著者
廣瀬 智也 小倉 裕司 竹川 良介 松本 寿健 大西 光雄 鍬方 安行 嶋津 岳士
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.11, pp.933-940, 2013-11-15 (Released:2014-01-07)
参考文献数
23

【背景】自転車事故は小児期外傷の要因であるが,小児の自転車ハンドルによる直接外力の危険性は一般的に知られていない。【目的】小児自転車ハンドル外傷の特徴を明らかにすること。【方法と対象】2000年1月1日から2011年12月31日に当センターに来院した自転車関連外傷(15歳以下)を検討し,ハンドル先端により受傷した群(ハンドル外傷群)とそれ以外の自転車乗車中事故例(非ハンドル外傷群)に分けて比較検討した。【結果】ハンドル外傷群9例,非ハンドル外傷群46例。ハンドル外傷群は男児7例,女児2例,平均年齢8.6±3.4歳,平均ISS 8.8±5.3,ICU滞在日数7.4±4.6日,生命予後は全例良好であった。受傷部位は頸部1例(気管損傷:1例),胸部1例(胸部打撲のみ:1例),腹部7例(肝損傷:3例,膵損傷:1例,後腹膜出血:1例,腎損傷:1例,膀胱・腹壁損傷:1例)であった。治療は緊急手術治療1例,待機手術治療1例,緊急TAE1例,保存的治療6例であった。ハンドル外傷群は,非ハンドル外傷群と比べると年齢,性別,ISS,ICU滞在日数,転帰に有意差はなかった。腹部AISスコアはハンドル外傷群で有意に高く,頭部AISスコアは非ハンドル外傷群で有意に高かった。搬送経緯では,現場からの直接救急搬送は非ハンドル外傷群で,転院搬送はハンドル外傷群で有意に多かった。【考察】自転車ハンドル外傷は外力がハンドルの先端に集中するため,外見以上に重篤な深在性内臓損傷を伴うことが多いが,受傷機転などから過小評価されるケースがしばしばある。自転車ハンドル外傷の予防としては,自転車ハンドル先端の形状を工夫する,腹部への防護服を装着するなどが挙げられる。【結語】小児自転車ハンドル外傷は深部臓器の損傷を伴いやすく,初療における慎重な診断が求められる。
著者
後藤 由和
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.11, pp.861-870, 2009-11-15 (Released:2010-02-06)
参考文献数
20

目的:自殺行為に関する研究では,主に3つの自殺企図手段分類方法が用いられている。すなわち,国際疾病分類第9版(以下International Classification of Diseases, Ninth Revision; ICD-9),飛鳥井分類(相対的危険群,絶対的危険群),そして侵襲度分類法(Non-violent群,Violent群)である。本研究は,これらの分類方法の違いが自殺企図手段と精神障害の関係に影響を与えるかを明らかにすることにある。対象と方法:救急搬送例のうち主要5精神障害(うつ病,双極性障害,統合失調症,適応障害,人格障害)と診断された169名を研究対象とした。3つの分類方法に準じた自殺企図手段と精神障害の関連について,対応分析法を用いて解析した。結果:ICD-9分類においては,E953(縊首,絞首,窒息)とうつ病およびE950(固体または液体による中毒)と適応障害は,それぞれ強い関連性があった。E957(高所墜落)は,統合失調症と弱い関係にあった。飛鳥井分類上の相対危険群は精神障害との関連性は弱かったが,絶対危険群は統合失調症と強い関係にあった。侵襲度分類においては,Non-violent群は双極性障害とViolent群は統合失調症とそれぞれ強い関係にあった。結語:自殺企図手段と精神障害の関係は手段分類法によりかなり異なっていた。
著者
清水 健太郎 小倉 裕司 後藤 美紀 朝原 崇 野本 康二 諸富 正己 平出 敦 松嶋 麻子 田崎 修 鍬方 安行 田中 裕 嶋津 岳士 杉本 壽
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.17, no.12, pp.833-844, 2006-12-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
53
被引用文献数
2

