著者
平出 美栄子 宮崎 文子 松崎 政代
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.87-97, 2015 (Released:2015-08-29)
参考文献数
30

目 的 本研究は,助産所出生数の減少を解明する前提の調査研究とし,病院,診療所,助産所の選択理由の比較について,マーケティングの概念を用いて調査·分析及び考察することを目的とする。対象と方法 調査は,都内の保健センター,助産所,乳幼児教室の利用者などで,母親725名を対象に質問紙調査を実施した。分析対象は389名である(有効回答率53.7%)。調査内容は,属性要因,出産施設の選択理由,選択する際の影響要因に関する内容である。分析では出産した施設別に,大学病院·病院をA群,診療所をB群,助産所·自宅をC群に分類し,属性要因とマーケティング·ミックス4P―Product, Price, Place, Promotion―の内容を3群で比較分析した。医療におけるProductは,ケアや医療サービス,医療行為とした。調査期間は,2013(平成25)年2月から3月末である。結 果 高年初産婦は,A群がB·C群に比べ多かった(p=0.027)。施設を選択する際の影響要因は,A群がB·C群に比べ「35歳以上だから」という回答が多かった(p<0.001)。出産施設の選択におけるProductの内容では,C群の7割が「健診時間が長く丁寧」「自然出産」「フリースタイル出産」「出産まで助産師が付く」「母乳指導」「母児同室」を選択の理由としていたが,A·B群では3割程度であった。また,A群は「毎回医師の健診がある」「規模が大きい」,B群は「毎回医師の健診がある」「個室がある」「豪華な食事」の回答が多かった(p<0.001)。Priceでは,A群は「出産費用が安い」(p<0.001),A·B群は「妊婦健康診査公費補助券が使える」の回答が多かった(p=0.015)。Placeでは3群の半数が「自宅近く」を回答していた。結 論 助産所の出生数減少に影響を与えると考えられるのは,高年初産婦(35歳以上)という理由及び,助産所が提供しているProduct(サービス·ケア)と大学病院·病院群,診療所群の妊産婦が要望しているサービス·ケアに差があることである。
著者
飯田 真理子 新福 洋子 谷本 公重 松永 真由美 堀内 成子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.187-194, 2017 (Released:2017-12-22)
参考文献数
20

HUG(Help-Understanding-Guidance)Your Baby育児支援プログラム(以下HUGプログラム)は米国,ノースカロライナ州のファミリーナースプラクティショナーであるJan Tedder氏により開発されたプログラムである。このHUGプログラムは,新生児を家族に迎えたばかりの両親に分かりやすく新生児の行動を説明し,育児のスキルを伝え,両親が児の行動を正しく理解し,出産後に肯定的な育児行動を継続することを目標としている。今回HUGプログラムを日本において実施するにあたり,日本語版の教材を作成しプログラムを開発したので,その内容を報告する。作成にあたり,原版開発者との協働で英語版HUGプログラムを日本語へ翻訳した。英語版を研究者らが日本語へ翻訳し,そのバックトランスレーションが行われ,英語のプログラムとの内容妥当性を確認された日本語版HUGプログラムを開発した。翻訳した教材はHUGプログラム内で使用するスライド,2つのスキルを紹介したリーフレット,母乳育児の道のりを示したリーフレット,新生児の行動をまとめたDVDである。HUGプログラムの構成は次の通りである:育児に使える2つのスキル「新生児のゾーン」「新生児の刺激過多の反応」の紹介,新生児が示す刺激過多の反応への対処方法,順調な母乳育児のコツ,2つの睡眠パターンの紹介である。そしてその後はおくるみと赤ちゃん人形を用いたおくるみレッスンと育児経験者から子育ての苦労やヒントを聞く,という構成である。HUGプログラム内で使用している教材は参加者に配布し,自宅で繰り返し活用できるようにしている。現在はプログラムの目標の達成度を測定している。参加者の反応等の分析を経て,日本の子育て文化を考慮した日本語版HUGプログラムの更なる発展と普及に向けて,教育活動を続けていく予定である。
著者
小川 久貴子 安達 久美子 恵美須 文枝
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.1_17-1_29, 2007 (Released:2008-07-07)
参考文献数
25
被引用文献数
1

