著者
橋爪 由紀子 堀込 和代 行田 智子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.190-201, 2018-12-25 (Released:2018-12-25)
参考文献数
29
被引用文献数
4 4

目 的本研究の目的は,初産の母親が退院から産後4か月までの間に,母乳育児において心配や困難だと感じた出来事を明らかにすることである。対象と方法対象は産後3か月を経過している,母乳育児において心配や困難な出来事のあった初産の母親11名である。1人につき1回の半構成的面接を行い,得られたデータを質的帰納的に分析した。結 果初産の母親の母乳育児における心配や困難だと感じた出来事として,【母乳育児に順応しない子どもの反応】【うまくいかない授乳方法】【定まらない哺乳パターン】【母乳充足の判断】【順調に増えない母乳分泌量】【乳房・乳頭に発生する苦痛】【母乳育児による日常生活の変調】【母親の意向に沿わない周囲の関わり】の8カテゴリーが抽出された。母乳育児において心配や困難な出来事のあった初産の母親が,母乳育児についての不安が減り,自分なりの母乳育児ができるようになったと感じた時期は,早い者では産後1か月,遅い者では産後3か月であった。結 論本研究の結果より,助産師は,吸着困難など母乳育児がうまくいっていない母親には,退院後も入院中からの継続した支援を行っていく。また,助産師は母親の抱く母乳不足感に対して,子どもの体重や哺乳量を測定するという,母乳が足りていることを実感させる援助を行う。さらに,助産師は希望する母乳育児ができなかった母親に対して,心理的ケアを行うことが大切である。初産婦は,産後2~3か月まで母乳育児に慣れていないだけではなく,子どもとの生活そのものに慣れていない。そのため助産師は母乳育児支援において,母乳育児の手技や方法だけではなく,母と子2人の生活を考慮して行うことが大切である。
著者
新川 治子 島田 三恵子 早瀬 麻子 乾 つぶら
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.48-58, 2009 (Released:2009-08-26)
参考文献数
27
被引用文献数
8 13

目 的 本研究は最近の妊婦におけるマイナートラブル(以下MSとする)の種類,発症時期,発症率,及び発症頻度を明らかにすることを目的とした。対象と方法 全国から抽出した11医療機関に通院中の623名(初期56名,中期201名,末期366名,平均28.1±8.0週)の妊婦を対象に質問紙調査を行った。調査票は先行研究,MSに関連する症状,及び妊産褥婦から聞き取った症状から95の不快症状に関する質問項目で作成した。結 果 50%以上の妊婦に発症している症状が95の不快症状のうち45症状あった。発症率が高い(50%以上),または発症頻度の高い(「たびたびある」から「いつもある」)47症状をMSとして抽出した。易疲労感,頻尿,全身倦怠感は,妊娠全期間を通じて90%以上の妊婦に発症するMSであり,有症者における発症頻度も高かった。妊婦1人あたりのMS発症数は2から46症状で,平均27.0(±10.4)症状であった。初経産別での1人あたりのMS発症数に有意差はなかった。未就労妊婦の方が就労妊婦より1人あたりのMS発症数が有意に多く,特に未就労初産婦の発症数が多かった。妊娠時期により1人あたりのMS発症数に有意差はないが,発症率の高い症状は異なっていた。 因子分析により「胎児の発育に関連する筋関節症状群」,「上部消化器症状群」,「睡眠関連症状群」,「便秘関連症状群」,「ネガティブな精神症状群」の5症状群が抽出された。結 論 MSに関する実態調査を行った結果,妊婦の生活習慣や環境の変化,就業状況の変化に伴って,従前のMSに無い症状や発症率の異なる症状が明らかとなった。対象の属性や妊娠時期により好発症状にも違いがあることから,適切な時期に妊婦の状況にあった助言することが重要である。
著者
諸橋 麻紀 関島 香代子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
pp.JJAM-2020-0011, (Released:2021-06-11)
参考文献数
16