腸管内には多彩な細菌群がバランスを保ち共存しており,腸内環境を整えると同時に生体へ豊富なシグナルを送り続けている。腸管は,侵襲時の主要な標的臓器(target organ)であり,腸内細菌叢の維持は腸上皮におけるバリア機能の維持と感染防御の点で極めて重要と考えられる。しかしながら,急性期重症病態の腸内細菌叢や腸内環境に関する検討はほとんどされていない。われわれは,SIRS患者の腸内細菌叢と腸内環境の変化を明らかにし,近年注目されているシンバイオティクス(synbiotics)療法(“善玉”生菌+増殖物質)の有効性を評価した。研究結果を含め,侵襲時の腸管機能と腸管内治療に関して総説する。(1) SIRS患者において,腸内細菌叢および腸内環境は著しく崩れる。「善玉菌」であるBifidobacteriumとLactobacillusは健常人の1/100-1000程度に減少し,「病原性」を有するブドウ球菌数は,健常人の100倍程度に増加した。腸内細菌叢の崩壊と同時に,短鎖脂肪酸の産生は減少し,腸管内pHは上昇した。このような腸内環境の悪化は腸内細菌叢をさらに崩す(“腸内環境の悪循環”)と考えられる。(2)シンバイオティクス療法は,SIRS患者の腸内細菌叢および腸内環境を維持し,経過中の感染合併症を減少させる。シンバイオティクス投与により,BifidobacteriumとLactobacillusが高く維持され,腸管内の短鎖脂肪酸,pHも保たれた。また腸炎の発生だけでなく,肺炎や菌血症の合併を有意に減らした。シンバイオティクス療法が感染症の合併を防止するメカニズムに関しては,今後の検討を要する。(3)現在,急性期重症病態に対する標準化された腸管内治療は存在しない。シンバイオティクス療法は,腸内細菌叢を保持し,腸内環境と腸管機能を保つ点で生理的であり,重症患者の臨床経過を改善する有望な腸管内治療法と考えられる。
著者
菊地 充 村田 厚夫 行岡 哲男 葛西 猛 遠藤 重厚 松田 博青 島崎 修次
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.11, no.8, pp.386-392, 2000-08-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
15

洗浄回収式自己血輸血施行例において自己血輸血による血中サイトカインの影響について検討することを目的とした。15例の腹腔内出血例を,SATを行った(A)群7例と,同種輸血を行った(B)群8例の2群に分けた。術前,術後第1病日(POD 1)およびPOD 3に末梢血を採取し,IL-6, IL-8, TNF-α, IL-1raについてELISA法を用いて測定した。血中IL-6値はA群術前141.6±38.6pg/ml(平均±標準誤差),POD 1 369.1±53.2pg/mlであった(術前と比べてp<0.05)。 POD 3には121.0±7.3pg/mlと減少する傾向がみられた。B群は術前120.1±59.4pg/ml, POD 1 235.9±57.4pg/mlとA群と同様に上昇したが,その増加はA群と比べて軽度であった。B群もPOD 3は123.2±16.1pg/mlと減少する傾向がみられた。血中IL-8値は術前A群72.7±22.9pg/mlからPOD 1 237.9±13.5pg/mlに,B群は術前56.4±25.0pg/ml, POD 1 41.4±15.6pg/mlと変化はなかった。POD 1の両群間の値を比較すると,A群が有意に高値を示した(p<0.05)。血中TNF-α値はA群の術前値が13.6±2.1pg/ml, POD 1は13.7±2.8pg/mlで,B群も術前は10.9±2.5pg/ml, POD 1は17.1±4.9pg/mlとほとんど変化なく推移し,両群ともに正常範囲内での変動であった。A群の血中IL-1ra値は,術前が927.5±230.3pg/ml, POD 1は698.7±208.5pg/mlであった。B群は術前が1,239.4±361.0, POD 1に284.2±147.7と減少した。以上から,SATによりIL-8が活性化されることが示されたが,自己血輸血に伴う炎症反応などの副作用はなく,その原因は出血あるいは回収・洗浄システムによる赤血球の溶血が関与していることが推察された。
著者
末吉 孝一郎 吉岡 伴樹 船越 拓 鈴木 義彦 藤芳 直彦 森本 文雄 渋谷 正徳
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.7, pp.434-439, 2008-07-15 (Released:2009-07-25)
参考文献数
4
被引用文献数
3 2