目 的 本研究は,10代女性が妊娠を継続するに至った体験がどのような意味をもっていたのかを探求し,その特徴を明らかにすることである。対象と方法 研究協力の承諾が得られた10代で妊娠した女性8名を対象に,半構成的面接を3~4回(1.妊娠30週以降,2.産褥入院中,3.産後1ヶ月)行った。得られたデータの逐語録を,現象学的研究方法を参考にして質的記述的に分析した。結 果 10代女性が妊娠を継続するに至った体験は,Aは「苦労した生い立ちからの早期脱却と,結婚出来なくても母親になりたいという強い願望」,Bは「過去の中絶の後悔から今回は産むという決意の元,両親の祝福も受けた価値ある妊娠」,Cは「出会い系(IT)で知り合った相手との予定外妊娠に対する困惑と共に,実父の承認を得るための学業への前向きな取り組み」,Dは「過去の中絶の後悔から,今回は義母の猛反対や経済的に困難な状況下でも産むという決意」,Eは「彼の家族との繋がりにより新しい家庭を築く喜びと共に,医療者による中絶や母親役割を前提にした関わりへ反発」,Fは「予定外の妊娠による心身の辛さと共に,合格大学を退学したくないため学業との両立を決意」,Gは「困惑した予定外妊娠にもかかわらず周囲の後押しがあり,友人から疎外された中でも新しい家庭へ希望を抱く」,Hは「過去の中絶の後悔から,猛反対の両家を説得する決意と共に,妊娠や母になるための準備に価値を見出す」であった。また,妊娠継続に至る体験の特徴では『中絶体験の後悔』,『新しい家庭を築く憧れ』,『周囲の受け入れ』,『自分の意志を貫く強さ』,『医療従事者の否定的対応』の5点が明らかになった。結 論 予定外妊娠が多い10代女性は妊娠を継続させるために,学業の両立や家族関係の調整など多面的な体験を多くしており,それぞれに固有の意味が存在していた。また,8例の体験の特徴として,5つの事項を取り出すことが出来た。
著者
田中 和子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.279-289, 2013 (Released:2014-03-05)
参考文献数
15

目 的 インドネシアバリ島の現地男性と結婚した日本人女性が,バリ=ヒンドゥー教の思想と子育てとの関係をどのように捉え,子育てをめぐりどのような生活体験をしているのかを明らかにする。対象と方法 研究者はインドネシア,バリ島に約3ヶ月間滞在し,ヒンドゥー教の思想をもつ男性と結婚した日本人女性11名を対象に,バリ=ヒンドゥー教の思想に関連した生活体験がどのように子育てに影響を与えているか,半構造的面接を行い,帰納的に分析し検討した。結 果 分析の結果,12個のカテゴリーと39個のサブカテゴリーが抽出された。 【バリの生活に馴染む努力】を積極的にする女性たちは,【ヒンドゥー教を受容】することが容易であり,【子どもに民間療法を取り入れる】ことも受容的であった。一方,ヒンドゥー教の受容が難しい場合,【子どもに民間療法を取り入れない】傾向があった。女性たちは,【ヒンドゥー教受容の難しさ】を感じながらも,【みんなで子どもを育てる】バリは日本よりも【子育てに適した環境】と捉えていた。また,女性たちは肯定的に【ヒンドゥー教と子どもの健康は関係する】と考えており,【大家族の生活に戸惑い】ながらも,【みんなで子どもを育てる】ことに感謝していた。女性たちは,【男児尊重の思想を否定】し,かつ思想に関して【子どもに選択肢を与えたい】という思いが,【ヒンドゥー教受容の難しさ】の要因として考えられた。ヒンドゥー教の受容の程度はさまざまであったが,女性たちは【バリで子どもを育てる覚悟】があった。結 論 バリ島で現地男性と結婚し,そこで暮らす日本人女性にとって,バリ=ヒンドゥー教の思想が子育てに大きく影響していた。
著者
清水 嘉子 関水 しのぶ 遠藤 俊子 宮澤 美知留 赤羽 洋子
出版者
Japan Academy of Midwifery
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.215-224, 2011

<B>目 的</B><br> 本研究の目的は,子どもが乳幼児期にある母親の育児幸福感を高めるために3か月間に2時間による6回の少人数参加型プログラムを開発し評価した。<br><b>方 法</b><br> 9人から10人を1グループとするプログラムを2回実施した。プログラム参加群(以下プログラム群とする)19人に対し,プログラムの初回参加前と最終回参加後および最終回参加後1か月に心理学的指標(心理尺度)による育児ストレスや育児幸福感,自尊感情と生理学的指標(自律神経活動,脳波,唾液CgA)によるリラックスやストレスの評価をした。さらに,プログラムに参加しない対照群16人を設定し,同様の評価を実施した。プログラムの内容は,自分について話し仲間作りをする,子どもへの思いを振り返る,育児の幸せな瞬間を大切にする,互いの頑張りを認める,自分を認め自信を持つ,人生設計を考える,自分の悩みについて聞いてもらうなどであり,毎回腹式深呼吸と,笑顔作りのストレッチを取り入れた。心理的指標と生理的指標についてはそれぞれ,群と時点の効果を検討するために二要因分散分析が行われた。<br><b>結 果</b><br> 本プログラムの心理学的指標には育児ストレスにおける心理的疲労の群主効果を除き有意な差はみられなかった。心拍数の群主効果,自律神経活動におけるHFの時点主効果,脳波における,α1とα3に交互作用が有意であった。<br><b>結 論</b><br> 今後は,より効果的なコースプログラムの検討が課題となる。とくに毎回のプログラム終了後に子どもを交えた雑談の時間や個別相談の時間を確保すること,プログラム終了後の継続的な支援の必要性が課題として残された。
著者
丸山 菜穂子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.23-33, 2017-06-30 (Released:2017-06-30)
参考文献数
47
被引用文献数
4

