが明らかになった。また、書体は読みやすさの客観的指標と主観的指標の双方に一定の影響を与えることが明らかになった。これらの結果から、発達性ディスレクシアに特化した書体の有用性が示された。
著者
井磧 伸介 宮崎 紀郎 玉垣 庸一 李 震鎬
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.71-78, 1996-05-31 (Released:2017-07-25)
参考文献数
11

近年の雑誌広告ではカラー表現が一般的であるが,モノクロ写真を取り入れた広告も少なくない。本研究は,カラー全盛とも言える現在の広告表現において,モノクロ写真を使用した雑誌広告がどのようなイメージで受け取られるのか調査を行ない,モノクロ写真を使用する効果を検討するものである。まず,収集した雑誌広告を配色や構図などで分類し,代表的な広告サンプルを選び出した。次に,これらのサンプルについてのイメージ調査を20代前半の男女70名に対してSD法によって実施した。その結果,整然性,鮮明感,重厚感の3つの因子が抽出された。このうち,「まとまった」,「静かな」等の形容詞のみならず,「好きな」,「美しい」といった形容詞とも相関の高い整然性因子では,モノクロ写真を使用した広告がカラー写真を使用した広告より高く評価され,文字や製品写真にカラーを重点的に使用すれば,さらに評価を高めることが判明した。これは,モノクロ写真とから部分との対比が,それぞれをより際立たせた結果であると推測される。
著者
柴田 吉隆 赤司 卓也 伴 真秀
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.1_39-1_44, 2019-07-31 (Released:2019-11-15)
参考文献数
15

柴田らは,他者の考えを触発し議論を起こすための思索的将来像の構成要素と構造についてまとめたが,それを用いた議論の方法を明らかにすることが課題となっていた。本論では,多様なステークホルダーから多くの意見を収集することに加え,将来像に示された内容の解釈を深め,その内容を発展させるための議論のフレームワークが必要であると考えた。そこで,問いの設定とストーリー構築に優れたジャーナリストとの将来像に関する議論を実施し,それを分析的に振り返ることで目的のフレームワークを考案した。フレームワークは,社会システムが生みだす市民の「新しい考え方・行動」に関する意味の発見と,その考え方や行動を「促進する施策」の提案について,施策の実施のしやすさと影響力の異なる「流行」「習慣」「文化」のレイヤーで分けて検討するものである。このフレームワークを既存の将来像に関する議論に適用し,上下左右の枠の整合を考えながら将来像に示された内容の意味を解釈し,新たな提案を加えることで,将来像の内容を発展させる議論を実施した。
著者
坪郷 英彦
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.63-72, 2002-05-31 (Released:2017-07-19)
参考文献数
30

秩父市域(山地)、八王子市域(丘陵地)、所沢市域(台地)を対象とし、竹籠の意匠と地形、生業とのかかわりについて調査分析を行った。結果として次のことが明らかとなった。1.円筒形で底を斜め網代編みとする笊目編みと、円筒形で六つ目編みの2つの技術系統が基本である。2.山地ではこの2つの系統以外に直方体形で底を網代編み、胴を笊目編み、縁を組み縁にする技術系統がある。3.畑作用籠の意匠を基本とし、副業にあわせた多様な意匠の展開がみられる。4.傾斜地と平地での運搬手段の違いが、籠の形態、大きさに関係している。
著者
楊 寧 須長 正治 藤 紀里子 伊原 久裕
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.1_51-1_60, 2018-07-31 (Released:2018-08-30)
参考文献数
13

本研究は,「ユニバーサルデザインフォント(以下「UD フォント」と表記)」として開発されたフォントの評価を中心に総合的に検証し,合わせてフォントの形態的属性についても調査を行い,これらの相関性を分析考察することで,望ましいUDフォントのデザインに関する指針を得ることを目的とした。 UDフォントの評価は,従来の視認性,判別性,可読性の3つの評価項目に、積極的な評価項目とされていなかった美感性を加え、計4つの項目で行った。若年者,デザイン関連業務経験者,高齢者の合計90名を被験者とした。また,角ゴシック体,丸ゴシック体,明朝体から,合計60フォントを実験用フォントとして選定した。 本稿では,実験のうち,美感性を取り上げて分析を行い,合わせて計測したフォントの形態属性との間の相関性を探った。その結果,濃度,字面面積,英数字の形態が,いずれのカテゴリーにおいても,見出しと本文フォントともに,美感性評価に強く影響していることがわかった。
著者
樋口 孝之 宮崎 清
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.101-110, 2003
参考文献数
84
被引用文献数
1

今日の日本で,デザインということばは日常語として用いられている。西洋概念の受容以前に,「たくむ」「たくみ」は,デザイン行為の概念と重なる意味を含んだ日本語として存在した。本文では,その語義の形成と変遷について検討を行った。「たくむ」「たくみ」はヤマトコトバであり,もとは手わざを意味するものではなく,「考え出す」「工夫する」「計画する」という思考を意味する概念を有していた。語源は確定されないが,「手組」として理解されていたことがわかった。「たくみ」は,漢字の移入によって,「匠」「工」「巧」などの単字,「工匠」「工人」「匠者」などの熟字と対応関係を築いた。また,律令制度のなかで官職や雇役民の名称となり,職能や人の身分を示すことばとして定着した。近代以後,「たくむ」「たくみ」とも仕様される度合が減じた。日常的な話ことばにおいても,意味を代替する漢語(および漢語サ変動詞)が用いられることが顕著になったことによる。これらのことばが元来有する語義を,あらためて認識することの重要性が示唆された。