患者は60歳の女性。運動会で突然の心肺停止状態となり,bystander CPRが施行された。電気的除細動で心拍再開し当院へ救急搬送となった。冠動脈造影(coronary angiography; CAG)にて急性心筋梗塞(acute myocardial infarction; AMI)と診断し経皮的冠動脈インターベンション(percutaneous coronary intervention; PCI)を施行した。集中治療室(intensive care unit; ICU)へ入室し抗凝固療法が施行されたが,カテコラミン投与下にても循環動態は安定せず,貧血の進行と肝逸脱酵素の上昇を認めた。第2病日に施行した腹部造影CTでは肝右葉に被膜下血腫と実質損傷を認め,肝左葉実質の損傷も認めたためこれが出血源と考えられた。被膜下血腫により圧排された肝右葉は均一に造影されず,肝実質組織内圧上昇による血流障害を認め,肝コンパートメント症候群であると診断した。まず抗凝固療法を中止し,新鮮凍結血漿(fresh frozen plasma; FFP)及び濃厚血小板液(platelet concentrate; PC)投与による凝固能改善を図り,人赤血球濃厚液(red cells MAP; MAP)投与を行ったが循環動態の改善を認めなかったため,腹部血管造影を施行した。腹部血管造影では動脈相での明らかな造影剤の血管外漏出(extravasation)は認めなかったが,肝動脈塞栓術(transcatheter arterial embolization; TAE)を行うことで循環動態は安定した。以後,全身状態は改善したが,血腫の縮小を促進させるために穿刺ドレナージを行い,第73病日に独歩退院となった。肝コンパートメント症候群の報告例は極めて稀であり,肝虚血に対しては減圧による虚血の解除が必要であると報告されている。しかしながら本症例ではTAEにて保存的に治癒せしめることができた。
著者
岡田 遥平 荒井 裕介 飯塚 亮二 榊原 謙 石井 亘 檜垣 聡 北村 誠
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.7, pp.295-300, 2014-07-15 (Released:2014-11-01)
参考文献数
20

循環動態の安定している脾損傷に対して,interventional radiologyや保存的加療などの手術を行わない管理(nonoperative management: NOM)が一般に行われている。今回我々は,鈍的脾損傷に対するNOMの経過中に巨大な脾仮性動脈瘤の遅発性破裂を来しながら,動脈塞栓術にて救命できた症例を経験したので報告する。症例は17歳の男性。自転車による転倒で当院救命救急センターをwalk inで受診した。腹部造影CT検査で外傷学会臓器損傷分類脾損傷IIIb型と診断したが,造影剤の血管外漏出を認めず,また循環動態も安定していたため安静臥床の方針とした。第9病日の腹部造影CT検査で脾内に直径38×41mmの脾仮性動脈瘤を認めたが,待機的にTAE (transcatheter arterial embolization:経カテーテル動脈塞栓術)を検討することとし厳重に経過観察の方針とした。第10病日に突然の腹痛を訴えてショック状態となったため腹部造影CT検査を施行し,脾仮性動脈瘤破裂と診断した。直ちに血管造影および塞栓術を施行し止血した。塞栓術後は再出血なく経過し,第30病日に独歩退院となった。鈍的脾損傷による脾仮性動脈瘤を認めた場合,直径10mm以上の症例は手術やTAEなどの治療介入が必要になるとの報告があり,また多くの症例で介入が報告されている。文献検索および本症例報告から,脾仮性動脈瘤の直径が10mm以上であれば,診断後に可及的速やかに血管造影検査,塞栓術を考慮すべきと考えられる。
著者
小松 裕和 鈴木 越治 土居 弘幸
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.10, pp.851-859, 2009-10-15 (Released:2009-12-28)
参考文献数
9
被引用文献数
1