目 的妊婦の孤独感の程度と背景,社会的関係性から関連要因を探索することおよび,孤独感の母性役割の同一化,マイナートラブルへの影響を探索することを目的とした。孤独感は「社会的関係性における願望が量的,質的に満たされないときに生起する主観的な不快感情」と定義した。対象と方法2015年7月から10月に都内近郊の5周産期医療施設にて,妊娠34週以降の妊婦1,675名を対象に,改訂版UCLA孤独感尺度(得点範囲は20点から80点で高いほど孤独感が高い),ソーシャルサポートの量と満足度,女性に対する暴力スクリーニング尺度(DVスコア),母性役割の同一化,マイナートラブルを含む質問紙調査を行った。有効回答1,310部(78.2%)を統計的に分析した。結 果1. 孤独感得点の平均は33.1点であり,高い妊婦は平均42.3点の先天性胎児異常を指摘されている妊婦,平均38.8点のシングルマザー,平均37.0点の中卒の妊婦であった。2. 重回帰分析の結果,サポートの満足度が低いほど(β=−.331),サポート量が少ないほど(β=−.161),世帯収入600万円以上を基準として300万円以上600万円未満(β=.104),300万円未満(β=.141)と低いほど,精神疾患の既往があり(β=.111),DVスコアが高いほど(β=.069)孤独感は高かった(調整済R2=.21)。3. 孤独感が高い妊婦は母性役割の同一化が低かった(β=−.428, p=.000)が,孤独感とマイナートラブルの発症頻度との関連は認められなかった。結 論孤独感の高い妊婦は胎児異常を指摘されている妊婦と社会的脆弱性をもつ妊婦であった。早期発見のために精神状況とともにサポート・経済状況,DVについて情報収集する必要がある。孤独感の高い妊婦の母親になる過程を支えるために,助産師の継続的個別的支援が必要である。
著者
竹ノ上 ケイ子 佐藤 珠美 辻 恵子
出版者
日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.8-21, 2006-10-02
参考文献数
35
被引用文献数
1 1

