著者
徐 希姃
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.41-50, 2005

20世紀美術は、科学技術の進歩を背景として技術を造形表現に積極的に導入しなから繰り広げられた。モホイ=ナジもモーター、金属部品、写真、光学機器などを自ら造形表現に導入して先駆的な活動を展開し、テクノロジー・アートの先駆者として認められている。本研究では、モホイ=ナジの造形理念の中心を占める「光の造形」概念を彼の作品と理論書から探り、モホイ=ナジによってなされた「光の造形」の視覚的意味を探ることを目的とする。そこで、彼の「光の造形」概念の形成過程を踏まえて、「光の造形」概念の中心を占める"Optical"という意味をVisualという言葉との比較によって検討し、"Optical"概念から検討した「光の造形」の視覚的意味を探った。モホイ=ナジの「光の造形」は、1922年にベルリンに亡命し、ドイツの工業化された環境の影響を受けて形成されたもので、物に光が当たることによって物の表面が明るく見える現象を造形に取り入れることから始まった。彼は眼が光を媒介として物を見るという視覚に関る生理的な仕組みを意味する"Optical"という概念に基づき、光そのものやそれによる視覚の生理的な反応を用いた表現を「光の造形」概念としている。彼の「光の造形」概念は、工業的な環境を背景にして用いられ始めた光という新しい材料とその表現について考える上で良い手がかりになると思われる。
著者
張 英裕 宮崎 清
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.1-10, 2002-09-30 (Released:2017-07-19)
参考文献数
15

本論文は、台湾における寺廟建築の装飾技術「剪粘」を支えた職人集団の出自と組織構成の解析を中心として、その実像を明らかにしたものである。歴史的資料の解析、ならびに、「剪粘」職人へのインタビューを通し、次の諸点を明らかとしてた。(1)台湾における「剪粘」職人の起源は、17世紀後半に中国大陸東南海岸一帯から渡台した漢人たちが、寺廟建設のために招請した中国大陸の建築職人である。(2)建築職人は、大別して「大木」「小木」「土水」「石作」「漆絵」「陶塑」から構成されていたが、「剪粘」は、「泥塑」「交趾陶」とともに、「陶塑」に帰属していた。(3)「剪粘」の職人集団は「師匠」「出師」「未出師」からなり、技術伝承は「異姓拝師」「家族伝授」による「師徒制」に依拠していた。(4)個々の「剪粘」職人集団には請負仕事における空間的テリトリーがあり、たいていの場合、テリトリーの遵守が規範とされていた。(5)1970年代からの台湾の工業化の伸展とともに、「専用陶片」や既製の装飾部材が出現し、伝統的な寺廟の装飾技術としての「剪粘」は衰退の一途を辿っている。
著者
川端 彬子 金 尚泰
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.2_43-2_48, 2016-07-31 (Released:2016-11-15)
参考文献数
13

従来の料理レシピ検索では、検索結果がリスト形式で表示されることが多い。しかし、「冷蔵庫の中にある食材を使った料理」という、漠然とした検索欲求下においては、ユーザーは適切なクエリ作成を行うことが難しいため、検索結果の絞り込みが困難である、と言われている。また、料理レシピ検索におけるユーザーのコンテクストは多様で、絞り込みきれていない膨大な結果の上位数件で満足する可能性は低い。そこで、料理レシピデータの持つ複数レシピ属性値をユーザーが比較できる数値とし、検索結果を「ざっと」見て、「一目で」複数レシピ属性を比較できる料理レシピ検索UIの開発を行った。各料理レシピをオブジェクトとして表現して、3次元空間に配置し、マウスで操作できるようにすることで、料理レシピ検索結果の俯瞰視を可能にし、新たな料理レシピの検索体験を生み出した。
著者
高梨 武彦
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.1-8, 2007-07-31 (Released:2017-07-11)
参考文献数
28
被引用文献数
2

森林施業にあたって汎用されてきた指針は単位面積当たり本数である。木材生産とちがい森林風致施業の場合、本数の指示だけでは森林の風致の向上程度がわかりやすく表現できていない。林内の風致には見通しと明るさの確保が重要であり、これを反映する森林風致施業のための数値指標を考察した。林内の見通しと明るさにかかわる主因子を単位面積当たりの本数・胸高直径・枝下高・林床植生高・樹冠疎密度と判断し、これら因子より「枝下空間量」と「胸高直径指数」という関数を導き出した。それは施業による林内の風致の向上にむけた見通し距離・相対照度の想定を可能とし、森林風致施業の指針となることを示した。
著者
時長 逸子 宇都宮 千明
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.85-90, 2009
参考文献数
18
被引用文献数
4

