著者
藤井 美穂子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.2_77-2_86, 2007 (Released:2008-07-07)
参考文献数
15
被引用文献数
4 3

目 的 双子を持つ母親の退院後1か月間の育児体験を明らかにする対象および方法 研究対象は,平成17年6月下旬から7月上旬にA病院で双子を出産し,子どもが先天性奇形や疾患を有さず子どもと一緒に退院し,研究参加協力が得られた退院後1か月を経過した母親4名である。 研究方法は,退院から1か月間の双子の育児を振り返ってもらい,印象的だった事象やその時に生じた思いや体験について半構成的面接を行った。得られたデータを逐語録とし,事例ごとに文脈に沿って内容を分析した。結 果 研究参加者である母親は,乳腺炎等の突発的な出来事や2人が同時に泣く,時期をずらして交互に嘔吐する等の双子特有の体験をしていた。経産婦は,前回の出産や育児と比較することで,授乳方法の違いや体の不調を感じながら育児していた。 また,研究参加者である4名の母親から,病院退院後1か月の育児体験を通して肯定的・否定的な育児への思いを反映する言動がみられた。 双子の母親は,2人の成長を実感することやそれに応じて直接母乳ができる体験等を通して肯定的な思いを反映する言動がみられた。また,突発的な出来事など入院中に予測できなかった体験を通して,「心配」「不安」等の思いを抱いていた。本研究の参加者は,2人が同時に泣くことにより,自分の時間を作ることや児に対して十分に相手をすることができないことで「かわいそう」等の思いを抱いていた。里帰り中の母親は,退院後1か月頃になると自宅へ帰った後の生活を考え,イメージできないことで否定的な思いを反映する言動がみられた。結 論 双子の母親が退院後1か月間に,2人の成長に気づき対応できる育児体験をしていることや,予想出来なかった出来事やイメージできない育児に対し不安を抱いていることが明らかになった。家族を含めて具体的な双子の生活がイメージできるような情報提供や助産師による入院中からの継続的な支援の必要性が示唆された。
著者
高島 葉子 塚本 康子 中島 通子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.26-38, 2014 (Released:2014-12-25)
参考文献数
21

目 的 本研究の目的は,助産事故により深刻な状況になりながらも助産師に対して信頼感を維持している女性の体験の語りから,どのような「分岐」や思いが存在したのか記述し,看護への示唆を得ることである。対象・方法 助産事故後も助産師と信頼関係を維持できていると認識している女性2名を対象としたライフストーリー研究である。データ収集は,助産所出産を希望した経過とともにどのような助産事故があり,その時の思いや考えを過去から現在に進むかたちで自由に語ってもらった。結 果 A氏は子どもに生命危機が生じた時,怖れと後遺症への不安につきまとわれ,混乱の中で周囲の言動から助産事故と認識し,助産師との向き合い方を探った。 しかし,自分が助産院を選択した責任と後悔で助産師だけを責めることはできなかった。そして,事故でのかかわりを通して助産師との関係が再構築される過程で,被害者・加害者という関係の終結と助産院再開を切望し,けじめとしての補償を求めた。A氏は助産事故により生命や健康の大切さを再確認するとともに,新しい生き方を見出していた。 B氏は助産師の態度から胎児が生きている可能性が少ないのではないかと察し,衝撃を受けつつ,同じ医療従事者として助産師を慮っていた。そして,決して逃げない姿勢の助産師を信頼しながら死産を委ねた。グリーフケアで子どもと十分なお別れができたことや,助産師との対話の積み重ねの中で,誰も責められないと心から思うことができた。喪失を乗り越え,新しい生命観と家族を得ていた。結 論 助産事故後も助産師との関係性を維持している女性は,一時的に助産師への信頼感は揺らぐものの,事故発生までに培われた関係性を基盤に誠意を尽くされたと感じることを契機として関係性を維持していた。看護者は,有害事象が発生した場合,信頼関係が崩壊し紛争へと「分岐」するプロセスを認識し,長期的で継続的な視野に立ったケアの提供に努めることが肝要である。
著者
安達 望江 和泉 美枝 眞鍋 えみ子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
pp.JJAM-2021-0033, (Released:2022-10-14)
参考文献数
40

