著者
北浦 順也 向井 省吾 森元 博信 二神 大介 古田 晃久
出版者
特定非営利活動法人 日本血管外科学会
雑誌
日本血管外科学会雑誌 (ISSN:09186778)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.137-140, 2020-04-23 (Released:2020-04-23)
参考文献数
20

腹部大動脈ステントグラフト内挿術(EVAR)時に腸骨動脈瘤を合併する場合,術後のType II endoleakを予防するため一般に塞栓術が施行されるが,その合併症として術後骨盤内虚血がある.症例は82歳男性.腹部大動脈瘤,両側総腸骨動脈瘤に対して右内腸骨動脈コイル塞栓術後を,その1週間後に二期的にEVARおよび左内腸骨動脈コイル塞栓術を施行した.術直後から左臀部の高度安静時疼痛および左臀部チアノーゼを発症し,重症殿筋虚血の診断で緊急左外腸骨動脈–内腸骨動脈バイパス術を施行した.術後チアノーゼおよび安静時疼痛は消失し,術後造影CTにてendoleakなく,バイパスは良好に開存していた.EVARに併施した内腸骨動脈塞栓術直後に重症殿筋虚血を呈した場合,速やかな腸骨動脈血行再建が必要である.
出版者
特定非営利活動法人 日本血管外科学会
雑誌
日本血管外科学会雑誌 (ISSN:09186778)
巻号頁・発行日
vol.24, no.Supplement, pp.15-supplement, 2015 (Released:2015-09-18)

末梢動脈疾患(peripheral arterial disease; PAD)は世界的に増加し続けており,米国の医療制度においてもPADによる支出は増大している.近年,PAD に対する介入率は全体として確実に伸び続けてきた. 人口統計の変化や技術革新,転帰調査のデータベースに蓄積される膨大な情報が,PAD の診療方針の決定に影響を及ぼす原動力となっている.PAD の治療は集学的であり,かかりつけ医や血管専門医によって担われているが,その診断能力および有する治療法は一様ではない.PAD は,無症候性から重度の虚血肢まで幅広い範囲に及ぶ.米国血管外科学会(SVS)の下肢診療ガイドライン委員会は,無症候性PADおよび間欠性跛行(intermittent claudication; IC)の診療を支援するエビデンスを調査・検討した.同委員会はGRADE( Grades of Recommendation Assessment, Development and Evaluation)システムを用いて,領域に特化した診療推奨事項を作成した.当分野における重要事項の多くにはレベル1 データが少なく,PADにおける有効性比較研究が緊急課題であることが示されている.そして,リスクファクターの修正や内科的療法および心血管系の状態や身体機能を改善させる運動プログラムを幅広く用いることに重点が置かれている.PAD スクリーニングの利点は今のところ裏づけがないように思われる.IC に対する血行再建術は,日常生活に著しい不便を感じている患者に対して,慎重に得失を検討した後に行うべきである.治療は,併存症や機能障害の程度および解剖学的要素に基づいて個別に決定されなければならない.IC に対する侵襲的治療は,確かな機能回復が妥当な期間持続するものでなければならない.有効性が少なくとも2 年以上継続する見通しが50% を超えることを最低基準として推奨している.解剖学的開存性(再狭窄がないこと)が,IC における血行再建術の有効性を保つのに必須であると考えられる.大動脈腸骨動脈病変を持つほとんどの患者や, 解剖学的開存性が上述の最低基準にみあう大腿膝窩動脈病変を持つ患者に対しては,血管内治療(endovascular therapy; EVT)によるアプローチが好ましい.反対に,長期開存が見込めない解剖学的条件(広範囲にわたる石灰化,小口径動脈,鼠径靭帯以下末梢のび慢性病変,runoff 不良)の場合には,IC へのEVT には慎重でなければならない.このような病変の患者,あるいはEVT が不成功に終わった患者で,手術リスクが低ければ,外科バイパス術が好ましい方法といえる.総大腿動脈病変は外科的に治療するべきであり,鼠径部以下のバイパス術には伏在静脈の使用が好ましい.IC の侵襲的治療を受けた患者にはサーベイランスプログラムに則った定期的なモニタリングを行い,主観的改善の記録,リスクファクターの評価,心保護的な薬剤内服コンプライアンスの最適化,ならびに血行動態および開存状態のモニタリングを行う.
著者
新垣 正美 横井 良彦 東 隆 遊佐 裕明 外川 正海 笹生 正樹 大森 一史 冨岡 秀行 青見 茂之 山崎 健二
出版者
特定非営利活動法人 日本血管外科学会
雑誌
日本血管外科学会雑誌 (ISSN:09186778)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.675-680, 2014 (Released:2014-04-29)
参考文献数
8

