著者
宮内 崇 藤田 基 末廣 栄一 小田 泰崇 鶴田 良介
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.5, pp.191-200, 2014
被引用文献数
1

軽症頭部外傷は救急外来を受診する頭部外傷のなかで最も多い。近年,スポーツ選手や軍事活動に従事する兵士のように,軽症頭部外傷を繰り返し受傷した人たちが,受傷から数年後に慢性的な認知機能障害や抑うつ状態を呈することが報告され,繰り返される軽症頭部外傷に関連する慢性外傷性脳症(chronic traumatic encephalopathy: CTE)が注目されている。軽症頭部外傷の患者の多くは比較的若年者であり社会的な影響が大きいため,海外ではその病態の解明や診断,治療法の研究が盛んにおこなわれている。軽症頭部外傷のうち受傷直後から頭痛,めまい,嘔気,意識消失などの一過性の症状を呈し,画像上明らかな異常を認めないものを脳振盪と呼ぶ。脳振盪は明確な診断基準がないため,アセスメントツールを用いて症状の経過をフォローして診断を試みる。脳振盪を含む軽症頭部外傷に関連する病態としてCTEの他,急性期に発生するセカンドインパクトシンドローム(second impact syndrome: SIS),急性期から引き続き起こる脳振盪後症候群(post-concussion syndrome: PCS)がある。これらの病態は軽症頭部外傷を繰り返すことによって発生するリスクが高くなるといわれているが,そのメカニズムは明確ではない。現在のところ,軽症頭部外傷を受傷した患者に対しては再度頭部に衝撃を与えないように安静を保つことが重要である。スポーツでは,プレー中に受傷した選手は直ちにプレーを中止させる。またプレーへの復帰は段階的に行い,症状の変化を経時的に観察し,重症化の徴候を見逃さないように注意する。治療は対症療法が中心で,重症化,慢性化の予防に対する薬物療法などの有用な治療法はない。軽症頭部外傷に対しては保護者・指導者の教育が重要である。リスクの高い環境にいる場合,とくに脳が発達過程にある小児に対しては,繰り返す受傷を予防できる環境と,受傷した場合への対策を整える必要がある。そのため本邦のガイドラインの作成と軽症頭部外傷への理解,プロトコールの遵守の徹底が望まれる。
著者
佐々木 輝夫 吉田 雄樹 大間々 真一 菊地 康文 小笠原 邦昭 遠藤 重厚 小川 彰
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.5, pp.282-287, 2009

外傷性椎骨動脈閉塞は交通事故によるものが多いが,近年スポーツに伴う報告が散見される。相撲の稽古中に発症した 2 例を報告する。症例 1 は17歳の男性で相手の胸に前額部を強打し頭痛・嘔吐を主訴に来院した。magnetic resonance imaging(MRI)で右posterior inferior cerebellar artery(PICA)領域の多発性脳梗塞,magnetic resonance angiography(MRA)・脳血管撮影検査で右椎骨動脈閉塞を認めた。症例 2 は16歳の男性で張り手を顔面に受け,後頸部痛と回転性のめまい,左上下肢のしびれが出現したため受診した。MRIで右延髄外側の脳梗塞,MRA・脳血管撮影検査で右椎骨動脈閉塞を認めた。 2 症例とも外傷性椎骨動脈閉塞に伴う脳梗塞の診断でエダラボンの点滴加療を行い,神経学的脱落症状なく自宅退院した。頭頸部の回旋,過伸展に伴う外傷性椎骨動脈閉塞はスポーツに伴う若年者の閉塞性血管障害の原因の一つであり,スポーツ医学の見地から救急医に注意を喚起する意味で報告する。
著者
丸茂 裕和
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.11, no.7, pp.311-322, 2000-07-10
被引用文献数
9
著者
太田 好紀 松田 直之 西山 慶 大鶴 繁 小林 勝哉 瀬川 一 小池 薫
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.10, pp.836-842, 2009-10-15 (Released:2009-12-28)
参考文献数
10