目 的妊娠期における身体活動,体重増加量および非妊時BMIと下肢筋肉量との関連,下肢筋肉量への影響要因を検討する。対象と方法妊婦520名に自記式質問紙による調査と体組成分析装置(InBody270)を用いて体重,下肢筋肉量を測定した。質問紙による調査内容は属性,非妊時体重,身長,身体活動は運動習慣の有無と生活活動量(NEAT質問票)であった。初経産婦別にt検定を行い,下肢筋肉量の影響要因の検討には重回帰分析を行った。結 果分析対象者は484名(18~44歳,初産婦229名,経産婦255名,妊娠5~40週)であり,本対象者の下肢筋肉量の平均は11.53±1.68kgであった。下肢筋肉量は,初経産婦共に生活活動量低群(初産婦10.97±1.70kg,経産婦11.24±1.63kg)より高群(11.76±1.49kg,12.41±1.72kg)の方が有意に多く,非妊時BMIにおいても低群(10.71±1.60kg,11.46±1.85kg)より高群(11.98±1.60kg,12.17±1.56kg)の方が有意に多かった。初産婦では,非妊時BMI,体重増加量,妊娠前の運動習慣が下肢筋肉量に影響し(β=.339, .227, .136),説明率18.8%であった。経産婦では,体重増加量,非妊時BMI,生活活動量が下肢筋肉量に影響し(β=.258, .245, .169),説明率15.6%であった。非妊時標準体格の妊婦では,妊娠16~27週,28~37週において体重増加量4.9kg,8.5kg以上がそれ未満に比べて下肢筋肉量は多かった。結 論妊婦の下肢筋肉量には,非妊時BMIや体重増加量が影響し,さらに初産婦では妊娠前の運動習慣,経産婦では生活活動量が影響することが示された。
著者
中田(中込) かおり 跡上 富美
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.66-79, 2022 (Released:2022-06-30)
参考文献数
41

目 的生殖年齢にある20歳代から30歳代の就労男性を対象とし,妊孕性に関する知識の実態と情報ニーズについて明らかにすることである。方 法20歳以上40歳未満(2019年4月1日現在)の男性で,妻やパートナーが出産を経験していない500名を対象とし,2020年3月にウェブ調査を実施した。質問項目は,対象者の背景,妊孕性の知識と情報ニーズ,健康で気になること,妊娠・出産の情報源とした。妊孕性の知識は20項目で,齊藤の「不妊知識尺度13の質問」(2014)を許可を得て一部改変し,研究者らが作成した7項目を加えて使用した。記述統計量の算出,背景因子による層別解析,尺度の信頼性・妥当性の検討を行った。東邦大学看護学部倫理審査委員会より承認を得て実施した(承認番号:2019010)。結 果分析対象は500名,平均年齢29.8歳(SD=5.5),大学卒業以上60.6%,挙児希望有45.6%,パートナー有21.0%であった。妊孕性知識20項目すべてに「わからない」と回答した98名(19.6%)を分析から除外した結果,正答者割合は,平均42.1%(SD=23.9,最大67.7%,最小19.4%)であった。挙児希望(p=.003),不妊相談経験(p=.01)について有意差があり,年齢・最終学歴・パートナーの有無と関連はなかった。妊孕性知識20項目の信頼性・妥当性は確認された。妊孕性に関する情報ニーズがある人は54.4%で,年齢,食生活,生活習慣のニーズが高かった。健康で気になる項目がある人は42.4%であった。妊娠・出産の情報源は,パートナー,インターネット・SNSであった。結 論生殖年齢にある男性の妊孕性知識は,挙児希望や不妊相談の経験の有無により有意差が認められた。今後は男性の妊孕性知識の実態とニーズを踏まえ,情報提供と知識の普及・啓発をしていくことが課題である。
著者
木戸 久美子 植村 裕子 松村 惠子
出版者
Japan Academy of Midwifery
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
pp.JJAM-2021-0017, (Released:2022-01-26)
参考文献数
41
被引用文献数
1

