著者
長松 奈美江 阪口 祐介 太郎丸 博
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.77-93, 2009-05-25 (Released:2010-01-08)
参考文献数
23
被引用文献数
2

職業は、私たちの社会生活に大きな影響を及ぼす要因の一つである。これまで日本では、職業指標として職業威信スコアやSSM職業8分類が用いられてきた。しかし、職務内容を反映した職業指標はあまり利用されてこなかった。本稿では、仕事の複雑性に注目し、そのスコアを構成した。 Dictionary of Occupational Titles(DOT)第4版と、「情報化社会に関する全国調査(JIS調査)」のデータを用いて、合併コード、混合コード、DOTコードという三つの方法によりスコアを構成した。さらに、構成されたスコアを用いて、仕事の複雑性が、職業と関連が深い意識やライフチャンス変数に効果をもっているかを検討した。重回帰分析の結果、複雑性スコアは、個人収入や階層帰属意識、職業による不公平感に対して、職業威信スコアに還元できない効果をもっていることがわかった。この分析結果は、仕事の複雑性スコアの妥当性と有効性を示していると考えられる。
著者
Kazuo Yamaguchi
出版者
Japanese Association For Mathematical Sociology
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.137-156, 2005 (Released:2007-07-06)
参考文献数
94

This article reviews and discusses various ways to strengthen the linkage between mathematical sociology and empirical research. It distinguishes between the use of mathematics in sociology for theory construction and for empirical data analysis, and discusses how the linkage has been made and how it can be strengthened in each category of use. Concerning the use of mathematics for theory construction, the article compares the integrated division of labor between theory construction and empirical research to traditional divisions of labor, emphasizing the relative importance of the former. Concerning the use of mathematics for data analysis, the paper identifies (1) indexing and measurement, (2) mathematical methods for heuristic analysis of qualitative data, (3) substantively motivated statistical models, and (4) hybrids of mathematical and statistical models, as four forms of linkage between mathematical sociology and empirical research, discussing the accomplishment and prospects for the future for each form.
著者
岡太 彬訓
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.167-181, 2002-10-31 (Released:2009-02-10)
参考文献数
108
被引用文献数
3

社会学におけるクラスター分析法やMDS(多次元尺度構成法)の応用を概観し、手法の適用上で注目すべき点や問題点をとりあげ、これらの手法をより適切に利用し、また、より有意義な結果を導くにはどうすればよいのかを述べる。最初に、社会学に限らず、クラスター分析法やMDSの応用で一般的に留意すべき点、あるいは、多くの応用に共通して認められる問題点を述べる。次に、社会学における応用に焦点を絞り、それらの応用の特徴と具体的な問題点を述べ、問題点をどのように解決していけばよいのかを示唆する。次に、主として社会学で発達してきたクラスター分析法やMDSの手法、および、それらの利用方法に言及する。最後に、クラスター分析法やMDSの社会学における応用について、今後の展開の可能性を述べる。
著者
石黒 格 辻 竜平
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.295-312, 2006-09-30

携帯電話のアドレス帳に登録されている知人の数(アドレス帳登録数)の、ネットワーク・サイズ測定指標としての有用性について検討した。全国から25~74歳の男女2200名(回収数1445)を抽出した調査データを分析に用いた。第一の目的は、アドレス帳の利用率と利用を規定する属性要因を検討することであり、全体として利用率は60%程度であること、若年、高学歴、高収入、都市部在住者で利用が多いことが明らかになった。特に重要な要因は年齢で、利用率を80ポイント以上変動させていた。第二の目的は、電話帳法による知人数推定値をネットワーク・サイズの指標とし、それとアドレス帳登録数との相関を検討することだった。分析の結果、アドレス帳登録数と電話帳法による知人数の推定値は年齢によらず一貫して正相関していた。都市規模別に見たときには、人口5000~9999人の郡部を除いた地域では有意に正相関していた。人口10000未満の郡部では相関は弱めでかつ利用者が少ないため、人口1万人以上の都市で、特に若年層を中心として調査する場合に、アドレス帳登録数がネットワーク・サイズの指標として利用可能であることが示唆された。
著者
土場 学 渡部 勉
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.197-205, 1998-06-15 (Released:2016-08-26)
参考文献数
1

