著者
石田 浩
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.2_41-2_63, 2008-11-30 (Released:2009-01-05)
参考文献数
25
被引用文献数
4

本研究は、世代間の階層継承の趨勢を生存分析の手法を用いて分析した。上層ホワイトカラー階層と非熟練ブルーカラー階層の再生産(世代間の継承)に焦点を当て、従来の分析のように調査年を趨勢の単位とするのではなく、初職入職年度、職歴の発生年度によって4つの時代を区分し、時代的なコンテクストをより明確にした分析を行った。上層ホワイト階層と非熟練ブルー階層への入職の仕方に関して、学校教育修了または中退後に初職からすぐに入職する場合と、職業キャリアの中で昇進・転職・起業などを経て入職する場合の2つを区別し、別々の分析を行った。 初職での上層ホワイト、非熟練ブルー階層への入職は、父と同じ階層であることが強く影響していることが分析から明らかになった。しかし、父階層の初職への効果は、4つの時代で有意に異なることはなかった。初職の時点ではなくて、職業キャリアを通して上層ホワイト、非熟練ブルー階層に入職した場合を取り上げると異なる結論が導きだされる。40歳時点までの職業キャリアを分析すると、上層ホワイト階層への入職と非熟練ブルー階層への入職の双方に関して、同じ出身階層であることの強い継承効果があることがわかる。さらに、父階層の効果は、1996-2005年にかけて上昇した可能性がある。すなわち、上層ホワイト階層と非熟練ブルー階層の閉鎖性(継承の度合い)が近年(1996-2005年度)高まっていることを示唆している。
著者
麦山 亮太 西澤 和也
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.214-227, 2017 (Released:2018-03-27)
参考文献数
37
被引用文献数
2

本稿の目的は,新卒求人情報サイトのデータから,企業が新卒者に対して求める能力の構造を明らかにするとともに,その企業規模による違いを検討することにある.先行研究は,近年ほど企業が学生へ自律的な能力を求めるようになってきたと主張する.しかし,これまでの研究は大企業を中心に検討されており,企業規模間での差異は十分に明らかにされてこなかった.そこで本稿は2016年に新卒求人情報サイトより収集した大小含む20859企業の「求める人物像・採用基準」に関する自由記述データを用い,企業の求める能力が企業規模によっていかに異なるのかを検討する.トピックモデルを用いた分析の結果,企業が新卒者に提示する能力は多様であるのみならず,企業規模によって重視される点が異なっていることが示された.大企業においては主として新たな課題や価値を創り出し解決していく自律的な能力が提示される.一方で中小企業においては,チャレンジ精神やアピアランスといった,真面目さや規律の遵守と結びつく能力が提示される.とくに中小企業においては,先行研究で増加していると指摘されてきた自律的な能力とは別様の能力が重視されていることを明らかにした.
著者
盛山 和夫
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.57-76, 1988-05-01 (Released:2009-03-06)
参考文献数
13
被引用文献数
6 5

理解社会学の基本的な理論仮説は、(1)社会的行為者は彼らを取り巻く自然的および社会的世界に関する彼ら自身の理論的知識を有しており、社会現象はこうした理解を媒介とする社会的行為によって形成されている、(2)社会科学的探求の対象は、このような行為者の理解およびそれによって形成される社会現象である、というものである。ギデンズ(1976)は、これを二重の解釈学と呼んだ。この理論仮説は社会学的探求の反照的性格を表現しているが、理解社会学者たちはこれに基づいて、いくつかの方法論的主張を行った。シュッツは主観的視点をとるべきことを主張したし、ウィンチは社会科学は所与の生活様式のもとにおけるルールを理解しなければならないと主張した。しかし、理解社会学者たちの理論仮説は妥当なものであるけれども、彼らの方法論的主張はそれから論理的に導かれるものではなく、不合理なものである。社会学的探求は、その反照的性格にもかかわらず、行為者の世界理解とそれがもたらす社会現象に関する「正しい」理解をめざしたものとして、自律した認識活動をなしている。
著者
小林 盾
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.81-93, 2010

