著者
日隈 ふみ子 藤原 千恵子 石井 京子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.56-63, 1999-01-20 (Released:2010-11-17)
参考文献数
12
被引用文献数
1 2

初めて親となった父親の発達について, 母親の発達との比較と父親発達への影響要因を明らかにすることを目的に研究を行った. 調査は子どもが1歳半になった時期に父親と母親に対して別々に実施し, 分析対象は両親の回答がそろった178組 (有効回答率45.8%) とした. その結果, 以下のことが明らかとなった. 父親の育児家事行動の中で, 子どもに話しかける・だっこする・遊び相手になるや, 母親への精神的援助など比較的行動しやすい行動得点は高いが, 子どもへの具体的な世話や家事行動の得点は低かった. 親としての発達に関する因子得点は両親とも高く,「生き甲斐・存在感」因子はどちらも第1位であったが, 2位以下には父母間に違いがあった, 父親と母親の因子得点の比較では, 母親のほうが父親よりすべての因子で高かった. 父親の発達には父親の役割観と育児家事行動の行動得点の高低が影響しており, 母親の父親に対する育児家事行動の期待度は影響していなかった.
著者
寺田 恵子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.268-276, 2016 (Released:2017-03-08)
参考文献数
21
被引用文献数
1

目 的 産後早期の褥婦の乳頭の硬度と乳頭長の基礎的データを得,授乳の状況を示すLATCHスコアとの関連について検討した。対象と方法 対象は母乳育児が可能な産後1~2日目の日本人女性394名で,調査内容は乳頭の硬度と乳頭長の測定とLATCHスコアの評価である。乳頭の硬度に関しては,主観的に測定し,3段階で分類した。乳頭長は,タイの先行研究で使用されたものと同じプラスチック注射器を加工した機器で測定した。協力施設の看護者には事前教育を行った。統計学的分析はWelchのt 検定,χ²検定を用い,授乳の状況を示す乳頭長のカットオフ値はROC曲線を用いて算出した。本研究は佐賀大学倫理委員会の承認を得た。結 果 11施設の331名(84%)を分析した。産後1~2日目の褥婦の乳頭の硬度は,初産群に比較して経産群の方が柔軟であった。乳頭長の平均値は12(SD 3.4)mmで,初産群が11(SD 3.2)mm,経産群が13(SD 3.2)mmで,経産群が長かった(p<.001)。平均LATCHスコアは,7.4(SD 1.9)点で,初産群が6.5(SD 1.7)点,経産群が8.0(SD 1.7)点で,経産群の得点が高かった(p<.001)。LATCHスコアと乳頭の硬度は関連性があり,硬が6.0(SD 1.8)点,中は7.5(SD 1.8)点,軟が8.2(SD 1.7)点で,柔軟性が高まるとLATCHスコアが高くなった。LATCHスコア8点以上の乳頭長のカットオフ値は11mmで,先行研究の褥婦の乳頭長のカットオフ値7mmに比べ4mm長かった。結 論 産後早期の褥婦の乳頭の硬度は,経産群が柔軟であり,乳頭長は,経産群が長かった。授乳が上手くいっている場合,乳頭長は11mm以上で,タイ人褥婦7mmに比べ長くなっていた。乳頭が柔軟な場合,LATCHスコアは高かった。測定者に対する乳頭とLATCHスコアの測定方法の教育の徹底,測定者間信頼性の確保の課題が残った。
著者
楠見 由里子 江守 陽子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.40-47, 2013 (Released:2013-09-18)
参考文献数
22
被引用文献数
2 2

目 的 冷え症における主観的指標として冷え症評価尺F度を,客観的指標としてレーザー組織血流計を用いて測定し,冷え症と周産期アウトカムとの関連について検討した。対象と方法 妊娠末期の妊婦125名(初産婦名76,経産婦49名)を対象に,両手第2指の指尖部における末梢血流量の測定と,4因子8項目からなる冷え症尺度による非妊時の冷え症の自己評価に関するアンケート調査を実施した。さらに,分娩終了後には妊娠分娩経過を診療録より転記した。結 果 妊娠末期の妊婦においては,冷え症評価尺度と末梢血流量の間には関連がなかった(r=-0.036, p=0.687)。冷え症評価尺度の高得点群の初産婦においては,分娩の際の入院時点の子宮口が3cm未満の開大であったものが多かった(p=0.014)。 一方,指先の末梢血流量が少ない群と多い群で分けると,低血流量群では妊娠中の血圧が低く(p=0.047),かつ脈拍数が少なかった(p=0.024)。さらに,低血流量群の初産婦では,分娩第 II 期遷延が多く(p=0.016),ロジスティック回帰分析により交絡因子の影響を排除しても,低血流量と高年齢が分娩第 II 期遷延の要因として示された。結 論 妊娠末期における血行不良は,初産婦における分娩第 II 期遷延の要因となる可能性がある。また,妊娠末期の血流量と非妊時の冷え症の自覚は関連しない。
著者
北園 真希
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.277-289, 2016