要旨:【目的】ステントグラフト内挿術後には動脈瘤の急激な血栓化により凝固線溶系が亢進することが知られている.トラネキサム酸を投与することで術後の線溶系亢進およびtype 2 endoleak が抑制されるかについて検討を行った.【方法】腹部大動脈瘤51 例,胸部大動脈瘤38 例の計89 例を対象とし後方視的に検討を行った.周術期に凝固線溶系を測定,またtype 2 endoleak の評価は術後1 週間目および6 カ月目の造影CT にて行った.【結果】PT(INR),APTT,AT,血小板数においてはトラネキサム酸の投与に影響がなかった.Fibrinogen はトラネキサム酸投与群で有意に高値を示し消費の抑制が示唆された.FDP は非投与群で術後5 日目より再上昇を示し線溶系の亢進を認めたが,トラネキサム酸投与群ではその再上昇が有意に抑制されていた(43.8±36.6 vs 18.3±17.1 µg/ml: p=0.004).Type 2 endoleak は術後1 週間目において非投与群が22.0%であったのに対し投与群が6.3%と有意に抑制され(p=0.031),その傾向は6 カ月目でも持続した.【結論】トラネキサム酸を投与することでステントグラフト内挿術後の線溶系亢進およびtype 2 endoleak が抑制されることが示唆された.
著者
和田 健史 浦下 周一 上木原 健太 坂口 健 平山 亮 鈴木 龍介
出版者
特定非営利活動法人 日本血管外科学会
雑誌
日本血管外科学会雑誌 (ISSN:09186778)
巻号頁・発行日
vol.30, no.5, pp.295-297, 2021-09-30 (Released:2021-09-30)
参考文献数
7

症例は39歳男性,左上肢の脱力感および痺れを主訴に受診.CT検査にて異常な左第1肋骨が左第2肋骨に付着し,鎖骨と第1肋骨の間で左鎖骨下動脈が挟まれて瘤化しており,動脈性胸郭出口症候群の診断に至った.また左上腕動脈も血栓閉塞しており,血栓除去術を行ったのち,左鎖骨下動脈の人工血管置換術を施行した.異常な第1肋骨と左鎖骨下動脈瘤周囲は強固に癒着しており,切除は困難であったため狭窄部位を避けて人工血管を通して経路変更による血行再建を行った.胸郭出口症候群における異常な肋骨の切除は時に神経損傷や胸膜損傷等の合併症を来すことがあり,本術式は安全かつ有効な治療の選択肢となり得るため報告する.
著者
船田 敏子 内田 徹郎 浜崎 安純 山下 淳 林 潤 貞弘 光章
出版者
特定非営利活動法人 日本血管外科学会
雑誌
日本血管外科学会雑誌 (ISSN:09186778)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.177-180, 2016 (Released:2016-05-19)
参考文献数
13

要旨:胸腔内型の鎖骨下動脈瘤に対する外科治療は,一般的に鎖骨上アプローチが困難であり,胸骨正中切開が必要になる.今回,冠動脈バイパス術後の右鎖骨下動脈瘤に対してハイブリッド治療を施行し,良好な結果を得た.症例は77 歳男性.以前より指摘されていた右鎖骨下動脈瘤の瘤径増大を認めたため手術の方針となった.CABG 術後で開存した内胸動脈グラフトを有しているため開胸操作を行わず,また,腕頭動脈分岐部に近接した右鎖骨下動脈瘤であったため,開胸操作を行わず,右腋窩-左腋窩バイパス術を行ったのちに右総頸動脈から腕頭動脈にステントグラフトを挿入した.術後造影でエンドリークは認めず,右腋窩-左腋窩動脈バイパスの血流は良好であった.心臓手術後の胸腔内型の右鎖骨下動脈瘤に対して,非解剖学的バイパス術とステントグラフト内挿術を併用したハイブリッド手術は低侵襲であり,有効な治療法と考える.
著者
中塚 秀輝
出版者
特定非営利活動法人 日本血管外科学会
雑誌
日本血管外科学会雑誌 (ISSN:09186778)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.137-140, 2018-04-25 (Released:2018-04-27)
参考文献数
12

