著者
石田 淳
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.81-97, 2014 (Released:2016-07-10)
参考文献数
17

本研究では,Yitzhakiの相対的剥奪指数をもとに,分配的正義論における「機会平等の原則」に基づき,人々の剥奪を「剥奪を生じさせる要因が機会の不平等によるものかどうか」によって分けることで,相対的剥奪指数,そしてジニ係数を分解するという分析手法を提案する.具体的には,機会平等の原則に基づき,機会の平等を実現する政策について数理的なモデルを提案したRoemerのモデル,そしてRoemerのモデルに基づき,経験的データに基づき性別や親の地位などの「本人のコントロールが及ばない要因」によって生じた所得などの優位の差を仮想的に調整した社会の不平等度を測る「仮想的機会調整分析」,これらの先行研究をもとに,機会不平等に起因する相対的剥奪の分解法とその指数を定式化する.同時に,アメリカ・コミュニティ調査データと2005年SSM調査データを用いた分析例を示し,最後に分解法の特性と今後の課題をまとめる.
著者
小森田 龍生
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.211-225, 2016 (Released:2017-01-15)
参考文献数
32

本稿の目的は,いわゆる過労「死」と過労「自殺」の比較を通じて,過労自殺に特有の原因条件を明らかにすることである. 原因条件の導出にあたっては,クリスプ集合論に基づく質的比較分析(Qualitative Comparative Analysis, QCA)を採用し, 分析対象は労災認定請求・損害賠償請求裁判に係る判例58件を用いた. 過労死, 過労自殺とも, 複数の原因条件が複雑に絡み合い生じる現象であるが, 本稿では具体的にどのような原因条件の組合せが過労死ではなく過労自殺の特徴を構成しているのかという点に焦点を定めて分析を実施した. 分析の結果からは, 過労自殺を特色づけるもっとも基礎的な原因条件はノルマを達成できなかったという出来事であり, そこに職場における人間関係上の問題が重なることで過労死ではなく過労自殺が生じやすくなることが示された. この結果は, これまで過労自殺と呼ばれてきた現象が, 実際には通常の意味における過労=働きすぎによってではなく, ノルマを達成できなかった場合に加えられるパワーハラスメント等, 職場における人間関係上の問題によって特徴づけられるものであることを明らかにするものである.
著者
朱 安新
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.307-317, 2015 (Released:2016-07-10)
参考文献数
40

中国社会では家族の急激な小規模化が進んでいるため,若い世代の世代間同居に関する意識が,今後の家族形態を予測するうえで注目されはじめている.しかし,まだ全国レベルの統計データが欠如している.そこで,本稿では2013年に中国大陸と台湾で大学生を対象に量的調査を実施し,大学生の世代間同居意識の現状と規定要因を明らかにすることを試みた.分析の結果,(1)世代間同居意識は低い水準にあるものの,伝統的規範のうち父系規範が同居意識の促進要因となっていた.ただし,親孝行規範は同居意識を促進するという傾向は見られなかった.(2)台湾に比して大陸においては都市に戸籍をもつ大学生が農業戸籍の大学生よりも,親世代と同居しようとする意識が顕著に低かった.したがって,大陸の都市と農村の二元社会構造がいまだに世代間同居意識に影響を与えていた.(3)大陸では男子学生が女子学生より世代間同居を意識する点で,台湾と異なることを明らかにした.
著者
中井 豊
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.345-358, 2000-10-30 (Released:2016-09-30)
参考文献数
16
被引用文献数
3

流行には、1960年以降3回あったスカートの流行や、幕末以降4回あった新宗教ブームなど、「ほぼ同一の様式がある程度周期的に普及と沈滞を繰り返す循環型」の流行現象が存在する。 このような循環型流行現象の原因としては、従来いくつかのメカニズムが提案されていたが、本研究では「社会の気質」が周期的に変化している可能性に注目し、石井モデルを拡張したモデルを立てて、気質の周期的な変化が自律的に生じることがあるかどうかを検討した。 具体的には、石井モデルにおける流行採否戦略の社会的分布を社会の気質と解釈し、それを学習によって変化させるモデルを立ててシミュレーションを行った。その結果、あるパラメーターにおいて、採否戦略の周期的な変動と、それに伴うアイテムの流行の周期的な変化が見出された。 更に、採用に敏感な者同士のクラスターの発生と消滅が、この変動を駆動していることが分かった。
著者
大浦 宏邦
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.129-144, 1996-12-31 (Released:2016-08-26)
参考文献数
22
被引用文献数
3