<b>目 的</b><br> 妊娠期に子どもが重篤な状態で,生存の見込みが非常に厳しいという医学的判断を告げられた女性が,妊娠継続を決めた後から子どもの分娩までの期間に直面する意思決定における体験を探索すること。<br><b>方 法</b><br> 質的記述的研究。一人1~4回,半構造化面接法を用いてインタビューを行った。インタビューから得た逐語録を基に,子どもの重篤な状態を知りながら妊娠継続すると決めた後から分娩に至る過程で直面した意思決定と,それにまつわる当事者の体験を参加者ごとに記述し,体験の共通性を見出し再構成した。<br><b>結 果</b><br> 研究参加者は,妊娠中に子どもが重篤な状態と知らされ,その後に子どもを亡くした5名の女性であった。研究参加者の女性は,子どもが重篤な状態と知り妊娠継続を決めた後に,羊水検査による確定診断の受検,子どもの延命治療や積極的治療,分娩方法,分娩時期,分娩時のバースプランといった,医療に伴う複数の意思決定に直面していた。意思決定における女性の体験として,〈どんな子でも胎内で育て続ける〉〈治らない現実に向き合い苦渋の決断をする〉〈決定の重圧を背負う〉〈看取りのプロセスに価値を置き直す〉の4つのテーマを見出した。その背後には〔いずれ亡くなろうとその子の親となる〕という女性の思いが存在していた。<br><b>結 語</b><br> 女性たちは子どもが短い命であっても,妊娠中から親役割を模索し,母親となる過程を歩んでいた。周囲の人々は,その想いに関心を示さず,継続的な支援は不足していた。医療者は女性が親となる過程に関心を向け,子どもが重篤な状態であっても対話を通じ,妊娠期から関わりを持とうとする姿勢が求められる。
著者
中川 有加
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.49-64, 2008-06-30
参考文献数
10
被引用文献数
2

目 的<br> 本研究の目的は,正常に進行している仰臥位分娩において児頭娩出から躯幹娩出に至るまでの会陰保護術に伴う介助者の手指・手掌にかかる圧力値を実測し,会陰への負荷を最小限にする助産術を開発することである。特に熟練助産師(以下熟練とする)と新人助産師(以下新人とする)を比較し,熟練の会陰保護術を圧力という視点から説明する。<br>対象および方法<br> 研究条件を満たし,分娩予定日が2005年11月から2006年10月下旬までの初産婦,経産婦を対象とした。また分娩介助500例以上の熟練,分娩介助50例未満の新人を対象とした。研究に同意が得られ,実施できたのは初産婦17名,経産婦17名および熟練4名,新人11名であった。測定用具は,共和電業製超小型圧力変換器(PSM-1KAB),センサーインターフェースボード(PCD-300A)を用いた。予備研究で同定した助産師の右手4ヵ所および左手6ヵ所に超小型圧力変換器を貼付し,分娩介助を行った。排臨から児の躯幹娩出までをデータ収集時間とし,助産師の両手掌にかかる圧力値を左右別,手掌の区分別に基本統計を算出し比較検討を行った。今回の分析では,仰臥位分娩に限定して,熟練(4名)と新人(3名)を比較した。<br>結 果<br> 熟練と新人の圧力値を比較すると,右示指指間小球(2),右示指中間(3),左第一関節と第二関節中間内側(6),そして左小指先(9)の使い方が異なっていた。【児頭娩出30秒前から児頭娩出まで】新人は,産婦の努責によって下降してくる児を押し返すように圧力を付加していたため,右示指指間小球(2)に圧力をかけて会陰保護術を行っており,その最大値33kPaは,熟練の2倍であった。一方,熟練は,努責に左右されず一定の圧力付加が認められた。その中でも,下降してくる児を受け止める動きのため,右示指中間(3)に圧力をかけて会陰保護術をおこなっており,その最大値29kPaは,新人の4倍であった。<br> また,熟練は,児頭娩出をコントロールするために左示指第一関節と第二関節中間内側(6)に大きな圧力をかけて,児頭をつかむが如くに保持していた。その最大値18.8kPaは,新人の3倍であった。【発露から児頭娩出】にかけて熟練は,児頭を保持するが如くに小指先(9)に常に5kPa前後の圧力をかけて会陰保護術を行っているが,新人の圧力は0に等しかった。<br>結 論<br> 言葉では表せず,伝えにくい助産師の会陰保護時にかかる圧力を工学器機により測定が可能であった。また,熟練と新人を比較することで熟練の技を目に見える形で表現できることが明らかとなった。
著者
竹原 健二 須藤 茉衣子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.164-172, 2014
被引用文献数
1