閉塞性動脈硬化症に代表される血管疾患は,病状の進行とともに安静時疼痛または潰瘍・壊死を伴う.とくに重症虚血肢の疼痛は強く,管理に難渋するため,薬物療法,交感神経節ブロック,硬膜外ブロック・末梢神経ブロックなどの区域麻酔,脊髄刺激電極,高気圧酸素療法などさまざまな治療を組み合わせて用いる.高齢者や重症心疾患を有する患者が多いため,循環系への影響が少ない治療が望ましい.区域麻酔は必要な範囲にのみ麻酔効果を発揮する点で有利であり,超音波ガイド下末梢神経ブロックでは効果を必要な部位に正確に限定させることができる.さらに体動時の痛みにも効果的である点で,オピオイドなどの全身投与による鎮痛に比べて非常に優れている.重症虚血肢の疼痛管理においては,薬物療法とともに,超音波ガイド下神経ブロックなどの区域麻酔との併用が有用であり,慢性化した場合には心理社会的要因も考慮して治療に当たる.
著者
宮本 伸二
出版者
特定非営利活動法人 日本血管外科学会
雑誌
日本血管外科学会雑誌 (ISSN:09186778)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.15-19, 2018-02-01 (Released:2018-02-01)
参考文献数
9

胸部大動脈ステントグラフトでは凡そ半数が弓部にかかる治療を要し,すなわち主要分枝の閉塞を伴う.したがってデブランチの技量が適応拡大に重要となる.鎖骨下動脈の再建は特殊な条件以外では行う必要はないが待期手術であればデブランチしておく方が安全である.総頸動脈間バイパスの食道経路は美容上もメリットがあるが嚥下困難を生じさせないよう気管膜様部後方を通過させなければならない.Zone 0 TEVARで開胸を伴う上行からデブランチを行う方法は低侵襲とはいえずあまり推奨されない.開胸をさけるためにChimney法,in-situ fenestration(ISF), branched or fenestrated graft法がある.われわれのSquid capture法によりISFは安全でかつ有効な方法である.弓部デブランチ自体は脳梗塞のリスクではなく,左鎖骨下動脈遮断が塞栓予防として重要である.
著者
比嘉 章太郎 永野 貴昭 安藤 美月 喜瀬 勇也 仲榮眞 盛保 古川 浩二郎
出版者
特定非営利活動法人 日本血管外科学会
雑誌
日本血管外科学会雑誌 (ISSN:09186778)
巻号頁・発行日
vol.30, no.5, pp.291-294, 2021

<p>急性B型解離の偽腔破裂は致死的疾患で救命が最優先される.しかし対麻痺を発症するとADLが低下し予後にも影響する.今回われわれは術中に運動誘発電位(MEP)をモニタリングし,MEP変化に対応することで対麻痺を回避し得た1例を経験したので報告する.症例は60歳男性.近位下行大動脈のエントリー近傍の偽腔より縦隔内にextravasationを認めた.ステントグラフト留置(Zone2~Th8)直後にはMEP変化はみられなかった.偽腔血流制御の手技中,ステント展開後から51分後からMEPが低下し,78分後にはMEPが消失した.平均血圧を上昇させてもMEPが回復しなかった.左鎖骨下動脈へベアステント留置し順行性血流を確保したところ,MEPの回復がみられ,術後も対麻痺は認めなかった.緊急手術であっても可能な限りMEPをモニタリングし,MEP変化に適切に対処することで対麻痺発症の予防に努めることが肝要である.</p>
著者
日本血管外科学会データベース管理運営委員会 NCD血管外科データ分析チーム
出版者
特定非営利活動法人 日本血管外科学会
雑誌
日本血管外科学会雑誌 (ISSN:09186778)
巻号頁・発行日
vol.27, no.6, pp.437-456, 2018