現在のヒトはきわめて複雑な社会を構成しているが、もとをたどればそれも、原猿のつくる単純な社会から、真猿類の群れ社会を経て次第に進化してきたものである。霊長類におけるこのような社会進化のメカニズムを知ることは、秩序や規範の起源といった社会学上の基本問題にアプローチする上で不可欠であると考えられる。本研究ではこうしたアプローチの第一歩として、霊長類における群れ社会の形成メカニズムについて検討を行った。いくつかのESS(進化的に安定な戦略)モデルによる検討の結果、捕食者を避ける要因が多くの場合、群れ戦略を有利にする上で有効であることが明らかとなった。また、群れの形成はエサなどの資源を巡る争いを激化させる一方、個体密度が高い場合やエサ資源が不均一に分布している場合には、連合して資源を防衛するために群れを作る戦略が有利になりうることが明らかとなった。

3 0 0 0 OA 書評

出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.138-153, 2022 (Released:2022-09-01)
著者
真島 理恵 高橋 伸幸
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.177-195, 2005 (Released:2007-07-06)
参考文献数
20
被引用文献数
6

近年、直接互恵性に基づかない利他行動の適応的基盤として、間接互恵性の成立を検討する理論研究が急速に展開している (e.g., Nowak & Sigmund, 1998a, b)。最新の知見である真島・高橋 (in press) は、間接互恵性を成立させる唯一の解決策として、SDISC戦略を提唱している。本研究の理論パートでは、これまでの間接互恵性研究で想定されてきたランダムマッチング状況の概念的問題点を指摘し、より適切な状況と考えられる選択的プレイ状況下で、真島・高橋 (in press) の結論を再検討する進化的シミュレーションを行った。その結果、選択的プレイ状況における間接互恵性の解決策として、SDISCに加え、より概念的に妥当な戦略であるExtra Standing戦略が新たな解決策として示された。また本研究の実証パートでは、理論パートの結果から示された間接互恵性を成立させる選別戦略を実際に人間が採用しているかどうかを検討する質問紙実験の結果を報告する。結果は、間接互恵性の状況において参加者が、(1) Goodへの提供者をGoodとみなし、(2) Badへの提供者をBadとみなし、(3) Goodへの非提供者をBadとみなす、という、理論研究の結論と一貫する評価パターンを備えていたことを示すものであった。

3 0 0 0 OA 書評

出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.116-128, 2021 (Released:2021-11-26)

3 0 0 0 文献紹介

出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, 2020
著者
古田 和久
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.234-246, 2018 (Released:2019-09-28)
参考文献数
38

本論文は高学歴化の進展とともに,学歴と職業との関連がどのように変容したのかを,1965年から2015年のSSM調査データを用いて検証した.出生コーホートと年齢段階による相違に焦点をあて,各学歴層の職業構成の絶対的変化および学歴間の相対的格差の長期的趨勢を吟味した結果,次のことが分かった.第1に大卒者は専門職従事率が維持されるなど,その職業構成は比較的安定する一方,高卒者の変化は大きく,事務職が減少し,熟練職や半熟練・非熟練職に集中した.第2に,1961-70年生まれ以降の大卒者は職業キャリアの中盤で管理職への到達が困難化した.他方,高卒者は職業キャリアの初期段階からブルーカラー職に就く傾向が顕著になった.第3に,学歴間の相対的格差は出生コーホート間で維持されていた.しかし,その内部では若年時の学歴間格差が,1960-70年代の教育拡大を経験した世代で縮小した.ただし,その動きは1990年代以降に大学進学を迎えた世代に継続されず,学歴差は維持されていた.
著者
野村 竜也
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.211-226, 2002-10-31 (Released:2009-02-10)
参考文献数
31

本稿では、二重拘束が思弁的概念定義に留まっていることを省察し、改めて社会心理学的・社会学的モデルの観点から再構築することにより、その源であるサイバネティクスに立ち返って曖昧性を低減したシステムモデルを提供し、家族システム論において新たな含意を得ることを目的とする。そのために、二重拘束を関係システムにおけるポジティブ・ネガティブのフィードバックの安定状態として捉える長谷のアプローチ、およびHochschildの感情規則論を基に二重拘束を感情のギャップとして捉える山田の示唆を、社会心理学の三者関係における認知的斉合性の理論を用いて形式的に表現する。
著者
太郎丸 博
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.2-14, 2018

<p> 日本において保守的な人ほど学問に対して否定的な態度をとりやすいのかどうかを検討した.保守的な態度の指標として安倍内閣支持,保革自己イメージ,権威主義,排外意識の4つを用い,学問に対する態度の指標として学問効用認知と環境学,医学,経済学,歴史学,憲法学に対する相対的な信頼度を用いた.分析の結果,ある程度は保守的であるほど学問に対して否定的になりやすい傾向が見られたが,一貫したものではなかった.権威主義の直接効果は存在せず,保革自己イメージは,中間が最も学問に否定的で,保守と革新の両方で肯定的になることもあった.排外意識が有意な効果を持ったのは,歴史学と憲法学に対する相対的な信頼度だけであった.安倍内閣支持は医学に対する相対的な信頼度以外では有意な効果を持ったが,学問効用認知をむしろ高めていた.以上から,政治的な態度と学問に対する支持のあいだに関係があることは明らかであるが,それは分野によって異なっているだけでなく,むしろ保守的な人のほうが肯定的な場合もあることがわかった.</p>
著者
岩井 八郎
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.13-32, 2006-04-30 (Released:2007-08-01)
参考文献数
48