臨床研究に必要な統計的知識としては,基本属性の比較を行うにあたって「どの場合にどの検定を用いればよいか」がまず整理できることと,「交絡要因の調整」に用いられる多変量解析としてロジスティック回帰分析を理解することが基本となる。そして,臨床研究では生存期間をアウトカムとして用いる研究が多いことから,生存解析についての知識を習得することも必要である。基本属性の比較にあたっては,各種変数が「連続量変数」か「カテゴリー変数」か理解し,「2グループ」で比較するのか「3グループ以上」で比較するかによって用いる検定を決定する。ロジスティック回帰分析はアウトカムが二値の場合に用いられることが多く,曝露の影響をオッズ比として推定することができる。一方,生存解析で用いるCox比例ハザードモデルでは曝露の影響をハザード比として推定することができる。忙しい臨床のなかで臨床研究の知識を身につけるには,「疫学をしっかりと勉強してから,必要な統計的知識を増やしていくこと」が効率的であろう。
著者
須崎 紳一郎 小井土 雄一 冨岡 譲二 大泉 旭 布施 明 黒川 顕 山本 保博
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.42-50, 1994-02-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
13
被引用文献数
1

International repatriation(国際患者搬送帰還)を担当実施した自験例19例(邦人帰還12例,外国人送還7例)を報告し,その実態と問題点を検討した。相手地はアジア,南北米,欧州からなど4大陸13ヵ国で,総搬送距離は133,643km,搬送飛行時間は171時間35分に及び,平均搬送距離は7,034km,平均飛行所要時間も9時間2分を要した。最長はLimaからのLos Angels経由15,511kmの搬送で,飛行時間だけでも21時間を超えた。随行医師は当施設から1名ないし2名を派遣した。原疾患は多岐にわたり,19例のうち意識障害例は4例,移送経過中人工呼吸を必要としたものは2例あった。最近の10例は国際アシスタンス会社からの依頼を受けた。航空機は全例民間定期便を利用した。移送経費は平均で300万円程度を要した。搬送途上の医療面では呼吸管理が最も重要であったが,一般の大型定期旅客機を利用する範囲では騒音,離着陸加速度,振動などは患者の循環動態には大きな影響を認めなかった。国際患者搬送帰還は,相手先病院,航空会社,保険会社,空港当局はじめ諸方面の協力と綿密な準備連絡があれば医療上は必ずしも困難ではないが,目下のところ本邦は欧米に比べ,これまでこのような医療需要に対する受け入れや派遣の実績,経験が乏しく,支援体制の整備,組織化が遅れているのが最大の問題点である。
著者
山本 豊 藤田 浩 田邉 孝大 杉山 和宏 黒木 識敬 明石 暁子 濱邊 祐一
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.15-22, 2011-01-15 (Released:2011-03-25)
参考文献数
19

症例は29歳,男性。市民マラソンに参加したが競技中に意識消失し当院搬送となる。熱中症と診断し治療を開始したが,第2病日に急性肝炎重症型となり凝固因子補充目的に新鮮凍結血漿(fresh frozen plasma; FFP)の輸血を施行し,第3病日に劇症肝不全となる。同日もFFP投与を行ったが,輸血開始後に頻脈や頻呼吸を認め非侵襲的陽圧換気を開始した。心エコー検査を施行したが輸血関連循環過負荷と輸血関連急性肺障害との鑑別は困難であり,その後も呼吸循環動態には改善を認めず気管挿管下に集中治療を開始した。輸血前後の検体からは抗HLA抗体,抗顆粒球抗体等の検出は認めず,診断指針推奨案に基づいて輸血関連急性肺障害疑いと診断,重篤な経過をたどったが救命に成功した。救急医療の現場では急性肺障害を来しうる誘因は多数あるが,輸血も鑑別の一つとなりうることを留意すべきである。
著者
横張 賢司 平澤 博之 織田 成人 志賀 英敏 中西 加寿也 貞広 智仁 仲村 将高
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.14, no.9, pp.456-462, 2003
被引用文献数
1