目 的 自然流産後夫婦の関係変化とその要因を明らかにし,夫婦を対象としたケアの方向性,援助方法を考案する基礎資料とする。方 法 自然流産後3か月から2年経過し,掲示やホームページによる公募に応じた夫婦を対象とし,後方視による関係変化についての記述内容をデータとして,質的,帰納的に内容分析を行った。結 果 166名(男性14名,女性152名)が,流産後の夫婦関係の変化内容を記述し,その内容177件をデータとした。夫婦関係の変化内容として【個の成長・成熟と夫婦関係のよい循環過程】,【親密な良い関係のさらなる向上】,【関係の深化と発展】という3つのポジティブな変化と【希薄な悪い関係のさらなる悪化】,【関係の断絶と破綻】という2つのネガティブな変化が得られた。 ネガティブ変化にかかわる要因として【事実誤認と相互理解の困難】,【配偶者を負の方向で評価】,【悲哀のプロセスの共有困難】,【普段の夫婦関係が希薄】,【子どもを持つことについての感情や思考のすれ違い】,【性生活の困難】,【夫婦としての存在意味喪失】の7つが得られた。 ポジティブ変化にかかわる要因として【適切な事実認識】,【配偶者の肯定的評価】,【自己開示と自己確認】,【悲哀のプロセス共有】,【関係向上への努力】,【親としての自覚と努力】の6つが得られた。結 論 流産は衝撃的な対象(胎児)喪失体験であり,危機的状況を引き起こす重大なストレス因子であること,夫婦関係創成期,家族創成期に困難を連続して体験すること,親になる意思確認や夫婦,あるいは家族であることの確認の機会であること,正しい事実認識や悲哀のプロセス共有が危機的状況を乗り越える鍵となり,個と夫婦の発達を促す契機にもなり得るが,反対に感情や思考のすれ違いが生じやすく,関係の断絶と破綻も生じやすいことが示唆された。PurposeThe aim of this study was to explore the ways miscarriage can alter a couple's marital relationship and its related factors.MethodA qualitative, contextual analysis was conducted of 166 subjects--women who had miscarried from three months to two years earlier and their spouses. They were recruited by notices on bulletin board at women's centers, through an Internet Web Site, and through acquaintances. An open-ended question, "How did the miscarriage alter/ affect your relationship?" was asked on questionnaires. 14 males and 152 females responded, describing changes in their relationship after miscarriage. The descriptions were coded into 177 data, which were grouped and analyzed using inductive and contextual methods.ResultsThe contents were compiled into five categories: two negative changes-a worsening of a shallow relation and the aggravation and breakdown of the relation; and three positive changes-better cycle of the development and maturing of each person as an individual and as a couple; a deepening and evolving of each couple's relation; and aimprovement of intimate relations. Eight factors were involved in the negative changes: a) mutual misunderstanding of the difficulties encountered; b) a negative judgment of one's spouse; c) an inability to share the mourning process; d) a continued shallow marital relationship; e) a decrease in communication; f) a lack of agreement on the desirability of having a child; g) sexual difficulties; and h) a general doubting of the value of remaining as a couple. Seven factors were involved in the positive changes: a) strengthening of the couple's bond by sharing the difficulty;b) a recognition of the miscarriage and his/her spouse's reaction; c) a positive evaluation of his/her spouse; d) an open-mindedness to the partner and reconfirmation of his/her own feelings toward the partner; e) a sharing of the mourning process; f) an affirmation of and commitment to improve the marital relationship; and g) a selfawareness and striving for being a parent.ConclusionThese results reconfirmed that a miscarriage is a major stress factor which can cause a crisis in a marital relationship. They also suggest that the ways that women and men face the miscarriage and faced themselves and whether they share the mourning process relates to the development of the relationship. The data also suggeststhat a miscarriage lets the couple confirm whether they want to have a child or not. Finally, the data suggests that a miscarriage, if encountered positively, can help the couple grow from growth into an existential humanistic relationship.
著者
園田 希 堀内 成子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.72-82, 2012 (Released:2012-08-31)
参考文献数
30
被引用文献数
2

本研究は,正常分娩において人工破膜が実施された状況を振り返ることで,正常分娩における人工破膜の実態を明らかにすること,そして人工破膜と分娩経過,児の娩出方法,児に与える影響を明らかにすることを目的とした。なかでも,児の娩出方法に関しては検証されておらず,明らかになっていない。そのため,これらを明らかにすることは,長年伝統的に行われていた人工破膜を,根拠に基づき実施するための一助となると考える。 調査対象は,助産所,病院で正常妊娠経過を辿った初産婦326名,経産婦435名の計761名とした。過去の診療録や助産録などより情報を収集し,自然破水群,人工破水群に分類した。分娩経過として,分娩第 I 期,第II期,分娩所要時間,促進剤の使用の有無,を比較した。分娩第 I 期,第II期,分娩所要時間,については,Mann-Whitney U検定を,促進剤の使用の有無に関しては,χ2検定を実施した。また,児の娩出方法として,医療介入の有無,新生児の予後について比較した。医療介入の有無,新生児の予後についてはχ2検定を,度数が5以下の場合は,フィッシャーの直接確率検定を採用した。 その結果,破水から児娩出までの所要時間に関して,初産婦においてのみ,自然破水群は中央値74分,人工破膜群では中央値58分で人工破膜群が有意に短かった(p=.029)。 分娩第II期の所要時間は,経産婦でのみ,自然破水群は中央値18分,人工破膜群では中央値16分で,人工破膜群が有意に短かった(p=.002)。 児の娩出方法は,自然破水群の初産婦と比較すると,人工破膜群の初産婦で【圧出分娩】【圧出分娩および器械分娩の併用】が有意に高率であった(χ2=5.420, p=.020, χ2=7.071, p=.001)。 初産婦において,破水から児娩出までの所要時間の平均は,人工破膜群が有意に短かったが,初産婦の人工破膜群において【促進剤の使用】が有意に高率であったこと,促進剤の使用時期は人工破膜後からが最も多かったことが,破水から児娩出までの所要時間の平均が有意に短いという結果をもたらしたと考えられる。 そのため,人工破膜による分娩促進の効果は,初産婦・経産婦とも必ずしも効果があるとは言い難く,分娩促進目的での人工破膜の実施は,頸管開大度から判断するだけでなく,産婦の身体的,精神的状態,産婦の希望を考慮し,慎重に判断していく必要がある。 なかでも,初産婦では,人工破膜後に圧出分娩や促進剤の使用などの医療介入を必要とする可能性が示唆された。そのため,初産婦に対して人工破膜を実施する際には,人工破膜後に生じる可能性のある弊害を考慮し,その必要性を慎重に判断していく必要がある。
著者
佐々木 敦子 武井 とし子 三輪 百合子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.20-27, 1989-12-25 (Released:2010-11-17)
参考文献数
20