目 的近年少子化問題や施設で働く助産師の偏在や潜在の問題に対し,地域助産師への期待が高まっている。そこで地域助産師が多く活躍している新潟県助産師会全会員を対象に,地域助産師の活動の実態とアイデンティティを明らかにすることを目的とした。対象と方法新潟県助産師会会長の承認を得た後,同会事務局より全会員(223名)に調査票を送付,郵送で回収した。数的データは,記述統計量の算出,地域での経験年数別にχ2検定を行い,自由記載は質的記述的に分析した。結 果回収数127名(回収率56.9%)のうち地域で活動をしていた94名について検討した。年代は40・50・60歳代がそれぞれ3割を占め,活動は「訪問指導」80名85.1%,「母乳相談・乳房マッサージ」64名68.1%が多かった。「訪問指導」はやりがいがあり収入の中心で,それ以外の活動は収入が伴っていなかった。現在の状況が「地域」で「分娩介助をしていない」68名では「今後もやらない」が多かった(48名70.6%)。経験を積んでも研修会や講演会などへ参加し自己研鑽をしていた。自由記載(40名,126記載)から【生涯にわたり女性に寄り添い支援する親密な関わりであり,やりがいを感じる】【活動をするためには継続した自己研鑽が必要である】【生涯のキャリアプランとして地域助産師を続けたい】【収入が少なく,行政のサービスでは役割を発揮できない現状】【社会的地位や認知度が低い現状,もっと認知度を上げることが課題】を含む8つのカテゴリーに分類した。結 論地域助産師は主に「訪問指導」に時間をかけ収入を得てやりがいを感じ,「母乳相談・乳房マッサージ」など多様な活動に従事していた。「分娩介助」にこだわらず継続した自己研鑽を積み,女性の一生に寄り添い生涯地域で助産師を続けたいというキャリアプランを持っていた。しかし収入,社会的地位,認知度の低さを課題としていた。
著者
灘 久代
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.1_40-1_51, 2007 (Released:2008-07-07)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

目 的今日のわれわれ助産師が,助産師としての責務や役割を再認識し,専門職業人として活動できるための示唆を得る。対象と方法戦前から戦後,開業助産師として活動した助産師の聞き取り調査を平成17年2月~平成18年3月まで行った。そして対象者の時間軸に沿って,ライフヒストリーにまとめた。結 果開業助産師は,人々に喜びや安心感をもたらすために,確かな助産技術や判断力を持ち,同時に妊産婦のおかれている状況や家庭環境を把握するために,本人のみならず家族との人間関係やつながりを非常に大事にした。そして,常に妊産婦の味方となり,使命感を持って堂々と助産師としての役割を果たしてきた。結 論助産師には,いつの世においても堂々と責務を果たすために技が必要である。しかし1つひとつの実践は,単なる技に終わるものではない。人間愛や生命への慈しみを持ち,対象者に喜びや安心感をもたらすことも重要である。
著者
吉田 安子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.28-38, 2001-02-05 (Released:2010-11-17)
参考文献数
22

本研究は, 分娩期に出現する嘔吐と分娩進行との関連に焦点をあて, その実態を調査したものである。目的は, 嘔吐の出現と分娩進行との関連を明らかにすることである。対象者は低リスク初産婦37名, 研究者が分娩中産婦を受け持ち, 観察ガイドに従い観察を行った。その結果, 対象を嘔吐あり群, 嘔吐なし群に分類して比較検討し, 嘔吐あり群の嘔吐出現状況と分娩の進行について分析を行い, 次の点が明らかとなった。1) 低リスクの初産婦17名 (46%) に嘔吐が出現していた。2) 嘔吐は分娩各期において子宮収縮が強くなった時に出現し, 食事摂取後3時間以内, 子宮口開大3cmの時に出現する傾向にあった。3) 子宮頸管熟化の良好な産婦が嘔吐した場合, 分娩進行は初産婦にしては速い経過をたどった。分娩進行が早くなると予測される産婦に対し, 進行状況に関する情報を与え, 産婦自ら身体のコントロール感をもてるようなケアが必要である。4) 子宮頸管熟化の不良な産婦が嘔吐した場合, エネルギーを喪失し心身共に疲労を来し, 続発性微弱陣痛となり分娩が遷延した。このような産婦に対し, 早期に不安の除去, 食事摂取の配慮, 疲労の緩和を行い, 産婦の生理機能が最大限に生かせるようなケアが必要である。
著者
中井 かをり 齋藤 いずみ 寺岡 歩
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.138-146, 2018-12-25 (Released:2018-12-25)
参考文献数
18