広告戦略においてカラーバリエーションという手法は、生産的とはいえない位置づけであるにもかかわらず、広く見られるものである。その理由を知るための調査を行い、以下のような結果が導かれた。(1)製品バリエーションとしてのカラー戦略である。(2)ある製品に対する消費者の固定観念を打ち破る色彩の利用である。(3)イメージ戦略としての色彩の利用である。明らかに色彩の心理効果を活用し、展開する。これらの結果はPhilip Kotlerによる「5つの製品レベル」に即したものである。しかしながら、このレベルに当てはまらない広告が存在した。その広告に対する印象調査を行い、(4)カラーバリエーションを展開していながらも、その製品の売れ行きをあまり重視せず、どちらかというと企業イメージや製品イメージを広く認知ざせるための手段として利用されるもの、という新たな広告戦略があることが判った。
著者
増成 和敏
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.91-100, 2012-05-31
参考文献数
16
被引用文献数
1

本論は,松下電器における真野善一による初期のデザイン開発と製品デザインについて,主として意匠公報と文献史料より,以下の内容を明らかにした。<br>1)真野の意匠登録は,冷蔵庫,扇風機,蓄電池,ラジオ受信機,テレビ受像機から宣伝用バスまで多岐に亘っている。<br>2)真野は,松下電器に入社した1951(昭和26)年 7月から企業内デザイナーとして自ら多くのデザイン開発を行い,1955(昭和30)年末までに,確認できただけでも183件の意匠登録を取得している。<br>3)真野の意匠登録は,松下電器の多くの分野で製品化され,デザイン成果を上げた。<br>4)真野が松下電器入社後,最初にデザインしたとされる扇風機の意匠登録上の考案者は真野ではないが,デザインは真野によるものであると推定する。
著者
宮原 佑貴子 櫛 勝彦 鳥宮 尚道
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.4_69-4_78, 2021-03-31 (Released:2021-03-30)
参考文献数
18

全国には、自治体や団体などの地域コミュニティのために生成されたキャラクターが多数存在する。これらは「ご当地キャラクター」と呼ばれ、地域を象徴するコンテンツとなっている。ご当地キャラクターの人気が高まった2010 年前後には各地で活発に生成されたが、その状況が落ち着いた現在では、地域における継続的な活用が課題となっている。 本研究は、地域コミュニティにおいて有効に活用される象徴的造形の生成過程を明らかにするべく、ご当地キャラクターの事例から考察をおこなうものである。ご当地キャラクターの運営団体を対象としたアンケート調査の結果からご当地キャラクターの生成過程を類型化し、「生成目的に対する効果」と「生成過程」の関連について分析をおこなった。
著者
肖 穎麗 宮崎 清 植田 憲 張 福昌
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.57-66, 2008
参考文献数
22

中国における意匠権に関する認識の実態を明らかにする一環として、伝統工芸「惠山泥人」の特質と発展史を概観したうえで、江蘇省無錫市泥人研究所、無錫惠山泥人工場においてその制作に従事している職人へのアンケートならびに聴き取り調査を実施した。その結果は、次の3点に要約される。(1)職人たちは、知的財産権としての意匠権という概念を特段に意識化したかたちとして持ち合わせていない。(2)他の親方職人が行った仕事を盗んで真似ることは、職人の世界では禁忌とされていた。すなわち、意匠の盗用などは、元来、職人たちの世界ではありえなかった。それが、職人文化である。(3)個々の職人たちの意匠権に関する認識は必ずしも高くないものの、真摯にものづくりに取り組む気質のなかで、社会的規範として、意匠権保護が自ずとなされていた。しかし、伝統的な工芸文化のなかに経済的利益を目的とした意匠の模倣・盗用が生起しつつあることを考えると、「惠山泥人」を自らの風土に対応して展開される生活文化の造形表現として位置づけ、その文化的価値の再認識が求められる。
著者
中西 美和 比嘉 裕介 岩永 光一
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.17-24, 2011-05-31 (Released:2017-08-31)
参考文献数
18
被引用文献数
3