目 的本研究の目的は,父親の産後うつに関連する質的研究のメタ分析を通して,2つの研究課題1)父親の産後うつは,専門家によってどのようにスクリーニングされてきたか,2)父親の産後うつに対する対処や支援とは,また対処や支援の受け入れを困難にしている障壁は何かについて明らかにすることである。方 法父親の産後うつに関連する論文をCINAHL, MEDLINE, Google Scholarを用いて検索した。検索キーワードは,「サポート」AND「父親の産後うつ」OR「父親のうつ」OR「父親のメンタルヘルス」AND「質的研究」であった。データベースとハンドサーチで検索された質的研究論文は32編で,そのうち5編の論文を分析対象とした。本研究では,メタエスノグラフィーを利用した。結 果Patient Health Questionnaire -9,Generalized Anxiety Disorder-7,The Patient Health Questionnaire -15等が,スクリーニングに用いられていた。分析した論文から8つのメタファー:「父親の産後うつのきっかけ」,「父親の産後うつへの認識」,「父親の産後うつの影響」,「対処法」,「情報資源の不足・不備」,「支援を求める障壁」,「支援を必要とする理由」,「父親の産後うつへの支援」が抽出された。父親の産後うつ病は,一連のきっかけとなる出来事に基づいて発症し,自覚症状も様々である。父親は,自分が産後うつ病であることに気づくと,それに対処しようとするが,支援情報は十分ではなかった。さらに,男性であることが,助けを求めることへの恥ずかしさにつながり,父親の産後うつへの対処の障害となっている。一方で,家族を守るという責任感が,うつと向き合い,社会的支援や専門家の助けを求める動機となっていた。結 論父親の産後うつのスクリーニングには,一般化されている不安尺度と抑うつ尺度が用いられていた。産後うつを自覚している父親への支援が不十分であることや男性性が障壁となり,父親の産後うつへの対処の妨げになっている。一方で,父親として自覚は,産後うつを克服しようとする行動の動機付けとなっていた。
著者
中窪 優子 三砂 ちづる
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.56-68, 2003-02-10 (Released:2010-11-17)
参考文献数
14

助産所における会陰裂傷の程度や予後などについて明らかにすることを目的に, 会陰裂傷の実態調査を行った。1助産所において正常出産した褥婦71名に対して構成的質問票を用いて面接を行い, 会陰裂傷や分娩体験に関する質問を行った。結果裂傷のあった女性は13名 (18.3%), 裂傷のなかった女性は58名 (81.7%) であった。裂傷のあった者は全例会陰裂傷I度で, 痺痛から回復する必要日数は平均4.8日 (1-10日) であった。また, 自分で「こういう姿勢で産みたい」と自己決定し, その姿勢で分娩した者は裂傷の発生が有意に少なかった。また, 有意差は認められなかったものの会陰の伸展を感じた者は裂傷発生の割合が少なかった。今回, 医療介入されない助産所で発生した裂傷は軽度だった。また, 産婦が分娩体位を自己決定できるような環境の整備や, 産婦自身がからだの変化に気づくことができるようケア提供者が情緒的にサポートすること, さらに内的変化に気づくような援助をすることの重要性が示唆された。
著者
濱田 真由美
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.28-39, 2012 (Released:2012-08-31)
参考文献数
18
被引用文献数
5 2

目 的 本研究は,妊娠後期の初妊婦に焦点を当て,授乳への意思に影響する社会規範を明らかにすることを目的とした。対象と方法 初妊婦の授乳への意思に影響する社会規範のバリエーションを明らかにするために質的記述的研究デザインを用いて,東京都内の1総合周産期母子医療センターに通院する妊娠経過が正常な妊娠後期の初妊婦17名に対して1人につき1回の半構造化面接を行い,データを得て質的に分析した。結 果 研究参加者は,全員が母乳で育てる意思を示し,「絶対母乳で育てたい」,「『絶対母乳で育てたい』と『できれば母乳で育てたい』の中間」,「できれば母乳で育てたい」という授乳への意思の違いを示した。そして初妊婦の授乳への意思に影響する社会規範は【「自然」志向】,【望ましい「母親」】,【責任ある「母親」】,【自己防衛する賢い「母親」】,【ミルクと「母親」に関する正当性の主張】,【「母親」がもつべき環境や情報の望ましさ】の6つのテーマから構成されていた。結 論 本研究で示された初妊婦の授乳への意思に影響する社会規範は,母性イデオロギーや子どもの「健康」を守る責任ある望ましい「母親」を規定する社会規範と,それとは反対に母乳育児の失敗や育児ストレスへの危機感に対処したり,「母親」として逸脱していると見なされない為に正当化を行うことに価値をおく社会規範が示された。
著者
橋本 佳奈子 小林 康江
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.103-114, 2019 (Released:2019-06-30)
参考文献数
30