目 的現在,正常新生児は保険診療報酬の対象外であり,正常新生児への看護人員配置の基準はない。正常新生児への看護の安全性と質を上げるための看護人員配置を検討するための基礎的資料が求められている。本研究の目的は,出生直後から生後4日までの正常新生児に対し,産科の病棟内で実施している看護行為と看護時間を明らかにすることである。方 法産科の病棟を有する3施設において,マンツーマンタイムスタディ法により生後0日は出生直後からの8時間,生後1~4日は午前8:30~16:30までの8時間に看護者が正常新生児に対し実施した看護を111日間調査した。結 果対象は正常新生児64名と看護者122名であった。提供の多い看護行為には生後日数による変動がみられた。平均看護時間は,測定8時間のうち児1人当たりに約2時間を費やし,生後日数間に有意差はなかった。結 論本研究により,正常新生児への看護行為と看護時間が明らかになった。今後,さらに正常新生児への看護に専念できる人材の必要性を検討するためのデータの蓄積が望まれる。
著者
小笹 由香 松岡 恵
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.1_37-1_47, 2006 (Released:2008-04-25)
参考文献数
23

目 的羊水検査を受ける女性の意思決定に影響を及ぼした価値判断とその根底にある価値体系(慣例規範・維持欲求,期待規範・適応欲求,統合規範・調和欲求の3段階)を明らかにすることを目的とした。対象と方法対象は,羊水検査の結果に異常がなかった女性16名で,研究デザインはインタビューガイドに基づく半構成面接による,質的後方視的記述研究とした。結 果義兄がダウン症であるもの以外の15名は,35歳以上であった。慣例規範・維持欲求の低次の段階を優先していた者は16名中12名だった。慣例規範は,精神的に弱く,高齢のため一生介護責任は持てず,障害児の養育は困難というもので,維持欲求は安定した生活の維持というものだった。夫婦の慣例規範・維持欲求の相違がある場合は,夫の期待に応え,受け入れられるという期待規範・適応欲求が得られず,心理的葛藤が起こっていた。また,羊水検査の受否を決めた,同じ立場の女性が,何を悩み,どう判断したかを知ることにより,自分の決定した行動を正当化し,心に調和を感じていたいという,統合規範・調和欲求があった。結 論羊水検査を受けることについての価値体系には,慣例規範・維持欲求,期待規範・適応欲求,統合規範・調和欲求の3段階があった。本研究の対象の多くは,十分に考慮できずに低次の慣例規範・維持欲求を優先させ,検査を受ける価値について判断していた。
著者
竹内 翔子 堀内 成子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.173-182, 2014 (Released:2015-05-30)
参考文献数
16
被引用文献数
5 4

目 的 妊娠中の会陰マッサージに対する女性の認識と実施の阻害因子を探索すること。方 法 首都圏の産科を有する医療施設8ヶ所において,妊娠37週0日以降の単胎児を経膣分娩した女性390名を対象に,質問紙を配布した。有効回答が得られた334名(85.6%)のデータを用いて,統計学的に分析した。結 果1.会陰マッサージを実施した女性は114名(52.1%),実施しなかった女性は105名(47.9%)であり,実施した女性のうち出産まで継続できたのは68名(59.6%)であった。また実施しなかった女性の45.7%が自分の会陰を触ることに抵抗を感じていた。2.会陰マッサージに関する情報源について,会陰マッサージ実施の有無を比較すると,実施した女性の割合が有意に大きかったのは「助産師による個別指導」のみであり(p=.000),実施しなかった女性の割合が有意に大きかったのは,「母親学級」であった(p=.000)。3.会陰マッサージの方法について,方法を知っている女性の半数以上が難しさを感じていたのは「指の動かし方」や「力加減」,「指の挿入の深さ」,「マッサージの実施時間」であり,マッサージを途中でやめてしまった女性は出産まで継続できた女性よりも難しさを感じていた(p=.012)。4.会陰マッサージの効果について,会陰マッサージを継続できた女性は途中でやめた女性に比べて,【出産準備への効果】および【出産時への効果】を有意に感じていた(p=.000)。5.出産に対する自己効力感について,初産婦では会陰マッサージを行っていた女性は行っていない女性よりも【自分らしいお産】に対する自己効力感が有意に高かった(p=.014)。結 論 会陰マッサージの実施を阻害する因子として,会陰部を触ることに対する抵抗感や知識不足,実施中の困難感が挙がった。また会陰マッサージはその効果を実感するためには継続することが重要であり,医療者は出産まで会陰マッサージを継続できるようサポートしていく必要がある。
著者
五味 麻美 大田 えりか
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
pp.JJAM-2022-0030, (Released:2023-11-03)
参考文献数
28