<b>背景</b><br> わが国では立ち会い出産に対する認識は広まっている。その一方で,出産に立ち会うことが男性にとって,不安やうつ,トラウマといったメンタルヘルスに悪影響を及ぼす可能性も指摘されつつある。パートナーの出産に立ち会った男性が,分娩開始前から産後までにどのような気持ちになり,どのように気持ちが推移していったのか,ということを質的に記述することを本研究の目的とした。<br><b>方 法</b><br> 東京都およびその近郊にある2か所の病院において,過去3か月以内に陣痛中から分娩終了までのプロセスに立ち会った男性10人を対象に,半構造化面接を実施した。収集したデータについて,2人の研究者が独立して要約的内容分析をおこなった。<br><b>結 果</b><br> 対象者10人のうち7人は,今回の立ち会い出産が初めての経験であった。対象者は皆,分娩第一期から分娩が終了するまで立ち会った。面接調査によって得られた文脈からは,立ち会った男性の気持ち・想いを表す【妻を支えたい】,【未知の世界に対する不安と恐れ】,【共に立ち向かう】,【男女の違いの気づき】,【成長】という5つのカテゴリーと,それを構成する13のサブカテゴリー,立ち会い出産をした男性の気持ちに影響を及ぼした外的要因として,【影響を及ぼした要因】というカテゴリーと,2つのサブカテゴリーが抽出された。【妻を支えたい】は妊娠期の男性の気持ちや行動を表す文脈によって構成されていた。同様に,【想像がつかない世界】や【共に立ち向かう】,【男女の違いの気づき】は分娩時を表す文脈が中心となり,【成長】は分娩直後や産後の男性の気持ちや行動を表す文脈によって構成されていた。<br><b>結 論</b><br> 本研究の結果から,立ち会い出産に臨む男性の気持ちは出産前から産後にかけて変化していくことが示された。助産師を中心とした医療スタッフは男性の状態も観察し,適切な声掛けや働きかけをおこなっていくことにより,男性の立ち会い出産の体験をよりよくすることができると考えられた。
著者
鈴木 由紀乃 小林 康江
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.251-260, 2009 (Released:2010-04-06)
参考文献数
23
被引用文献数
6 10

目 的 出産後から産後4ヶ月間の母親としての自信を得るプロセスを明らかにすること。対象と方法 産後4ヶ月の初めての育児をしている母親10名を対象に半構成的面接によりデータ収集を行った。得られたデータは,逐語録化し,データ収集と分析を平行して行う継続比較分析を行った。母親の「子どもの求めることがわかるようになった」「子どもの求めることに対応できるようになった」という体験を中心に,母親としての自信を得るプロセスに関連があると思われるデータを抽象化しカテゴリーを導き出し,カテゴリー間の関係を検討した。結 果 母親としての自信を得るプロセスを構成する5つのカテゴリー【試行錯誤しながら子どもと自分に合わせた育児方法を確立する】【子どもの成長と自分の成長の実感を得る】【この子の母親であるという実感を得る】【育児優先の生活に家事を組み込み生活を新たに構える】【自分に確証を得るための拠り所を求める】が抽出された。産後4ヶ月間の母親としての自信を得るプロセスは,試行錯誤しながら自分なりの育児方法を確立していく中で,子どもの成長とその子どもの母親であることを実感しながら,家事と育児を両立させ,生活を再構していくプロセスであり,それらは他者からの確証を得ることで支えられていた。結 論 母親は試行錯誤する育児の中で,子どもの成長を実感することから,自分自身の成長と母親であることを認識するようになる。また,育児中心の生活から家事も行えるようになるという行動範囲の拡大から自己の成長の実感は強まる。母親としての自信を得るプロセスの援助として,育児技術の獲得に対する支援だけではなく,子どもの成長や母親自身の成長の変化を気付かせる関わりの重要性が示唆された。
著者
手島 美聡 大石 和代 永橋 美幸 中尾 優子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.71-77, 2017

