著者
吉田 雄樹 黒田 清司 和田 司 奥口 卓 遠藤 重厚 小川 彰
出版者
日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.14, no.4, pp.179-186, 2003-04-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

1996年1月から2002年4月までの期間に,初回CTにて急性硬膜下血腫およびそれに伴う脳腫張が主病変であり,GCSが10以下もしくはmidline shiftが10mm以上であった重症例52例に対し,救急外来での穿頭による血腫除去術を行った。52例中42例は搬入時既に瞳孔異常を伴う脳ヘルニア状態を呈していた。穿頭術のみによる血腫除去率は平均で69%であり,なかでもCT所見にて低吸収像の混在するmixed densityを呈する症例ほど除去率が高かった。穿頭術後に瞳孔所見や意識の改善が36例(69.2%)に認められた。穿頭術のみで脳圧管理が可能であった症例は13例であった。全症例の転帰は,GOS評価でGR 6例,MD 6例,SD 4例,PVS 4例,D 32例であった。さらに術式別にみると,穿頭術のみではGR 6例,MD 4例,SD 1例,D 22例であり,開頭術を追加されたものはMD 2例,SD 3例,PVS 4例,D 10例であった。穿頭血腫除去術は,急性硬膜下血腫に対しては効果的でかつ迅速に行える方法で,重症頭部外傷例においても施行可能な手技である。ゆえに救急外来での穿頭血腫除去術は,重症急性硬膜下血腫例に対して試みるべき方法であると思われた。
著者
蕪木 友則 須崎 紳一郎 勝見 敦 原田 尚重 原 俊輔 伊藤 宏保 安田 英人
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.207-212, 2013

経動脈的塞栓術が有効であった穿通性腹部臓器損傷症例を経験したので報告する。症例1は35歳の女性。路上歩行中に果物ナイフで数箇所を刺され受傷した。そのうちの右前胸部の刺創は,胸腔から腹腔内に達していた。来院時血圧は維持されており,腹部造影CT上,肝右葉に損傷を認め,造影剤の血管外漏出所見,腹腔内出血を認めた。主要な損傷は肝損傷のみで,損傷部からの持続出血を認めたが,肝動脈塞栓術で出血のコントロール可能と考えて,経動脈的塞栓術を施行した。塞栓術により,出血はコントロールできた。症例2は63歳の男性。妻と口論の末,果物ナイフで右背部を刺され受傷した。来院時血圧は76/43mmHgであったが,輸液負荷により上昇し,腹部造影CT上,造影剤の血管外漏出所見を伴う右腎損傷を認めた。腎動脈の分枝からの出血と判断し,腎動脈塞栓術にて出血のコントロール可能と考えて経動脈的塞栓術を施行した。塞栓術により,出血はコントロールされた。穿通性腹部臓器損傷に対する止血法として,循環が維持され,CT検査が施行できる症例に関しては,経動脈的塞栓術も選択肢の一つになると思われる。
著者
村上 成之 中村 紀夫 谷 諭
出版者
日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.3, no.6, pp.461-470, 1992-12-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
21
被引用文献数
1