目 的日本に在住するムスリム外国人女性(以下,ムスリム女性)に対する助産ケアの特徴を明らかにすることである。対象と方法国内の産科外来および病棟でムスリム女性に対する助産ケアを担当した経験を有する助産師5名を研究対象者として,質的記述的研究を行った。インタビューガイドを用いた半構造化面接によってデータを収集し,質的帰納的に分析した。結 果分析の結果,ムスリム女性に対する助産ケアの特徴として34サブカテゴリー,14カテゴリーと3つのコアカテゴリーが抽出された。ムスリム女性に対してケアを行う助産師は,通常外国人を担当する際に着目する出身国や言語的コミュニケーションレベルといった対象者の背景よりも宗教的な背景に着目し,ケア対象者が【ムスリムであることを意識した関わり】を行っていた。そして,早い段階から本人や家族,医療スタッフとの間で【宗教的配慮に関するインフォームド・コンセントと情報共有】を行いながら専門職としての【看護観に基づき手探りで宗教的配慮を実践】していた。結 論ムスリム女性に対する助産ケアの特徴として,宗教的配慮が大きく影響していることが明らかになった。助産師はムスリム女性や家族に対して早い段階から宗教的配慮に関するインフォームド・コンセントを行い,自らの看護観に基づき手探りで宗教的配慮を実践していた。しかし,宗教はセンシティブな事柄であることから,助産師はムスリム女性たちのニーズや価値観の多様性や個別性を認識しながらも個別的なニーズに踏み込むことを躊躇し,その結果として画一的な配慮に留まる傾向がみられた。ムスリム女性に対する助産ケア向上のためには対象者一人ひとりの多様なニーズを考慮し,より文化的に適切なケアに繋げることの必要性が示された。
著者
田辺 けい子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.35-47, 2015 (Released:2015-08-29)
参考文献数
14

目 的 2014年現在でも決して少なくなく,将来的にも増加が見込まれる子どもを産まない女性たちの生殖観や身体観に着目し,これを明らかにすることによって女性の健康支援の在り様を考察することである。対象と方法 聞き取り調査に基づく質的研究である。対象は30才から80才代までの女性29名である。ただし生殖年齢にある30才代と40才代の16名は,本研究の主題である子どもを産まない女性たちに特徴的な側面が色濃くでるよう,子をもうけることに消極的あるいは否定的な女性を選定した。質問内容は(1)子や孫の人数とその人数に満足しているか否か,(2)月経歴および初経と閉経に関連する体験,(3)保健医療行動の内容,および,(1)~(3)に関連する経験の内容や態度の理由,周囲の人々との関係性,対象者の生殖観,身体観に反映すると推察される経験や出来事についても可能な限り詳しく聞き取り,医療人類学的考察を行った。結 果 3つの語りの特徴が確認できた。1.産まないことが自らの身体に付与されている生殖能を疎かにするかのような身体観を作っていること2.月経には益するところがないという考え方3.女性身体の生物学特性ことに身体的リスクに関する情報がないこと これらの結果から,対象者は「生殖から離れている身体」といえるような位相にあることが確認でき「生殖から離れている身体」に内在する4つの課題と2つの強みが明らかになった。結 論 「生殖から離れている身体」に内在する4つの課題と2つの強みを踏まえた支援があれば「生殖から離れている身体」の健康は一定程度担保しうることが示唆された。 課題とは次の4点である。 1.自らの身体の生殖にかかわる属性の放棄 2.個人の人生の問題としてのみに閉ざされる生殖 3.育まれてこなかった生殖を肯定的にみたり,生殖可能な身体として自らの身体をケアする生活態度 4.無性あるいは中性的な身体に価値を置くこと 強みとは次の2点である。 1.老齢期を健康に過ごさねばならないという十分な動機と欲求 2.女性の身体は自然のバランスによって健康が保たれるといった身体観や健康観
著者
堀田 久美
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.15-24, 2003-06-30 (Released:2010-11-17)
参考文献数
15
被引用文献数
2 1