症例は63歳の男性。ニセクロハツを摂取し,1時間後に嘔吐,4時間後に下痢,18時間後に全身筋肉痛,21時間後に呼吸困難感が出現し,救急外来を独歩で受診した。血行動態に変化は認めなかったが,身体所見と血液検査所見などからニセクロハツ中毒による近位筋の横紋筋融解症と診断した。急性腎不全などの臓器不全を予防するため下大静脈(IVC)径が20mm以上もしくは中心静脈圧(CVP)が8mmHgになるように初期輸液を開始した。第3病日まで晶質液を7~7.5L必要とし,その間CVPは8mmHg以上が維持され,尿量は1~2ml/kg/時以上を得た。第3病日に血清CKは46,876IU/lを最高値としたが,輸液療法により腎機能が保たれていたため血液浄化療法の適応としなかった。ニセクロハツ中毒に対してIVC 20mm以上もしくはCVP 8mmHg以上を目安として初期輸液をすることで横紋筋融解症の増悪や急性腎不全の合併を回避できた可能性がある。
著者
秋元 秀昭 高里 良男 正岡 博幸 早川 隆宣 八ツ繁 寛 東森 俊樹 菅原 貴志
出版者
日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.1-10, 2003-01-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
24
被引用文献数
1

びまん性軸索損傷(diffuse axonal injury; DAI)はCT所見に乏しい割に,転帰不良の症例が存在する。急性期の脳血流量(cerebral blood flow; CBF)測定とMRI (magnetic resonance imaging)撮像を積極的に行い,その所見によりDAIの予後を予測し得るか検討した。対象は来院時指示動作に応じず,CT上頭蓋内占拠性病変を有しない症例のうち意識障害が24時間以上遷延した症例とした。CT所見は外傷性クモ膜下出血,実質内小出血,脳室内出血,異常所見なしなどの症例が含まれた。それらは1995年7月から1999年12月までの期間に当院に入院したDAI症例のうち急性期にCBF測定およびMRIを施行し,転帰を確認し得た21例で,内訳は男性15例,女性6例。年齢は17歳から86歳,平均37.5歳。来院時Glasgow Coma Scale (GCS)は3から12,平均6.7。CBFはXe(キセノン)CTにて測定し大脳半球平均値を算出し,MRIはT1, T2 axial像とT2 sagittal像を撮像した。いずれも受傷7日以内に施行した。受傷6か月後のGlasgow Outcome Scaleがgood recovery(症例数10,以下同じ)とmoderate disability (4)の転帰良好群(14)とsevere disability (4), vegetative state (2), death (1)の転帰不良群(7)に分け,それぞれの年齢,来院時GCS, CBF値,MR所見を比較した。年齢は転帰良好群の平均が31.4歳,転帰不良群の平均が50.0歳で,転帰良好群で有意に低かった。来院時のGCSは,両群間で有意差はなかった。転帰良好群のCBF平均値は43.2ml/100g/min,転帰不良群では33.6ml/100g/minと,転帰良好群で高かったが統計学的有意差はなかった。MRI上の脳梁と深部白質病変の有無は転帰とまったく相関せず,一方視床と脳幹部病変は転帰不良との相関が高く,とくに脳幹病変の有無と転帰との間には統計学的有意差がみられた。DAIの転帰に影響する因子は年齢とMRI上の脳幹部病変の存在であった。脳血流量と転帰との間には統計学的な有意差は認められなかった。高齢者やMRI上脳幹部病変を有する症例では日常生活自立が難しいといえる。
著者
柳川 洋一 萩原 章嘉 西 紘一郎
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.168-173, 2008-03-15 (Released:2009-07-19)
参考文献数
13

42歳の女性が歯痛,発熱,下顎~頸部腫脹で近医を受診し,感冒と診断されたが症状が悪化し,当院に搬送された。来院時,敗血症性ショック状態であり,頸部と胸部の造影CTで頸部及び縦隔膿瘍,膿胸を示唆する所見を得たため,頸部皮膚切開,気管切開と両側に胸腔ドレナージを施行した。口腔内を観察すると顎下腺開口部の拡大を認めた。以上の所見から,唾石症によると思われる顎下腺の炎症によりLudwig's anginaが生じて,降下性縦隔炎,膿胸,敗血症性ショックを合併したものと判断した。抗菌薬,人口呼吸管理と多房性膿胸に対するCTガイド下の外科的ドレナージの追加により全身状態は徐々に改善し,第58病日独歩退院となった。Ludwig's anginaは顎下部間隙膿瘍のことであり,主に齲歯から発生する。これが疎の口腔咽頭組織間隙を通じて感染が他に波及すると髄膜炎や降下性縦隔炎や膿胸を合併することもある。Ludwig's anginaは稀な疾患ではあるが死亡に至る可能性があるため,炎症所見を伴った下顎部腫脹の患者を診察した場合は,Ludwig's anginaを考慮する必要がある。
著者
中堀 泰賢 廣瀬 智也 塩崎 忠彦 小川 新史 大西 光雄 藤見 聡 嶋津 岳士
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.9, pp.774-780, 2013-09-15 (Released:2013-12-30)
参考文献数
20
被引用文献数
2 6