二輪車交通事故における頭部外傷のメカニズムを検討する目的で,臨床情報をふまえて事故後回収したヘルメット120例について分析を加えた。臨床データから頭部外傷の程度によって負傷者を軽症,重症,死亡に分類した。また,障害の内容も細分しそれぞれの延べ数を求めた。ヘルメットは外表の観察にとどめず,切断して衝撃吸収ライナーとして使用されている発泡スチロールの状態も検査した。この方法によりヘルメットの損傷部位と程度を評価した。ヘルメットが事故に際し脱落したもの(脱落例)では脱落しなかったもの(非脱落例)に比べ障害が重症となる傾向を示した。局所性脳損傷は脱落例で多いのに対し,びまん性脳損傷は脱落例,非脱落例で明らかな差はみられなかった。ヘルメットの分析結果から衝撃の強さと方向を推定し頭部外傷の傷害内容と比較したところ,急性硬膜下血腫ではヘルメットの辺縁部に前後方向から衝撃を受けた場合に生じやすく,びまん性軸索損傷は円蓋部に横方向から衝撃を受けた場合に生じやすかった。脳組織の損傷メカニズムとして,実験的に回転外力でびまん性脳損傷が生じやすいことが証明されている。ヘルメットの円蓋部を打ったときにびまん性軸索損傷が多かったのは,ヘルメットの円蓋部への衝撃では頭部の重心より上部に外力が加わり,辺縁部への衝撃に比べ回転外力が生じやすいためと考えられた。急性硬膜下血腫,脳挫創,びまん性軸索損傷などの重症の脳外傷はヘルメットの損傷の強い場合が多かった。ヘルメットにそのような損傷を来す外力がヘルメットを着用せず直接頭部に加わっていたならば,さらに重篤な脳損傷を来して死亡していた可能性が強いと推定された。したがって,重症度の軽減の面からはヘルメットは十分に脳保護作用を発揮していると考えられる。
著者
石田 詔治 黒田 誠一郎 吉永 和正
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.103-109, 1990

西宮市消防局,新明和工業と防振ストレッチャーを共同開発し,予備実験,実車搭載走行で振動測定実験を行った。生体は1~14Hzの周波数域で全身振動に暴露されると,各種の生体反応や臓器共振をきたす。したがって,生体の全身振動を軽減するには,この周波数域で車体からストレッチャーへの振動伝播を軽減する必要がある。加振台上での予備振動実験において,ストレッチャーへの振動伝達率は25~50%未満であった。テストローラ上での実車走行実験を時速20, 50, 80kmにおいて,床面とストレッチャー上の振動レベル80%上端値を計測した。ストレッチャー上の頭部,胸部の高さに相当する部位での80%上端値は速度の影響をほとんど受けなかった。床面と比較した80%上端値は頭部で2~18%,胸部で10~37%と,いずれも低値を示した。しかし,胸部の高さでの振動伝播の軽減の程度は,頭部に相当する部分と比較して低値であった。一般道路での実車走行実験は,時速40kmの定時走行で,床面とストレッチャー上のパワー・スペクトル密度(以下PSD)を測定した。1~14Hzの周波数域でストレッチャー上の頭部,胸部に相当する位置で測定されたPSDは,全周波数で床面より低値を示した。すなわち,この防振ストレッチャーは一般道路上の実車走行でも,床面と比較して防振ストレッチャー上の振動が少ないことが実証できた。しかし,胸部の高さでの振動伝播の軽減の程度は,テストローラ上での結果と同様,頭部に相当する部位と比較して低く,まだこの防振ストレッチャーに改良の余地のあることを示唆した。
著者
山田 浩二郎 山本 五十年 宮田 敬博 有嶋 拓郎 澤田 祐介 島田 康弘 橋本 俊賢
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.261-270, 1994

わが国における医師常駐型ドクターカー制度導入の可能性と救急搬送システムの問題点を検討する目的で,フィールド研究を施行した。調査は,1991年1月21日から1月30日(10日間),愛知県名古屋市中区消防本部に医師が常駐し,すべての救急搬送要請事例について救急車に同乗し行った。搬送要請事例は55例(外因性30例,内因性24例,誤報1例),うち52例を搬送した。患者は男33例,女21例,平均年齢44.5±21.3歳であった。現場または救急車内における処置施行例は37例,救命処置施行例は1例であった。搬送時間は覚知~現場到着が4.8±2.2分,現場到着~救急車収容が8.4±85分,覚知~医療機関搬入が22.2±9.0分であった(平均±標準偏差)。重症患者,深夜帯(午前2時から午前6時)では全搬送時間が増大する傾向を認めた。全搬送時間は現場時間(現場到着~救急車収容)と救急車内時間(救急車収容~医療機関搬入)とおのおの正の相関(p<0.0005)を認めた。相関係数の差の検討の結果,p<0.05をもって救急車内時間がより深く関係していた。本調査により,以下の結論を得た。(1)搬送事例の98.1%は現行の救急隊員の技能で対応可能であり,1日あたりの出動件数は5.5回であることより,今回の調査地域において1消防機関1医師常駐型ドクターカー制度導入は非効率的である。効率と効果を考慮するならば,(1)搭乗医師の確保,(2)覚知より10~15分以内に到達可能でしかもより広い管轄範囲の設定,(3)出動システムの整備など救急司令をも含む抜本的な救急搬送システムの改善が必要である。(2)救急車内時間の増大は,搬送医療機関決定の遅れ,搬送距離の増大を反映するものと推察された。(3)現行の救急司令情報では現場到着前に患者の状態の推測は困難であり,救急救命士制度,ドクターカー制度のいずれの導入においても救急司令システムの高度化が必要であると思われた。
著者
境 雄大 伊藤 博之 八木橋 信夫 大澤 忠治 原田 治
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.53-56, 2006