目的本研究は, 胎児娩出感をもった女性の分娩体験を明らかにし, 分娩時の女性の理解に向けた示唆を得ることを目的として行った。方法質的記述的研究方法を選択した。分娩後の女性, 18名に面接を行い, 分娩体験について自由に語ってもらった。面接の内容を逐語記録し, 胎児娩出感と分娩体験についての内容を質的に分析した。結果胎児娩出感をもった女性の分娩体験は, 自らの分娩を自己コントロールできたと自覚でき, 胎児との一体感を感じるものであり, 産んだという実感や分娩終了時の満足感および開放感と安堵感を感じさせるものであった。そして, 胎児の存在を自らの身体を通して感じることにより, 胎児の生命力に信頼をもてるとともに, 妊娠中からの連続したつながりの中で新生児に対する親近感をもちえている。また, 陣痛の苦痛を乗り越え分娩した自分に対し, 達成感や充実感をもたらし, 自らに備わっていた産む力を認識させるものでもあった。それは, 分娩を通して自己を受け入れ, 児を受け入れ, 分娩という出来事を確かに味わったという豊かな心情を生み出すものであった。結論胎児の娩出を, 自らの五感を通して感じ取っている女性がいた。女性たちにとって胎児娩出感をもつことは, 豊かな心情を生み出す大切なものであった。
著者
武本 茂美 中村 幸代
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.225-232, 2011 (Released:2012-03-10)
参考文献数
13
被引用文献数
1 2

目 的 本研究の目的は,完全母乳栄養法や混合・人工栄養法の児の栄養法別による育児不安および児に対する感情との関連を明らかにすることである。対象と方法 産後1ヶ月健診に来院した褥婦148名を対象とし,質問紙調査によりデータ収集を行った。調査内容は,対象の背景,育児不安の内容,育児不安尺度(牧野,1982)対児感情尺度(花沢,2008)である。分析は,PASWVer17.0を使用し,有意水準は5%とした。結 果 育児不安について,完全母乳栄養法の女性群の方が,混合・人工栄養法の女性群より育児不安が低かった(p<0.001)。対児感情について,拮抗指数において,有意差がみられ,完全母乳栄養法の女性群の方が,児に対する肯定的,受容的な感情が高かった(p=0.039)。結 論 母乳育児は育児不安軽減に対して有効性が高く,児に対する肯定的,受容的な感情が高まった。以上より,母乳育児の奨励は望ましいことであると考えられる。
著者
五味 麻美 大田 えりか
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.59-71, 2023 (Released:2023-04-23)
参考文献数
30
被引用文献数
1

目 的ムスリム外国人女性の日本での妊娠・出産経験を明らかにし,助産ケア向上のための示唆を得ることである。対象と方法日本で妊娠・出産を経験したムスリム外国人女性3名を研究参加者として,質的記述的研究を実施した。インタビューガイドを用いた半構造化面接によってデータを収集し,質的帰納的に分析した。結 果日本で出産することを決めたムスリム外国人女性たちは,日本人やムスリム仲間の評判を頼りに【安全で安心できる出産施設を選択】していた。そして,産育習俗や言語,医療従事者の対応など様々な場面で【母国との違いに戸惑う】経験を重ね,【試行錯誤しながら宗教上の規範を守(る)】っていた。女性たちは新たな生命を宿した重要な時期に,最善の形で自らの信仰を体現することができない現状に対する葛藤と受容を幾度となく繰り返しながら,自分なりの妥協点を見出して折り合いをつけ,【現状に合わせ規範の解釈を柔軟化】するプロセスを辿っていた。そうしたプロセスを経て,母子共に安全に産みたい,宗教上の規範を守りたいといった【ニーズを満たせたことに感謝】する経験をしていた。結 論本研究により,ムスリム外国人女性の日本での妊娠・出産経験として【安全で安心できる出産施設を選択】【母国との違いに戸惑う】【試行錯誤しながら宗教上の規範を守る】【現状に合わせ規範の解釈を柔軟化】【ニーズを満たせたことに感謝】の5つのコアカテゴリーが抽出された。ムスリム外国人女性に対する助産ケア向上のためには,専門性を発揮し,エビデンスに基づいた安全で安心できるケアを提供するとともに,ムスリム女性たちが外国人妊産婦に共通する不安や戸惑いに加え,宗教上の葛藤も抱えていることを理解したうえで宗教を含む文化や価値観を尊重し,個別性や多様性に配慮したケアを提供し,肯定的な出産経験に繋げることが必要であるとの示唆を得た。
著者
中田 かおり 堀内 成子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.78-88, 2016 (Released:2016-09-01)
参考文献数
19

