著者
伊藤 昌子 渡辺 弘道 金子 裕子 井上 由実 肥川 義雄
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.523-526, 2012 (Released:2012-11-16)
参考文献数
8

左下肢切断後に発症した幻肢痛に対して,硬膜外ブロックと坐骨神経パルス高周波療法が奏効した症例を経験したので報告する.症例は73歳女性,下肢閉塞性動脈硬化症を罹患し膝下で左下腿切断術を受けた.術直後より下腿の断端痛と幻肢痛が出現した.薬物療法でも痛みのコントロールがつかず,術後15日目に持続硬膜外ブロックを試みたところ痛みは回数,程度ともに軽減した.その後超音波ガイド下に局所麻酔薬による坐骨神経ブロックを施行し効果を認めたので5日後に坐骨神経に42°C180秒のパルス高周波療法を行った.それにより断端痛と幻肢痛は完全に消失した.
著者
村井 邦彦 酒井 大輔 中村 嘉彦 中井 知子 鈴木 英雄 五十嵐 孝 竹内 護 村上 孝 持田 讓治
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.1-8, 2012 (Released:2012-03-07)
参考文献数
49

椎間板ヘルニアに伴う神経痛の病態には,神経根の炎症機序が関与している.その一因に,椎間板髄核が自己の組織として認識されない隔絶抗原であるので,髄核の脱出に伴い自己免疫性炎症が惹起されることが考えられる.一部の髄核細胞の細胞表面には,眼房細胞などの隔絶抗原にみられる膜タンパクFasリガンドが存在し,Fas陽性の免疫細胞のアポトーシスが惹起され,自己免疫反応は抑制されるが,二次的に好中球の浸潤が惹起され,炎症を来す可能性がある.近年,われわれはマクロファージやナチュラルキラー細胞などの細胞免疫反応が,椎間板ヘルニアに伴う痛みの発現に関与することを示した.Fasリガンドや,細胞免疫の初期に発現するToll 様受容体に着目すれば,坐骨神経痛の新たな治療法が開発できる可能性がある.
著者
加葉田 大志朗 新谷 歩
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.1-6, 2019-02-25 (Released:2019-03-12)
参考文献数
4

治療などの介入を研究対象者へ無作為(ランダム)に割り付けるランダム化比較試験(randomized control trial:RCT)では,介入群と対照群の背景因子は平均的に似通ったものとなる.日常臨床では治療を行うかどうかは臨床的判断によるため,各群への割り付けには一定の傾向が生じることが多い.そのため日常臨床から得られたデータのみを利用する観察研究においては,この治療を受ける傾向によって比較群間で背景因子に差異が生じてしまう.この背景因子の違いによってアウトカムの群間比較の結果にバイアスが生じることを交絡と呼び,観察研究ではこの交絡への対処が必須となる.交絡への基本的な統計的対処方法としては多変量回帰分析が利用されている.多変量回帰分析では介入因子以外の背景情報についても考慮することができるため,それらのアウトカムへの影響を差し引いた介入効果を推定できる.また多変量回帰分析と並んで,交絡への対処方法として広く活用されるようになった傾向スコア手法とあわせてその概要を紹介する.加えて,これらの手法について医学研究における不適切な利用が指摘されることもあるため,本稿ではその利用方法に関する基本的な注意事項についても言及する.
著者
榎本 澄江 寺田 哲 木村 理恵 林 映至 新井 丈郎 奥田 泰久
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.35-37, 2016 (Released:2017-03-10)
参考文献数
8

吃逆とは,間代性で不随意な横隔膜の痙攣様収縮で,吃逆が48時間または1~2カ月以上持続もしくは発作が再発するものは難治性吃逆と定義されている.今回,当科に紹介された難治性吃逆患者8例の治療を経験したので報告する.横隔神経ブロックと薬物療法で対応して,8例中,吃逆が消失5例,軽減1例,不変2例であった.横隔神経ブロックとバクロフェンは難治性吃逆の治療に有効であることが示唆された.
著者
森脇 克行 Syafruddin GAUS 須山 豪通 弓削 孟文
出版者
Japan Society of Pain Clinicians
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.127-136, 2003-04-25 (Released:2009-12-21)
参考文献数
51