目 的緊急帝王切開で出産した初産婦の産後4か月までの出産に対する思いを明らかにする。方 法研究デザインはライフストーリー法を参考にした質的記述的研究である。母児ともに妊娠産褥経過が良好な緊急帝王切開で出産した初産婦3名に対し,診療録からデータ収集をした上で,半構成的面接を産後2週・4から6週・4か月の3回に縦断的に実施した。面接は出産体験について,体験したことや思考したことを自由に語ってもらった。結 果本研究では,3名の初産婦の緊急帝王切開に対する思いと,出産体験を意味づけるストーリーが語られた。母乳育児の成功体験により出産への後悔を払拭するA氏のストーリー,育児への自信と子供との絆を高めることで,経膣分娩への気持ちを整理し出産を肯定的に捉えていくB氏のストーリー,体験を語ることや自分がこの子の母親であると思える過程を経て,出産体験を意味づけしようとしているC氏のストーリーであった。緊急帝王切開に対する思いは,出産後育児を行う中で変化していた。結 論緊急帝王切開で出産した女性は,出産への自信や母親としての自信を喪失し,出産を不本意に思う気持ちと児が無事であったことに安心する気持ちの間で揺らいでいた。育児を行い子供や家族との関係を築く中から,産後4か月には緊急帝王切開であっても自分の出産に他ならない体験であると出産への思いは変化し,さらに第3者に思いを語ることで出産体験の受容は促進されていた。
著者
猪目 安里 井上 尚美 吉留 厚子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.81-91, 2020 (Released:2020-06-30)
参考文献数
25
被引用文献数
1

目 的分娩施設のない離島に住む母親の妊娠期・産褥期のセルフケア行動の実態を明らかにし,セルフケア行動の特徴に合わせた保健指導を考える資料とする。対象と方法分娩施設のない離島に住む分娩後1年以内の母親9名を対象に,インタビューガイドに基づき,半構造的面接法を用いてフォーカス・グループ・インタビューを行った。結 果分娩施設のない離島に住む母親は,妊娠期は【経験者やインターネットから情報収集】を行い,【家族の協力を得ながら自分の体と胎児の為のセルフケア】を行っていた。また,《妊娠に伴う体調の変化に応じて自ら病院を受診》,《自分で出血を観察しながらの対処行動》という【早めの対処行動と症状の観察】と,《島の昔からの文化にならった食事を摂る》の【島に伝承された食文化にもとづいたセルフケア】という特徴があった。産褥期は【産後の回復に向けたセルフケア】を行っていた。《体調の変化に応じて早期の常備薬の内服,病院受診》,《乳房トラブルに対して情報源にアプローチし,対応》する【異常症状に対して行動・対応】,《産後の針仕事と水仕事はしてはいけない》,《母乳をたくさん出すために魚汁を必ず飲む》という【島の昔からの文化にならったセルフケア】に特徴があった。結 論分娩施設のない離島に住む母親は,分娩施設がなく,産科医・小児科医が常駐ではない環境にあるからこそ異常に移行しないようにしなければならないという強い思いから,異常症状を自身の感覚を通して敏感に察知し,自ら判断・行動していた。分娩施設のない離島における妊産婦が安心・安全に妊娠期・産褥期を過ごすためには,島に伝承されているセルフケア行動も取り入れつつ,母親が身体の変化に敏感になり,感覚を通して変化を察知できるように,医療従事者は正しい情報を与え,担保していくような関わりが必要かもしれない。
著者
新川 治子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.36-47, 2021 (Released:2021-06-30)
参考文献数
44
被引用文献数
1

目 的妊娠による「マイナートラブル」の有症率と頻度の産後1年間の変化と,産後各期の有症数に関連する因子を明らかにすることである。対象と方法広島県内の4医療機関に妊婦健康診査又は出産準備教育に来院した妊婦を対象にした。調査は自記式質問紙を用い,妊娠期,退院時,産後1か月,4か月,1年の計5回縦断的に行った。内容は妊娠末期のマイナートラブル29症状の有無と頻度,分娩様式,栄養方法,育児負担感,母親の乳児への愛着尺度日本語版(以下,MAI-Jと略す)と日本語版エジンバラ産後うつ病自己評価票(以下,EPDSと略す)である。一元配置分散分析で妊娠期からの有症数の変化,カイ二乗検定で各症状の有症割合,積率相関係数及び対応のないt検定で有症数と各因子との関連を検討した。結 果妊娠期は1566名に配布,回収数681名(回収率43.5%)中,妊娠末期の回答422名(有効回答率62.0%),退院時126名,産後1か月88名,産後4か月79名,産後1年70名を対象とした。マイナートラブル数の平均は分娩後に経過と共に減少していた(F=130.93, p<0.01)。症状別では22症状の有症率が有意に減少し,3症状が産後に増加,4症状が不変であった。退院時及び産後1か月時のマイナートラブル数は,産後1か月から1年までのEPDS得点(r=0.39~0.58, p<0.01),及び育児負担感得点(r=0.30~0.44, p<0.05)と有意に相関した。結 論本調査により妊娠期のマイナートラブル数は産後に影響すること,また産後のマイナートラブル数と産後うつや育児負担感との関連が確認できた。これは快適な育児は産後からではなく,妊娠期からのケアが重要であることを示すものである。妊婦が体験している不快症状を「マイナートラブル」と軽視せず,1つでも症状が改善するよう支援する必要がある。
著者
秋月 百合 藤村 一美
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.30-39, 2007
被引用文献数
9

