著者
藤原 翔
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.65-77, 2019 (Released:2020-06-25)
参考文献数
61

本論文は,教育社会学的研究における因果推論の動向を示す.具体的には,教育社会学と社会階層研究に関連した(1)教育機会の不平等,(2)学校効果・トラッキング,(3)近隣効果,(4)学歴の因果効果とその異質性(5)社会移動と学歴,(6)ひとり親世帯,(7)多世代の移動に関する海外での因果分析の研究成果を紹介する.これらの研究動向をふまえれば,社会学者が因果の識別について長年にわたって取り組み,統計学や他の社会科学領域で発展した方法を社会学的研究に適用してきたこと,そして単に因果関係の識別だけではなく,関連を生じる交絡やセレクションといった様々な要因の解明に対しても関心を持ってきたことが分かる.これら因果推論に関する研究成果をふまえた上で,今後の日本の社会学における因果推論研究の課題を示す.そして,因果推論が社会現象を理解するための重要な分析枠組みであることについて議論する.
著者
水落 正明
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.129-138, 2009-05-25 (Released:2010-01-08)
参考文献数
8
被引用文献数
1
著者
筒井 淳也
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.35-46, 2019 (Released:2020-06-25)
参考文献数
24

統計的因果推論は計量分析の主流となっているが,計量社会学におけるその意味やインパクトについて体系的に論じた研究はいまだに少ない.本論文では,因果推論モデルを含む計量分析の手法について,異質性という概念を軸に整理し,その上で計量社会学が異質性に対して他の分野の手法とは異なったアプローチをとる傾向があることを示す.このことは,マルチレベル分析とも呼ばれる混合効果モデルの活用において明らかである.さらに,介入や切断を用いる因果推論アプローチと,要因間の関連性を強調する計量社会学的アプローチの違いを説明し,それが人々の概念連関を参照する社会学の特性の現れである,ということを論じる.
著者
石田 浩
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.207-218, 2014 (Released:2016-07-10)
参考文献数
3
被引用文献数
1
著者
内田 龍史
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.139-153, 2007-10-31 (Released:2008-01-08)
参考文献数
25
被引用文献数
3

近年、フリーターの増加が社会問題となっているが、学校から職業への「移行」(Transition)に関する研究からは、性別では女性が、また、学歴・家庭背景などが相対的に低い状況にある若者がフリーターになりやすいことが指摘されている。しかし、若者のフリーター「選択」に影響を与える要因についての量的な検討は多くはない。 本論文は、フリーター選択と近年着目されている社会的ネットワークとの関係に着目し、高校3年生を対象とした質問紙調査から、限定された社会的ネットワークがフリーター選択に影響を与えているかどうかについて検討を行った。その結果、高校生のネットワーク構造は「安定・ホワイトカラー」「不安定・ブルーカラー」ネットワークの2つに分類され、「安定・ホワイトカラー」ネットワークに組み込まれている高校生はフリーターを選択せず、逆に「不安定・ブルーカラー」ネットワークに組み込まれている高校生はフリーターを選択する傾向が見られた。高校生が組み込まれている社会的ネットワークの存在が、若者たちの進路分化に影響を与えていることが示唆されたのである。
著者
多喜 弘文
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.229-248, 2010 (Released:2011-03-12)
参考文献数
38
被引用文献数
4