目 的 生体インピーダンスによる妊婦の体水分と関連のある妊娠・分娩期の異常(切迫早産,妊娠高血圧症候群(PIH),低出生体重等)を探索し,関連を検討する。対象と方法 妊娠26週から29週の健康な単胎妊婦を対象とした。データ収集は,妊娠26~29週と妊娠34~36週の妊娠中2回と,分娩終了後に実施した。生体インピーダンスの測定には,マルチ周波数体組成計を使用した。妊婦の体水分と関連のある生理学的検査値と妊娠・分娩経過に関するデータは,質問紙と診療録レビューにより収集した。変数間の関連は,パス解析により検討した。結 果 研究協力の承諾を得られた340名の内,332名を分析対象とした。生体インピーダンスとの関連性が示唆された妊娠・分娩期の異常は,「切迫早産およびその疑い(妊娠26~29週の測定後から妊娠34~36週の測定まで)」(p結 論 体水分をあらわす指標と生体インピーダンスおよび,特定の妊娠・分娩期の異常との関連性が示唆された。しかし,異常の予測につながる指標の組み合わせは特定できなかった。今後,妊婦の生活やリスク発見後の対応を考えながら,妊娠期の健康につながる体水分評価指標の組み合わせや基準値を探索する,基礎研究が必要である。
著者
中田 かおり
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.196-204, 2010 (Released:2011-04-07)
参考文献数
31
被引用文献数
1

目 的 妊婦の循環動態・体水分バランスの変化と妊娠経過・予後との関連について文献検索と吟味を行い,助産実践における妊娠期の水分管理・水分補給の基礎となる知見を得る。対象と方法 医学中央雑誌web版,PubMed,CINAHL,Cochrane libraryと,国内外の産科学テキストおよび検索された論文の文献リストを用いて文献検索を行った。各データベース登録開始年から2009年8月5日現在に出版された,日本語および英語論文で,妊娠期の循環動態の変動あるいは妊婦の体水分バランスと妊娠経過・予後との関連について論じられた83文献を対象とした。対象文献をレビューし,言語,論文の種類,専門ごとに整理した後,研究内容ごとに分類し,得られた知見を,本文献検討の焦点ごとに統合し,検討した。結 果 妊婦の水分補給・補液の効果として,羊水量の増加を報告した研究論文が複数特定された。しかし,妊娠合併症の予防や治療を目的とした妊婦の水分補給・補液に臨床的な意義を認める研究成果は限られていた。妊婦の水分補給の実態を調査した研究は検索できなかったが,妊婦のカフェイン摂取と妊娠経過への影響と自記式調査票によるカフェイン摂取量把握の妥当性に関する調査は特定された。また,妊婦の循環動態と体液量の測定にはさまざまな方法が検討されているが,妊婦管理の一環として臨床実践に適切と思われる,非侵襲的な方法のみを用いた測定方法は,特定できなかった。今回の文献検討では,妊娠期の水分補給に関する保健指導の臨床的な根拠を示すことはできなかった。結 論 妊婦の水分摂取・補液と羊水量増加との関連,妊婦に推奨する摂取水分の種類を吟味する必要性,生体インピーダンス法を用いた非侵襲的な妊婦の体水分バランス管理の可能性が示唆された。今後,妊娠期の水分摂取の実態とその効果に関する調査,妊娠期に推奨される水分の種類・量の特定,妊婦にとって過度の負担とならない簡便な体水分バランスの測定方法・評価指標の開発が必要である。
著者
馬場 香里
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.207-218, 2015 (Released:2016-02-24)
参考文献数
66
被引用文献数
1