穿通性胸部外傷で手術を要する症例は多くはないが,致死的状況に陥る可能性がある。今回,われわれは胸部刺創による肺穿通性損傷の1救命例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。患者は52歳の女性。口論の末,右側胸部を包丁でさされた。包丁が右胸部に刺入された状態で当院救急外来へ搬入された。来院時,意識清明,右肺音減弱,右側胸部に包丁が刺入され,刺入部から気漏聴取した。周囲に皮下気腫を認めず。血圧142/68mmHg,脈拍94/min,酸素マスク5リットル投与下でSpO<sub>2</sub> 99%であった。来院時のヘモグロビン値は12.9g/dlであった。胸部X線及びCT検査にて包丁は肋骨を切離,右下葉を貫通し,胸椎近傍に達していたが,心大血管損傷は認められなかった。肺損傷の診断にて同日,緊急手術を施行した。分離肺換気下に後側方開胸を行った。包丁は第10肋骨を切離,左下葉を貫通し,第8肋骨の肋骨頚内に達していた。肺門部において血管・気管支を処理後に右下葉切除を行い,包丁を抜去した。術中出血量は1,110gであった。術中及び術後MAP血6単位を輸血したが,術後の病状は安定した。術後は創部の緑膿菌感染を認めた他は良好に経過し,第31病日に退院した。自験例においては心大血管損傷の有無を評価し,早朝に手術を開始する上でCTが有用であった。
著者
立澤 直子 田島 紘己 佐川 俊世 田中 篤 古井 滋 滝川 一 坂本 哲也
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.113-118, 2014
被引用文献数
1

小腸アニサキス症は強い腹痛および炎症所見を呈し,診断が困難で急性腹症として開腹される例が多く報告されている。今回我々は,①発症前数日以内の鮮魚の生食,②腹部CT上腸閉塞など特徴的所見,によりER受診当日に小腸アニサキスと診断し,保存的加療にて改善した6例を経験した。[症例1]54歳の男性。生秋刀魚を摂食した3日後,上腹部痛が出現した。[症例2]63歳の男性。生鯖を摂食した2日後に臍周囲痛・嘔吐が出現した。[症例3]57歳の男性。ほぼ毎日刺身を摂食していたが,受診前夜よりの腹部全体の間欠痛が出現した。[症例4]36歳の男性。生鰹を摂食した翌日に心窩部痛・嘔吐が出現した。[症例5]63歳の女性。生サンマを摂食した翌日,下腹部痛・嘔気が出現した。[症例6]55歳の男性。しめ鯖を摂食した2日後,心窩部から臍周囲にかけての腹痛出現が出現した。全例において来院時の腹部造影CT上,造影効果を伴う限局性・全周性の小腸壁の肥厚と内腔の狭小化,および口側の小腸の拡張と液面形成,腹水貯留を認めた。小腸アニサキスと診断し,保存的加療にて改善した。後日来院時と発症4-5週とのペア血清で特異的抗アニサキス抗体価の上昇を確認した。発症前数日以内に鮮魚を生食後,強い腹痛を主訴に来院し,特徴的な腹部造影CT所見を呈した患者は,小腸アニサキス症を常に念頭に置き,早期診断,治療をする必要があると考えられた。
著者
橘高 弘忠 西本 昌義 福田 真樹子 西原 功 小畑 仁司 大石 泰男 秋元 寛
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.7, pp.406-412, 2013-07-15 (Released:2013-10-16)
参考文献数
11
被引用文献数
1