<p><b>目 的</b></p><p>近年,乳房ケアに超音波画像診断が取り入れられてきている。本研究では産後の乳房状態をより正確に評価していくために,超音波画像を用い,直接授乳前後の乳腺組織の厚さの変化について明らかにした。さらに,その厚さの変化と授乳量との関連性について検討した。</p><p><b>方 法</b></p><p>2013年1月~9月,A大学病院産科で出産し,母児同室で直接授乳をしている褥婦51名。撮影時期は産褥4~7日。撮影は1回の直接授乳前後に実施し,超音波画像にて乳腺の厚さを計測した。また,その時の児の授乳量を測定した。</p><p><b>結 果</b></p><p>分析対象者は初産婦15名,経産婦33名の計48名,乳房数91であった。乳腺組織の厚さは,授乳前が平均値33.6±8.86mm,授乳後が平均値32.0±8.47mmであり,授乳前後で有意に減少した(p<0.01)。乳腺組織の厚さの差と授乳量で,弱い相関があった(r=0.27,p<0.01)。さらに初産婦では有意な相関を示したが(r=0.40),経産婦では相関がなかった(r=0.17)。</p><p><b>結 論</b></p><p>今回の超音波画像を用いた産褥早期における乳腺組織の調査において,直接授乳前後の乳腺組織の厚さの変化は,授乳前に比べ授乳後は乳腺組織の厚さが有意に減少した。また,授乳前後の乳腺組織の厚さの差と授乳量の関連については,初産婦では有意な相関があり,経産婦は相関がなかった。産褥早期に,超音波による乳腺の厚さを測定する時には,授乳の前後で厚さが変化することを知る必要がある。</p>
著者
尾栢 みどり
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
2018

<p><b>目 的</b></p><p>妊娠期の妻への夫のサポート行動及び胎児への関心において,助産院・病院健診での違い及びその関連要因を明らかにする。</p><p><b>対象と方法</b></p><p>対象者は,正期産・経膣分娩(双胎を除く),出産後1週間以内の褥婦の夫328名で回収数は137名(回収率42.4%)であった。内訳は関東地方の助産院5ヶ所70名,総合病院の産科病棟1ヶ所67名であった。平成26年7~10月に無記名自記式質問紙調査を実施し,調査内容は妊娠期の妻への夫のサポート行動及び胎児への関心,夫婦間の愛情関係,妊婦健診・両親学級への同行に対する妻の希望などとした。差の検定はMann-WhitneyのU検定,二元配置分散分析などを,相関分析にはスピアマンの順位相関を用い,いずれも有意水準は5%とした。</p><p><b>結 果</b></p><p>対象者の年齢は26~52歳,平均36.2±5.3歳であった。助産院・病院健診の比較では,助産院健診に第2子以降が,病院健診に第1子が多かった(p<.01)。そのため,助産院・病院健診と第1子・第2子以降の2要因による二元配置分散分析を実施し,胎児への関心には第1子であることが影響していた(主効果,p<.001)。一方,妻へのサポート行動は,買い物の荷物を持つことは病院健診の場合に,散歩の付き添いや妻へのマッサージは第1子であることが影響しており,質問項目により結果が分かれた。</p><p>妊娠期の妻への夫のサポート行動および胎児への関心の関連要因では,夫婦間の愛情関係得点が高いほど夫は妻へのサポート(ρ=.197~291,p<.05)をし,胎児への関心(ρ=.276~.313,p<.01)を示していた。</p><p><b>結 論</b></p><p>胎児への関心は,助産院と病院健診の違いではなく第1子の父親であることが影響していた。一方,妻へのサポート行動は質問項目により結果が分かれた。また,妻へのサポート行動や胎児への関心の関連要因は夫婦間の愛情関係などであった。</p>
著者
村上 明美
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.17-26, 1998-08-10
参考文献数
8
被引用文献数
1