<p>2012年に日本で行われた血管外科手術について,日本血管外科学会データベース管理運営委員会が集計結果を解析し,アニュアルレポートとして報告する.【方法】NCDの血管外科手術データに基づき,全国における血管外科手術動向およびその短期成績(術死,在院死亡)を解析した.【結果】2012年にNCDに登録された血管外科手術は95,979例であり,1,043施設からの登録があった.このデータベースは,7つの血管外科分野即ち動脈瘤,慢性動脈閉塞,急性動脈閉塞,血管外傷,血行再建後合併症,静脈疾患,その他の血管疾患からなっており,それぞれの登録症例数は,19,600, 13,141, 4,600, 1,623, 1,973, 30,725, および24,332例であった.腹部大動脈瘤(含む腸骨動脈瘤)は15,745例で,その47.6%がステントグラフトによって治療されていた.1,704例(10.8%)の破裂例を含んでおり,手術死亡率は破裂,非破裂で,それぞれ17.8%,0.8%であった.慢性動脈閉塞症は,重複を含み13,141例登録され,open repair 7,859例(うちdistal bypass 1,173例),血管内治療5,282例が施行された.静脈手術の内訳は,下肢静脈瘤30,088例,下肢深部静脈血栓症395例などであった.その他の手術として,バスキュラーアクセス手術22,654例,下肢切断1,390例などが登録された.全分野において手術死亡率に大きな変動はないが,下肢大切断が減少しておらず,また,その死亡率も高止まりしていることに問題を残している.【結語】2011年と比較して,全領域において血管内治療が増加しており,とくに動脈瘤に対するステントグラフト内挿術や静脈瘤に対するレーザー焼灼術の増加が目立った.</p>
著者
柳清 洋佑 小柳 哲也 伊藤 寿朗 栗本 義彦 川原田 修義 樋上 哲哉
出版者
特定非営利活動法人 日本血管外科学会
雑誌
日本血管外科学会雑誌 (ISSN:09186778)
巻号頁・発行日
vol.21, no.6, pp.745-748, 2012

要 旨:症例は63歳女性.突然の吐血にて近医へ搬送され内視鏡検査を施行された.胸部中部食道に粘膜剥離所見と狭窄を認めるのみであり,狭窄部は通過できなかったため精査目的に入院した.翌日CT撮影を行ったところ最大径40 mmの胸部下行大動脈瘤および瘤の食道穿破を認めた.胸部中部食道は上行大動脈と下行大動脈に挟まれ圧迫されている所見であった.前医出発直前に大量吐血し,挿管管理,大量輸血された状態で到着した.緊急でステントグラフト内挿術を施行し出血をコントロールした.穿破した食道は感染源となるため,後日胸部食道亜全摘および大網充填術を行った.全身状態が改善した後に大腸を用いて食道再建術を行った.胸部大動脈瘤の食道穿破は死亡率が極めて高く治療法が確立されていないのが現状である.今回ステントグラフト内挿術による出血のコントロールを行い,食道切除術による病巣切除を併せて行うことで救命し得た1症例を経験したため報告する.
著者
神藤 由美 西村 潤一 深田 睦 坂上 直子
出版者
特定非営利活動法人 日本血管外科学会
雑誌
日本血管外科学会雑誌 (ISSN:09186778)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.39-43, 2018

<p>症例は24歳女性.路上に倒れているのを通行人に発見され,救急搬送された.来院時,腹部に刺創を認め,ショック状態であったため,緊急開腹止血術(肝縫合,中結腸動脈結紮)が施行された.第5病日のCTで上腸間膜動脈(SMA)仮性動脈瘤(SMAPA)とSMA–空腸静脈(JV)廔(SMAJVF)を認めた.SMAPAは経時的に増大を示したため早急な治療が必要と判断した.CTの計測でSMAPAの中枢・末梢側正常血管径が6.5・6.4 mmとほぼ一定で,1st空腸動脈(JA)分岐直後,SMAPAネック近位端,同遠位端,2nd JA分岐直前のそれぞれの間隔は13, 6, 9 mmで,計28 mmであった.7 mm径25 mm長のVIABHANを用いれば分枝閉塞なくSMAPAをカバー可能と考えた.第29病日にSMAへのVIABAHN留置とSMAPA塞栓術を施行し,併発症なく治療し得た.</p>
著者
月岡 祐介 立石 烈 大西 遼 塩屋 雅人 中原 嘉則 金村 賦之
出版者
特定非営利活動法人 日本血管外科学会
雑誌
日本血管外科学会雑誌 (ISSN:09186778)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.125-129, 2021-04-22 (Released:2021-04-22)
参考文献数
29