症例は61歳の男性。3年前にKlebsiella pneumoniaeを起因菌とした肝膿瘍の既往があった。発熱と全身倦怠感を主訴に他院に救急搬送され,精査の結果,肝膿瘍による敗血症,播種性血管内凝固症候群と診断され当センターへ転院となった。腹部超音波検査,腹部造影CT検査所見では,肝外側区域に隔壁を伴う膿瘍形成を認め,抗菌薬(BIPM)の投与を開始した。第2病日に呼吸状態が悪化したため,気管挿管し人工呼吸器管理を開始するとともに超音波ガイド下経皮経肝的膿瘍ドレナージ術を行った。ドレーン造影を行うと,蜂巣状の膿瘍とそれに連続して胆管が造影された。穿刺液細菌培養の結果,Klebsiella pneumoniaeが検出された。発熱が続いたため,第10病日に腹部CTを撮影したところ,肝膿瘍の増大,右腸腰筋膿瘍およびL3/L4の化膿性脊椎炎の合併を認めた。また第11病日より項部硬直が出現した。髄膜炎を疑い,髄液採取を試みたものの採取できなかったため,頭部MRIを行ったが異常所見はなかった。肝膿瘍に対してドレナージ治療の限界と判断し,第12病日に肝外側区域切除術を施行したが,発熱・意識障害は遷延した。第18病日に髄液採取に成功し,細菌培養検査を施行したところ,多剤耐性のEnterococcus faeciumが検出された。Linezolidの追加投与を開始したところ,解熱とともに意識レベルは改善し,第30病日のCTでは腸腰筋膿瘍と脊椎炎の消失を認めた。意識レベルの改善とともに視力障害の訴えがあったため,眼科へコンサルトしたところ細菌性眼内炎と診断され転院となった。本症例は肝膿瘍から転移性病変を生じ,さらに菌交代を伴ったためEnterococcus faeciumが起因菌となったものと考えた。
著者
石山 賢 渡邉 千之
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.5, no.4, pp.331-343, 1994

リムルステスト〔血中エンドトキシン(Et)検出法〕が,1970年LevinとBangによって発表されて以来4半世紀を経過した。本法は,検体がタンパクを含まない溶液の場合には何ら問題がなく,鋭敏度や特異性の検討も詳しく行われて満足のいく検査であることが確かめられた。しかし,ヒトの血漿が検体である場合には,血漿中のリムルス反応阻害物質のためにうまくいかない。阻害物質としては,lysateの活性化を直接干渉ないし阻害する血液中の凝固因子や諸酵素,Etに親和性をもちEtと結合してEtの活性を抑制するようなcarrierタンパクであるHDL, apolipoprotein,あるいはIgM, IgGなどが考えられている。この反応阻害物質,干渉物質を排除する技法として,従来から種々考案されてきた。クロロフォルムによる抽出法,血漿の希釈および加熱法,弱酸による除タンパク法などが代表的であるが,いずれも少しずつ欠陥がある。今日わが国では,岩永らによって開発された合成発色基質を用いる定量法が普及し臨床検査として定着しつつある。しかし本法とて反応阻害に関しては同じである。血漿の前処理法としては主として過塩素酸処理法を用いるよう推奨されているが,これではタンパクと結合したEtが沈澱するために実際に血中に存在するEtの大部分が測定されないことになり,実測値としてはいわば水面に現れた氷山の一角のみをみているに過ぎないというおそれがある。この点を克服するために,酸によって生じた沈澱を再溶解する方法,全血を用いる方法,血中からEtをクロマトグラフィーによって抽出するなど種々試みられているが,未だ満足すべき技法の確立に至っていない。本稿では,リムルステストの原理を解説し,現行の技法の問題点を考察して得られる実測値の吟味を行った。
著者
平田 清貴 松本 宜明 松本 光雄 村田 正弘 黒川 顕
出版者
日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.10, no.11, pp.657-666, 1999-11-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
28