仮想三次元空間を体験する際、ユーザに与えられる視点は、大きく分けて二通りある。主人公の視点が再現される主観視点(First Person View)と、主人公を第三者的に見る客観視点(Third Person View)である。本研究では、主観視点と客観視点が持つ視覚的な特性の違いを踏まえて、それらが仮想三次元空間を体験するユーザの振る舞いに変化をもたらすのか、また、もたらすとすればそれぞれの視点においてどのような振る舞いが見られるのか明らかにする。実験では、仮想三次元空間に演出された迷路を二つの異なる視点でユーザに体験させ、その際の振る舞いを複数の観点から詳細に分析した。結果から、主観視点では視覚におけるリアリティが保たれる一方、行動におけるリアリティが損なわれがちであること、逆に客観視点では現実とは異なる視点が与えられる一方、行動におけるリアリティが維持されやすいことを見出した。最後に、上記の結果をもとに、用途や目的に応じた適切な視点の適用について提案した。
著者
長井 千春 宮崎 清
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.83-92, 2007-07-31 (Released:2017-07-11)
参考文献数
37

明治政府が遂行した殖産興業及び輸出振興政策において、明治20年頃迄は、陶磁器製造業が日本の在来産業の主役として重要な役割を果たした。1873(明治6)年に政府が正式に参加したウィーン万博に附随した海外伝習の結果、日本の陶磁器産業は飛躍的な成長を遂げることとなる。本稿では、陶磁器分野の最新技術習得をめざして日本から派遣された伝習生、納富介次郎、川原忠次郎、丹山陸郎の3名の研修地オーストリア・ボヘミア地方の磁器産業に焦点を当て、産地としての特徴を分析し、同地での研修の意義について考察を試みた。ドイツ文化圏の磁器産地の中でも後発のボヘミア地方は、セーブル窯、ミントン社などが競合する同時代のヨーロッパ陶磁器業界において、重830年代から優れた量産技術力で注目され、廉価な磁器製造、多様な海外需要への対応力に秀でていた。同地方はウィーン万博でも特に注目された産地の一つであった。日本政府は、既に自信を持っていた美術装飾品分野ではなく、日用品としての陶磁器量産工業技術の習得を目指し、研修地をボヘミア地方に決定したものと考えられる。
著者
敷田 弘子
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.60, no.6, pp.6_1-6_10, 2014

本論は、戦時体制下(1937~1945)の日本デザインにおける機能主義を〈簡素美〉との関係から考察し、その関係の特質と〈簡素美〉が有した意味の解明を目的とする。考察の対象は、商工省工芸指導所における生活用品の研究制作活動である。また、〈簡素美〉は「簡素」という言葉を含む美意識とする。<br>戦時体制下、造形主義である機能主義と一般的美意識である〈簡素美〉は、単純化としての機能主義理解により、両者の関係が成立した。また、日本独自の性質を象徴する〈簡素美〉の性格により、〈簡素美〉は機能主義と日本の造形を媒介する役割を担った。そして、両者の関係が戦時体制下に提示された背景には、7・7禁令を契機とした新しい造形規範を求める動きがあり、機能主義と日本の民族性の融合というその理想に適合したのが〈簡素美〉だった。<br>このように、戦時体制下に〈簡素美〉を通して、機能主義と日本の独自性の関係が考究されたことは、ジャパニーズ・モダンなど戦後の日本デザインの素地の一つを形成したといえる。
著者
福田 大年 岡本 誠 刑部 育子
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.1_11-1_18, 2020-07-31 (Released:2020-08-10)
参考文献数
28

本稿の目的は,参加型デザインにおいて,協創スケッチ法による協働的な創造活動の生成過程を明らかにすることである.協創スケッチ法は,創造過程をスケッチで図化することで,多様な人たちが関わりながら創造活動をする手法として開発した.これは参加者の多様な視点を活かした発想の高度化を支援する効果が期待される.筆者らは,協創スケッチ法を用いたワークショップを観察対象とし,スケッチを用いた協創現象を分析した.その結果,次のことが明らかになった.まず,参加者の創造過程が,多層的に描き加えられる状況と,多様な視点で思考できる状況がつくられていた.さらに,デザイン教育を受けていない参加者でもアイデアの拡散と修練ができていた.協創スケッチ法は,参加者が活動を相互に参照することで,クリエイタ個人の創造過程に近い状態を実現する特徴と,協創の過程を可視化することで,参加者らの相互理解の手がかりとなる特徴を有している.
著者
新井 竜治
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.55, no.6, pp.85-94, 2009-03-31
被引用文献数
4