<B>目 的</B><br> 本研究の目的は,わが国における病院勤務助産師のバーンアウトの実態を明らかにすることである。<br><B>対象と方法</B><br> 全国の産科診療を行う72病院に勤務する839人を対象に,自記式質問紙を用いた量的横断的調査を実施した。バーンアウトの測定にはMaslach Burnout Inventry(MBI)尺度を用いた。MBI下位尺度と基本的属性,助産師特性,勤務特性,勤務施設特性,職務満足,仕事継続意向,勤務病棟での働きやすさの認識との関連をみるために,一元配置分散分析,t検定ならびに相関分析を行った。<br><B>結 果</B><br> 回収率は87.2%,有効回答数はn=708であった。対象者の平均年齢は35.2歳であった。各下位尺度の平均得点は,「情緒的消耗感」15.67±4.50,「脱人格化」11.89±4.32,「個人的達成感の後退」20.61±4.30であった。婚姻歴,助産・産科看護経験年数,1日勤務時間,月残業時間ならびに有休消化等と情緒的消耗感ならびに脱人格化との間に有意な関連が見られた。職位ならびに勤務形態と個人的達成感の後退との間に有意な関連が見られた。職務満足と個人的達成感の後退の間に,仕事継続意向と情緒的消耗感ならびに個人的達成感の後退との間に負の相関関係があることが明らかになった。<br><B>結 論</B><br> わが国における病院勤務助産師のバーンアウトは,看護師を対象とした先行研究と比較して情緒的消耗感,脱人格化は同様もしくは低い傾向に,個人的達成感の後退においては低い傾向にある可能性が示唆された。因果関係は明確ではないが,仕事満足ならびに仕事継続意向とバーンアウトとの間に関連があることが示唆された。今後,各医療機関において事業場内産業保健スタッフ等による病院勤務助産師へのサポート体制を整備すること,助産師の配置を拡大すること,新人助産師への卒後教育を充実させることの重要性が示唆された。
著者
田辺 けい子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.35-47, 2015

<b>目 的</b><br> 2014年現在でも決して少なくなく,将来的にも増加が見込まれる子どもを産まない女性たちの生殖観や身体観に着目し,これを明らかにすることによって女性の健康支援の在り様を考察することである。<br><b>対象と方法</b><br> 聞き取り調査に基づく質的研究である。対象は30才から80才代までの女性29名である。ただし生殖年齢にある30才代と40才代の16名は,本研究の主題である子どもを産まない女性たちに特徴的な側面が色濃くでるよう,子をもうけることに消極的あるいは否定的な女性を選定した。質問内容は(1)子や孫の人数とその人数に満足しているか否か,(2)月経歴および初経と閉経に関連する体験,(3)保健医療行動の内容,および,(1)~(3)に関連する経験の内容や態度の理由,周囲の人々との関係性,対象者の生殖観,身体観に反映すると推察される経験や出来事についても可能な限り詳しく聞き取り,医療人類学的考察を行った。<br><b>結 果</b><br> 3つの語りの特徴が確認できた。<br>1.産まないことが自らの身体に付与されている生殖能を疎かにするかのような身体観を作っていること<br>2.月経には益するところがないという考え方<br>3.女性身体の生物学特性ことに身体的リスクに関する情報がないこと<br> これらの結果から,対象者は「生殖から離れている身体」といえるような位相にあることが確認でき「生殖から離れている身体」に内在する4つの課題と2つの強みが明らかになった。<br><b>結 論</b><br> 「生殖から離れている身体」に内在する4つの課題と2つの強みを踏まえた支援があれば「生殖から離れている身体」の健康は一定程度担保しうることが示唆された。<br> 課題とは次の4点である。<br> 1.自らの身体の生殖にかかわる属性の放棄<br> 2.個人の人生の問題としてのみに閉ざされる生殖<br> 3.育まれてこなかった生殖を肯定的にみたり,生殖可能な身体として自らの身体をケアする生活態度<br> 4.無性あるいは中性的な身体に価値を置くこと<br> 強みとは次の2点である。<br> 1.老齢期を健康に過ごさねばならないという十分な動機と欲求<br> 2.女性の身体は自然のバランスによって健康が保たれるといった身体観や健康観
著者
抜田 博子 谷口 千絵 恵美須 文枝
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.208-216, 2009 (Released:2010-04-06)
参考文献数
13
被引用文献数
2 1