上行結腸憩室炎に続発した上腸間膜静脈血栓症(Superior Mesenteric Vein Thrombosis: SMVT)に対し保存的加療を行った1例を報告する.症例は78歳の男性.右下腹部痛と発熱を発症し前医に搬送され上行結腸憩室炎の診断で前医に入院となった.点滴抗生剤加療で改善しないため造影CTが施行されSMVTと診断され当院に搬送.当院では腹部症状は消失しており保存的加療の方針とした.未分画ヘパリン持続静注から開始しワーファリン内服に切り替え入院5日後のCTで血栓縮小を確認したため7日目に退院した.退院2カ月後のCTで血栓の消失を確認した.文献検索では,腸間膜静脈血栓症に先行する大腸憩室炎の部位としては上行結腸が多く,SMVTはIMVT(Inferior Mesenteric Vein Thrombosis: 下腸間膜静脈血栓症)よりも発生頻度が高かった.
著者
柳 茂樹 田村 暢成 田中 厚寿 瀧 智史 中津 太郎 許 敞一
出版者
特定非営利活動法人 日本血管外科学会
雑誌
日本血管外科学会雑誌 (ISSN:09186778)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.139-143, 2016 (Released:2016-04-19)
参考文献数
11

要旨:症例は87 歳の男性.炎症反応高値を伴う多房性囊状の下行胸部大動脈瘤を認め,感染性大動脈瘤を疑い抗生剤治療を開始した.しかし経過を通じて発熱はなく血液培養・プロカルシトニンとも陰性で,CT では瘤の形態変化や周囲の軟部陰影も乏しいため,感染瘤は否定的であり,瘤破裂の可能性を考慮し胸部大動脈ステントグラフト内挿術(TEVAR)を施行した.術後第1 日目からWBC の異常高値が認められ,患者のWBC は最大112800/μl まで上昇する類白血病反応を呈し,急速に進行する両鼠径部の壊疽性膿皮症を発症した.経過中抗生剤治療には反応せず,多臓器不全に至り術後21 日目に死亡した.剖検にて骨髄の過形成,幼若球の増加を認め,慢性骨髄単球性白血病が背景にあり手術を契機に急性転化したことが示唆された.TEVAR が低侵襲とはいえ,術前の炎症については十分な検討を行い手術適応を評価することが重要であると考えられた.
著者
高橋 直子 布川 雅雄 今村 健太郎 細井 温 須藤 憲一 増田 裕 森永 圭吾 藤岡 保範
出版者
特定非営利活動法人 日本血管外科学会
雑誌
日本血管外科学会雑誌 (ISSN:09186778)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.487-493, 2010-04-25 (Released:2010-04-26)
参考文献数
27
被引用文献数
11

【目的】腹部内臓動脈瘤は稀な疾患であるが,破裂した際には死に至ることも多い極めて重篤な疾患である.そのため早期発見と確実な診断が必要であり,今回われわれは,当該病変に対する治療方針を検討した.【対象・方法】2005年3月から2008年10月に当院で内臓動脈瘤と診断された30例(男性21例,女性9例)30瘤を対象とし,発生部位や治療方法,経過についてまとめた.【結果】内訳は脾動脈瘤13例,膵十二指腸動脈瘤5例,腹腔動脈瘤5例,上腸間膜動脈瘤4例,肝動脈瘤3例であった.治療は経過観察17例,塞栓術10例,開腹手術3例であった.当科での侵襲的治療の適応基準は瘤径が2 cm以上,破裂,仮性瘤,拡大傾向,腹痛等の有症状,膵十二指腸動脈瘤,胃十二指腸動脈瘤,上腸間膜動脈分枝の瘤とし,末梢の動脈瘤では血管内治療を第一選択とした.経過観察症例では観察期間は約2カ月から3年9カ月であったが,経過不明1例,他疾患での死亡1例を認めたが,その他15例では瘤の拡大を認めることなく経過した.塞栓術,開腹手術症例では術後観察期間は約1カ月から4年で,破裂症例の2例で一過性の十二指腸狭窄を認めたが,その他では重篤な合併症や手術死は認められなかった.【結論】低侵襲な血管内治療を第一選択とし,瘤の占拠部位や大きさ,再建の必要性に応じて開腹手術を考慮すべきである.われわれの治療成績は緊急症例も含め良好であり,経過観察症例でも治療に移行した症例はなく,当科の腹部内臓動脈瘤に対する侵襲的治療の適応基準は妥当と考えられた.
著者
田中 宏衞 光野 正孝 山村 光弘 良本 政章 福井 伸哉 辻家 紀子 梶山 哲也 宮本 裕治
出版者
特定非営利活動法人 日本血管外科学会
雑誌
日本血管外科学会雑誌 (ISSN:09186778)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.77-84, 2013-04-19 (Released:2013-04-25)
参考文献数
29