複合性局所疼痛症候群 (CRPS) では, 疼痛, 温度上昇, 浮腫, 関節可動域制限などの症状に伴って骨関節病変がしばしば認められる. 組織損傷後の骨病変として歴史的には Sudeck の骨萎縮と Charcot 関節が知られているが, これらの骨病変はCRPSの骨病変と同一の発生メカニズムによる可能性がある. 近年, 骨代謝の分子生物学が進歩し, CRPSの骨病変を分子生物学的に解明する糸口が見えてきた. 本稿では, 新しい知見をもとに, 骨病変と感覚神経から神経原性に放出されるニューロペプチド, 交感神経活動, 組織障害後に放出されるサイトカインや不動化との関係について考察した. 骨病変のメカニズムの解明はCRPSの病態生理学の理解と治療法の開発に有用と思われる.
著者
工藤 尚子 三浦 耕資 周東 千緒 村上 敏史 齊藤 理 的場 元弘
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
pp.13-0014, (Released:2013-09-30)
参考文献数
9

オピオイドの全身投与で十分な鎮痛が得られなかった2 例のがん性痛患者に対して,くも膜下モルヒネに高用量のブピバカインを併用し良好な鎮痛を得たので報告する.症例1:72 歳の男性で,肺がんの腸腰筋・大腿筋群転移による下肢の痛みに対し,くも膜下鎮痛法を施行した.モルヒネ単独で十分な鎮痛が得られずブピバカインを最大94 mg/日で併用し,痛みはverbal rating scale で4 から1~2 へ軽減した.症例2:64 歳の女性で,直腸がんの皮膚転移による陰部,大腿の痛みに対し,くも膜下鎮痛法を施行した.モルヒネ単独で十分な鎮痛が得られずブピバカインを最大66 mg/日で併用した.レスキュードーズ使用時に下肢のしびれ,低血圧を認めたが,レスキュードーズの調整で軽減し,痛みはnumerical rating scale で10 から2~5 へ軽減した.くも膜下モルヒネの効果が不十分ながん性痛の患者において,ブピバカインを加え,副作用や合併症に注意しながら高用量まで漸増することで,患者満足度の高い優れた鎮痛が得られた.
著者
高橋 秀則
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
pp.18-0053, (Released:2020-01-21)
参考文献数
7

関節リウマチなどで生じる関節痛に対する西洋医学的治療は,薬物療法や理学療法などを中心に行われることが多いが難治の症例もある.一方,東洋医学的療法の一つである経穴刺激療法(遠絡療法)は,難治性疼痛に対して有力であるとの報告があるものの,有効性が確立されていない.今回,関節リウマチと診断されていた症例で,外傷を契機に発症した重度肘関節痛に対して本法が奏効したので報告する.症例は60歳,女性.左肘を捻り左肘痛が発症し,近医で肘内側靱帯断裂と診断され鎮痛薬投薬,理学療法を行うも改善せず痛みのために関節運動が困難になった.翌年には右肘関節にも痛みが生じ,次第に関節運動が困難となり,発症2年後われわれの施設に紹介受診となった.初診時両肘の関節運動はまったく不可能で,運動時痛のみならず安静時痛も激しく筋萎縮や骨萎縮も生じていた.薬物療法とともに遠絡療法が開始された.治療は1~2週間に1回行われ,2カ月後には安静時痛は消失,左肘関節は全可動域,右肘関節は0~90°までに可動域が改善した.遠絡療法は鍼を刺さない東洋医学的手技として,重度の関節痛に有力な除痛手段と思われた.
著者
村井 邦彦 酒井 大輔 中村 嘉彦 中井 知子 鈴木 英雄 五十嵐 孝 竹内 護 村上 孝 持田 讓治
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
pp.1202020056, (Released:2012-02-16)
参考文献数
49