妊婦体操や分娩時の呼吸法については, 積極的な奨励により広く実施されている。本研究は, 妊娠の過程に伴う呼吸機能を測定し, 分娩時に用いられる呼吸法の指導に関する基礎的資料を得ることを目的とした。対象は正常経過の妊婦8人と非妊婦25人である。妊婦では, 妊娠初期, 中期, 後期の3回測定した。内容は, (1) 肺活量の測定, (2) 呼気ガス分析 (呼吸法実施時, 運動負荷実施時), (3) 心拍数 (運動負荷実施時), (4) 二酸化炭素分圧測定 (呼吸法実施時) である。呼吸法は腹式深呼吸, 胸式深呼吸, 短促呼吸および努責の代わりに息止めを行い, 各呼吸法の間に安静3分間をとって実施した。運動負荷は安静2分間を前後に4METS設定で10分間実施した。結果より腹式深呼吸, 胸式深呼吸では呼吸効率は良いが, 短促呼吸や息止めでは二酸化炭素のwashout効率が悪いため, 十分な深呼吸が必要である。運動負荷による換気量や心拍数は, 妊娠の経過とともに増加した。
著者
中村 幸代 堀内 成子 毛利 多恵子 桃井 雅子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.205-214, 2010 (Released:2011-04-07)
参考文献数
20
被引用文献数
3 1

目 的 ブラジル在住のブラジル人妊婦を対象に,冷え症の自覚がある妊婦の体温及び,妊娠中の随伴症状や日常生活行動の特徴の実態を分析する。対象と方法 妊娠20週以降のブラジル在住ブラジル人妊婦200名を対象とし,体温測定と質問紙調査を行った。調査期間は2007年10月から2008年2月である。結 果 1,冷え症の自覚があった妊婦は114名(57%)であった。前額部深部温と足底部深部温の温度較差の平均は,冷え症の自覚がある妊婦は,2.8℃,冷え症の自覚がない妊婦は2.0℃で,2群間に有意差が認められた(p=0.018)。2.冷え症の自覚と冷え症を判断する基準(寺澤,1987)との比較にて,冷え症の自覚がある妊婦のうち,冷え症を判断する基準(寺澤,1987)でも冷え症である妊婦は70.2%であり,冷え症の自覚がない妊婦のうち,89.5%は冷え症を判断する基準(寺澤,1987)でも冷え症ではないと判断できた。3.妊婦の冷え症と随伴症状・日常生活行動との関連性では,「冷えの認識」と「冷えに関連した妊娠に伴う症状」は相互に因果関係は認められなかった。「不規則な生活」は「冷えに関連した妊娠に伴う症状」に正の影響を与えていた(β=0.41, p=0.049)。さらに「不規則な生活」は「冷えに関連した妊娠に伴う症状」を介して「陰性食品の摂取」に正の影響を与えていた(β=0.38, p=0.021)。結 論 1.冷え症の自覚がある妊婦の,前額部深部温と足底部深部温の温度較差は,冷え症の自覚がない妊婦に比べて有意に大きい。冷え症の自覚は,客観指標となる温度較差を反映している。2.冷え症の自覚がない妊婦と,冷え症を判断する基準(寺澤,1987)の一致率は約8割と高かった。3.ブラジル人妊婦は,「深部温温度較差」や「冷えの認識」と,「冷えに関連した妊娠に伴う症状」や「不規則な生活」や「陰性食品の摂取」との間に因果関係はなく,日常生活行動が冷え症に影響を与えない。
著者
中村 幸代 堀内 成子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.94-99, 2013 (Released:2013-09-18)
参考文献数
11
被引用文献数
3 6