要 旨:遠位弓部大動脈瘤において遠位側吻合部が深い場合,および急性解離(AAD)に対する全弓部置換手術(TAR)の際には,elephant trunk(ET)を用いてきた.今回,その手術成績と対麻痺の発生,およびET周囲の血栓化からその有用性を検討した.【方法】2004~2012年に行ったTAR 122例のうち,ETを併用した40例.原因疾患は遠位弓部大動脈瘤27例,AAD 13例.2007年以降遠位弓部大動脈瘤全例(n=15)で術前CTにてAdamkiewicz動脈(AKA)を同定.【結果】全体の手術死亡1例(2.5%).ET長は平均11.4(7–22)cm.ET長と対麻痺の関連を検討したところ,15 cm以上の15例中4例(27%)に対麻痺を認め,12 cm以下の25例では対麻痺はなかった(p<0.01).AKAを同定温存した14例で対麻痺はなかった.遠位弓部大動脈瘤でET周囲の血栓化により一期的根治を期待した21例中16例(76.2%)で瘤は血栓化し縮小.AADではET長は7–10 cmで対麻痺はなく,13例中2例で完全に解離腔が消失,8例で平均T8まで血栓化.【結論】TAR+ETの手術成績は良好であった.遠位弓部大動脈瘤ではETにより瘤の血栓化が得られるが,その長さが15 cm以上で対麻痺の危険が高く,ET長の決定には充分な注意が必要である.よって,現在ではETによる瘤の血栓化を期待するのではなく計画的二期手術(hybrid手術)を基本方針としている.またAADではET長が7–10 cmで良好な血栓化が得られ,対麻痺もなかったことから妥当な長さであると考える.
著者
山本 直樹 田中 哲文 大上 賢祐 籏 厚 三宅 陽一郎
出版者
特定非営利活動法人 日本血管外科学会
雑誌
日本血管外科学会雑誌 (ISSN:09186778)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.165-169, 2017-06-12 (Released:2017-06-08)
参考文献数
11

症例は74歳,男性.診断は下行大動脈瘤であった.下行大動脈置換術直後より脳脊髄液ドレナージを開始し,術当日の覚醒後に対麻痺症状のないことを確認した.しかし,術後1日目に対麻痺が出現した.脳脊髄液ドレナージの排液はなく,閉塞も考えられたため新たに脳脊髄液ドレナージチューブを挿入した.脳脊髄液の流出が確認されたが,脳脊髄液初圧10 cmH2Oと上昇はなかった.すぐにD-マンニトールと副腎皮質ホルモンの点滴を併用し,血圧維持管理を開始した.また,フェンタニルによる疼痛管理を中止しナロキソン持続静注を開始した.対麻痺発症から4時間後より徐々に症状は改善し,発症から24時間目で歩行器歩行が可能となった.下行大動脈置換後に遅発性対麻痺が出現したが,ナロキソン持続静注と血圧維持が著効した症例を経験したので,文献的考察を踏まえ報告する.
著者
東 信良
出版者
特定非営利活動法人 日本血管外科学会
雑誌
日本血管外科学会雑誌 (ISSN:09186778)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.187-195, 2018-06-05 (Released:2018-06-01)
参考文献数
20

糖尿病時代の到来によって,重症下肢虚血の診断は,循環障害(大小血管障害),易感染性に加え,時として合併する神経障害とそれによる変形や乾燥などの影響を受けて複雑化しており,目の前の患者の足病の病態を的確に理解するのは容易ではなくなっている.血行再建,感染に対するドレナージなど,タイミングを逸すると大きな組織欠損を余儀なくされるため,足病の治療を専門的に行う医療者だけでなく,初療を行う医療者にもわかりやすい分類,診断基準が求められる.そうした中にあって,米国血管外科学会から足病をwound, ischemia, infectionの3方向から診断するWIfI分類が提唱され,最新のガイドラインでその適用が推奨されている.治療方針やその順番の決定に加え,治療後の適切な管理を行ってゆくうえで,血管専門医は勿論のこと,足病に関わる他診療科や多職種にも同じ基準が受け入れられて,普及し,WIfI分類が診療科や施設を超えて共通言語として用いられることが期待される.
著者
池田 知歌子 野田 征宏 坪田 誠
出版者
特定非営利活動法人 日本血管外科学会
雑誌
日本血管外科学会雑誌 (ISSN:09186778)
巻号頁・発行日
vol.27, no.5, pp.367-372, 2018-09-29 (Released:2018-09-28)
参考文献数
22

