- 著者
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鵜飼 卓
- 出版者
- 一般社団法人 日本救急医学会
- 雑誌
- 日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
- 巻号頁・発行日
- vol.19, no.12, pp.1069-1079, 2008-12-15 (Released:2009-08-07)
- 参考文献数
- 7
- 被引用文献数
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1
2008年上半期の自然災害による死者は約23万人,被災人口は約 1 億 3 千万人に上る。人口の急増と都市への集中などによって,自然災害はその規模を拡大させ,また地域紛争も後を絶たず,災害の被害者は益々増加の傾向にある。世界の難民は約 1 千万人,国内避難民は約 2 千万人を数える。これらの災害に対して,国際社会は人々の生命を救い,生活を支援するために,国連レベル,各国レベル,自治体レベル,そして市民レベルで各種の人道支援活動を開始するが,医療支援はその重要な一部分を占める。国際的な人道支援に関与する国連機関としては,UNOCHA,UNHCR,UNICEF,WHO,WFP,HABITAT,IOMなどがあり,医療を担当する主なNGOにはICRC,IFRCをはじめ,MSF,MDM,Merlin,CARE,CARITASなど数多くの団体がある。日本の国際災害緊急医療支援を実施する組織としては,日本国際緊急援助隊医療チーム,日赤医療チーム,AMDA,HuMAなどがある。これらの団体が海外の災害被災地に医療チームを派遣して救援医療活動を行うに当たって守るべき行動規範としてスフィアプロジェクトと国際赤十字のガイドラインとがある。これらを知らずしていきなり未経験の派遣希望者を被災地に派遣すべきではない。国際災害救援医療活動に伴う課題は少なくない。被災地への到着のタイミングの遅れ,被災者の真のニーズの把握とグループの持つ対応能力との整合性,他団体の活動との重複や競合,復旧・復興・開発段階の地域の医療との整合性,経済性などは全世界的な共通の課題であり,日本国内の問題としては人材確保と教育の機会,活動資金の調達,被災地のニーズに見合う特色のあるチーム作りなど数々の課題が残されている。これらの課題にもかかわらず,国際災害救援医療は日本人による国際貢献の一手段として,世界に一灯をともすものとして発展させるべきであろう。若手の医療人の参加を期待する。