わが国における急性ベンゾジアゼピン系薬物の重篤,かつ致死的な中毒の実態を解明することを目的として,1996年の1月から12月において,日本の59の三次救急医療施設に受け入れられた669人の急性ベンゾジアゼピン系薬物中毒症例と,同一期間における日本の27の都道府県警察管区(58.7%の都道府県に発生した)におけるベンゾジアゼピン系薬物を服用し,死亡した95例の法医学的検死例について解析し検討を行った。両群とも大多数が自殺目的によるベンゾジアゼピン系薬物中毒であり,その比率はそれぞれ82.7, 83.2%であった。フルニトラゼパム,トリアゾラム,エチゾラムそしてニトラゼパムが両群に共通して多く使用された薬物群であった。とくにフルニトラゼパムが統計的にも有意に検死例群に多く使用されていたことは,効果の発現が早い一方で生物学的半減期が長いとされるこの薬剤のもつ薬物動態上の特徴からも納得できる。一方,両群において,ベンゾジアゼピン系薬物中毒例の多くは血漿および尿中の検出試験を受けていなかった。このことは診断を誤らせる可能性と同時に急性中毒研究の科学的進歩の妨げにもなっていると考えられる。本研究において,6例が三次救急医療施設にベンゾジアゼピン系薬物を含む複合薬物中毒で搬入され死亡した。そのうち5人は来院時心肺停止状態の患者であった。よって急性ベンゾジアゼピン系薬物中毒に関連する死亡例のほとんどは医療機関外で,発見されず,処置も受けなかったために発生すると考えられる。また,大多数の患者が使用薬物を処方箋により入手していることから,本薬剤の無分別な処方と画一的な調剤は急性中毒発生の原因のひとつとなっていると考えられる。したがって,その急性中毒の発生を抑制するには薬歴管理や服薬指導を行い,ベンゾジアゼピン系薬物(とくにフルニトラゼパム,トリアゾラム,エチゾラム,ニトラゼパム)の臨床使用をより適切に管理することが重要といえよう。
著者
片岡 祐一 相馬 一亥 大和田 隆
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.6, no.4, pp.329-336, 1995-08-10
被引用文献数
1 1

近年,増加傾向にある気管支喘息発作による発作死患者の病態を知る目的で,気管支喘息により来院時心肺停止状態であった患者26人(心肺停止群)を,重症気管支喘息のため人工呼吸管理を必要とした患者25人(対照群)と比較し,背景因子や臨床経過,病態生理などの差異について検討した。両群間で性比,年齢,通院治療歴,大発作入院歴,24時間以内の緩解発作の既往などの背景因子に差は認められなかった。来院までの経過は,心肺停止群では通報時12人(46.2%)が意識清明であったにもかかわらず,救急隊現場到着時20人(76.9%)の患者が心肺停止状態となっていた。一方対照群では,来院時22人(88.0%)に意識障害を認めたが,全例血圧は維持されていた。気管内挿管時の動脈血ガス所見では,心肺停止群は高度の混合性アシドーシスであったのに対し,対照群は呼吸性アシドーシスのみであった。症状出現から人工呼吸開始までの時間および治療開始後,気管内挿管時のPaCO<sub>2</sub>が半減するまでの時間は,心肺停止群でそれぞれ106±31min, 132±34minで,対照群の322±62min, 591±173minに比べ,ともに有意に短時間であった(p<0.01)。また症状出現から人工呼吸開始までの時間の分布も,心肺停止群は1時間以内が17人(65.4%)を占めていたが,対照群は1時間以上が17人(68.0%)占めていた。以上より心肺停止群は症状出現後急速に増悪し,きわめて短時間のうちに心肺停止に陥っているが,治療開始後の換気の改善もきわめて速い。心肺停止となる気管支喘息発作は,病態生理学的に発症機序が異なることが考えられ,わが国において急速に心肺停止に至る気管支喘息発作患者を減少させるためには,発症機序の解明とともに病院に来院するまでの対策が重要と考えられる。
著者
稲垣 剛志 木村 昭夫 萩原 章嘉 佐々木 亮 新保 卓郎
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.192-199, 2013
被引用文献数
1