自然分娩の骨盤出口部における産道の形態変化を, 力学的に分析したところ, 以下の「命題」が導き出された.<BR>1) 娩出力が陰門の中心に垂直方向に働けば, 娩出力は骨盤誘導線と一致し, 産道は力学的に合理的な形態変化となるため, 会陰裂傷は生じにくい. 骨盤出口部における産道の形態変化を継続的に観察することにより, 娩出力の働く部位と方向が予知でき, 意図的に娩出力の方向を調整することが可能となるため, 会陰裂傷の予防を図ることができる.<BR>2) 児頭娩出時にdrive angleを小さくすると, 娩出力の方向は骨盤誘導線に近づくため, 会陰裂傷は生じにくい. 児頭娩出時には, 大腿を屈曲する, あるいは体幹を前傾するなど, 体位を工夫しdriveangleを小さくすると, おのずと娩出力の方向が調整され, 会陰裂傷が予防される.<BR>3) 骨盤底筋群の抵抗が小さいと, 娩出力は前方に向かい, 反対に, 骨盤底筋群の抵抗が大きいと, 娩出力は後方に向かう. 娩出力が後方に向かうと, 会陰裂傷が生じやすい. 軟産道組織の軟化を促すことは, 骨盤底筋群の抵抗を小さくし, 会陰裂傷の予防につながる.<BR>以上の観点から助産実践を分析したところ, 具体的かつ理論的に行為を意味づけることができた.
著者
篠崎 克子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.39-50, 2014

<b>目 的</b><br> 助産師を対象に多様な分娩体位の実践の促進或いは阻害影響要因を探索し分析する。<br><b>対象と方法</b><br> 研究デザインは,横断的記述デザインである。過去1年間分娩直接介助を行った助産師を対象に質問紙調査を行った。多様な分娩体位の実践助産師の定義は,3種類以上の体位での分娩介助の実践,妊産婦への多様な分娩体位の情報提供,バースプランの活用,という条件全てを満たす者とした。測定用具は,Alternative Labor Position(ALP)尺度と職務満足感を測定するHuman Resource Management チェックリスト(日本労働研究機構,2003)を用いた。分析は共分散構造分析を用いた。<br> 倫理的配慮は,大学及び該当施設の倫理審査委員会の承認を得た。<br><b>結 果</b><br> 回答が得られた387名を分析対象とした。多様な分娩体位の実践助産師は,124名(32.0%),未実践助産師は263名(68.0%)であった。81.1%の助産師が多様な分娩体位の利点と興味深さに肯定的であったが,60.4%が慣例的に砕石位で分娩を行っていた。ここに助産師の意識と実践に乖離があった。普及理論に基づく「革新性」では,イノベーターとアーリー・アダプターを革新派,アーリー・マジョリティ,レイト・マジョリティ,ラガードを保守派に分け,其々の特徴を分析した。その結果,革新派は,産科単科病棟に所属し,ほぼ正常の妊産婦をケアしている者,分娩体位の種類の数及び妊産婦への多様な体位の情報提供が有意に多かった。<br> 共分散構造分析の結果「多様な分娩体位の実践」の阻害要因は,パス係数が高い順に「変革を好まない考え方」「多様な分娩体位の技術に対する戸惑い」であった。促進要因は,「革新性」「専門性が発揮できる産科単科病棟」であった。<br><b>結 論</b><br> 「多様な分娩体位の実践」の促進要因は「革新性」「専門性が発揮できる産科単科病棟」であった。阻害要因は「変革を好まない考え方」「多様な分娩体位の技術に対する戸惑い」であった。
著者
落合 富美江 森江 雅子 栗原 キク
出版者
日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.45-49, 1992-12-25

会陰保護をはじめとする分娩に関する助産技術は,個人の技能として存在してきた。長年築き上げてきたすぐれた助産技術を青木,大谷,田中, 桶谷らのように発表した人もいるが,一般に個々の卓越した助産技術は個々の技術として埋もれていく傾向にある。浜松市は全国の中でも開業助産婦の多い地域である1)。宮里2)らも述べているように,先輩諸姉のすぐれた技術を1つでも多く継承していくことが,今後の助産婦にとって重要であると考える。そこで今回は,栗原キクが昭和42年ごろ開発した用指回転介助法の技法について分析し,検討したので紹介する。
著者
秋月 百合
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.271-279, 2009
被引用文献数
2