目 的 助産師が行う周産期ケアについて,血液・体液および排泄物との接触の多い手指の感染予防策として,手袋着用状況と個人的属性との関連を明らかにする。対象と方法 東京都内の分娩を取り扱う病院に勤務する189名の助産師を対象とし,自記式質問紙調査を行った。調査内容は,年齢や経験年数,院内感染対策への関心等の個人的属性と,血液および体液,排泄物を扱う10項目の周産期ケアにおける手袋着用状況を,「必ず着用する」から「着用しない」までの4段階で回答を求めた。分析は個人的属性,手袋着用状況を各々2群に分類し,ケアごとに個人的属性との関連を,χ2検定により分析した。結 果 177名(回収率93.6%)から回答が得られた。助産師の手袋着用状況は,分娩第II・III期の直接介助では100%,妊産婦の内診,胎盤計測・処理では98%以上が「必ず着用する」と回答していた。一方で,乳房ケアは74.1%,新生児のオムツ交換では64.1%が「着用しない」と回答していた。個人的属性と手袋着用状況との関連においては,ケア毎に関連する要因が異なっており,教育課程や感染に関する研修の有無,スタンダード・プリコーションの認知度で関連が認められるケアがあった。年齢,産科以外での臨床経験の有無は,どのケアにおいても関連が認められなかった。結 論 明らかに血液・体液の接触を避けることができないケアでは,ほとんどの人が手袋を着用しているのに対し,血液ではない母乳や新生児の便については,手袋を着用しない人が多かった。また,血液・体液に直接触れない場合があるケアでは必ずしも手袋を着用していなかった。 看護師,助産師各教育課程や感染に関する研修受講の有無,スタンダード・プリコーションの認知度で着用状況と関連が認められるケア項目があり,感染対策に関する卒前および卒後教育の充実が必要であると考えられた。
著者
五十嵐 ゆかり 小黒 道子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.250-259, 2014
被引用文献数
1

<b>目 的</b><br> 日本に在住する難民女性への支援の向上を目指し,難民女性のリプロダクティブヘルスの現状や課題を明らかにすることである。<br><b>対象と方法</b><br> 日本に在住する難民,難民認定申請者で,成人女性,出産可能年齢(15~49歳)7名とした。研究協力者の母語に堪能な通訳者を介し,半構成的インタビュー法で面接を行い,質的記述的研究方法により分析を行った。<br><b>結 果</b><br> 難民女性は【困難な状況が複合化している存在】であり,【行き(生き)場がない,ここしかない】という社会的,心理的状況であった。そのため【孤独】を感じ,【信仰だけが与える安寧】に依存しながら生活していた。リプロダクティブヘルスの実状としては,難民女性は出身国の情勢や経済的な理由から,そもそも【もともと無いリプロダクティブヘルス・ライツ】といった状況にあった。来日後は【寂しさが誘起する安易な性行動】から知り合ったばかりの人との性行為に至り,結果【シングルマザー】となっている女性が多かった。生活が困窮していても【信仰を基盤とした妊娠継続の意思決定】をし,【心の拠りどころは子ども】となって,強い孤独感の中で喜びを感じていた。しかし,妊娠期を健康的に過ごすための経済基盤の脆弱性や,医療者とのコミュニケーションの難しさから,【母児の困難な健康維持】という状況にあった。難民女性のリプロダクティブヘルス・ライツを向上させるために,まずは【偏見なくひとりひとりと向き合う】,【それぞれの持つ背景を知る】ことが不可欠であり,健康状態が深刻化していても【帰国を勧めない】こと,また【確実な情報提供】をすることも重要であった。<br><b>結 論</b><br> 難民女性は,ひとりという孤独感と難民への関心が薄い社会での疎外感から,壮絶な寂しさの中にいた。心理,経済,教育など複数の課題が混在し,自国においても日本においても難民女性のリプロダクティブヘルス・ライツは脆弱であった。ケアの方略は,まずは医療者が難民女性を理解する努力をすることであり,対象の背景を知ろうとする姿勢を持つ重要性が示唆された。
著者
荒木 奈緒
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.89-98, 2006
被引用文献数
1