目 的 冷え症と早産,前期破水,微弱陣痛,遷延分娩,弛緩出血との関連性について分析することである。対象と方法 研究デザインは対照のある探索的記述研究であり,後向きコホート研究である。調査期間は,2009年10月から2010年10月,調査場所は,早産児の収容が可能な首都圏の産科と小児科を要する総合病院6箇所である。 研究の対象者は,入院中の分娩後の日本人女性2810名である。調査方法は,質問紙調査と医療記録からのデータ収集であり,質問紙の回答の提出をもって承認を得たものとした。結 果 2810名を分析の対象とした。冷え症と異常分娩である5因子を観測変数として,構造方程式モデリングを施行し,パス図を作成した。冷え症から早産へのパス係数は0.11(p<0.001),冷え症から前期破水へのパス係数は0.12(p<0.001),冷え症から微弱陣痛へのパス係数は0.15(p<0.001),冷え症から弛緩出血へのパス係数は0.14(p<0.001),冷え症から遷延分娩へのパス係数は0.13(p<0.001)であり,いずれも正の影響を与えていた。また,前期破水から早産へのパス係数は0.05(p=0.013),前期破水から微弱陣痛へのパス係数は0.07(p<0.001),微弱陣痛から弛緩出血へのパス係数は0.08(p<0.001)であった。そして,微弱陣痛と遷延分娩の誤差間のパス係数は,0.24(p<0.001)であり相互に影響を及ぼしあっていた。結 論 冷え症は,早産,前期破水,微弱陣痛,遷延分娩,弛緩出血のすべてに影響を与えている。各異常分娩間の関係では,前期破水は早産に影響を与えており,さらに前期破水は,微弱陣痛に影響を与え,微弱陣痛は弛緩出血に影響を与えている。また,微弱陣痛と遷延分娩は相互に影響し合っていた。
著者
常盤 洋子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.27-38, 2003-12-31 (Released:2010-11-17)
参考文献数
29
被引用文献数
9 16

目的産後うつ傾向は産褥早期に対処されることが期待される. そこで, 出産体験の自己評価と産褥早期における産後うつ傾向の関連を明らかにし, 出産後の心理的援助のあり方を検討する資料を得ることを目的とする。対象および方法研究期間は平成12年4~9月。産後1~7日目の褥婦1,500名を対象に無記名自記式質問紙調査を実施した (有効回答数932票, 回答率62.1%)。調査内容は, 出産体験の自己評価, 産後うつ傾向, 出産体験の自己評価に影響を及ぼす産科的要因, 心理・社会的要因であった。結果出産体験の自己評価が低い場合, 産後うつ傾向をもたらす可能性が高いことが明らかになった。また, 初産婦, 経産婦ともに「信頼できる医療スタッフへの不満」,「出産年齢が若年」,「出産時の不安が強い」が産後うつ傾向を規定する要因として抽出された。結論出産体験の自己評価に満足が得られない場合には, 初産婦, 経産婦ともに産後うつ傾向が高くなることが示唆された。また, 分娩期における信頼できる医療スタッフの存在, 出産時の不安への対処は, 出産体験の満足度を高め, ひいては, 産後うつ傾向の予防に貢献すると考えられる。
著者
塩澤 綾乃 清水 嘉子
出版者
Japan Academy of Midwifery
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.271-283, 2010

<B>目 的</B><br> マダガスカル共和国における伝統的産婆(Traditional Birth Attendants,以下TBAとする)の世話に対する認識,世話を受ける女性の受け止めを明らかにする。<br><B>対象と方法</B><br> マダガスカル共和国アンチラベ市郊外のA村に研究者が2ヶ月間滞在し,現在活動しているTBA4名,TBAより現在または過去に世話を受けている女性11名に対し,TBAの世話の内容と世話に対する考え,世話を受ける女性の受け止めに関する半構成的面接を行った。さらに,1名のTBAに同行し世話の場面の参加観察を行った。得られたデータは質的に分析を行い,分類し検討した。<br><B>結 果</B><br> TBAは妊娠中の世話,分娩時の世話,産後の世話を行っていた。世話に対するTBAの考えでは,子どもの位置を確認,お産を早く進める,褥婦が寒さを感じることが大切などがあった。TBAより世話を受けた女性の受け止めでは,疲れが取れる,お産についてよく知っていて頼りになった,分娩時に力を貸してくれるなどであったが,一方でTBAは何もしないと受け止めていた。TBAの世話に対する考えと女性の受け止めでは,語られた内容の半数に認識の差異があった。認識の差異には母親が分娩中の世話を記憶していないこと,TBAの指導は経験や言い伝えを基にしており,具体性に欠け内容が薄いことなどが影響していると考えられた。<br><B>結 論</B> TBAのドゥーラとしての役割は女性に評価されており世話の必要性は高い。その役割を継続することに加え,世話の課題として,女性のニーズに対応した世話ができるよう知識を補う必要があると考えられた。そのためには,地域の助産師が専門職者としてのプライドという垣根を越えて,TBAの世話や考え方を理解した上で,研修を開催するなどの具体的な行動が期待される。
著者
永森 久美子 土江田 奈留美 小林 紀子 中川 有加 堀内 成子 片岡 弥恵子 菱沼 由梨 清水 彩
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.17-27, 2010 (Released:2010-10-28)
参考文献数
23
被引用文献数
4