目 的 児童虐待防止への介入の必要性の判断や介入の評価指標とする児童虐待の本質を捉えた尺度の開発につなげ,さらに将来的な周産期における児童虐待防止への支援の発展と,児童虐待予防活動の基盤づくりへの示唆を得ることを目的とした。方 法 Rodgers(2000)の提唱する概念分析のアプローチ法を用いた。9つのデータベースとして,医中誌Web,CiNii,MEDLINE,CINHAL,PsycINFO,SocINDEX,Minds,National Guideline clearing-house,trip databaseを使用し,検索用語は「児童虐待(child abuse),妊娠(pregnant women),産後(postnatal),育児(child care)」とした。最終的に,英語文献26件,日本語文献32件の計58件と,日本小児科学会の発行している「子ども虐待診療手引き(2014)」を分析対象とした。結 果 5つの属性【養育者から子どもへの一方的な支配関係】【養育者の自覚の有無に関係しない行為】【子どものwell-beingを害する行為】【子どものwell-beingを保つ行為の欠如】【子どもの状況】,5つの先行要件【養育者の要因】【子どもの要因】【社会環境の要因】【複数要因の重なり】【適切な介入の不足】,5つの帰結【子どもの保護】【養育者の否認と孤独】【サバイバーの健康への影響】【母になったサバイバーの苦悩】【世代間伝播】が抽出された。代用語に「child maltreatment」が抽出され,関連概念に「しつけ」「shaken baby syndrome(揺さぶられっこ症候群)」「Munchhausen Syndrome by proxy(代理ミュンヒハウゼン症候群)」が抽出された。分析の結果,本概念を「養育者から子どもへの一方的な支配関係から成る,養育者の自覚の有無に関係しない行為による子どもの状況を基盤とした,子どものwell-beingを害する行為,及び子どものwell-beingを保つ行為の欠如である」と再定義した。結 論 本概念分析の結果は,児童虐待の本質を捉えることにつながり,今後の研究において児童虐待を測る尺度を開発する基盤となりうる。また本概念分析により,児童虐待による子どもへの長期的な健康への影響や,次世代への児童虐待の繰り返しの可能性が示され,児童虐待発生前の妊娠期からの予防の必要性,特に周産期で主な支援対象となる母がサバイバーであった場合の母に対する介入の必要性が示唆された。さらに周産期における児童虐待防止への支援については,妊婦のみならず,そのパートナーや子ども,社会環境も含めて支援対象であると認識し,それらの要因に対する適切な介入が必要である。
著者
溝口 巴奈 川田 紀美子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.153-164, 2019-12-27 (Released:2019-12-27)
参考文献数
23

目 的初めて親になった男性における,父親としての発達とパートナーの里帰りの有無および里帰りに関する各要因との関連について検討することを目的とした。対象と方法第1子出生後約1か月が経過した男性345名を対象に,7産科医療施設で無記名自記式質問紙調査を行った。質問項目は,父親になることによる発達尺度,主観的幸福感尺度,基本的属性,里帰りの形態,里帰り期間中の父親の生活実態である。里帰りの有無および里帰りに関する各要因と2つの尺度得点との関連について,Mann-Whitney U検定またはKruskal-Wallis検定を行った。結 果本研究対象者においては,パートナーの里帰りの有無によって,産後1か月での父親としての発達尺度得点に有意な差はみられなかった。里帰り群において,「父親になることによる発達尺度」と統計上有意な正の関連があった項目は,パートナーの里帰り期間中に,毎日電話をすること,里帰り後の育児をストレスに感じること,自分自身の家事をストレスに感じること,であった。また,有意な負の関連があった項目は,生まれた子どもとの心理的な距離を感じることであった。結 論里帰り期間中にパートナーと電話で毎日連絡を取ることで,父親の子どもを通しての視野の広がりにつながること,生まれた子どもとの心理的な距離を感じていた者は家族に対する愛情が低かったことが明らかになり,パートナーが里帰り期間中の男性に対して,母子への積極的なコミュニケーションを促す支援の重要性が示唆された。また,里帰り後の育児や里帰り期間中の家事をストレスに感じることは,父親としての役割を遂行しようと模索する,発達プロセスの初期段階にあたると考えられた。以上より,パートナーが里帰りをする男性に対しては,育児に関する知識の提供や育児家事行動について考える機会を与えることが重要であるという示唆を得た。
著者
松崎 政代 春名 めぐみ 大田 えりか 渡辺 悦子 村山 陵子 塚本 浩子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.2_40-2_49, 2006 (Released:2008-06-30)
参考文献数
42
被引用文献数
7 5