目的:重症急性膵炎(severe acute pancreatitis: SAP)症例における重症度判定に際し腹部CT検査は必須であり,われわれは厚生省研究班によるCT grade分類を用いてICU入室時および経過中に撮影した腹部CTのgradingを行っている。また現在当施設ではIL-6 (interleukin-6)血中濃度迅速測定が可能であり,その結果はSAPの重症度の指標として有用であると考えている。そこで今回SAP症例の腹部CT所見とIL-6血中濃度との相関を明らかにする目的で以下の検討を行った。対象:自験SAP症例のうちIL-6血中濃度を測定し得た31例を対象とし,入室時のCT grade, IL-6血中濃度およびAPACHE II scoreを検討した。結果:対象31例の入室時CT gradeの内訳はIII度6例,IV度22例,V度3例であった。grade別の入室時平均IL-6血中濃度は,III度269pg/ml, IV度1,214pg/ml, V度1,578pg/mlであり,同様にgrade別の入室時平均APACHE II scoreは,III度11.67, IV度18.33, V度16.30であった。入室時CT gradeとIL-6血中濃度の相関については,gradeが上がるほど血中濃度も高値になる傾向がみられたが,有意な相関は認めなかった。またCT gradeとAPACHE II scoreについても同様に有意な相関は認めなかった。一方,CT gradeを含む各種予後因子の合計スコアを算出したstage分類によると,入室時stage 2に分類されたのは12症例であり,入室時IL-6血中濃度は平均で393pg/mlであった。同様にstage 3は18例で平均1,539pg/ml, stage 4に分類された症例は1例のみであった。stage 2とstage 3の間ではIL-6血中濃度平均値の有意な差を認めた(p<0.05)。考察及び結語:治療経過とともにIL-6血中濃度と病態が改善しているSAP症例においても短期間ではCT gradeは改善せず,腹部CT検査は入室時の重症度判定としては有用だが,リアルタイムの病勢の推移を判断する指標としては適切でないと思われた。以上よりSAP症例におけるIL-6血中濃度と腹部CT所見とは明らかな相関を示さず,その臨床上の意義は各々異なっていると考えられた。
著者
佐藤 琢紀 木村 昭夫 佐藤 守仁 糟谷 周吾 佐々木 亮 小林 憲太郎 吉野 理
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.10, pp.687-693, 2007

<b>背景</b> : 2004年に敗血症診療の初のガイドラインであるSurviving Sepsis Campaign Guidelines for Management of Severe Sepsis and Septic Shock (SSCG) が発表され, 全世界的に敗血症の治療法が標準化されつつあり, 初期輸液療法の重要性が提唱されている。<b>目的</b> : 本研究では, 初期輸液療法の重要性の再確認と具体的な輸液量の検討を行った。<b>対象と方法</b> : 2001年1月1日から2006年8月31日までに当センター救急部に救急搬送されたsevere sepsisあるいはseptic shock 64症例について検討した。治療開始後72時間と28日でそれぞれ死亡群・生存群に分け, 各群間で来院時の重症度スコアやSSCGで推奨されている治療法について比較した。<b>結果</b> : 初期輸液療法に関して, 72時間後・28日後ともに生存群の方が死亡群に比して有意に輸液量が多かった。来院時の重症度スコアや抗菌薬, 昇圧剤投与等の初期輸液療法以外の治療法の施行割合では, 各群間で有意差を認めなかった。来院後1時間輸液量が1,700ml以上であれば100%の生存が得られた。1時間輸液量が1,700ml未満であっても, 24時間輸液量が3,200ml以上であり, 24時間尿量が550ml以上確保できたときは, 93%の生存率が得られたが, 24時間尿量が550ml確保できなかったときは, 38%の生存率であった。1時間輸液量が1,700ml未満, 24時間輸液量が3,200ml未満であっても, 24時尿量が550ml以上確保できたときは, 82%の生存率が得られたが, 24時間尿量550ml確保できなかったときは, 36%の生存率であった。<b>結語</b> : severe sepsisの初期治療法では, 臓器灌流量を維持するための適切な初期輸液が, 重要であることが再確認され, 従来から言われている輸液量の指標は妥当であることも確認された。
著者
緒方 さつき 森松 嘉孝 幸崎 弥之助 工藤 昌尚 田尻 守拡 井 賢治 渡邉 健次郎
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.99-103, 2006