椎間板ヘルニアに伴う神経痛の病態には,神経根の炎症機序が関与している.その一因に,椎間板髄核が自己の組織として認識されない隔絶抗原であるので,髄核の脱出に伴い自己免疫性炎症が惹起されることが考えられる.一部の髄核細胞の細胞表面には,眼房細胞などの隔絶抗原にみられる膜タンパクFasリガンドが存在し,Fas陽性の免疫細胞のアポトーシスが惹起され,自己免疫反応は抑制されるが,二次的に好中球の浸潤が惹起され,炎症を来す可能性がある.近年,われわれはマクロファージやナチュラルキラー細胞などの細胞免疫反応が,椎間板ヘルニアに伴う痛みの発現に関与することを示した.Fasリガンドや,細胞免疫の初期に発現するToll 様受容体に着目すれば,坐骨神経痛の新たな治療法が開発できる可能性がある.
著者
坂本 昇太郎 高雄 由美子 上嶋 江利 柳本 富士雄 前川 信博
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.519-522, 2012 (Released:2012-11-16)
参考文献数
14
被引用文献数
2

術前5日前の凝固系検査では異常のない患者に硬膜外麻酔併用全身麻酔を行った際,硬膜外穿刺部から多量の出血を認めた症例を経験した.術直後の凝固能検査では,活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)は正常値であったが,プロトロンビン時間(PT),トロンボテスト(TT),ヘパプラスチンテスト(HPT)が異常値を示しており,これらの結果より,出血はビタミンK依存性凝固因子である第VII因子の低下が原因であると疑われた.本患者は,術前よりイレウス症状を呈しており,長期の絶食,セフェム系抗生物質の投与が行われていた.これらの要因が重なり,ビタミンKが欠乏したと考えられた.凝固障害の原因判明後,ただちにビタミンKおよび新鮮凍結血漿投与が行われ,出血傾向は改善され,後遺症を残すことはなかった.長期の絶食患者に抗生剤を投与する際にはビタミンK欠乏に注意が必要である.
著者
大路 牧人 境 徹也 田中 絵理子 澄川 耕二
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.27-30, 2014 (Released:2014-03-12)
参考文献数
17

メトロニダゾール(MNZ)は,嫌気性菌や原虫による感染症に有効な抗菌薬である.薬剤性神経障害の原因薬剤は多岐にわたるが,MNZでも起こりうる.今回われわれは,MNZにより生じた薬剤性末梢神経障害に対し薬物療法を行ったので報告する.症例は77歳の男性である.5カ月前に腰痛が出現し,非結核性抗酸菌性脊椎炎と診断された.MNZ 1,500 mg/日が開始されたが,投与より1カ月で四肢の痛みとしびれ,複視,意識障害,構音障害が出現し,薬剤性神経障害が疑われた.MNZを中止後,中枢神経症状は数日で軽快したが,末梢神経症状は残存した.プレガバリン75 mg/日とトラマドール/アセトアミノフェン配合錠2錠/日を投与されたが軽快せず,当科紹介となった.デュロキセチン20 mg/日を投与したが,無効であったため中止した.その後,プレガバリンを150 mg/日に増量し四肢の痛みは軽減したが,しびれは残存した.プレガバリンはMNZによる末梢神経障害の痛みに対して,投与を考慮してもよい薬剤であると考えられた.
著者
小原 洋昭 中島 毅 兜 正則
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.107-110, 2014 (Released:2014-07-18)
参考文献数
10

片頭痛患者が後頭部の痛みを主訴に来院し,MRAにて椎骨動脈解離と診断された症例を報告する.症例は38歳,女性で,3年前から,主に月経前に左後頭部に前兆と随伴症状を伴う拍動性の頭痛が生じるようになったが,痛みは市販の解熱鎮痛薬を内服することでその都度軽快していた.今回も夕食中,急に同部位に拍動性の頭痛が出現したため,鎮痛薬を服用したが症状の軽快があまりみられず,また,いつもの症状とは異なる“つっぱる感じ”が続くため,不安になり同日救急外来を受診した.診察では神経症状はなく,また単純CTでも異常はみられなかったが,MRAにて左椎骨動脈解離と解離部での内腔の閉塞,偽腔による動脈瘤の形成を認めた.脳動脈解離は椎骨動脈に発生することが多いが,頭痛の性状からは片頭痛などの一次性頭痛と鑑別することは困難である.そのため,後頭部の痛みを訴える患者が受診した際には二次性頭痛も念頭に置いて診察し,単純CTにて異常がみられない場合でも,疑わしければMRAを施行することが必要である.
著者
菅野 浩子 薦田 恭男 野坂 修一
出版者
Japan Society of Pain Clinicians
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.105-107, 1996-04-25 (Released:2009-12-21)
参考文献数
7