<B>目 的</B><br> 本研究の目的は,不妊症夫婦において,夫のどのような側面を支援的・協力的と認識しているのか,不妊女性の視点から明らかにすることである。<br><B>方 法</B><br> 不妊治療を受ける関東圏内在住の女性患者24名を対象に,半構造化面接を実施した。不妊や治療に関連して,支援的・協力的と認識する夫の側面(言動・態度)について尋ね,口述内容を質的に分析した。<br><B>結 果</B><br> 分析の結果,以下の5つのカテゴリーが抽出された。1)治療過程への身体的参加;検査や治療のための精液採取,精液検査の受検,タイミングを合わせた性交,内服の励行など,治療上の不可欠な役割を夫が果たすこと,2)子どもや治療への関心;治療の結果を気にかけたり,気兼ねなく治療について話ができたり,夫が子どもや不妊治療に関心を示すこと,3)自主的な健康行動;生殖機能の向上を意識した行動を自主的にとること,4)精神的な支え;妻のストレスや苦悩を受け止めてくれること,妻の心身を気遣ってくれること,夫婦二人の生活の価値を承認してくれること,治療に対する妻の意向を尊重してくれること,5)家事の協力・身の回りの世話;妻の身体を思い遣って,日常的に家事に参加してくれること,入院中や体調が悪いとき,身の回りの世話をしてくれること等であった。<br><B>結 論</B><br> 不妊女性の視点から,夫の支援的・協力的側面として,5つのカテゴリーが明らかになった。「治療過程への身体的参加」,「子どもや治療への関心」,「自主的な健康行動」は,不妊という課題に対し協同的に取り組むべきパートナーである夫にしか果たせない役割であり,一方「精神的な支え」,「家事の協力・身の回りの世話」は,不妊に付随した問題に対する支援的なかかわりを意味しており,夫のみならず家族や友人にも期待できる役割であることが示唆された。
著者
木村 亜矢
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.312-322, 2016
被引用文献数
2

<b>目 的</b><br> 病院に勤務する熟練助産師が分娩第一期の分娩進行を判断していく一連のプロセスの特徴を明らかにすることである。<br><b>対象と方法</b><br> 本研究では,エキスパートの条件を兼ね備え,妊産婦に卓越した助産を実践している助産師を熟練助産師と定義し,研究では総合病院の産科病棟に勤務する4名の熟練助産師を対象とした。データ収集は分娩介助場面の参加観察と半構成的インタビューにより行った。熟練助産師が行う臨床判断の特徴についてカテゴリー化を目的として,質的帰納的に分析した。<br><b>結 果</b><br> 熟練助産師は,初回面会時に分娩進行に影響する分娩3要素,心理的背景,リスク要因を統合して【産婦の全体像の把握】を行いながら,【個別の分娩進行の見通し】を立てていた。その中から分娩進行を阻害する【阻害要因の見極め】を行い,有効な【ケアの選択】をしていた。さらに,選択したケアを実践しつつ,分娩進行における【ターニングポイントの予測的な察知】,または必要に応じた【ターニングポイントの意図的な生み出し】を行っていた。その後,分娩進行におけるターニングポイントを踏まえ,【分娩進行の見通しの立て直し】および【阻害要因の再度の見極め】【新たなケアの選択】を繰り返し,方針の軌道修正を行っていた。以上の分析から,熟練助産師は分娩第一期の分娩進行を判断していく中で,助産師としての信念,熟練した技術を<b>臨床判断の基盤</b>とし,産婦と<b>ともに産む関係の構築</b>を行い,情報把握の手段として活用していることがわかった。<br><b>結 論</b><br> 熟練助産師が行う一連の臨床判断プロセスの中で,分娩進行の変化をターニングポイントとして予測的に察知または意図的に生み出すことは,分娩進行の異常への逸脱を予防し,母子の安全確保に寄与するものである。このプロセスはハイリスクな分娩に対峙する病院勤務の助産師により特徴的なものであると考えられる。
著者
紙尾 千晶 島田 啓子
出版者
日本助産学会 = Japan Academy of Midwifery
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.17-28, 2016