目 的 母乳育児中および母乳育児の経験がある母親の体験から,混乱や不安を招き,母親の自信を損なうなどといった効果的でなかった保健医療者のかかわりを探索する。対象と方法 研究協力者は都内の看護系大学の母乳育児相談室を利用した母親35人と,第2子以降の出産をひかえた家族ための出産準備クラスに参加した母親5人の計40人であった。データ収集は研究倫理審査委員会の承認を得て,2007年8月~11月に行った。データ収集方法は半構成インタビュー法で,内容は,「授乳や子どもの栄養に関して困ったこと,不安だったことは何か」,「それらの困ったこと・不安だったことにどのように対処したか」などであった。録音されたインタビュー内容を逐語録にしたものをデータとし,母親が受けた支援で,「混乱を招いた」,「不安になった」などというような医療者のかかわりを抽出した。抽出された内容をコード化しサブカテゴリー,カテゴリーに分類した。結 果 母乳育児をしている母親が混乱や不安を招くような保健医療者のかかわりとして,【意向を無視し押し付ける】,【自立するには中途半端なかかわり】,【気持ちに沿わない】,【期待はずれなアドバイス】,【一貫性に乏しい情報提供】の5つのカテゴリーが抽出された。母親は保健医療者から頻回授乳や人工乳の補足を強いられているように感じ,授乳の辛さや不安を受け止められていないと感じていた。その結果,母親は後悔の残る選択をし,授乳に対して劣等感や失敗感を抱いていることがあった。また,母親が自分で判断・対処できるようなかかわりでなかったために,自宅で授乳や搾乳の対応に困難を抱えたままでいることもあった。結 論 母親は母乳育児への希望を持っていたが,保健医療者のかかわりにより混乱や不安を感じていることがあった。保健医療者には,母親の意向を考慮した母親主体の支援,母親が自立していくための支援,母親の気持ちを支える支援,適切な観察とアセスメント能力,一貫性のある根拠に基づいた情報提供が求められていると考えられた。
著者
中田 かおり
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.208-221, 2008 (Released:2009-05-20)
参考文献数
30
被引用文献数
5 11

目 的 妊娠前から出産後2~3年の期間において,母乳育児継続を可能にする要因とアウトカムとしての母乳育児のセルフ・エフィカシーについて探索することを目的とした。対象と方法 2~3歳の子どもがいる母親を対象に質問紙調査を行った。測定用具は,母乳育児継続に関する自作の質問紙,日本語版Breastfeeding Personal Efficacy Beliefs Inventoryおよび一般性セルフ・エフィカシー尺度である。質問紙は1103部郵送し,回収した424名のうち404名を分析対象とした。分析にはSPSS 15.0J for Windows版を用いた(p<.05)。結 果 母乳育児期間は平均1年4か月(±10か月)で,最頻値1年,最大値4年3か月であった。母乳育児の継続には,出産直後と入院中のケアである次の6つとの関連が認められた。(1)母子同室を24時間までに行う(p=.000),(2)糖水・ミルクの補足をしない(p=.000),(3)母乳分泌を保証された経験がある(p=.000),(4)夜間授乳を出産当日に開始する(p=.002),(5)早期接触を20分以上行う(p=.006),(6)初回授乳を出産後30分までに行う(p=.009)。退院後の状況で関連していた要因は(1)母乳不足感がないこと(p=.000),(2)助産師の援助を受けたこと(p=.000)の2つであった。また,「母乳不足感に対する助産師の援助」,「母乳分泌を保証する母親への関わり」は母乳育児期間を有意に延長していた。母乳育児継続期間と母乳育児のセルフ・エフィカシーには正の相関があった(r=.392, p<.01)。母乳育児のセルフ・エフィカシーの影響要因として「成功体験」,「言語的説得」,「生理的・情動的状態」との関連が認められた。結 論 出産直後と入院中のケアは,母乳育児期間を決定づける大きな要因であった。母乳不足感に対する助産師援助,母乳分泌の保証を与えるケアの重要性が示唆された。母乳育児継続期間と母乳育児のセルフ・エフィカシーには関連が認められた。
著者
田淵 紀子 島田 啓子 亀田 幸枝 関塚 真美 坂井 明美
出版者
日本助産学会 = Japan Academy of Midwifery
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.25-36, 2008-06-30
被引用文献数
2 4