戦後日本の木製家具メーカー及びベッドメーカーの家具を評価する一つの有効な指標はグッドデザイン賞である。本研究では、先行研究文献資料及び日本産業デザイン振興会のグッドデザインファインダーにおける半世紀分のGマーク商品の精査により、以下のことが判明した。この間に選定された木製家具メーカー及びベッドメーカーの家具の大半は、戦後日本人の生活様式を大きく変えた脚物家具とベッドであった。秋田木工、天童木工、コスガ、ヤマカワラタン、飛騨産業、二葉工業といった主要木製家具メーカーは、社外デザイナーを積極的に活用しつつ、社内デザイン部門と連携して、主に脚物家具のデザイン開発に取り組んだ。その受賞時期は主に60年代であり、意匠はミッドセンチュリー・モダンスタイル及びジャパニーズ・モダンスタイルであった。また西川産業、フランスベッド、アイシン精機といった主要ベッドメーカー各社には強力な社内デザイン部門が存在しており、主に普通ベッドのデザイン開発に注力した。その受賞時期は主に80年代であった。
著者
落合 太郎
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.4_29-4_34, 2013-11-30 (Released:2014-01-25)
参考文献数
10

世界初となるユニバーサルデザイン信号灯の公道上における社会実験を2012年1月27日から3月30日の間、福岡県警察本部および福岡ビジネス創造センターと著者が共同で実施した。赤信号に特殊なLEDで埋め込まれた「×」印が健常者には気にならない程度の存在であるのに対し、色覚障碍者にはよりくっきりと見えて、止まれの意味が良く伝わるという基本コンセプトを提示した。アンケート調査では、有効回答数257の約94%が賛成意見であった。赤灯に「×」印は適合する組合せと受けとめられ、輝度差による図示には違和感が少なく、色覚障碍者が安全に運転できる信号は必要であるという総意を得た。一方「×」印は昼間より夜間で見えにくかったため、青色光の割合の再調整と当該LEDレンズ性能の改良点が見つかった。色覚障碍者から多数寄せられた意見からは3灯式より1灯点滅式信号灯が難問であり、優先するニーズであることが分かった。
著者
近藤 祐一郎 青木 弘行 宮崎 清
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.37-44, 1998-09-30 (Released:2017-07-21)
参考文献数
26
被引用文献数
2

本研究は籾殻の炭化法を変化させることによって得られる性状の変化を確認し, それに基づいて稲作農村地域における水質浄化材などへの有効利活用法について探求したものである。実験では, 熱重量測定実験, 比表面積測定実験, 細孔分布測定実験を行い, 以下の知見を得た。1)籾殻燻炭は, 活性炭と比較して炭素分は少ない反面, 灰分(ミネラル分)は多い。しかし, 稲作農村地域では排水処理材の他にもさまざまな応用・展開が可能であり, 十分に利用価値のある資源である。 2)野焼き法で製造した籾殻燻炭は単位価格あたりに対する比表面積が高く, 活性炭や木炭と比べて経済的である。 3)被吸着物質に応じた細孔径を有する籾殻燻炭を, 炭化条件を変化させることにより製造することができる。 4)稲作農村地域では生活雑排水が水質汚染源であり, 野焼き法と320℃, 520℃で炭化した3種類の籾殻の併用が最も効果的である。
著者
陳 香延 植田 憲
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.2_85-2_94, 2014-09-30 (Released:2014-10-25)
参考文献数
53

大甲藺工芸は,台湾中西部の大安渓流域に自生する特有の藺草の一種である大甲藺を素材として,当該地域で制作され使用されてきた生活工芸である。当該地域の人びとによって,大甲藺が発見され,それを素材とした大甲蓆がつくられてからの歴史のなかで,大甲帽子,煙草入れなどのさまざまな生活用具が制作され,産業としての繁栄を遂げるに至った。文献調査,現地調査に基づき,以下の結論を得た。(1)大甲藺工芸の発展の礎は,台湾大甲地域の人びとの生活のなかで,大甲藺という材料が発見され,その利活用方法のみならず,より良質な材料をつくり出すための工夫が,人びとの手でさまざまになされたことにある。(2)大甲藺工芸は,当該地域の人びとの生活のなかで全体活用が徹底されるなど,生活との密接な関連のなかで発展してきた,まさに当該地域の生活文化を代表する存在である。(3)大甲藺工芸は,当該地域の人びとを結びつける重要な媒体であった。