<b>目 的</b><br> 熟練助産師が分娩介助の経験を積みながら,どのようなreflectionをしているのかを明らかにする。<br><b>対象と方法</b><br> 解釈学的現象学を理論的背景として14名の熟練助産師に対して,参加観察及び面接調査を行った。<br><b>結 果</b><br> 助産師のreflectionは,分娩介助しているプロセスの中で行われるreflectionと,介助の終了後に行われるreflectionに大別された。<br> そして介助のプロセスの中で行われるreflectionは,予測外の展開や不確かな状況を気がかりとして感知するかどうかによって違いがみられた。まず,気がかりを感知した状況では,助産師は過去の経験知から様々な手段を携えて試行していく【様態1:試行を生み出すreflection】を行っていた。一方,正常に経過,進行していく想定内の状況においては,気がかりを感知せず,自身の経験知や身体感覚を復元させて瞬間的に介助行為に取り入れる【様態2:状況との融合を生み出すreflection】を行っていた。そして介助行為の後には【様態3:鏡映的に自己を客観視して洞察するreflection】を行っていた。<br> 【試行を生み出すreflection】は2つのテーマ,〈成功する確信がない中で反応を探りながら試行する〉〈過去の経験で身に着けた豊富な手段を引き出す〉に整理された。<br> 【状況との融合を生み出すreflection】は2つのテーマ,〈身体感覚を復元させて状況の意味を瞬時に見抜く〉〈正常性を見通して自然な行動を導く〉に整理された。<br> 【鏡映的に自己を客観視して洞察するreflection】は5つのテーマ,〈気がかりが引っかかり心を揺さぶられながら取り組みを見直す〉〈その人にとっての出産の意味付けを共に考える〉〈経験した学びをパターン付けして塗り替える〉〈助産師として関わる自分の姿勢を見つめ直す〉〈他者との関わりの中で自分の経験知を磨き究める〉に整理された。<br><b>結 論</b><br> 熟練助産師のreflectionは3つの様態,【試行を生み出すreflection】【状況との融合を生み出すreflection】【鏡映的に自己を客観視して洞察するreflection】に大別できた。
著者
清水 かおり 片岡 弥恵子 江藤 宏美 浅井 宏美 八重 ゆかり 飯田 眞理子 堀内 成子 櫻井 綾香 田所 由利子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.267-278, 2013 (Released:2014-03-05)
参考文献数
19
被引用文献数
1 3

目 的 日本助産学会は,「エビデンスに基づく助産ガイドライン―分娩期2012」(以下,助産ガイドライン)をローリスク妊産婦のスタンダードケアの普及のため作成した。本研究の目的は,助産ガイドラインで示された分娩第1期のケア方針について,病院,診療所,助産所での現状を明らかにすることを目的とした。方 法 研究協力者は,東京都,神奈川県,千葉県,埼玉県の分娩を取り扱っている病院,診療所,助産所の管理者とした。質問項目は,分娩第1期に関するケア方針18項目であった。調査期間は,2010年10月~2011年7月であった。本研究は,聖路加看護大学研究倫理審査委員会の承認を受けて行った(承認番号10-1002)。結 果 研究協力の同意が得られた施設は,255件(回収率37.3%)であり,病院118件(回収率50.2%),診療所66件(20.8%),助産所71件(54.2%)であった。妊娠期から分娩期まで同一医療者による継続ケアの実施は,助産所92.9%,診療所54.7%と高かったが,病院(15.3%)では低かった。分娩誘発方法として卵膜剥離(病院0.8%,診療所3.1%,助産所1.4%)および乳房・乳頭刺激(病院0%,診療所1.5%,助産所5.6%)のルチーンの実施は低かった。入院時の分娩監視装置による胎児心拍の持続モニタリングの実施は,助産所の38%が実施していた。硬膜外麻酔をケースによって行っているのは,病院の31.6%,診療所の31.3%であった。産痛緩和のための分娩第1期の入浴は,助産所では92.7%,病院48.3%,診療所26.7%で可能とされていた。産痛緩和方法として多くの施設で採択されていたのは,体位変換(95%),マッサージ(88%),温罨法(74%),歩行(61%)等であった。陣痛促進を目的とした浣腸をケア方針とする施設は非常に少なかった(病院1.7%,診療所9.1%,助産所1.4%)。人工破膜をルチーンのケア方針としている施設はなかった。結 論 分娩第1期のケア方針について,病院,診療所,助産所における現状と助産ガイドラインのギャップが明らかになった。本研究の結果を基準として,今後助産ガイドラインの評価を行っていく必要がある。本研究の課題は,回収率が低かったことである。さらに,全国のケア方針の現状を明確化する必要がある。
著者
飯田 真理子 片岡 弥恵子 江藤 宏美 田所 由利子 増澤 祐子 八重 ゆかり 浅井 宏美 櫻井 綾香 堀内 成子
出版者
Japan Academy of Midwifery
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.73-80, 2018-06-29 (Released:2018-06-29)
参考文献数
14
被引用文献数
4