内服薬物療法が無効であったメニエール病患者に, 星状神経節ブロック療法を施行した. 初診時より内服は中止し, 1%メピバカイン5mlによる星状神経節ブロックを週2~3回開始した. 10回目終了時よりめまい発作と耳閉感が消失し, 右耳鳴のみとなった. 16回目終了時に右耳鳴も消失し, 20回目終了時より自覚的に聴力の左右差は消失した. ここでオージオグラムを施行したところ, 星状神経節ブロック療法開始時にみられた感音性難聴が改善されていた. 21回目終了したところで, 星状神経節ブロック療法は終了とした. その後, 妊娠を契機にメニエール病が再発したが, その時点では治療せず, 出産を待って星状神経節ブロックを施行した. 13回目のブロック終了時にはオージオグラム改善, 15回目終了時には左耳鳴を残すのみとなり, めまい発作は消失した. 妊娠による循環血液量の増加がメニエール病の再発につながったと考えられる. また, メピバカインは胎盤通過性は高いが, 組織への分配係数が非常に小さく, 胎児組織に取り込まれにくい. このため, 妊娠中であっても, 必要であれば星状神経節ブロック療法を試みてもよいと考えた.
著者
上杉 貴信 高雄 由美子 安藤 俊弘 魚川 礼子 前川 信博
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.16, no.4, pp.495-498, 2009-09-25 (Released:2011-09-01)
参考文献数
3
被引用文献数
1

幻肢痛が持続硬膜外ブロックを併用した鏡療法により軽減した症例を報告する.症例は37歳の男性で,腕神経叢引き抜き損傷と多発外傷に起因した難治性の幻肢痛であった.最初に鏡療法を用いて幻肢痛の軽減を試みたが,鏡療法を導入した後に,断端痛が増悪し,鏡療法を継続することが困難となった.持続頸部硬膜外ブロックを行い,断端痛を軽減させると,鏡療法が円滑に可能となった.その後,硬膜外刺激電極植込み術を行い,幻肢痛と断端痛は軽減した.
著者
田中 明美 津田 喬子 竹内 昭憲 笹野 寛 前田 光信
出版者
Japan Society of Pain Clinicians
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.26-32, 2003-01-25 (Released:2009-12-21)
参考文献数
23

慢性難治性疼痛に, 他の要因による疼痛や心的外傷が加わったことを契機にして薬物依存に陥った2症例の治療を経験した. 症例1は38歳男性, 指の再接着術後の断端痛による慢性疼痛を抱えていたが, 転院を契機に右上肢の痙攣を伴う疼痛性障害が増悪して薬物依存になった. 症例2は56歳男性, 椎間板ヘルニアの手術後の failed back syndrome として慢性疼痛を治療していたところ, 交通事故による頸椎挫傷後に上下肢の痙攣を伴う疼痛性障害を発症して薬物依存になった. 両症例とも過去の他院麻酔科治療歴から, 神経ブロック治療による除痛が困難であると判断して薬物依存を絶つことに治療目標をすえ, 交感神経ブロック療法に加えて心理療法により病状の理解と疼痛の認知を行い, 定期的に通院治療を続ける適正な痛み行動へと導いた. その結果, 両症例は慢性疼痛を受容して, 薬物に依存する行動がみられなくなった. 慢性疼痛患者の疼痛制御には, 心理テストの結果を踏まえた心理療法が適切に行われるべきである.