【背景】rSO2(regional saturation of oxygen)とは,動脈・静脈・毛細血管を含む酸素飽和度のことで,「局所混合血酸素飽和度」もしくは「組織酸素飽和度」とも呼ばれる。この値を測定することで,局所の酸素需給のバランスの変化をとらえることができるとされている。心肺停止患者の脳保護の重要性は強調されているが,蘇生処置中の脳の酸素化を検討した研究はない。【目的】病院外心肺停止患者の蘇生処置中の脳内酸素飽和度(rSO2)の継時的変化を明らかにすること。【方法と対象】2008年3月から2010年3月まで我々の施設に搬送された病院外心肺停止患者で蘇生処置中に脳内rSO2値を測定した患者を対象とし,自己心拍の再開の有無別,PCPS施行時のrSO2値を後ろ向きに解析した。また健常人15人から正常範囲を決定した。【結果】Room air条件下でのrSO2値の正常範囲は71.2±3.9%であった。自己心拍再開を認めない例は25例(71.0±15.9歳),自己心拍再開例は13例(72.1±9.6歳),PCPS施行症例は5例(54.4±15.8 歳)であった。自己心拍再開を認めない症例は胸骨圧迫を施行してもrSO2値の上昇は認めなかった。一方,自己心拍再開例では再開により著明に上昇し,自己心拍再開時はrSO2値43.2±14.1%であったが,10分後55.7±12.3%,15分後59.7±8.5%と有意に上昇した(それぞれp<0.05,p<0.01)。PCPS施行例において,開始時rSO2値48.4±8.9%であったが,施行5分後63.0±8.8%,10分後66.2±5.7%,15分後68.1±4.6%と有意に上昇した(ともにp<0.0001)。【結語】脳内rSO2値は胸骨圧迫のみでは上昇せず,自己心拍再開とともに上昇する。PCPS導入により速やかに脳内rSO2値は上昇する。
著者
加藤 博之 西原 学宣 大森 啓造 須永 俊明 徳永 蔵
出版者
日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.38-44, 1993-02-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
26

A case of drug-induced fulminant hepatitis is reported. A 48-year-old female was transferred to Saga Medical School Hospital because of fever, general fatigue, jaundice and marked liver dysfunction after being treated by her private physician with several drugs containing antibiotics and aspirin DL-lysine. On admission, prothrombin time was prolonged (13%), but the patient's consciousness was clear. Viral markers for hepatitis A, B and C were negative. On the fourth hospital day, consciousness disturbance (hepatic coma: grade IV) developed, and despite intensive treatment including glucagon-insulin therapy and plasma exchange, the patients died of hepatic coma with multiple organ failure on the eleventh hospital day. The liver weighed 710g, and exhibited features of massive necrosis histologically. The lymphocyte stimulating test was positive for cefmetazol and aspirin DL-lysine. A review of literature showed that in Japan about 5% of cases of fulminant hepatitis are due to drugs other than halothane. In most cases reported recently, the lymphocyte stimulating test has been positive for the causative drugs.
著者
萩谷 英大 小古山 学 赤堀 洋一郎 河原 義文 内藤 宏道 萩岡 信吾 森本 直樹
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.7, pp.431-436, 2013-07-15 (Released:2013-10-16)
参考文献数
16
被引用文献数
1

患者は慢性関節リウマチのため少量のプレドニゾロンとサラゾスルファピリジンを長期内服中の79歳の女性である。右大腿骨骨折に対する骨接合術のため入院中であったが,術後13日目に突然の腹痛が出現した。腹部全体に腹膜刺激症状を認め,腹部CTにて腹腔内に遊離ガスと液体貯留を認めたため消化管穿孔に伴う汎発性腹膜炎が疑われた。しかし同時に内部にガス産生を伴う腫大した子宮を認めたため経膣的ドレナージを施行すると大量の排膿があり,子宮留膿腫の穿孔に伴う汎発性腹膜炎の診断にて開腹手術となった。子宮底に穿孔部位を認め,子宮全摘術および両側付属器切除術を施行し,術後エンドトキシン吸着療法を含めた集学的治療により軽快した。子宮留膿腫は高齢女性にみられる予後良好の慢性疾患である。しかし稀に腹腔内に穿孔し汎発性腹膜炎の原因となり,致死的な疾患となり得ることが報告されている。腹腔内の遊離ガスと液体貯留を呈することが多いため,消化管穿孔の診断のもと開腹手術となり術中に診断されることが多く,術前診断率が低いことが指摘されている。本症例はステロイドと免疫抑制薬を長期併用する慢性関節リウマチ患者に発症した穿孔例であるが,急性腹症として発症する前に明らかな下腹部痛,異常帯下などは認めなかった。腹部CTにて子宮留膿腫の穿孔を疑ったことが,迅速な婦人科紹介,経膣的ドレナージ,適切な術式選択につながり救命できたものと考えられた。一般的に腹腔内の遊離ガスと液体貯留を伴う急性腹症の原因は消化管穿孔と考えられるが,高齢女性においては稀に子宮留膿腫の穿孔があることを救急医は認識しておくべきである。
著者
高桑 徹也 広井 悟 井上 義博 佐々木 盛光 中永 士師明 遠藤 重厚 星 秀逸
出版者
日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.4, no.4, pp.350-353, 1993-08-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