本稿は、1980年代半ばより、20年間にわたって展開されてきたライフコースの計量的研究を整理し、今後の研究課題を検討する。ライフコースの計量的研究は、ユニークなライフヒストリー・データを作成した研究と標準化された大規模データを用いた研究に分けることができる。前者の例として、「大恐慌の子どもたち」、「フリーダム・サマー」、「非行少年のライフコース」を取り上げる。後者としては、ドイツのライフヒストリー研究があり、最近では1964年と71年出生コーホートの研究がある。標準化されたデータを用いた研究の課題として、ポスト近代産業社会の段階において生じている、各国のライフコースの変化を比較研究によって明らかにすることが求められている。研究の視点としては「経路依存性」と「個人主義の再構築」が重要である。日本の「現在」を検討するためにも、クロスセクショナルなスナップショットではなく、ライフコース分析の視点が重要である。
著者
飯田 高
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.242-256, 2017 (Released:2018-03-27)
参考文献数
53

本稿の目的は,社会現象としての法が数理モデルのなかでどのように表現されうるかについて,社会規範研究と対比させる形で検討することである.まず,社会規範と法をめぐる近年の議論を概観しながら法の位置づけを整理し,経済モデルを含む数理モデルにおける法の捉え方の問題点を指摘する.そこでは,公的機関は法が成立するための必要条件ではなく,実際の法制度は多数のアクターの行動が調整されてはじめて作動する,という点が強調される.次いで,集合的なサンクションによって規範が実効化される様子を描写した簡単なモデルを提示し,社会規範と法の違いを表す方法について述べる.社会規範と法はどちらも,他者の行為に関するプレーヤーの信念を形成してサンクションという集合的行動を容易にするという機能をもっており,その点で連続性を有する.この連続性を考慮した法の定式化を示すとともに,人々の信念の変更によってのみ法は行動に影響を及ぼしうるということを論じる.
著者
辻 竜平 針原 素子
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.15-31, 2003-03-31 (Released:2009-01-20)
参考文献数
21
被引用文献数
5

ばったり出会った人々が共通の知人を持つ(「小さな世界」現象)確率はどのくらいなのか。この問題を解く鍵になるのは、人口、知人や友人関係の広さ、友人関係の重なりの程度といった下位問題である。これらを総称して、「小さな世界問題」と呼ぶ。Wattsら(Watts and Strogatz 1998; Watts 1999)は、レギュラーネットワークからランダムネットワークまでネットワークのランダムさを変化させて、「小さな世界」現象が生じるかを独自のシミュレーションで確認した。このシミュレーションは、より広範囲の問題に応用できる。本稿は、小集団における相手不明条件1回囚人のジレンマで、信頼関係の推移性が高い場合に協力率が高まるという発見(Tsuji 1999; 辻 2000)を、Wattsらのシミュレーションを応用して、より大きな社会に対して適用した。その結果、集団/社会の規模が大きくなるほど、信頼する人の数が減少するほど、また、ランダムさが増加するほど、推移的な関係が減少する(協力率が低くなり社会秩序の維持が難しい)ことが分かった。これと日米の知人数の違いをもとに、日米において、社会秩序維持のためにどのような構造のネットワークが築かれているかを議論する。
著者
木村 邦博
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.107-126, 1998-09-30 (Released:2016-09-30)
参考文献数
23
被引用文献数
2

階層意識としての不公平感の形成過程に関して、自己利益正当化仮説と客観的公正判断仮説という2つの仮説を構築する。階層的地位のうち学歴に注目することにより、客観的公正判断仮説の下位類型の中でも教育による啓蒙効果に関する仮説に焦点を合わせる。自己利益正当化仮説・啓蒙効果仮説のそれぞれから、学歴、学歴社会イメージ、社会に対する全般的不公平感の三者間の関連に関する予想を導き出す。予想に適合的な傾向が観察されるかどうか、高校生とその両親を対象とした社会調査で得られたデータを用い、クロス集計結果のグラフ表示により検討する(交互作用効果に関するパラメタを条件付き効果の形で表現したロジット・モデルも適用する)。自己利益正当化仮説から導出した予想を支持する傾向が見られたのは、高校生の父親においてのみである。啓蒙効果仮説から導出した予想を支持する傾向は、高校生の母親において観察される。