この論文では,社会階層の違いがどのように食生活の違いとして現れているのかを,健康への影響に着目して調べた.食生活として野菜と海藻を事例とした.分析の結果,高階層の人ほど野菜と海藻をよく食べ,そうした人たちほど健康と感じていた.野菜と海藻は,バランスのとれた食生活を象徴していると考えられる.これまで,社会階層が食生活にどう影響するのかは分かっていなかった.そこで,東京都西東京市在住の35~59歳女性を対象として,郵送調査を実施してデータを得た(回収人数822人,回収率68.7%).分析の結果,以下のことが明らかになった.第一に,高階層の人ほど野菜と海藻を毎日食べていた.たとえば,高校卒のうち15.4%が毎日海藻を摂っていたのにたいして,大卒だと27.5%,大学院卒だと50.0%であった.第二に,野菜や海藻を毎日食べる人ほど,健康と感じていた.野菜と海藻のどちらも毎日は食べない人のうち,健康に幸せまたはやや幸せと感じるのは81.2%,両方を毎日食べる人のうちでは91.1%だった.第三に,教育から健康への影響を調べた結果,野菜と海藻の摂取が媒介変数となっていた.第四に,みそ汁摂取と朝食摂取が効果をもたなかったので,伝統的な食生活や規則正しい食生活が,健康を促すわけではなかった.
著者
赤枝 尚樹
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.321-338, 2011 (Released:2012-09-01)
参考文献数
31
被引用文献数
2

これまでの都市社会学の議論において,C. S. Fischerは,都市が似たもの同士で結びつく傾向―同類結合―を促進するとの議論を行なっている.なぜならば,都市では多様な人々と結びつく機会が豊富であり,選択性が高いため,人々は自分と似た人を選んで結びつくと考えられるからである.そして,そのことが都市での多様な下位文化を維持する原動力になるとされている.このように同類結合の議論はFischer下位文化論の中心的なテーゼといえるが,日本では,都市が同類結合に及ぼす影響について,これまで十分な検討は行われてこなかった.そこで本稿では,「年齢」「学歴」「職業」「趣味・娯楽」の四つの側面における同類結合について,エゴセントリック・ネットワークデータにマルチレベル分析を適用し,都市効果の検討を行った.その結果,日本において,(1)ライフサイクル段階として「年齢」や,階層としての「学歴」と「職業」の同類結合に関しては,都市効果がみられないこと,(2)「趣味・娯楽の共有」に基づく同類結合は,都市によって促進されること,の二点が明らかになった.
著者
フラハ アンドレアス 山本 英弘
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.131-156, 2006-04-30 (Released:2007-08-01)
参考文献数
51

近年の研究 (Flache 1996; Flache and Macy 1996)では「強い紐帯の弱さ」が指摘されている。すなわち、緊密な社会的ネットワークは集団連帯を維持するのではなく、むしろ弱めてしまうのである。シミュレーションの結果からは、適応的な行為者は共有財 (common good) を犠牲にしてでも紐帯を大切にするために、共有財をめぐっての集団での作業の交換よりも、相手に対する承認をめぐっての2者間での交換において、より早く協力を学習することが明らかとなっている。このような結果には適応的学習という認知の単純さ (cognitive simplicity) が重要な条件だと考えられる。しかし本稿では、ゲーム理論を援用して、強い紐帯の弱さが認知の単純さの問題ではないことを示し、緊密な集団における連帯の失敗の新しい条件を明らかにする。作業が不確実だと、共有財の生産における合理的な協力が次第に非効率的になる。したがって、合理的行為者は同僚からの承認に依存するほど、社会的紐帯を維持するために共有財の生産から得られる利益を犠牲にする。
著者
宮台 真司
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.2_3-2_30, 1988