症例は42歳の男性。400ccの自動二輪車運転中に左側の駐車場から無灯火で出てきた普通車の右側面に衝突し,当院へ搬送された。来院時,呼吸は腹式呼吸で,両上下肢の知覚が消失し,両上下肢で徒手筋力テスト0であった。病的反射の出現は認めなかったが,肛門反射が完全に消失していた。重症の下位頸髄損傷を疑うも,頸椎単純X線,頭部CT,頸髄・胸髄・腰髄MRI検査にて異常所見は認めなかった。その後,6年前の急性一過性精神病性障害の既往が判明し,転換性障害の診断にて入院となった。徐々に症状の改善がみられ,リハビリテーション目的にて第13病日に他院へ転院となった。救急の現場において,症状と検査所見が一致しない事例をみた場合,精神病性障害である可能性に留意すべきである。
著者
池内 淳子
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.201-211, 2009-04-15
参考文献数
8
被引用文献数
1
著者
TU Anthony T.
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.91-102, 1997-03-10
参考文献数
36

化学兵器は第一次世界大戦中に誕生し盛んに使われたが,その後大規模にはあまり使われなかった。しかし最近その有用性が再認識され,この古い兵器が再び脚光を浴びるようになった。化学兵器は原料もたやすく手に入り,製造も簡単なため,貧乏国の核爆弾といわれる。オウム真理教のサリンテロ行為で,化学兵器は戦場のみならず,これからは公衆に対してテロリズムに使われる可能性がますます強くなった。本文は化学兵器の生体に対する毒作用と治療が目的であるが,限られた誌面ですべての化学兵器について述べることは不可能なので,神経ガスに重点を置き,他のガスの作用は比較的簡略に述べた。多くの種類の化学兵器があるが,実際に兵器として採用されている数は比較的少ない。アメリカ軍を例にとっても実際に化学兵器として採用され,貯蔵されているのはサリン,タブン,VX,マスタードガス,ルイサイトの5種類のみである。神経ガスは神経伝達に必要なアセチルコリンエステラーゼの作用を阻害する。それに対する薬はいろいろあるが,どの薬もすべての神経ガスに一様に効くわけではない。薬の効果は神経ガスによって異なる。オキシム系の薬(例えばPAM)とアトロピンとの併用は,単独で使うより治療効果が大とみなされている。ジアゼパムは痙攣を防ぐのに効果があり,三者併用はさらによいといわれている。他の毒ガス,例えばマスタードガス,ホスゲン等には特効薬はなく,対症治療が主な方法である。既存の毒ガスのみならず,新しい型の毒ガスにも注意し,その治療法についても検討すべきである。
著者
大槻 秀樹 五月女 隆男 松村 一弘 藤野 和典 古川 智之 江口 豊 山田 尚登
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.9, pp.763-771, 2009-09-15
参考文献数
19

精神疾患のいくつかは,季節性に寛解・増悪することが指摘されており,とくに気分障害における季節性がよく知られている。自殺企図患者や入院患者における季節性の変動を示すデータは散見されるものの,一般救急外来を受診する患者に関するデータは少ない。我々は平成17年 9 月から 1 年間,滋賀医科大学附属病院救急・集中治療部を受診した3,877例(救急車により搬送された患者2,066例を含む)を調査した。精神科疾患は299例(7.7%)であり,その中でF4(神経症性障害,ストレス関連障害および身体表現性障害)が158例と最多であった。精神科疾患で受診する患者数は, 6 ~ 7 月と 9 ~10月にピークがあり, 1 月に最も減少していた。精神科疾患で受診する患者数は,日照時間や降水量との間に関連性は認められなかったが,気温が上昇すると精神科疾患により来院する患者数が増加することが示された。これらの結果は,救急外来を受診する精神科疾患の特徴を示すと共に,今後,救急外来において精神科疾患を早期に発見する手助けの一つとなりうると思われる。
著者
佐藤 孝幸 中川 隆雄 仁科 雅良 須賀 弘泰 高橋 春樹 出口 善純 小林 尊志
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.12, pp.941-947, 2009-12-15
参考文献数
19
被引用文献数
1