本稿では,出身階層と学力の関連を学校教育制度がどのように媒介しているかという観点から,国際比較によって日本の特徴を明らかにする.そのためのデータとして,15歳の生徒を対象としたOECDの学習到達度調査(PISA)の2003年度版を用いる.分析では,国ごとの教育制度の違いを類型化し,階層線形モデルを適用して,学力に対する社会経済的地位の影響が,どのように類型ごとに異なった形で制度的に媒介されているかに着目する. 分析の結果,出身階層と学力の関連パターンが,教育制度の類型によって大きく異なることが示された.また,類型内では,ある程度共通した関連パターンが見出された.これらのことは,この教育制度の類型を用いて,出身階層と学力の関連の制度的媒介の違いを解釈することの妥当性を示唆する. 日本を含む受験競争モデルでは,職業学校に通う生徒の割合は小さく,学校が将来の職業と明確な関連を制度上もたない.また,学校の地域ごとの多様性は比較的小さく,留年する生徒もほとんどいない.だが,以上の特徴にもかかわらず,学校間で階層化される度合いが大きい.このことが,受験競争モデルにおける教育と不平等の制度的特徴であることが明らかになった.また,日本は,学力と社会経済的地位の関連のほぼすべてが,高校受験によって学校間格差に変換されているという点で,特に明確な特徴をもつ国であることが示された.
著者
盛山 和夫
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.71-86, 1986-11-20 (Released:2009-03-01)
参考文献数
17
被引用文献数
5

社会学の現状の“危機”は、その理論の欠如に由来しており、個別科学としての社会学の独立と安定のためには理論の創出という営為が不可欠である。社会学にはこれまで理論と言うよりも擬似理論の方が横行している。それらは例えば「視座」「概念図式や定義」「経験的一般化」「the more..., the more型言明」あるいは「パスモデルのような統計的モデル」などである。前二者は真偽性を欠いているし、後の三つは説明力に乏しい。 こうした背景には次のような方法的な誤りがある。(1)説明の持つ意義を否定して記述のみに満足する経験主義的バイアス、(2)小さな問題への理論的考察の価値を評価しない全体論的バイアス、(3)理論の正しさがそれ自体にではなくそれが生産される基盤の方にあると考える土台理論とそれと関連した方法的一元主義、(4)新しい知識がデータからのあるいは既存の言明からの積み上げによってえられるとする積み上げ主義。 我々の知識の拡大に貢献するような理論の創出にとって必要なのは、知的課題に対してさまざまな解を思い付く想像力とともに、それを自ら厳しく検討していく批判力である。
著者
浦川 邦夫
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.35-52, 2013 (Released:2014-09-01)
参考文献数
80

本稿では,経済学の研究分野における「健康研究」の分析事例について近年の研究を中心にサーベイを行い,それらの学術的意義を評価・検討した.これまでの経済学の健康に対するアプローチの代表例は,健康を人的資本の一部とみなし,労働者や企業の生産性しいては一国の成長を促す重要なファクターとして捉えてその役割を評価するものであった.特に,ゲイリー・ベッカーやマイケル・グロスマンが提唱,発展させた人的資本理論は,「国民の健康水準と経済成長」の関係や「労働者の不健康な行動(飲酒・喫煙など)と彼ら(彼女ら)の賃金水準」の関係など,「健康と生産性の関係」についての実証的考察をより積極的に促してきたと言える.また,近年は,所得,学歴,職業などの社会経済変数に加えて,地域要因や企業要因と健康との関連を分析する事例が多く見られるようになってきており,健康の決定要因に関する研究は多様性を増している.また,医療経済学の分野では,「費用便益分析」や「費用効用分析」の手法を用いることにより,健康を「その達成に要する負担」と「それを享受することで得られる便益」の双方の観点から経済評価する試みが進められている.健康研究の発展に向けて経済学の果たす役割は大きいが,近年の「健康研究」は,高度化・専門化した分析課題に対応するため,医学,疫学,社会学,心理学など様々な学問分野の研究者との間での共同研究が積極的に進められている.今後も,健康の決定要因や健康の諸効果の多面的・本質的な理解を進める上で,多様な学問分野の融合が進むことが期待される.
著者
打越 文弥
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.293-303, 2016 (Released:2017-01-16)
参考文献数
29
被引用文献数
1