目 的 妊娠期の健康度や生活習慣を評価する客観的評価指標は少ない。そこで,妊娠期において酸化ストレスマーカーの一つである尿中バイオピリンを測定し,妊娠期での値の特徴とその関連要因を明らかにし,その利用可能性を検討する。方 法 2004年7月2日から8月31日までの調査期間中にNクリニックに来院した妊婦のうち594名を対象妊婦群とし,妊娠初期・中期・末期に分類した。また,妊婦群の年齢にマッチングさせた,現病歴のない,非妊娠女性35名をコントロール群とした。妊婦群とコントロール群に対し,調査票および診療記録から基本情報,生活習慣,精神的ストレスとして精神的健康度(general health questionnaire: GHQ)の情報を得た。また午前中に採尿・採血を行い,尿中バイオピリン,血清中脂質代謝マーカー(アセト酢酸・3-ヒドロキシ酪酸・トリグリセリド・総コレステロール・LDLコレステロール・HDLコレステロール・遊離脂肪酸)と糖代謝マーカー(グルコース・グリコアルブミン)の測定を行った。結 果 妊娠初期・中期・末期における妊婦の尿中バイオピリン値は非妊娠女性に比して有意に高値(p<0.001)であった。妊娠末期の尿中バイオピリン値は,妊娠初期,中期の値に比して有意に高値(p<0.001)であった。 尿中バイオピリン値に関連する要因として,現病歴があること,高血圧や蛋白尿といった妊娠高血圧症症状があること,グルコースおよび精神的健康度GHQ得点と正の関連,HDLコレステロールと遊離脂肪酸と負の関連が明らかになった。尚,妊娠高血圧症症状は,3-ヒドロキシ酪酸などの脂質代謝と関連があった。結 論 妊婦の尿中バイオピリン値は,妊娠末期に最も高値を示し,非妊娠女性よりも高値を示すという特徴が明らかになった。また,脂質代謝と関連のある妊娠高血圧症症状や現病歴,糖代謝,精神的健康度との関連が見出され,尿中バイオピリン値の妊娠中の酸化ストレスマーカーとしての利用可能性が示唆された。
著者
小倉 由紀子 北川 眞理子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.333-344, 2010 (Released:2011-04-07)
参考文献数
27
被引用文献数
2

目 的 本研究の目的は,家庭での性教育における親の果たすべき役割を親子双方の視点から明らかにすることである。研究参加者と方法 研究参加者は,A県下M市内中学校1年生から3年生の親子の中から,10組21名を抽出し文書で通知,その後電話で研究の説明をおこない内諾が得られたものとした。親が10名、子どもが11名で、親子別々に家庭での性教育実施における親の果たすべき役割について非構成化面接を行い,データ収集を行った。得られたデータを質的に記述し分析を行った。結 果 家庭での性教育実施における親の果たすべき役割について11カテゴリーが抽出された。その中で、親が考える家庭での性教育における親の果たすべき役割は、【学校教育での性教育の内容を知る】【学校教育との連携をはかる】【性の相談に対応し知恵を伝授する】【子どもの成長発達を受け止める】【正しい性知識を伝える】【親子の関係性を調整する】【性情報の氾濫に対応する】【夫婦の関係を円満にする】の8カテゴリーが抽出された。また子どもが考える家庭での性教育における親の果たすべき役割は、【子どもが望む性教育実現への支援】【子どもの求める性問題へ介入する】【家庭環境を調整する】の3カテゴリーが明確となった。結 論 本研究より,家庭での性教育における親の果たすべき役割は,知識だけではなく経験の中での知恵や細かい実践部分での対応に関連していた。子どもと親との関係において,どれくらい親が子どもに向き合い子どもにとって話しやすい相手であることかが重要であった。