カフェインは嗜好品の他,感冒薬や眠気予防薬として普及しているため,過剰摂取が容易である。大量服用から致死的中毒を来した2症例を救命した。〈症例1〉34歳の女性。市販感冒薬を大量服用後,心室細動から心静止状態となり救急搬送された。感冒薬成分中の致死量のカフェインが心肺停止の原因と考えられた。〈症例2〉33歳の男性。自殺企図にて市販無水カフェイン(カフェイン量24g)を内服,嘔吐と気分不快のため自らの要請で救急搬送となった。いずれも大量のカフェイン急性中毒例で,薬剤抵抗性の難治性不整脈が特徴であった。早期の胃洗浄,活性炭と下剤の使用,呼吸循環管理により救命することができた。とくに症例2では,早期の血液吸着により血中濃度の減少と症状の劇的な改善を認めた。これは血液吸着の有用性を示す所見と考えられる。
著者
清水 健太郎 小倉 裕司 中川 雄公 松本 直也 鍬方 安行 霜田 求 田中 裕 杉本 壽
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.185-190, 2010

生体肝移植のドナーとしての意思決定に対して家族間で軋轢が生じ,臨床倫理問題について検討が必要であった症例を経験したので報告する。症例は40代,女性。薬剤性肝障害で意識障害が進行するため当院へ転院となった。来院時,肝性脳症III度,PT 19%,総ビリルビン濃度26.6mg/dlであった。集中治療を行ったが患者の意識状態が悪化したため,家族に最後の治療手段として生体肝移植の選択肢を提示した。ドナー候補は離婚した父親だけであった。父親は移植ドナーを希望したが,内縁の妻は手術に反対であった。手術までの過程で家族関係は急激に悪化したが,最終的には医学倫理委員会でドナーの同意権の妥当性を確認した上で,父親の意思を尊重して手術が行われた。患者は,肝不全,敗血症を合併して数カ月後に死亡した。意識障害を伴う難治性の急性肝不全症例では,最後の治療手段として生体肝移植を患者家族に提示した時点で,ドナー候補は,「自由な意思決定」が望まれるが,「時間的制約」の中で心理的圧力を受ける。ドナー候補の意思決定のいかんに関わらず,ドナー候補・家族に対する心理的な支援体制が必要である。
著者
小林 照和 牧山 政雄 杉山 雅俊
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.136-140, 2001-03-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
7

We treated 3 patients who developed respiratory disorders due to aluminum silicate, a principal component of “Kitty litter” (cat dirt). Case 1 was a 37-year-old woman with dyspnea treated for bronchial asthma for 3 months from about September 1995. Dyspnea was exacerbated after inhalation of powder from Kitty litter. On admission, disturbance of consciousness and marked hypoxemia were noted, but the patient recovered through respiratory management. Bronchoscopy showed white sputum in each segment of the bronchi. Case 2 was a 48-year-old woman with a cough exacerbated from about November 1998. Moist rales were present in expiration on chest auscultation. Symptoms were resolved by the administration of bronchodilators and expectorants. Case 3 was a 45-year-old woman with dyspnea treated for bronchial asthma since about March 1998 without improvement. Moist rales were present in bilateral lung fields during inspiration and expiration. A diagnosis of pneumonitis was made based on chest computed tomography (CT) findings recovered by bronchodilators and expectorants. From the information obtained by inquiry about the disorder, all 3 patients were considered have problems related to Kitty litter. Silica was present in the sputum of all 3 in analysis using an X-ray microanalyzer. Kitty litter causes severe symptoms on massive inhalation and respiratory disorders by inhalation of even a small amount over a long period. Precaution are thus required for indoor use.