目 的<br>羊水検査を受けるか否かを検討する妊婦はどのようなプロセスを辿って意思決定をするのか,その際の意思決定プロセスには一般的な意思決定プロセスとの差異があるのかを知ることにより,どのような援助が意思決定を行う妊婦の支援となるのかを明らかにすることを目的とする。<br>対象と方法<br>対象は,研究参加の同意が得られ,今回の妊娠において羊水検査を受けるか否かを検討した体験を持つ妊婦5名。データ収集には半構造化面接法を用い,妊娠26週~30週の時期の1時点で実施した。得られたデータは面接内容を逐語録としてデータ化した後,内容を質的帰納的に分析した。<br>結 果<br>羊水検査を受けるか否かを決定する際の妊婦の意思決定プロセスを構成するカテゴリーは,≪妊娠の継続を自分に問う≫≪人工妊娠中絶に対する思いを自問する≫≪周囲の意見との照らし合わせ≫≪障害児育児を想像する≫の4つのカテゴリーが抽出された。意思決定プロセスの起点は,≪妊娠の継続を自分に問う≫という形で命に関する自己の価値観を明確化し妊娠の継続を検討することであった。このカテゴリーを起点とし≪人工妊娠中絶に対する思いを自問する≫ことによって自分の人工妊娠中絶に対する考え方を確認し,自分の価値観が周囲の身近な社会で受け入れられるのかを≪周囲の意見との照らし合わせ≫ で十分に観察し,障害という視点から≪障害児育児を想像する≫し,育児の可能性を測った上で,検査を受けるか否かの最終意思決定を行うというプロセスが見出された。<br>このプロセス中で羊水検査を受けた妊婦には,胎児に感じる愛着と五体満足でなければいけないという価値観との間で「揺れ」を感じ,検査結果がでるまで妊娠継続に関する決定を保留とし,検査を受ける決定を行なう過程が存在した。<br>結 論<br>羊水検査を受けるか否かを検討する妊婦は,検査結果による妊娠の継続に関することを最初に問題認識し検査を受けるか否かの検討を行なっていた。このプロセスの中で妊婦は,妊娠の継続から導き出された命の価値観と,胎児に対する感情や障害児育児に対する感情が相反した場合に「揺れ」を感じていた。特に検査結果で異常が指摘された場合に,人工妊娠中絶を受けることを考えている妊婦は,心理的重圧という問題を抱えており細心の配慮が必要である。
著者
平澤 美恵子 新道 幸恵 内藤 洋子 佐々木 和子 熊沢 美奈好 松岡 恵
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.21-31, 1988

助産婦の新卒者が助産婦としての能力に習熟する過程と, その過程に影響する要因を明らかにする目的で, 国立および公的助産婦学校3校の卒業生92名を対象に, 妊産婦へのケア能力を中心に, 1年間追跡調査した。<BR>対象の平均年齢は23.5歳, 看護婦歴のあるものは34.7%, その平均職歴は2.6年, 200~999床の病産院に勤務したものが過半数である。対象者の大半が妊産婦ケア能力の到達状況がよくなるのは就後1年時である。新生児の仮死蘇生術やハイリスク新生児の看護は、1年時になっても未経験者が多い。<BR>仕事ぶりに満足という意識をもつ人の割合は経時的に増加し, それとともに, その意識に相関する妊産婦ケア能力の項目が増加している。職場の人間関係に関する意識にも能力の到達状況と相関が認められた。その意識のうち, ケア能力の到達項目の多くと相関がみられたのは, 1か月時には職場の雰囲気がよい, 6か月時には職員の意見交換が多い, である。
著者
田中 利枝 岡 美雪 北園 真希 丸山 菜穂子 堀内 成子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
pp.JJAM-2017-0041, (Released:2018-05-18)
参考文献数
59
被引用文献数
1 3