本稿では, 分析社会学の理論的構造をこの分野を牽引してきたPeter Hedströmの議論に依拠して明らかにする. 分析社会学は, 調査データによって得られた変数から因果関係を特定化する既存の社会学の経験的研究に対して異議を唱える. 分析社会学的なアプローチでは, 変数間の関連だけではブラック・ボックスになっている「社会現象が生じるプロセス」を, 個人の行為(action)と相互行為(interaction)から説明する. その中で本稿では, 分析社会学は欲求, 信念, 機会の三つにもとづいて個人の行為, および相互行為が連鎖する点を重視することを指摘する. さらに, 本稿では分析社会学との類似性が指摘される社会科学の統計的因果推論を重視する学派と合理的選択理論との比較を行う. 最後に, 分析社会学の説明戦略は, 既存の調査データに対する代替案を提示することを述べる.
著者
大久保 将貴
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.20-34, 2019

<p> 因果推論とは,因果効果を識別するための仮定を満たすような工夫や戦略のことを意味する.因果推論については,すでに膨大な理論と方法が提起されている.ただし,因果推論が必ずしも具体的な方法と対応しているわけではないため,因果推論といった時にイメージする理論と方法は分野間で大きく異なる.本稿では,社会科学のみならず様々な分野の視点を考慮し,因果推論の理論と方法を体系的にレビューする.さらに,因果推論の限界と可能性について,今日でも繰り広げられている論争を紹介する.</p>

17 0 0 0 OA 中意識の意味

著者
盛山 和夫
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.2_51-2_71, 1990-11-01 (Released:2009-03-31)
参考文献数
14
被引用文献数
2

階層帰属意識は長い間研究者を魅了してきた「謎」であった。なぜかくも多くの人々が「中」と答えるのか。なぜ「中」の分布は1975年にかけて増大し、その後やや減少しているのか。それらについて「社会学者は、まだ明確な解答を出していないように思われる」(原,1986:247)。本稿は、求められている謎の解明の一つの試みである。それはまた、高度経済成長とそれにつづく低成長という戦後日本社会の歴史的体験の意味を読み解く作業でもある。
著者
永吉 希久子
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.114-126, 2017

<p> 社会的排除の視点からみれば,社会的ネットワークからの排除は,失業(労働市場からの排除)や貧困(経済的次元での排除)など他の次元における排除の帰結として生じると考えられる.しかし,クロスセクションデータを用いた研究では,個人の観測されない異質性の影響を除外できないため,失業や貧困それ自体がネットワークからの排除を促すのかが明確ではない.本研究ではパネルデータをもとに固定効果ロジットモデルを用いた分析を行い,失業や貧困状態への移行という個人内の状態変化が家族外でのサポート・ネットワークの喪失に与える影響を検証した.さらに,その効果のジェンダーによる差についても分析を行った.分析の結果,失業や貧困による非家族ネットワークの喪失は男性についてのみ生じることが示された.また,加齢によるネットワークの喪失も男性のみにみられた.一方,結婚は男女ともに非家族ネットワークの喪失を促していた.女性のサポート・ネットワークが社会経済的な次元での排除に頑健であるのに対し,男性のネットワークは脆弱であること,また,結婚がネットワークを縮小させる負の側面を持つことが示唆される.</p>
著者
毛塚 和宏
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.337-354, 2013 (Released:2014-09-01)
参考文献数
17
被引用文献数
3

教育達成の階層間格差を説明する相対リスク回避仮説(Breen and Goldthorpe 1997)の検証は世界各国で行われたが,日本においてはおおむね否定的な結果が得られている.本稿では,日本における受験制度を考慮して,下降回避仮説の代替モデルとして,定員と自分の成績を参照して,進学するか否かを決定するという「単純進学モデル」を構築し,マクロ・ミクロの両面から下降回避仮説と比較・検討を行った.下降回避仮説としては,BreenとGoldthorpeの相対リスク回避モデルと,学歴に対する下降回避を考慮した二重回避モデルを想定した.マクロレベルでは,数理モデルを構築し,各モデルに基づいて大学進学率を導出した.これを経験的データと照らし合わせてモデルの妥当性を検討する.ミクロレベルでは,数理モデルから導出された個人の意思決定に関する命題に対して,JGSS-2000, 2001データを用いて検討を加えた.ミクロレベルの分析には,ロジスティック回帰モデルを用い,モデルを同定するために,一部の変数に対しプロビット変換を施した.結果,下降回避仮説を導入した2つのモデルは現実のデータに対する説明力を欠き,,単純進学モデルが最も妥当性が高いことが示された.特に,相対リスク回避モデルはマクロレベルの検討において棄却された.
著者
太郎丸 博
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.2-14, 2018 (Released:2019-02-01)
参考文献数
17