現代社会学において数理社会学の地位を確立した最大の功労者の一人であるトーマス・J・ファラロが、自らの学問的営為の集大成として『一般理論社会学の意味』をまとめあげた。本書の目的は、一般理論社会学を社会学における包括的な研究伝統として定義したうえで、そこにおいてこれまで並行的に展開してきたシステム思考、行為理論、構造主義の三つの下位伝統が現在「統―化のプロセス」にあることを指摘しつつ、そのことを生成的構造主義という構想のもとでフォーマル・モデルとして示すことにある。そのさい、ファラロの構想では、社会学の伝統的な行為理論と構造理論、ミクロ・モデルとマクロ・モデルが生成的構造主義のもとで調和的に統合される、ということになる。しかしながら、こうした構想は、行為と構造という構図のもとで社会学においてつねに問題にされてきた「循環」の問題を、ほんとうの意味で解決することにはならない。なぜなら、こうした循環の問題は、じつは従来の行為理論も構造理論もともに共有していた行為と構造の実体論パラダイムに由来しているからである。したがって、もしいま一般理論社会学がミクロとマクロの「統―化のプロセス」のただなかにあるとしても、それは従来の行為理論と構造理論の「収斂」のプロセスではなく、むしろそれらの「解体」のプロセスを意味しているはずである。ファラロの構想する生成的構造主義の問題は、根本的には、そうした認識を欠いていたところにある。
著者
佐藤 俊樹
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.37-48, 2000-06-30 (Released:2016-09-30)
参考文献数
21

社会学は「システム」という用語を瀕用するが、その経験的意義は決して明確ではない。ここではN.ルーマンのシステム論を、相互作用システムという事例から考察する。彼の理論は行為概念の変更までふくむラディカルなものであり、「社会とは何か」への有力な答えとなっている。だが、厳密にその論理をおっていくと、複数のレベルを交錯させることで、システムの実在性を不当前提している可能性が高い。そのことは、たんに「システム」だけでなく、「行為」「コミュニケーション」「社会」といった社会学の基本概念自体に再検討をせまる。
著者
佐藤 俊樹
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.2_3-2_20, 1990-11-01 (Released:2009-03-31)
参考文献数
25

プロテスタンティズムの倫理は近代資本主義を生んだか? この問いは現在の社会学の出発点である。だが、Weber自身のを含めて、従来の答えはすべて失敗している。経営の規律性や強い拡大志向、資本計算などは日本をはじめ多くの社会に見出されるからだ。この論考では、まずそれを実証的に示し、その上で、プロテスタンティズムの倫理が「禁欲」を通じて真に創出したものは何かを問う。 それは合理的な資本計算や心理的起動力などではない。個人経営においても、経営体(組織)と個人の人格とを原理的に分離可能にしたことである。この分離と両者を規則を通じて再結合する回路こそ、日本の経営体に決定的に欠けているものであった。なぜなら、それが近代の合理的組織の母型になったのだから。その意味においてはじめて、プロテスタンティズムの倫理は近代資本主義を生んだといえるのだ。
著者
大林 真也
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.1-11, 2015 (Released:2016-07-10)
参考文献数
22

受賞論文では,成員の入れ替えのある流動的な集団において,どのようなメカニズムで助け合いが維持されるのか,というテーマを扱った.具体的には,コミュニティ・ユニオン(個人加盟型労働組合)で行われている助け合いを対象として,このテーマに取り組んだ.方法は経験的調査と数理的研究を組み合わせた分析的物語(analytic narrative)と呼ばれる方法を用いた.まず聞き取りと観察に基づいた経験的調査を行い,次に数理モデルを用いて分析を行い,対象となる助け合いのメカニズムに言及した.受賞論文の意義は,(1)現代的な課題である流動的な社会関係を対象として,協力が達成されるメカニズムに言及したこと,および(2)経験的調査と数理的分析を組合せることにより,社会現象に即した数理モデルを作成し,具体的な社会現象の説明を行ったことにあると考えられる.本稿では,後者の方法論に関して,その重要性を論じ,数理社会学および社会学全体に対して持つ意義を整理する.
著者
吉良 洋輔
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.281-297, 2018 (Released:2019-09-28)
参考文献数
31