【目的】鈍的頭頸部外傷患者において,頸椎CT撮影の新たなclinical decision rule(CDR)を作成することを目的とした。【方法】Derivation研究の対象は2008年4月1日~2010年8月14日に当院へ救急搬送された頭頸部外傷患者のうち頸椎CTを施行した1,076症例,Validation研究の対象は2010年8月15日~12月31日に当院へ救急搬送された頭頸部外傷患者887例とし,診療録および救急患者データベースから後ろ向きに情報を得た。頸椎損傷の定義は骨折もしくは脱臼とした。頸椎損傷の有無と相関する因子を解析した後に,感度100%となるような新たなCDRを導けるか検討した。【結果】単変量解析では,年齢,後頸部痛の有無,神経学的異常所見の有無,来院時のGlasgow coma scaleスコアにおいてCT上の頸椎損傷所見の有無で有意差が認められた。また年齢が高い群で受傷機転における階段等からの転落の有無も有意差が認められた。二進再帰分割法を行った結果,意識障害や後頸部症状に加え,年齢や具体的な受傷機転を含めた新たな頸椎CT施行基準が導出され,感度100%を保ち,損傷の見逃しを回避することができた。以下に新基準により頸椎CTの適応となるものを示す。(1)GCSスコア13以下の患者。(2)GCSスコア14-15の患者で後頸部圧痛か神経学的異常所見を有する患者。(1) (2)以外の患者のうち,(3)60歳以上:受傷機転が階段等からの転落であった患者。(4)60歳未満:受傷機転がバイクの事故か墜落であった患者。【結語】従来より提唱されているGCSスコア,頸部症状,神経所見に加え,年齢や具体的な受傷機転を評価項目に含めた新しい基準は感度が高く,頸椎損傷の見逃しを回避しうるCDRである。
著者
櫻井 聖大 山田 周 北田 真己 橋本 聡 原田 正公 木村 文彦 高橋 毅
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.132-140, 2013-03-15 (Released:2013-05-29)
参考文献数
22
被引用文献数
1 2

重症感染症ではしばしばdisseminated intravascular coagulation(DIC)を合併することで虚血性の多臓器障害を惹起し,その予後は不良となる。感染症自体のコントロールと適切な抗DIC療法を併せて行うことが重要である。わが国において現在,感染性DICにおいて最も推奨される抗DIC薬はアンチトロンビン(AT)製剤であるが,最近リコンビナントトロンボモデュリン(rTM)製剤の有効性が相次いで報告されている。当院で治療を行った感染性DIC症例に対して後ろ向きに調査し,rTM単独投与群と,rTMとAT併用投与群での臨床効果の比較検討を行った。両群間で患者背景や治療開始時の重症度には有意差はなく,DIC離脱率,7日以内のDIC離脱率,28日後生存率といった予後にも有意差を認めなかった。また血液検査での炎症系マーカー,凝固・線溶系マーカー,日本救急医学会の急性期DIC診断基準のスコア(以下,急性期DICスコア)は,rTM投与により有意に改善したが,rTM単独群とAT併用群の両群間では,その改善の程度に有意差を認めなかった。以上のことから,rTMにATを併用しても必ずしも予後の改善に結びつくとは限らず,rTM単剤でも臨床効果が期待できる可能性があると思われた。
著者
日比野 誠恵 堀 進悟
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.12, pp.925-934, 2010-12-15 (Released:2011-02-09)
参考文献数
23
被引用文献数
1