社会学の主流的伝統では,権力が服従者の了解を経由して働くことを,暗黙にせよ前提する。ウェーバーの定義は周知であるが,パーソンズでさえ,機能的側面として資源配分機能に着目したとはいえ,機能の帰属先である対象的外延としては「シンボルによって一般化された」権力(=公式権力)だけを問題化した。権力に想定される了解構造は,権力についての様々な問題設定を境界づけるが,了解構造自体を明確に主題化した業績は実に少ない。<BR> 我々は第1に,この了解構造を明確に取り出して,従来の諸定義を比較可能にすると共に,それ自身を権力の定義に据える。その結果,権力は権力者の意図や自覚から分離されて,服従者の体験にだけ定位した概念となる。<BR> 第2に,それを利用して,伝統的な権力理論の様々な主題──威嚇/報償の差異・予期の機能・正当性/公式性/合法性の差異・国家権力など──を相互に関係づけて論じ,発見された諸問題を記述する。<BR>(*前半部(10. 迄)は1987年10月の社会学会報告のレジュメとほぼ同一である)
著者
鈴木 努
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.49-62, 2018 (Released:2019-02-01)
参考文献数
38

社会ネットワーク分析において指数ランダムグラフモデル(Exponential Random Graph Models: ERGM)や経験的ネットワーク分析のためのシミュレーション手法(Simulation Investigation for Empirical Network Analysis: Siena)といった統計的ネットワーク分析の手法の適用が広まってきている.本稿ではこれらの手法の特徴を概観し,社会ネットワーク分析におけるその意義を検討した.統計的ネットワーク分析の手法には,ネットワークに含まれる頂点や頂点対の諸特性が頂点間の結合に与える効果を多変量モデル化し,その統計的有意性を検定することができるという利点がある.近年の統計パッケージの整備によって,その実データへの適用は容易になってきているが,その意義については社会構造の解明という社会ネットワーク分析の目的にとっては限定的であるという疑義もある.本稿では統計的ネットワーク分析が主にミクロなネットワーク特性に着目しており,マクロなネットワーク特性をモデル化しにくい点,頂点結合に対する諸効果の一様性を仮定している点を指摘したうえで,社会ネットワークの形成,発展,衰退といったプロセスの分析に統計的ネットワーク分析を適用することを提案した.
著者
近藤 博之
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.1-15, 2014 (Released:2016-07-10)
参考文献数
59

教育拡大にもかかわらず教育達成の階層差が持続的であるという事実は,何らかの特定要因や単一メカニズムに依拠した説明が無効であることを示唆している.この講演では,教育不平等に関する計量社会学的研究での,ハビトゥス概念を用いた因果的探求の可能性について論じている.まず,ブルデューの「構造的因果性」の概念に立ち返り,それが近年の社会学の文献にみられる「基本的原因」や「根本的因果性」の考えと同じであることを示した.その見方によるなら,ハビトゥスは社会的条件付によって諸実践に差異をつくりだすメタ・メカニズムとして解釈することができる.その観点から,多重的影響を包含した社会空間アプローチについて説明し,例としてPISA2009日本データの分析結果を提示した.さらに,意志決定において埋没費用が問題となるように,教育的選択においても個人の無意識や過去からの慣性が重要な役割を演じていることを論じた.
著者
高坂 健次
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.1-14, 1986-11-20 (Released:2009-03-01)
参考文献数
13
被引用文献数
5

数理社会学の一般的な議題はどこにあるか――それはフォーマライゼーションにあり、というのが本稿の結論である。では、フォーマライゼーションとは何か。その狙いはどこにあるのか。何をいったいフォーマライズするのか。また、どのような数学的手法が必要か。既存の社会学からは何を学びとり、またそれに対して何を与えることができるか。こういった点について、できるだけ数学的な議論に立ち入らないで述べる。また最後に、数理社会学の当面の議題および数理社会学教育をめぐる問題点にも触れる。
著者
内藤 準
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.15-35, 2015 (Released:2016-07-10)
参考文献数
23