周産期を通して安全で快適なケアを提供するには助産実践指針が必要である。日本助産学会は健康なローリスクの女性と新生児へのケア指針を示した「エビデンスに基づく助産ガイドライン―妊娠期・分娩期2016」を刊行した。この2016年版は2012年版に新たに妊娠期の臨床上の疑問(Clinical Question,以下CQ)を13項目加え,既にある分娩期のCQ30項目には最新のエビデンスを加えた。このガイドラインでは助産実践を行う上で日常助産師が遭遇しやすい臨床上の疑問に答え,ケアの指針を示している。推奨は最新のエビデンスに基づいているため,ここに示している内容は現時点での“最良の実践”と考える。本ガイドラインに期待する役割は次の3つである:1)助産師がエビデンスに基づいたケアを実践し,女性の意思決定を支援するための指針としての役割,2)助産師を養成する教育機関において,日進月歩で進化していく研究を探索する意味を学び,知識やケアの質が改善している事実を学ぶ道具としての役割,3)研究が不足し充分なエビデンスが得られていない課題を認識し,研究活動を鼓舞していく役割。そして本稿においてガイドラインの英訳を紹介する目的は次の通りである:1)日本の助産師が編纂したガイドラインを世界に紹介・発信すること,2)日本の研究者が英語で本ガイドラインを引用する際の共通認識として用いること。2016年版では,合計43項目のCQに対して推奨を示しているが,次の6つに関しては産科領域で広く用いられているものの,医行為に関わるため推奨ではなく「エビデンスと解説」にとどめている:CQ1分娩誘発,CQ2卵膜剥離,CQ7硬膜外麻酔,CQ21会陰切開,CQ26会陰縫合,CQ28予防的子宮収縮薬投与。2012年版から推奨が改訂されたCQは次の通りである:CQ3乳房・乳頭刺激の分娩誘発効果,CQ9指圧,鍼療法の産痛緩和効果,CQ14指圧,鍼療法の陣痛促進効果。なお,本論文の一部は「エビデンスに基づく助産ガイドライン―妊娠期・分娩期2016」からの抜粋であり,推奨の部分は翻訳である。
著者
天谷 まり子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.310-318, 2015 (Released:2016-02-24)
参考文献数
17

目 的 糖尿病をもつ女性の妊娠から出産にいたるまでの過程における体験を見出すこと。対象と方法 研究参加者は糖尿病を基礎疾患にもち,妊娠し生児の出産を体験した女性。研究デザインは質的記述的研究とし,データ収集は半構成的面接,分析方法はグラウンデッド・セオリー・アプローチによる分析手法を用いた。分析レベルはアクシャルコーディング段階までとし,現象の抽出と現象ごとのカテゴリー関連図による,ストーリーラインの生成を行った。結 果 研究参加者は8名であり,初産婦・経産婦,経膣分娩・帝王切開術,1型糖尿病・2型糖尿病と背景はさまざまであった。8名分のデータからカテゴリー関連図をもとにパラダイムを統合させた。結果,糖尿病をもつ女性の妊娠から出産にいたるまでの体験として,【自らの意思により妊娠を選択する】,【試行錯誤の中で主体的に血糖コントロールに挑む】,【妊娠による食事の変化と格闘する】,【おなかの中の子どもをあるがままに受け入れる】という,4つの現象が見出された。また,各々の現象のプロセスとしてのストーリーが導かれた。結 論 糖尿病をもつ女性の妊娠から出産にいたるまでの体験は,自らの意思で妊娠を選択することによる血糖コントロールへの意識の高まり,迷いながらも妊娠中の血糖コントロールにおいて自分に合った方法を主体的に見つけようとする挑戦,妊娠によって迫られる食事の見直しや調整という格闘,おなかの中の子どもを奇形や疾患の有無に関わらず自分の人生の中に受け入れるというものであった。それは,独力で妊娠と糖尿病の適応調整を行うことであり,そこに葛藤や苦痛が伴う体験であった。そのため,助産師においては,糖尿病をもつ女性の主体性を尊重し,そばに寄り添いながら身体的にも心理的,社会的にも支えていくことにより,妊娠や出産にまつわる体験をwell-beingに導くことが望まれる。