米国救急医学の歴史的背景,現状(法整備,統計指標,診療体制,他職種の関与,ワークライフバランスと女性参加,病院経営との関係),更に問題点をまとめ,本邦に導入されつつあるER型救急医療と比較した。米国救急医学は1960年代に誕生し,組織化され,専門医資格,研修制度を獲得し,現在では約4万人の救急医が全米で働き,社会のセーフテイネットとして機能している。米国救急医学が発展した理由は,医療需要に合致する救急医療モデルであったこと,そして完全シフト制と待遇に配慮して救急医を多数獲得し,組織化により診療以外にも教育,研究体制を整備したことによる。本邦のER型救急医療は1990年代に誕生し,大都市を中心に普及しつつあるが,未だ黎明期にあるため救急医の数も少なく,業務も入院診療を担当し,したがって完全シフト制ではない場合があり,米国救急医学と同一の内容ではない。一方,本邦のER型救急医療と同様に,欧州でも同様に米国救急医学を導入する潮流があり,都市型救急医療需要への対応は先進国に共通した現象と考えられる。米国救急医学の歴史を振り返ると,ER型救急医療を発展させるためには,救急医の質の標準化,ワークライフバランスを考慮した人的資源の獲得が重要と考えられる。
著者
池田 弘人 金子 一郎 多河 慶泰 遠藤 幸男 小林 国男 鈴木 宏昌 中谷 壽男
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.4, pp.190-194, 2001-04-15

A middle-aged man was found unconscious at apartment after ingesting gamma hydroxybutyric acid (GHB) purchased via the internet sales and was admitted to our critical care center. He underwent gastric irrigation and respiratory assistance with intubation at the emergency room due to a probable drug overdose and respiratory acidosis. After fully recovering, he admitted he had taken large doses of GHB with alcohol. The US Federal Drug Administration (FDA) banned GHB sale as an OTC drug in 1991 but has not succeeded in controlling increased GHB addiction. Unconsciousness, coma, hypothermia, bradycardia, hypotention, muscle weakness, myoclonus, convulsion, respiratory distress, and vomiting are common symptoms after GHB ingestion. Treatment such as gastric irrigation, atropine for bradycardia, and respiratory assistance in hypoxia are recommended. Little attention is paid to GHB in Japan because of its rarity and its sale is not illegal, unlike the strict restrictions in the US and European countries. With GHB available over the Internet, its abuse is expected to increase.
著者
石田 岳史 松田 昌三 小山 隆司 栗栖 茂 大藪 久則 柴田 正樹
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.6, no.4, pp.362-365, 1995-08-10
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We report an unusual case of a 63-year-old man supposedly bitten by a mamushi, who developed shock, bleeding diathesis and serious hematemesis at an early stage. About 10 minutes after the mamushi bite, he fell into shock transiently, and 2 hours later, continious bleeding from the bite wound and an injection site was observed. This platelet count decreased markedly to 1.3×10<sup>4</sup>/mm<sup>3</sup> resulting in serious hematemesis. Four hours after the bite, we injected Agkistrodon halys antivenin (6, 000U) with methylpredonisolone sodium succinate 500mg and the bleeding from the bite wound and hematemesis improved remarkably. Twelve hours after the bite, the platelet count had increased to 27.1×10<sup>4</sup>/mm<sup>3</sup>, and the patient had recovered from the bleeding diathesis. Mamushi bites are sometimes complicated by DIC (disseminated intravascular coagulation) as a result of massive tissue necrosis, however, there was severe thrombocytopenia and bleeding diathesis in this case, even though the local swelling and muscle necrosis were not serious. It is very important to closely monitor patients after mamushi bites, and mamushi antivenin should be used early without hesitation when these complications are observed.