本稿の目的は,ジェンダーによる就職時の統計的差別において予言の自己成就を生み出す単純な社会的メカニズムを理解することである.分析の結果,仕事と家庭が両立できず共稼ぎ世帯の方が片稼ぎ世帯よりも家族生活全体の利得が低くなる低ワーク・ライフ・バランス社会において,求人数が求職者数を下回っているとき,企業が「女性は男性よりも離職しやすい」という予測(予言)に基づいて男性優先の統計的差別をおこなうと,その差別的採用自体が,実際に女性が離職しやすい状況を作り出してしまうことが示される.次に,男女平等な採用が企業にもたらすメリットに関する先行研究の指摘をふまえたうえで,企業が差別的な採用から男女平等な採用へ切り替えることが合理的になる条件を明らかにする.その条件の解釈を通じて,ワーク・ライフ・バランスの改善,雇用拡大やワークシェアリング,ポジティブアクションの促進,労働の質の変化といった社会経済的・政策的要因が,統計的差別の予言の自己成就のサイクルを断ちきる効果をもつことを明快に理解することができる.
著者
石黒 格
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.389-404, 2011 (Released:2012-09-01)
参考文献数
29

Fischerによる下位文化理論や山岸による信頼の解き放ち理論,さらには社会関係資本論など,社会科学に影響を持つ多くの理論において,知人数は重要な要素になっている.しかし,交換関係や高頻度の接触があるなど,比較的関係の強い他者の範囲を超えて,その総数と相関する要因が探索された事例はほとんどない.本研究は,電話帳法を用いて測定された知人数を目的変数とし,分位点回帰分析を用いてメディアンと上位,下位のパーセンタイルに対する説明変数の効果を検討した.分析の結果,知人数のメディアンに対する年齢,教育年数,世帯年収,携帯利用,一般的信頼の正の効果が確認され,おおよそ,先行研究の結果が再現された.さらに,q10(10パーセントタイル点,以下,同じ)からq90まで,10パーセントタイル刻みで分位点を予測したところ,年齢と教育年数が高いときに,特にq10,q50よりもq90が大きく増加すること,居住地人口と対人不安が高いときには逆に減少することが明らかになった.すなわち,知人数が極端に大きい,ネットワークのハブと考えられる回答者は,高齢,高学歴で対人不安が低く,都市度が低い地域に存在する確率が高いことが示された.
著者
前田 豊 鎌田 拓馬
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.78-96, 2019 (Released:2020-06-25)
参考文献数
40
被引用文献数
1

本稿では,個別事例の因果推論におけるSynthetic Control Method(SCM)の利用可能性を検討する.SCMは処置前の結果変数と共変量で処置を受けた主体と一致するように,対照群を適当な重みづけから統合したsynthetic controlを構築し,このsynthetic controlと処置群との比較から個別主体の因果効果の識別を行う.本稿ではSCMのアプリケーションとして,阪神淡路大震災が貧困層拡大へ与える影響を検討した.分析の結果,震災発生後にラグ期間を伴って生活保護後受給者数は増加し,震災発生から15年たっても,震災効果が持続することが示された.本稿ではさらに,推定のパフォーマンスの観点からSCMのオルタナティブとなる差の差(Difference-in-Differences,DD)分析との比較を,実データ,およびモンテカルロ・シミュレーションを用いて行った.結果として,主体毎に異なる時間的トレンドが存在しない場合には,SCMとDDは同様の推定値を導くが,主体毎に異なる時間的トレンドが存在する場合は,SCMの方がバイアスの少ない推定量であることが示された.これらの結果は,個別主体の因果推論において,とくに未知の時間的トレンドが存在する場合に,SCMが適した推定手法であることを示している.
著者
近藤 博之
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.161-177, 2011 (Released:2012-01-31)
参考文献数
23
被引用文献数
3

本稿では,ブルデューが『ディスタンクシオン』において行った社会空間分析を日本のデータに対して適用し,とくに社会空間の「交差配列」構造と日常的活動および意識空間との「相同性」に焦点を当てて,ブルデューのモデルの妥当性を吟味した.多重対応分析(MCA)による検討の結果,社会空間の構造についても,日常的活動および意識空間との相同性についても,「資本総量」の分化軸は明瞭なものの,「資本構成」のタイプによる差異はそれほど明瞭でないことが明らかとなった.これらの分析を通して,日本の社会空間の特徴とともに階層研究における社会空間アプローチの有効性が示された.