社会的ジレンマの解決策として,費用を伴う懲罰と褒賞のどちらが優れているのかという議論がある.その一方で,長期的な社会的関係と懲罰・褒賞が非効率な規範を維持する,という指摘もある.本稿では,繰り返しゲームの枠組みを用いて,懲罰と褒賞が社会的ジレンマにおける協力と非効率的な規範のそれぞれを維持する効果を比較した.この分析では,均衡を維持できる最大の割引因子の値を比較することで,社会関係の長期性が薄い場合でも均衡が維持されるか否かを確認した.その結果,懲罰と褒賞の両方が,社会的ジレンマにおける協力と非効率的な規範の両方をより強固に維持する効果を持つが,懲罰のほうがどちらの場合にも顕著な効果を持つことが分かった.これは,懲罰を怠る誘引は懲罰を行っているときに発生する一方で,他者への褒賞を怠る誘引は協力行動など規範的行為を行っているときと同時に発生するためである.
著者
出口 弘
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.101-114, 1990-04-01 (Released:2009-03-31)
参考文献数
10

南方熊楠は,偉大な博物学者であり粘菌学の大家であると同時に日本民俗学の生みの親の一人として広く知られている.しかし,彼の学際的な学の背後にあった方法論としての自然哲学そのものについては,殆ど関心は払われてはこなかった.本論では,我々は,南方熊楠の自然哲学に着目し,それを思想史的な観点からではなく,今日の諸学の錯綜し方法論の混乱する学の状況に於ける生きた思想として再把握することを試みる.彼の社会科学に関する科学方法論と数理的学についての卓見は,時代の中で抜き出ていたが故に日の目を見ることはなかった.主体を含む複雑なシステムとして社会システムを捉えその構造変動を含むモデル作成の為の確固たる方法論的基盤を築く必要がある今日の社会科学にとって,南方の思想と方法論は,時代を越えて有益な示唆を与えてくれるのではないかと期待する.
著者
山岸 俊男
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.21-37, 1989-03-24 (Released:2009-03-31)
参考文献数
39
被引用文献数
2

社会的ジレンマにおける成員の行動が「意図せざる効果」を生むことはよく知られている。 すなわち社会的ジレンマにおいては、個々の成員の自己利益追及という意図にもとづく行動が、社会的に集積されることにより、それぞれの成員の意図に反する結果(利益の減少)が生み出されている。このような社会的ジレンマ問題の解決のためにこれまでいくつかの解決法が示唆されてきたが、これらの社会的ジレンマ解決法の「意図されざる効果」については、これまであまり議論がなされていない。本稿では、ジレンマ解決法の「意図されざる効果」の例として、選択的誘因の使用に伴う協力への「内発的動機づけ」の減少、および戦略的行の「外部性」により引起こされる「非協力の悪循環」をとりあげ、そこに含まれる問題を整すると同時に、関連研究の紹介を行なう。
著者
大隅 昇 保田 明夫
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.135-159, 2004-09-30 (Released:2008-12-22)
参考文献数
54
被引用文献数
3

ここではまず,テキスト・マイニング(TM)あるいはテキスト型データのマイニング(TDM)の特徴を俯瞰すると同時に,これに関わる技術的な諸要素,諸事項について総合的に報告する.つぎに,現状考えられるTMを実際データの分析に用いるうえでの諸問題を整理する.とくに,その適用可能性について,データ科学の視点から問題解決を図ることの重要性について触れ,さらに具体的なTM応用ソフトを紹介する.また,筆者等が独自に行ったWeb調査データによる分析例を通じ,どのような使い方ができるかの要点,留意事項を示す.ここでは,自由回答設問で得た情報と通常の選択肢型設問との併用による定性型情報の計量的評価の例として示すが,これはTMのごく一部の具現化に過ぎず,本来のTMのあるべき姿,目標はこれだけではない.このようなことからTMの今後の進むべき道あるいは期待される方向は何かについての私見を述べる.