症例は90歳女性.意識消失と腹痛にて救急搬送,CTで腹部大動脈瘤破裂と診断された.ショックが進行しRutherford分類レベル3と判断,緊急開腹手術を施行した.腎動脈上まで血腫進展を認めFitzgerald IIIと診断,大動脈右側壁に径20×20 mmの円形破裂孔を認めた.人工血管置換術を施行したが術中に腸管壊死が進行,菲薄化した下行結腸が穿孔した.このため一期的に左側横行結腸~S状結腸口側まで腸切除し,多量の温生食で洗浄,ドレーン留置し,人工血管周囲に大網を充填,人工肛門を造設した.術後敗血症性ショックに対しエンドトキシン吸着療法(PMX-DHP)+持続血液濾過透析(PMMA-CHDF)を行った.呼吸不全,腎不全から離脱し経過良好で,リハビリ目的に転院.現在ADL自立し杖歩行にて外来通院中である.90歳以上の超高齢者で腸管壊死・穿孔合併腹部大動脈瘤破裂の救命例は極めて稀と考えられ報告した.
著者
佐々木 理 高橋 皇基 丹治 雅博
出版者
特定非営利活動法人 日本血管外科学会
雑誌
日本血管外科学会雑誌 (ISSN:09186778)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.195-197, 2017-07-31 (Released:2017-07-26)
参考文献数
7

Ehlers-Danlos症候群(EDS)は結合織に脆弱性を持つ遺伝性疾患である.なかでも血管型(IV型)は血管壁,消化管壁に脆弱性を示し非常に重篤な合併症をもたらす.今回,われわれの経験したEDS IV型が疑われた症例について報告する.症例は30歳男性.突然の右下腿の腫脹,疼痛を主訴に来院した.精査の結果,右後脛骨動脈瘤破裂と診断され,緊急コイル塞栓術を施行された.22歳時に樹状肺骨化症,25歳時に脳梗塞,脳内硬膜動静脈奇形,左内頸動脈–海綿静脈洞瘻,症候性てんかんの既往があり,特徴的な病歴からEDS IV型が疑われた.術後は順調に経過したが,術後23日の早朝に突然の腹痛を訴え,その後ショック状態となった.緊急の造影CTの結果,右後腹膜への造影剤漏出と多量の血腫を認め,外腸骨動脈の破裂が疑われた.直ちに救命のため尽力したが奏功せず死亡した.本症候群は急性に致命的合併症を来す疾患である.今回の症例でわれわれが反省すべき点を含め,文献的考察を加えて報告する.
著者
月岡 祐介 村井 則之
出版者
特定非営利活動法人 日本血管外科学会
雑誌
日本血管外科学会雑誌 (ISSN:09186778)
巻号頁・発行日
vol.20, no.7, pp.937-940, 2011-12-25 (Released:2011-12-22)
参考文献数
10
被引用文献数
1

膝窩動脈外膜嚢腫は外膜に生じた嚢腫が動脈内腔を圧排することにより下肢虚血症状を来す,外傷歴のない若年者に生じる比較的稀な疾患である.今回われわれは,運動時に生じる下肢痛を契機に診断され,加療前に自然軽快した症例を経験したので報告した.下肢に外傷の既往のない41歳の活動性の高い男性.主訴は運動時の左下腿痛.下肢造影CTで,左膝窩動脈を圧排する径19 mm,長さ48 mmの造影効果のない半月状の内部均一嚢腫を認めた.左膝窩動脈外膜嚢腫と診断し,エコーガイド下穿刺予定とした.しかし術前日になり症状の改善を認め,下肢造影CTでも嚢腫の縮小(径13 mm,長さ38 mm)と膝窩動脈内腔の拡張を認めたため経過観察することとした.膝窩動脈外膜嚢腫は稀な疾患であるが,活動性の高い年齢層に発症し治療によりADLの著明な改善が期待できる良性疾患である.下肢虚血の症例では本症例を念頭に置いて診療に当たる必要がある.