We report a case of myasthenia caused by a Mamushi (snake)[Agkistrodon halys Blomhoffi] bite. Electromyography revealed a marked increase in the amplitude of action potentials (waxing phenomenon) with fast rates of motor nerve stimulation and the response to tensilon was negative. This case indicates that Mamushi venoms contain a neurotoxin preventing the release of acetylcholine quanta from nerve terminals.
著者
羽尾 邦彦 松田 健 宮下 正夫 林 哲弘 中川 義宏 鈴木 英之 恩田 昌彦
出版者
日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.2, no.4, pp.718-722, 1991-08-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
8

Three cases of colorectal foreign bodies are presented and the literature is reviewed. Case 1: A 47-year-old man, who had inserted a seasoning bottle in his rectum on January 3, was admitted to National Yokosuka Hospital on January 5, 1990. A pelvic x-ray film showed the object in the sigmoid colon, and an emergency operation was performed. The bottle (11cm in length) was removed from the sigmoid colon. The patient was discharged 16 days after the operation without complications. Case 2: A 40-year-old man presented with a self-inserted seasoning bottle in his rectum that he was unable to remove and was admitted to the hospital on July 24, 1990. Edema of the rectum precluded manual removal of the object. At laparotomy, the bottle (7.5cm in length) was removed from the rectum. The patient's postoperative course was good and he was discharged on August 26. Case 3: A 62-year-old man was admitted on December 12, 1990 for evaluation of a one-day history of a foreign body in the anorectum following autoerotic transanal manipulation with a vibrator. The 6×3×3cm object was removed manually after a spinal anesthetic. The patient was discharged on the third postoperative day.
著者
横手 龍 清水 敬樹 田口 茂正 勅使河原 勝伸 速水 宏樹 清田 和也
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.10, pp.983-990, 2008-10-15 (Released:2009-08-07)
参考文献数
28

本邦では稀な電撃性紫斑を合併した劇症型髄膜炎菌性敗血症の成人例を経験したので報告する。症例は50歳の女性。突然の発熱,咽頭痛,両膝関節痛といった前駆症状に引き続いて播種性血管内凝固(DIC)及び広範電撃性紫斑を発症し,ショック,呼吸不全,腎不全に至った。血液培養からは髄膜炎菌が検出された。DIC,ショックに対する各種支持療法に反応して急性期を乗り切り,救命しえたものの,経過中に生じた広範囲の軟部組織壊死に対して,両下腿切断及び全手指切断術を余儀なくされた。集中治療の進歩によって,本症の救命率は劇的に向上した。また近年,本症の転帰のさらなる改善を期待した様々な治療法が提案されているが,その有効性を証明したものはない。現時点では,敗血症とDICに対する適切な支持療法を行うことが,本症に対する至適治療であると思われる。
著者
伊藤 祐佳 高須 朗 阪本 敏久 岡田 芳明
出版者
日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.35-39, 2004-02-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
18
被引用文献数
3 3 1