日本において保守的な人ほど学問に対して否定的な態度をとりやすいのかどうかを検討した.保守的な態度の指標として安倍内閣支持,保革自己イメージ,権威主義,排外意識の4つを用い,学問に対する態度の指標として学問効用認知と環境学,医学,経済学,歴史学,憲法学に対する相対的な信頼度を用いた.分析の結果,ある程度は保守的であるほど学問に対して否定的になりやすい傾向が見られたが,一貫したものではなかった.権威主義の直接効果は存在せず,保革自己イメージは,中間が最も学問に否定的で,保守と革新の両方で肯定的になることもあった.排外意識が有意な効果を持ったのは,歴史学と憲法学に対する相対的な信頼度だけであった.安倍内閣支持は医学に対する相対的な信頼度以外では有意な効果を持ったが,学問効用認知をむしろ高めていた.以上から,政治的な態度と学問に対する支持のあいだに関係があることは明らかであるが,それは分野によって異なっているだけでなく,むしろ保守的な人のほうが肯定的な場合もあることがわかった.
著者
櫻井 義秀
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.80-96, 2017 (Released:2017-07-19)
参考文献数
63

本稿では,近年の宗教研究とウェル・ビーイング研究のレビューを通して「宗教」と「幸せ」の関連を問う適切な問題設定を行うことを目的とする.この研究の難しさは,被説明変数としての「幸せ」のみならず,説明変数としての「宗教」も多様な側面を持つために,幸せのどの側面と宗教のどの側面との関連を考察の対象としているのか十分に自覚することなく,宗教は人を幸せにするかという高度に抽象的で哲学的な命題が議論されてきたことにある.したがって,本研究ではまず,宗教を宗教意識,宗教行為,宗教集団と制度の次元に分節化する社会学的方法論を示し,次いで,ウェル・ビーイングの多面的性質を論じたルート・ヴェーンホヴェンの研究を参照して,生活の機会と結果,生活の内的質と外的質の二軸から,生活の環境,生活満足感,生きる力と幸福感と類型化された「幸せ」の諸側面と宗教との関わりを検討する.そして,最後にヴォルフガング・ツァップフの考察を参考にして,「幸せ」の客観的指標と主観的評価が乖離する不協和と適応,および剥奪の状態においてこそ,宗教が「幸せ」を再構築する独特の機序があることを示そうと考えている.
著者
数土 直紀
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.225-242, 2012 (Released:2013-08-12)
参考文献数
36

本論文の目的は,社会変動をつうじて地位が形成される過程を明らかにすることにある.本論文では,以下の条件が満足されるとき,ある個人属性は地位としてみなされるようになると仮定した: (1) その属性は個人の能力によって獲得されている,(2) その属性のばらつきが社会変動によって大きくなっている.この仮説を検証するために,本論文では婚姻状態に注目し,1985年SSM調査データ(N = 2,650) とSSP-I 2010データ(N = 1,502)をもちいて婚姻状態が階層帰属意識に及ぼす効果について分析をおこなった.分析結果は,結婚年齢に関するばらつきが相対的に大きい2010年では未婚であることが階層帰属意識に対してネガティブな効果をもっている一方で,結婚年齢に関するばらつきが相対的に小さい1985年では未婚であってもそれは階層帰属意識に対して何も効果をもっていないことを明らかにしている.しかしその一方で,分析結果は,未婚であることが階層帰属意識に対してもっている効果は社会階層間で異なっていることを明らかにしている.これらの事実は,本論文の仮説を限定的に支持するものといえるだろう.