目 的<br> 生後1ヶ月児の泣きに対する母親の困難感とその感情に関連する要因を明らかにすることを目的とした。<br>対象と方法<br> 北陸地方の病産院にて出産し,1ヶ月健診時に調査の同意が得られた母親を対象に,自己記入式質問紙調査を実施した。調査内容は,児の泣きに対する母親の困難感と,その関連要因として,児の泣きの性質や母親の睡眠・授乳状況,サポート状況などの質問項目を設定し,各々4段階リカート尺度で点数化した。<br>結 果<br> 有効回答は,初産婦298名(47.3%),経産婦332名(52.7%),合計630名であった。全体の約半数の母親が,児が泣くと戸惑ったり,抱いたり,あやしても泣きやまない困難な状況を経験していた。困難感を示した母親は,小さな子どもと接したことのない初産婦に多く,子どもの泣き方が特徴的であったり,なかなか寝入らないなど,子ども側の要因と母親の生活状況,育児に対する負担感や自信感等の母親側の要因が困難感に関連していた。<br>結 論<br> 生後1ヶ月時の母児の支援には,児側の要因と母親側の要因の双方に着目し,児の泣きの特徴や,母親の疲労状態,育児に対する気持ち等に注意を向け,母親が児の泣きをどのようにとらえているのかを知ることが重要であり,これらのスクリーニングの必要性が示唆された。
著者
片岡 弥恵子 須藤 宏恵 永森 久美子 堀内 成子
出版者
Japan Academy of Midwifery
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.158-169, 2008

<B>目 的</B><br> 研究目的は,性の健康クラスに参加した母親のクラス前後の気持ちおよび行動について記述することで,クラスに参加した母親と子どもおよび家族にどのような変化があったかを明らかにすることである。<br><B>対象と方法</B><br> 研究デザインは,質的記述的研究であった。クラスに参加予定の母親10名を対象に,クラス前と終了後の2回,半構成的インタビュー法によりデータを収集した。データからクラス前後の変化ととらえられた部分を抽出し,コード化しカテゴリーに分類した。<br><B>結 果</B><br> 母親の語りは,性教育の第一歩,新しい家族を迎えること,家族で迎える出産に分類された。性教育の第一歩として,クラス前の母親は,子どもへの【性に関する正しい知識の伝授】を望んでいたが,性について【どこまで話したらよいかという悩み】を持ち,【子どもに理解しやすい方法の探求】を試みていた。クラス後には,【性について子どもに伝えていく自信】を高め,【子どもの理解への手ごたえ】を得ていた。同時に,自分自身の受けた性教育について振り返り【母親自身が受けた性教育への疑問】を感じていた。新しい家族を迎えることについては,クラス前【上の子どもへの対応の難しさ】を感じ【無理のない弟妹の受入れ】を望んでいた母親は,クラス後に【赤ちゃん返りを受止める】,【子どもの成長の実感】を得ていた。家族で迎える出産に関することでは,【家族で迎える出産への期待】から【子ども立会い出産の準備】がクラスを受ける動機になっており,クラス後は【家族で共有知識を持つ心強さ】を持ち,クラスは【今回の出産に向き合う】契機になっていた。<br><B>結 論</B><br> 上の子どもや家族で迎える出産に向けての母親の気持ちは,クラスの前後で肯定的に変化していたことがわかった。これは,クラスの影響と推測することができる。対象者を増やし,家族への長期的な影響を踏まえてクラスの効果を明らかにすることが今後の課題である。
著者
中田 かおり
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.262-271, 2015 (Released:2016-02-24)
参考文献数
23
被引用文献数
2

目 的 「日本語版母乳育児継続の自己効力感尺度(Japanese-Breastfeeding Personal Efficacy Beliefs Inventory; J-BPEBI)」を開発し,信頼性・妥当性を検討した。対象と方法 原版は母乳育児を推進し女性の母乳育児の価値や信念を測定するために開発された22項目のVASである。本研究ではまず,2008年に開発された(旧)日本語版Breastfeeding Personal Efficacy Beliefs Inventoryの日本語の修正と5段階リッカートスケールへの変更を行いJ-BPEBIを作成した。その後,2~3歳の子どもの母親を対象に質問紙調査を行った。質問紙は578部配布し286部を回収,241名を分析対象とした。分析にはSPSSVer. 20を使用した。結 果 母乳育児継続期間は平均1年5か月(SD=9か月)であった。因子分析の結果,J-BPEBIは3因子構造となった。第1因子「母乳育児をより長く継続することをマネジメントする自信」,第2因子「社会的サポートや情報をマネジメントしながら母乳育児を継続する自信」,第3因子「様々な環境や状況をマネジメントしながら母乳育児を継続する自信」と命名した。J-BPEBIと一般性自己効力感との相関はなかったが,母乳育児継続期間との相関が認められた(r=.314, p=.000)。自己効力感に影響する「4つの情報源」のうち「成功体験」と「情動的喚起」との関連が認められた。全項目でのクロンバックα係数は.902であり,下位尺度の信頼性係数は.640~.916であった。結 論 J-BPEBIは22項目3因子構造の尺度であり,構成概念妥当性,併存妥当性が確保された。全項目での信頼性は高く,内部一貫性は確保された。J-BPEBIは母乳育児継続と母乳育児の自己効力感に関する概念を測定する尺度であることが示唆された。