目 的産科看護者に向けた,早産児の母親の産褥早期の母乳分泌を促す教育プログラムを開発する端緒として,母親の母乳分泌を促すための搾乳ケアについて探索する。対象と方法PubMed,CINAHL Plus with Full Text,医学中央雑誌Web, Ver.5を用い文献検索を行った。さらにCochrane Libraryに掲載されている搾乳に関するレビューに用いられている文献を追加した。その中からタイトル,抄録,本文を参考に,早産児の母親の母乳分泌量をアウトカムとする文献を抽出し,Cochrane Handbook,RoBANS,GRADE Handbookを用い,文献の質の評価を行った。また,研究目的,方法,結果について整理し,母親の母乳分泌を促すための搾乳ケアを抽出した。結 果35文献が抽出され,介入研究24件,観察研究11件であった。無作為化,隠蔽化,盲検化に関する記述が不十分で,サンプルサイズが検討されていないなど,ランダム化比較試験の質は低く,交絡変数の検討が不十分なために非ランダム化比較試験の質も低かったが,観察研究から実践に活用可能と考えられるエビデンスが得られた。早産児を出産した母親の母乳分泌を促すための搾乳ケアでは,分娩後,可能な限り1時間以内に搾乳を開始すること,1日7回以上の搾乳回数,1日100分以上の搾乳時間を確保すること,手搾乳と電動搾乳の両方について十分な説明を行い,乳汁生成II期に入るまで電動搾乳に1日6回以上の手搾乳を追加すること,カンガルーケアを実施することが有用だとわかった。結 論今後は,産科看護者による早産児を出産した母親への搾乳ケアに関する実態把握を行い,母親の母乳分泌を促すための搾乳ケアが実践できるような教育プログラムを開発していく。
著者
佐藤 珠美 エレーラ C. ルルデス R. 中河 亜希 榊原 愛 大橋 一友
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.63-70, 2017-06-30 (Released:2017-06-30)
参考文献数
21
被引用文献数
2 3

目 的産後女性の手や手首の痛みの有症率,痛みの出現時期,痛みの部位と手や手首の痛みの関連要因を明らかにする。対象と方法産後1年未満の女性876名に無記名自記式質問紙調査を行った。分析対象は産後1か月から8か月の有効回答514部(58.7%)である。調査内容は手や手首の自発痛の有無とその部位,痛みが発症した時期とその後の経過,痛みに影響を与える要因,属性とした。結 果35.2%の女性が産後に手や手首の痛みを保有していた。痛みの出現時期は妊娠期から産後7か月までと長期にわたっているが,産後1か月から2か月に出現した人が多かった。痛みの訴えは両側性が多く,左右の割合の差は少なかった。疼痛部位は橈骨茎状突起,橈骨手根関節,尺骨茎状突起,母指中手指節関節,母指手根中手関節の順に多くみられた。年齢,初産婦,手と手首の痛みの既往が痛みに関連しており,有意差を認めた。一方,母乳育児,産後の月経の再開,モバイル機器の使用時間との関連はなかった。結 論産後女性の3人に1人は手や手首の痛みを経験し,痛みの多くは産後1か月から2か月に出現していた。年齢が高く,初産婦で,手や手首の痛みの既往がある産後の女性では,手や手首の痛みに注意する必要がある。
著者
堀田 久美
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.15-24, 2003-06-30
参考文献数
15
被引用文献数
3 1

目的<BR>本研究は, 胎児娩出感をもった女性の分娩体験を明らかにし, 分娩時の女性の理解に向けた示唆を得ることを目的として行った。<BR>方法質的記述的研究方法を選択した。分娩後の女性, 18名に面接を行い, 分娩体験について自由に語ってもらった。面接の内容を逐語記録し, 胎児娩出感と分娩体験についての内容を質的に分析した。<BR>結果<BR>胎児娩出感をもった女性の分娩体験は, 自らの分娩を自己コントロールできたと自覚でき, 胎児との一体感を感じるものであり, 産んだという実感や分娩終了時の満足感および開放感と安堵感を感じさせるものであった。そして, 胎児の存在を自らの身体を通して感じることにより, 胎児の生命力に信頼をもてるとともに, 妊娠中からの連続したつながりの中で新生児に対する親近感をもちえている。また, 陣痛の苦痛を乗り越え分娩した自分に対し, 達成感や充実感をもたらし, 自らに備わっていた産む力を認識させるものでもあった。それは, 分娩を通して自己を受け入れ, 児を受け入れ, 分娩という出来事を確かに味わったという豊かな心情を生み出すものであった。<BR>結論<BR>胎児の娩出を, 自らの五感を通して感じ取っている女性がいた。女性たちにとって胎児娩出感をもつことは, 豊かな心情を生み出す大切なものであった。