A 46-year-old woman was admitted 3 hours after she had ingested about 500ml of a toilet bowl cleaner (included 9.5% hydrochloric acid) in attempt to commit suicide. On admission, the base excess in the arterial blood was-20mEq/l and she had hypotension and anuria. An endoscopic examination on admission revealed corrosive degeneration in the entire esophagus and stomach. Abdominal compartment syndrome developed on the 5th hospital day and a decompression laparotomy was performed, which revealed necrosis of the whole stomach. A total gastrectomy without reconstruction was performed. On the 18th day, air leakage into oral cavity was seen during the inspiratory phase of the artificial ventilation. A bronchial fiberscope revealed an ulcer in the posterior wall of the left main bronchus. The air leakage stopped after the placement of a bronchial stent. However, the patient died on the 33rd day due to uncontrollable bronchial bleeding. Autopsy revealed severe mediastinal necrosis, esophago-bronchial fistula, and azygos vein destruction at the arch. According to our case and literature reviews of acid toilet bowel cleaner ingestion, most patients who died of esophageal perforation or esophago-bronchial (or tracheal) fistula had the following characters: ingested a volume of>300ml, severe acidemia, severe corrosive degeneration in the entire esophageal and gastric mucosa. In the patients who demonstrated such characters, an early esophagectomy is therefore recommended as a possible option to improve their outcomes.
著者
大塚 恭寛 石塚 保弘 三村 文昭 小笠原 猛 高橋 誠
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.139-144, 2011-03-15 (Released:2011-06-02)
参考文献数
24

胃悪性リンパ腫に対する外科的治療の役割は近年減少傾向にあるが,穿孔や大量出血などのoncologic emergencyは救命目的の緊急手術の適応である。我々が経験した症例は,9年前より慢性関節リウマチに対してステロイド治療中の51歳,女性である。3か月前からの食思不振に対する胃内視鏡検査にて,胃体上部から前庭部にかけての小弯に2型の潰瘍を伴う隆起性病変を認め,生検にてびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫と診断。腹部CTにて最大径21cmの巨大な胃原発腫瘍と領域リンパ節の腫大を認めた。病期診断のための精査中,突然の大量吐血から出血性ショックに陥ったため当科を救急受診。輸液負荷と輸血にてショックから離脱後に緊急胃内視鏡検査を施行したが,胃内には凝血塊が充満しており,内視鏡的止血は困難であった。以後も循環の維持に持続的な輸血を要したため,transient responderと判断し,吐血の13時間後に外科的止血目的の緊急手術を施行した。開腹すると,胃小弯より発生した巨大な腫瘍が,腫大し一塊化した領域リンパ節を介して膵体部と横行結腸間膜に浸潤していた。腫瘍は易出血性で,術中に消費性凝固障害が出現したため,系統的リンパ節郭清は危険と判断し,出血源である原発巣のみの切除を目的に胃全摘術(D0,後結腸性Roux-en Y再建)を施行した。術中出血量は5,600gであった。切除標本は径25×14×9cm,重量2,320gの全胃で,粘膜面に径21×13×8cmの腫瘍(佐野分類上の決潰型)を認めた。組織学的には漿膜露出とsampling摘出したリンパ節に転移を認め,Lugano分類上の臨床病期stageII1E(pancreas)と診断した。術後経過は順調で,術後7日目より経口摂取を開始し,14日目にがん化学療法目的で当院血液腫瘍内科に転科した。術後2年の現在,悪性リンパ腫の完全寛解が得られている。
著者
今井 崇裕 北川 朋子 西部 俊哉 西部 正泰
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.5, pp.196-201, 2007-05-15 (Released:2009-02-27)
参考文献数
9
被引用文献数
5 4 7

爪楊枝誤飲による消化管穿孔はまれで, 患者が誤飲を自覚していないことが多く, 爪楊枝がX線透過性であることから術前診断は困難とされる。今回われわれは術前診断が可能であった手術症例を経験した。患者は73歳の男性, 1週間前に義歯 (上顎, 総義歯) と一緒に何かを飲み込んだと自覚。3日後, 臀部周囲の熱感, 疼痛が出現したが放置していた。39度の高熱, 臀部及び陰嚢部の腫脹が増強したため救急車で搬送された。受診時下腹部に圧痛を認めたが, 腹膜刺激症状は認めなかった。入院時の血液検査では高度の炎症所見を認めたが, 単純X線, US及びCT検査では異物様の陰影を認めなかったものの, 直腸周囲から膀胱の辺縁を介して恥骨の前面に貯留したエアー像を確認した。皮下のエアー像は左側腹部脾臓レベルまで上行していた。肛門指診したところ直腸内に異物を触れ, これを用手的に摘出したところ約6cmの爪楊枝であった。爪楊枝誤飲による直腸穿孔と考え, 同日緊急に全身麻酔下でドレナージ, 洗浄及び人工肛門造設術施行した。以後, 全身管理, 創部の洗浄及びドレナージを繰り返し, 経過は良好である。今回, 本邦では非常にまれな爪楊枝誤飲による直腸穿孔の1例を経験したので報告する。